説明

神経障害を治療する方法

哺乳動物の被験体において神経学的な病態、例えばパーキンソン病及び下肢静止不能症候群を治療する方法が開示される。該方法はプラミペキソールの1日1回型制御放出製剤の投与を含み、該製剤は、睡眠時間帯中に一貫して上昇するPKプロファイルをもたらす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非麦角(nonergot)ドーパミンD2/D3受容体アゴニスト(NEDA)であるプラミペキソールを用いて神経障害、例えばパーキンソン病を治療する新たな方法に関する。プラミペキソールは現在、突発性パーキンソン病の徴候及び症状の治療に、並びに中程度〜重度の原発性の下肢静止不能症候群(RLS)の治療に適応されている。プラミペキソールは、商品名Mirapex(登録商標)(プラミペキソール二塩酸塩)として、以下の用量:0.125mg、0.25mg、0.5mg、1mg及び1.5mgの即時放出(IR)錠剤で市販されている。
【0002】
[関連出願の相互参照]
本出願は2009年7月2日付けで出願された米国仮出願第61/222,684号に基づく優先権を主張するものであり、該仮出願はその全体が参照により本明細書に援用される。
【背景技術】
【0003】
しかしながら、Mirapex(登録商標)は、その臨床的な用量範囲にわたり線形の薬物動態を示し、経口投与後に急速に吸収され、僅か約2時間でCmaxに到達する。したがって現在の治療計画では、患者は、Mirapex(登録商標)の錠剤を1日3回(TID)摂取するように処方されている。それでも、神経疾患、例えばパーキンソン病又はRLSに罹患している患者は、この薬物療法から安定的な利益を享受することができず、又は更に悪いことには、特に服用期間の終了に向かうと(例えば典型的には朝の時間帯において)、この薬物療法からほとんど又は全く利益を得ることがない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
現在の治療法、及び伝統的な投与計画は、例えば睡眠時間帯及び朝の早い時間帯中に軽減をもたらすことができないため、この要求に応えることができる治療計画が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、哺乳動物の被験体において神経学的な病態を治療する新規な方法であって、プラミペキソールの1日1回型制御放出製剤の投与を含み、該投与は就寝時間の3時間より早くなく行われ、上記製剤は睡眠時間帯中に一貫して上昇するPKプロファイルを有する、哺乳動物の被験体において神経学的な病態を治療する新規な方法を提供する。本発明の1つの実施の形態では、上記神経学的な病態はパーキンソン病である。本発明の別の実施の形態では、上記神経学的な病態は下肢静止不能症候群である。
【0006】
本発明の実施に有用なプラミペキソールの制御放出製剤は、該製剤が1日1回の投与に好適であり、夜間に投与した場合、摂取後6時間〜14時間の期間一貫して上昇するプラミペキソールの血漿中レベルをもたらす限りにおいて、いずれかの特定の種類の制御放出製剤に限定されない。本発明の好ましい実施の形態では、プラミペキソールの血漿中濃度は、朝の時間帯又は午後の早い時間帯にその最大値(Cmax)に到達する。
【0007】
したがって、制御放出製剤は、浸透製剤(osmotic formulation)、放出制御ポリマーを含む製剤、放出遅延ポリマーを含む製剤、又はその組合せであり得る。
【0008】
さらに、制御放出製剤は、当該技術分野で既知の様々な剤形で提示することができる。
【0009】
本発明の治療方法のための制御放出製剤中のプラミペキソールの総量は0.125mgから9mgまで変動してもよいが、好ましくは0.5mg〜6mg、より好ましくは1.5mg〜4.5mgである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の方法に従って投与されるMirapex(登録商標)及びプラミペキソールの制御放出製剤に関する定常状態の血漿中プロファイルのシミュレーション結果を示す図である。
【図2】本発明の方法に従って投与されるプラミペキソールの制御放出製剤による定常状態の血漿中曝露量のシミュレーション結果を示す図である。これらの曝露量は、即時放出製剤においてTIDで投与される同じ用量のプラミペキソールにより達成される曝露量に対して正規化されている。
【発明を実施するための形態】
【0011】
定義
本発明の目的のために、「プラミペキソール」という用語は、プラミペキソール又は任意のその薬学的に許容される塩、並びに任意の結晶形態及び非結晶形態、及び任意の多形(複数も可)を含む。
【0012】
「即時放出製剤」は、約1時間以内に薬学的作用物質の80%以上を放出する製剤を表す。
【0013】
本明細書においては「持続放出」は、長期間にわたる連続的な薬学的作用物質の放出と定義される。
【0014】
「長期間」は、8時間超、より好ましくは12時間超、より好ましくは更に、16時間超、24時間超までの連続的な期間を意味する。「連続的な」は「中断されない(uninterrupted)」と定義される。
【0015】
本明細書において使用される場合、他に注記しない限り、或る薬剤の「放出の速度」又は「放出速度」は、単位時間当たりの剤形から放出される薬剤の量、例えば1時間当たりの放出される薬剤のミリグラム(mg/hr)、又は1時間当たりの放出される薬剤の総用量に対する百分率を表す。剤形に関して薬剤の放出速度は通常、in vitroでの薬剤放出の速度、すなわち適切な条件下で及び好適な流体中で測定される単位時間当たりの剤形から放出される薬剤の量として測定される。或る剤形内の特定の百分率の薬剤が該剤形から放出された時間は「Tx」値と称され、ここで「x」は放出された薬剤のパーセントである。
【0016】
本明細書において参照される放出速度は、適切な溶解媒体浴中に試験対象の剤形を入れることにより決定される。それから、予め設定した間隔で収集した一定分量の媒体を、適切な検出器を装着したクロマト分離システム中に注入して、試験間隔中に放出される薬剤の量を定量化する。
【0017】
「就寝時間」は、7時間以上の睡眠を意図する任意の期間であり、夕方の時間帯又は夜の時間帯に必ずしも限定されない。
【0018】
「C」は、被験体の血漿又は血清中の薬剤の濃度を示し、一般的には単位体積当たりの質量、例えば1ミリリットル当たりのナノグラム(ng/ml)と表される。便宜上、本明細書においてこの濃度を、任意の適切な体液又は組織において測定される薬剤濃度を含むことを意図する「薬剤の血漿中濃度」、「血漿中薬剤濃度」又は「血漿中濃度」と称することができる。薬剤投与後の任意の時間における血漿中薬剤濃度を、C9hr又はC4hr等のように、Ctimeと表す。
【0019】
服用期間中の最大血漿中薬剤濃度をCmaxと表し、Cminは服用間隔の終了時における最小血漿中薬剤濃度を表し、Caveは服用間隔中の平均濃度を表す。
【0020】
服用期間に関する「変動のパーセント」は、商(Cmax−Cmin)/Cave×100%と定義される。
【0021】
当業者は、個々の被験体において得られる血漿中薬剤濃度が、薬剤の吸収、分布、代謝及び排泄に影響を及ぼす多くのパラメータにおける患者間の変動性に起因して変動することを認識するだろう。この理由から、他に指定しない限り、薬剤の血漿中濃度を列挙する場合、列挙した値は、試験した被験体の群から得られた値に基づいて算出した平均値である。
【0022】
「生物学的利用能」という用語は、活性部分(薬剤又は代謝物)が体循環に入り、それにより作用部位に到達する程度、及び時にはその割合を表す。
【0023】
「AUC」は血漿中濃度対時間曲線下面積であり、生物学的利用能の最も信頼性のある尺度であると考えられる。AUCは、体循環に到達する未変化薬物の総量に正比例する。AUCは、薬剤への身体の曝露量の尺度である。
【0024】
本明細書において副作用は、薬剤の任意の望ましくない二次的な(通常は有害な)効果と定義される。
【0025】
本出願の目的のために、2つの製剤が同じ期間に互いの80%〜125%内のAUCをもたらす場合、それらの製剤は「等量(equivalent amount)」で提示される。
【0026】
本出願全体を通じて、「tidで投与する」は、活性な作用物質の総1日量の3分の1を8時間ごとに投与することを意味する。
【0027】
他に指定しない限り、「a」又は「an」は「1つ又は複数」を意味する。
発明の詳細な説明
本発明の治療方法は、部分的には、日中のプラミペキソールの投与と関連する問題、例えば睡眠パターンの中断、結果として生じる疲労、更なる「治療法」の必要性、及び起床時間帯中におけるより良好な運動機能性(motor functionality)の必要性に対処するために設計されている。遅めの時間にプラミペキソール製剤を服用することを含む本発明の方法により、睡眠時間帯を通じて及び翌日の午後にかけて増加/上昇するPKプロファイルが得られる。
【0028】
この新たな服用パラダイムにより、朝の早い時間帯中により高くかつ上昇する薬剤曝露量がもたらされ、起床時間における及びその日の早い時間を通じた運動機能性が可能となり、改善する。加えて、新たな服用パラダイム、及びより高い/上昇する関連する血漿中レベルにより、PD又はRLSの場合に、より連続的な睡眠(プラミペキソール(IR)に対して幅広いCmaxによる)が可能となり、したがってMirapex(登録商標)のユーザーにより報告されているように、日中の疲労の低減につながり得る。
【0029】
本発明の方法に好適な制御放出製剤は好ましくは、予め決定される放出プロファイルに沿ってプラミペキソールが製剤から放出されるように設計されている。代表的な製剤は、本明細書において以下で論じられており、2009年6月5日付けで出願された米国特許出願第12/478,979号(その開示はその全体が参照により本明細書に援用される)にも見出すことができる。一実施形態では、本発明の製剤の1日1回の投与により、即時放出製剤としてTIDで投与される等量のプラミペキソールにより生じる生物学的利用能と同等の生物学的利用能がもたらされる。
【0030】
本発明の別の実施形態では、予め決定される本発明の製剤の放出プロファイルは、プラミペキソールの定常状態の最大血漿中濃度(Cmax)が、即時放出製剤としてTIDで投与される等量のプラミペキソールにより生じる最大血漿中濃度以下であり、定常状態の最小血漿中濃度(Cmin)が、等価の即時放出製剤としてTIDで投与される等量のプラミペキソールにより生じる最小血漿中濃度の75%以上であるようなものである。
【0031】
更に別の実施形態では、プロファイルは、変動の度合いが、即時放出製剤としてTIDで投与される等量のプラミペキソールにより生じる変動の度合いの50%〜125%の範囲であるようなものである。
【0032】
本発明は、12時間〜24時間の期間に、好ましくは12時間〜14時間の期間に活性成分の少なくとも80%が放出されるようなプラミペキソールの製剤を含む。代替的には、製剤は、16時間〜18時間の期間で活性成分の少なくとも80%が放出されるように設計され得る。更なる実施形態では、20時間〜24時間の期間で活性成分の少なくとも80%が放出される。
【0033】
本発明の一実施形態では、制御放出製剤は、治療上の有効量のプラミペキソール、浸透剤、及び半透膜を含む浸透製剤である。
【0034】
本発明の別の実施形態では、制御放出製剤は、Eudragit FS 30 D(ポリ(メチルアクリレート−co−メチルメタクリレート−co−メタクリル酸))、Eudragit L及びS(ポリ(メタクリル酸−co−メチルメタクリレート))、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート、セルロースアセテートフタレート、セルロースアセテートトリメリエート(trimelliate)、ポリビニルアセテートフタレート、シェラック(shellac)及びゼイン(zein)からなる群から選択される放出遅延ポリマー、セルロースアセテート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、及びその誘導体、セルロースアシレート、エチルセルロース、ポリビニルアセテート、Eudragit NE 30 D ポリ(エチルアクリレート−co−メチルメタクリレート)、Eudragit RS及びRL ポリ(エチルアクリレート−co−メチルメタクリレート−co−トリメチルアンモニオエチルメタクリレートクロリド)アンモニオメタクリレートコポリマーType B NF及びエチルアクリレートメチルメタクリレートコポリマーからなる群から選択される持続放出ポリマー、並びにその組合せを含む。
【0035】
本発明の更に別の実施形態では、制御放出製剤は、少なくとも1つの持続放出成分、及び少なくとも1つの即時放出成分を含む。
【0036】
本発明の制御放出製剤は、2つ以上の持続放出成分(各々がその独自の放出プロファイルにより特徴付けられる)、又は少なくとも1つの持続放出成分及び遅延放出成分の組合せを含んでいてもよい。実際に、本発明の方法は、各々の個別の患者の要求に特に好適な放出プロファイル及び薬剤曝露量をもたらすための、僅かに異なる制御放出製剤の柔軟な使用を意図する。
【実施例】
【0037】
以下の実施例により本発明を更に例示するが、これらの実施例に決して限定されるものではない。
実施例1
以下の表は、プラミペキソールXRの3つの製剤(すなわち錠剤A、錠剤B及び錠剤C)に関する非限定的な実施例を示す。
【0038】
【表1−1】

【0039】
【表1−2】

【0040】
実施例1の製剤に関する薬物動態パラメータは以下の通りである:
【0041】
【表2】

【0042】
実施例2
表2の薬物動態パラメータを、錠剤A、錠剤B及び錠剤Cに関するコンピュータによる定常状態の血漿中プロファイルのシミュレーションのベースとして使用した。シミュレーションの結果を表3及び図1に表す。WinNonlin(登録商標)5.0.1版及び5.2版(Pharsight Corporation, Mountain View, CA 94041)並びにGastroPlus(商標)5.3版及び6.0版(Simulations Plus, Inc. West Lancaster, CA 93534)を使用して、コンピュータシミュレーションを行った。
【0043】
【表3】

【0044】
実施例3
約12時間〜14時間のT80を特徴とする実施例1の制御放出製剤Aを、即時放出製剤のTID投与と同等の総量で午後10時に患者に投与する。プラミペキソールの血漿中曝露量のピークに午前6時までに到達し、該ピークが午後2時まで維持され、したがって患者に対して、起床時間帯、朝の時間帯及び午後の早い時間帯中に十分な薬理学的サポートがもたらされる(図2)。
実施例4
約20時間のT80を特徴とする実施例1の制御放出製剤Cを、即時放出製剤のTID投与と同等の総量で午後10時に患者に投与する。プラミペキソールの血漿中曝露量のピークに午前10時までに到達し、該ピークが午後6時まで維持され、したがって患者に対して、朝の遅い時間帯及び午後の時間帯中に十分な薬理学的サポートがもたらされる(図2)。
【0045】
上述の内容は特に好ましい実施形態を表しているが、本発明はそれに限定されないことが理解されるだろう。開示された実施形態に対して様々な修正を行うことができること、及びかかる修正が本発明の範囲内のものであることが意図されることに当業者は気付くであろう。
【0046】
本明細書中で引用された刊行物、特許出願及び特許の全てについて、その全体が参照により本明細書に援用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物の被験体においてパーキンソン病を治療する方法であって、プラミペキソールの制御放出製剤の1日1回の投与を含み、前記投与は就寝時間の3時間より早くなく行われ、前記製剤は睡眠時間帯中に一貫して上昇するPKプロファイルを示す、哺乳動物の被験体においてパーキンソン病を治療する方法。
【請求項2】
前記投与が、朝の時間帯及び午後の早い時間帯中の運動機能性の改善、又は疲労の低減をもたらす、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
朝の時間帯又は午後の早い時間帯中にCmaxに到達する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記制御放出製剤が浸透製剤である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記製剤が、持続放出ポリマー、放出遅延ポリマー、又はその組合せから選択される少なくとも1つのポリマーを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
朝の時間帯中の前記被験体の身体活動の改善をもたらす、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
哺乳動物の被験体において下肢静止不能症候群を治療する方法であって、プラミペキソールの制御放出製剤の1日1回の投与を含み、前記投与は就寝時間の3時間より早くなく行われ、前記製剤は睡眠時間帯中に一貫して上昇するPKプロファイルを示す、哺乳動物の被験体において下肢静止不能症候群を治療する方法。
【請求項8】
前記投与が、朝の時間帯及び午後の早い時間帯中の運動機能性の改善、又は疲労の低減をもたらす、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
朝の時間帯又は午後の早い時間帯中にCmaxに到達する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記制御放出製剤が浸透製剤である、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記製剤が、持続放出ポリマー、放出遅延ポリマー、又はその組合せから選択される少なくとも1つのポリマーを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
朝の時間帯中の前記被験体の身体活動の改善をもたらす、請求項1に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−532138(P2012−532138A)
【公表日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−518594(P2012−518594)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【国際出願番号】PCT/US2010/040612
【国際公開番号】WO2011/002891
【国際公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【出願人】(506339316)スパーナス ファーマシューティカルズ インコーポレイテッド (23)
【Fターム(参考)】