説明

神経障害用薬剤

【課題】糖尿病性神経障害、手根管症候群、慢性炎症性脱髄性多発神経炎、癌性ニューロパチー、アルコール性ニューロパチーなどの神経障害を治療又は予防する。
【解決手段】プロアントシアニジンを有効成分として含有することを特徴とする神経障害用薬剤を提供する。本発明の薬剤は、神経系支持細胞の分化及び/又は増殖促進用薬剤として、運動障害又は感覚障害の予防及び/又は治療に用いることができる。また、飲食品の形態にあることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、神経障害用薬剤、すなわち神経障害の予防又は治療剤に関する。より詳しくは、ポリフェノールのひとつであるプロアントシアニジンを有効成分とする神経障害用薬剤に関する発明であり、その用途は医薬品、食品に係わるものである。
【0002】
【従来の技術】
感覚障害や運動障害を優位とする神経障害とは、感覚、運動失調などの自覚症状の異状を主徴候とする疾患で、これにより感覚麻痺、痛覚過敏、足壊疽などがもたらされ、日常生活に大きな支障をきたすことが知られている。これらの疾患は主には神経機能の障害に基づくものであるが、神経組織は神経細胞とそのまわりを取り囲むシュワン細胞、あるいはグリア細胞から構成されており、特にシュワン細胞が神経機能の維持に重要な役割を担っていることが知られている(例えば、非特許文献1参照。)。糖尿病性神経障害、手根管症候群、慢性炎症性脱髄性多発神経炎、癌性ニューロパチー、アルコール性ニューロパチーなどでは内分泌・代謝異常、栄養障害、圧迫、炎症などの原因によりシュワン細胞が脱落し神経機能の維持ができなくなることが知られており、シュワン細胞の機能回復によるこれらの疾患の治療、予防法の開発が重要な課題となっている(例えば、非特許文献2参照。)。
【0003】
従来、これらの疾患に対する確立された治療法は存在せず、一般的には対症療法として主に三環系抗うつ剤やビタミン剤、血流改善剤などが用いられている。これらの薬剤は異常な神経刺激伝導を直接あるいは間接的に抑制、あるいは賦活化し、一時的には感覚異常を和らげることが報告されているが神経機能を改善するものではない(例えば、非特許文献3参照。)。また、糖尿病性神経障害に対しては亢進したポリオール代謝経路の抑制による神経機能の改善を目的としてアルドース還元酵素阻害剤が使用される場合があるが、感覚異常に対しては有効性が認められているものの神経機能を改善する十分な効果が得られていない(例えば、非特許文献4参照。)。さらに最近ではこれらの疾患には体内で発生する活性酸素がその進展因子として重要な役割を果たしていることが明らかになってきており、α―リポ酸やトコフェロールなどの抗酸化剤の投与も試みられている。しかし、これらの薬剤でも自覚症状に一部改善を認めるのみで根本治療としては十分な効果を認めていない(例えば、非特許文献5参照。)。
【0004】
プロアントシアニジンはブドウの種子由来のポリフェノールとしてその抗酸化作用は広く知られており、動脈硬化進展抑制効果、胃潰瘍抑制効果、発癌抑制効果などが報告されている(例えば、非特許文献6参照。)。糖尿病性合併症のひとつである糖尿病性白内障に対するプロアントシアニジンの予防または治療効果が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、特許文献1には糖尿病性神経障害の改善に関する記載はなく、その他の神経障害に対する予防、治療効果も不明である。特に、抗酸化作用とは関連のない作用としてのシュワン細胞の分化・増殖促進作用についてはこれを類推させる報告はまったくない。
【0005】
【非特許文献1】
Eccleston P.A., Regulation of Schwann cell proliferation: mechanisms involved in peripheral nerve development, Exp. Cell Res., 1992年、第199巻、p.1−9
【非特許文献2】
Jessen K. R. 外2名、 Role of cAMP and proliferation controls in Schwan cell differentiation, Ann. NY Acad. Sci., 1991年、第633巻、p.78−98
【非特許文献3】
Peet M., Horrobin D.F. A dose-ranging study of the effects of ethyl-eicosapentaenoate in patients with ongoing depression despite apparently adequate treatment with standard drugs, Arch. Gen. Psychiatry, 2002年、第59巻、p.913−919
【非特許文献4】
Hotta N.外4名、Clinical investigation of epalrestat, an aldose reductase inhibitor, on diabetic neuropathy in Japan: multicenter study, J Diabetes Complications, 1996年、第10巻、p.168−172
【非特許文献5】
Ziegler D. 外6名、Treatment of symptomatic diabetic peripheral neuropathy with the anti-oxidant alpha-lipoic acid, Diabetologia, 1995年、第28巻、p.1425−1433
【非特許文献6】
Mathsumoto T. 外2名、Role of polymorphonuclear leucocytes and oxygen-derived free radicals in the formation of gastric lesions induced by HCl/ethanol, and apossible mechanism of protection by anti-ulcer polysaccharide, J. Pharm. Pharmacol., 1993年、第45巻、p.535−539
【特許文献1】
特開2000−44472号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明の課題は、糖尿病性神経障害、手根管症候群、慢性炎症性脱髄性多発神経炎、癌性ニューロパチー、アルコール性ニューロパチーなどの神経障害を治療又は予防するための有効で新規な治療剤及び予防剤を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、プロアントシアニジンに神経障害全般に対する治療効果があることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、第1の視点において、本発明はプロアントシアニジンを有効成分として含有することを特徴とする神経障害用薬剤を提供するものである。
好ましい実施形態において、本発明に使用するプロアントシアニジンは式:
【0008】
【化3】

(式中、それぞれのRは独立して水素原子又は水酸基であり、それぞれのRは独立して水素原子、水酸基又はガロイルオキシ基であって、Rが水素原子のとき同一の炭素原子に結合するRは水酸基又はガロイルオキシ基であり、Rが水酸基のとき同一の炭素原子に結合するRは水素原子である。また、nは1〜20の整数である。)で表されるプロアントシアニジンオリゴマー若しくはその薬理的に許容される塩、又はそれらの少なくとも1種を含有する植物抽出物である。
【0009】
また、本発明の1つの実施形態において、前記神経障害は糖尿病性神経障害、手根管症候群、慢性炎症性脱髄性多発神経炎、癌性ニューロパチー、及びアルコール性ニューロパチーからなる群から選択される何れかの神経障害である。このような神経障害用薬剤の一日当たりの投与量は、前記プロアントシアニジンオリゴマーとして0.1〜5000mgの範囲内であることが好ましく、より好ましくは、0.1〜300mgである。また、前記薬剤は、神経障害の予防剤又は治療剤として用いることができる。
【0010】
異なる視点において、本発明はプロアントシアニジンを有効成分として含有することを特徴とする神経系支持細胞の分化及び/又は増殖促進用薬剤を提供する。好ましい実施形態において、プロアントシアニジンは上述した通りであり、前記神経系支持細胞はシュワン細胞又はグリア細胞である。従って、1つの実施形態において、本発明の神経系支持細胞の分化及び/又は増殖促進用薬剤は末梢神経障害の予防又は治療剤として使用することができ、特に、運動障害や感覚障害等の末梢神経障害の予防又は治療剤として用いることが好ましい。
【0011】
本発明の他の視点において、上記本発明の神経障害用薬剤又は神経系支持細胞の分化及び/又は増殖促進用薬剤は飲食品の形態にあることを特徴とする。
【0012】
【発明の実施の形態】
[プロアントシアニジンについて]
本明細書において「プロアントシアニジン」とは、複数のフラボン−3−オール単位が結合した構造を有する化合物で、植物中に存在することが知られている一連の化合物である。植物としては、例えば、ブドウ、アズキ、トチ、マツ、カシ、ミチヤナギ、ヤマモモ、大麦、麦芽、メヒルギ、オウラティー、二十日大根、シソ、キャベツ、ダリヤ等が挙げられ、これらの植物体の花、実、種子、果実若しくはそれらの果肉又は皮類、及び根、樹木、樹皮、葉等に存在する。
【0013】
その1つに、複数のフラボン−3−オールが4位と8位の間の単結合、又は4位と6位の間の単結合によって結合している化合物がある。特に二量体及び三量体は、それぞれプロアントシアニジンB及びプロアントシアニジンCと呼ばれ、野菜中に広く存在している。この他に、複数のフラボン−3−オールが互いに2つの結合(エーテル結合と単結合)を介して結合している化合物も存在し、プロアントシアニジンAと呼ばれ、ヤシ科アレカ属の植物や落花生薄皮等に存在することが知られている。さらに、カテキンとその異性体であるエピカテキンの両方から構成され、これらのオリゴマーからなるプロアントシアニジン類を80〜85%含有するフランス海岸松樹皮抽出物がピクノジェノール(商品名)として広く栄養補助食品として使用されている。本明細書における「プロアントシアニジン」はこれらすべてを含むものであり、本発明の薬剤の有効成分として使用することができる。
【0014】
本発明の好ましい態様において、神経障害用薬剤の有効成分として用いられるプロアントシアニジンは、ブドウ(Vitis species)の種子から抽出することができる。このプロアントシアニジンは、C−C又はC−C結合によって連環したフラバン−3−オールユニット((+)カテキンと(−)エピカテキン)の重合体からなる。それらの中にはフラバン−3−オールユニットの3位の水酸基と結合したガロイル残基(すなわち、没食子酸エステルを形成する。)を持つものがあり、その化学構造式は、式:
【0015】
【化4】

(式中、それぞれのRは独立して水素原子又は水酸基であり、それぞれのRは独立して水素原子、水酸基又はガロイルオキシ基であって、Rが水素原子のとき同一の炭素原子に結合するRは水酸基又はガロイルオキシ基であり、Rが水酸基のとき同一の炭素原子に結合するRは水素原子である。また、nは1〜20、好ましくは1〜10の整数である。)で表すことができる。これらは1種又は2種以上の化合物の混合物であってもよい。
【0016】
また、上記化合物は化学合成によって調製することもでき、薬理的に許容される塩の形態、例えば、アルカリ金属塩(ナトリウム塩やカリウム塩等)、アルカリ土類金属塩(カルシウム塩等)、アンモニウム塩、エタノールアミン塩、トリエチルアミン塩、ジシクロヘキシルアミン塩等を含む。
【0017】
本発明の神経障害用薬剤に用いるプロアントシアニジンは、公知の化学的若しくは酵素的合成法又は各種植物体からの抽出法等により得ることができ、例えば、各種植物体又はその破砕物等を溶媒を用いて抽出処理し、得られた抽出物をさらに限外ろ過膜により濃縮するか、液体クロマトグラフィー等により分別精製することによって得ることができる。本発明においては、ブドウの種子を熱水、又は含水アセトン又は含水メタノールにて処理してプロアントシアニジンオリゴマーを抽出し、抽出物又は混合物として得るのが好ましい。
【0018】
より具体的な製造方法としては、英国特許第1541469号明細書や仏国特許第2092743号明細書に記載された方法に従えばよい。例えば、10kgのブドウの種子を20%の水を含むアセトン12リッター(l)中でアセトンの沸点で約4時間浸す。この抽出操作を4回繰り返した後、アセトンを真空で蒸発させ、生じた不純物の沈殿をろ過する。得られた水溶液を水と混じらない有機溶媒、例えば、酢酸エチルで抽出する。有機溶媒を除去して乾燥させた後、乾燥物を675mlの水に溶解させる。これに675mlの飽和食塩水を加えて不純物を沈殿させろ過にて除去する。この水溶液を酢酸エチルで抽出した後、その一部を真空で蒸発させて得られた濃縮液にクロロホルムを加えてプロアントシアニジンオリゴマーを沈殿させる。沈殿をろ過し乾燥することにより約60gのプロアントシアニジンオリゴマーが得られる。
【0019】
このようにして得られた抽出物は、各種の精製操作により精製を行って、精製物又は部分精製物を得てもよい。例えば、特定の分画分子量の限外ろ過膜により分画したり、特定の溶媒で抽出したりする方法が知られている(米国特許第5484594号明細書参照。)。このようにして得られた抽出物又はその精製物は、各種の分析方法にてプロアントシアニジン組成の定量的分析を行うことができる。例えば、セファデックス(登録商標)LH−20クロマトグラフィーで分画し、分離した各画分を高速液体クロマトグラフィーUV検出器(HPLC-UV)、ゲルろ過クロマトグラフィーUV検出器(GPC)、高速液体クロマトグラフィーMS熱スプレー検出器(TSP-MS)、又はエレクトロスプレーMS検出器(ES-MS)等を用いて分析することができる(Fuzzati, N. et al., The 38th Annual Meeting of American Society of Pharmacognosy, lowa City, July 26-30, 1997)。
【0020】
[対象となる具体的な神経障害について]
本発明の薬剤は神経障害の改善、治療、又は予防を求める動物、特にヒトに適用されるものである。本明細書において、「神経障害」とは、中枢神経障害及び末梢神経障害の両方を含む。中枢神経とは脳や脊髄等の集中神経系の中心部をいい、神経細胞(neuron)とその突起の間を埋めて神経細胞を支持しているグリア細胞等からなる。末梢神経系に存在するグリア細胞をシュワン細胞といい、ミエリン膜と呼ばれる重層構造の細胞膜が神経細胞の軸索の周りを取り巻いて、化学伝達物質の漏出防止、取込み、分解及びイオン濃度の調節をしていると考えられている。従って、本明細書において、「神経細胞(neuron)」とは神経系の基本的な機能である情報伝達細胞を担う細胞をいい、「神経系支持細胞」とは神経細胞を支持しているシュワン細胞やグリア細胞等をいう。
【0021】
糖尿病性神経障害、手根管症候群、慢性炎症性脱髄性多発神経炎、癌性ニューロパチー、アルコール性ニューロパチーをはじめとする多くの末梢神経障害は、しびれや運動麻痺などにより日常生活に支障をきたす。しびれや運動麻痺には末梢神経、特に感覚または運動神経の機能障害が密接に関連している。感覚または運動神経細胞は脊髄あるいは脊髄近傍にその神経細胞体が分布し、軸索を非常に長く伸ばして末梢の皮膚や骨格筋等の標的組織に投射して感覚や運動機能を制御している。このように末梢神経においては一つの細胞体から1m以上もの長い軸索を標的組織に投射する非常に特殊な構造を持つがゆえに、長い軸索は生体内の様々な環境の変化に起因する酸化ストレス、浸透圧ストレス、物理的な障害などのストレスにさらされることになるため、その機能維持には防御機構が必要である。シュワン細胞は長く伸ばした軸索に規則的に配置され、巻きついてミエリン鞘を形成することによって絶縁体となり、神経の興奮伝導が効率的におこなわれている。それと同時に、シュワン細胞はアミノ酸をはじめとするさまざまな栄養素や神経栄養因子などを神経細胞に提供して多くのストレスにさらされる神経細胞の生存や機能の維持を担っている。しかし、圧迫などの物理的な障害、代謝性の異常、炎症、化学物質などによる細胞障害が慢性的に持続するとそれらのストレスを慢性的に受けていたシュワン細胞自身が上述の機能を維持できなくなり変性、脱落する結果を招く。この結果シュワン細胞による神経機能維持が十分に行われなくなり、神経細胞自体も直接的にさまざまなストレスにさらされることになって機能障害を起こしていく。末梢神経の軸索は物理的に切断されても再生し、もともとの標的組織にきちんと再投射し機能を回復させることが知られているが、その際にはシュワン細胞が軸索の再生や進展促進因子を産生し、もとの標的組織までの経路を形成して軸索再生を完了させる。したがって、神経機能の維持、回復にはシュワン細胞の増殖を促進し、ミエリン形成能を高めることが非常に有効であると考えられる。
【0022】
従って、本発明の1つの実施形態として提供される、プロアントシアニジンを有効成分として含有する神経系支持細胞の分化及び/又は増殖促進用薬剤は、特にシュワン細胞の増殖を促進することによって、神経機能を回復させる作用を示す。当該神経機能とは、好ましくはしびれや運動麻痺などを伴う末梢神経機能であり、具体的な症例としては、上述した糖尿病性神経障害、手根管症候群、慢性炎症性脱髄性多発神経炎、癌性ニューロパチー、アルコール性ニューロパチー等が挙げられる。本明細書において、「糖尿病性神経障害」とは、糖尿病において、神経細胞における糖代謝異常あるいは血管障害の結果生じる神経障害をいう。感覚神経、運動神経および自律神経すべての機能に障害が認められ、これらのうち障害される頻度が高いのは感覚神経である。 感覚神経が障害されると「しびれ」、「冷感」、「疼痛」、「知覚過敏」などの症状が発現し、放置すると「知覚消失」、さらには「四肢の壊疽」まで進行する場合がある。 また、自律神経が障害されると「心・血管機能」、「排尿・生殖機能」、「消化器機能」などが低下する。
【0023】
また、「手根管症候群」とは、手のひら側(手根管)を走っている神経が圧迫されて、指先などにしびれなどが生じる神経障害をいう。親指、人差し指、中指、薬指の親指側の半分がしびれたり、知覚が低下し、親指を小指に近づける動作が障害される。手首の手のひら側のしわの部分を叩くと痛みが指先に放散したり、夜間痛みが走ることもある。さらに進行すると、ボタンをかけにくくなったり、モノをつまむなどの動作が困難になる。さらに、「慢性炎症性脱髄性多発神経炎」とは、筋肉を動かす運動神経が傷害されて、急に両手両足に力が入らなくなる病気のうち発病してから1カ月経っても進行する場合をいう。「癌性ニューロパチー」や「アルコール性ニューロパチー」とは、癌やアルコール中毒などに伴って起こる神経障害をいう。
【0024】
[投与量、医薬品の剤型、食品への利用など、具体的な利用形態]
プロアントシアニジンの投与量については疾患の種類、症状の程度、利用の形態、副作用の有無等に応じて適当に選択されるが、経口的に投与する場合は、上述したプロアントシアニジンオリゴマーとしての正味重量で成人一日あたり0.1〜5000mg程度投与することができる。好ましくは、0.1〜300mgである。皮下投与及び腹腔内投与の場合は、成人一日当たり0.01〜500mg、好ましくは0.1〜30mgである。剤型は、たとえば経口投与、腹腔内投与、経皮的投与、吸入投与等各種の投与形態に調製することができる。具体的には適当な固形または液状の形態、たとえば顆粒、粉末、錠剤、カプセル、坐剤、シロップ、ジュース等の飲料、懸濁液等を挙げることができる。また、調味料等にプロアントシアニジン成分を含有させることもできる。これらの製剤には、通常用いられている結合剤、崩壊剤、増粘剤、分散剤、再吸収促進剤、矯味剤、緩衝剤、界面活性剤、溶解補助剤、保存剤、乳化剤、等張化剤、安定化剤、pH調整剤及び賦形剤等を適宜使用してもよい。
【0025】
本発明の1つの実施形態において、プロアントシアニジンを有効成分として含有する神経障害用薬剤又は神経系支持細胞の分化及び/又は増殖促進用薬剤は、飲食品の形態として摂取することが好ましい。飲食品としての使用する場合の形態については、特に制限は無く、例えば、ドリンク剤、固形物、粥状及びゼリー状食品等があり、固形物には製剤として粉剤、顆粒剤,錠剤及びカプセル剤のいずれかの形態に加工したものも含まれる。また、これら本発明に係る有効成分をうどん、そば等の麺類,クッキー、ビスケット、キャンデー、パン、ケーキ、即席粥その他の食品に、また清涼飲料、乳酸飲料その他種々の飲料に添加してもよい。
【0026】
【実施例】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0027】
[実施例1]
自然発症の2型糖尿病モデルであるGoto-Kakizaki(GK)ラットに粉末のプロアントシアニジン(商品名「ロイコセレクト(LEUCOSELECT)」インデナ(indena)社、イタリア)0.04%を含有する餌を24週間摂取させて坐骨神経を採取し、増殖シグナルのマーカーであるcAMPの含量を測定した。採取した坐骨神経は過塩素酸溶液中で粉砕し、遠心して得られた上澄み溶液をアマーシャム(AMERSHAM)社製のcAMPアッセイキットを用いてcAMP含量を測定した。その結果を図1に示した。なお、実験に用いたプロアントシアニジンは、没食子酸(−)エピカテキン、二重合体、三重合体、四重合体及びその没食子酸エステルを約80%、五重合体、六重合体、七重合体及びその没食子酸エステルを約5%、並びに(+)カテキン及び(−)エピカテキン及び没食子酸を約15%含む。
【0028】
図1において、正常対照群としてウィスター系のラット(n=8)を用いた。無処置GKラット群(n=8)では正常ラットに比べて約30%程度までcAMPの含量が低下していた。これに対し、プロアントシアニジンを摂取していたGKラットの群(n=11)では有意にcAMP含量が改善されており、平均値で正常ラットの約160%程度まで上昇していた。これらの結果、プロアントシアニジンを摂取させたGKラットでは坐骨神経のcAMP含量により表されるように、神経組織(神経系の支持細胞)の代謝、増殖が活発となっていることが分かる。
【0029】
[実施例2]
自然発症の2型糖尿病モデルであるGoto-Kakizaki(GK)ラットに0.04%のプロアントシアニジン(実施例1と同じ)を含む餌を24週間摂取させ、尾神経の運動神経伝導速度の変化を経時的に計測し、その結果を図2に示した。図2において、正常対照群としてウィスター系のラット(n=8)を用いた。無処置のGKラット群(n=8)では正常ラットに比べて19週齢以降明らかに運動神経伝導速度の低下が認められた。この低下はプロアントシアニジンを摂取していたGKラット群(n=11)では有意に抑制され、摂取開始7週目以降は完全に正常レベルにまで回復し、その効果はそれ以後実験終了時まで維持された。これらの結果より、プロアントシアニジンを摂取したGKラットでは運動神経機能の改善が認められる。
【0030】
[実施例3]
正常ウィスター系ラットに0.04%のプロアントシアニジン(実施例1と同じ)を含む餌を摂取させた。2週間の予備飼育をおいて、坐骨神経を挫滅して神経因性の運動・感覚機能障害を誘発し、その後、挫滅側後肢の運動神経機能(握力)(図3参照)および感覚神経機能(機械刺激痛覚閾値)(図4参照)を4週間にわたり経時的に測定した.握力は4段階のスコアで評価し、機械刺激痛覚閾値はUgoBasil社のAnalgesy meterにて測定した。
【0031】
図3において正常対照群として用いた無処置ラット(n=10)の握力は一定のスコア3.0を示した。これに対し、坐骨神経を挫滅した群(n=10)では挫滅により握力は完全に消失し2週間後より緩やかに回復したが、プロアントシアニジン摂取ラット(n=10)では1週間後より回復が認められ、回復過程が先行していた。また図4に示すように、これらのラットの機械刺激痛覚閾値は挫滅により偽手術群(n=10)の80%まで低下しており痛覚過敏になっていることが示されたが、通常食摂取群(n=10)では測定期間を通じて65から80%で推移したのに比べ、プロアントシアニジン摂取群(n=10)では2週目以降80から90%と明らかに高めに推移した。これらの結果より、糖尿病モデルラットだけでなく、正常ラットにおいても障害を受けた運動神経機能及び感覚神経機能は、プロアントシアニジンの摂取によって改善することが分かった。
【0032】
【発明の効果】
以上述べたことから、本発明により提供される神経障害用薬剤は、糖尿病性神経障害、手根管症候群、慢性炎症性脱髄性多発神経炎、癌性ニューロパチー、アルコール性ニューロパチー等の神経障害に顕著な効果を奏することが期待され、医薬品、食品への利用が有望である。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1において、プロアントシアニジン摂取をさせたGKラット由来坐骨神経のcAMP含量測定の結果を示す図である。
【図2】実施例2において、プロアントシアニジン摂取をさせたGKラットの運動神経伝導速度測定の結果を示す図である。
【図3】実施例3において、プロアントシアニジン摂取をさせたラットの坐骨神経挫滅後の握力スコアの結果を示す図である。
【図4】実施例3において、プロアントシアニジン摂取をさせたラットの坐骨神経挫滅後の機械刺激痛覚閾値の結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロアントシアニジンを有効成分として含有することを特徴とする神経障害用薬剤。
【請求項2】
前記プロアントシアニジンが、式:
【化1】

(式中、それぞれのRは独立して水素原子又は水酸基であり、それぞれのRは独立して水素原子、水酸基又はガロイルオキシ基であって、Rが水素原子のとき同一の炭素原子に結合するRは水酸基又はガロイルオキシ基であり、Rが水酸基のとき同一の炭素原子に結合するRは水素原子である。また、nは1〜20の整数である。)で表されるプロアントシアニジンオリゴマー若しくはその薬理的に許容される塩、又はそれらの少なくとも1種を含有する植物抽出物である請求項1に記載の神経障害用薬剤。
【請求項3】
前記神経障害が、糖尿病性神経障害、手根管症候群、慢性炎症性脱髄性多発神経炎、癌性ニューロパチー、及びアルコール性ニューロパチーからなる群から選択される何れかの神経障害である請求項1又は2に記載の神経障害用薬剤。
【請求項4】
一日当たりの投与量が、前記プロアントシアニジンオリゴマーとして0.1〜5000mgの範囲内である請求項2又は3に記載の神経障害用薬剤。
【請求項5】
神経障害の予防剤又は治療剤である請求項1〜4の何れか1項に記載の神経障害用薬剤。
【請求項6】
プロアントシアニジンを有効成分として含有することを特徴とする神経系支持細胞の分化及び/又は増殖促進用薬剤。
【請求項7】
前記プロアントシアニジンが、式:
【化2】

(式中、それぞれのRは独立して水素原子又は水酸基であり、それぞれのRは独立して水素原子、水酸基又はガロイルオキシ基であって、Rが水素原子のとき同一の炭素原子に結合するRは水酸基又はガロイルオキシ基であり、Rが水酸基のとき同一の炭素原子に結合するRは水素原子である。また、nは1〜20の整数である。)で表されるプロアントシアニジンオリゴマー若しくはその薬理的に許容される塩、又はそれらの少なくとも1種を含有する植物抽出物である請求項6に記載の薬剤。
【請求項8】
前記神経系支持細胞が、シュワン細胞又はグリア細胞である請求項6又は7に記載の薬剤。
【請求項9】
末梢神経障害の予防又は治療剤である請求項6〜8何れか1項に記載の薬剤。
【請求項10】
前記末梢神経障害が、運動障害又は感覚障害である請求項9に記載の薬剤。
【請求項11】
飲食品の形態にあることを特徴とする請求項1〜10の何れか1項に記載の薬剤。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2006−232670(P2006−232670A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2003−142266(P2003−142266)
【出願日】平成15年5月20日(2003.5.20)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】