秘密情報用記憶媒体
本発明は、フォトアドレス可能なポリマー(PAP)を含んでなる記憶層を有する記憶媒体、フォトアドレス可能なポリマーを含んでなる記憶層にデータを記憶する方法、及び記憶媒体としての使用に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、5キロバイト/mm2を超える記憶容量を有し、フォトアドレス可能なポリマー(PAP)の記憶層を含んでなる記憶媒体に関する。情報は、改ざん、不正操作およびコピーに対して安全であり、従って、保護に値する情報の記憶に特に適している不可視ホログラムの形で記憶媒体に記憶することができる。
【0002】
本発明はさらに、本発明の記憶媒体に、ヒトの眼に見えないホログラムの形で情報を記憶する方法にも関する。
記憶媒体は、場合により、アナログ暗号化により、好ましくないアクセスから保護することができる。
【0003】
記憶媒体は、その特性に応じて、多用な用途、特にパス(通行)システム及びIDカードに、適している。そこで、本発明は、本発明の記憶媒体を、定期券、IDカード及び紙文書のような平坦な媒体に個人データを保持する及び/又は保護に値する情報を記憶するために、パスカード(定期券)及びIDカードに使用することにも関する。
【背景技術】
【0004】
人(個人)がその身元に関する情報を提供しなければならない状況およびデータの真正さを証明しなければならない状況は数多く存在する。身分証明書、定期券及びIDカードは、世界中で使用されている確立された手段である。機械によるデータ処理が増しているので、現在では、人は、個人の身分証明書に加えて、定期券、健康保険カード、クレジット又はECカードを携行しており、これらを用いることにより、個人の身元を証明し、ある種の秘密データを所有し、ある種の行為が保証され、又はある種のサービスを受ける権利を有する。
【0005】
上記の全てのパスシステムに共通しているのは、パスと所有者との間に唯一の一致が存在することである。その為に、所有者の個人データ及び/又は特性(例えば、パスポート写真、個人番号、年齢、身長など)が、パスの上又は中に記録される。
【0006】
個人の同一性は、このような特性に基づいて、決定(同一性証明)又はチェック(照合)される。
【0007】
自動化の増大に伴って、パスの機械読み取りが必要となる。また、パスの信頼性(真正性)のチェックも、最もうまくは自動的に行われる。更に、所有者の自動的認識も必要であろう。この目的のために、個人に疑いなく帰属することが確実である個人に特有の特性、いわゆる生体的特徴、例えば、指紋、虹彩パターン、掌形、顔画像又は声紋が使用される。生体的特徴は、参照データの形で集中的にデータベースに、又は(分散的に)パスに、記憶され得る。データ保護の法律に関係する理由により、分散記憶が通常好ましいので、パスは、適当な記憶媒体を有する必要がある。
【0008】
生体的特徴は、書誌的データよりも多くのメモリーを必要とする。機械可読パスポートについてのICAO(国際民間航空機関)の推奨が基礎として採用されるならば(ICAO TAG MRTD/NTWG Technical Report Version 2.0: Development and Specification of Globally Interoperable Biometric Standards for Machine Assisted Identity Confirmation using Machine Readable Travel Documents, http://www.icao.int/mrtd/biometrics/recommendation.cfm)、次のようなメモリー要求が生じる:顔認識の為のイメージに12K、指紋の為のイメージに10K、虹彩認識の為のイメージに30K。
【0009】
生体適合の信頼性、すなわち、個人の生体データとカード上の参照データとの比較の信頼性は、複数の参照データ記録を使用することにより、増すことができる。顔認識の場合、例えば、複数のイメージを記録し、記憶することができる。マッチングの際、実際の顔を、記憶されたデータ記録のイメージ全てと比較する。そうすると、いわゆる本人拒否率(FRR)は減少する。その為には、十分なメモリースペースが使用できなければならない。
【0010】
このことは、複数の生体認証を用いる場合にも当てはまる。例えば、多くの人では、指紋上の皮膚の線が非常に多いので、指紋に基づく真正確認は困難を伴う。この場合、真正確認の為の別の生体的特徴、例えば虹彩パターンを使用することが可能である。従って、自動化真正確認に使用されるIDカードの記憶容量は、少なくとも100キロバイト、最も好ましくはそれ以上でなければならない。
【0011】
ヘルスカード(健康手帳)は、特別なパスである。ヘルスカードは、重複した検査を避けるために、医師が患者の病歴を直ちに知ることができるように、理想的には、患者の病歴を記憶できるようにされる。そのような情報には、例えば、X線画像がある。X線画像のメモリー量は、メガバイトの範囲である。従って、ヘルスカードに必要なメモリー容量は、他の身分証明書の場合より大きい。全てのデータを分散的に記憶したヘルスカードは、患者自身がデータを所有し、その医療データの読み取りを誰に許可するかを患者自身が決定できるという点で、集中データ記憶よりも有利である。
【0012】
多くの分野で、プラスチックカードがIDカードとして確立されつつある。ISO/IEC 7810 標準で特徴付けられているID−1フォーマット(クレジットカードフォーマット)は、特に普及している。クレジットカードは、持ちやすいサイズで、財布に入れることができる。このフォーマットの為に設計されたカードリーダーが多数ある。パス及びIDカードに使用される記憶媒体は、ISO/IEC 7810に準拠したそのようなID−1フォーマットのプラスチックカードに一体化できなければならない。
【0013】
しかしながら、記憶媒体を他のフォーマットに装備することも可能でなければならない。ビザ資料は特別なフォーマットを備えている。そのような資料は、通例、紙形式で存在する。ビザ資料が登録を望んでいる人の生体的特徴を備えていることが望ましいであろう。この目的のために、紙形式のビザ資料に、少なくとも100キロバイトの記憶媒体を備えることができなければならない。
【0014】
メモリーに記憶された情報は、未許可のアクセスに対して保護されなければならない。生体的特徴又は医療情報は、悪用される可能性がある慎重に扱うべきデータである。好ましくないアクセスから保護する1つの可能な方法は、暗号化である。データがデジタル形式で存在する場合、デジタル的に暗号化できる。アクセスは、キーを知っている場合にのみ可能である。
【0015】
しかし、暗号化の可能性に加えて、並行した総当たり攻撃(brute force attack)を防止するために、コピー保護もなければならない。総当たり攻撃の場合、コンピュータを用いて全ての可能なキーを試すことにより、デジタル的に暗号化された情報を復号する攻撃がなされる。このような方法によるシステムのクラッキングに要する時間は、(可能なキーの数)×(1つのキーを試みる時間)により与えられる。コンピュータの演算操作は、非常に早く、性能はほぼ1年ごとに二倍になる(ムーアの法則)。
【0016】
デジタル情報は、ロスなく、また内容を知られることなく、必要な回数、コピーすることができる。従って、総当たり攻撃が並行して試みられる可能性がある。暗号化された情報は、複数のコンピュータ上で、複数回コピーされ、攻撃を受ける。これにより、成功する攻撃に要する時間を(特に、ネットワークコンピュータの時代では)、短縮することができる。コピー保護は、並行攻撃を抑制する。
【0017】
コピー保護に加えて、記憶データの不正操作及び/又は改ざんに対する保護も存在する必要がある。
【0018】
要するに、改ざんに対して安全であり、好ましくないアクセスから保護するような方法で、少なくとも100キロバイト、好ましくは数メガバイトの秘密データを記憶することを可能にする記憶技術に対する要求がある。許可されていないデータのコピーを防止すべきである。記憶媒体は、多用なフォーマット、特にプラスチックカード及び紙文書に適用できなければならない。
【0019】
多くの異なるメモリーカードが、IDカードとして、例えば高度エンボスカード、バーコードカード、磁気ストライプカード及びチップカードとして、一般に使用される。記憶媒体の選択は、用途により決定される。高度エンボスカード及びバーコードカード(単純又はマトリックスコード)は、低記憶容量(100〜数千文字)のデータ媒体であり、容易にコピーできる。
【0020】
チップカードでは、データは、デジタル的に記憶され、統合アクセスロジックにより好ましくない読み取り及び削除から保護される。統合マイクロコントローラは、暗号計算の実施を可能にする。記憶容量は、チップの最大サイズにより限定され、その製造には費用がかかる。このチップは、25mm2以下のサイズに限定された単結晶性半導体メモリであるが、これは、このサイズでないと、カードの折り曲げにより簡単に破壊され得るからである。16〜72キロバイトの記憶容量を有するチップカードが、通常使用される。
【0021】
光学的に読み取りできるメモリーカードは、最も大きい記憶容量を有する。US 2003136846 は、光記憶ディスク(CD、DVD)から派生した光メモリーカードを記載している。このカードは、アダプタを用いることにより、標準的なCD又はDVDプレーヤーで読み取ることができる。記憶容量は、100〜200メガバイトである。しかしながら、このカードは、好ましくない読み出し及び/又はコピーを防止する保護機構を有していない。カードを所有することになった者ならだれでも、DVDプレーヤー内のアダプタを用いて読み取ることができ、DVDバーナーを用いて複製することができる。
【0022】
US 4360728 は、別の形式の光記憶媒体を記載している。記憶層は、好ましくは記憶カードの長手方向軸に対して平行に配置されたストライプの形状を有する。データは、記憶ディスクの場合の螺旋形ではなく、ストライプに沿って直線的に、ストライプ中に配置される。WO 88/08120 (A2) は、記憶層に書き込み、かつ記憶層から読み出せる装置を記載している。
【0023】
この装置を所有する者はだれでも、データを読み出し及び/又はコピーできる。記憶容量は、2〜3メガバイトである。
【0024】
上記の両光記憶カードでは、データは、記憶層中に、いわゆるピットの形でデジタル的に存在する。これらピットは、基本的に、顕微鏡を用いて読み取ることができ、デジタルデータに変換することができる。データは、コンピュータに読み込まれると、コピーすることができる。さらに、コンピュータによる総当たり攻撃が可能となる。必要とされる有効なコピー保護がない。
【0025】
顕微鏡による可視デジタルデータの読み取りからの保護は、ホログラフィックデータ記憶により提供される。
【0026】
ホログラフィックデータ記憶では、2つのレーザビームが、記憶材料中で重ね合わせられる。ホログラフィックに記憶されるデータは、例えばデータマスクを用いて、1つの光(情報光)に重ね合わせられる。他の光(参照光)は、材料中で情報光に干渉させられる。干渉パターンが記憶材料に記憶される。読み出しの際、ホログラムに参照光が照射される。情報光が再現され、記憶された情報(対象)のイメージが、感光性センサ上に像を結ぶ(図1参照)。
【0027】
ホログラムの形での情報の記憶は、暗号化の方法である。ホログラフィックデータ記憶は、かなり前から知られていた。1949年に、ハンガリーの物理学者、Dennis Garbor が、ホログラフィを発見した。1960年のレーザの発明後、ホログラム、すなわち対象物の3次元イメージが、成功裏に作成された(http://www.holographie-online.de/wissen/einfuehrung/geschichte/ geschichte.html)。参照光と物体光とに分割されたレーザ光を使用するホログラムの製造方法は、以前から従来技術の一部となっている。ホログラムの形で情報を記憶する可能性及び利点も、急速に認識され、その当時から、しばしば文献に記載されてきた(http://www.enteleky.com/holography/litrew.htm)。
【0028】
また、ホログラフィック記憶技術は、更なる選択肢:アナログハードウエア暗号化を提供する。図1において、イメージ光は、ホログラムの書き込み時の参照光と同じ性質を有する光を読み取りに使用した場合にのみ、再生される。従って、アナログ暗号化の可能性がある。ホログラムの書き込み時に特徴的な方法で参照光が変調されるなら、この変調を、読み出し時にも使用しなければならない。そうでなければ、情報光を再生することができず、記憶された情報を読み出すことができない。すなわち、ホログラムに、アナログ暗号化を付与することができる(図2参照)。暗号化されたホログラムの形で識別情報が記された身分証明カードは、例えば、US 3894756 に記載されている。データは、「ハードウエア暗号化」され、従って、正しいハードウエアを用いてのみ、再度読み出すことができる。
【0029】
ホログラムを製造するための種々の方法、例えば、振幅ホログラム又は位相ホログラムがある。振幅ホログラムの場合、干渉パターンは、記憶媒体中に黒化パターンとして記録される。再現の際、参照波は、局所黒化に比例的に吸収される(振幅の減少)。典型的な位相ホログラムの場合、干渉パターンは、記憶材料中に、屈折率パターンとして記録される。再現の際、参照波は、局所屈折率に比例した位相シフトを受ける。他の形式の位相ホログラムは、参照波に位相差を生じさせるために、層厚の変化又は表面レリーフ(起伏)を使用する。
【0030】
上記のホログラム全てに共通することは、回折構造がヒトの眼に見えることである。原理上、この構造は、顕微鏡を用いて読み取ることができ、コンピュータを用いてホログラムからホログラフィックにコード化された情報を逆算する試みがなされ得る。従って、ホログラフィック構造はヒトの眼に見えないことが有利である。
【0031】
更に、上記の位相ホログラム及び振幅ホログラムはコピーできる。既知の方法は、いわゆる「密着焼付け」(contact printing)である(例えば、P. Hariharan: Basics of Holography, University Press Cambridge (2002) 参照)。
【0032】
位相ホログラム及び振幅ホログラムに加えて、いわゆる偏光ホログラムもある。これは、特別な記憶媒体でのみ実現することができる。光波の偏光状態を記憶できる媒体が、記録材料として適している。その例は、アゾベンゼン含有側鎖を有するポリマー、いわゆるフォトアドレス可能なポリマー(PAP)である。偏光を照射すると、側鎖が、偏光方向に対して垂直に配向を起こす(フォト配向、図3参照)。この効果を、データ記憶に利用することができる(R. Hagen, T. Bieringer: Photoaddressable Polymers for Optical Data Storage. In: Advanced Materials, WILEY-VCH Verlag GmbH (2001), No. 13/23, 1805 - 1810頁参照)。
【0033】
フォトアドレス可能なポリマーに偏光ホログラムを書き込むには、円偏光レーザビームを、情報光及び参照光として使用することができる。記憶媒体で部分光を重ね合わせると、ポリマー中の光活性基の配向を決定する直線偏光が、反対方向に円偏光された2つの光から生じる。この形の偏光ホログラフィは、WO 99/57719 A1 に記載されている。この国際公開では、フーリエ偏光ホログラムを記憶する方法及び装置が特許請求されている。
【0034】
いわゆるフォトアドレス可能なポリマーに基づく偏光ホログラムは、従来技術の一部である。
【0035】
従来技術には、表面構造の照射時にアゾベンゼン含有ポリマーが形成することも記載されている(A. Natansohn, P. Rochon; Photoinduced Motions in Azo-Containing Polymers; Chem. Rev. 2002, 102, 4139-4175)。物質のガラス転移温度よりかなり低い温度での光誘起過程の結果として、分子又は分子群がポリマーフィルム内を移送され、所定の位置に堆積する。生成した表面構造は、顕微鏡下で可視である。従って、従来技術によるアゾベンゼン官能化側鎖ポリマーに基づくフォトアドレス可能なポリマー中のホログラフィック構造は、可視であり、コピーすることができる。
【0036】
光による照射が強くなるほど、表面構造がより鮮明に現れる。しかしながら、低い光強度でホログラフィック構造を書き込むことは、この問題の解決策ではない。何故なら、そうすると、ホログラフィック構造が経時的に安定でなくなるからである。このことは、例えば、DE 4431823の実施例1(第6〜7頁)に記載されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0037】
従来技術から出発して、本発明の目的は、ホログラフィック記憶技術と組み合わせて、少なくとも100キロバイト、好ましくは数メガバイトの秘密データ、例えば、生体的特徴を、偽造防止できる方法で、好ましくないアクセスから保護して記憶することを可能にするホログラフィック記憶媒体を開発することである。データのコピーの未許可の作成を防止しなければならない。記憶媒体は、ホログラフィックに書き込み及び読み出しでき、かつ、多様な基材、特にプラスチックカード及び紙文書に種々のサイズで適用することができる記憶層を有していなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0038】
驚くべきことに、上記目的は、フォトアドレス可能なポリマーの少なくとも1つの記憶層からなる光記憶媒体、及び本発明の記憶媒体に不可視偏光ホログラムを記憶できる記憶方法により、達成できることが見出された。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
基本的に、方向を持った複屈折を書き込むことができるポリマー全てが、記憶層として適している(Polymers As Electroopotical and Photooptical Active Media, V.P. Shibaev (editor), Springer Verlag, New York 1995; Natansohn et al., Chem. Mater. 1993, 403-411)。書き込まれた複屈折パターンは、偏光により可視化することができる。
【0040】
好ましい軸も偏光の方向の回転とともに動く局在化複屈折を、標的とされた露光により、書き込むことができる。このようなフォトアドレス可能なポリマーの例は、アゾベンゼン官能化側鎖を有するポリマーであり、そのようなポリマーは、例えば、US-A 5 173 381 に記載されている。偏光により露光すると、アゾベンゼン官能化ポリマー中の光活性アゾベンゼン基が、偏光方向に対して垂直に整列する(光配向。図3参照)。
【0041】
本発明において使用できるフォトアドレス可能なポリマーの更なる例は、下記の文献に記載されている:
EP0622789B1 (3-5頁)、DE4434966 A1 (2-5頁)、DE19631864 A1 (2-16頁)、DE19620588 A1 (3-4頁)、DE19720288 A1 (2-8頁)、DE4208328 A1 (3頁3-4行、9-11行、34-40行、56-60行)、DE10027153 A1 (2-8頁61行)、DE10027152 A1 (2-8頁)、WO 196038410 A1、US5496670 (1欄42-67行、6欄22行〜12欄20行)、US5543267 (2欄48行〜5欄3行)、EP0622789 B1 (3頁17行〜5頁31行)、WO9202930 A1 (6頁26-35行、7頁25行〜14頁20行)、WO1992002930 A1。
【0042】
320〜700nmの範囲の波長、特に400〜550nmの範囲の波長を有する偏光への露光により複屈折を誘起できるポリマーが、好ましく使用される。
【0043】
フォトアドレス可能なポリマーの層の記憶容量は、書き込みに使用される光の波長Lにより制限される。
【0044】
理論的記憶密度は、1/L2である。従って、青色光源(400nm)を使用すると、記憶容量は6.25メガビット/mm2であり、緑色光源(530nm)の場合は、3.55メガビット/mm2である。すなわち、少なくとも100キロバイトから数メガバイトの記憶容量を有する記憶媒体を製造することができる。
【0045】
基本的に、記憶層は薄膜として形成されるので、記憶媒体の全表面を記憶層として使用することができる。標準的なクレジットカードのサイズを有するカードを用いる場合、15.5ギガビットの記憶容量を実現することは、理論的に可能である。
【0046】
記憶層及び場合により記憶媒体は、単一のホログラムのサイズまで小さくすることができる。書き込まれるホログラムのサイズは、少なくとも0.01mm2、好ましくは0.05〜5mm2、特に好ましくは0.07〜1.5mm2である。
【0047】
約0.03mm2のサイズを有する記憶媒体が、約5キロバイトのデータを記憶するのに適している。そのような記憶媒体は、例えば、宝石類、錠剤、他の高価な物品、又は別の理由で改ざんから保護しなければならない対象物に応用することができる。
【0048】
情報は、記憶媒体に、偏光ホログラムの形で記憶される。本発明の記憶媒体及び記憶方法により、情報がヒトの眼には不可視になり、従って、改ざん、コピー、不正操作及び好ましくない読み出しから保護されることが保証される。記憶媒体の外側からは、情報が記憶されているか否か、またどこに記憶されているかは、見ることができない。本発明の偏光ホログラムでは、書き込まれたホログラムを「密着焼付け」(P. Hariharan: Basics of Holography, University Press Cambridge, 2002)により、コピーすることも不可能である。
【0049】
記憶媒体は、少なくとも3つの層:基材、フォトアドレス可能なポリマーの層、及び1つ又はそれ以上の保護層、からなる。
【0050】
記憶された情報を読み出す場合のレーザビーム源及び検出器の配列に応じて、2つの基本的層構造は区別することができる。
【0051】
透過形ホログラフィ(図4)では、レーザビーム源及び検出器は、記憶媒体の異なる側に配置され、レーザビーム/参照光は記憶媒体を透過しなければならない。記憶層は、2つの単層又は多層保護層の間に挿入され、保護層の1つは基材として機能する。ここで、保護層は、記憶媒体の必要な安定性を確保し、記憶ポリマーを機械的負荷(例えば、擦り傷)から保護する。このような保護層は、読み出し用の光及び(少なくともレーザに面している層では)書き込み用の光に対して、透明でなければならない。
【0052】
反射形ホログラフィ(図5)では、記憶された情報は、反射により記憶媒体から読み出される。換言すれば、レーザビーム源及び検出器は、記憶媒体の同じ側に配置される。記憶媒体は、少なくとも4つの層からなる。透過形ホログラフィの場合に記載した層に加えて、反射層も存在する。反射層は、基材と記憶層との間に挿入される。あるいは、反射層は、記憶層とは反対となる基材の側に適用することもできる。この場合、基材は、読み出し用の光に対して透明でなければならない。
【0053】
反射形ホログラフィでは、基材は、読み出し用及び書き込み用の光に対して不透明であってよく、レーザに面する保護層は、読み出し用及び書き込み用の光に対して透明でなければならない。
【0054】
透過形ホログラフィ及び反射形ホログラフィにおいて、読み出し中にレーザビーム源が透過する保護層は、低い散乱能及び低い複屈折を有さなければならない。
【0055】
ホログラムは、好ましくは反射で読み出される。
【0056】
反射層及び記憶ポリマーが適用される基材は、反射層が平らに適用できる平らな表面を有する任意の材料から作成される。平らな表面とは、ほとんど粗さがない表面を意味すると理解される。粗い表面は、レーザビームの散乱を引き起こし、散乱は、記憶された情報を読み出す際に問題を生じることがある。表面粗さは、触針法(測定器機:KLA Tencor Alpha Step 500;測定方法:MM-40001)により、決定することができる。表面粗さは、好ましくは、Ra=100nm未満である。
【0057】
使用できる材料は、ガラス、金属又はポリマーである。
【0058】
基材に適する材料は、とりわけ、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)、ポリカーボネート(PC)、PC−ABSブレンド、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエステル(PE)、ポリプロピレン(PP)、セルロース、ポリイミド(PI)及びポリアミド(PA)である。ABS、PVC、PE、PET、PC、PA又はこれらのブレンドが、特に好ましい。
【0059】
加工によりフィルムにできるポリマーが特に好ましい(J. Nentwig, Kunststoff-Folien, 第2版, Hanser-Verlag, 2000, 29-31頁、39頁、43-63頁).
【0060】
反射層は、読み出し用波長の参照光を反射する波長選択的鏡を形成する。
【0061】
好ましくは、反射層は、金属又は合金、特に好ましくはアルミニウム、金、銅、ビスマス、銀、チタン、クロム又はこれら金属の1種を主成分として含む合金からなる。
【0062】
可視光(VIS)及び近赤外線(NIR)スペクトル範囲での平均反射率は、少なくとも50%、好ましくは少なくとも80%、特に好ましくは少なくとも90%である。
【0063】
長期間(少なくとも3年間)にわたって高い反射率を維持する材料が好ましく使用される。
【0064】
反射層は、蒸着、CVD(化学気相蒸着)、PVD(物理的気相蒸着)、スパッタリング、メッキ又は他の方法により、基材に適用される。反射層は、好ましくは、スパッタリング又は蒸着により、適用される。
【0065】
反射層の厚さは、少なくとも50nmでなくてはならず、好ましくは80nmと1μmとの間である。
【0066】
市販の金属蒸着熱可塑性フィルムも、基材と反射層との組み合わせとして使用してよい。
【0067】
反射層は、層構造中で標的とする多重反射により選択された反射性(反射率)が達成される。
【0068】
特に良好な光学的性質を得るために、蒸着又はスパッタリングにより材料を基材に複数回適用することや、ピンホールの数を最少にするために金属化工程の間で基材を清浄化することができる。
【0069】
フォトアドレス可能なポリマーの記憶層は、既知の方法、例えば、スピンコーティング、噴霧、ドクターブレードによる塗布、浸漬塗布、スクリーン印刷、浸漬、流延などにより、溶液から適用することができる。形成されるフィルムの層厚は、通例10nm〜50μm、好ましくは30nm〜5μm、特に好ましくは200nm〜2μmの間である。
【0070】
1つ又はそれ以上の保護層を、記憶層に適用する。保護層は、記憶層を、引っ掻き又は他の環境の影響、例えば湿気から保護することを意図している。
【0071】
好ましくは、いわゆる保護被膜が、光データ記憶材料の保護層として使用される。保護被膜は、次の目的で使用することができる:紫外線保護及び風化からの保護、耐引っ掻き、機械的保護、機械的安定性及び熱的安定性。
【0072】
保護層は、好ましくは放射線硬化被膜、より好ましくは紫外線硬化被膜である。紫外線硬化被膜は、既知であり、文献、例えばP.K.T. Oldring (編), Chemistry & Technology of UV & EB Formulations for Coatings, Inks & Paints, 第2巻, 1991, SITA Technology, London, 31 - 235頁に記載されている。
【0073】
このような材料は、純物質として又は混合物として入手できる。この材料は、エポキシドアクリレート、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート, アクリレート化ポリアクリレート、アクリレート化油、シリコンアクリレート、アミン変性及び未アミン変性ポリエーテルアクリレートに基づいている。アクリレートに加えて又は代えて、メタクレイレートを使用することもできる。ビニル、ビニルエーテル、プロペニル、アリル、マレイル、フマリル、マレイミド、ジシクロペンタジエニル及び/又はアクリルアミド基を重合性成分として含むポリマー生成物も、使用し得る。アクリレート及びメタクリレートが好ましい。市販の光開始剤、例えば芳香族ケトン又はベンゾイン誘導体は、0.1〜約10質量%の量で用いることができる。
【0074】
更なる態様では、保護層は、そのような被膜により被覆されたプラスチックフィルムからなる。プラスチックフィルムは、流延、ドクターナイフを用いた塗布、スピンコーティング、スクリーン印刷、噴霧又は積層により、適用される。被膜は、この工程の前又は後に、プラスチックフィルムに適用することができる。
【0075】
保護層は、以下の性質を有する必要がある:750〜300nm、好ましくは650〜300nmの波長範囲での高い透明性、複屈折、非散乱性、無定形、好ましくは鉛筆硬度試験又はカード製造業者により採用される他の磨耗試験により測定した耐引っ掻き性、好ましくは約100mPa・s〜約100000mPa・sの粘度。
【0076】
光の照射時にごく僅かに収縮し、低い二重結合官能性及び比較的高い分子量を有する樹脂/被膜が、特に好ましい。
【0077】
従って、保護層の特に好ましい材料特性は、3モル/kg未満の二重結合密度、3未満、特に好ましくは2.5未満の官能価、1000g/モルを超える、特に好ましくは3000g/モルを超える分子量Mnである。
【0078】
液体の適用は、流延、ドクターナイフを用いた塗布又はスピンコーティングにより行われる。
【0079】
続いての硬化は、光の均一な照射、好ましくはUV光の照射により行われる。
【0080】
太陽光は広い波長スペクトルを含んでおり、太陽光に再度曝されると、書き込まれた情報はゆっくり削除されることになる。これを防止するために、記憶情報の書き込み又は読み出しのいずれにも使用されない波長をブロックする吸収剤、例えば、重合性メロシアニン染料(WO 2004/086390 A1、DE 10313173 A1)又はナノ粒子を、保護層に配合することができる。
【0081】
記憶層は、光データ記憶に使用することができる。データは、デジタルフォーム(例えば、ビットシークエンスとして)又はアナログフォーム(例えば、イメージとして)、記憶される。データは、CD又はDVDの場合、記憶ポリマーに導入することができる。しかしながら、好ましくは、データは、ホログラフィックに記憶される。特に好ましくは、データページが、ホログラフィックに記憶される。情報は、グレーステップを含んでいてよい。データは、好ましくは、2値パターン(黒/白パターン)からなる。何故なら、カメラチップにホログラフィックに記憶されたデータページを読み出すことにより再構成する場合、これにより、電子信号に変換でき、明及び暗領域からなる容易に検出できるパターンが与えられるからである。例えば、バーコード又はマトリックスコード又はこれらを変形したコードは、ホログラフィックに記憶される。既知の2値コードの概説は、例えば、次の本:Roger C. Palmer著 The Bar Code Book(出版社Helmers Pub)第4版(2001年1月)に記載されている。
【0082】
コードは、好ましくは、不正確に再生されたビットの場合にエラーを含まずに再生されたデータページを読み出すことができるように、例えばリード・ソロモンのようなエラー訂正符号を含む。
【0083】
ホログラムは、好ましくは、参照光と物体光とを記憶材料中で重ね合わせることにより生成される。物体光は、記憶すべき情報を、好ましくは空間振幅変調の形で、含む。これは、静的ホトマスク又はプログラム可能空間光変調器(SLM)により、物体光と重ね合わせられる。好ましくはプログラム可能SLMが使用される。これは、液晶マイクロディスプレー(LC)、例えばLC 2002(Holoeye製)、LCoSシステム(液晶オーバーシリコン)、例えばLC-R 2500(Holoeye製)、又は微小機械反射鏡アレー、例えばDMD(Texas Instruments製)であり得る。
【0084】
物体光は、記憶材料中で参照光と重ね合わすことにより、ホログラフィックに記憶される。好ましくは、物体光のフーリエ変換が、ホログラフィックに記憶される。何故なら、生成されたフーリエホログラムは、レーザビームの配置の許容範囲が高いので、より簡単な読み取り性をもたらす変換分散を有するからである。
【0085】
フーリエ変換は、好ましくは、フーリエレンズを用いて物理的に行われる。
【0086】
物体光及び参照光は、好ましくは、異なる方向に円偏光し、記憶媒体において重ね合わせるとフォトアドレス可能なポリマーの局所配向を決定する直線偏光を生じる光線である。
【0087】
参照光には、所望により、変調も加えられる。この変調は、暗号キーとして機能する。何故なら、ホログラムの読み出しは、「正確に変調された」参照光を用いた場合にのみ可能となるからである。キーは、好ましくは振幅変調又は位相変調により重ね合わせられる。これは、セキュリティの向上を意味する。ホログラムが物体光に暴露されるなら、参照光が再構成される。このことは、記憶されたデータの一部を知ることにより、対応する振幅変調の形のこの部分でホログラムを照射することによりキーの一部を再構成できることを意味する。もしキーが振幅変調からなるならば、光能動センサ上の相は登録できないが、振幅の2乗に比例する光線の強度のみが登録できるので、直接可視化できない。
【0088】
位相変調は、適当な空間光変調器を用いて行うことができる。また、参照光の光路に静的位相マスクを配置することによっても可能である。この静的位相マスクは、例えば、構造がエッチングされた小さいガラス板であってよい。位相変調に影響を与える局所的な光路差が、構造を有する小さいガラス板を通過した光に重ね合わせられる。
【0089】
位相変調は、好ましくは、プログラム可能空間光変調器(SLM)を用いて行われる。このようなSLMは、例えば、液晶マイクロディスプレー(LC)、例えばLC 2002(Holoeye製)、LCoSシステム(液晶オーバーシリコン)、例えばLC-R 2500(Holoeye製)、又は例えばFraunhofer-Institut fuer Photonische Mikrosystemeで開発されたような微小機械反射鏡アレーであり得る。
【0090】
書き込み(露光)は、配向した複屈折を材料中に誘起できる波長で行われる。発色団としてアゾベンゼン側鎖を有するフォトアドレス可能なポリマーの場合、露光は、アゾベンゼン官能基中のπ-π*電子遷移に起因する吸収帯の領域で起こる。この場合、吸収帯の極大におけるよりも、システムの光学密度がより小さく、従って露光時間がより短い(図6参照)ので、好ましくは、書き込みは、吸収帯の側面へ行われる。特に好ましくは、書き込みは、光学密度が0.5〜1の間で行われる。
【0091】
書き込み及び読み出し波長の選択は、もちろん、適当なレーザ光源の利用可能性に依存する。特に好ましくは、波長532nmのレーザ(2倍波Nd:YAGレーザ)、又は波長405nmのレーザ(青色レーザダイオード)が、市販されているので、書き込みに使用される。
【0092】
意外なことに、ヒトの眼に見えないホログラムを、露光によりアゾベンゼン官能化側鎖ポリマーの相に組み込むことができることが見出された。エネルギー投入量、すなわち、単位面積あたりに規定の時間で材料に投入されたエネルギーの量が、決定的な役割を果たす。
【0093】
意外なことに、書き込み光と露光時間の積を、アゾベンゼン官能化側鎖ポリマーを含む層について、強度と時間の積(=エネルギー投入量)がある範囲にあるならば、広い範囲で変化させ得ることが見出された。
【0094】
記憶媒体に不可視ホログラムを導入するために必要なエネルギー投入量は、実験的に決定できる2つの限界値の間にある。
【0095】
下限は、通常の周囲条件(これについては、例えば、光学ディスクメモリーについてのISO/IEC 標準 9171-1 を参照)では熱的に削除できない安定な複屈折であって、露光曲線の飽和(図7)により特徴付けられる複屈折を形成できる量である。図7は、アゾベンゼン官能化ポリマーの露光曲線を示す。1000mW/cm2の選択された露光強度は、安定な構造をポリマーに書き込むのに適している。安定な複屈折を形成するための下限は、この例では、60秒である。より短い時間及び/又はより小さい露光強度では、時間の関数として不安定となる、すなわち配向されたポリマー分子が時間経過とともに緩和する書き込み構造が生じる。材料の露光曲線は、例えば、下記の文献に記載された装置を用いて記録することができる:R. Hagen, T. Bieringer; Photoaddressable Polymers for Optical Data Storage; Advanced Materials; WILEY-VCH Verlag GmbH (2001); No. 13/23; 1807頁、Fig. 2。
【0096】
エネルギー投入量の上限は、ヒトの眼に見える表面構造の発生により識別される(図12参照)。表面構造は、ポリマー分子が光の焦点に移行する過剰に高い強度及び/又は過剰に長い露光時間の場合に、観察される。この効果は、文献、例えばA. Natansohn, P. Rochon; Chem. Rev. 2002, 102, 4139-4175 に記載されている。
【0097】
フォトアドレス可能なポリマーの層にSiO2薄層を適用することにより、ポリマーをある程度固定することができ、その結果、表面構造化が減少する(実施例5.1参照)。SiO2に代えて、書き込み光及び読み出し光に対して透明であり、低い複屈折を有し、フォトアドレス可能なポリマーの層よりも硬い他の層、例えば、Al2O3、TiO2、SiCなども使用できる。
【0098】
露光によるアゾベンゼン官能化ポリマーへの書き込みは、熱処理により補助することができる。DE 4431823 A1 によれば、ガラス転移温度及び透明点の間の温度に記憶材料を加熱すると、変調が起こる。
【0099】
読み出し及び書き込みは、書き込まれたデータが読み出し中に削除されるのを防止するために、好ましくは異なる波長で行われる。
【0100】
読み出しは、好ましくは長波赤色光、特に600〜690nmの範囲の波長を有する光を用いて行われる。読み出し光の強度は、入射広帯域照射の場合、典型的には10mW/cm2未満であり、入射狭帯域照射の場合、典型的には10mW/cm2未満、好ましくは1mW/cm2未満である。
【0101】
記憶媒体は、所望の生体的特徴と組み合わせて個人を特定するために、パス及びIDカードで使用することができる。記憶媒体は、好ましくない読み出しから医療情報を保護するために、ヘルスカード(健康手帳)に使用することができる。
【0102】
従って、本発明の特徴的な用途は、身分証明用記憶媒体、好ましくはIDカードである。IDカードの形状、全体の厚さ及び寸法は任意である。読み出しには、少なくともホログラムが記録されている領域で(実施例6、図9及び図10)、滑らかで平らな表面が必要なだけである(実施例5)。
【0103】
マーケティングの観点から、このようなIDカードの態様に好ましい寸法は、ISO/IEC 7810(2003年11月01日付け第3版、図8参照)に類似する。図8の黄色のストライプは、記憶層である。必要なら、記憶層はカード全体に広がっていてよい。しかしながら、例えば単一のホログラムを記憶する場合、カードの一部分にのみ記憶層を供給することもできる。
【0104】
カードの特定の態様では、偏光ホログラムは見えないので、ホログラムを見つけやすくするためのマークを基材に付ける。
【0105】
本体が曲げられても平らなままである領域が存在する、すなわち、曲げはホログラムの書き込まれていない要素に限定されるような構造が選択される。例えば、単一ホログラムの場合、ホログラムの周囲の支持体にノッチを形成することができる。支持体を曲げると、ノッチのサイズは増すが、ホログラムの領域は実質的に平らなままである。しかし、カードの構造は特に好ましい。
【0106】
本発明の更なる特定の態様では、カードは、凹凸構造を有するように構成される。記憶されたホログラムの正しい読み出しには、滑らかで平らな表面が必要であるので、カードが曲げの結果湾曲すると、再生されたイメージは、感光性センサ(カメラチップ)上に正しく焦点を結ばないことになる。これを防止するために、カードは、例えば図9に示すように、凹凸(結節)構造を有するように構成される。この構造では、カードが曲げられても、突出した領域は平らなままであるからである(実施例6、図10も参照)。1つ又はそれ以上のホログラムを、突出した領域に記憶することができる。
【0107】
凹凸構造は、種々の方法により、例えば、フライス加工、切削、リソグラフィー、レーザ燒結、成型、注型法(例えば、射出成形又は真空注型)、又はポリマー又は金属体にパターンを形成できる他の方法により、形成することができる。
【0108】
凹凸構造は、好ましくは直径0.1〜5mmの寸法で、間隔は0.1〜2mmである、好ましくは四角形、六角形又は円形の突起の形状を有する。特に好ましくは、少なくとも単一ホログラムの寸法である凹凸構造が、支持体に形成される。
【0109】
特定の態様では、PAP記憶層に加えて、更なる記憶媒体がカードに一体化される。特別な態様においては、IDカードには、例えばRFID(無線ICタグ)チップが装着される。純PAD−IDカードの場合、真正確認は、カードを読み取り器に挿入することにより開始される。カードの挿入、データの読み出し及びカードの排出には、ある時間が必要である。RFIDカードは、無線により「通過中」に読み出される。真正確認がより早く行われる。建物に種々のセキュリティ部門が配備されているなら、低度に保護すればよい部門には「RFID真正確認」を提供し、一方、高度のセキュリティを必要とする部門は、記憶された生体的特徴を持つPAP−IDカードによってのみ接近できるようにする。この場合、PAP層及びRFIDチップを有するカードは、両方の機能を実行する。
【0110】
本発明の別の特別な態様では、IDカードには、更に、デジタル署名を発生できるマイクロプロセッサチップが供給される。これは、例えば診察券の場合に行われる。デジタル署名により、使用者は、その人がカードの所有者であることを明らかにでき、医療情報に関係する大量のデータは、ホログラフィックにカードに記憶され、好ましくないアクセスから保護される。
【0111】
記憶媒体は、好ましくは、定期券及び同一性確認の為のプラスチックカード、例えばIDカードに使用される。本発明の記憶媒体は、慎重に扱うべきデータ、秘密データ及び/又は保護に値するデータに特に適している。好ましくは、個人を識別する生体的特徴が、穂フォグラフィックに記憶され、アクセス制御用記憶媒体及び特に安全を要するヘルスカードとして使用される。ビザ又は保護に値する情報を含む他の紙書類での記憶媒体の使用も意図される。
【実施例】
【0112】
実施例1(ポリマーの合成)
フォトアドレス可能なポリマー:
【化1】
【0113】
合成方法は、WO9851721(24頁10〜15行及び26頁20行〜27頁5行)に記載されている。
【0114】
実施例2(ポリマー溶液の調製)
上記ポリマーB1(15.0g)を、70℃でシクロペンタノン(100ml)に溶解した。溶液を室温まで冷却し、0.45μmのテフロンフィルタで、次いで0.2μmのテフロンフィルタで濾過した。溶液は室温で安定であり、ポリマーB1を種々の表面、例えば、ポリマー表面及び金属蒸着ポリマー表面に適用するのに使用した。
【0115】
実施例3(フォトアドレス可能なポリマーによるガラス表面及びプラスチック表面の被覆)
3.1 ガラス基材の被覆
厚さ1mmのガラス基材の被覆を、スピンコーティングにより行った。Karl Susss CT 60スピンコータを使用した。正方形ガラス基材(26×26mm2)を装置の回転プラットホームに固定し、実施例2の溶液で覆い、所定時間、回転させた。装置の回転プログラム(回転の加速度、速度及び時間)に依存して、厚さ0.2〜2.0μmの、透明かつ無定形の光学品質被膜が得られた。塗布されたガラス基材を、真空キャビネットに室温で24時間保存して、被膜から残留溶媒を除去した。
【0116】
3.2 PETフィルムの被覆
手動ドクターブレードを用いて、実施例2の溶液を、厚さ5μmのPETフィルム(Dupont製 MelinexTM)に塗布した。
【0117】
塗布したフィルムを真空キャビネット中で24時間乾燥した後、厚さ約5μmのポリマー層が得られた。
【0118】
層の厚さは、溶液を希釈することにより薄くすることができる。
【0119】
3.3 ポリカーボネートフィルムの被覆
実施例2のポリマー溶液に使用した溶媒(シクロペンタノン)はポリカーボネートを攻撃するので、ポリカーボネートフィルム(PCフィルム、例えばBayer Material Science製 MakrofolTM)に直接塗布することはできない。
【0120】
この理由から、厚さ175μmのMakrofolTM PCフィルムに、まず、厚さ1μmのParylene層(ポリ-p-シクロファン)を被覆した(PPCS)。この層は、ポリマー溶液の塗布時に、シクロペンタノンが透過できないバリア層として機能する。
【0121】
ポリマー溶液は、3×3mm2のParylene被覆フィルム領域に、実施例3.2に記載したように、スピンコーティングにより塗布した。
【0122】
実施例4(金属蒸着ポリマーフィルムの被覆)
4.1 PCフィルム及びPETフィルムの金属蒸着
PCフィルム(Bayer製 MakrofolTM)及び異なる厚さを有するPETフィルム(Dupont製 MelinexTM、Dupont製 MylarTM、東レ製 LumirrorTM)を被覆した。反射層として銀を使用し、マグネトロンスパッタリングにより適用した。被覆中のアルゴン圧は5×10−3mbarであった。スパッタリングは、1.3W/cm2の出力密度で行った。層厚は、機械式表面形状測定装置(Tencor製 Alpha-step 500)を用いて測定した。厚さは、100〜400nmの間に設定した。
【0123】
4.2 実施例4.1からの金属被覆上へのフォトアドレス可能なポリマーの直接塗布
実施例1のフォトアドレス可能なポリマーを、実施例3.1と同様にしてスピンコーティングにより、又は実施例3.2と同様にしてドクターブレードにより、実施例2の溶液から、実施例4.1の金属蒸着PETフィルムの1つに直接塗布した。スピンコーティングにより、装置の回転プログラム(回転の加速度、速度及び時間)に依存して、0.2〜2.0μmの厚さを有する、透明かつ無定形の光学品質塗膜が得られた。
【0124】
厚さが50〜300nmであるポリカーボネートフィルムの金属膜は、光学的記憶又はホログラフ記憶に十分な反射特性を有しているが、溶媒に対する適切なバリア機能を有していない。例えばシクロペンタノンは、金属膜の微小欠陥(ピンホール)からポリカーボネートを攻撃し、これにより、記憶層の光学的特性が著しく劣化する。
【0125】
この場合、金属層の厚さを300nm以上の増す必要がある。そのような層厚は、適切なバリア性を有する。ポリマーによる被覆は、PETフィルムについて先に記載したのと同様の方法で、直接金属層に対して行われる。
【0126】
あるいは、Paryleneバリア層を、金属層とPCフィルムとの間に適用した。PCのParylene被覆は、実施例3.3に記載されている。金属は、実施例4.1と同様にスパッタリングによりParylene層に直接適用された。ポリマーによる被覆は、PETフィルムについて先に記載したのと同様の方法で、直接金属層に対して行われる。
【0127】
実施例5(記憶媒体の製造)
フォトアドレス可能なポリマーにより被覆された実施例4に従ったプラスチックフィルムを、PAP側に被覆し、場合により更にプラスチックフィルム側に被覆し、又はフィルムで覆った。これらの被覆/フィルムは、機械的負荷容量を改善し、情報層を機械的影響又は他の影響(熱、光、湿気)から保護する。層は、コーティング、ラッカー塗布又は積層により適用することができる。
【0128】
5.1 シリカによるフォトアドレス可能なポリマー層のカバー
外側保護層として、シリカ被膜を適用した。実施例4.2のフィルムのPAP層上に、約200nmの粒径を有するSiO2粒子を、電子線蒸発器により、透明保護層として堆積させた。電子線の出力は1.5kWであり、方法は、5×10−7mbarの高真空で実施した。
【0129】
5.2 紫外線硬化性ラッカーの適用
実施例5.1のシリカ被覆に、更に紫外線硬化性ラッカーを適用した。ラッカー層は、実施例4.2と同様のスピンコーティングにより、DVD接着剤(DIC Europe GmbH製性 DAICURE CLEAR SD-645)の形で適用し、紫外線照射(90ワット、312nm)により硬化した。スピンコータの回転プログラム(回転の加速度、速度及び時間)を適切に調節することにより、厚さ50ミクロンの、透明かつ無定形の光学品質被膜が得られた。被膜は、スピンコーティングの回転プログラムに依存して、1〜100μmの厚さに調節することができた。
【0130】
5.3 ポリカーボネートフィルムによるPAP層の保護
実施例4.2に従って製造したフィルム層に、構造化した又は滑らかなポリカーボネートフィルムを、水圧ホットプレス(Buerkle type LA 62)により、積層した。PAP層がポリカーボネートフィルムにより被覆された。積層は、2つの研磨ステンレス鋼プレート(反射シート金属)及び均圧化層(プレスクッション)の間で行った。積層パラメータ(温度、時間、圧力)は、PAP被覆が視認できる損傷を受けないように調節した。
【0131】
5.4 更なる支持体への記憶媒体の適用
実施例4.2、5.1、5.2及び5.3に記載した層構造を、更なる支持体に適用した。層構造を、接着結合によりPVCフィルムに適用した。機械的負荷に耐えられるデータ媒体が得られた。
【0132】
実施例6(構造化カードの製造)
幅3mmの正方形突起(間隔2mm、高さ0.5mm)を有するカードの製造を、Formpool社に委託した(図10参照)。カードの厚さは、全体で1mmであった。カードは、高速プロトタイプ法(真空注型)により、ポリウレタンから製造した。カードに、実施例4と同様にして銀層及びフォトアドレス可能なポリマーを供給し、実施例5と同様にして保護層を供給し、実施例7と同様にしてホログラムを書き込んだ。ホログラムは、突起部(凸部)に配置した。
【0133】
実施例7(露光)
厚さ750μmのポリカーボネートフィルム(MakrolonTM DE 1-1)を記憶カードとして使用し、実施例4.1、4.2及び5.1と同様にして、下記の層を供給した:厚さ1μmのParylene層、厚さ0.1μmの銀層、厚さ1.6μmのフォトアドレス可能なポリマーの層、及び厚さ0.15μmのSiO2層(記載の順序で)。
【0134】
7.1(局所複屈折)
局所複屈折を、光の照射により記憶カードに導入した。そのために使用した装置は、例えば、R. Hagen, T. Bieringer; Photoaddressable Polymers for Optical Data Storage; Advanced Materials; WILEY-VCH Verlag GmbH (2001); No. 13/23; 1807頁; Fig. 2 に記載されている。
【0135】
約1mm2の領域(スポットサイズ1mm2)を、CWモードで2倍周波数Nd:YAGレーザ(532nm)を用いて、露光した。書き込まれた複屈折は、ダイオードレーザ(605nm、5mW)を用いて読み出した。
【0136】
露光は、まず、50mWで20秒間(=1J)行い、次いで、2.5Wで400ミリ秒間行った(=1J)。いずれの場合も、屈折率の変化は約0.2であった。
【0137】
7.2 ホログラフィック露光
露光は、WO 99/57719 A1(10頁1行〜14頁16行)に記載された装置を用いて、Optilink Kft.により実施された。
使用した書き込みレーザは、532nmの波長を有する周波数2倍Nd:YAGレーザであった。
【0138】
書き込まれたホログラムのサイズは0.2mm(直径)であり、レーザ出力は300μWであり、露光時間は60秒で、約5キロバイトのデータが記憶された。
【0139】
書き込まれたホログラムは、10mW/cm2の強度でNd:YAGレーザを使用して、R/Wユニットにより、成功裏に読み出すことができた。カメラチップ上に再構成されたホログラフィックに記憶されたデータページのイメージを、図11に示す。
ホログラムは、眼には見えず、データは2ヶ月後でさえ読み出すことができた(書き込まれた複屈折は、時間の経過に対して安定である)。
【図面の簡単な説明】
【0140】
【図1】ホログラフィック記憶方法の該略図である。(a)情報がデータマスクの形で書き込まれる。これは、記憶されるデータページそのものではなく、ホログラフィックに暗号化されたデータページである。(b)ホログラムを読み出すために、ホログラムに、書き込み時の参照光と同じ性質を有する光を照射する。光は、ホログラムで回折され、情報光が再構成される。データページのイメージは、カメラチップに投影され、そこで、イメージは、更に電子的に加工される。
【図2】ホログラフデータ記憶におけるハードウエア暗号化の概略図である。参照光が正しいキーマスクにより変調された場合にのみ、先に書き込まれたデータマスクが再構成される。(a)暗号化ホログラフの書き込み;(b)暗号化ホログラムの読み出し。
【図3】偏光レーザ光に露光された場合、記憶材料中のポリマー分子が配向される。配向は、光が消された場合でも保持され、情報はこのようにして書き込むことができる。
【図4】透過形ホログラフィ及び対応する記憶媒体の為の対応する層構造を示す概略図である。
【図5】反射形ホログラフィ及び対応する記憶媒体の為の対応する層構造を示す概略図である。
【図6】厚さ400nmのフォトアドレス可能なポリマーの層の特性吸収スペクトルである。
【図7】アゾベンゼン官能化ポリマーの露光曲線である(実施例1参照)。赤色レーザを用いて633nmで測定した屈折率変化が縦座標にプロットされている。露光は、1000mW/cm2の強度で行った。PAPの層厚は0.58μmであった。
【図8】実施例5の特定のIDカードについてのマーケティングの観点から好ましい寸法を示す図である。ECカードでの磁気ストライプの通常の位置にPAPが適用されているクレジットカード形のプラスチックカード。
【図9】記憶カードの凹凸構造を示す図である。構造化されていないカード(a)は、曲げると、湾曲した表面を有するが(a)、構造化カード(b)の場合、構造化突起領域の面要素は平らなままである。この凹凸構造に配置されたホログラムは、湾曲したカードの場合でも、十分に読み出すことができる。
【図10】特別な凹凸構造を有する真空注型により製造したポリウレタンカードである。正方形突起は、3mm×3mm×0.5mmの寸法を有し、間隔は2mmであった。カードの合計高さ(厚さ)は1mmであった。
【図11】ホログラフ読み出しセットアップのカメラチップ上のイメージ(ホログラフィックに記憶され光学的に読み出されたデータページ)である。多数の白色要素(ピクセル)が、黒色背景上で認識できる。ピクセルは、マーキング点を有するデータコード及びエラー訂正符号を表す。
【図12】フォトアドレス可能なポリマー中のホログラムの視認性に対する光強度/露光時間の影響を示す図。ホログラムは、以下のパラメータを使用して書き込まれた:(a) 1 W/cm2 × 1000秒 = 1000 J/cm2。(b) 1 W/cm2 × 500秒 = 500 J/cm2、(c) 1 W/cm2 × 100秒 = 100 J/cm2。高エネルギー投入量(単位面積あたり)の場合、ホログラムは、明らかに目視できる((a)及び(b))。これらの場合、表面構造化の効果が、フォトアドレス可能なポリマーの所望の配向に加えて起こる。より小さいエネルギー投入量の場合(c)でのみ、ホログラムは、背景から区別できず、ヒトの眼に見えない。
【符号の説明】
【0141】
1 ホログラフィック記憶層
2 レーザ光源
3 ビームガイド
4 鏡
5 データマスク
5’再構成されたデータマスク
6 情報光
6’再構成された情報光
7 参照光
8 検出器(カメラ)
9 キー
10 保護層
11 反射層
12 基材
【技術分野】
【0001】
本発明は、5キロバイト/mm2を超える記憶容量を有し、フォトアドレス可能なポリマー(PAP)の記憶層を含んでなる記憶媒体に関する。情報は、改ざん、不正操作およびコピーに対して安全であり、従って、保護に値する情報の記憶に特に適している不可視ホログラムの形で記憶媒体に記憶することができる。
【0002】
本発明はさらに、本発明の記憶媒体に、ヒトの眼に見えないホログラムの形で情報を記憶する方法にも関する。
記憶媒体は、場合により、アナログ暗号化により、好ましくないアクセスから保護することができる。
【0003】
記憶媒体は、その特性に応じて、多用な用途、特にパス(通行)システム及びIDカードに、適している。そこで、本発明は、本発明の記憶媒体を、定期券、IDカード及び紙文書のような平坦な媒体に個人データを保持する及び/又は保護に値する情報を記憶するために、パスカード(定期券)及びIDカードに使用することにも関する。
【背景技術】
【0004】
人(個人)がその身元に関する情報を提供しなければならない状況およびデータの真正さを証明しなければならない状況は数多く存在する。身分証明書、定期券及びIDカードは、世界中で使用されている確立された手段である。機械によるデータ処理が増しているので、現在では、人は、個人の身分証明書に加えて、定期券、健康保険カード、クレジット又はECカードを携行しており、これらを用いることにより、個人の身元を証明し、ある種の秘密データを所有し、ある種の行為が保証され、又はある種のサービスを受ける権利を有する。
【0005】
上記の全てのパスシステムに共通しているのは、パスと所有者との間に唯一の一致が存在することである。その為に、所有者の個人データ及び/又は特性(例えば、パスポート写真、個人番号、年齢、身長など)が、パスの上又は中に記録される。
【0006】
個人の同一性は、このような特性に基づいて、決定(同一性証明)又はチェック(照合)される。
【0007】
自動化の増大に伴って、パスの機械読み取りが必要となる。また、パスの信頼性(真正性)のチェックも、最もうまくは自動的に行われる。更に、所有者の自動的認識も必要であろう。この目的のために、個人に疑いなく帰属することが確実である個人に特有の特性、いわゆる生体的特徴、例えば、指紋、虹彩パターン、掌形、顔画像又は声紋が使用される。生体的特徴は、参照データの形で集中的にデータベースに、又は(分散的に)パスに、記憶され得る。データ保護の法律に関係する理由により、分散記憶が通常好ましいので、パスは、適当な記憶媒体を有する必要がある。
【0008】
生体的特徴は、書誌的データよりも多くのメモリーを必要とする。機械可読パスポートについてのICAO(国際民間航空機関)の推奨が基礎として採用されるならば(ICAO TAG MRTD/NTWG Technical Report Version 2.0: Development and Specification of Globally Interoperable Biometric Standards for Machine Assisted Identity Confirmation using Machine Readable Travel Documents, http://www.icao.int/mrtd/biometrics/recommendation.cfm)、次のようなメモリー要求が生じる:顔認識の為のイメージに12K、指紋の為のイメージに10K、虹彩認識の為のイメージに30K。
【0009】
生体適合の信頼性、すなわち、個人の生体データとカード上の参照データとの比較の信頼性は、複数の参照データ記録を使用することにより、増すことができる。顔認識の場合、例えば、複数のイメージを記録し、記憶することができる。マッチングの際、実際の顔を、記憶されたデータ記録のイメージ全てと比較する。そうすると、いわゆる本人拒否率(FRR)は減少する。その為には、十分なメモリースペースが使用できなければならない。
【0010】
このことは、複数の生体認証を用いる場合にも当てはまる。例えば、多くの人では、指紋上の皮膚の線が非常に多いので、指紋に基づく真正確認は困難を伴う。この場合、真正確認の為の別の生体的特徴、例えば虹彩パターンを使用することが可能である。従って、自動化真正確認に使用されるIDカードの記憶容量は、少なくとも100キロバイト、最も好ましくはそれ以上でなければならない。
【0011】
ヘルスカード(健康手帳)は、特別なパスである。ヘルスカードは、重複した検査を避けるために、医師が患者の病歴を直ちに知ることができるように、理想的には、患者の病歴を記憶できるようにされる。そのような情報には、例えば、X線画像がある。X線画像のメモリー量は、メガバイトの範囲である。従って、ヘルスカードに必要なメモリー容量は、他の身分証明書の場合より大きい。全てのデータを分散的に記憶したヘルスカードは、患者自身がデータを所有し、その医療データの読み取りを誰に許可するかを患者自身が決定できるという点で、集中データ記憶よりも有利である。
【0012】
多くの分野で、プラスチックカードがIDカードとして確立されつつある。ISO/IEC 7810 標準で特徴付けられているID−1フォーマット(クレジットカードフォーマット)は、特に普及している。クレジットカードは、持ちやすいサイズで、財布に入れることができる。このフォーマットの為に設計されたカードリーダーが多数ある。パス及びIDカードに使用される記憶媒体は、ISO/IEC 7810に準拠したそのようなID−1フォーマットのプラスチックカードに一体化できなければならない。
【0013】
しかしながら、記憶媒体を他のフォーマットに装備することも可能でなければならない。ビザ資料は特別なフォーマットを備えている。そのような資料は、通例、紙形式で存在する。ビザ資料が登録を望んでいる人の生体的特徴を備えていることが望ましいであろう。この目的のために、紙形式のビザ資料に、少なくとも100キロバイトの記憶媒体を備えることができなければならない。
【0014】
メモリーに記憶された情報は、未許可のアクセスに対して保護されなければならない。生体的特徴又は医療情報は、悪用される可能性がある慎重に扱うべきデータである。好ましくないアクセスから保護する1つの可能な方法は、暗号化である。データがデジタル形式で存在する場合、デジタル的に暗号化できる。アクセスは、キーを知っている場合にのみ可能である。
【0015】
しかし、暗号化の可能性に加えて、並行した総当たり攻撃(brute force attack)を防止するために、コピー保護もなければならない。総当たり攻撃の場合、コンピュータを用いて全ての可能なキーを試すことにより、デジタル的に暗号化された情報を復号する攻撃がなされる。このような方法によるシステムのクラッキングに要する時間は、(可能なキーの数)×(1つのキーを試みる時間)により与えられる。コンピュータの演算操作は、非常に早く、性能はほぼ1年ごとに二倍になる(ムーアの法則)。
【0016】
デジタル情報は、ロスなく、また内容を知られることなく、必要な回数、コピーすることができる。従って、総当たり攻撃が並行して試みられる可能性がある。暗号化された情報は、複数のコンピュータ上で、複数回コピーされ、攻撃を受ける。これにより、成功する攻撃に要する時間を(特に、ネットワークコンピュータの時代では)、短縮することができる。コピー保護は、並行攻撃を抑制する。
【0017】
コピー保護に加えて、記憶データの不正操作及び/又は改ざんに対する保護も存在する必要がある。
【0018】
要するに、改ざんに対して安全であり、好ましくないアクセスから保護するような方法で、少なくとも100キロバイト、好ましくは数メガバイトの秘密データを記憶することを可能にする記憶技術に対する要求がある。許可されていないデータのコピーを防止すべきである。記憶媒体は、多用なフォーマット、特にプラスチックカード及び紙文書に適用できなければならない。
【0019】
多くの異なるメモリーカードが、IDカードとして、例えば高度エンボスカード、バーコードカード、磁気ストライプカード及びチップカードとして、一般に使用される。記憶媒体の選択は、用途により決定される。高度エンボスカード及びバーコードカード(単純又はマトリックスコード)は、低記憶容量(100〜数千文字)のデータ媒体であり、容易にコピーできる。
【0020】
チップカードでは、データは、デジタル的に記憶され、統合アクセスロジックにより好ましくない読み取り及び削除から保護される。統合マイクロコントローラは、暗号計算の実施を可能にする。記憶容量は、チップの最大サイズにより限定され、その製造には費用がかかる。このチップは、25mm2以下のサイズに限定された単結晶性半導体メモリであるが、これは、このサイズでないと、カードの折り曲げにより簡単に破壊され得るからである。16〜72キロバイトの記憶容量を有するチップカードが、通常使用される。
【0021】
光学的に読み取りできるメモリーカードは、最も大きい記憶容量を有する。US 2003136846 は、光記憶ディスク(CD、DVD)から派生した光メモリーカードを記載している。このカードは、アダプタを用いることにより、標準的なCD又はDVDプレーヤーで読み取ることができる。記憶容量は、100〜200メガバイトである。しかしながら、このカードは、好ましくない読み出し及び/又はコピーを防止する保護機構を有していない。カードを所有することになった者ならだれでも、DVDプレーヤー内のアダプタを用いて読み取ることができ、DVDバーナーを用いて複製することができる。
【0022】
US 4360728 は、別の形式の光記憶媒体を記載している。記憶層は、好ましくは記憶カードの長手方向軸に対して平行に配置されたストライプの形状を有する。データは、記憶ディスクの場合の螺旋形ではなく、ストライプに沿って直線的に、ストライプ中に配置される。WO 88/08120 (A2) は、記憶層に書き込み、かつ記憶層から読み出せる装置を記載している。
【0023】
この装置を所有する者はだれでも、データを読み出し及び/又はコピーできる。記憶容量は、2〜3メガバイトである。
【0024】
上記の両光記憶カードでは、データは、記憶層中に、いわゆるピットの形でデジタル的に存在する。これらピットは、基本的に、顕微鏡を用いて読み取ることができ、デジタルデータに変換することができる。データは、コンピュータに読み込まれると、コピーすることができる。さらに、コンピュータによる総当たり攻撃が可能となる。必要とされる有効なコピー保護がない。
【0025】
顕微鏡による可視デジタルデータの読み取りからの保護は、ホログラフィックデータ記憶により提供される。
【0026】
ホログラフィックデータ記憶では、2つのレーザビームが、記憶材料中で重ね合わせられる。ホログラフィックに記憶されるデータは、例えばデータマスクを用いて、1つの光(情報光)に重ね合わせられる。他の光(参照光)は、材料中で情報光に干渉させられる。干渉パターンが記憶材料に記憶される。読み出しの際、ホログラムに参照光が照射される。情報光が再現され、記憶された情報(対象)のイメージが、感光性センサ上に像を結ぶ(図1参照)。
【0027】
ホログラムの形での情報の記憶は、暗号化の方法である。ホログラフィックデータ記憶は、かなり前から知られていた。1949年に、ハンガリーの物理学者、Dennis Garbor が、ホログラフィを発見した。1960年のレーザの発明後、ホログラム、すなわち対象物の3次元イメージが、成功裏に作成された(http://www.holographie-online.de/wissen/einfuehrung/geschichte/ geschichte.html)。参照光と物体光とに分割されたレーザ光を使用するホログラムの製造方法は、以前から従来技術の一部となっている。ホログラムの形で情報を記憶する可能性及び利点も、急速に認識され、その当時から、しばしば文献に記載されてきた(http://www.enteleky.com/holography/litrew.htm)。
【0028】
また、ホログラフィック記憶技術は、更なる選択肢:アナログハードウエア暗号化を提供する。図1において、イメージ光は、ホログラムの書き込み時の参照光と同じ性質を有する光を読み取りに使用した場合にのみ、再生される。従って、アナログ暗号化の可能性がある。ホログラムの書き込み時に特徴的な方法で参照光が変調されるなら、この変調を、読み出し時にも使用しなければならない。そうでなければ、情報光を再生することができず、記憶された情報を読み出すことができない。すなわち、ホログラムに、アナログ暗号化を付与することができる(図2参照)。暗号化されたホログラムの形で識別情報が記された身分証明カードは、例えば、US 3894756 に記載されている。データは、「ハードウエア暗号化」され、従って、正しいハードウエアを用いてのみ、再度読み出すことができる。
【0029】
ホログラムを製造するための種々の方法、例えば、振幅ホログラム又は位相ホログラムがある。振幅ホログラムの場合、干渉パターンは、記憶媒体中に黒化パターンとして記録される。再現の際、参照波は、局所黒化に比例的に吸収される(振幅の減少)。典型的な位相ホログラムの場合、干渉パターンは、記憶材料中に、屈折率パターンとして記録される。再現の際、参照波は、局所屈折率に比例した位相シフトを受ける。他の形式の位相ホログラムは、参照波に位相差を生じさせるために、層厚の変化又は表面レリーフ(起伏)を使用する。
【0030】
上記のホログラム全てに共通することは、回折構造がヒトの眼に見えることである。原理上、この構造は、顕微鏡を用いて読み取ることができ、コンピュータを用いてホログラムからホログラフィックにコード化された情報を逆算する試みがなされ得る。従って、ホログラフィック構造はヒトの眼に見えないことが有利である。
【0031】
更に、上記の位相ホログラム及び振幅ホログラムはコピーできる。既知の方法は、いわゆる「密着焼付け」(contact printing)である(例えば、P. Hariharan: Basics of Holography, University Press Cambridge (2002) 参照)。
【0032】
位相ホログラム及び振幅ホログラムに加えて、いわゆる偏光ホログラムもある。これは、特別な記憶媒体でのみ実現することができる。光波の偏光状態を記憶できる媒体が、記録材料として適している。その例は、アゾベンゼン含有側鎖を有するポリマー、いわゆるフォトアドレス可能なポリマー(PAP)である。偏光を照射すると、側鎖が、偏光方向に対して垂直に配向を起こす(フォト配向、図3参照)。この効果を、データ記憶に利用することができる(R. Hagen, T. Bieringer: Photoaddressable Polymers for Optical Data Storage. In: Advanced Materials, WILEY-VCH Verlag GmbH (2001), No. 13/23, 1805 - 1810頁参照)。
【0033】
フォトアドレス可能なポリマーに偏光ホログラムを書き込むには、円偏光レーザビームを、情報光及び参照光として使用することができる。記憶媒体で部分光を重ね合わせると、ポリマー中の光活性基の配向を決定する直線偏光が、反対方向に円偏光された2つの光から生じる。この形の偏光ホログラフィは、WO 99/57719 A1 に記載されている。この国際公開では、フーリエ偏光ホログラムを記憶する方法及び装置が特許請求されている。
【0034】
いわゆるフォトアドレス可能なポリマーに基づく偏光ホログラムは、従来技術の一部である。
【0035】
従来技術には、表面構造の照射時にアゾベンゼン含有ポリマーが形成することも記載されている(A. Natansohn, P. Rochon; Photoinduced Motions in Azo-Containing Polymers; Chem. Rev. 2002, 102, 4139-4175)。物質のガラス転移温度よりかなり低い温度での光誘起過程の結果として、分子又は分子群がポリマーフィルム内を移送され、所定の位置に堆積する。生成した表面構造は、顕微鏡下で可視である。従って、従来技術によるアゾベンゼン官能化側鎖ポリマーに基づくフォトアドレス可能なポリマー中のホログラフィック構造は、可視であり、コピーすることができる。
【0036】
光による照射が強くなるほど、表面構造がより鮮明に現れる。しかしながら、低い光強度でホログラフィック構造を書き込むことは、この問題の解決策ではない。何故なら、そうすると、ホログラフィック構造が経時的に安定でなくなるからである。このことは、例えば、DE 4431823の実施例1(第6〜7頁)に記載されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0037】
従来技術から出発して、本発明の目的は、ホログラフィック記憶技術と組み合わせて、少なくとも100キロバイト、好ましくは数メガバイトの秘密データ、例えば、生体的特徴を、偽造防止できる方法で、好ましくないアクセスから保護して記憶することを可能にするホログラフィック記憶媒体を開発することである。データのコピーの未許可の作成を防止しなければならない。記憶媒体は、ホログラフィックに書き込み及び読み出しでき、かつ、多様な基材、特にプラスチックカード及び紙文書に種々のサイズで適用することができる記憶層を有していなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0038】
驚くべきことに、上記目的は、フォトアドレス可能なポリマーの少なくとも1つの記憶層からなる光記憶媒体、及び本発明の記憶媒体に不可視偏光ホログラムを記憶できる記憶方法により、達成できることが見出された。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
基本的に、方向を持った複屈折を書き込むことができるポリマー全てが、記憶層として適している(Polymers As Electroopotical and Photooptical Active Media, V.P. Shibaev (editor), Springer Verlag, New York 1995; Natansohn et al., Chem. Mater. 1993, 403-411)。書き込まれた複屈折パターンは、偏光により可視化することができる。
【0040】
好ましい軸も偏光の方向の回転とともに動く局在化複屈折を、標的とされた露光により、書き込むことができる。このようなフォトアドレス可能なポリマーの例は、アゾベンゼン官能化側鎖を有するポリマーであり、そのようなポリマーは、例えば、US-A 5 173 381 に記載されている。偏光により露光すると、アゾベンゼン官能化ポリマー中の光活性アゾベンゼン基が、偏光方向に対して垂直に整列する(光配向。図3参照)。
【0041】
本発明において使用できるフォトアドレス可能なポリマーの更なる例は、下記の文献に記載されている:
EP0622789B1 (3-5頁)、DE4434966 A1 (2-5頁)、DE19631864 A1 (2-16頁)、DE19620588 A1 (3-4頁)、DE19720288 A1 (2-8頁)、DE4208328 A1 (3頁3-4行、9-11行、34-40行、56-60行)、DE10027153 A1 (2-8頁61行)、DE10027152 A1 (2-8頁)、WO 196038410 A1、US5496670 (1欄42-67行、6欄22行〜12欄20行)、US5543267 (2欄48行〜5欄3行)、EP0622789 B1 (3頁17行〜5頁31行)、WO9202930 A1 (6頁26-35行、7頁25行〜14頁20行)、WO1992002930 A1。
【0042】
320〜700nmの範囲の波長、特に400〜550nmの範囲の波長を有する偏光への露光により複屈折を誘起できるポリマーが、好ましく使用される。
【0043】
フォトアドレス可能なポリマーの層の記憶容量は、書き込みに使用される光の波長Lにより制限される。
【0044】
理論的記憶密度は、1/L2である。従って、青色光源(400nm)を使用すると、記憶容量は6.25メガビット/mm2であり、緑色光源(530nm)の場合は、3.55メガビット/mm2である。すなわち、少なくとも100キロバイトから数メガバイトの記憶容量を有する記憶媒体を製造することができる。
【0045】
基本的に、記憶層は薄膜として形成されるので、記憶媒体の全表面を記憶層として使用することができる。標準的なクレジットカードのサイズを有するカードを用いる場合、15.5ギガビットの記憶容量を実現することは、理論的に可能である。
【0046】
記憶層及び場合により記憶媒体は、単一のホログラムのサイズまで小さくすることができる。書き込まれるホログラムのサイズは、少なくとも0.01mm2、好ましくは0.05〜5mm2、特に好ましくは0.07〜1.5mm2である。
【0047】
約0.03mm2のサイズを有する記憶媒体が、約5キロバイトのデータを記憶するのに適している。そのような記憶媒体は、例えば、宝石類、錠剤、他の高価な物品、又は別の理由で改ざんから保護しなければならない対象物に応用することができる。
【0048】
情報は、記憶媒体に、偏光ホログラムの形で記憶される。本発明の記憶媒体及び記憶方法により、情報がヒトの眼には不可視になり、従って、改ざん、コピー、不正操作及び好ましくない読み出しから保護されることが保証される。記憶媒体の外側からは、情報が記憶されているか否か、またどこに記憶されているかは、見ることができない。本発明の偏光ホログラムでは、書き込まれたホログラムを「密着焼付け」(P. Hariharan: Basics of Holography, University Press Cambridge, 2002)により、コピーすることも不可能である。
【0049】
記憶媒体は、少なくとも3つの層:基材、フォトアドレス可能なポリマーの層、及び1つ又はそれ以上の保護層、からなる。
【0050】
記憶された情報を読み出す場合のレーザビーム源及び検出器の配列に応じて、2つの基本的層構造は区別することができる。
【0051】
透過形ホログラフィ(図4)では、レーザビーム源及び検出器は、記憶媒体の異なる側に配置され、レーザビーム/参照光は記憶媒体を透過しなければならない。記憶層は、2つの単層又は多層保護層の間に挿入され、保護層の1つは基材として機能する。ここで、保護層は、記憶媒体の必要な安定性を確保し、記憶ポリマーを機械的負荷(例えば、擦り傷)から保護する。このような保護層は、読み出し用の光及び(少なくともレーザに面している層では)書き込み用の光に対して、透明でなければならない。
【0052】
反射形ホログラフィ(図5)では、記憶された情報は、反射により記憶媒体から読み出される。換言すれば、レーザビーム源及び検出器は、記憶媒体の同じ側に配置される。記憶媒体は、少なくとも4つの層からなる。透過形ホログラフィの場合に記載した層に加えて、反射層も存在する。反射層は、基材と記憶層との間に挿入される。あるいは、反射層は、記憶層とは反対となる基材の側に適用することもできる。この場合、基材は、読み出し用の光に対して透明でなければならない。
【0053】
反射形ホログラフィでは、基材は、読み出し用及び書き込み用の光に対して不透明であってよく、レーザに面する保護層は、読み出し用及び書き込み用の光に対して透明でなければならない。
【0054】
透過形ホログラフィ及び反射形ホログラフィにおいて、読み出し中にレーザビーム源が透過する保護層は、低い散乱能及び低い複屈折を有さなければならない。
【0055】
ホログラムは、好ましくは反射で読み出される。
【0056】
反射層及び記憶ポリマーが適用される基材は、反射層が平らに適用できる平らな表面を有する任意の材料から作成される。平らな表面とは、ほとんど粗さがない表面を意味すると理解される。粗い表面は、レーザビームの散乱を引き起こし、散乱は、記憶された情報を読み出す際に問題を生じることがある。表面粗さは、触針法(測定器機:KLA Tencor Alpha Step 500;測定方法:MM-40001)により、決定することができる。表面粗さは、好ましくは、Ra=100nm未満である。
【0057】
使用できる材料は、ガラス、金属又はポリマーである。
【0058】
基材に適する材料は、とりわけ、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)、ポリカーボネート(PC)、PC−ABSブレンド、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエステル(PE)、ポリプロピレン(PP)、セルロース、ポリイミド(PI)及びポリアミド(PA)である。ABS、PVC、PE、PET、PC、PA又はこれらのブレンドが、特に好ましい。
【0059】
加工によりフィルムにできるポリマーが特に好ましい(J. Nentwig, Kunststoff-Folien, 第2版, Hanser-Verlag, 2000, 29-31頁、39頁、43-63頁).
【0060】
反射層は、読み出し用波長の参照光を反射する波長選択的鏡を形成する。
【0061】
好ましくは、反射層は、金属又は合金、特に好ましくはアルミニウム、金、銅、ビスマス、銀、チタン、クロム又はこれら金属の1種を主成分として含む合金からなる。
【0062】
可視光(VIS)及び近赤外線(NIR)スペクトル範囲での平均反射率は、少なくとも50%、好ましくは少なくとも80%、特に好ましくは少なくとも90%である。
【0063】
長期間(少なくとも3年間)にわたって高い反射率を維持する材料が好ましく使用される。
【0064】
反射層は、蒸着、CVD(化学気相蒸着)、PVD(物理的気相蒸着)、スパッタリング、メッキ又は他の方法により、基材に適用される。反射層は、好ましくは、スパッタリング又は蒸着により、適用される。
【0065】
反射層の厚さは、少なくとも50nmでなくてはならず、好ましくは80nmと1μmとの間である。
【0066】
市販の金属蒸着熱可塑性フィルムも、基材と反射層との組み合わせとして使用してよい。
【0067】
反射層は、層構造中で標的とする多重反射により選択された反射性(反射率)が達成される。
【0068】
特に良好な光学的性質を得るために、蒸着又はスパッタリングにより材料を基材に複数回適用することや、ピンホールの数を最少にするために金属化工程の間で基材を清浄化することができる。
【0069】
フォトアドレス可能なポリマーの記憶層は、既知の方法、例えば、スピンコーティング、噴霧、ドクターブレードによる塗布、浸漬塗布、スクリーン印刷、浸漬、流延などにより、溶液から適用することができる。形成されるフィルムの層厚は、通例10nm〜50μm、好ましくは30nm〜5μm、特に好ましくは200nm〜2μmの間である。
【0070】
1つ又はそれ以上の保護層を、記憶層に適用する。保護層は、記憶層を、引っ掻き又は他の環境の影響、例えば湿気から保護することを意図している。
【0071】
好ましくは、いわゆる保護被膜が、光データ記憶材料の保護層として使用される。保護被膜は、次の目的で使用することができる:紫外線保護及び風化からの保護、耐引っ掻き、機械的保護、機械的安定性及び熱的安定性。
【0072】
保護層は、好ましくは放射線硬化被膜、より好ましくは紫外線硬化被膜である。紫外線硬化被膜は、既知であり、文献、例えばP.K.T. Oldring (編), Chemistry & Technology of UV & EB Formulations for Coatings, Inks & Paints, 第2巻, 1991, SITA Technology, London, 31 - 235頁に記載されている。
【0073】
このような材料は、純物質として又は混合物として入手できる。この材料は、エポキシドアクリレート、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート, アクリレート化ポリアクリレート、アクリレート化油、シリコンアクリレート、アミン変性及び未アミン変性ポリエーテルアクリレートに基づいている。アクリレートに加えて又は代えて、メタクレイレートを使用することもできる。ビニル、ビニルエーテル、プロペニル、アリル、マレイル、フマリル、マレイミド、ジシクロペンタジエニル及び/又はアクリルアミド基を重合性成分として含むポリマー生成物も、使用し得る。アクリレート及びメタクリレートが好ましい。市販の光開始剤、例えば芳香族ケトン又はベンゾイン誘導体は、0.1〜約10質量%の量で用いることができる。
【0074】
更なる態様では、保護層は、そのような被膜により被覆されたプラスチックフィルムからなる。プラスチックフィルムは、流延、ドクターナイフを用いた塗布、スピンコーティング、スクリーン印刷、噴霧又は積層により、適用される。被膜は、この工程の前又は後に、プラスチックフィルムに適用することができる。
【0075】
保護層は、以下の性質を有する必要がある:750〜300nm、好ましくは650〜300nmの波長範囲での高い透明性、複屈折、非散乱性、無定形、好ましくは鉛筆硬度試験又はカード製造業者により採用される他の磨耗試験により測定した耐引っ掻き性、好ましくは約100mPa・s〜約100000mPa・sの粘度。
【0076】
光の照射時にごく僅かに収縮し、低い二重結合官能性及び比較的高い分子量を有する樹脂/被膜が、特に好ましい。
【0077】
従って、保護層の特に好ましい材料特性は、3モル/kg未満の二重結合密度、3未満、特に好ましくは2.5未満の官能価、1000g/モルを超える、特に好ましくは3000g/モルを超える分子量Mnである。
【0078】
液体の適用は、流延、ドクターナイフを用いた塗布又はスピンコーティングにより行われる。
【0079】
続いての硬化は、光の均一な照射、好ましくはUV光の照射により行われる。
【0080】
太陽光は広い波長スペクトルを含んでおり、太陽光に再度曝されると、書き込まれた情報はゆっくり削除されることになる。これを防止するために、記憶情報の書き込み又は読み出しのいずれにも使用されない波長をブロックする吸収剤、例えば、重合性メロシアニン染料(WO 2004/086390 A1、DE 10313173 A1)又はナノ粒子を、保護層に配合することができる。
【0081】
記憶層は、光データ記憶に使用することができる。データは、デジタルフォーム(例えば、ビットシークエンスとして)又はアナログフォーム(例えば、イメージとして)、記憶される。データは、CD又はDVDの場合、記憶ポリマーに導入することができる。しかしながら、好ましくは、データは、ホログラフィックに記憶される。特に好ましくは、データページが、ホログラフィックに記憶される。情報は、グレーステップを含んでいてよい。データは、好ましくは、2値パターン(黒/白パターン)からなる。何故なら、カメラチップにホログラフィックに記憶されたデータページを読み出すことにより再構成する場合、これにより、電子信号に変換でき、明及び暗領域からなる容易に検出できるパターンが与えられるからである。例えば、バーコード又はマトリックスコード又はこれらを変形したコードは、ホログラフィックに記憶される。既知の2値コードの概説は、例えば、次の本:Roger C. Palmer著 The Bar Code Book(出版社Helmers Pub)第4版(2001年1月)に記載されている。
【0082】
コードは、好ましくは、不正確に再生されたビットの場合にエラーを含まずに再生されたデータページを読み出すことができるように、例えばリード・ソロモンのようなエラー訂正符号を含む。
【0083】
ホログラムは、好ましくは、参照光と物体光とを記憶材料中で重ね合わせることにより生成される。物体光は、記憶すべき情報を、好ましくは空間振幅変調の形で、含む。これは、静的ホトマスク又はプログラム可能空間光変調器(SLM)により、物体光と重ね合わせられる。好ましくはプログラム可能SLMが使用される。これは、液晶マイクロディスプレー(LC)、例えばLC 2002(Holoeye製)、LCoSシステム(液晶オーバーシリコン)、例えばLC-R 2500(Holoeye製)、又は微小機械反射鏡アレー、例えばDMD(Texas Instruments製)であり得る。
【0084】
物体光は、記憶材料中で参照光と重ね合わすことにより、ホログラフィックに記憶される。好ましくは、物体光のフーリエ変換が、ホログラフィックに記憶される。何故なら、生成されたフーリエホログラムは、レーザビームの配置の許容範囲が高いので、より簡単な読み取り性をもたらす変換分散を有するからである。
【0085】
フーリエ変換は、好ましくは、フーリエレンズを用いて物理的に行われる。
【0086】
物体光及び参照光は、好ましくは、異なる方向に円偏光し、記憶媒体において重ね合わせるとフォトアドレス可能なポリマーの局所配向を決定する直線偏光を生じる光線である。
【0087】
参照光には、所望により、変調も加えられる。この変調は、暗号キーとして機能する。何故なら、ホログラムの読み出しは、「正確に変調された」参照光を用いた場合にのみ可能となるからである。キーは、好ましくは振幅変調又は位相変調により重ね合わせられる。これは、セキュリティの向上を意味する。ホログラムが物体光に暴露されるなら、参照光が再構成される。このことは、記憶されたデータの一部を知ることにより、対応する振幅変調の形のこの部分でホログラムを照射することによりキーの一部を再構成できることを意味する。もしキーが振幅変調からなるならば、光能動センサ上の相は登録できないが、振幅の2乗に比例する光線の強度のみが登録できるので、直接可視化できない。
【0088】
位相変調は、適当な空間光変調器を用いて行うことができる。また、参照光の光路に静的位相マスクを配置することによっても可能である。この静的位相マスクは、例えば、構造がエッチングされた小さいガラス板であってよい。位相変調に影響を与える局所的な光路差が、構造を有する小さいガラス板を通過した光に重ね合わせられる。
【0089】
位相変調は、好ましくは、プログラム可能空間光変調器(SLM)を用いて行われる。このようなSLMは、例えば、液晶マイクロディスプレー(LC)、例えばLC 2002(Holoeye製)、LCoSシステム(液晶オーバーシリコン)、例えばLC-R 2500(Holoeye製)、又は例えばFraunhofer-Institut fuer Photonische Mikrosystemeで開発されたような微小機械反射鏡アレーであり得る。
【0090】
書き込み(露光)は、配向した複屈折を材料中に誘起できる波長で行われる。発色団としてアゾベンゼン側鎖を有するフォトアドレス可能なポリマーの場合、露光は、アゾベンゼン官能基中のπ-π*電子遷移に起因する吸収帯の領域で起こる。この場合、吸収帯の極大におけるよりも、システムの光学密度がより小さく、従って露光時間がより短い(図6参照)ので、好ましくは、書き込みは、吸収帯の側面へ行われる。特に好ましくは、書き込みは、光学密度が0.5〜1の間で行われる。
【0091】
書き込み及び読み出し波長の選択は、もちろん、適当なレーザ光源の利用可能性に依存する。特に好ましくは、波長532nmのレーザ(2倍波Nd:YAGレーザ)、又は波長405nmのレーザ(青色レーザダイオード)が、市販されているので、書き込みに使用される。
【0092】
意外なことに、ヒトの眼に見えないホログラムを、露光によりアゾベンゼン官能化側鎖ポリマーの相に組み込むことができることが見出された。エネルギー投入量、すなわち、単位面積あたりに規定の時間で材料に投入されたエネルギーの量が、決定的な役割を果たす。
【0093】
意外なことに、書き込み光と露光時間の積を、アゾベンゼン官能化側鎖ポリマーを含む層について、強度と時間の積(=エネルギー投入量)がある範囲にあるならば、広い範囲で変化させ得ることが見出された。
【0094】
記憶媒体に不可視ホログラムを導入するために必要なエネルギー投入量は、実験的に決定できる2つの限界値の間にある。
【0095】
下限は、通常の周囲条件(これについては、例えば、光学ディスクメモリーについてのISO/IEC 標準 9171-1 を参照)では熱的に削除できない安定な複屈折であって、露光曲線の飽和(図7)により特徴付けられる複屈折を形成できる量である。図7は、アゾベンゼン官能化ポリマーの露光曲線を示す。1000mW/cm2の選択された露光強度は、安定な構造をポリマーに書き込むのに適している。安定な複屈折を形成するための下限は、この例では、60秒である。より短い時間及び/又はより小さい露光強度では、時間の関数として不安定となる、すなわち配向されたポリマー分子が時間経過とともに緩和する書き込み構造が生じる。材料の露光曲線は、例えば、下記の文献に記載された装置を用いて記録することができる:R. Hagen, T. Bieringer; Photoaddressable Polymers for Optical Data Storage; Advanced Materials; WILEY-VCH Verlag GmbH (2001); No. 13/23; 1807頁、Fig. 2。
【0096】
エネルギー投入量の上限は、ヒトの眼に見える表面構造の発生により識別される(図12参照)。表面構造は、ポリマー分子が光の焦点に移行する過剰に高い強度及び/又は過剰に長い露光時間の場合に、観察される。この効果は、文献、例えばA. Natansohn, P. Rochon; Chem. Rev. 2002, 102, 4139-4175 に記載されている。
【0097】
フォトアドレス可能なポリマーの層にSiO2薄層を適用することにより、ポリマーをある程度固定することができ、その結果、表面構造化が減少する(実施例5.1参照)。SiO2に代えて、書き込み光及び読み出し光に対して透明であり、低い複屈折を有し、フォトアドレス可能なポリマーの層よりも硬い他の層、例えば、Al2O3、TiO2、SiCなども使用できる。
【0098】
露光によるアゾベンゼン官能化ポリマーへの書き込みは、熱処理により補助することができる。DE 4431823 A1 によれば、ガラス転移温度及び透明点の間の温度に記憶材料を加熱すると、変調が起こる。
【0099】
読み出し及び書き込みは、書き込まれたデータが読み出し中に削除されるのを防止するために、好ましくは異なる波長で行われる。
【0100】
読み出しは、好ましくは長波赤色光、特に600〜690nmの範囲の波長を有する光を用いて行われる。読み出し光の強度は、入射広帯域照射の場合、典型的には10mW/cm2未満であり、入射狭帯域照射の場合、典型的には10mW/cm2未満、好ましくは1mW/cm2未満である。
【0101】
記憶媒体は、所望の生体的特徴と組み合わせて個人を特定するために、パス及びIDカードで使用することができる。記憶媒体は、好ましくない読み出しから医療情報を保護するために、ヘルスカード(健康手帳)に使用することができる。
【0102】
従って、本発明の特徴的な用途は、身分証明用記憶媒体、好ましくはIDカードである。IDカードの形状、全体の厚さ及び寸法は任意である。読み出しには、少なくともホログラムが記録されている領域で(実施例6、図9及び図10)、滑らかで平らな表面が必要なだけである(実施例5)。
【0103】
マーケティングの観点から、このようなIDカードの態様に好ましい寸法は、ISO/IEC 7810(2003年11月01日付け第3版、図8参照)に類似する。図8の黄色のストライプは、記憶層である。必要なら、記憶層はカード全体に広がっていてよい。しかしながら、例えば単一のホログラムを記憶する場合、カードの一部分にのみ記憶層を供給することもできる。
【0104】
カードの特定の態様では、偏光ホログラムは見えないので、ホログラムを見つけやすくするためのマークを基材に付ける。
【0105】
本体が曲げられても平らなままである領域が存在する、すなわち、曲げはホログラムの書き込まれていない要素に限定されるような構造が選択される。例えば、単一ホログラムの場合、ホログラムの周囲の支持体にノッチを形成することができる。支持体を曲げると、ノッチのサイズは増すが、ホログラムの領域は実質的に平らなままである。しかし、カードの構造は特に好ましい。
【0106】
本発明の更なる特定の態様では、カードは、凹凸構造を有するように構成される。記憶されたホログラムの正しい読み出しには、滑らかで平らな表面が必要であるので、カードが曲げの結果湾曲すると、再生されたイメージは、感光性センサ(カメラチップ)上に正しく焦点を結ばないことになる。これを防止するために、カードは、例えば図9に示すように、凹凸(結節)構造を有するように構成される。この構造では、カードが曲げられても、突出した領域は平らなままであるからである(実施例6、図10も参照)。1つ又はそれ以上のホログラムを、突出した領域に記憶することができる。
【0107】
凹凸構造は、種々の方法により、例えば、フライス加工、切削、リソグラフィー、レーザ燒結、成型、注型法(例えば、射出成形又は真空注型)、又はポリマー又は金属体にパターンを形成できる他の方法により、形成することができる。
【0108】
凹凸構造は、好ましくは直径0.1〜5mmの寸法で、間隔は0.1〜2mmである、好ましくは四角形、六角形又は円形の突起の形状を有する。特に好ましくは、少なくとも単一ホログラムの寸法である凹凸構造が、支持体に形成される。
【0109】
特定の態様では、PAP記憶層に加えて、更なる記憶媒体がカードに一体化される。特別な態様においては、IDカードには、例えばRFID(無線ICタグ)チップが装着される。純PAD−IDカードの場合、真正確認は、カードを読み取り器に挿入することにより開始される。カードの挿入、データの読み出し及びカードの排出には、ある時間が必要である。RFIDカードは、無線により「通過中」に読み出される。真正確認がより早く行われる。建物に種々のセキュリティ部門が配備されているなら、低度に保護すればよい部門には「RFID真正確認」を提供し、一方、高度のセキュリティを必要とする部門は、記憶された生体的特徴を持つPAP−IDカードによってのみ接近できるようにする。この場合、PAP層及びRFIDチップを有するカードは、両方の機能を実行する。
【0110】
本発明の別の特別な態様では、IDカードには、更に、デジタル署名を発生できるマイクロプロセッサチップが供給される。これは、例えば診察券の場合に行われる。デジタル署名により、使用者は、その人がカードの所有者であることを明らかにでき、医療情報に関係する大量のデータは、ホログラフィックにカードに記憶され、好ましくないアクセスから保護される。
【0111】
記憶媒体は、好ましくは、定期券及び同一性確認の為のプラスチックカード、例えばIDカードに使用される。本発明の記憶媒体は、慎重に扱うべきデータ、秘密データ及び/又は保護に値するデータに特に適している。好ましくは、個人を識別する生体的特徴が、穂フォグラフィックに記憶され、アクセス制御用記憶媒体及び特に安全を要するヘルスカードとして使用される。ビザ又は保護に値する情報を含む他の紙書類での記憶媒体の使用も意図される。
【実施例】
【0112】
実施例1(ポリマーの合成)
フォトアドレス可能なポリマー:
【化1】
【0113】
合成方法は、WO9851721(24頁10〜15行及び26頁20行〜27頁5行)に記載されている。
【0114】
実施例2(ポリマー溶液の調製)
上記ポリマーB1(15.0g)を、70℃でシクロペンタノン(100ml)に溶解した。溶液を室温まで冷却し、0.45μmのテフロンフィルタで、次いで0.2μmのテフロンフィルタで濾過した。溶液は室温で安定であり、ポリマーB1を種々の表面、例えば、ポリマー表面及び金属蒸着ポリマー表面に適用するのに使用した。
【0115】
実施例3(フォトアドレス可能なポリマーによるガラス表面及びプラスチック表面の被覆)
3.1 ガラス基材の被覆
厚さ1mmのガラス基材の被覆を、スピンコーティングにより行った。Karl Susss CT 60スピンコータを使用した。正方形ガラス基材(26×26mm2)を装置の回転プラットホームに固定し、実施例2の溶液で覆い、所定時間、回転させた。装置の回転プログラム(回転の加速度、速度及び時間)に依存して、厚さ0.2〜2.0μmの、透明かつ無定形の光学品質被膜が得られた。塗布されたガラス基材を、真空キャビネットに室温で24時間保存して、被膜から残留溶媒を除去した。
【0116】
3.2 PETフィルムの被覆
手動ドクターブレードを用いて、実施例2の溶液を、厚さ5μmのPETフィルム(Dupont製 MelinexTM)に塗布した。
【0117】
塗布したフィルムを真空キャビネット中で24時間乾燥した後、厚さ約5μmのポリマー層が得られた。
【0118】
層の厚さは、溶液を希釈することにより薄くすることができる。
【0119】
3.3 ポリカーボネートフィルムの被覆
実施例2のポリマー溶液に使用した溶媒(シクロペンタノン)はポリカーボネートを攻撃するので、ポリカーボネートフィルム(PCフィルム、例えばBayer Material Science製 MakrofolTM)に直接塗布することはできない。
【0120】
この理由から、厚さ175μmのMakrofolTM PCフィルムに、まず、厚さ1μmのParylene層(ポリ-p-シクロファン)を被覆した(PPCS)。この層は、ポリマー溶液の塗布時に、シクロペンタノンが透過できないバリア層として機能する。
【0121】
ポリマー溶液は、3×3mm2のParylene被覆フィルム領域に、実施例3.2に記載したように、スピンコーティングにより塗布した。
【0122】
実施例4(金属蒸着ポリマーフィルムの被覆)
4.1 PCフィルム及びPETフィルムの金属蒸着
PCフィルム(Bayer製 MakrofolTM)及び異なる厚さを有するPETフィルム(Dupont製 MelinexTM、Dupont製 MylarTM、東レ製 LumirrorTM)を被覆した。反射層として銀を使用し、マグネトロンスパッタリングにより適用した。被覆中のアルゴン圧は5×10−3mbarであった。スパッタリングは、1.3W/cm2の出力密度で行った。層厚は、機械式表面形状測定装置(Tencor製 Alpha-step 500)を用いて測定した。厚さは、100〜400nmの間に設定した。
【0123】
4.2 実施例4.1からの金属被覆上へのフォトアドレス可能なポリマーの直接塗布
実施例1のフォトアドレス可能なポリマーを、実施例3.1と同様にしてスピンコーティングにより、又は実施例3.2と同様にしてドクターブレードにより、実施例2の溶液から、実施例4.1の金属蒸着PETフィルムの1つに直接塗布した。スピンコーティングにより、装置の回転プログラム(回転の加速度、速度及び時間)に依存して、0.2〜2.0μmの厚さを有する、透明かつ無定形の光学品質塗膜が得られた。
【0124】
厚さが50〜300nmであるポリカーボネートフィルムの金属膜は、光学的記憶又はホログラフ記憶に十分な反射特性を有しているが、溶媒に対する適切なバリア機能を有していない。例えばシクロペンタノンは、金属膜の微小欠陥(ピンホール)からポリカーボネートを攻撃し、これにより、記憶層の光学的特性が著しく劣化する。
【0125】
この場合、金属層の厚さを300nm以上の増す必要がある。そのような層厚は、適切なバリア性を有する。ポリマーによる被覆は、PETフィルムについて先に記載したのと同様の方法で、直接金属層に対して行われる。
【0126】
あるいは、Paryleneバリア層を、金属層とPCフィルムとの間に適用した。PCのParylene被覆は、実施例3.3に記載されている。金属は、実施例4.1と同様にスパッタリングによりParylene層に直接適用された。ポリマーによる被覆は、PETフィルムについて先に記載したのと同様の方法で、直接金属層に対して行われる。
【0127】
実施例5(記憶媒体の製造)
フォトアドレス可能なポリマーにより被覆された実施例4に従ったプラスチックフィルムを、PAP側に被覆し、場合により更にプラスチックフィルム側に被覆し、又はフィルムで覆った。これらの被覆/フィルムは、機械的負荷容量を改善し、情報層を機械的影響又は他の影響(熱、光、湿気)から保護する。層は、コーティング、ラッカー塗布又は積層により適用することができる。
【0128】
5.1 シリカによるフォトアドレス可能なポリマー層のカバー
外側保護層として、シリカ被膜を適用した。実施例4.2のフィルムのPAP層上に、約200nmの粒径を有するSiO2粒子を、電子線蒸発器により、透明保護層として堆積させた。電子線の出力は1.5kWであり、方法は、5×10−7mbarの高真空で実施した。
【0129】
5.2 紫外線硬化性ラッカーの適用
実施例5.1のシリカ被覆に、更に紫外線硬化性ラッカーを適用した。ラッカー層は、実施例4.2と同様のスピンコーティングにより、DVD接着剤(DIC Europe GmbH製性 DAICURE CLEAR SD-645)の形で適用し、紫外線照射(90ワット、312nm)により硬化した。スピンコータの回転プログラム(回転の加速度、速度及び時間)を適切に調節することにより、厚さ50ミクロンの、透明かつ無定形の光学品質被膜が得られた。被膜は、スピンコーティングの回転プログラムに依存して、1〜100μmの厚さに調節することができた。
【0130】
5.3 ポリカーボネートフィルムによるPAP層の保護
実施例4.2に従って製造したフィルム層に、構造化した又は滑らかなポリカーボネートフィルムを、水圧ホットプレス(Buerkle type LA 62)により、積層した。PAP層がポリカーボネートフィルムにより被覆された。積層は、2つの研磨ステンレス鋼プレート(反射シート金属)及び均圧化層(プレスクッション)の間で行った。積層パラメータ(温度、時間、圧力)は、PAP被覆が視認できる損傷を受けないように調節した。
【0131】
5.4 更なる支持体への記憶媒体の適用
実施例4.2、5.1、5.2及び5.3に記載した層構造を、更なる支持体に適用した。層構造を、接着結合によりPVCフィルムに適用した。機械的負荷に耐えられるデータ媒体が得られた。
【0132】
実施例6(構造化カードの製造)
幅3mmの正方形突起(間隔2mm、高さ0.5mm)を有するカードの製造を、Formpool社に委託した(図10参照)。カードの厚さは、全体で1mmであった。カードは、高速プロトタイプ法(真空注型)により、ポリウレタンから製造した。カードに、実施例4と同様にして銀層及びフォトアドレス可能なポリマーを供給し、実施例5と同様にして保護層を供給し、実施例7と同様にしてホログラムを書き込んだ。ホログラムは、突起部(凸部)に配置した。
【0133】
実施例7(露光)
厚さ750μmのポリカーボネートフィルム(MakrolonTM DE 1-1)を記憶カードとして使用し、実施例4.1、4.2及び5.1と同様にして、下記の層を供給した:厚さ1μmのParylene層、厚さ0.1μmの銀層、厚さ1.6μmのフォトアドレス可能なポリマーの層、及び厚さ0.15μmのSiO2層(記載の順序で)。
【0134】
7.1(局所複屈折)
局所複屈折を、光の照射により記憶カードに導入した。そのために使用した装置は、例えば、R. Hagen, T. Bieringer; Photoaddressable Polymers for Optical Data Storage; Advanced Materials; WILEY-VCH Verlag GmbH (2001); No. 13/23; 1807頁; Fig. 2 に記載されている。
【0135】
約1mm2の領域(スポットサイズ1mm2)を、CWモードで2倍周波数Nd:YAGレーザ(532nm)を用いて、露光した。書き込まれた複屈折は、ダイオードレーザ(605nm、5mW)を用いて読み出した。
【0136】
露光は、まず、50mWで20秒間(=1J)行い、次いで、2.5Wで400ミリ秒間行った(=1J)。いずれの場合も、屈折率の変化は約0.2であった。
【0137】
7.2 ホログラフィック露光
露光は、WO 99/57719 A1(10頁1行〜14頁16行)に記載された装置を用いて、Optilink Kft.により実施された。
使用した書き込みレーザは、532nmの波長を有する周波数2倍Nd:YAGレーザであった。
【0138】
書き込まれたホログラムのサイズは0.2mm(直径)であり、レーザ出力は300μWであり、露光時間は60秒で、約5キロバイトのデータが記憶された。
【0139】
書き込まれたホログラムは、10mW/cm2の強度でNd:YAGレーザを使用して、R/Wユニットにより、成功裏に読み出すことができた。カメラチップ上に再構成されたホログラフィックに記憶されたデータページのイメージを、図11に示す。
ホログラムは、眼には見えず、データは2ヶ月後でさえ読み出すことができた(書き込まれた複屈折は、時間の経過に対して安定である)。
【図面の簡単な説明】
【0140】
【図1】ホログラフィック記憶方法の該略図である。(a)情報がデータマスクの形で書き込まれる。これは、記憶されるデータページそのものではなく、ホログラフィックに暗号化されたデータページである。(b)ホログラムを読み出すために、ホログラムに、書き込み時の参照光と同じ性質を有する光を照射する。光は、ホログラムで回折され、情報光が再構成される。データページのイメージは、カメラチップに投影され、そこで、イメージは、更に電子的に加工される。
【図2】ホログラフデータ記憶におけるハードウエア暗号化の概略図である。参照光が正しいキーマスクにより変調された場合にのみ、先に書き込まれたデータマスクが再構成される。(a)暗号化ホログラフの書き込み;(b)暗号化ホログラムの読み出し。
【図3】偏光レーザ光に露光された場合、記憶材料中のポリマー分子が配向される。配向は、光が消された場合でも保持され、情報はこのようにして書き込むことができる。
【図4】透過形ホログラフィ及び対応する記憶媒体の為の対応する層構造を示す概略図である。
【図5】反射形ホログラフィ及び対応する記憶媒体の為の対応する層構造を示す概略図である。
【図6】厚さ400nmのフォトアドレス可能なポリマーの層の特性吸収スペクトルである。
【図7】アゾベンゼン官能化ポリマーの露光曲線である(実施例1参照)。赤色レーザを用いて633nmで測定した屈折率変化が縦座標にプロットされている。露光は、1000mW/cm2の強度で行った。PAPの層厚は0.58μmであった。
【図8】実施例5の特定のIDカードについてのマーケティングの観点から好ましい寸法を示す図である。ECカードでの磁気ストライプの通常の位置にPAPが適用されているクレジットカード形のプラスチックカード。
【図9】記憶カードの凹凸構造を示す図である。構造化されていないカード(a)は、曲げると、湾曲した表面を有するが(a)、構造化カード(b)の場合、構造化突起領域の面要素は平らなままである。この凹凸構造に配置されたホログラムは、湾曲したカードの場合でも、十分に読み出すことができる。
【図10】特別な凹凸構造を有する真空注型により製造したポリウレタンカードである。正方形突起は、3mm×3mm×0.5mmの寸法を有し、間隔は2mmであった。カードの合計高さ(厚さ)は1mmであった。
【図11】ホログラフ読み出しセットアップのカメラチップ上のイメージ(ホログラフィックに記憶され光学的に読み出されたデータページ)である。多数の白色要素(ピクセル)が、黒色背景上で認識できる。ピクセルは、マーキング点を有するデータコード及びエラー訂正符号を表す。
【図12】フォトアドレス可能なポリマー中のホログラムの視認性に対する光強度/露光時間の影響を示す図。ホログラムは、以下のパラメータを使用して書き込まれた:(a) 1 W/cm2 × 1000秒 = 1000 J/cm2。(b) 1 W/cm2 × 500秒 = 500 J/cm2、(c) 1 W/cm2 × 100秒 = 100 J/cm2。高エネルギー投入量(単位面積あたり)の場合、ホログラムは、明らかに目視できる((a)及び(b))。これらの場合、表面構造化の効果が、フォトアドレス可能なポリマーの所望の配向に加えて起こる。より小さいエネルギー投入量の場合(c)でのみ、ホログラムは、背景から区別できず、ヒトの眼に見えない。
【符号の説明】
【0141】
1 ホログラフィック記憶層
2 レーザ光源
3 ビームガイド
4 鏡
5 データマスク
5’再構成されたデータマスク
6 情報光
6’再構成された情報光
7 参照光
8 検出器(カメラ)
9 キー
10 保護層
11 反射層
12 基材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フォトアドレス可能なポリマーの少なくとも1層を含むデータ記憶用光記憶媒体であって、少なくとも1つの偏光ホログラムの形式のデータが、照射により、該層に組み込まれており、偏光ホログラムはヒトの眼には不可視であることを特徴とする、光記憶媒体。
【請求項2】
ホログラムの光学的検出を促進する更なる機能が、不可視ホログラフィック構造に組み込まれていることを特徴とする、請求項1に記載の光記憶媒体。
【請求項3】
プラスチックカードの形状で存在する、請求項1または2に記載の光記憶媒体。
【請求項4】
折り曲げた場合に、カード本体全体を折り曲げた時より小さい曲率を有する1つまたはそれ以上のホログラムを供給されたカードの部分を生じる構造がプラスチックカードに導入されていることを特徴とする、プラスチックカードの形状の請求項3に記載の光記憶媒体。
【請求項5】
照射により請求項1に記載の記憶媒体にホログラムを組み込む方法であって、書き込み光のエネルギー投入量が、2つの限界、すなわち、フォトアドレス可能なポリマーの層に可視表面構造を生じる高い限界を超えるエネルギー投入量と、時間の関数として安定でない複屈折構造を生じる低い限界より小さいエネルギー投入量との間にある、方法。
【請求項6】
使用されたフォトアドレス可能なポリマーについての限界は、経験的に決定される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
保護に値する情報を記憶するための、請求項1〜4のいずれかに記載の記憶媒体の使用。
【請求項8】
同一証明のための、請求項1〜4のいずれかに記載の記憶媒体の使用。
【請求項1】
フォトアドレス可能なポリマーの少なくとも1層を含むデータ記憶用光記憶媒体であって、少なくとも1つの偏光ホログラムの形式のデータが、照射により、該層に組み込まれており、偏光ホログラムはヒトの眼には不可視であることを特徴とする、光記憶媒体。
【請求項2】
ホログラムの光学的検出を促進する更なる機能が、不可視ホログラフィック構造に組み込まれていることを特徴とする、請求項1に記載の光記憶媒体。
【請求項3】
プラスチックカードの形状で存在する、請求項1または2に記載の光記憶媒体。
【請求項4】
折り曲げた場合に、カード本体全体を折り曲げた時より小さい曲率を有する1つまたはそれ以上のホログラムを供給されたカードの部分を生じる構造がプラスチックカードに導入されていることを特徴とする、プラスチックカードの形状の請求項3に記載の光記憶媒体。
【請求項5】
照射により請求項1に記載の記憶媒体にホログラムを組み込む方法であって、書き込み光のエネルギー投入量が、2つの限界、すなわち、フォトアドレス可能なポリマーの層に可視表面構造を生じる高い限界を超えるエネルギー投入量と、時間の関数として安定でない複屈折構造を生じる低い限界より小さいエネルギー投入量との間にある、方法。
【請求項6】
使用されたフォトアドレス可能なポリマーについての限界は、経験的に決定される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
保護に値する情報を記憶するための、請求項1〜4のいずれかに記載の記憶媒体の使用。
【請求項8】
同一証明のための、請求項1〜4のいずれかに記載の記憶媒体の使用。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公表番号】特表2009−510548(P2009−510548A)
【公表日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−529499(P2008−529499)
【出願日】平成18年8月25日(2006.8.25)
【国際出願番号】PCT/EP2006/008351
【国際公開番号】WO2007/028510
【国際公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(504142961)バイエル・イノヴェイション・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング (22)
【氏名又は名称原語表記】Bayer Innovation GmbH
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年8月25日(2006.8.25)
【国際出願番号】PCT/EP2006/008351
【国際公開番号】WO2007/028510
【国際公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(504142961)バイエル・イノヴェイション・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング (22)
【氏名又は名称原語表記】Bayer Innovation GmbH
【Fターム(参考)】
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