説明

【課題】簡易な構成で静電気を除去可能な秤を提供する。
【解決手段】秤100は、測定対象が載せられる計量皿10と、計量皿10の下方に配置され、計量皿を支持するための皿受部材30と、皿受部材30の下方に配置される金属製の起歪体41を含んで構成されるとともに、計量皿10に与えられた荷重を測定するためのロードセル40と、起歪体41と皿受部材30とを接続するための金属製のボルトb3と、計量皿10の裏面およびボルトb3の両方に接触する金属製のコイルばね90と、起歪体41をケース50の底面に取り付けるための金属製の部材であって、一定の基準電位に設定されるフレーム60と、起歪体41とフレーム60とを接続するための金属製のボルトb1とを備える。そして、計量皿10は、コイルばね90、ボルトb3、起歪体41およびボルトb1を介して、接地されたフレーム60と電気的に接続される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物体の重量を測定する秤に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば摩擦によって秤の計量皿などが帯電すると、正確な計量を行うことが困難となるので、そのような帯電を防止することが望まれる。例えば特許文献1には、本体ケースの上面に設けられた金属プレート(導電性部材)を利用して、静電気を除去するという技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−76069号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示された技術では、上述の金属プレートを本体ケースの上面に設けるとともに、当該金属プレートが接続される金属製の接続板をベースに設ける必要があるので、静電気を除去するための構成が煩雑になる。その結果、大掛かりな設計変更が必要となり、製造コストも増大するという問題がある。
そこで、本発明は、簡易な構成で静電気を除去可能な秤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以上の課題を解決するために本発明が採用する手段を以下に説明する。なお、本発明の理解を容易にするために以下では図面の参照符号を便宜的に括弧書きで付記するが、本発明を図示の形態に限定する趣旨ではない。
【0006】
本発明に係る秤(100)は、測定対象が載せられる計量皿(10)と、計量皿の下方に配置され、計量皿を支持するための皿受部材(30)と、皿受部材の下方に配置される金属製の起歪体(41)を含んで構成されるとともに、計量皿に与えられた荷重を測定するためのロードセル(40)と、起歪体と皿受部材とを接続するための部材であって、皿受部材から露出する頭部(H)が、計量皿の裏面よりも下方に位置する金属製の第1ネジ部材(b3)と、計量皿の裏面および第1ネジ部材の両方に接触する導電部材(90)と、皿受部材およびロードセルを収容するためのケース(50)と、起歪体をケースの底面に取り付けるための金属製の部材であって、一定の基準電位に設定される(接地される)フレーム(60)と、起歪体とフレームとを接続するための金属製の第2ネジ部材(b1)とを備え、計量皿は、導電部材、第1ネジ部材、起歪体および第2ネジ部材を介して、フレームと電気的に接続されることを特徴とする。
【0007】
本発明では、計量皿の裏面および第1ネジ部材の両方に接触する導電部材が設けられるとともに、フレームは接地される(一定の基準電位に設定される)。そして、計量皿は、導電部材、第1ネジ部材、起歪体および第2ネジ部材を介して、フレームと電気的に接続される。すなわち、本発明によれば、特段の設計変更を必要としない簡易かつ安価な構成で、計量皿の電荷を確実に除去できるという利点がある。なお、上述の基準電位は、計量皿の電荷を除去できるような値に設定されていればよく、その値は任意に設定可能である。
また、本発明によれば、計量皿と起歪体との導電性は第1ネジ部材および導電部材を介して確保される。ここで、第1ネジ部材は金属製なので、第1ネジ部材のみで導電性を確保することも考えられる。この場合には、第1ネジ部材の頭部が計量皿の裏面に接触するように取り付ける必要がある。しかし、第1ネジ部材の頭頂が皿受部材の上面から突出すると計量皿ががたつく。また、計量皿にひび割れ等の破損が生じる事態も起こり得る。そこで、本発明では、第1ネジ部材を係止したときに、その頭頂が皿受部材の上面よりも下方の位置となるように形成される。すなわち、第1ネジ部材の頭頂が計量皿の裏面よりも下方に位置する。そして、そのうえで、導電部材を使用して、計量皿と起歪体とを電気的に接続する。したがって、本態様によれば、計量皿のがたつきやひび割れといった不具合の発生を回避しつつ、計量皿と起歪体との間の導電性を確実に確保することが可能となる。
【0008】
本発明に係る秤の態様として、導電部材(90)は弾性体で形成され、当該弾性体は、前記計量皿の裏面で押されて鉛直方向に圧縮させられる。これにより、導電部材が塑性体で形成される態様に比べて、計量皿およびネジ部材の両方に導電部材を確実に接触させる態様を容易に実現できる。すなわち、上記不具合を回避する調整を行う必要がなく組み立てが容易となる。よって、作業効率が向上する。
【0009】
さらに好ましい態様として、前記弾性体はコイルばね(90)で形成され、前記コイルばねは、その軸線(軸心の軸線)が鉛直方向にほぼ一致するように配置され、前記コイルばねの素線の一端は、当該コイルばねの軸線方向に対して径方向に突き出た突出部分(90a)を有し、当該突出部分はフック状であり、前記突出部分は前記第1ネジ部材の頭部と前記皿受部材との間に挟まれて係止されるようにしてもよい。ここで、コイルばねの「軸線が鉛直方向にほぼ一致する」とは、取り付け時の誤差又はその他の原因で生じる誤差により、コイルばねの軸線に角度のズレが生じて鉛直方向に完全に一致しない状態を含み、コイルばねが係止された状態において前記計量皿の裏面で押されて鉛直方向に圧縮させられている限りにおいて当該鉛直方向に「ほぼ一致している」ことを意味する。本態様によれば、導電部材としてコイルばねというありふれた材料を採用することにより、製造コストを抑えることができる。仮に、突出部分がないコイルばねを使用した場合には、コイルばねの素線端が第1ネジ部材の軸部に巻き込まれたり、コイル軸心が斜めになり、取り付けに際して不具合が発生しやすい。これに対し、本態様によれば、上記突出部分を第1ネジ部材の頭部と皿受部材との間に挟んで係止するだけでよいので不具合の発生が抑制され、作業効率は格段に向上する。加えて、突出部分がないコイルばねを使用する場合と比較して、より確実に導電性が確保される。
なお、本態様では、上記突出部分が予め成形されたコイルばねを使用する必要は必ずしもない。コイルばねは容易に変形可能であるので、一般的に流通しているコイルばねの一端を変形して上記突出部分を形成したうえで第1ネジ部材に巻き付けることができる。この場合には、大掛かりな設計変更を要せずに(新規金型を準備するなどの初期コストを要せずに)、計量皿と第1ネジ部材を電気的に接続する導電線となり得るという利点がある。
【0010】
本発明に係る秤の態様として、計量皿の表面を保護するためのカバー部材(20)をさらに備え、カバー部材のうち計量皿の表面を覆う側の面(裏面)には、凹凸が設けられるのが好適である。例えば、カバー部材のうち計量皿の表面を覆う側の面に細かい凹凸を有するように加工が施される態様であってもよい。カバー部材のうち計量皿の表面を覆う側の面に凹凸が形成されることで、当該面のうち計量皿と接触する部分の面積が小さくなるので、摩擦などによる帯電量を減らすことができるという利点がある。例えばカバー部材がシリコーンで形成される場合は、計量皿との摩擦による帯電量が増えるので、カバー部材の表面が凸凹を有するように加工することによる効果は顕著である。
【0011】
本発明に係る秤の具体的な態様として、起歪体の歪み量に基づいて荷重の値を算出する算出部(43)を備え、ケース内には、算出部の電源として機能するとともに一方の端子の電位が基準電位に設定された電池(70)が収納され、当該一方の端子は、リード線(80)を介してフレームと電気的に接続される態様であってもよい。
【0012】
本発明に係る秤の具体的な態様として、前記計量皿と前記皿受部材が樹脂で形成されるようにしてもよい。かかる樹脂としては、ABS樹脂(アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合合成樹脂)、AS樹脂(アクリロニトリルスチレン共重合合成樹脂)やアクリル樹脂、その他の適切な樹脂がある。樹脂の代わりに金属を用いた場合には、計量皿や皿受部材自体の重量が重くなるため秤全体の軽量化が容易でない。また、荷重により振動した場合の初期の変位が大きいため振動の減衰に時間がかかり、高分解能化に不利となる。これに対して、計量皿を樹脂で形成した場合には、秤の軽量化や高分解能化が容易となる一方で、計量皿に電荷が滞留しやすく帯電量も多いという欠点がある。本発明では、計量皿から皿受部材、ロードセル、ケースまでの導電経路として、導電部材、第1ネジ部材、起歪体および第2ネジ部材で構成される経路を形成する。つまり、計量皿が大量に帯電した場合でも、この経路を介して、滞留した電荷が確実に除去される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の形態に係る秤の分解斜視図である。
【図2】皿受部材、ロードセルおよびフレームの分解斜視図である。
【図3】秤の断面図である。
【図4】カバー部材の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<A:実施形態>
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。図1は、本発明の実施の形態に係る秤100の分解斜視図である。図1に示すように、秤100は、測定対象が載せられる計量皿10と、計量皿10の表面を保護するためのシリコーン製のカバー部材20と、計量皿10の下方に配置されて計量皿10を支持する皿受部材30と、計量皿10に与えられた荷重を測定するためのロードセル40と、樹脂製の皿受部材30およびロードセル40を収容するための樹脂製のケース50とを備える。
【0015】
本実施形態に例示する秤100は料理用の秤であり、計量皿10上に載せられた料理の材料を計量することができる。計量皿10はABS樹脂で形成される。測定対象物はこの計量皿10に載せて測定可能であり、カバー部材20に載せて測定することも可能である。計量皿10の表面は滑らかに加工されている。測定対象物である食材を計量した場合の拭き取り易さ等の作業性や見映えの良さを考慮したものである。なお、計量皿10はABS樹脂に限られず、AS樹脂(アクリロニトリルスチレン共重合合成樹脂)やアクリル樹脂、その他の適切な樹脂を用いてもよい。
【0016】
カバー部材20はシリコーン樹脂で形成され、計量皿10から取り外して水洗い可能である。シリコーン樹脂は柔軟性且つ撥水性に優れた性状を有するため、かかる用途のカバー部材20として好適である。また、シリコーン樹脂は顔料を混ぜるだけで容易且つ安価に着色可能であるので、デザイン性も向上する。なお、カバー部材20としてシリコ−ン樹脂を用いる代わりにステンレス鋼を用いてもよい。
【0017】
皿受部材30はABS樹脂に帯電防止剤を練りこんで形成される。ロードセル40は金属製であり、皿受部材30の下方に配置される金属製の起歪体41と、起歪体41の表面の歪みを検出する検出素子(不図示)とを含んで構成される。起歪体41は、金属製(例えば、亜鉛めっき鋼板)のフレーム60を介してケース50の底面に取り付けられる(固定される)。また、ケース50内には、起歪体41の歪み量に基づいて荷重の値を算出する制御基板43と、制御基板43の電源として機能する電池70とが収容されている。ここでは、電池70の一方の端子は、グランドレベルに設定される。より具体的には、電池70のマイナス側の端子の電位は「0」Vに設定される。そして、そのマイナス側の端子と、フレーム60とは金属製のリード線80を介して接続されるので、フレーム60の電位は0Vに維持される。つまり、フレーム60は接地されていると言える。
【0018】
図2は、皿受部材30、ロードセル40およびフレーム60の分解斜視図である。図2に示すように、ロードセル40の構成要素である起歪体41は、略直方体の金属ブロック体であり、その側面を貫通する開孔部42が設けられている。開孔部42の形状は、4箇所の薄肉の起歪部が起歪体41に形成されるように設定される。本実施形態では、開孔部42の形状は、2つの円形孔が連結された形状に設定されている。つまり、2つの円形孔により、開孔部42の内周面と起歪体の外面(上面または下面)との厚みが薄くなる箇所が4箇所形成され、その4箇所が起歪部(44a,44b,44c,44d)となる。本実施形態に係るロードセル40は、ロバーバル型のロードセルであり、4つの起歪部(44a,44b,44c,44d)は、ロバーバル機構の平行四辺形の頂点に相当する。起歪体41の上面および下面のうち各起歪部に対応する領域には、各起歪部の表面の歪みを検出する検出素子(不図示)が絶縁体(不図示)を介して貼り付けられている。これらの検出素子は導線(不図示)を介して制御基板43に接続されている。
【0019】
起歪体41は、固定端E1と可動端E2とを有する片持ち構造である。図2に示すように、起歪体41の固定端E1は、金属製の2つのボルトb1を介してフレーム60に接続される。また、当該フレーム60は、ボルト(不図示)を介してケース50の底面に固定されている。つまり、フレーム60は、起歪体41をケース50の底面に取り付けるための部材として機能する。さらに、図2に示すように、フレーム60には、金属製のボルトb2を介してリード線80の一方の端部が接続されている。そして、当該リード線80の他方の端部は、電池70のマイナス側の端子に接続されている。
【0020】
図2に示すように、可動端E2の上面は、2つの金属製のボルトb3を介して皿受部材30に接続される。より具体的には以下のとおりである。図2に示すように、皿受部材30は、所定の厚みを有する略矩形の部材であり、その上面32には計量皿10が載せられる。また、皿受部材30の上面32のうちの所定の領域には溝部34が形成され、溝部34の底面には、ボルトb3が貫通可能な貫通孔36が2つ形成される。また、可動端E2の上面には、雌ねじが切られた孔38が2つ形成されている。ボルトb3は、頭部Hと、雄ねじが切られた軸部Axとからなり、貫通孔36を貫通した軸部Axが孔38に締め付けられることで、皿受部材30と起歪体41とが機械的に接続される。本実施形態では、図3に示すように、皿受部材30の溝部34の底面から露出するボルトb3の頭部Hの頭頂(高さ位置a2)は、皿受部材30の上面32(高さ位置a1)よりも下方に位置する。言い換えれば、ボルトb3の頭部H(高さ位置a2)は、皿受部材30の上面32(高さ位置a1)に載せられる計量皿10の裏面よりも下方に位置するという具合である。
【0021】
また、図2に示すように、一方のボルトb3は、その頭部Hと溝部34の底面との間に金属製のコイルばね90の一端が密着した状態で締め付けられる。この状態で、皿受部材30に計量皿10が載せられると、コイルばね90の他端は、計量皿10の裏面に接触する。つまり、コイルばね90は、計量皿10の裏面で押さえられて鉛直方向に圧縮させられ、計量皿10の裏面およびボルトb3の両方に接触した状態となる。より具体的には、図2に示すように、コイルばね90は、その軸心の軸線が鉛直方向にほぼ一致するように配置され、その素線の一端が当該コイルばねの軸線方向に対して径方向に突き出たフック状の突出部分(以下、単に「フック」)90aを有する。図2および図3から理解されるように、フック90aは、ボルトb3の軸部Axに巻きつくような形でボルトb3の頭部Hと皿受部材30の溝部34の底面との間に挟まれて係止される。このように、計量皿10と起歪体41との導電性はボルトb3およびコイルばね90のコイル部分およびフック90aを介して確保される。
【0022】
ボルトb3は金属製なので、コイルばね90を用いずとも導電性の確保は可能である。しかし、ボルトb3だけを介して計量皿10と起歪体41との導電性を確保しようとすると、ボルトb3の頭部Hが計量皿10の裏面に直接接触するように取り付ける必要がある。この場合にボルトb3の頭頂が皿受部材の計量皿の上面から突出してしまうと計量皿10ががたつく。また、計量皿10にひび割れ等の破損が生じる事態も起こり得る。そこで、本実施形態では、ボルトb3を係止したときに、その頭頂が皿受部材30の上面32(高さ位置a1)よりも低い位置(高さ位置a2)となるように構成したうえで、コイルばね90を追加的に使用して、計量皿10と起歪体41とを電気的に接続する。したがって、本態様によれば、計量皿のがたつきやひび割れといった不具合の発生を回避しつつ、計量皿10と起歪体41との間の導電性を確実に確保することが可能となる。また、コイルばね90を使用しているので、不具合を回避するための調整を行う必要がなく、組み立てが容易となり作業効率が向上する。ありふれた材料を採用することにより製造コストを抑えることができるといった利点もある。
【0023】
また、本実施形態では、コイルばね90の一端にあるフック90aを介して計量皿10と起歪体41と導電性が確保される。仮に、フックがなくコイル部分だけのコイルばねを使用した場合には、コイルばねの素線端がボルトb3の軸部に巻き込まれたり、コイル軸心が斜めになり、取り付けに際して不具合が発生しやすい。これに対し、本実施形態では、フック90aをボルトb3の頭部と皿受部材30との間に挟んで係止するだけでよいので不具合の発生が抑制され、作業効率は格段に向上する。加えて、フックがないコイルばねを使用する場合と比較して、より確実に導電性が確保される。
【0024】
ここで、計量皿10に荷重が与えられると、その荷重は、皿受部材30を介して起歪体41の可動端E2に伝達する。これにより、各起歪部(44a,44b,44c,44d)が変形し、各起歪部(44a,44b,44c,44d)に対応する検出素子は、当該起歪部の表面の歪みに応じた検出信号を制御基板43へ出力する。そして、制御基板43は、各検出素子からの検出信号に基づいて、計量皿10に与えられた荷重の値を算出するという具合である。
【0025】
図3は、本実施形態に係る秤100の断面図である。図3からも理解されるように、計量皿10の裏面は、コイルばね90、ボルトb3、起歪体41およびボルトb1を介してフレーム60と電気的に接続される。前述したように、フレーム60は、リード線80を介して電池70のマイナス側の端子に接続されるので、フレーム60の電位は「0」Vに維持される。したがって、例えば摩擦などにより計量皿10が帯電した場合であっても、計量皿10に溜まった電荷は、コイルばね90、ボルトb3、起歪体41およびボルトb1を介して、接地されたフレーム60へ移動する。これにより、計量皿10に溜まった電荷を除去することができる。
【0026】
ところで、計量皿10や皿受部材30がABS樹脂などの樹脂ではなく金属(例えば、ステンレス鋼)で形成された秤が広く用いられている。しかしこの場合には、計量皿や皿受部材自体の重量が重くなるため秤全体の軽量化が容易でない。また、荷重により振動した場合の初期の変位が大きいため振動の減衰に時間がかかり、高分解能化に不利となる。これに対して、樹脂の場合には、振動の減衰に時間がかかることはなく、軽量化も容易になる一方で、計量皿10および皿受部材30に電荷が滞留しやすく帯電量も多いという問題がある。そこで、本実施形態では、計量皿10から皿受部材30、ロードセル40、フレーム60までの導電経路として、コイルばね90、ボルトb3、起歪体41およびボルトb1で構成される経路を形成する。よって、計量皿10や皿受部材30が大量に帯電した場合でも、この経路を介して、滞留した電荷が確実に除去される。したがって、本実施形態によれば、計量皿や皿受部材としてABS樹脂を用いることによって得られる高分解能化、軽量化といった利点を保持しつつ、帯電が計測値に与える悪影響を排除することが可能となる。
【0027】
また、前述したように、ロードセル40の検出素子は、絶縁体を介して起歪体41の表面に貼り付けられるので、計量皿10からフレーム60へ向かって移動する電荷が起歪体41を通過しても、検出素子がその電荷の影響を受けることはなく、誤った検出信号が出力されることもない。つまり、フレーム60へ逃げる電荷が起歪体41を通過しても、荷重測定には何ら影響が及ばないという具合である。
【0028】
また、フレーム60の電位は、リード線80を介して電池70のマイナス側の端子に接続されることにより「0」Vに維持されるので、ロードセル41のマイナス側電位と、制御基盤43のマイナス電位を共通にすることができる。よって、本構成によれば、電荷を確実に除去することが可能となるだけでなく、測定誤差の発生を抑制することも可能である。
【0029】
以上に説明したように、本実施形態では、計量皿10の裏面およびボルトb3(皿受部材30と起歪体41とを接続するための金属製の第1ネジ部材)の両方に接触する金属製のコイルばね90が設けられるとともに、起歪体41に接続されたフレーム60は接地される。そして、計量皿10は、コイルばね90、ボルトb3、起歪体41およびボルトb1を介して、フレーム60と電気的に接続される。すなわち、本実施形態によれば、特段の設計変更を必要としない簡易かつ安価な構成で、計量皿10の電荷を確実に除去することができる。
【0030】
ところで、計量皿10の帯電を防止するという観点からすれば、帯電防止剤入りの材料で計量皿10を形成することが好ましい。しかしながら、本実施形態のように、計量皿10の表面を保護するためのカバー部材20が計量皿10に対して着脱可能に設けられている場合は、カバー部材20の着脱が行われる際に、カバー部材20のうち計量皿10を覆う側の面(裏面)と計量皿10の表面とが擦れ合うことにより、計量皿10が帯電してしまう。加えて、カバー部材20がシリコーン樹脂で形成されているために計量皿10との密着性が強く、帯電量が多い。このため、たとえ帯電防止剤入りの材料で計量皿10が形成されていても、計量皿10の帯電を完全に防止することは困難である。
【0031】
そこで、本実施形態では、前述したように、計量皿10を、コイルばね90、ボルトb3、起歪体41およびボルトb1を介して、接地されたフレーム60に接続(電気的に接続)することに加えて、カバー部材20のうち計量皿10の表面(上面)を覆う側の面(裏面)に、凹凸を設けている(図4参照)。より具体的には、カバー部材20のうち計量皿10の表面を覆う側の面(裏面)には、細かい凹凸を有するように加工が施されている。これにより、当該裏面に凹凸が形成されるという具合である。このようにして、カバー部材20の裏面に凹凸が形成されることで、当該裏面のうち計量皿10の表面と接触する部分の面積が小さくなるので、摩擦などによる帯電量を減らすことができるという利点が得られる。
なお、樹脂製品を測定する際の受け皿の上面(被測定物との接触面)に突起を設けて、被測定物との接触面積を縮小することにより、静電容量を少なくすることも考えられる。しかし、カバーの裏面でなく計量皿の表面に突起を設けてしまうと、食材などの被測定物を計量皿に直接載せて測定する場合には、拭き取り等の作業性が悪化し不衛生でもある。また、見映えも悪くなる。
【0032】
<B:変形例>
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、例えば、以下の変形が可能である。また、以下に示す変形例のうちの2以上の変形例を組み合わせることもできる。
【0033】
(1)変形例1
上述の実施形態では、金属製のコイルばね90が、計量皿10およびボルトb3の両方に接触しているが、これに限らず、計量皿10およびボルトb3の両方に接触する導電部材の種類は任意である。例としては、コイルばねの他に、導電性のゴム部材、導電性樹脂などが挙げられる。ただし、上述の実施形態のように、導電部材が金属製の弾性体で形成される態様によれば、導電部材が金属製の塑性体で形成される態様に比べて、計量皿10およびボルトb3の両方に導電部材を確実に接触させる態様を容易に実現できるという利点がある。なお、弾性体はコイルばねに限らず、皿ばね、竹の子ばね、板ばね等を用いてもよい。
【0034】
また、上述の実施形態では、フック90aが予め成形されたコイルばね90を使用するがこれに限られない。つまり、コイルばねは容易に変形可能であるので、製造工程において、一般的に流通しているコイルばねの一端を変形して上記突出部分を形成したうえでボルトb3に巻き付けることができる。この場合には、大掛かりな設計変更を要せずに(新規金型を準備するなどの初期コストを要せずに)、計量皿10とボルトb3を電気的に接続する導電線となり得るという利点がある。
【0035】
(2)変形例2
上述の実施形態では、皿受部材30と起歪体41とは、2つのボルトb3を介して接続されているが、これに限らず、皿受部材30と起歪体41とを接続するためのボルトb3の本数は任意である。例えば皿受部材30と起歪体41とが1本のボルトb3を介して接続される態様であってもよい。
【0036】
(3)変形例3
上述の実施形態では、起歪体41とフレーム60とは、2つのボルトb1を介して接続されているが、これに限らず、起歪体41とフレーム60とを接続するためのボルトb1の本数は任意である。例えば、起歪体41とフレーム60とが1つのボルトb1を介して接続される態様であってもよい。この態様は、上述の実施形態で例示した起歪体41よりも長手方向の長さが短い起歪体を用いる場合において、好適に採用され得る。
【0037】
(4)変形例4
上述の本実施形態では、秤100が料理用の秤である場合について説明したが、その用途は任意である。すなわち、本発明は、帯電しやすい部材で形成された秤に好適に採用され得る。
【符号の説明】
【0038】
10……計量皿、20……カバー部材、30……皿受部材、32……上面、34……溝部、36……貫通孔、38……孔、40……ロードセル、41……起歪体、42……開孔部、43……制御基板、44a,44b,44c,44d……起歪部、50……ケース、60……フレーム、70……電池、80……リード線、90……コイルばね、90a……フック(突出部分)、100……秤、b1,b2,b3……ボルト、H……頭部、Ax……軸部、E1……固定端、E2……可動端。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象が載せられる計量皿と、
前記計量皿の下方に配置され、前記計量皿を支持するための皿受部材と、
前記皿受部材の下方に配置される金属製の起歪体を含んで構成されるとともに、前記計量皿に与えられた荷重を測定するためのロードセルと、
前記起歪体と前記皿受部材とを接続するための部材であって、前記皿受部材から露出する頭部が、前記計量皿の裏面よりも下方に位置する金属製の第1ネジ部材と、
前記計量皿の裏面および前記第1ネジ部材の両方に接触する導電部材と、
前記皿受部材および前記ロードセルを収容するためのケースと、
前記起歪体を前記ケースの底面に取り付けるための金属製の部材であって、一定の基準電位に設定されるフレームと、
前記起歪体と前記フレームとを接続するための金属製の第2ネジ部材と、を備え、
前記計量皿は、前記導電部材、前記第1ネジ部材、前記起歪体および前記第2ネジ部材を介して、前記フレームと電気的に接続される、
ことを特徴とする秤。
【請求項2】
前記基準電位は、前記計量皿の電荷を除去できるような値に設定される、
ことを特徴とする請求項1に記載の秤。
【請求項3】
前記導電部材は弾性体で形成され、当該弾性体は、前記計量皿の裏面で押されて鉛直方向に圧縮させられる、
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の秤。
【請求項4】
前記弾性体はコイルばねで形成され、
前記コイルばねは、その軸線が鉛直方向にほぼ一致するように配置され、
前記コイルばねの素線の一端は、当該コイルばねの軸線方向に対して径方向に突き出た突出部分を有し、当該突出部分はフック状であり、
前記突出部分は前記第1ネジ部材の頭部と前記皿受部材との間に挟まれて係止される、
ことを特徴とする請求項3に記載の秤。
【請求項5】
前記計量皿の表面を保護するためのカバー部材をさらに備え、
前記カバー部材のうち前記計量皿の表面を覆う側の面には、凹凸が設けられる、
ことを特徴とする請求項1から請求項4の何れかに記載の秤。
【請求項6】
前記カバー部材はシリコーン樹脂で形成される、
ことを特徴とする請求項5に記載の秤。
【請求項7】
前記起歪体の歪み量に基づいて前記荷重の値を算出する算出部を備え、
前記ケース内には、前記算出部の電源として機能するとともに一方の端子の電位が前記基準電位に設定された電池が収納され、当該一方の端子は、リード線を介して前記フレームと電気的に接続される、
ことを特徴とする請求項1から請求項6の何れかに記載の秤。
【請求項8】
前記計量皿と前記皿受部材は樹脂で形成される、
ことを特徴とする請求項1から請求項7の何れかに記載の秤。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−83329(P2012−83329A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−115682(P2011−115682)
【出願日】平成23年5月24日(2011.5.24)
【出願人】(000133179)株式会社タニタ (303)