説明

移動体の自己位置判別装置

【課題】位置判別演算開始点における移動体の進行方向角度(方位)を実際に移動するエリヤに設定した角度(方位)に対して誤差が少なく簡単に合わせることのできる移動体の自己位置判別装置を得る。
【解決手段】移動体10の両側面に移動体10の進行方向に直角に光電センサ12、13を取り付け、光電センサ12、13の光を反射するための反射板14、15を、移動エリヤの倉庫入口1の両側に、光電センサ12、13の光軸と対向するように設置する。倉庫入口1を移動車10が通過するときの光電センサ12、13の動作時間差を利用して通過時の角度を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、角度センサ(ジャイロ)および回転センサ(エンコーダ)を用いた位置検知方式(以下、「オドメトリ法」という)による移動体の自己位置判別装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、移動体の自己位置を判別する装置は、たとえば、運搬車などで搬入および搬出される保管倉庫内の品物位置を平面座標内で管理する際に用いられている。
車両や自走ロボットなどで自由走行する移動体(たとえば、保管倉庫内を走行する運搬車など)の自己位置を判別する装置としては、いくつかの方式があり、それぞれに特徴がある。
【0003】
まず、GPS方式がよく知られているが、地中や鉄筋コンクリートに囲まれた建造物内においては、電波が届かないので使用不可能である。
また、無線LAN方式(たとえば、非特許文献1参照)も提案されているが、位置判別精度が1m〜3m程度と低いうえ、たとえば低温倉庫などの環境下では倉庫内での複数アンテナの設置が困難であり実現性に乏しい。
【0004】
一方、角速度センサからの信号と、移動体の車輪の回転を検出するエンコーダからの信号とを用いて、移動体の角度および移動距離を演算して得られるX−Y座標変化量を積算し、自己位置を求めるオドメトリ法も提案されている(たとえば、非特許文献2参照)。
【0005】
オドメトリ法による方式は、上記GPS方式や無線LAN方式での問題が解消されるので、GPS方式におけるトンネル内での補完が可能であるうえ、低温倉庫内でも使用可能となることから、種々の分野で実用に供されている。
【0006】
ただし、オドメトリ法による自己位置判別装置においては、累積誤差という基本的問題があるうえ、重要な使用条件として、移動体の自己位置判別演算の開始ポイントを決定する必要がある。
【0007】
たとえば、運搬車の自己位置データを用いて保管物の倉庫内保管位置を認識する倉庫保管管理システムにおいては、倉庫(部屋)の入口を自己位置判別演算の開始ポイントとして、運搬車に搭載した自己位置判別装置に対して倉庫の平面座標に対応した運搬車の起点座標と、平面座標においてあらかじめ決めた方位に対応した運搬車の起点角度(方位)をインプットする必要がある。
【0008】
このとき、運搬車(移動体)のスタート位置で起点座標および起点角度(方位)をイニシャルセットする方法としては、たとえば、倉庫の入口ドア前で運搬車を一旦停止して、運転手が車両の向きを入口ドア面に対して直角に直進するように設置したうえで、演算処理装置のスイッチでリセット操作することが考えられる。
または、イニシャルセットする位置に光電センサを装備して、光電センサ信号を演算処理装置に取り組んで、倉庫の入口ドアを通過するタイミングで自動的にイニシャルセットすることが考えられる。
【0009】
上記イニシャルセット方法のいずれの場合も、運搬車(移動体)の角度については、移動体側で簡単に計測する手段がないので、倉庫入口に直角に設定した平面座標において、運搬車を倉庫入口部で進入方向座標に対して角度を有することなく設置し、強制的に角度をゼロに設定する必要がある。
または、地磁気センサを用いて、自己方位を検知して倉庫平面の角度に換算する方式が考えられるが、2°以下の精度で角度を取得することは困難なうえ、鉄筋コンクリートの構造物内ではさらに検知精度が低下するので、実際には地磁気センサそのものが適用不可能と言える。
【0010】
また、運転手が移動体の向きを真っ直ぐに設置するといっても、運転手の位置から自分が搭乗する車両の曲がり具合を目視して、運搬作業中の短時間の間に2°以下の精度で調整することは実質的に不可能と言える。
さらに、移動体の外部で、車体の角度および位置を判別して、無線などで移動体に送信して初期位置データを与えることも考えられるが、大掛かりな装置となり実用的でないうえ、送受信時の時間遅れが精度を低下させる可能性もある。
【0011】
以下、上記従来装置の問題点について、さらに具体的に説明する。
ここでは、一例として、移動体のスタート位置で、移動エリヤに設置した平面座標の前進方向に対する車両の進入角度(イニシャル角度)が「右方向に2°」であったときに、運転手が、自身の運転車両の角度が傾いていることを意識せずに、スタート位置で車両の自己位置判別装置のイニシャル角度を0°にインプット(スイッチを操作してリセット)して、車両が平面座標の角度0°方向に直進走行した場合の誤差について説明する。
【0012】
上記条件下においては、車両が平面座標の角度0°方向に直進走行した際の実際の位置と、オドメトリ法により得られた車両の位置座標との間に、以下のように誤差が生じる。
すなわち、運転手は、リセット操作後の走行開始時に、Y軸(直進)方向を目視しながらハンドルを無意識に操作して、車体を「左方向に2°」の角度補正をしているのである。
【0013】
したがって、実際の車体は、平面座標に対して誤差を生じることなく、角度0°方向に直進しているのであるが、オドメトリ法で取得した車体の自己位置座標のトレンドは、最初に車両が動いた時点での「左方向2°」の角度移動を引きずって、左方向に2°の角度が付いた状態で前進していく軌跡となる。
【0014】
図6は上記条件下での左前輪の軌跡を実験データで示す説明図である。
図6において、起点P0、停止点P1、P2(折り返し点)および復帰点P3からなる破線軌跡は、実際に移動体が走行した際の左前輪の軌跡を示している。
また、起点P0、停止点P1’、P2’および復帰点P3からなる実線軌跡は、移動体に搭載されたオドメトリ法による自己位置判別装置の左前輪の座標軌跡を示している。
【0015】
また、図6において、原点(0、0)は、倉庫に設定した平面座標の入口中心部に対応し、Y軸は入口から倉庫内部(奥方向)への直進方向を示している。
移動体は、入口の起点P0(X座標:−470[mm])から、停止点P1、P2を介してUターン(または、バックターン)し、入口の復帰点P3に戻る。
【0016】
図6においては、実際の走行パターン(破線軌跡)における初期角度誤差に起因して、オドメトリ法による移動体の自己位置判別データ(実線軌跡)が、走行エリヤに設定した平面(XY)座標との間で誤差が生じ、特に進行方向(Y軸方向)の先端部の停止点P1’、P2’付近において、X座標成分の方向の誤差が拡大していく様子を示している。
【0017】
なお、イニシャル角度誤差は約2°であるが、XY軸の縮尺[mm]が互いに異なるので、進行方向に対するX軸方向の角度誤差は誇張されている。
また、自己位置判別データ(実線軌跡)における復帰点P3での左前輪の位置は、車両が反転しているのでX座標470[mm]となるが、実際の走行パターン(破線軌跡)とほぼ一致して正確に運転開始位置に戻っている。
【0018】
以上のように、自己位置判別データ(実線軌跡)の位置誤差は、起点P0(入口)からY軸報告に離れれば離れるほど、X軸方向に対して初期角度誤差の影響を大きく受け、倉庫内の奥に保管される品物の管理座標が実際と異なってしまうことが分かる。
【0019】
しかしながら、従来技術においては、移動体の初期角度に起因した上記位置判別誤差を解決するための手段は何ら提供されておらず、単に初期角度をゼロに設定する技術、または、オドメトリ法による累積誤差に対して、走行中に何らかの絶対座標を提供する手段で補正することに主眼をあてた技術が提供されているのみである。
すなわち、従来技術においては、移動体が自己の初期角度を検知することができないので、平面座標に対して移動体をできるだけ真っ直ぐに設置して強制的に初期角度をゼロにセットしていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0020】
【非特許文献1】「無線LAN位置検知システム「AirLocation II」を機能強化」2011年3月7日、株式会社日立製作所
【非特許文献2】「オドメトリ実験,Memorandum New version Kouhei's Homepage」2010年7月12日(http://memo--randum.blogspot.com/2010/07/blog-post 12.htm)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
従来のオドメトリ法による移動体の自己位置判別装置は、移動体の自己位置判別演算の開始ポイント(たとえば、倉庫搬送車両の場合での倉庫入口)において、光電センサ手段を用いて移動体が上記開始ポイントを通過するタイミングを検知し、あらかじめ計測済の移動体の上記開始ポイントでの位置座標データをイニシャルセットしていたが、走行開始角度の誤差に起因した自己位置判別座標と倉庫内の実際の平面座標との間の誤差を解消することができないという課題があった。
また、仮に開始角度検出装置を別途に設置した場合には、多大なコストアップを招くので、実用的ではないという課題があった。
【0022】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、オドメトリ法による演算で得られた移動体の位置データ誤差を抑制した移動体の自己位置判別装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
この発明に係る移動体の自己位置判別装置は、オドメトリ法による移動体の自己位置判別装置であって、移動体の進行方向に対して直角方向の対称位置に設置された2個の光電センサと、移動体の現在位置を認識するための演算処理部を含む現在位置認識装置と、を備え、現在位置認識装置は、移動体の現在位置検知演算の起点における現在位置演算開始時に、2個の光電センサを用いて、移動体の起点座標および起点角度を、移動体の移動エリヤに設定した座標および方位と合致させるように算出するものである。
【発明の効果】
【0024】
この発明によれば、オドメトリ法による移動体の自己位置判別装置において、起点位置への進入時に移動体が角度を有する場合に生じる各光電センサの微小な動作時間差における移動体の移動距離を計測することにより、移動体の運転手が進入角度を気にすることなく、倉庫(オドメトリ法による位置検知装置を搭載して位置管理する座標管理区域)に進入することができ、かつ、起点通過時の光電センサの検知信号に応じて位置判別演算の開始ポイント(たとえば、倉庫入口)での進入座標および進入角度を簡単にイニシャルセット(座標リセット)して位置演算スタートすることにより、初期角度による移動体の位置誤差を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】この発明の実施の形態1に係る移動体の自己位置判別装置を後方から見たときの外観を示す背面図である。
【図2】図1内の移動体を進行方向左側から見たときの外観を示す側面図である。
【図3】図2内のコントローラの機能構成を示すブロック図である。
【図4】図1内の光電センサの移動状態を平面図で模式的に示す説明図である。
【図5】図1内の光電センサの移動時における各変数の変化をテーブルで示す説明図である。
【図6】従来装置の角度誤差に起因した移動体の位置誤差が進行方向の先端部で拡大する様子を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1に係る移動体10の自己位置判別装置を後方から見たときの外観を示す背面図であり、図2は移動体10を進行方向左側から見たときの外観を示す側面図である。
【0027】
図1、図2においては、具体例として、移動体10としてプラッタータイプのフォークリフト車を想定し、冷凍庫入口スライドドアを有する倉庫入口1から保管倉庫内に進入する場合を示している。また、移動体10自身が自己位置判別装置のシステムを実装しているものとする。
なお、この発明の実施の形態1に直接関連しない部分(たとえば、倉庫保管管理のための運搬物の認識手段など)については、図示を省略している。
【0028】
図1、図2において、移動体10は、走行駆動用の左後輪10rdと、補助用の右後輪10rと、左前輪11と、右前輪(図示せず)とを有し、移動体10の左右両側面(進行方向に対して直角方向の対称位置)には、光電センサ12、13が設けられている。
また、倉庫入口1の開閉部両側の手前には、光電センサ12、13と対向するように、乱反射タイプの反射板14、15が配置されている。
【0029】
各光電センサ12、13は、各反射板14、15と協働して、反射型光電センサとしての機能を実現している。
2つの反射板14、15の相互間の距離L1(固定長)は、倉庫入口1において移動体10が通過できるように、約3m(=3000mm)に設定されている。
【0030】
なお、倉庫入口1の扉前面には、衝突防止用のポール28および支柱29が設置されており、光電センサ12、13からの出射光が照射される反射板14、15は、ポール28と一体の支柱29に設けられている。
【0031】
図2において、左前輪11の近傍には、回転検出用のエンコーダ16が設けられ、左前輪11のホイール部には、エンコーダ16と対向配置するようにセンシングリング17が貼り付けられている。
【0032】
エンコーダ16は、センシングリング17に形成された交互の白黒の縞模様を検知し、左前輪11の回転に応じて互いに90°の位相差を有する2つのパルス信号を生成する。
なお、エンコーダ16は、90°の位相差を有する2つのパルス信号を生成するものであれば、上記構成に限らず他の方式を用いてもよい。
【0033】
また、移動体10には、各部に電力を供給するバッテリ18と、角度検出用のジャイロ19と、自己位置判別装置の主要部となるコントローラ20と、コントローラ20の表示操作器30と、が設けられている。
表示操作器30は、移動体10の運転室10aに配置されており、運転手に対するマンマシンインタフェイスとして機能する。なお、運転室10aは、運転手を保護するために寒冷仕様で完全にガラスで包囲されている。
【0034】
ジャイロ19は、平面の角度変化を検出し、一定時間間隔でコントローラ20内の演算処理部(後述する)に角度変化値を入力する。
なお、ジャイロ19は、図示したように、移動体10の車体に対して水平に設置されるが、水平角度の変化以外の加速度の影響をキャンセルする機構を搭載しているので、車体ののどの部分に設置されていてもよい。
【0035】
図3はこの発明の実施の形態1によるコントローラ20の機能構成を示すブロック図である。
図3において、コントローラ20は、バッテリ18からの電力を受ける電源部21と、現在位置認識装置22と、を備えている。
現在位置認識装置22は、電源部21からの給電により動作するCPUを含む演算処理部23と、エンコーダ16からのパルス数を計数するカウンタ部24と、ジャイロ19からの検出信号が入力される角度演算部25と、光電センサ12、13からの検知信号を取り込む入力部26と、を備えている。
【0036】
演算処理部23には、カウンタ部24、角度演算部25、入力部26および表示操作器30を介した情報が入力される。演算処理部23は、演算結果を表示操作器30に表示させることにより、移動体10の自己位置を運転手に報知する。
なお、必要に応じて、演算処理部23は、移動体10の角度θを算出するためのデータテーブル27(後述する)を備えている。
【0037】
次に、図1〜図3に示したこの発明の実施の形態1による動作について説明する。
図1〜図3はこの発明の実施の形態1の特徴部分およびその関連部のみを示しており、倉庫内の保管物の認識のための装置や通信装置などは省略している。
【0038】
まず、コントローラ20内の電源部21は、移動体10(フォークリフト車)の動力電源となるバッテリ18から給電されて、コントローラ20の動作に必要な定電圧電源を供給する。
【0039】
カウンタ部24は、エンコーダ16からのパルス信号を受けて、可逆(アップダウン両方向)のカウント動作を行い、計数値を演算処理部23に入力する。
演算処理部23には、左前輪11の回転により生成されるエンコーダ16の1パルス当たりの移動体10の移動距離データ(後述する図5参照)があらかじめ記憶されている。
なお、電源部21がリセットされると、カウンタ部24の計数値はクリアされる。
【0040】
角度演算部25は、ジャイロ19から入力される角度変化信号を積算することにより、搭載された移動体10(フォークリフト車)の実際の角度を求める。なお、このとき、演算開始の初期角度をイニシャルセットする必要がある。
【0041】
演算処理部23は、カウンタ部24および角度演算部25からのデータを取得して、一定時間間隔ごとに、移動体10の移動変化量および角度データから、移動体10の自己位置座標X成分およびY成分の移動変化量を計算し、演算結果を積算して最終的な自己位置を表示操作器30に出力する。
【0042】
また、演算処理部23は、光電センサ12、13の検知信号を割り込み入力するか、または、光電センサ12、13の高速入力処理を行い、移動体10のイニシャルリセットを行う。
【0043】
表示操作器30は、運転手が位置データおよびその他(倉庫管理のために必要な情報)の監視を行い、かつ入力操作を行うためのタッチパネル表示器であり、コントローラ20の端末機器として機能する。
【0044】
図4は移動体10に取り付けられた光電センサ12、13の移動状態を平面図で模式的に示す説明図である。
また、図5は光電センサ12、13の移動時における各変数(図4内の移動距離L2、角度θ)の変化をテーブルで示す説明図である。
【0045】
図4において、反射板14、15は、乱反射タイプなので、移動体10が理想進行方向(2点鎖線矢印)に対して角度θを有していても、光電センサ12、13からの出射光が照射されれば、反射光を光電センサ12、13に返すので、移動体10が倉庫入口1に到達した時点で光電センサ12、13は作動する。
【0046】
図4に示すように、時刻t1において、反射板14、15の間を、移動体10が角度θで破線矢印方向に通過した場合、光電センサ12、13の各光軸(1点鎖線)が一直線であれば、光電センサ12の動作時刻t1から、光電センサ13’の動作時刻t1+Δt(移動距離L2だけ走行後)までに、角度θに比例した距離差(L2)が生じることが分かる。
【0047】
たとえば、倉庫入口1への進入時において、移動体10(実線参照)が時刻t1に光電センサ12の動作を検出し、時間Δt経過後の位置10’(破線参照)まで移動距離L2(パルス距離で130mm)だけ直進走行した時刻t1+Δtで、光電センサ13’の動作を検出した場合、移動体10の進入角度θは、以下の式(1)から、θ=2.481°となる。
【0048】
θ=arctan(L2/L1)
=arctan(130/3000)
≒2.481[deg] ・・・(1)
【0049】
図5はパルス数Npごとの移動距離L2(=Np×Le)と角度θ(=arctan(L2/L1))との関係を具体的に示している。
ここでは、エンコーダ16の1パルス当たりの移動体10の移動距離Leが11.64mmの場合のデータを示している。
【0050】
光電センサ12、13を取り付けた移動体10が、進行方向に対して平行移動しても、角度θが同じであれば、距離L2(距離差)は変わらない。
たとえば移動体10が運搬車の場合、倉庫入口1の両側に反射光14、15が設置されていれば、移動体10(運搬車)が入口のほぼ中央を通過する際に、X軸方向に若干のずれが生じても誤差として許容可能であり、最重要な初期角度については、入口通過時のずれの影響を受けずに取得することができる。
【0051】
以下、この発明の実施の形態1によるスタートポイントでの角度決定処理について説明する。
まず、移動体10が倉庫内に進入走行する際の、倉庫入口1への進入角度θの算出処理について説明する。
【0052】
図4において、光電センサ12、13の動作時間差Δtを考えると、移動体10’’(2点鎖線参照)が、2点鎖線矢印に沿って真っ直ぐ直進して(θ=0で)倉庫入口1に進入した場合、2個の光電センサ12’’、13’’は同時(Δt=0)に動作する。
一方、角度θで進入した場合は、上記のように、角度θの大きさに応じて、2つの光電センサ12、13の間に動作時間差Δtが生じる。
【0053】
図4のように、移動平面の進行方向(2点鎖線矢印)の角度を0°として、入口通過時の移動体10の進行方向角度θが平面角度に対して0°のときに、2個の光電センサ12、13が同時に動作するような位置構成とすることにより、移動体10が角度θを有する場合に生じる各光電センサ12、13の微小な動作時間差Δtにおける移動体10の移動距離L2を計測して、初期角度θを得ることができる。
【0054】
これにより、以下のように、簡単な構成で運搬車などの移動体10の運転手が進入角度θを気にすることなく、倉庫入口1(オドメトリ法による位置検知装置を搭載して位置管理する座標管理区域)に進入することができ、かつ初期角度θを算出してインプットすることができる。
この結果、従来装置のように初期角度θを無視して常にゼロをインプットした場合と比較して、移動体10の位置誤差を小さくすることができる。
【0055】
動作時間差Δtの間の移動体10の移動距離L2は、動作時間差Δtの間にカウンタ部24が計測したエンコーダ16のパルス数Npと、1パルス当たりの移動距離Leとを乗算することにより算出される。
たとえば、移動体10の走行速度Vsが4km/hの場合、130mmの移動時間(時間差Δt)は117msecとなるが、移動体10の走行速度Vsが変化しても、エンコーダ16のカウント値は、角度θが同じであれば変化しない。
【0056】
反射板14、15の相互間の距離L1(=3000mm)は既知なので、上記式(1)のように、arctan(L2/L1)から、光電センサ12、13が反射板14、15を通過したときの角度θを算出することができる。
このような演算処理プログラムをコントローラ20に組み込むことにより、初期角度θを取得することができる。
【0057】
前述の通り、光電センサ12、13と協働する反射板14、15は、たとえば倉庫入口1のスライドドア両側部である。
また、倉庫入口1に進入する移動体10は一般的に直進走行するうえ、2つの光電センサ12、13が動作する間に移動する距離L2は微小であり、距離L2の移動期間内にハンドル操作して角度θが変化することは考慮する必要がない。
【0058】
なお、角度θの算出処理において、エンコーダ16の分解能が問題になる。
いま、エンコーダ16の分解能を「センシングリング17の1回転で72パルス」とし、左前輪11の外径Rを267mmと仮定すると、エンコーダ16の1パルス出力時の移動距離Le(演算処理部23にインプットされる移動距離データ)は、以下の式(2)から、11.64mmとなる。
【0059】
Le=π・R/72
=3.14×267/72
≒11.64 ・・・(2)
【0060】
また、上記演算処理において1パルスの読み取り誤差があるとして、反射板14、15の相互間距離L1(=3m)を用いると、最小の角度判別誤差δθは、以下の式(3)から、0.44°となる。
【0061】
δθ=tan−1(2×Le/L1)
≒tan−1(23.3/3000)
≒0.44[deg] ・・・(3)
【0062】
したがって、この発明の実施の形態1によれば、0.44°以上の精度で、初期角度θを算出することができる。
【0063】
次に、演算処理速度について考察すると、まず、倉庫入口1への進入時の移動体10の走行速度Vsは、常閉状態のスライドドアの手前に接近中であり、十分な徐行体制にあることから、5km/h(=5×1000000/3600[mm/sec])程度と見なされる。
このとき、エンコーダ16の1パルス移動時間Teは、以下の式(4)から、8.3msecとなる。
【0064】
Te=Le/Vs
=11.64/(5×1000000÷3600)
≒0.00838[sec] ・・・(4)
【0065】
つまり、1パルス移動時間Teとして、約8.3msec要することが分かる。
【0066】
次に、光電センサ12、13からの検知信号に基づく移動体10のイニシャルリセット処理について説明する。
まず、各検知信号を割り込み入力してイニシャルリセット処理する割り込み方式が適用可能である。
【0067】
初期角度算出処理ルーチンは、2つの光電センサ12、13の微小な動作時間差Δtで実行されるので、割り込み処理的に実行する必要があり、各光電センサ12、13の検知信号は、割り込み入力とすることが有効である。
【0068】
一方、割り込み方式に代わるサイクリック処理によれば、移動距離L2は、1パルス当たり8.3msecかかる速度での移動なので、1msec以下のサイクリック処理が可能なコントローラ20を用いた場合には、割り込み処理に代えて、高速サイクリック処理で同じ効果を奏することが可能である。
【0069】
サイクリック処理は、コントローラ20が割り込み処理の機能を有さない場合に有効であり、サイクリックの処理ルーチンを適用して、割り込み処理と同等の性能を得ることができる。
【0070】
なお、この場合、入力のリフレッシュ間隔を演算処理の間隔と同期させる必要がある。
また、初期角度算出後は算出完了フラグをたてて、初期角度算出ルーチンをパスして、他の演算処理実行時間に影響させないようにすることが有効である。
【0071】
また、上記説明では、角度θを算出するために、式(1)のように、逆三角関数演算を用いたが、図5に示したように、テーブル方式を用いてもよい。
図5から分かるように、初期角度θの大きさは最大でも±3°程度なので、L2/L1の値(または、L1が既知なので、L2のみの値、または、パルス数Npのみの値)と角度θ(約0.1°間隔)のデータテーブル27を演算処理部23に保持させておき、テーブル値と計測値との大小比較して該当する角度θを処理することもできる。
このようなテーブル方式は、コントローラ20が逆三角関数を有していない場合にも有効である。なお、テーブル方式の場合には、テーブル範囲のインタロック(限定)が必要なことは言うまでもない。
【0072】
次に、光電センサ12、13の具体例について説明する。
光電センサ12、13としては、透過式と反射式とが考えられるが、以下の理由から、上述の反射式(反射板14、15を使用)のみが有効である。
【0073】
移動体10が運搬車の場合、把持対象となる品物の重量により荷重がかかるので、若干ではあるが移動体10に傾きや沈みが生じるが、これによって初期角度θの計測に影響を与えないように構成することが必要となる。
【0074】
反射式の光電センサ12、13を用いた場合には、上下方向に長い反射板14、15を設置することにより、光電センサ12、13の光軸が荷重の影響で上下しても、確実に光電センサ12、13を動作させることができる。
一方、透過式の光電センサ(図示せず)の場合には、投光部と受光部との各光軸を一致させる必要があるが、上述の通り、品物の荷重によって光軸が上下してずれる可能性があるので、適用することはできない。
【0075】
また、光電センサ12、13としては、以下の理由からレーザ式のものが最適である。
一般に、光電センサは、発光ダイオードを用いたものが多く、上述のような1m以上の遠距離からの反射光を検知する場合には、出射時の光軸の拡散が生じることから、反射板14、15の位置での光スポット径が大きくなる。
【0076】
なお、実際には、反射板14、15の設置時において、光電センサ12、13を備えた移動体10を、外側から走行姿勢を見ながら角度θを0°に設定して微速走行させ、光電センサ12、13を同時に検知するように位置調整する必要がある。
【0077】
光電センサ12、13の具体例として、たとえば距離1mで、光軸に対して約50mm手前で検知する(スポット径100mm)センサを用いた場合、各値が固定値であれば誤差とはならないが、移動体10を走行させながらの検知動作なので、光軸のぶれも生じることから、いくらかの誤差が生じる。
よって、上記センサを適用した場合、あらかじめ現場で移動体10の絶対的な角度θを計測することは困難なので、補正することも困難である。
【0078】
この結果、この発明の実施の形態1に適用可能な光電センサ12、13としては、光軸が拡散しないレーザ式センサが有効である。
レーザ式センサの場合、出射光のスポット径は十分小さく、距離8mでも12mm以下なので、距離1m程度であれば、半分(6mm)以下のスポット径が期待できる。
なお、レーザ式センサは公知であり、すでに市販されていることは言うまでもない。
【0079】
以上のように、この発明の実施の形態1(図1〜図5)に係るオドメトリ法による移動体10の自己位置判別装置は、移動体10の進行方向に対して直角方向の対称位置に設置された2個の光電センサ12、13と、移動体10の現在位置を認識するための演算処理部23を含む現在位置認識装置22と、を備えている。
現在位置認識装置22は、移動体10の現在位置検知演算の起点における現在位置演算開始時に、2個の光電センサ12、13を用いて、移動体10の起点座標および起点角度θを、移動体10の移動エリヤに設定した平面座標および方位と合致させるように算出する。
【0080】
具体的には、移動体10の駆動部(左前輪11)には、エンコーダ16が設置されている。
現在位置認識装置22は、移動体10が起点通過する際の2個の光電センサ12、13の各動作時間の差時間Δtにおける移動体10の移動距離L2をエンコーダ16から取得し、移動距離L2を用いた逆三角関数演算により、起点角度θを算出する。
【0081】
または、現在位置認識装置22は、あらかじめ設定されたデータテーブル27を有し、2個の光電センサ12、13の各動作時間差Δtにおける移動体10の移動距離L2をエンコーダ16から取得し、移動距離L2に対応したデータテーブル27を参照して比較演算を行うことにより、起点角度θを算出する。
【0082】
たとえば、2個の光電センサ12、13の各検知信号は、現在位置認識装置22内の演算処理部23に割り込み入力されて、起点角度θの演算に用いられる。
または、現在位置認識装置22は、2個の光電センサ12、13の各検知信号を用いて、1msec以下のサイクリック演算処理により、移動体10の起点角度θを算出する。
【0083】
また、たとえば2個の光電センサの各々は、反射板14、15と発光受光一体の光源とからなる一般の反射型光電センサ12、13により構成されている。
または、2個の光電センサの各々は、反射板14、15とレーザ式の発光受光一体の光源とからなるレーザ式の反射型光電センサ12、13により構成されている。
【0084】
このように、オドメトリ法による移動体10の自己位置判別装置において、移動体10の側面に反射型光電センサを取り付け、移動体10の走行により光電センサ12、13の光軸が通過する倉庫入口1のドア部の手前両側面(移動エリヤにおける移動体10のスタートポイント)に、光電センサ12、13の光を反射させる反射板14、15(または、投光部)を設置し、ドア部手前を移動体10が通過したときの光電センサ12、13の検知信号によって座標リセット(イニシャルセット)して位置演算スタートすることにより、倉庫入口1(位置判別演算の開始ポイント部分)での移動体10の進入座標および進入角度θを簡単にイニシャルセット可能な移動体の自己位置判別装置を得ることができる。
また、位置判別演算開始点における移動体10の進行方向角度(方位)を、実際に移動するエリヤに設定した角度(方位)に対し、少ない誤差で合わせることができる。
【0085】
なお、前述の非特許文献2に記載のように、オドメトリ法は誤差が累積していくという基本的な欠点があるが、発明者の検証では、3分間以上の走行で総走行距離100m程度の移動中に、座標や角度補正を全く行わずにオドメトリ法によって得られた移動体10の位置は、移動エリヤに設定した座標との間でX、Y方向でそれぞれ約30Cm以内の誤差で位置判別可能なことが分かっている。
【0086】
したがって、奥行きおよび幅が数10m程度の超低温倉庫(冷凍倉庫)において、この発明の実施の形態1による移動体の自己位置判別装置を適用した場合、前述の効果を適性に発揮することができる。
【0087】
なお、この発明は、初期角度θの取得に関するものであり、イニシャル座標位置の誤差については特に言及していないが、平面座標の始点中央部を移動体10が通過することとしている。そして、移動体10の始点通過時に、あらかじめ計測した始点通過時での移動体10の座標データを、移動体10の自己位置判別装置に強制的にイニシャル値としてセットするものとする。
【0088】
この場合、移動体10の位置が中心から左右にずれることによって距離誤差が生じるものの、前述(図6)のイニシャル角度の誤差とは異なり、移動体10の移動にともなって誤差が拡大することにはならない。
【符号の説明】
【0089】
1 倉庫入口、10 移動体、10a 運転室、11 左前輪、12、13 光電センサ、14、15 反射板、16 エンコーダ、17 センシングリング、18 バッテリ、19 ジャイロ、20 コントローラ、21 電源部、22 現在位置認識装置、23 演算処理部、24 カウンタ部、25 角度演算部、26 入力部、27 データテーブル、30 表示操作器、L2 移動距離、Δt 差時間(動作時間差)、θ 角度。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オドメトリ法による移動体の自己位置判別装置であって、
前記移動体の進行方向に対して直角方向の対称位置に設置された2個の光電センサと、
前記移動体の現在位置を認識するための演算処理部を含む現在位置認識装置と、を備え、
前記現在位置認識装置は、前記移動体の現在位置検知演算の起点における現在位置演算開始時に、前記2個の光電センサを用いて、前記移動体の起点座標および起点角度を、前記移動体の移動エリヤに設定した座標および方位と合致させるように算出することを特徴とする移動体の自己位置判別装置。
【請求項2】
前記オドメトリ法による移動体の自己位置判別装置は、前記移動体の駆動部に設置されたエンコーダを含み、
前記現在位置認識装置は、前記2個の光電センサの各動作時間の差時間における前記移動体の移動距離を前記エンコーダから取得し、前記移動距離を用いた逆三角関数演算により、前記起点角度を算出することを特徴とする請求項1に記載の移動体の自己位置判別装置。
【請求項3】
前記現在位置認識装置は、あらかじめ設定されたデータテーブルを有し、前記2個の光電センサの各動作時間の差時間における前記移動体の移動距離を取得し、前記移動距離に対応した前記データテーブルを参照して比較演算を行うことにより、前記起点角度を算出することを特徴とする請求項1に記載の移動体の自己位置判別装置。
【請求項4】
前記2個の光電センサの各検知信号は、前記現在位置認識装置内の演算処理部に割り込み入力されて、前記起点角度の演算に用いられることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の移動体の自己位置判別装置。
【請求項5】
前記現在位置認識装置は、前記2個の光電センサの各検知信号を用いて、1msec以下のサイクリック演算処理により、前記移動体の起点角度を算出することを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の移動体の自己位置判別装置。
【請求項6】
前記2個の光電センサの各々は、反射板と発光受光一体の光源とからなる反射型光電センサにより構成されたことを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の移動体の自己位置判別装置。
【請求項7】
前記2個の光電センサの各々は、反射板とレーザ式の発光受光一体の光源とからなるレーザ式反射型光電センサにより構成されたことを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の移動体の自己位置判別装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−84192(P2013−84192A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−224838(P2011−224838)
【出願日】平成23年10月12日(2011.10.12)
【出願人】(599041606)三菱電機プラントエンジニアリング株式会社 (21)
【Fターム(参考)】