説明

移動体システム

【構成】 移動体2の走行方向に平行に2列に磁気マーク21,22を配置し、2個のリニアセンサ16,17で各磁気マーク21,22を基準とする絶対位置を求める。各磁気マーク21,22の中心の原点基準の絶対位置を記憶し、検出する磁気マークを切り替えながら、移動体2の絶対位置を求める。
【効果】 離散的に配置した磁気マークで、移動体の絶対位置を連続的に検出できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はスタッカークレーンや天井走行車、有軌道台車、ターンテーブルその他の移動体のシステムに関し、特にその絶対位置の検出に関する。
【背景技術】
【0002】
移動体システムでは、移動体の絶対位置の検出が重要である。この点に関し、駆動用モータのエンコーダ値をそのまま絶対位置に換算すると、車輪の滑りによる誤差が生じる。そこで移動経路が固定の場合、移動経路に沿って櫛歯などのマークを設けてカウントすることが考えられるが、櫛歯の分解能分の誤差が生じるし、停止後にバックラッシュが生じると誤差となる。この点に付き、特許文献1は停止位置の付近にリニアセンサの被検出マークを設け、移動体にセンサを設けて、各停止位置を基準とする絶対位置を検出することを提案している。この手法では目標停止位置へ接近すると減速を開始し、マークを検出すると、制御上の残距離をエンコーダなどで求めたものからリニアスケールを用いて求めたものへ切り替える。残距離をリニアスケールを用いたものに切り替えると、制御上はエンコーダの誤差に相当する誤差が突然発生したことになり、これに対して強い制御を施すと振動の原因となる。そこでエンコーダからリニアスケールに切り替えるまでに充分減速して、小さな制御ゲインで停止できるようにする必要がある。検出エリアが広いリニアスケールを設けるとこのような問題は解消するが、検出エリアの広いリニアスケールを設けることは難しい。
【特許文献1】特開2005−202464号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
この発明の課題は、個々のリニアセンサの検出スケールよりも広い範囲で、移動体の絶対位置を求めることができるようにすることにある。
請求項2の発明での追加の課題は、移動体の絶対位置が揺動してもリニアセンサを切り替える必要が無いようにすることにある。
請求項3の発明での追加の課題は、移動経路の全域に渡って移動体の絶対位置を求めることができるようにすることにある。
請求項4の発明での追加の課題は、被検出マークの番号をリニアセンサの信号から求めることができるようにすることにある。
請求項5の発明での追加の課題は、停電や故障等からの復旧時に、検出対象の被検出マークの番号の妥当性を簡単に検査できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
この発明の移動体システムは、移動体の移動方向に平行な被検出マークの列を少なくとも2列設けて、各列に被検出マークを離散的に配置し、前記少なくとも2列の被検出マークに対応して、前記移動方向に直交する方向での位置が異なるリニアセンサを少なくとも2個前記移動体に設けて、前記少なくとも2個のリニアセンサでの被検出マークに対する検出エリアを連続させると共に、前記少なくとも2個のリニアセンサの間で、前記検出エリアの端部毎に、用いるリニアセンサを切り替えるための手段と、用いるリニアセンサの信号から、移動体の絶対位置を検出するための手段とを設けたものである。
【0005】
好ましくは、被検出マークに対する前記少なくとも2個のリニアセンサでの検出エリアが互いに重なるように、前記少なくとも2列の被検出マークを配置する。
【0006】
特に好ましくは、移動体の移動経路の全域に渡って前記少なくとも2列の被検出マークを配置する。
【0007】
また好ましくは、用いるリニアセンサを切り替える毎に、検出対象の被検出マークの番号をカウントアップもしくはカウントダウンするための手段をさらに設ける。
【0008】
より好ましくは、検出対象の被検出マークの番号を移動体のトラブル時も記憶するための記憶手段と、移動体をトラブルから回復させた際に、少なくとも、記憶した検出対象の被検出マークの番号をどのリニアセンサが被検出マークを検出しているかで、記憶した検出対象の被検出マークの番号の妥当性を検査するための検査手段とを、さらに設けて、検査手段の検査結果が妥当な際に、前記記憶した被検出マークの番号を用いて移動体の絶対位置の初期値を求める。
【発明の効果】
【0009】
この発明では被検出マークを少なくとも2列配置し、各列毎にリニアセンサを設けて、検出するマークトリにアセンサを切り替えながら、移動体の絶対位置を求める。このため移動方向に沿った絶対位置を連続的に検出でき、しかも長大な被検出マークや長大なリニアセンサを設ける必要がない。絶対位置を連続的に検出できるので、エンコーダや櫛歯センサ、レーザ距離計などの補助的なセンサで絶対位置を補間する必要が無い。
【0010】
ここで少なくとも2個のリニアセンサの検出エリアが重なり合うようにすると、一方のリニアセンサから他方のリニアセンサへ切り替えた後にバックラッシュ等が生じて、元のリニアセンサの検出エリアへ移動体が戻っても、リニアセンサを切り替える必要がない。さらに2列の被検出マークの間で移動体がねじれると、2個のリニアセンサの検出エリアが重ならない場合、何れのリニアセンサも検出できないエリアが生じる。これに対し少なくとも2個のリニアセンサの検出エリアが重なり合うようにすると、リニアセンサを頻繁に切り替えたりする必要がない。
【0011】
移動体の移動経路の全域に渡って被検出マークの列を配置すると、移動経路上のどの位置でも絶対位置をリニアセンサで求めることができ、他の補助的なセンサで絶対位置を推定せねばならない位置が生じない。
【0012】
被検出マークの列を複数設けると、どのマークを検出しているのかを認識する必要がある。そこで被検出マークの付近にそのIDを示すRFIDなどのマークを設けて、被検出マークとは別にID用のマークを読み取っても良い。しかし移動体の移動方向に従って、検出した被検出マークをカウントアップもしくはカウントダウンすると、リニアセンサの信号自体から被検出マークの番号が判明する。
【0013】
移動体が停電やその他のトラブルで停止することがある。被検出マークをリニアセンサでカウントしてどの被検出マークを用いているかを自律的に判断すると、トラブル等から復旧した際に移動体の位置が不明になる。そこで検出対象の被検出マークの番号を移動体のトラブル時も記憶するための記憶手段を設けると、トラブルが発生する前に用いていた被検出マークの番号が判明する。問題はこの番号が正しいかどうかであるが、被検出マークを複数列に配置し各列毎にリニアセンサを設けると、どの列のリニアセンサが被検出マークを検出しているかから、記憶した被検出マークの番号をマークの列の単位まで確認できる。トラブル等の間に移動体が被検出マーク2個分以上を移動することは考え難いので、マークの列の単位まで妥当性を検査できると、被検出マークの記憶値が正しいものとして移動体を復旧できる。このためトラブルの都度、原点等の絶対位置を確認できる点まで移動体を移動させる必要が無く、停止していたその場から作業を再開できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に本発明を実施するための最適実施例を示す。
【実施例】
【0015】
図1〜図12に、実施例の移動体システムを示す。各図において、2は移動体で、ここではスタッカークレーンで、天井走行車や有軌道台車、ターンテーブルあるいはその他の移動体でもよい。なお移動体2は走行経路が定められている。4は台車、6は昇降台、8,9は前後のマストで、10,11は走行モータである。12,13は昇降モータで、図示しないドラムやプーリ、ギアなどを介して、ベルトやワイヤ、ロープなどの吊持材により昇降台6を昇降させる。なお走行モータ10,11や昇降モータ12,13の台数や配置などは任意である。昇降台6にはスライドフォーク14などの移載装置を設け、移載装置と昇降台6の間にターンテーブルなどを搭載してもよい。また台車4には、少なくとも左右一対のリニアセンサ16,17を設け、また昇降台6にはマスト8に沿って少なくとも左右一対のリニアセンサ18,19を設ける。
【0016】
20は走行レールで、その左右に例えば少なくとも2列に磁気マーク21,22を設け、また図3に示すように、例えばマスト8の左右に磁気マーク31,32を少なくとも2列に配置する。実施例では、リニアセンサ16,17の走行方向位置を同じにし、磁気マーク21,22を等ピッチで互い違いに配置する。リニアセンサ16,17の走行方向位置を異ならせる場合、磁気マーク21から磁気マーク22へのピッチと、磁気マーク22から磁気マーク21へのピッチも異ならせる。磁気マーク31,32はマスト8に2列に配置するが、マスト8側とマスト9側とに各1列配置してもよい。但しこの場合、昇降台6が移動体2の移動方向に傾斜すると、リニアセンサ18,19の出力が検出エリアの重なり部で一致しなくなり、補正が必要となる。実施例では、磁気マーク21,22を2列に配置したが、3列以上に配置してもよく、同様に磁気マーク31,32も3列以上に配置してもよい。さらに磁気マーク21,22等は、リニアセンサ16,17等との電磁結合により検出され、磁気マークに代えて強誘電体などのマークを用いてもよい。磁気マーク21,22等は例えば棒状で、実施例では棒状の磁石を用いるが、磁性体や反磁性体を用いてもよい。走行レール20の一端に走行原点が有り、他端に反原点が有る。
【0017】
図4にターンテーブル40への応用例を示し、41はターンテーブル40の駆動軸で、42は駆動モータである。ターンテーブル40の周囲の固定部側には、磁気マーク45,46を飛び飛びにかつ同心円上に少なくとも2列に配置し、ターンテーブル40側には磁気マーク45,46を配置した2つの円に対応して、リニアセンサ43,44を配置する。図1〜図4の各場合において、磁気マーク21,22等を固定側に、リニアセンサ16,17等を移動側に設ける。
【0018】
図5に、リニアセンサ16と磁気マーク21とを例に、リニアスケールの構成を示し、他のリニアセンサ17等や磁気マーク22等の場合も同様である。50は交流電源で、 sinωtに比例する交流電流を出力し、複数個のコイル51が例えば直列に配置されている。各コイルに加わる電圧は信号処理部52に入力され、演算部53でsinθ・sinωtとcosθ・cosωtに変換される。ここでθは、リニアセンサ16に対する磁気マーク21の位相で、演算部54は演算部53の出力を1つのリニアスケール内での座標、即ちリニアスケール座標LSCに変換する。なおリニアスケール内の原点、通常はリニアスケールの中心、の絶対座標をLSC0で表し、リニアスケール座標の上端(検出エリアの反原点側の端部)を+Aで、下端(検出エリアの原点側の端部)を-Aで表す。
【0019】
図6にリニアセンサ16,17からの信号の処理を例に、絶対位置算出部60の構成を示す。リニアセンサ18,19やリニアセンサ43,44に対しても、同様の絶対位置算出部60を設けて、昇降方向の絶対位置や回動角の絶対値を算出する。入出力61へ、2つのリニアセンサ16,17からのリニアスケール座標LSC1,LSC2が、交互に入力される。磁気マークに接してリニアスケール座標を出力しているリニアセンサを有効なリニアセンサという。リニアスケール切り替え部62は、各リニアスケールの検出エリアの端部で、移動体の移動方向に従って、用いるリニアスケールを切り替える。なお移動方向は駆動モータの回転方向で見た移動方向で、バックラッシュなどによる移動を含まない。リニアスケールデータ記憶部63は、現在のリニアスケール座標LSC並びに現在のリニアスケール番号LSCNo.及び現在の絶対座標を記憶する。ここで現在のリニアスケール番号は添字iで表し、その最下位ビットの0または1は磁気マーク21,22の列を表す。絶対座標は移動体の走行原点からの座標で、移動体が反原点側へ移動すると絶対座標が増す。オフセット記憶部64は、各リニアスケールに対してその原点座標すなわちLSCi0(オフセット)を記憶する。表1に実施例での用語を示す。
【0020】
表1 用 語
LS リニアスケール: 磁気マークとリニアセンサの組み合わせで実現されるスケール;スケール番号を添字iで示し、リニアスケール内の原点(中心)からのリニアスケール内座標をLSCiで、その上限を+Aで、下限を-Aで示し、リニアスケールを切り替える点をAで示す。リニアスケールの有効範囲を検出エリアという。
LSC リニアスケール内座標
LSCNo. リニアスケールの番号(添字i)で具体的には磁気マークの番号: 移動体の原点の有るリニアスケールで、i=1、反原点側に向かって番号が増加し、番号の偶奇性は2列のどちらの列かを示す。
LSCi0 リニアスケール内原点の絶対座標: オフセットということがある。
a リニアスケールの重なりを示すパラメータで、リニアスケール端部での、隣接するリニアスケールとの重なりの約1/2の距離がa: LSCの上限あるいは下限からマージンaで、リニアスケールを切り替える。
t 移動体の原点を基準とする絶対座標: 絶対座標と絶対位置は同義語で、共に原点基準の座標や位置を示す。
【0021】
図6の65,66は入出力である。67は、各リニアスケールの原点座標LSCi0に対する絶対座標(オフセット)を取得するためのオフセット取得部である。正当性検査部68は、停電や移動体2のトラブルからの復旧時に、バックアップメモリ70に記憶したリニアスケール番号の妥当性等を検査する。バックアップメモリ70は、リニアスケールデータ記憶部63並びにオフセット記憶部64のデータを電池あるいは無停電電源などにより記憶し、移動体2の電源をオフしても記憶を維持する。移動体2の電源がオフすると、バックアップメモリ70のデータは更新されず、またリニアセンサ16,17等も動作を停止する。エンコーダ71は走行モータの回転数の積算値などを記憶及び出力し、電池や無停電電源などにより動作して、移動体の電源がオフしている際にも動作を続行する。エンコーダバックアップメモリ72は、エンコーダ71のデータをバックアップするメモリで、移動体の電源をオフすると、記憶値が更新されなくなるので、電源をオフする直前のエンコーダの出力を記憶する。
【0022】
図7に、リニアスケールLSiと次のリニアスケールLSi+1の間の、リニアセンサの切り替えを示す。各磁気マークは長さが例えば数10mm程度で、各リニアセンサはその検出範囲が例えば数100mm〜1000mm程度である。リニアスケールの幅は数100mm〜1000mm程度で、隣り合うリニアスケールの間で検出エリアが例えば数10mm程度重なるようにする。そして重なりの目標値の1/2をマージンとし、リニアスケールLSiからリニアスケールLSi+1へ切り替える際には、リニアスケールLSiの上限値+Aよりもマージンだけ小さい切り替え点Aで、リニアスケールLSi+1へ切り替える。リニアスケールLSi+1からリニアスケールLSiへ切り替える際には、リニアスケールLSi+1の検出エリアの下限-Aよりもマージンaだけリニアスケール座標が大きい点で切り替えを行う。
【0023】
磁気マーク等が理想的に設置されている場合、2つの切り替え点は一致するが、これらは特に一致させる必要はない。リニアスケールの切り替えは、走行モータや昇降モータなどによる駆動の方向に合わせて行う。例えば図7の左から右へと移動体が駆動されて、切り替え点Aを通過すると、リニアスケールを切り替える。この直後に移動体が停止し、バックラッシュなどにより移動体が図7の左側に逆移動して切り替え点を再度通過したとしても、リニアスケールの切り替えは行わない。磁気マークは例えば2列に配置されているので、移動体にねじれがあると、一方の磁気マークを基準とする切り替え点と、他方の磁気マークを基準とする切り替え点が異なることがある。このため一方の磁気マークの切り替え点を通過していても、他方の磁気マークの切り替え点を通過していないこともある。このような場合も、リニアスケールを再度切り替えることはしない。これらの結果、リニアスケールを頻繁に切り替えることを防止できる。
【0024】
図8に、2列のリニアスケールを用いた絶対位置の算出を示す。リニアスケールLS1は移動体の走行原点付近に設けられ、その原点座標LSC10は走行原点で、絶対座標は0である。各リニアスケールに対してその原点座標LSCi0がオフセット記憶部64に記憶され、各リニアスケールLSi内の原点を基準とするリニアスケール座標が、リニアスケール座標LSCiとして出力される。そこで現在用いているリニアスケールの番号(添字i)が判明し、これに対するオフセットが判明すると、リニアスケール座標LSCiをオフセットLSCi0に加算することにより、現在の絶対座標が判明する。
【0025】
図9に、リニアスケールの原点座標LSCi0の取得アルゴリズムを示す。移動体を走行原点側から反原点側へスタートさせる。また走行原点位置は例えば最初のリニアスケールの原点位置(中心位置)とし、最初のリニアスケール(LSNo.=1)の原点位置を検出すると、その位置で絶対座標tを0とする。台車を移動させ、次のリニアスケールを検出すると、切り替え点での絶対座標tAiを記憶し、切り替えた新たなリニアスケールLSi+1でのリニアスケール座標LSCi+1を記憶し、リニアスケール番号iを1加算する。リニアスケール番号iは既に1加算済みなので、新たなリニアスケールLSCi+1でのリニアスケール内原点を検出すると、切り替え点Aからのリニアスケール座標の変化分を、記憶済みの絶対座標tAiに加え、リニアスケール内原点の絶対座標として記憶する。ここでリニアスケールを切り替えた際に求めたリニアスケール座標LSCi+1を、切り替え点AからリニアスケールLSi+1のリニアスケール内原点までの距離に換算し、直ちにリニアスケールLSi+1のリニアスケール内原点の絶対座標を求めてもよい。
【0026】
以上のループを最後のリニアスケールまで繰り返し、全リニアスケールに対してリニアスケール内原点座標の絶対値を求めて記憶する。なおリニアスケールを設計データなどに基づいて設置し、移動体を移動させる以外の手法で、リニアスケール内原点座標の絶対値を求めてもよい。
【0027】
図10にリニアスケールの切り替えアルゴリズムを示す。隣接したリニアスケールには検出エリアの重なりがあるので、この部分で左右のリニアスケールが共に有効になる。次に現在使用中のリニアスケールが左もしくは右のいずれであるかを求める。使用中のリニアスケールが例えば左の場合、駆動モータの回転方向が+方向で、リニアスケール座標が+側にあり、かつ検出エリアの端部のマージンaを移動体が越えた場合に、次の右側のリニアスケールを有効にし、リニアスケール番号を1加算する。これとは逆に、モータの駆動方向が−側で、リニアスケール座標が負であり、かつ−側のマージンを越えた場合、リニアスケール番号を1減算して、有効なリニアスケールを右側のリニアスケールに変更する。これ以外の場合は、駆動モータの動作と同期した変化ではないので、リニアスケールの切り替えは行わない。
【0028】
右側のリニアスケールを現在使用中の場合、モータの駆動方向が+で、リニアスケール座標が+で、かつ+側でリニアスケール座標がマージンaを越えている場合、リニアスケール番号を1加算する。モータの回転方向が−で、リニアスケール座標が負であり、−側でリニアスケール座標がマージンaを越えた場合、リニアスケール番号を1減算する。これ以外の場合は、リニアスケール番号を維持する。以上によって使用するリニアスケールを切り替える。
【0029】
図11に示すように、1つのリニアスケールの検出エリア内の移動では、現在のリニアスケール番号と、リニアスケール内原点の絶対座標LSCi0を用いる。リニアスケール座標の現在位置LSCiを用いて、絶対座標tを t=LSCi0+LSCi により求める。
【0030】
図12に、停電や移動体のトラブルなどからの復旧時のリセット処理を示す。バックアップデータから、リニアスケール番号iとバックアップしたリニアスケール座標LSCを取得する。同様にエンコーダ用バックアップデータから、モータのエンコーダ値を取得する。次に電源をオンすると、リニアスケールは動作を開始し、左右のリニアスケールの内、少なくとも一方が有効で、これからリニアスケール番号の最下位ビットが判明する。移動体がトラブル時や停電時にリニアスケール2個分以上移動していなければ、バックアップしたリニアスケール番号の最下位ビットと、現在有効なリニアスケールが左側か右側かのデータとから、移動体が同じリニアスケール上にとどまっているか、トラブル等の間に別のリニアスケールへ移動したかが判明する。なお左右のリニアスケールが共に有効な場合、バックアップデータから求めたリニアスケール番号の最下位ビットに対応するリニアスケールが有効なはずである。次にリニアスケール座標自体をバックアップしている場合、リセット時に新たに測定したリニアスケール座標と比較し、誤差が許容範囲内かどうかをチェックする。さらにバックアップメモリのエンコーダ値と実際のエンコーダ値との誤差が許容範囲内かどうかをチェックする。なおエンコーダは電池や無停電電源などにより動作しているので、移動体の電源が遮断されている間も、駆動軸が回転すればエンコーダ値が更新される。なおリニアスケール座標LSCはバックアップしておかなくても良い。
【0031】
リニアスケール番号が妥当で、リニアスケール座標が妥当で、エンコーダ値が妥当な場合、移動体の電源が遮断された後の移動量は許容範囲内である。そこでこの場合、現在のリニアスケール座標とリニアスケール番号とを元に絶対座標を復元し、移動体を再作動させる。上記のいずれかのデータに妥当性がない場合、例えば移動体を原点に移動させ、正確な絶対座標を再度取得する。なおバックアップしたデータに信頼性がない場合、移動体を一律に原点に移動させる必要はなく、バックアップしたデータの信頼性に合わせた復旧処理を多種類設けてもよい。
【0032】
実施例では以下の効果が得られる。
(1) 移動体の移動経路の全域に渡って、絶対位置を求めることができる。
(2) 移動体の移動経路の全域に渡るリニアセンサを設けることは実質上不可能であるが、実施例では2つのリニアセンサを交互に切り替えれば良く、長大なリニアセンサを設ける必要がない。
(3) 移動体の移動や昇降、回動など任意の種類の動作に対して、絶対座標を求めることができる。
(4) リニアスケールの検出エリアの端部に重なりを持たせるので、移動体のバックラッシュや2列の磁気マーク間での移動体の捻れなどにより、リニアスケールを頻繁に切り替える必要がない。
(5) 各リニアスケール内の原点の絶対座標を自動的に取得できる。
(6) どのリニアスケールが使用中であるかを、リニアセンサ自体の信号により求めることができる。
(7) 移動体をリセットする際に、バックアップしたリニアスケール番号等が妥当であれば、移動体を原点まで再移動させずにリセットできる。
【0033】
実施例では磁気マークを2列に配置したが3列以上に配置してもよく、この場合磁気マークの列の数だけのリニアセンサを移動体に設ける。また実施例ではリニアスケール座標とエンコーダ値の双方をバックアップしたが、例えばその一方のみをバックアップしてもよい。用いる移動体の種類はスタッカークレーンに限らず天井走行車や有軌道台車、ターンテーブル、コンベヤ、循環棚など任意である。検出エリアの重なり部の切り替え点で100%リニアセンサを切り替える代わりに、重なり部では左右のリニアセンサで求めた絶対位置を重み付き平均して絶対位置に換算し、その重みを重なり部内で徐々に変化させても良い。

【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】実施例の移動体システムの要部平面図
【図2】実施例の移動体システムの要部側面図
【図3】実施例でのマストへの磁気マークの配置を模式的に示す図
【図4】実施例でのターンテーブルへの磁気マークの配置を模式的に示す図
【図5】実施例でのリニアセンサのブロック図
【図6】実施例での座標算出部のブロック図
【図7】実施例での、リニアスケールの切替を模式的に示す図
【図8】実施例での、リニアスケールの切替とオフセット補正を模式的に示す図
【図9】実施例でのリニアスケールのオフセットLSCi0の取得アルゴリズムを示すフローチャート
【図10】実施例でのリニアスケールの切り替えアルゴリズムを示すフローチャート
【図11】実施例でのリニアスケール内移動アルゴリズムを示すフローチャート
【図12】実施例でのリセットアルゴリズムを示すフローチャート
【符号の説明】
【0035】
2 移動体
4 台車
6 昇降台
8,9 マスト
10,11 走行モータ
12,13 昇降モータ
14 スライドフォーク
16,17 リニアセンサ
18,19 リニアセンサ
20 走行レール
21,22 磁気マーク
31,32 磁気マーク
40 ターンテーブル
41 駆動軸
42 駆動モータ
43,44 リニアセンサ
45,46 磁気マーク
50 交流電源
51 コイル
52 信号処理部
53,54 演算部
60 絶対位置算出部
61 入出力
62 リニアスケール切り替え部
63 リニアスケールデータ記憶部
64 オフセット記憶部
65,66 入出力
67 オフセット取得部
68 正当性検査部
70 バックアップメモリ
71 エンコーダ
72 エンコーダバックアップメモリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体の移動方向に平行な被検出マークの列を少なくとも2列設けて、各列に被検出マークを離散的に配置し、前記少なくとも2列の被検出マークに対応して、前記移動方向に直交する方向での位置が異なるリニアセンサを少なくとも2個前記移動体に設けて、前記少なくとも2個のリニアセンサでの被検出マークに対する検出エリアを連続させると共に、
前記少なくとも2個のリニアセンサの間で、前記検出エリアの端部毎に、用いるリニアセンサを切り替えるための手段と、
用いるリニアセンサの信号から、移動体の絶対位置を検出するための手段とを設けた移動体システム。
【請求項2】
被検出マークに対する前記少なくとも2個のリニアセンサでの検出エリアが互いに重なるように、前記少なくとも2列の被検出マークを配置したことを特徴とする、請求項1の移動体システム。
【請求項3】
移動体の移動経路の全域に渡って前記少なくとも2列の被検出マークを配置したことを特徴とする、請求項2の移動体システム。
【請求項4】
用いるリニアセンサを切り替える毎に、検出対象の被検出マークの番号をカウントアップもしくはカウントダウンするための手段を、さらに設けたことを特徴とする、請求項1の移動体システム。
【請求項5】
検出対象の被検出マークの番号を移動体のトラブル時も記憶するための記憶手段と、
移動体をトラブルから回復させた際に、少なくとも、記憶した検出対象の被検出マークの番号をどのリニアセンサが被検出マークを検出しているかで、記憶した検出対象の被検出マークの番号の妥当性を検査するための検査手段とを、さらに設けて、
検査手段の検査結果が妥当な際に、前記記憶した被検出マークの番号を用いて移動体の絶対位置の初期値を求めるようにしたことを特徴とする、請求項4の移動体システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−45873(P2008−45873A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−218694(P2006−218694)
【出願日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【出願人】(000006297)村田機械株式会社 (4,916)
【Fターム(参考)】