説明

移動体位置測位装置

【課題】より確実且つ高精度に移動体の位置を測位すること。
【解決手段】複数の衛星からの信号を受信する受信手段と、該受信手段により受信された信号に基づき観測疑似距離を算出する観測疑似距離算出手段と、該観測疑似距離算出手段により算出された観測疑似距離に基づき、繰り返し測位演算を行なう測位演算手段と、を備える移動体位置測位装置であって、前記測位演算手段が繰り返し測位演算を行なう中で前回に測位された測位結果と衛星位置から求められる距離に、ADR(Accumulated Doppler Range)の変化量を加算して推定疑似距離を算出する推定疑似距離算出手段を備え、前記測位演算手段は、所定の場合に、前記観測疑似距離算出手段により算出された観測疑似距離に代えて前記推定疑似距離算出手段が算出した推定疑似距離を用いて測位演算を行なうことを特徴とする、移動体位置測位装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衛星からの信号に基づいて移動体の位置を測位する移動体位置測位装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、衛星からの信号に基づいて移動体の位置を測位する装置が広く用いられている。こうした装置における問題の一つに、マルチパスと称されるものがある。これは、建物等によって反射された信号を受信することによって衛星と受信機との距離(疑似距離)が現実の距離からズレを生じ、結果として装置の現在位置を誤認識するというものである。
【0003】
係る点に鑑み、マルチパスの影響が小さいドップラー周波数を用いた装置についての発明が開示されている(例えば、特許文献1参照)。この装置では、衛星からの信号をGPSアンテナで受信し、受信した信号からドップラー周波数と疑似距離を算出し、ドップラー周波数と前回算出された疑似距離を用いて疑似距離推定を行なって、推定された疑似距離と受信信号から算出された疑似距離を選択的に用いて測位演算を行なうものとしている。
【特許文献1】特開2001−4734号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来のGPS受信機においては、疑似距離推定の際に、衛星からの信号を用いた前回算出された疑似距離を基準として、これにドップラー周波数を加味して疑似距離を推定している。従って、比較的長い間、衛星からの信号が遮断されたり、マルチパスが生じた際に、疑似距離の推定が不可能又は低精度となる場合が生じる。
【0005】
本発明はこのような課題を解決するためのものであり、より確実且つ高精度に移動体の位置を測位することが可能な移動体位置測位装置を提供することを、主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明の第1の態様は、
複数の衛星からの信号を受信する受信手段と、
該受信手段により受信された信号に基づき観測疑似距離を算出する観測疑似距離算出手段と、
該観測疑似距離算出手段により算出された観測疑似距離に基づき、繰り返し測位演算を行なう測位演算手段と、
を備える移動体位置測位装置であって、
前記測位演算手段が繰り返し測位演算を行なう中で前回に測位された測位結果と衛星位置から求められる距離に、ADR(Accumulated Doppler Range)の変化量を加算して推定疑似距離を算出する推定疑似距離算出手段を備え、
前記測位演算手段は、所定の場合に、前記観測疑似距離算出手段により算出された観測疑似距離に代えて前記推定疑似距離算出手段が算出した推定疑似距離を用いて測位演算を行なうことを特徴とするものである。
【0007】
この本発明の第1の態様によれば、マルチパス等による受信精度の悪化に比較的影響されないADRの変化量を用いて推定疑似距離を算出する推定疑似距離算出手段を備えるため、観測疑似距離のみを用いて測位演算を行なうものに比して、より高精度に移動体の位置を測位することができる。また、「所定の場合」がある程度の時間継続した場合には、推定疑似距離の基準となる測位結果が、ADRを用いて推定された測位結果となる。このため、単に観測疑似距離にADRの変化量を加算して推定疑似距離を求めるものと比較して、より確実に移動体の位置を測位することができる。
【0008】
従って、より確実且つ高精度に移動体の位置を測位することができる。
【0009】
本発明の第2の態様は、
複数の衛星からの信号を受信する受信手段と、
該受信手段により受信された信号に基づき観測疑似距離を算出する観測疑似距離算出手段と、
該観測疑似距離算出手段により算出された観測疑似距離に基づき、繰り返し測位演算を行なう測位演算手段と、
を備える移動体位置測位装置であって、
前記測位演算手段が繰り返し測位演算を行なう中で前回に測位された測位結果と衛星位置から求められる距離に、ADR(Accumulated Doppler Range)の変化量を加算して推定疑似距離を算出する推定疑似距離算出手段を備え、
前記測位演算手段は、信号を受信可能な衛星について受信精度が低いか否かを判定し、受信精度が低いと判定した衛星については、前記観測疑似距離算出手段により算出された観測疑似距離に代えて前記推定疑似距離算出手段が算出した推定疑似距離を用いて測位演算を行なうことを特徴とするものである。
【0010】
この本発明の第2の態様によれば、マルチパス等による受信精度の悪化に比較的影響されないADRの変化量を用いて推定疑似距離を算出する推定疑似距離算出手段を備えるため、観測疑似距離のみを用いて測位演算を行なうものに比して、より高精度に移動体の位置を測位することができる。また、「所定の場合」がある程度の時間継続した場合には、推定疑似距離の基準となる測位結果が、ADRを用いて推定された測位結果となる。このため、単に観測疑似距離にADRの変化量を加算して推定疑似距離を求めるものと比較して、より確実に移動体の位置を測位することができる。
【0011】
従って、より確実且つ高精度に移動体の位置を測位することができる。
【0012】
本発明の第1又は第2の態様において、
車両の速度ベクトルに基づき測位演算を行なう副測位演算手段と、
前記測位演算手段により測位された測位結果と、前記副測位演算手段により測位された測位結果と、の精度判定を行ない、該精度判定の結果に基づきいずれかの測位結果を選択する測位結果選択手段と、
を備えるものとしてもよい。
【0013】
また、本発明の第1又は第2の態様において、
移動体の挙動に基づき該移動体の移動量を算出する移動量算出手段を備え、
前記推定疑似距離算出手段は、前記前回に測位された測位結果が存在しない場合は、前記移動量算出手段により算出された移動量を用いた測位結果を、前記前回に測位された測位結果とみなして推定疑似距離を算出する手段であるものとしてもよい。
【0014】
こうすれば、例えばトンネルを通過して衛星からの信号が完全に遮断された後であっても、速やかに移動体位置の測位演算を再開することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、より確実且つ高精度に移動体の位置を測位することが可能な移動体位置測位装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、添付図面を参照しながら実施例を挙げて説明する。
【実施例】
【0017】
<第1実施例>
図1は、本発明に係る移動体位置測位装置が適用されるGNSS(Global Navigation System)の全体的な構成を示すシステム構成図である。GNSSは、衛星からの信号を用いて移動体に搭載された測位装置が移動体の位置を測位する測位システムであり、GPS(Global Positioning System)、Galileo、Glonass等の衛星を用いた測位システムを含む。以下の説明ではGPSを基本構成として説明するが、本発明は、GPSに限らずあらゆるGNSSに広く適用可能である。
【0018】
図1に示す如く、GPSは、地球周りを周回するGPS衛星10と、地球上に位置し地球上を移動しうる車両90と、を有する。なお、車両90は、あくまで移動体の一例であり、その他の移動体としては、自動二輪車、鉄道、船舶、航空機、ホークリフト、ロボットや、人の移動に伴い移動する携帯電話等の情報端末等がありうる。
【0019】
GPS衛星10は、航法メッセージ(衛星信号)を地球に向けて常時放送する。航法メッセージには、対応するGPS衛星10に関する衛星軌道情報(エフェメリスやアルマナク)、時計の補正値、電離層の補正係数が含まれている。航法メッセージは、C/Aコードにより拡散されL1波(周波数:1575.42MHz)に乗せられて、地球に向けて常時放送されている。なお、L1波は、C/Aコードで変調されたSin波とPコード(Precision Code)で変調されたCos波の合成波であり、直交変調されている。C/Aコード及びPコードは、擬似雑音(Pseudo Noise)符号であり、−1と1が不規則に周期的に並ぶ符号列である。
【0020】
なお、現在、24個のGPS衛星10が高度約20,000kmの上空で地球を一周しており、各4個のGPS衛星10が55度ずつ傾いた6つの地球周回軌道面に均等に配置されている。従って、天空が開けている場所であれば、地球上のどの場所にいても、常時、少なくとも5個以上のGPS衛星10が観測可能である。
【0021】
車両90には、移動体位置測位装置としての移動体位置測位装置1が搭載される。移動体位置測位装置1は、以下で詳説する如く、GPS衛星10からの衛星信号に基づいて、車両90の位置を測位する。
【0022】
図2は、図1の車両90に搭載される移動体位置測位装置1のシステム構成例である。図2には、説明の複雑化を避けるため、GPS衛星10(下付きの符号は、衛星番号)が1つだけ示されている。従って、GPS衛星10からの衛星信号に関する信号処理について代表して説明する。GPS衛星10からの衛星信号に関する信号処理は、他のGPS衛星10,10等からの衛星信号に関する信号処理と実質的に同じである。
【0023】
本実施例の移動体位置測位装置1は、図2に示すように、主要な構成として、GPSアンテナ20と、情報処理装置30と、を有する。情報処理装置30には、車両センサ80が接続される。
【0024】
情報処理装置30は、例えばマイクロコンピュータであり、ROMに記憶されたプログラムを実行することにより機能する機能ブロックとして、観測疑似距離算出部40と、推定疑似距離算出部50と、測位演算部60と、を備える。
【0025】
車両センサ80は、移動体位置測位装置1に内蔵されてもよいし、移動体位置測位装置1の外部に設けられ、バス等により接続されるものであってもよい。車両センサ80は、車両90の移動量及び向き(方位)に関連する情報(以下、「車両情報」という)を取得するセンサであり、複数種のセンサの組み合わせであってよい。例えば、車両センサ80は、車両90の方位を検出する磁気インピーダンスセンサ(地磁気センサ)と、車両90の加速度を検出する加速度センサとの組み合わせであってよい。或いは、車両センサ80は、加速度センサと、車両90のヨー方向の速度(角速度)を検出するヨーレートセンサ(ジャイロセンサ)との組み合わせ(即ち、INSセンサ)であってもよい。車両センサ80からの車両情報は、所定周期毎に、測位演算部60に入力される。
【0026】
観測疑似距離算出部40は、GPSアンテナ20が受信した信号について、内部で発生させたレプリカC/Aコードを用いてC/Aコード同期を行い、航法メッセージを取り出すと共に、GPS衛星10と車両90(正確には移動体位置測位装置1)との間の観測擬似距離ρを算出する。観測擬似距離ρとは、GPS衛星10と車両90との間の真の距離とは異なり、時計誤差(クロックバイアス)や電波伝搬速度変化による誤差を含む。C/Aコード同期の方法は、多種多様であり、任意の適切な方法が採用されてよい。例えば、DDL(Delay―Locked Loop)を用いて、受信したC/Aコードに対するレプリカC/Aコードの相関値がピークとなるコード位相を追尾する方法であってよい。
【0027】
ここで、GPS衛星10に対する観測擬似距離ρは、例えば次式(1)により算出される。
【0028】
ρ=N×300 …(1)
【0029】
ここで、Nは、GPS衛星10と車両90との間のC/Aコードのビット数に相当し、レプリカC/Aコードの位相及び移動体位置測位装置1内部の受信機時計に基づいて算出される。なお、数値300は、C/Aコードが、1ビットの長さが1μsであり、1ビットに相当する長さが約300m(1μs×光速)であることに由来する。このようにして算出された観測擬似距離ρを表す信号は、測位演算部60に入力される。なお、算出された観測擬似距離ρは、例えば後述のドップラー周波数変化量Δfを用いてフィルタ(図示せず)によりキャリアスムージングを受けてから測位演算部60に入力されてもよい。
【0030】
推定疑似距離算出部50は、衛星信号の搬送波位相を測定する機能を備え、内部で発生させたレプリカキャリアを用いて、ドップラーシフトした受信搬送波のドップラー周波数変化量Δfを測定する。ドップラー周波数変化量Δfは、レプリカキャリアの周波数frと既知の搬送波周波数fc(1575.42MHz)の差分(=fr−fc)として測定される。係る機能は、レプリカキャリアを用いてキャリア相関値を演算して受信キャリアを追尾するPLL(Phase-Locked Loop)により実現されてよい。
【0031】
更に、推定疑似距離算出部50は、ドップラー周波数変化量Δfを積分することにより、ADR(Accumulated Doppler Range)を算出する。
【0032】
そして、推定疑似距離算出部50は、測位演算部60が繰り返し測位演算を行なう中で前回に測位された測位結果と衛星位置から次式(2)により求められる距離ρ−1に、ADRの変化量を加算して、次式(3)により推定疑似距離ρ#を算出する。この推定疑似距離ρ#を表す信号は、測位演算部60に入力される。なお、「前回」とは、繰り返し処理を実行する中で前回算出された値を意味する。前回算出された値は、情報処理装置30のRAM等に逐次記憶されるものとする。
【0033】
【数1】

ρ#=ρ−1+(ADRの今回算出値−ADRの前回算出値) …(3)
【0034】
測位演算部60は、GPS衛星10の位置(以下、「衛星位置」という)を算出する。具体的には、測位演算部60は、航法メッセージの衛星軌道情報及び現在の時間に基づいて、GPS衛星10の、ワールド座標系における現在位置(X1、Y1、Z1)を計算する。なお、GPS衛星10は、人工衛星の1つであるので、その運動は、地球重心を含む一定面内(軌道面)に限定される。また、GPS衛星10の軌道は地球重心を1つの焦点とする楕円運動であり、ケプラーの方程式を逐次数値計算することで、軌道面上でのGPS衛星10の位置が計算できる。また、GPS衛星10の位置(X1、Y1、Z1)は、GPS衛星10の軌道面とワールド座標系の赤道面が回転関係にあることを考慮して、軌道面上でのGPS衛星10の位置を3次元的な回転座標変換することで得られる。なお、ワールド座標系とは、図3に示すように、地球重心を原点として、赤道面内で互いに直交するX軸及びY軸、並びに、この両軸に直交するZ軸により定義される。
【0035】
更に、測位演算部60は、基本的には、衛星位置の算出結果と、観測疑似距離算出部40から供給される観測擬似距離ρに基づいて、車両90の位置(Xu,Yu,Zu)を測位する。車両90の位置は、3つのGPS衛星10に対して得られるそれぞれの観測擬似距離ρ及び衛星位置を用いて、三角測量の原理で導出される。この場合、観測擬似距離ρは上述の如く時計誤差を含むので、4つ目のGPS衛星10に対して得られる観測擬似距離ρ及び衛星位置を用いて、時計誤差成分が除去される。以下、この測位方法を通常測位と称する。通常測位の測位周期は、例えば観測周期(例えば1ms)或いは所定数の観測周期(例えば50msや100ms)であってよい。測位結果(衛星位置及び車両位置)は、推定疑似距離算出部50に出力されると共に、車載ナビゲーションシステム等に提供される。
【0036】
なお、車両90の位置の測位方法としては、上述のような単独測位に限られず、干渉測位(既知の点に設置された固定局での受信データを併用する方式)であってもよい。干渉測位の場合、上述の如く固定局及び車両90にてそれぞれ得られる観測擬似距離ρの一重位相差や2重位相差等を用いて車両90の位置が測位されることになる。
【0037】
また、測位演算部60は、所定の場合には、観測疑似距離算出部40により算出された観測疑似距離ρに代えて推定疑似距離算出部50が算出した推定疑似距離ρ#を用いて測位演算を行なう。この結果、推定疑似距離算出部50に供給される測位結果は、推定疑似距離ρ#を用いて演算されたものとなる。
【0038】
ここで、所定の場合とは、例えば、受信可能な衛星のうちいずれかの衛星において受信精度が悪化しており、且つ推定疑似距離ρ#が算出可能な衛星の数が所定数以上である場合である。ここで、推定疑似距離ρ#が算出可能でない場合とは、ADRの前回算出値が存在しない場合、具体的な場面としては当該衛星が今回初めて受信可能な状態となった場面である。また、所定数とは、測位演算を行なうのに必要な衛星の数であり、一般的には4個とされている。但し、測位演算手法によって増減することは可能である。
【0039】
受信精度が悪化、より具体的にはマルチパスが生じているか否かは、観測疑似距離算出部40が算出する観測疑似距離ρが所定値以上ジャンプした際に、マルチパスが生じた(或いはマルチパスが終了した)旨を示すフラグを設定しておくこと等により判断することができる。なお、係る判断については本発明の中核をなさないので詳細な説明を省略する。上記例示した如何なる手法によって判断しても構わない。
【0040】
図4は、本発明の第1実施例に係る推定疑似距離算出部50により実行される特徴的な処理の流れを示すフローチャートである。本フローは、所定周期をもって繰り返し実行される。
【0041】
推定疑似距離算出部50は、各衛星について、以下のS100及び102の処理を実行する。まず、前回の測位結果と衛星座標から、上式(2)に従って距離ρ−1を算出する(S100)。
【0042】
そして、上式(3)に従って、算出した距離ρ−1にADRの変化量を加算して、推定疑似距離ρ#を算出する(S102)。
【0043】
図5は、本発明の第1実施例に係る測位演算部60により実行される特徴的な処理の流れを示すフローチャートである。本フローは、図4のフローチャートにおける所定周期と同期して、繰り返し実行される。
【0044】
まず、測位演算部60は、全ての衛星の受信精度が良いか否かを判定する(S200)。
【0045】
全ての衛星の受信精度が良い場合は、観測疑似距離ρを用いて測位演算を実行する(S202)。
【0046】
一方、全ての衛星の受信精度が良い訳ではない場合は、推定疑似距離ρ#を算出可能な衛星の数が所定数未満であるか否かを判定する(S204)。
【0047】
推定疑似距離ρ#を算出可能な衛星の数が所定数未満である場合は、観測疑似距離ρを用いて測位演算を実行する(S202)。この際に、受信精度が悪化している衛星についての観測疑似距離ρを除外してもよい。
【0048】
一方、推定疑似距離ρ#を算出可能な衛星の数が所定数以上である場合は、推定疑似距離ρ#を用いて測位演算を実行する(S206)。
【0049】
係る処理によって、市街地等において、いずれかの衛星についてマルチパス等により受信精度が悪化した場合に、推定疑似距離ρ#を用いることとなる。この結果、観測疑似距離ρを用いて測位演算を行なう場合に比して、より高精度に車両90の位置を測位することができる。
【0050】
また、このようにいずれかの衛星についてマルチパス等により受信精度が悪化した状態がある程度の時間継続した場合には、推定疑似距離ρ#の基準となる距離ρ−1が、ADRを用いて推定された測位結果に基づくものとなる。このため、単に観測疑似距離ρにADRの変化量を加算して推定疑似距離ρ#を求めるものと比較して、より確実に車両90の位置を測位することができる。
【0051】
以上説明した本実施例の移動体位置測位装置1によれば、より確実且つ高精度に移動体の位置を測位することができる。
【0052】
<第2実施例>
以下、本発明の第2実施例に係る移動体位置測位装置2について説明する。移動体位置測位装置2は、測位演算部60の処理内容が第1実施例の移動体位置測位装置1と異なる点以外は、第1実施例の移動体位置測位装置1とハードウエア構成及び処理内容に関して共通するため、図1〜図4及びその説明を援用することとし、共通する構成要素についての説明を省略する。
【0053】
本実施例に係る測位演算部60は、信号を受信可能な衛星についてマルチパスが生じたか否かを判定し、マルチパスが生じたと判定した衛星については、観測疑似距離算出部40により算出された観測疑似距離に代えて推定疑似距離算出部50が算出した推定疑似距離を用いて測位演算を行なう。
【0054】
図6は、本発明の第2実施例に係る測位演算部60により実行される特徴的な処理の流れを示すフローチャートである。本フローは、図4のフローチャートにおける所定周期と同期して、繰り返し実行される。
【0055】
測位演算部60は、各衛星について、以下のS300〜S304の処理を実行する。まず、選択された衛星の受信精度が良い(例えば、マルチパスが生じていない)か否かを判定する(S300)。
【0056】
選択された衛星の受信精度が良い場合は、当該衛星について観測疑似距離ρを採用する(S302)。
【0057】
一方、選択された衛星の受信精度が悪い場合は、当該衛星について推定疑似距離ρ#を採用する(S304)。
【0058】
そして、各衛星についていずれの疑似距離を採用するかを決定すると、各衛星について採用した疑似距離を用いて測位演算を行なう(S306)。
【0059】
この際に、観測疑似距離ρと推定疑似距離ρ#が混在する場合がある。そこで、本実施例の測位演算部60は、以下の方程式を最小二乗法及びニュートン法を用いて解き、観測疑似距離ρを算出した際の時計誤差Δtと、推定疑似距離ρ#を算出した際の時計誤差Δt#を導出する。
【0060】
【数2】

【0061】
係る処理によって、一部の衛星についてマルチパス等により受信精度が悪化した場合に、観測疑似距離ρと推定疑似距離ρ#の双方を用いて測位演算を行なうこととなる。この結果、観測疑似距離ρを用いて測位演算を行なう場合に比して、より高精度に車両90の位置を測位することができる。
【0062】
また、一部の衛星についてマルチパス等により受信精度が悪化した状態がある程度の時間継続した場合には、その衛星については、推定疑似距離ρ#の基準となる距離ρ−1が、ADRを用いて推定された測位結果に基づくものとなる。このため、単に観測疑似距離ρにADRの変化量を加算して推定疑似距離ρ#を求めるものと比較して、より確実に車両90の位置を測位することができる。
【0063】
以上説明した本実施例の移動体位置測位装置2によれば、より確実且つ高精度に移動体の位置を測位することができる。
【0064】
<第3実施例>
以下、本発明の第3実施例に係る移動体位置測位装置3について説明する。図7は、本発明の第3実施例に係る移動体位置測位装置3のシステム構成例である。移動体位置測位装置3は、第1実施例の移動体位置測位装置1又は第2実施例の移動体位置測位装置2が有する構成に加えて、副測位演算部70と、測位結果選択部72と、を有する。これら以外の構成要素についての説明は省略する。
【0065】
副測位演算部70は、ドップラー周波数変化量ΔfとGPS衛星10の速度ベクトルV1に基づいて、車両90の速度ベクトルVを算出する。具体的には、まずドップラー周波数変化量Δfに基づいて、GPS衛星10から見た車両90の相対速度ベクトル(V−V1)を、例えば次式(4)を用いて算出する。式中、V1はGPS衛星10の速度ベクトルを表している。
【0066】
【数3】

【0067】
そして、GPS衛星10から見た車両90の相対速度ベクトル(V−V1)と、GPS衛星10の速度ベクトルV1とに基づいて、車両90の速度ベクトルVを算出する。即ち、GPS衛星10の相対速度ベクトル(V−V1)とGPS衛星10の速度ベクトルV1との差分ベクトルを、車両90の速度ベクトルVとして算出する。GPS衛星10の速度ベクトルV1は、GPS衛星10の位置を算出する際に併せて算出される。
【0068】
このように車両90の速度ベクトルVを算出すると、副測位演算部70は、速度ベクトルVに基づく移動量(速度ベクトルVに測位演算周期を乗じたもの)を用いて測位演算を行なう。係る測位演算は、前回の車両90の位置(Xu(i−1),Yu(i−1),Zu(i−1))に速度ベクトルVに基づく移動量を加算して今回の車両90の位置(Xu(i),Yu(i),Zu(i))を求めるものである。
【0069】
測位結果選択部72は、第1実施例又は第2実施例で説明した測位演算部60による測位結果と、副測位演算部70による測位結果とのいずれが高精度であるかを判定する。そして、より高精度であると判定した測位結果を、今回の測位結果として出力する。
【0070】
係る精度判定の手法については既に種々の手法が公知となっているため詳細な説明を省略するが、例えば最小二乗法の残差に基づく判定を行なう。
【0071】
図8は、本発明の第3実施例に係る測位結果選択部72により実行される特徴的な処理の流れを示すフローチャートである。本フローは、所定周期(測位演算部60や副測位演算部70の測位周期と同期させる)をもって繰り返し実行される。
【0072】
まず、測位結果選択部72は、測位演算部60による測位結果と、副測位演算部70による測位結果とのいずれが高精度であるかを判定する(S400)。
【0073】
測位演算部60による測位結果が高精度であると判定した場合は、測位演算部60による測位結果を選択して出力する(S402)。
【0074】
一方、副測位演算部70による測位結果が高精度であると判定した場合は、副測位演算部70による測位結果を選択して出力する(S404)。
【0075】
係る処理によって得られる効果は、第1実施例又は第2実施例と同様である。
【0076】
以上説明した本実施例の移動体位置測位装置3によれば、より確実且つ高精度に移動体の位置を測位することができる。
【0077】
以上、本発明を実施するための最良の形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変形及び置換を加えることができる。
【0078】
例えば、第1ないし第3実施例において、推定疑似距離算出部50や副測位演算部70が用いる前回の測位結果が存在しない場合(係る事態は、トンネル内を走行して完全に衛星からの信号が遮断した後等に発生しうる)は、車両センサ80の出力に基づく車両位置演算の結果を、前回の測位結果とみなしてよい。こうすれば、速やかに移動体位置の測位を再開することができる。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明は、自動車製造業や自動車部品製造業等に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明に係る移動体位置測位装置が適用されるGNSS(Global Navigation System)の全体的な構成を示すシステム構成図である。
【図2】本発明の第1実施例に係る移動体位置測位装置1のシステム構成例である。
【図3】ワールド座標系が定義される様子を示す図である。
【図4】本発明の第1実施例に係る推定疑似距離算出部50により実行される特徴的な処理の流れを示すフローチャートである。
【図5】本発明の第1実施例に係る測位演算部60により実行される特徴的な処理の流れを示すフローチャートである。
【図6】本発明の第2実施例に係る測位演算部60により実行される特徴的な処理の流れを示すフローチャートである。
【図7】本発明の第3実施例に係る移動体位置測位装置3のシステム構成例である。
【図8】本発明の第3実施例に係る測位結果選択部72により実行される特徴的な処理の流れを示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0081】
1、2、3 移動体位置測位装置
10 GPS衛星
20 GPSアンテナ
30 情報処理装置
40 観測疑似距離算出部
50 推定疑似距離算出部
60 測位演算部
70 副測位演算部
72 測位結果選択部
80 車両センサ
90 車両

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の衛星からの信号を受信する受信手段と、
該受信手段により受信された信号に基づき観測疑似距離を算出する観測疑似距離算出手段と、
該観測疑似距離算出手段により算出された観測疑似距離に基づき、繰り返し測位演算を行なう測位演算手段と、
を備える移動体位置測位装置であって、
前記測位演算手段が繰り返し測位演算を行なう中で前回に測位された測位結果と衛星位置から求められる距離に、ADR(Accumulated Doppler Range)の変化量を加算して推定疑似距離を算出する推定疑似距離算出手段を備え、
前記測位演算手段は、所定の場合に、前記観測疑似距離算出手段により算出された観測疑似距離に代えて前記推定疑似距離算出手段が算出した推定疑似距離を用いて測位演算を行なうことを特徴とする、
移動体位置測位装置。
【請求項2】
複数の衛星からの信号を受信する受信手段と、
該受信手段により受信された信号に基づき観測疑似距離を算出する観測疑似距離算出手段と、
該観測疑似距離算出手段により算出された観測疑似距離に基づき、繰り返し測位演算を行なう測位演算手段と、
を備える移動体位置測位装置であって、
前記測位演算手段が繰り返し測位演算を行なう中で前回に測位された測位結果と衛星位置から求められる距離に、ADR(Accumulated Doppler Range)の変化量を加算して推定疑似距離を算出する推定疑似距離算出手段を備え、
前記測位演算手段は、信号を受信可能な衛星について受信精度が低いか否かを判定し、受信精度が低いと判定した衛星については、前記観測疑似距離算出手段により算出された観測疑似距離に代えて前記推定疑似距離算出手段が算出した推定疑似距離を用いて測位演算を行なうことを特徴とする、
移動体位置測位装置。
【請求項3】
車両の速度ベクトルに基づき測位演算を行なう副測位演算手段と、
前記測位演算手段により測位された測位結果と、前記副測位演算手段により測位された測位結果と、の精度判定を行ない、該精度判定の結果に基づきいずれかの測位結果を選択する測位結果選択手段と、
を備える請求項1又は2に記載の移動体測位装置。
【請求項4】
移動体の挙動に基づき該移動体の移動量を算出する移動量算出手段を備え、
前記推定疑似距離算出手段は、前記前回に測位された測位結果が存在しない場合は、前記移動量算出手段により算出された移動量を用いた測位結果を、前記前回に測位された測位結果とみなして推定疑似距離を算出する手段である、
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の移動体位置測位装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2010−112759(P2010−112759A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−283536(P2008−283536)
【出願日】平成20年11月4日(2008.11.4)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】