説明

移動体検知システム

【課題】移動体に衝突されずに移動体を精度良く検知する移動体検知システムを提供する。
【解決手段】移動体検知システム1は、ステレオ動画像を撮像するステレオカメラ3と、ステレオ動画像が入力されるシステム本体4とを備える。システム本体4は、ステレオ動画像を処理する処理部6を有する。ステレオカメラ3及びシステム本体4は、移動体の移動に支障しないように移動経路外に設置される。ステレオカメラ3は、移動経路上に空間範囲として設定された検知範囲を撮像範囲に含むステレオ動画像を撮像する。処理部6は、ステレオ動画像における各フレームの画像並びにステレオカメラ3の光軸間隔及び焦点距離に基づいて、その移動体の空間位置を算出し、算出した移動体の空間位置が検知範囲内に入ったとき、その移動体を検知したと判定する。これにより、ステレオカメラ3及びシステム本体4は、移動体に衝突されずに移動体を精度良く検知する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両等の移動体を検知する移動体検知システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、道路上の作業エリア(保全作業現場)に設置され、車両が作業エリアに接近してきたことを検知する検知システムが知られている(例えば、特許文献1参照)。この検知システムは、片側2車線以上の車線を有する道路における保守作業に用いられ、レーダー装置とステレオカメラによって車両を検知する。保守作業中において、片側複数車線のうち、1車線の道路上に作業エリアが設定され、作業エリアに検知システムが設置される。当該車線には、作業エリアよりも手前に隣接車線への進路変更を車両に指示する表示が仮設される。当該車線を走行する車両は、通常、運転操作によって隣接車線に進路変更することにより、作業エリアに進入することを回避する。車両が進路変更せずに作業エリアに接近したときは異常時であり、検知システムが車両を検知して作業員に警報を発する。
【0003】
この検知システムは、レーダー装置及びステレオカメラに向かって車両がほぼ真正面から接近するように、車両が走行する道路上に設置され、極座標系における動径として車両と検知システム間の1次元的な距離を測定する。レーダー装置及びステレオカメラから見た車両の方向、すなわち極座標系における偏角はほとんど変化しないので、車両と検知システム間の距離を測定することにより、車両から作業エリアまでの距離が検出される。また、接近してくる車両がレーダー波の放射角度から外れることが防がれる。
【0004】
しかしながら、このような検知システムは、道路上の作業エリアに設置されるので、道路を走行する車両が作業エリアに進入した場合、車両に衝突され、破損するおそれがある。また、検知システムを作業エリア外に設置すると、検知システムへの車両の衝突は発生しないが、作業エリアへの車両の接近に伴って、レーダー装置及びステレオカメラから見た車両の方向が変化するので、車両と検知システム間の測定距離と、車両から作業エリアまでの距離との差異が生じ、作業エリアに接近する車両を検知する精度が低下する。また、接近した車両がレーダー波の放射角度から外れるおそれがある。
【0005】
また、このような検知システムは、工場や物流施設では用いることができない。工場や物流施設の構内では、フォークリフト等の荷役運搬機械が使用される。荷役運搬機械を使用する作業は、他の作業の作業者と混在した状態で行われるものがあり、その混在作業による事故を防止する必要がある。荷役運搬機械は、構内の通路を走行する場合、通路幅等によっては、移動方向を変えて通路上の作業エリアを回避することが難しい。また、荷役運搬機械は、荷崩れや荷物の落下を防止するため、急ブレーキを掛けることが困難である。このため、通路上を作業エリアとする場合、作業エリアに接近してきた荷役運搬機械に対して、作業エリア内にいる作業員が退避する必要がある。荷役運搬機械の接近を検知する検知システムを設ける場合、通路上の作業エリアに設置すると、荷役運搬機械が検知システムに衝突するおそれがある。また、通路上は、原則として物の設置が禁止されている。このため、検知システムを通路上の作業エリアに設置することはできない。
【0006】
また、このような検知システムは、鉄道では用いることができない。線路の保守作業において、作業員が列車に接触する事故を防止する必要がある。列車として線路を走行する鉄道車両は、運転操作によって隣接線に進路変更することができない。また、鉄道車両の制動距離は、例えば在来線で最大600メートルと長いため、列車の運転士が線路上に作業員を認識しても、ブレーキによる停止が間に合わない可能性が高い。このため、列車間合いにおいて線路内を作業エリアとする場合、列車見張員が配置され、列車見張員の退避合図によって作業員が線路外に退避する。列車見張員のヒューマンエラーに対するバックアップとして、列車の接近を検知する検知システムを利用しようとしても、列車は線路内の作業エリアを通過するので、検知システムを作業エリアに設置することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−251637号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題を解決するものであり、車両等の移動体に衝突されずに移動体を精度良く検知する移動体検知システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の移動体検知システムは、移動経路上を移動する移動体を検知するものであって、ステレオ動画像を撮像するステレオカメラと、前記ステレオカメラによって撮像されたステレオ動画像が入力されるシステム本体とを備え、前記システム本体は、前記ステレオカメラが撮像したステレオ動画像を処理する処理部を有し、前記ステレオカメラ及びシステム本体は、移動体の移動に支障しないように前記移動経路外に設置され、前記ステレオカメラは、前記移動経路上に空間範囲として設定された検知範囲を撮像範囲に含むステレオ動画像を撮像し、前記処理部は、前記ステレオ動画像における各フレームの画像並びに前記ステレオカメラの光軸間隔及び焦点距離に基づいて、その移動体の空間位置を算出し、算出した移動体の空間位置が前記検知範囲内に入ったとき、その移動体を検知したと判定することを特徴とする。
【0010】
この移動体検知システムにおいて、前記システム本体は、前記処理部へのデータ入力操作を受ける入力部と、前記ステレオ動画像を構成する1対の動画像のうち少なくとも一方の動画像を表示する表示部とを有し、前記検知範囲は、前記入力部のデータ入力操作によって設定可能とされ、前記表示部は、前記動画像及び前記検知範囲を表示することことが好ましい。
【0011】
この移動体検知システムにおいて、前記検知範囲における高さ範囲は、移動体が移動する面から離間した範囲に設定されていることが好ましい。
【0012】
この移動体検知システムにおいて、移動体が接近したことを前記移動経路上にある作業エリアで作業する作業員に報知するための報知部をさらに備え、前記検知範囲は、前記作業エリアに対して移動体の移動方向手前に設定され、前記処理部は、移動体を検知したと判定したとき、前記報知部に報知動作をさせることが好ましい。
【0013】
この移動体検知システムにおいて、前記報知部は、無線信号を送信する送信部と、前記送信部が送信した無線信号を受信して音声警報を発生する受信部とを有し、前記送信部は、移動体の移動に支障しないように前記移動経路外に設置され、前記受信部は、作業員によって携行されることが好ましい。
【0014】
この移動体検知システムにおいて、前記受信部は、骨伝導によって作業員に音声警報を伝達する骨伝導スピーカを有することが好ましい。
【0015】
この移動体検知システムにおいて、前記システム本体は、前記処理部が出力するデータを記憶する記憶部を有し、前記処理部は、移動体を検知したと判定したとき、前記ステレオカメラが撮像したステレオ動画像を前記記憶部に記憶することが好ましい。
【0016】
この移動体検知システムにおいて、前記処理部は、移動体を検知したと判定したとき、算出した移動体の空間位置の変化に基づいてその移動体の速度を算出し、算出した移動体の速度を前記記憶部に記憶することが好ましい。
【0017】
この移動体検知システムにおいて、前記処理部は、前記動画像及び算出した移動体の速度を前記表示部に表示することが好ましい。
【0018】
この移動体検知システムにおいて、前記移動体は、道路を走行する車両であることが好ましい。
【0019】
この移動体検知システムにおいて、前記移動体は、工場又は物流施設の構内を移動する荷役運搬機械又は車両であってもよい。
【0020】
この移動体検知システムにおいて、前記移動体は、レール上を走行する鉄道車両であってもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、ステレオカメラ及びシステム本体が移動体の移動に支障しないように設置されるので、移動体に衝突されずに移動体を検知することができる。また、移動体の移動経路外にステレオカメラを設置することによってステレオカメラから見た移動体の方向が移動体の接近に伴って変化しても、処理部が単なる距離測定ではなく、移動体の空間位置を算出して移動体を検知するので、移動体を検知する精度が良い。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施形態に係る移動体検知システムの平面配置図。
【図2】同移動体検知システムのブロック構成図。
【図3】同移動体検知システムにおける空間位置の算出を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態に係る移動体検知システムを図1乃至図3を参照して説明する。図1に示されるように、移動体検知システム1は、移動経路2上を移動する移動体Mを検知するものである。本実施形態では、移動経路2は、道路の車線である。移動体Mは、自動車である。移動体Mの移動方向を白抜き矢印で示している。
【0024】
図2に示されるように、移動体検知システム1は、ステレオカメラ3と、システム本体4と、報知部5とを備える。ステレオカメラ3が撮像したステレオ動画像は、システム本体4に入力される。システム本体4は、処理部6と、入力部7と、記憶部8と、表示部9とを有する。処理部6は、ステレオカメラ3が撮像したステレオ動画像を処理する。入力部7は、処理部6へのユーザによるデータ入力操作を受ける。記憶部8は、処理部6が出力するデータを記憶する。表示部9は、ステレオ動画像を構成する1対の動画像のうち少なくとも一方の動画像を表示する。報知部5は、移動体Mが接近したことを移動経路2上にある作業エリア22で作業する作業員に報知するための装置である(図1参照)。
【0025】
ステレオカメラ3及びシステム本体4は、移動体Mの移動に支障しないように移動経路2外、例えば路肩23に設置される。ステレオカメラ3は、移動経路2上に空間範囲として設定された検知範囲24を撮像範囲に含むステレオ動画像を撮像する。ステレオカメラ3は、作業エリア22内の作業員等によって検知範囲24を臨む視界が遮られないように、検知範囲24に近い作業エリア22の境界近傍に設置することが望ましい。検知範囲24は、入力部7のデータ入力操作によって設定可能とされている。
【0026】
処理部6は、ステレオ動画像における各フレームの画像並びにステレオカメラ3の光軸間隔及び焦点距離に基づいて、移動体Mの空間位置を算出し、算出した移動体Mの空間位置が検知範囲24内に入ったとき、移動体Mを検知したと判定する。
【0027】
報知部5は、送信部51と受信部52とを有する。送信部51は、移動体Mの移動に支障しないように移動経路2外にあるシステム本体4の近くに設置される。受信部52は、作業員によって携行される。検知範囲24は、作業エリア22に対して移動体Mの移動方向手前に設定される。処理部6は、移動体Mを検知したと判定したとき、報知部5に報知動作をさせる。報知動作として、送信部51は、無線信号を送信し、受信部52は、送信部51が送信した無線信号を受信し、音声警報を発生する。作業員は、受信部52が発生した音声警報を認識し、移動経路2外に退避する。また、処理部6は、移動体Mを検知したと判定したとき、ステレオカメラ3が撮像したステレオ動画像を記憶部8に記憶する。
【0028】
移動体検知システム1の構成をさらに詳述する。ステレオカメラ3は、同一仕様の左右1対のビデオカメラ3R、3Lを有する。ビデオカメラ3R、3Lの仕様は、焦点距離、撮像面の形状及び大きさ、画素数等である。ビデオカメラ3R、3Lは、長尺状部材の右端及び左端にそれぞれ取り付けられ、平行等位に配置される。平行等位は、左右1対のビデオカメラ3R、3Lの光軸を平行にして撮像面を同一平面上に並べるとともに、撮像面の横軸を一致させたカメラ配置である。ビデオカメラ3R、3Lの光軸は、略水平とされる。ステレオカメラ3は、例えば、脚立状の支持部によって路面から所定の高さに支持される(図示せず)。支持部は、三脚等であってもよい。ステレオカメラ3が撮像したステレオ動画像は、ビデオカメラ3R、3Lが撮像した動画像から成る。ビデオカメラ3R、3Lは、システム本体4にUSB接続されている。ステレオ動画像は、ディジタル信号としてシステム本体4に入力される。
【0029】
システム本体4は、例えば、ラップトップコンピュータであり、支持部に設けられた棚板の上に載置される(図示せず)。棚板は、脚立状の支持部を畳めるように、支持部の踏桟に着脱自在に設けられる。処理部6は、CPU及び半導体メモリ等から成り、処理プログラムを実行することにより動作する。処理速度を高めるために、FPGA(Field Programmable Logic Gate Array)等から成る画像処理用のハードウェアを付加してもよい。入力部7は、キーボード等の文字入力装置及びマウス等のポインティングデバイスである。記憶部8は、ハードディスク等の不揮発性の記憶装置である。表示部9は、液晶ディスプレイ等の視覚表示装置である。タッチパネルを入力部7及び表示部9として兼用してもよい。
【0030】
報知部5の送信部51は、音声警報を無線で送信する無線送信器である。音声警報は、電子音又は録音された「退避」等の音声である。受信部52は、無線を受信する無線受信器と音声警報を発生するヘッドホンとを有する。ヘッドホンは、作業員の耳を塞がずに、骨伝導によって作業員に音声警報を伝達する骨伝導スピーカを有する。骨伝導スピーカが発生した音声警報は、鼓膜を介さずに頭蓋骨を伝導する骨導音として内耳に伝達され、作業員に認識される。
【0031】
処理部6による画像処理をさらに詳述する(実吉敬二著「ステレオ法による立体画像認識の基礎と車載カメラへの応用」株式会社トリケップス発行、2007年、参照)。ステレオカメラ3によって撮像されたステレオ動画像は、左右1対の動画像から成る。動画像を構成する各フレームの画像は、右のビデオカメラ3Rによって撮像された右画像と、左のビデオカメラ3Lによって撮像された左画像とから成る。左右の画像の各々は、複数の画素から構成される。処理部6は、先ず、平均値フィルタによって右画像及び左画像のノイズを低減する。平均化フィルタは、注目している画素とその近傍の画素の輝度の平均値を、注目している画素の新しい輝度値とする。次に、右画像及び左画像は4×4画素の小領域に分けられ、処理部6は、パターンマッチングによって、右画像の各小領域と同じパターンを有する小領域を左画像から1画素ずつずらしながら探索し、右画像とのずれ量を視差とする。小領域の画素数は4×4に限定されない。処理部6は、各小領域について視差に基づいて直交座標系における空間位置を算出する。処理部6は、空間位置の類似している小領域をグループ化することによって移動体Mを抽出する。移動体Mの空間位置は、移動体Mを表す領域の空間位置である。
【0032】
ここで、処理部6が空間位置を算出する原理を図3を参照して説明する。右のビデオカメラ3R(以下、右カメラという)の右光軸ARと、左のビデオカメラ3L(以下、左カメラという)の左光軸ALとは、平行である。右カメラによる右撮像面SRと、左カメラによる左撮像面SLとは、同一平面上に位置する。右カメラの焦点FRを原点とする実際の空間の座標系を(X,Y,Z)とする。右撮像面SRにおける右光軸ARとの交点を原点とした座標系を(xR,yR)とする。左撮像面SLにおける左光軸ALとの交点を原点とした座標系を(xL,yL)とする。X,xR,xLの各軸は、左カメラの焦点FLから右カメラの焦点FRに向かう方向とする。yL=yRである。実際の空間の点P(X,Y,Z)の右撮像面SRにおける投影点をmR(xR,yR)、左撮像面SLにおける投影点をmL(xL,yL)とする。視差は、(xL−xR)である。焦点距離をf、ステレオカメラの光軸間隔をBとする。このとき、Z=B・f/(xL−xR)、X=Z・xR/f、Y=Z・yR/fであり、点P(X,Y,Z)の空間位置が算出される。
【0033】
処理部6は、移動体Mの空間位置が検知範囲24内に入ったとき、移動体Mを検知したと判定する(図1参照)。検知範囲24におけるステレオカメラ3から見た左右の範囲は、処理部6が道路の白線25、26を検知することによって自動的に設定される。白線25、26の検知は、例えば、ハフ変換(Hough transform)によって行われる。ハフ変換は、線分を抽出する画像処理である。検知範囲24における移動体M進行方向の範囲は、移動体Mの通常の最高速度及び作業員の退避時間に基づて予め算出された距離範囲であり安全上の余裕を含む。検知範囲24における高さ範囲は、移動体Mの通常の大きさに基づいて予め定められる。高さ範囲は、移動体Mが移動する面、すなわち路面から離間した範囲に設定されることが望ましい。これにより、処理部6が路面上の影を移動体Mと誤検知することを防ぐことができる。
【0034】
表示部9は、ステレオカメラ3が撮像したステレオ動画像を構成する1対の動画像のうち一方の動画像及び検知範囲24を表示する。表示部9は、ステレオ動画像を構成する1対の動画像を左右に並べて表示してもよい。また、表示部9として両眼視差を利用した3次元表示装置を用い、ステレオ動画像を3次元表示してもよい。3次元表示装置は、裸眼式又は眼鏡式3次元ディスプレイ、ヘッドマウントディスプレイ(HMD: Head Mounted
Display)等である。検知範囲24は、動画像上にワイヤーフレーム表示される。移動体検知システム1は、検知範囲24を動画像とは別に表示部9に表示してもよく、例えば、GPS等による位置検知機能及び地図情報を有し、検知範囲24における平面範囲を地図上に表示する。検知範囲24は、ユーザが入力部7を操作することによって修正または新規に設定される。処理部6による白線25、26の検知は、省略しても構わない。
【0035】
以上、本実施形態に係る移動体検知システム1によれば、ステレオカメラ3及びシステム本体4が移動体Mの移動に支障しないように設置されるので、移動体Mに衝突されずに移動体を検知することができる。また、移動体Mの移動経路外にステレオカメラ3を設置することによってステレオカメラ3から見た移動体Mの方向が移動体Mの接近に伴って変化しても、処理部6が単なる距離測定ではなく、移動体Mの空間位置を算出して移動体Mを検知するので、移動体Mを検知する精度が良い。
【0036】
検知範囲24は、入力部7のデータ入力操作によって設定可能とされ、表示部9に表示されるので、確実に設定することができる。
【0037】
報知部5は、移動経路上にある作業エリア22で作業する作業員に移動体Mの接近を報知するので、作業員は、移動経路外に待避して移動体Mとの接触を避けることができる。
【0038】
報知部5は、無線信号を用いて報知動作をするので、システム本体4から離れた位置にいる作業員に移動体Mの接近を報知することができる。
【0039】
受信部52は、骨伝導スピーカを有し、作業員の左右いずれの耳も塞がないので、作業員は、音声警報を認識するだけでなく、移動体Mの接近音等の周囲の音及びその音源方向を認識することができ、作業の安全性が向上する。
【0040】
処理部6が移動体Mを検知したと判定したとき、ステレオカメラ3で撮像されたステレオ動画像が記憶部8に記憶されるので、記憶されたステレオ動画像を移動体Mが作業エリアに進入した原因の調査に利用することができる。移動体Mが作業エリア22に進入しても、移動体検知システム1は移動体Mに衝突されないので、移動体Mを撮像したステレオ動画像は損なわれない。ステレオ動画像は、静止画像と比べてデータ量が大きいが、移動体Mが検知されたときに記憶部8に記憶されるので、記憶部8の記憶容量を節約することができる。
【0041】
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態に係る移動体検知システムを図1及び図2を参照して説明する。本実施形態の移動体検知システム1は、第1の実施形態と同様の構成を有し、処理部6による処理に、移動体Mの速度を算出する処理を追加している。
【0042】
本実施形態の移動体検知システム1において、処理部6は、第1の実施形態と同様に、ステレオ動画像における各フレームの画像並びにステレオカメラ3の光軸間隔及び焦点距離に基づいて、移動体Mの空間位置を算出し、算出した移動体Mの空間位置が検知範囲24内に入ったとき、移動体Mを検知したと判定する。処理部6は、移動体Mを検知したと判定したとき、報知部5に報知動作をさせる。本実施形態ではさらに、処理部6は、移動体Mを検知したと判定したとき、算出した移動体Mの空間位置の変化に基づいて移動体Mの速度を算出する。ここで、処理部6は、複数フレームの画像に基づいて移動体Mの空間位置の変化を算出し、フレーム間の時間間隔で除算して移動体Mの速度を算出する。処理部6は、算出した移動体Mの速度及びステレオカメラ3が撮像したステレオ動画像を記憶部8に記憶する。記憶部8に記憶されるステレオ動画像は、処理部6によって予め圧縮処理される。処理部6は、算出した移動体Mの速度を表示部9に表示する。移動体Mの速度は、ステレオ動画像を構成する動画像上に表示される。表示部9は、動画像とは別に移動体Mの速度を表示してもよい。
【0043】
本実施形態に係る移動体検知システム1によれば、算出した移動体Mの速度及びステレオカメラ3が撮像したステレオ動画像が記憶部8に記憶されるので、記憶された速度とステレオ動画像とを、移動体Mが作業エリア22に進入した場合における原因調査に利用することができる。また、移動体Mの速度が表示部9に表示されるので、検知範囲24に進入した移動体Mの速度を監視することができる。処理部6は、検知した移動体Mの速度が所定の速度以下のとき、報知部5に報知動作をさせないようにしてもよい。これにより、検知範囲24内を低速で移動する作業員を検知して不要な報知動作をすることを防ぐことができる。
【0044】
(第3の実施形態)
本発明の第3の実施形態に係る移動体検知システムは、第1の実施形態と同様の構成を有する。本実施形態では、移動体Mは、工場又は物流施設の構内を移動する荷役運搬機械又は車両である。物流施設は、物流基地又は倉庫である。物流基地は、トラックターミナル、空港、港湾等である。荷役運搬機械は、例えば、フォークリフト又は無人搬送車等である。車両は、例えば、貨物自動車である。移動体Mは、天井クレーンによって吊られて移動する物であってもよい。移動体Mの移動経路は、工場又は物流施設の構内の通路である。ステレオカメラ3及びシステム本体4は、移動体Mの移動に支障しないように移動経路外、例えば通路外の通路近傍に設置される。処理部6は、通路を指定する白線をハフ変換で検知することによって、検知範囲におけるステレオカメラ3から見た左右の範囲を設定してもよい。
【0045】
(第4の実施形態)
本発明の第3の実施形態に係る移動体検知システムは、第1の実施形態と同様の構成を有する。本実施形態では、移動体Mは、線路を走行する鉄道車両である。移動体Mの移動経路は、線路である。ステレオカメラ3及びシステム本体4は、移動体Mの移動に支障しないように建築限界外、例えば線路近傍の保守用通路に設置される。ステレオカメラ3を支持する支持部は、作業員のミス等によって倒れた場合に左右のレールを短絡して鉄道信号を誤動作させないように、FRP等の絶縁材料で形成される。また、支持部は、列車風を受けた時の風圧荷重を低減するため、構成部材の断面が円または楕円等の滑らかな形状とされる(図示せず)。処理部6は、線路のレールをハフ変換で検知することによって、検知範囲におけるステレオカメラ3から見た左右の範囲を設定してもよい。処理部6は、画像のコントラストを高める前処理を行い、ハフ変換によるレールの検知を容易にする。
【0046】
なお、本発明は、上記の実施形態の構成に限られず、発明の要旨を変更しない範囲で種々の変形が可能である。例えば、第2の実施形態の移動体検知システム1において、報知部5を省略しても構わない。この場合、移動体検知システム1は、例えば、車両の速度超過違反の取り締まりに用いることができる。
【符号の説明】
【0047】
1 移動体検知システム
2 移動経路(車線)
22 作業エリア
23 移動経路外(路肩)
24 検知範囲
3 ステレオカメラ
4 システム本体
5 報知部
51 送信部
52 受信部
6 処理部
7 入力部
8 記憶部
9 表示部
B 光軸間隔
f 焦点距離
M 移動体(車両)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動経路上を移動する移動体を検知する移動体検知システムであって、
ステレオ動画像を撮像するステレオカメラと、
前記ステレオカメラによって撮像されたステレオ動画像が入力されるシステム本体とを備え、
前記システム本体は、前記ステレオカメラが撮像したステレオ動画像を処理する処理部を有し、
前記ステレオカメラ及びシステム本体は、移動体の移動に支障しないように前記移動経路外に設置され、
前記ステレオカメラは、前記移動経路上に空間範囲として設定された検知範囲を撮像範囲に含むステレオ動画像を撮像し、
前記処理部は、前記ステレオ動画像における各フレームの画像並びに前記ステレオカメラの光軸間隔及び焦点距離に基づいて、その移動体の空間位置を算出し、算出した移動体の空間位置が前記検知範囲内に入ったとき、その移動体を検知したと判定することを特徴とする移動体検知システム。
【請求項2】
前記システム本体は、前記処理部へのデータ入力操作を受ける入力部と、前記ステレオ動画像を構成する1対の動画像のうち少なくとも一方の動画像を表示する表示部とを有し、
前記検知範囲は、前記入力部のデータ入力操作によって設定可能とされ、
前記表示部は、前記動画像及び前記検知範囲を表示することを特徴とする請求項1に記載の移動体検知システム。
【請求項3】
前記検知範囲における高さ範囲は、移動体が移動する面から離間した範囲に設定されていることを特徴とする請求項2に記載の移動体検知システム。
【請求項4】
移動体が接近したことを前記移動経路上にある作業エリアで作業する作業員に報知するための報知部をさらに備え、
前記検知範囲は、前記作業エリアに対して移動体の移動方向手前に設定され、
前記処理部は、移動体を検知したと判定したとき、前記報知部に報知動作をさせることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の移動体検知システム。
【請求項5】
前記報知部は、無線信号を送信する送信部と、前記送信部が送信した無線信号を受信して音声警報を発生する受信部とを有し、
前記送信部は、移動体の移動に支障しないように前記移動経路外に設置され、
前記受信部は、作業員によって携行されることを特徴とする請求項4に記載の移動体検知システム。
【請求項6】
前記受信部は、骨伝導によって作業員に音声警報を伝達する骨伝導スピーカを有することを特徴とする請求項5に記載の移動体検知システム。
【請求項7】
前記システム本体は、前記処理部が出力するデータを記憶する記憶部を有し、
前記処理部は、移動体を検知したと判定したとき、前記ステレオカメラが撮像したステレオ動画像を前記記憶部に記憶することを特徴とする請求項2乃至請求項6に記載の移動体検知システム。
【請求項8】
前記処理部は、移動体を検知したと判定したとき、算出した移動体の空間位置の変化に基づいてその移動体の速度を算出し、算出した移動体の速度を前記記憶部に記憶することを特徴とする請求項7に記載の移動体検知システム。
【請求項9】
前記処理部は、前記動画像及び算出した移動体の速度を前記表示部に表示することを特徴とする請求項8に記載の移動体検知システム。
【請求項10】
前記移動体は、道路を走行する車両であることを特徴とする請求項1乃至請求項9に記載の移動体検知システム。
【請求項11】
前記移動体は、工場又は物流施設の構内を移動する荷役運搬機械又は車両であることを特徴とする請求項1乃至請求項9に記載の移動体検知システム。
【請求項12】
前記移動体は、レール上を走行する鉄道車両であることを特徴とする請求項1乃至請求項9に記載の移動体検知システム。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−203794(P2012−203794A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−69705(P2011−69705)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(508099911)西日本高速道路メンテナンス関西株式会社 (5)
【Fターム(参考)】