説明

移動体管理装置、移動体監視システム、および燃料フィルタの異常検出方法

【課題】偽造燃料フィルタや粗悪燃料の使用を、移動体の動作環境によらずに精度よく検出することが可能な移動体管理装置、移動体監視システム、および燃料フィルタの異常検出方法を提供する。
【解決手段】移動体と通信され、燃料フィルタの純正品に対する圧力データの履歴情報(正規履歴情報)を記憶する移動体管理装置が、移動体から受信した圧力データの履歴情報(移動体履歴情報)を生成し、この移動体履歴情報と正規履歴情報とを比較し、両者に相関がない場合には、移動体履歴情報の初期値と変化量を参照して燃料フィルタの異常を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体の駆動源であるエンジンに供給される燃料をろ過する燃料フィルタの異常を検出する移動体管理装置、移動体監視システム、および燃料フィルタの異常検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
移動体の駆動源であるエンジンに燃料を供給する配管においては、その燃料に含まれる不純物を除去するため、燃料タンクとエンジンとの間に燃料フィルタが設けられている。燃料フィルタは、移動体の規格に適合した純正品以外にも、数多くの偽造品が作成されているのが実情である。一般に、偽造品は、純正品と比較してフィルタエレメント(ろ過材)の目が粗く、ろ過効率が低い。このため、燃料フィルタの前後の燃料配管の圧力差が、純正品のようには大きくならない。また、偽造品は、フィルタエレメントの継ぎ目の縫合が粗雑であるため油漏れを起こしやすく、燃料フィルタ前後での圧力変化がほとんど生じないこともある。このように、燃料フィルタとして偽造品を使用した場合には、不純物が十分にろ過されずに残っている燃料がエンジンに供給されることとなり、エンジンの動作にも支障をきたすおそれがあった。
【0003】
燃料フィルタに異常が生じる例としては、粗悪燃料を使用する場合も挙げることができる。粗悪燃料には、正規燃料と比べて不純物が多量に含まれている。このため、燃料フィルタの目詰まりが、正規燃料を使用している場合より速く生じてしまい、燃料フィルタの交換周期を短くせざるを得なかった。
【0004】
このような状況の下、従来より、偽造燃料フィルタの使用や、燃料フィルタの目詰まりなどに起因する燃料フィルタの異常を検出し、その検出結果を使用者に報知する様々な技術が開示されている(例えば、特許文献1〜4を参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2005−273196号公報
【特許文献2】特開2006−63856号公報
【特許文献3】特開2006−7140号公報
【特許文献4】特開2006−283724号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、気温、気圧、湿度等の環境が異なる地域では、移動体の燃料の粘度や燃料流量に違いが生じることがあり、異なる種類の燃料フィルタを使用する場合もある。しかしながら、上述した従来技術では、そのような移動体の動作環境を十分に反映した燃料フィルタの異常検出を行うことはできなかった。すなわち、上述した従来技術では、移動体の動作環境によらず、同じ判断基準を用いて燃料フィルタの異常検出を行っているため、移動体が動作する地域によっては、異常検出精度に問題が生じるおそれがあった。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、偽造燃料フィルタや粗悪燃料の使用を、移動体の動作環境によらずに精度よく検出することができる移動体管理装置、移動体監視システム、および燃料フィルタの異常検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る移動体管理装置は、駆動源であるエンジンに供給される燃料をろ過する燃料フィルタを備えた移動体の位置情報と、前記燃料フィルタ近傍における前記燃料の配管内圧力を用いて求められる圧力データとを有する移動体情報を前記移動体から受信し、この受信した移動体情報を用いて前記移動体を管理する移動体管理装置であって、前記圧力データの履歴を含む移動体履歴情報を生成する履歴情報生成手段と、前記燃料フィルタが純正品である場合の前記圧力データの標準的な履歴を含む正規履歴情報を、前記移動体の位置情報と対応付けて記憶する記憶手段と、前記履歴情報生成手段で生成した移動体履歴情報と、当該移動体履歴情報に含まれる前記圧力データを送信した前記移動体の位置情報に対応付けられる前記正規履歴情報との相関の有無を判定する相関判定手段と、前記相関判定手段で判定した結果に基づいて前記燃料フィルタの異常を検出する異常検出手段と、前記異常検出手段の検出結果および当該検出結果に応じた前記移動体の動作指令信号を含む検出情報を前記移動体に送信する送信手段と、を備えたことを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る移動体管理装置は、上記発明において、前記異常検出手段は、前記相関判定手段で判定した結果、前記移動体履歴情報と前記正規履歴情報との間に相関がない場合、前記移動体履歴情報および前記正規履歴情報をそれぞれ構成する前記圧力データの所定時刻における値を比較するとともに、前記移動体履歴情報および前記正規履歴情報をそれぞれ構成する前記圧力データの所定時間当たりのデータ変化量のうち、最新のデータ変化量を比較し、この比較結果に基づいて前記燃料フィルタの異常を検出することを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る移動体管理装置は、上記発明において、前記記憶手段は、前記燃料フィルタが偽造品である場合の前記圧力データの標準的な履歴を含む偽造フィルタ履歴情報、および前記燃料が粗悪燃料である場合の前記圧力データの標準的な履歴を含む粗悪燃料履歴情報を、前記移動体の位置情報とそれぞれ対応付けて記憶し、前記相関判定手段は、前記移動体履歴情報と前記正規履歴情報との間に相関がない場合、前記移動体履歴情報と、当該移動体履歴情報に含まれる前記圧力データを送信した前記移動体の位置情報に対応付けられる前記偽造フィルタ履歴情報および/または前記粗悪燃料履歴情報との相関の有無を判定することを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る移動体管理装置は、上記発明において、前記記憶手段で記憶する情報は、前記移動体履歴情報を用いて所定の時間間隔で更新されることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る移動体管理装置は、上記発明において、前記圧力データは、前記燃料フィルタの前後の配管内圧力の差圧であることを特徴とする。
【0013】
本発明に係る移動体監視システムは、駆動源であるエンジンに供給される燃料をろ過する燃料フィルタを備えた移動体と、前記移動体と通信接続され、前記移動体から送信されてくる情報を用いて前記移動体を管理する移動体管理装置と、を有する移動体監視システムであって、前記移動体は、前記燃料の配管の前記燃料フィルタ近傍の上流側および下流側の少なくともいずれか一方に設けられる圧力センサと、前記圧力センサが逐次検出する配管内圧力の各々に対して所定の補正を行い、この逐次補正した値を所定の周期で平均化することにより、前記配管内圧力に対応する圧力データを生成する圧力データ生成手段と、物体の位置を測位する測位手段から送信されてくる当該移動体の位置情報を取得し、この取得した位置情報と、前記圧力データ生成手段で生成した圧力データとを有する移動体情報を前記移動体管理装置へ送信する一方、前記移動体管理装置から送信されてくる情報を受信する通信装置と、を備え、前記移動体管理装置は、前記圧力データの履歴を含む移動体履歴情報を生成する履歴情報生成手段と、前記燃料フィルタが純正品である場合の前記圧力データの標準的な履歴を含む正規履歴情報を、前記移動体の位置情報と対応付けて記憶する記憶手段と、前記履歴情報生成手段で生成した移動体履歴情報と、当該移動体履歴情報に含まれる前記圧力データを送信した前記移動体の位置情報に対応付けられる前記正規履歴情報との相関の有無を判定する相関判定手段と、前記相関判定手段で判定した結果に基づいて前記燃料フィルタの異常を検出する異常検出手段と、前記異常検出手段の検出結果および当該検出結果に応じた前記移動体の動作指令信号を含む検出情報を前記移動体に送信する送信手段と、を備えたことを特徴とする。
【0014】
本発明に係る燃料フィルタの異常検出方法は、駆動源であるエンジンに供給される燃料をろ過する燃料フィルタを備えた移動体の位置情報と、前記燃料フィルタ近傍における前記燃料の配管内圧力を用いて求められる圧力データとを有する移動体情報を前記移動体から受信し、この受信した移動体情報を用いて前記移動体を管理する移動体管理装置が、前記燃料フィルタの異常を検出する燃料フィルタの異常検出方法であって、前記圧力データの履歴を含む移動体履歴情報を生成する履歴情報生成ステップと、前記履歴情報生成ステップで生成した移動体履歴情報と、当該移動体履歴情報に含まれる前記圧力データを送信した前記移動体の位置情報に対応付けられ、前記燃料フィルタが純正品である場合の前記圧力データの標準的な履歴を含む正規履歴情報との相関の有無を判定する相関判定ステップと、前記相関判定ステップで判定した結果に基づいて前記燃料フィルタの異常を検出する異常検出ステップと、前記異常検出ステップの検出結果および当該検出結果に応じた前記移動体の動作指令信号を含む検出情報を前記移動体に送信する送信ステップと、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、移動体と通信され、燃料フィルタの純正品に対する圧力データの履歴情報(正規履歴情報)を記憶する移動体管理装置が、移動体から受信した圧力データの履歴情報(移動体履歴情報)を生成し、この移動体履歴情報と正規履歴情報とを比較し、両者に相関がない場合には、移動体履歴情報の初期値と変化量を参照して燃料フィルタの異常を検出するため、移動体が位置する環境に適した正規履歴を用いた異常検出を行うことができる。したがって、偽造燃料フィルタや粗悪燃料の使用を、移動体の動作環境によらずに精度よく検出することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための最良の形態(以後、「実施の形態」と称する)を説明する。
【0017】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係る移動体監視システムの概略構成を示す図である。同図に示す移動体監視システム100は、監視対象である複数の移動体1と、移動体1に通信接続され、移動体1から送信されてくる位置情報および燃料フィルタ前後の差圧から求められた圧力データを用いることにより、移動体1の燃料フィルタの異常を検出する移動体管理装置2とを有する。移動体1は、地上の物体の位置を測位する測位手段としてのGPS(Global Positioning System)を構成する複数のGPS衛星3から送信される移動体1の位置情報を受信可能であり、通信衛星4を介して地上局サーバ5と通信可能である。また、移動体管理装置2は、インターネット、イントラネット、専用線等のいずれかまたは適当な組み合わせによって構成され、所定のプロトコルにしたがって情報の送受信が可能なネットワークNWを介して、地上局サーバ5と通信接続されている。
【0018】
移動体1は、GPS衛星3から送信されてくる移動体1の位置情報を受信するGPSセンサ10(測位手段の一部)と、GPSセンサ10が受信した移動体1の位置情報を取得し、この位置情報および圧力データを含む移動体情報を移動体管理装置2へ送信する通信装置11と、地上局サーバ5と通信接続され、通信装置11から出力される移動体情報を送信する送受信器12と、を備える。GPSセンサ10は、アンテナ10aを介して複数のGPS衛星3から送られてくる情報をもとに移動体1の位置情報を検出する。送受信器12は、アンテナ12a、通信衛星4、アンテナ5aを介して、地上局サーバ5との間で情報の送受信を行う。
【0019】
通信装置11は、通信制御部111と、タイマー機能を有する時計112とを備える。通信制御部111は、GPSセンサ10から取得した移動体1の位置情報、エンジン制御部16から取得した圧力データ、移動体1の稼働時間情報(サービスメータ情報)、移動体IDを一組の位置情報として送信する一方、送受信器12を介して外部から受信した情報を取得する。
【0020】
移動体1は建設機械であり、バケットやアームなどの作業機13と、駆動源であるエンジン14とを備える。作業機13は、作業機制御部15によって駆動制御され、エンジン14はエンジン制御部16によって駆動制御される。作業機制御部15およびエンジン制御部16には、操作入力部17を通じて駆動制御指令が入力される。
【0021】
エンジン14は、エンジン回転数を検出するエンジン回転数センサ141と、燃料タンク18から配管19を介して供給される燃料を噴射する燃料噴射装置142と、を有する。燃料タンク18から燃料を供給する配管19には、燃料の温度を検出する温度センサ20、燃料を押し出すポンプ21、ポンプ21の後段に位置し、押し出された燃料の圧力を検出する圧力センサ22、燃料のろ過を行う燃料フィルタ23、燃料フィルタ23でろ過された燃料の圧力を検出する圧力センサ24が順次介在している。
【0022】
また、エンジン14は発電機(オルタネータ)25に接続されており、この発電機25が駆動することによって、移動体1の電源であるバッテリー26を充電する。キースイッチ27は、エンジン始動信号を発生する。
【0023】
エンジン制御部16は、圧力センサ22,24からの圧力値を取得し、この圧力値を用いて、移動体管理装置2へ送信する圧力データを生成する圧力データ生成部161を有する。具体的には、圧力データ生成部161は、圧力センサ22,24から取得した圧力値の差圧を計算し、この差圧に対して補正を加える。圧力データ生成部161は、この補正値の所定期間の平均値を計算することによって圧力データを生成し、通信装置11へ出力する。
【0024】
移動体1は、各種情報を表示する表示装置28と、各種情報を記憶する記憶装置29とをさらに備える。記憶装置29は、エンジン制御部16の圧力データ生成部161で計算した圧力データを記憶するとともに、作業機制御部15から作業機13の稼動状況を取得し、エンジン制御部16からエンジン14の稼動状況、発電機25の動作情報、バッテリー26の電圧情報を記憶する。また、記憶装置29は、移動体管理装置2から送信されてくる指示内容も記憶する。なお、図1では、記載が煩雑になるのを避けるため、表示装置28,記憶装置29と、通信装置11、作業機制御部15、エンジン制御部16との接続関係を省略している。
【0025】
次に、本実施の形態1に係る移動体管理装置2の構成を説明する。移動体管理装置2は、1または複数のコンピュータを用いて実現され、移動体1から送信されてくる移動体情報を受信する一方、移動体1に対して情報を送信する送受信部30(送信手段を含む)と、移動体1から送信されてくる移動体情報を含む各種情報を記憶する記憶部31と、移動体管理装置2の動作制御を行う制御部32と、を備える。
【0026】
記憶部31は、送受信部30が受信した移動体情報を記憶する移動体情報記憶部311と、燃料フィルタ23が純正品である場合の圧力データの標準的な履歴を含む正規履歴情報を、位置情報を用いて定められるエリア情報と対応付けて記憶する標準履歴情報記憶部312と、燃料フィルタ23の状態を記憶するフィルタ状態記憶部313と、エリア情報を記憶するエリア情報記憶部314と、を有する。
【0027】
制御部32は、送受信部30が受信した移動体情報に含まれる移動体1の圧力データの履歴を含む移動体履歴情報を生成する履歴情報生成部321と、履歴情報生成部321で生成した移動体履歴情報と、記憶部31の標準履歴情報記憶部312で記憶する正規履歴情報との相関の有無を判定する相関判定部322と、相関判定部322の判定結果に基づいて移動体1の燃料フィルタ23の異常を検出する異常検出部323と、を有する。
【0028】
図2は、移動体監視システム100が行う移動体1の燃料フィルタの異常検出処理の概要を示すシーケンス図である。図2において、まず移動体1は、燃料フィルタ23の圧力データを生成する(ステップS11)。
【0029】
図3は、移動体1における圧力データ生成処理の概要を示すフローチャートである。図3において、まずエンジン制御部16は、エンジン回転数センサ141からエンジン回転数を取得する(ステップS101)。
【0030】
次に、エンジン制御部16は、ステップS101で取得したエンジン回転数が、所定の運転条件を満たすか否かを判定する(ステップS102)。運転条件としては、例えば「エンジン回転数が2000〜2500回転」と設定することができる。このように運転条件を課すのは、外的要因によって圧力値にバラつきが生じるのを抑制するためである。
【0031】
エンジン制御部16は、エンジン回転数が所定の運転条件を満たすとき(ステップS102,Yes)、圧力センサ22,24から圧力値を取得する(ステップS103)。これに対して、エンジン制御部16は、エンジン回転数が所定の運転条件を満たさない場合(ステップS102,No)、ステップS101に戻って処理を繰り返す。
【0032】
続いて、エンジン制御部16の圧力データ生成部161は、圧力センサ22,24から取得した圧力値の差圧を計算する(ステップS104)。差圧ΔPは、燃料フィルタ23の入口ポートの圧力である圧力センサ22の計測値をPinとし、燃料フィルタ23の出口ポート圧力である圧力センサ24の計測値をPoutとして、ΔP=|Pin−Pout|と表される(右辺は絶対値)。
【0033】
この後、エンジン制御部16は、温度センサ20から配管内温度を取得し(ステップS105)、その後、燃料噴射装置142の噴射量から燃料流量を取得する(ステップS106)。
【0034】
次に、圧力データ生成部161は、温度センサ20から取得した配管内温度と、燃料噴射装置142から取得した燃料流量とを用いて、差圧ΔPの補正を行う(ステップS107)。このステップS107では、配管内温度や燃料流量の変化の影響を低減することができるような補正を行い、この補正した値(圧力補正値)を記憶装置29に記憶する。
【0035】
圧力データ生成部161は、前回の圧力データ生成から所定期間経過した場合(ステップS108,Yes)、記憶装置29から所定の期間に計測された圧力補正値の平均を圧力データとして算出し、記憶装置29に書き込む(ステップS109)。この際、圧力データ生成部161は、取り込んだ圧力データに含まれるノイズ等を除去した後、高速FFTまたはウェーブレット変換等によって圧力補正値の平均化を行う。
【0036】
これに対して、ステップS108で、前回の圧力データ生成から所定時間経過していない場合(ステップS108,No)、圧力データ生成部161は、ステップS101に戻って処理を繰り返す。
【0037】
以上説明したステップS11の圧力データ生成処理に続いて、通信装置11の通信制御部111は、生成された圧力データを移動体管理装置2へ送信する(ステップS12)。この際、通信制御部111は、圧力データを記憶装置29から読み出すとともに、GPSセンサ10から取得した最新の位置情報、移動体1の識別番号や稼動時間情報(サービスメータ情報)を含む移動体情報を、移動体管理装置2へ送信する(ステップS12)。
【0038】
通信装置11による移動体情報の送信タイミングは任意である。例えば、差圧補正値は、その取得条件下における差圧値としてのバラツキを十分おさえ、平均化された代表値となる様、十分な時間を経過したタイミングで送信することが望ましい。
【0039】
移動体管理装置2は、移動体1から受信した移動体情報を、移動体情報記憶部311に書き込んで記憶する(ステップS21)。図4は、移動体情報記憶部311が記憶する移動体情報管理テーブルの構成を示す図である。同図に示す移動体情報管理テーブルT1では、移動体1から送信されてきた移動体ID,GPS位置情報、稼動時間情報、圧力データを一組とする移動体情報を記録している。
【0040】
本実施の形態1では、移動体情報として、圧力データとともにGPS位置情報や移動体の種別が含まれるため、このような移動体情報を参照することにより、移動体1の位置の地域性や移動体1の種類を考慮に入れた予測を行うことができる。このような移動体情報を用いる利点について説明する。例えば、赤道付近と北極付近とでは、気温や気圧等の気象条件が顕著に異なるため、基準となる燃料粘度も顕著に異なる。このため、使用する燃料フィルタも特性が異なるものを使用することが想定される。また、移動体が作業機械の場合、例えばダンプトラックやパワーショベルといった車種毎に、使用する燃料フィルタの数が異なっており、圧力データも異なってくる。このように、移動体の位置や種別に応じて適切な統計データのみを取り扱うことにより、後述する各種履歴情報の管理を高精度で行うことが可能となる。
【0041】
この後、移動体管理装置2は、移動体1から受信した情報をもとに、燃料フィルタ23の異常検出処理を行う(ステップS22)。
【0042】
図5は、移動体管理装置2における燃料フィルタ23の異常検出処理の概要を示すフローチャートである。図5において、まず移動体管理装置2は、移動体1の圧力データPの履歴を生成する際の起点となるイベント時間の設定が必要か否かを判断する。すなわち、移動体管理装置2は、移動体1から受信した圧力データPと前回受信した圧力データP1と、燃料フィルタ23交換時の初期データPcとの比較を行う(ステップS201)。この比較により、P1>PcかつP≦Pcの場合(ステップS201,Yes)、燃料フィルタ23が交換されたとみなせるため、移動体管理装置2は、その時点をイベント発生時間として設定する(ステップS202)。P1>PcかつP≦Pcでない場合(ステップS201,No)には、後述するステップS203に進む。
【0043】
続いて、移動体管理装置2の履歴情報生成部321は、移動体1の圧力データの履歴を含む移動体履歴情報を生成する(ステップS203)。この際、履歴情報生成部321は、移動体履歴情報として、イベント発生時間が設定されて以後の移動体1の圧力データPと時間Hrとの関係を示す移動体履歴線を生成する。
【0044】
ステップS203の後、イベント発生時間から所定時間(Kとする)経過した場合(ステップS204,Yes)、移動体管理装置2は、移動体1から受信したGPS位置情報をもとに、記憶部31のエリア情報記憶部314で記憶するエリア情報を取得する(ステップS205)。図6は、エリア情報記憶部314で記憶するエリアID管理テーブルの構成を示す図である。同図に示すエリアID管理テーブルT2は、エリアID、エリア名、エリアIDに対応するGPS位置情報の範囲を一組のエリア情報として、複数のエリア情報を記録している。なお、ステップS204における所定時間とは、移動体1の圧力データの履歴が安定化し、その圧力データの傾向が顕著になってくるような時間として設定されるのが好ましい。
【0045】
次に、相関判定部322は、移動体1のエリア情報に対応した正規履歴情報として、標準履歴情報記憶部312が記憶する正規履歴線を取得し(ステップS206)、この正規履歴線と、ステップS203で生成した移動体履歴線との相関判定を行う(ステップS207)。この際、相関判定部322は、例えば、移動体履歴線と正規履歴線の同時刻における圧力データPの差が所定の閾値よりも大きくなった場合、両者に相関がないと判定する。相関判定部322が、移動体履歴線と正規履歴線との間に相関があると判定した場合(ステップS208,Yes)には、ステップS201に戻って処理を繰り返す。
【0046】
以下、ステップS208において、相関判定部322が、移動体履歴線と正規履歴線との間に相関がないと判定した場合(ステップS208,No)について説明する。この場合、異常検出部323は、まず、正規履歴線のその時点での接線の傾き(F'とする)と、移動体履歴線のその時点での接線の傾き(G'とする)の大小を比較するとともに、イベント発生時間における圧力データPの値を参照する。その結果、F'<G'かつP=Pcである場合(ステップS209,Yes)、異常検出部323は、粗悪燃料の使用に起因する燃料フィルタ23の異常を検出する(ステップS210)。
【0047】
図7は、異常検出部323が、粗悪燃料の使用に起因する異常を検出する場合の移動体履歴線の形状を示す図であり、横軸が時間(Hr)、縦軸が圧力データ(P)である。図7において、移動体履歴線G1は、正規履歴線Fよりも早く圧力データPの値が上昇している。また、移動体履歴線G1の初期データは、正規履歴線Fの初期データPcと同じである。粗悪燃料は、正規燃料に比べて汚れが多いため、燃料フィルタ23の目詰まりが速い。このため、正規燃料を使用する場合よりも短時間のうちに、配管内の圧力が大きくなる傾向がある。したがって、異常検出部323は、移動体履歴線が図7に示す移動体履歴線G1のような振る舞いを示す場合、粗悪燃料の使用に起因した異常であると判定することができる。
【0048】
次に、ステップS209で、F'<G'かつP=Pcでない場合(ステップS209,No)について説明する。この場合、F'>G'かつP≦Pcであれば(ステップS211,Yes)、異常検出部323は、偽造フィルタの使用に起因する燃料フィルタ23の異常を検出する(ステップS212)。
【0049】
図8は、異常検出部323が、偽造フィルタの使用に起因する異常を検出する場合の移動体履歴線の形状を示す図であり、横軸が時間(Hr)、縦軸が圧力データ(P)である。図8において、移動体履歴線G2は、その初期データが正規履歴線Fの初期データPcよりも低く、圧力データの時間経過に伴う立ち上がりも遅い。
【0050】
一般に、偽造フィルタは、純正フィルタに比べてフィルタエレメント(濾過材)の目が粗く、燃料が通過する際の通過面積が広い。このため、偽造フィルタは、例えばフィルタエレメントの継目から燃料が漏れることなどの原因により、純正フィルタのようにフィルタ前後の差圧が大きくならない。したがって、異常検出部323は、移動体履歴線が図8に示す移動体履歴線G2のような振る舞いを示す場合、偽造フィルタの使用に起因した異常であると判定することができる。
【0051】
これに対して、F'>G'かつP≦Pcでない場合(ステップS211,No)、この段階で異常を判定することはできない。そこで、異常検出部323は、相関判定部322における相関なしの判定結果が、イベント発生時間設定以降、最初の「相関なし」であるか否かに応じて処理を変更する(ステップS213)。すなわち、異常検出部323は、今回がイベント発生時間設定以降、最初の「相関なし」である場合(ステップS213,Yes)、移動体履歴線と正規履歴線の相関がなくなってからの時間を与える非相関発生時間Tcを0と設定し(ステップS214)、ステップS201に戻って処理を繰り返す。
【0052】
他方、異常検出部323は、今回がイベント発生時間設定以降、最初の「相関なし」でない場合(ステップS213,No)、非相関発生時間Tcが所定の閾値Hに達したか否かに応じた処理を行う。この閾値Hは、異常検出部323が異常を判定することができる最小の時間として設定される。このため、Tc<Hである場合(ステップS215,Yes)には、ステップS201に戻って処理を繰り返す。
【0053】
ステップS215でTc<Hではない場合、すなわち非相関発生時間TcがHに達した場合(ステップS215,No)、その時点での圧力データPがP≦Pcを満たしていなければ(ステップS216,No)、異常検出部323は、偽造フィルタの使用に起因した異常を検出する(ステップS212)。図9は、この場合の移動体履歴線の変化を示す図である。同図に示す移動体履歴線G3は、最初のうち、正規履歴線Fに沿った振る舞いを示すが、やがて正規履歴線Fから乖離し、初期データPcまで下降することもなく、Tc=Hに達する。したがって、この場合には、フィルタ交換もなされていない可能性が高いため、異常検出部323は、移動体履歴線G3を、偽造フィルタが使用された履歴線であると判定する。
【0054】
図9に示す移動体履歴線G3は、偽造フィルタの縫合が粗雑である場合などに起こりうる。この場合、イベント発生時間以降、初期の段階では純正フィルタと同様に適正な動作をしているが、縫合部における劣化が純正フィルタよりも早く進むため、寿命が短く、ある時点から急に圧力が増加しなくなる。図9の場合、その後の履歴を見ても、圧力データが初期データPcまで下降しないため、フィルタ交換が行われた可能性は低く、偽造フィルタである可能性が高い。このように、非相関発生時間Tcの閾値Hは、少なくとも偽造フィルタとフィルタ交換の違いを判別可能な時間として設定される。
【0055】
初期段階で正規履歴線Fと一致しながら、途中から乖離していく移動体履歴線としては、図9以外に、図10および図11に示す場合がある。図10および図11にそれぞれ示す移動体履歴線G4およびG5は、Tc=Hとなる前に、圧力データPが初期データPcよりも低くなる。したがって、その時点で、イベント発生時間が再設定され(ステップS202)、その後の挙動によって、偽造フィルタであるか否かが判定されることとなる。
【0056】
まず、図10に示す場合には、再設定されたイベント発生時間から所定時間経過しても圧力データPが初期データPcより大きくならなかったため、異常検出部323が偽造フィルタに起因する異常であると判定する場合を示している。
【0057】
これに対して、図11に示す場合には、イベント時間再設定後の所定時間経過した時点で、圧力データPは初期データPcよりも大きくなっている。このため、図11に示す場合には、フィルタ交換が行われ純正品が取り付けられた可能性が高いので、異常検出部323が異常の判定を下すことはない。この場合には、自動的にフィルタ交換を検知することができるため、フィルタ交換履歴の管理を、人手を介すことなく適切に行うことができる。
【0058】
以上説明した燃料フィルタの異常検出処理(ステップS22)によって異常が検出された場合、移動体管理装置2は、検出した異常の内容と、異常の内容に応じて移動体1で行うべき動作を指示する動作指示信号とを含む検出情報を移動体1へ送信する(ステップS23)。
【0059】
移動体1の通信装置11は、移動体管理装置2から送信されてくる検出情報に応じた処理を行う(ステップS13)。図12は、移動体管理装置2から送られてきた検出情報に含まれる受信イベントID管理テーブルの構成を示す図である。同図に示す受信イベントID管理テーブルT3は、移動体管理装置2が検出した異常の内容を識別するイベントIDごとに、表示装置28で表示する内容(メッセージ)と、そのイベントIDに対応して移動体1が行うべき動作を指示するアクションID(動作指示信号)が記載されている。例えば、アクションID「1」(偽造フィルタ使用時)は、表示装置28で警告灯を点滅させる動作に対応している。また、アクションID「2」(粗悪燃料使用時)は、エンジン14のエンジン回転数減(トルク低減)に対応している。このようにエンジン回転数を減少させることにより、燃料流量を制限し、粗悪燃料使用によるノッキング等の問題を生じにくくすることができる。また、噴射系部品に異常が生じたり、インジェクタの詰まりが生じたりすることによって、正常な燃料噴射が困難となり、エンジンが動作しなくなる等の問題の発生を未然に防ぐことが可能となる。
【0060】
なお、上記以外にも、例えばアクションID「0」として、何もアクションを起こさない(ノーアクション)場合を設定することもできる。また、移動体1に音声出力装置を具備させておき、アクションID「1」の場合に警告音を発生するようにしてもよい。
【0061】
移動体管理装置2は、移動体1への情報の送信後、検出情報を記憶部31のフィルタ状態記憶部313に記録する(ステップS24)。図13は、フィルタ状態記憶部313で記憶するフィルタ状態管理テーブルの構成を示す図である。同図に示すフィルタ状態管理テーブルT4では、移動体ID100の移動体1が偽造フィルタ使用状態(偽造フィルタフラグが立った状態)にあり、移動体ID200の移動体1が粗悪燃料使用状態(粗悪燃料フラグが立った状態)にあり、移動体ID300の移動体1が正常な状態にある場合を示している。
【0062】
以上説明した本発明の実施の形態1によれば、移動体と通信され、燃料フィルタの純正品に対する圧力データの履歴情報(正規履歴情報)を記憶する移動体管理装置が、移動体から受信した圧力データの履歴情報(移動体履歴情報)を生成し、この移動体履歴情報と正規履歴情報とを比較し、両者に相関がない場合には、移動体履歴情報の初期値と変化量を参照して燃料フィルタの異常を検出するため、移動体が位置する環境に適した正規履歴を用いた異常検出を行うことができる。したがって、移動体が置かれた様々な動作環境にも適切に対応可能であり、偽造燃料フィルタや粗悪燃料の使用を、移動体の動作環境によらずに精度よく検出することが可能となる。
【0063】
また、本実施の形態1によれば、GPS位置情報から使用環境が分かるので、地域別の圧力データのみを活用し地域別に正規履歴線を作成することにより、地域性を考慮しない場合と比較してデータのばらつきを抑えることができる。加えて、データ演算量を削減することもできるため、移動体管理装置の負荷が低減されるとともに、正規履歴線の信頼性も向上する。
【0064】
さらに、本実施の形態1によれば、圧力データとして燃料フィルタ前後の差圧を求めることにより、燃料フィルタの劣化度や燃料フィルタの性能をより正確に検知することができる。
【0065】
加えて、本実施の形態1によれば、移動体から遠く離れた場所であっても所定の通信網によって移動体の燃料フィルタの異常を検出することができる。燃料フィルタの異常が検出された場合、移動体管理装置は、移動体に対し、異常の種類に応じた保全処置を講じる信号を送信することができる。
【0066】
なお、本実施の形態1では、圧力データと時間を変数とする移動体履歴線を用いて異常検出を行ったが、総燃料噴射量と圧力を変数とする履歴線を用いて異常検出を行ってもよい。このように、圧力データの履歴情報は、様々なパラメータを含みうるものである。
【0067】
また、移動体管理装置から、燃料フィルタが純正品である場合の圧力データの正規履歴情報を移動体に送信し、移動体のエンジン制御部が、自律的に圧力データの異常を検出し、その検出結果に応じた保全措置を講じてもよい。
【0068】
さらに、移動体履歴情報として蓄積した情報を用いて、標準履歴情報記憶部で記憶する履歴情報を所定時間ごとに更新するようにしてもよい。例えば、移動体履歴情報が純正フィルタの使用によるものであれば、正規履歴線に関する情報がさらに蓄積されていくこととなる。また、移動体履歴情報が燃料フィルタの異常に伴うものであれば、そのような燃料フィルタの異常を示す履歴情報を蓄積していくことができるので、将来的に十分な量が蓄積した時点で燃料フィルタの異常を示す履歴情報を異常検出処理に適用することもできるようになる。この結果、一段と精度の高い燃料フィルタの異常検出処理を実現することができる。
【0069】
(実施の形態2)
本発明の実施の形態2は、移動体管理装置の記憶部で偽造フィルタ使用時の履歴線である偽造フィルタ履歴線や粗悪燃料使用時の履歴線である粗悪燃料履歴線を記憶しておき、移動体履歴線と正規履歴線との相関がない場合、偽造フィルタ履歴線や粗悪燃料履歴線との相関を求めることによって燃料フィルタの異常を検出することを特徴とする。
【0070】
本実施の形態2に係る移動体監視システムの構成は、上記実施の形態1に係る移動体監視システム100の構成とほぼ同じである(図1を参照)が、移動体管理装置2の記憶部31の標準履歴情報記憶部312で記憶する内容および制御部32の制御処理が異なる。また、本実施の形態2における移動体監視システムの処理の概要は、上記実施の形態1における移動体監視システムの処理の概要とほぼ同じである(図2を参照)が、燃料フィルタの異常検出処理(ステップS22)の内容が異なる。
【0071】
図14は、本実施の形態2に係る燃料フィルタの異常検出方法の概要を示すフローチャートである。図14において、ステップS301〜S308の処理は、図5におけるステップS201〜S208の処理と同じである。
【0072】
この後、相関判定部322は、記憶部31に記憶されている偽造フィルタ履歴線と移動体履歴線との相関判定を行い(ステップS309)、相関がある場合(ステップS310,Yes)には、偽造フィルタ使用による燃料フィルタの異常を検出する(ステップS311)。この際の相関判定部322における相関判定は、正規履歴線と移動体履歴線との相関判定と同様に行えばよい。図15は、偽造フィルタ履歴線の概要を示す図である。偽造フィルタ履歴線Imは、初期データPIが正規履歴線Fの初期データPcよりも低く、時間経過に伴う圧力データPの立ち上がりも遅い。
【0073】
偽造フィルタ履歴線Imとの相関がない場合(ステップS310,No)、相関判定部322は、粗悪燃料履歴線との相関判定を行う(ステップS312)。判定の結果、粗悪燃料履歴線と移動体履歴線との間に相関がある場合(ステップS313,Yes)には、異常検出部323が、粗悪燃料使用による燃料フィルタの異常を検出する(ステップS314)。図16は、粗悪燃料履歴線の概要を示す図である。同図に示す粗悪燃料履歴線Wは、正規履歴線Fの初期データPcと同じ初期データを有しているが、時間経過に伴う圧力データPの立ち上がりが正規履歴線Fよりも早い。
【0074】
粗悪燃料履歴線との相関がない場合(ステップS313,No)、異常検出部323は、ステップS301に戻って処理を繰り返す。ここでステップS301に戻る代わりに、移動体の履歴線と正規履歴線との相関判定を、上記実施の形態1と同様に行ってもよい。すなわち、ステップS315でNoの場合、引き続き、図5におけるステップS209〜S216の処理を行うようにしてもよい。
【0075】
なお、偽造フィルタ履歴線と移動体履歴線の相関判定(ステップS309)と、粗悪燃料と移動体履歴線の相関判定(ステップS312)の順序は任意であり、図14と逆の順序で行ってもよい。
【0076】
以上説明した本発明の実施の形態2によれば、移動体と通信され、燃料フィルタの純正品に対する圧力データの履歴情報(正規履歴情報)を記憶する移動体管理装置が、移動体から受信した圧力データの履歴情報(移動体履歴情報)を生成し、この移動体履歴情報と正規履歴情報とを比較し、両者に相関がない場合には、移動体履歴情報の初期値と変化量を参照して燃料フィルタの異常を検出するため、移動体が位置する環境に適した正規履歴を用いた異常検出を行うことができる。したがって、移動体が置かれた様々な使用環境にも適切に対応可能であり、偽造燃料フィルタや粗悪燃料の使用を精度よく検出することが可能となる。
【0077】
また、本実施の形態2によれば、移動体管理装置側で、燃料フィルタが偽造品である場合の圧力データの標準的な履歴を含む偽造フィルタ履歴情報と、燃料が粗悪燃料である場合の圧力データの標準的な履歴を含む粗悪燃料履歴情報とを記憶し、これらの履歴情報を用いることによって燃料フィルタや燃料の真贋を判定することにより、過去の異常データを用いた燃料フィルタの異常検出が可能となる。
【0078】
なお、偽造フィルタや粗悪燃料は、純正フィルタや正規燃料のように均一な性質を有していないことに鑑み、移動体履歴線と比較する際には、図17に示すように、偽造フィルタ使用領域SImや粗悪燃料使用領域SWを設定し、この領域に移動体履歴線が侵入してきたとき、異常検出部323が、侵入してきた領域に対応する異常を検出するようにしてもよい。
【0079】
本実施の形態2においても、移動体履歴情報として蓄積した情報を、標準履歴情報記憶部で記憶する履歴情報に反映させるようにしてもよい。これにより、正規履歴線、偽造フィルタ履歴線、粗悪燃料履歴線の情報が順次蓄積され、更新されていくため、一段と精度の高い異常判定処理を行うことが可能となる。
【0080】
(その他の実施の形態)
ここまで、本発明を実施するための最良の形態として、実施の形態1および2を詳述してきたが、本発明はそれら2つの実施の形態によってのみ限定されるべきものではない。例えば、圧力データとして、燃料フィルタ23の入口ポート、または出口ポートのいずれか一方で計測するようにしてもよい。図1に示すように、ポンプ21が、燃料フィルタ23の入口ポートよりも前段の燃料タンク18側にある場合には、入口ポート側の圧力センサ22で入口ポート側の配管内圧力を計測する。したがって、圧力センサ24は不要である。この場合、ポンプ21から燃料が押し出されるが、燃料フィルタ23が目詰まりするにつれて絞りの影響が大きくなり、燃料フィルタ23の入口ポート側の燃料配管の圧力は、フィルタ正常状態の負圧に比べて高負圧となる。
【0081】
これに対して、図18に示すように、ポンプ21が燃料フィルタ23の出口ポートよりも後段のエンジン14側にある場合は、出口ポート側の圧力センサ24で出口ポート側の配管内圧力を計測する。したがって、入口ポート側にある圧力センサ22は不要である。この場合は、ポンプ21から燃料が押し出されるが、この時、燃料フィルタ23が目詰まりするにつれて絞りの影響が大きくなり、燃料フィルタ23の出口ポート側の燃料配管の圧力は、フィルタ正常状態の負圧に比べて高負圧となる。
【0082】
ところで、本発明においては、移動体管理装置が移動体履歴線を作成しているうちに燃料フィルタを交換すべき圧力データの値に到達する時間が所定時間を切った場合、フィルタ交換推奨メッセージを移動体へ送信し、移動体で表示するようにしてもよい。この所定時間よりもさらに短い警告送信時間を設定しておき、警告送信時間になってもフィルタ交換がなされていない移動体に対し、フィルタ交換警告メッセージを送信し、その移動体の表示装置で警告メッセージを表示するようにしてもよい。
【0083】
以上の説明では、移動体と移動体管理装置との間の通信について説明したが、この両者と通信接続された他の機器との間の通信が可能なシステムを構成することもできる。例えば、携帯電話との通信を行うようにして、ユーザの携帯電話に、最適なフィルタ交換時期を知らせるメールを所定のタイミングで送信するようにしてもよい。これにより、移動体のフィルタ交換メンテナンスを効率よく行うことが可能となる。また、ユーザーと最寄サービス代理店の距離が離れており、サービスマンが頻繁に巡回することができない状況であっても、ユーザはフィルタの交換時期までの時間を逐次把握することができるので、フィルタ取寄時間を考慮に入れからフィルタの事前発注を行い、フィルタ交換の最適な巡回計画が立案可能となる。
【0084】
さらに、燃料フィルタメーカが有する管理サーバとの通信可能なシステムを構成し、ユーザ、移動体管理者(移動体メーカ)、燃料フィルタメーカで移動体のフィルタ状態を含む情報を共有するようにしてもよい。これにより、燃料フィルタメーカは、異常時の履歴を用いることによって偽造フィルタ対策や粗悪燃料対策を講じることができるようになるとともに、フィルタ交換時期を迎えそうな移動体の数を正確に把握し、燃料フィルタの生産計画を最適化することが可能となる。
【0085】
なお、本発明に適用する測位手段はGPSに限られるわけではなく、他の測位手段を用いて移動体の位置を測位してもよい。
【0086】
また、本発明は、建設機械以外の移動体、例えば四輪自動車に対しても適用することが可能である。
【0087】
このように、本発明は、ここでは記載していない様々な実施の形態等を含みうるものであり、特許請求の範囲により特定される技術的思想を逸脱しない範囲内において種々の設計変更等を施すことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明の実施の形態1に係る移動体監視システムの概略構成を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係る移動体監視システムが行う移動体の燃料フィルタの異常検出処理の概要を示すシーケンス図である。
【図3】移動体における圧力データ生成処理の概要を示すフローチャートである。
【図4】移動体情報記憶部が記憶する移動体情報管理テーブルの構成を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態1に係る移動体管理装置における燃料フィルタの異常検出処理の概要を示すフローチャートである。
【図6】エリア情報記憶部で記憶するエリアID管理テーブルの構成を示す図である。
【図7】粗悪燃料が使用されている場合の移動体履歴線の概要を示す図である。
【図8】偽造フィルタが使用されている場合の移動体履歴線の概要(第1例)を示す図である。
【図9】偽造フィルタが使用されている場合の移動体履歴線の概要(第2例)を示す図である。
【図10】偽造フィルタが使用されている場合の移動体履歴線の概要(第3例)を示す図である。
【図11】フィルタ交換が行われた場合の移動体履歴線の概要を示す図である。
【図12】本発明の実施の形態1に係る移動体管理装置から送られてきた情報の受信イベントID管理テーブルの構成を示す図である。
【図13】フィルタ状態記憶部で記憶するフィルタ状態管理テーブルの構成を示す図である。
【図14】本発明の実施の形態2に係る燃料フィルタの異常検出方法の概要を示すフローチャートである。
【図15】本発明の実施の形態2に係る燃料フィルタの異常検出方法に適用される偽造フィルタ履歴線の概要を示す図である。
【図16】本発明の実施の形態2に係る燃料フィルタの異常検出方法に適用される粗悪燃料履歴線の概要を示す図である。
【図17】本発明の実施の形態2の変形例に係る燃料フィルタの異常検出方法に適用される偽造フィルタ使用領域および粗悪燃料使用領域の概要を示す図である。
【図18】本発明の別な実施の形態に係る移動体監視システムを構成する移動体の燃料フィルタ付近の概略構成を示す図である。
【符号の説明】
【0089】
1 移動体
2 移動体管理装置
3 GPS衛星
4 通信衛星
5 地上局サーバ
5a、10a、12a アンテナ
10 GPSセンサ
11 通信装置
12 送受信器
14 エンジン
16 エンジン制御部
18 燃料タンク
20 温度センサ
21 ポンプ
22,24 圧力センサ
23 燃料フィルタ
28 表示装置
29 記憶装置
30 送受信部
31 記憶部
32 制御部
100 移動体監視システム
141 エンジン回転数センサ
142 燃料噴射装置
161 圧力データ生成部
311 移動体情報記憶部
312 標準履歴情報記憶部
313 フィルタ状態記憶部
314 エリア情報記憶部
321 履歴情報生成部
322 相関判定部
323 異常検出部
NW ネットワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源であるエンジンに供給される燃料をろ過する燃料フィルタを備えた移動体の位置情報と、前記燃料フィルタ近傍における前記燃料の配管内圧力を用いて求められる圧力データとを有する移動体情報を前記移動体から受信し、この受信した移動体情報を用いて前記移動体を管理する移動体管理装置であって、
前記圧力データの履歴を含む移動体履歴情報を生成する履歴情報生成手段と、
前記燃料フィルタが純正品である場合の前記圧力データの標準的な履歴を含む正規履歴情報を、前記移動体の位置情報と対応付けて記憶する記憶手段と、
前記履歴情報生成手段で生成した移動体履歴情報と、当該移動体履歴情報に含まれる前記圧力データを送信した前記移動体の位置情報に対応付けられる前記正規履歴情報との相関の有無を判定する相関判定手段と、
前記相関判定手段で判定した結果に基づいて前記燃料フィルタの異常を検出する異常検出手段と、
前記異常検出手段の検出結果および当該検出結果に応じた前記移動体の動作指令信号を含む検出情報を前記移動体に送信する送信手段と、
を備えたことを特徴とする移動体管理装置。
【請求項2】
前記異常検出手段は、
前記相関判定手段で判定した結果、前記移動体履歴情報と前記正規履歴情報との間に相関がない場合、前記移動体履歴情報および前記正規履歴情報をそれぞれ構成する前記圧力データの所定時刻における値を比較するとともに、前記移動体履歴情報および前記正規履歴情報をそれぞれ構成する前記圧力データの所定時間当たりのデータ変化量のうち、最新のデータ変化量を比較し、この比較結果に基づいて前記燃料フィルタの異常を検出することを特徴とする請求項1記載の移動体管理装置。
【請求項3】
前記記憶手段は、
前記燃料フィルタが偽造品である場合の前記圧力データの標準的な履歴を含む偽造フィルタ履歴情報、および前記燃料が粗悪燃料である場合の前記圧力データの標準的な履歴を含む粗悪燃料履歴情報を、前記移動体の位置情報とそれぞれ対応付けて記憶し、
前記相関判定手段は、
前記移動体履歴情報と前記正規履歴情報との間に相関がない場合、前記移動体履歴情報と、当該移動体履歴情報に含まれる前記圧力データを送信した前記移動体の位置情報に対応付けられる前記偽造フィルタ履歴情報および/または前記粗悪燃料履歴情報との相関の有無を判定することを特徴とする請求項1記載の移動体管理装置。
【請求項4】
前記記憶手段で記憶する情報は、前記移動体履歴情報を用いて所定の時間間隔で更新されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載の移動体管理装置。
【請求項5】
前記圧力データは、前記燃料フィルタの前後の配管内圧力の差圧であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項記載の移動体管理装置。
【請求項6】
駆動源であるエンジンに供給される燃料をろ過する燃料フィルタを備えた移動体と、前記移動体と通信接続され、前記移動体から送信されてくる情報を用いて前記移動体を管理する移動体管理装置と、を有する移動体監視システムであって、
前記移動体は、
前記燃料の配管の前記燃料フィルタ近傍の上流側および下流側の少なくともいずれか一方に設けられる圧力センサと、
前記圧力センサが逐次検出する配管内圧力の各々に対して所定の補正を行い、この逐次補正した値を所定の周期で平均化することにより、前記配管内圧力に対応する圧力データを生成する圧力データ生成手段と、
物体の位置を測位する測位手段から送信されてくる当該移動体の位置情報を取得し、この取得した位置情報と、前記圧力データ生成手段で生成した圧力データとを有する移動体情報を前記移動体管理装置へ送信する一方、前記移動体管理装置から送信されてくる情報を受信する通信装置と、
を備え、
前記移動体管理装置は、
前記圧力データの履歴を含む移動体履歴情報を生成する履歴情報生成手段と、
前記燃料フィルタが純正品である場合の前記圧力データの標準的な履歴を含む正規履歴情報を、前記移動体の位置情報と対応付けて記憶する記憶手段と、
前記履歴情報生成手段で生成した移動体履歴情報と、当該移動体履歴情報に含まれる前記圧力データを送信した前記移動体の位置情報に対応付けられる前記正規履歴情報との相関の有無を判定する相関判定手段と、
前記相関判定手段で判定した結果に基づいて前記燃料フィルタの異常を検出する異常検出手段と、
前記異常検出手段の検出結果および当該検出結果に応じた前記移動体の動作指令信号を含む検出情報を前記移動体に送信する送信手段と、
を備えたことを特徴とする移動体監視システム。
【請求項7】
駆動源であるエンジンに供給される燃料をろ過する燃料フィルタを備えた移動体の位置情報と、前記燃料フィルタ近傍における前記燃料の配管内圧力を用いて求められる圧力データとを有する移動体情報を前記移動体から受信し、この受信した移動体情報を用いて前記移動体を管理する移動体管理装置が、前記燃料フィルタの異常を検出する燃料フィルタの異常検出方法であって、
前記圧力データの履歴を含む移動体履歴情報を生成する履歴情報生成ステップと、
前記履歴情報生成ステップで生成した移動体履歴情報と、当該移動体履歴情報に含まれる前記圧力データを送信した前記移動体の位置情報に対応付けられ、前記燃料フィルタが純正品である場合の前記圧力データの標準的な履歴を含む正規履歴情報との相関の有無を判定する相関判定ステップと、
前記相関判定ステップで判定した結果に基づいて前記燃料フィルタの異常を検出する異常検出ステップと、
前記異常検出ステップの検出結果および当該検出結果に応じた前記移動体の動作指令信号を含む検出情報を前記移動体に送信する送信ステップと、
を有することを特徴とする燃料フィルタの異常検出方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate


【公開番号】特開2008−158994(P2008−158994A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−350242(P2006−350242)
【出願日】平成18年12月26日(2006.12.26)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【Fターム(参考)】