説明

移動体識別装置

【課題】 ラベルの形状や大きさ、ラベル内のICタグインレットの位置や向きが自由に設定されている場合にもより少ない電力で確実に情報の読み書きが行える移動体識別装置を提供すること。
【解決手段】 ラベルプリンタはラベルに内蔵された応答器(ICタグ)との間で無線通信を行う質問器11と質問器11に接続されたアンテナを有し、このアンテナは互いに指向性の異なるアンテナ21とアンテナ22とからなり、アンテナ21と22のどちらか一方のみを動作させるための電気的切替手段23を有する。ここでアンテナ21と22は例えばダイポールアンテナなどの受信電波に対して感度最大となる偏波方向を有する直線偏波のアンテナであり、かつ、上記感度最大となる偏波方向が互いにほぼ直交するように配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ICタグ等の移動情報通信体からなる応答器との間で無線通信を行う移動体識別装置に関し、特に、被識別物体に添付されるラベルに内蔵されたICタグに対して情報の書き込みおよび読み込みを行うラベルプリンタ用の移動体識別装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ラベル用紙の表面に商品名やバーコードの印字をして商品の管理を行ってきたが、近年、そのラベルの中にICタグからなる応答器を備え、電波を用いてICタグに情報の書き込みおよび読み取りを行うことで無線による商品管理を行う方法が実施されるようになってきた。ICタグはICチップとアンテナからなるICタグインレットにより構成される。このようなラベルへのRFID(Radio Frequency Identification)機能の追加は、ICタグに対して情報の書き込みおよび読み込みを行うため、ICチップと電波で通信し情報をやりとりする無線通信機(質問器)と電波の送受信を行うアンテナをラベルプリンタ内部に設置して実現されている。
【0003】
上記ラベルプリンタは、使用されるラベルの大きさや幅等が同一ではなく、印字のレイアウトもさまざまであるのでこれに対応できる必要があり、かつ、ラベル内に設置されるICタグインレットの位置も任意の位置に設定できるようにする必要がある。しかし、質問器のアンテナを固定して配置すると、ラベルの形状や位置に関係なく、情報の書き込みおよび読み出しを行なえるICタグインレットの位置や向きが限定されてしまう。
【0004】
一般に電波を用いて情報を読み書きする場合、ICタグインレットのアンテナと質問器のアンテナとの距離を近づけた方が、より少ない電力で確実に情報の読み書きが行える。そこで、ICタグインレットがラベルのどの位置にあるかで、質問器のアンテナを配置すべき位置が異なってしまう。ICタグインレットの位置に対応して最適な環境を作る従来の方法として、特許文献1に示されるように、使用しているラベル内のICタグインレットの位置に応じて質問器のアンテナの位置を移動させる方法がある。図6は、この方法による質問器のアンテナとラベル、ICタグインレットの位置関係を模式的に示す図である。図6(a)は、ICタグインレットがラベルの中央部にある場合を示し、図6(b)は、ラベルに対し片寄った位置にある場合を示す。ラベル台紙60上に設置されたラベル61とラベル61に内蔵されたICタグインレット62の位置が図6(a)に示した位置から図6(b)の位置に変わった場合、アンテナ駆動装置によってICタグインレット62に対向する位置に質問器のアンテナ63を機械的に移動するものである。アンテナ63は実際にはラベル台紙60の上面または下面に近接して設置される。
【0005】
【特許文献1】特開2006−18456号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ICタグインレットに用いられるアンテナは、ダイポールなどの特定の偏波方向に対して感度が最大となる直線偏波のアンテナが用いられることが多いため、ラベルプリンタに内蔵される質問器に接続されるアンテナもまた直線偏波のアンテナを使用した方が、より少ない電力で確実に情報の読み書きが行える。ただし、ICタグインレットのアンテナと質問器のアンテナとの偏波面が一致した場合に電波の送受の効率が最大となり、偏波面がずれるに従って効率は低下し、お互いのアンテナを直交する向きに配置した場合には、情報の読み書きはほとんど行えなくなる。また、アンテナからの電波の放射方向、すなわち指向性が互いに大幅に異なる場合も効率が低下してしまう。
【0007】
従来例のように、質問器のアンテナを単に左右に移動させる方法では、ICタグインレットの位置が多少左右に平行移動した場合に対応できるだけであり、ラベルの形状や大きさ、ラベル内のICタグインレットの位置や向きが自由に設定されている場合には対応できないという問題があった。
【0008】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、本発明の課題は、ラベルの形状や大きさ、ラベル内のICタグインレットの位置や向きが自由に設定されている場合にも、より少ない電力で確実に情報の読み書きが行える移動体識別装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明による識別装置は、応答器との間で無線通信を行う質問器を有する移動体識別装置において、前記質問器に接続されたアンテナを有し、該アンテナは互いに指向性の異なる2つのアンテナからなり、該2つのアンテナのどちらか一方のみを動作させるための電気的切替手段を有することを特徴とする。
【0010】
また、前記2つのアンテナは、受信電波に対して感度最大となる偏波方向を有する直線偏波のアンテナであってもよい。
【0011】
前記2つのアンテナは、上記感度最大となる偏波方向が互いに直交するように配置されていることが望ましい。
【0012】
また、前記電気的切替手段がスイッチであってもよい。
【0013】
また、光学的手段を用いて前記応答器の配置を検出し、その結果に基づいて前記電気的切替手段を動作させてもよい。
【0014】
前記光学的手段は、前記応答器又は前記応答器が設置されたラベルからの反射光又は前記応答器又は前記応答器が設置されたラベルの透過光の光量の違いを検出する手段であってもよい。
【0015】
また、前記無線通信は2つの異なる周波数を用いてなされ、前記電気的切替手段は分波器を使用してもよい。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本発明では、質問器に指向性の異なる2つのアンテナを接続して電気的に切り替えて使用することによりラベルの形状や大きさ、ラベル内のICタグインレットの位置や向きが自由に設定されている場合にも、より少ない電力で確実に情報の読み書きが行える移動体識別装置が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0018】
図1は本発明による移動体識別装置の第一の実施例であるラベルプリンタの概略構成図であり、図2はその質問器とアンテナ部分の配置を示す模式図である。図1において、ラベルプリンタ20はラベル台紙10上に配置されたラベルに内蔵された応答器(ICタグ)との間で無線通信を行う質問器11と質問器11に接続されたアンテナ3を有する。アンテナ3はラベル内応答器のICタグインレットと情報の読み書きが行いやすいようにラベル台紙10の下面に近接して設置されている。
【0019】
図2において、アンテナ3は互いに指向性の異なる2つのアンテナ、アンテナ21とアンテナ22とからなり、アンテナ21と22のどちらか一方のみを動作させるための電気的切替手段23を有する。ここで、アンテナ21と22は例えばダイポールアンテナなどの受信電波に対して感度最大となる偏波方向を有する直線偏波のアンテナであり、かつ、上記感度最大となる偏波方向が互いにほぼ直交するように配置されている。
【0020】
図3は本実施例のラベルプリンタ20での電気的切替手段23の動作を説明する模式図である。図3(a)、図3(b)はラベル台紙10上に配置されたラベル内のICタグインレットの位置とそのアンテナの向きが互いに異なる2つの場合を示している。ICタグインレット2のアンテナはダイポールアンテナ等の直線偏波のアンテナであり、その感度最大となる偏波方向は矢印で示すように、図3(a)ではラベル台紙10の進行方向に対してほぼ垂直であり、図3(b)ではラベル台紙10の進行方向に対してほぼ平行な方向となっている。
【0021】
一方、ラベル台紙10の下面に近接して配置される質問器11に接続されたアンテナ3(図1)は、図3に示されるように、電気的切替手段23によって、図3(a)の場合はアンテナ21が動作可能となり、図3(b)ではアンテナ22が動作可能となっている。アンテナ21の最大感度となる偏波方向は矢印のようにラベル台紙10の進行方向に対してほぼ垂直となるように配置され、その結果、アンテナ22ではその最大感度となる偏波方向が矢印のようにラベル台紙10の進行方向に対してほぼ平行な方向となり、両者ともICタグインレット2のアンテナ方向と合致する。この結果、図3(a)、図3(b)の場合ともICタグインレット2に対して少ない電力で効率よく情報の読み書きが行える。
【0022】
なお、アンテナ21および22の指向性はダイポールアンテナを使用した場合、それぞれアンテナの矢印の方向に垂直な方向に対して最大感度となり、矢印の方向に対しては感度最小となるので、アンテナ21と22では指向性も互いに異なっている。
【0023】
電気的切替手段23は電気的なスイッチで構成することができ、このスイッチは質問器11の制御ではなくラベルプリンタ20等の上位の制御部からの制御により直接切り替えても良い。
【0024】
図4は、本実施例において、光学的手段を用いてラベル内の応答器の配置、すなわちICタグインレット2の配置を検出し、その結果に基づいて電気的切替手段23を動作させる場合の一例を示す模式図である。図4(a)はラベルからの反射光により検出する場合の一例を示し、図4(b)はラベルの透過光により検出する場合の一例を示す。
【0025】
図4(a)において、発光器41からの光がラベル1またはラベル台紙10の方向に投射され、そこからの反射光の一部が受光器42に入射するように設定している。ここではICタグインレット2のアンテナの感度最大となる偏波方向とそれに直交する方向でラベルの長さが異なる場合を示し、上記偏波方向がラベル進行方向に垂直なときはラベル1上に光が投射され、平行なときはラベル1をはずれてラベル台紙10上に投射されるように設定されている。受光器42に入射する反射光量はラベル1からとラベル台紙10からでは異なるので、その光量の違いによりICタグインレット2のアンテナの感度最大となる偏波方向を知ることができる。この結果に基づき電気的切替手段23を動作させる。
【0026】
図4(b)において、発光器41からの光がラベル1またはラベル台紙10の方向に投射され、そこからの透過光の一部が受光器42に入射するように設定している。図4(a)の場合と同様に、ICタグインレット2のアンテナの感度最大となる偏波方向とそれに直交する方向でラベルの長さが異なる場合を示し、上記偏波方向がラベル進行方向に垂直なときはラベル1上に光が投射され、平行なときはラベル1をはずれてラベル台紙10上に投射され、そこに設けた孔44を通過してその一部がラベル台紙10の反対側に設置した受光器42に入射するように設定されている。受光器42に入射する透過光量によりICタグインレット2のアンテナの感度最大となる偏波方向を知ることができる。この結果に基づき電気的切替手段23(図1)を動作させる。
【0027】
なお、光学的手段を用いて応答器の配置を検出する方法は上述の方法にとらわれず、反射光量により検出する方法では、ラベル上またはラベル台紙上の一部に反射または光吸収する部分を設けてそこに光を投射する方法なども使用でき、透過光量により検出する方法ではラベル上またはラベル台紙上の一部に透明部分または光遮断する部分を設けてそこに光を投射する方法なども使用できる。また、反射光、透過光の光量ではなく、ラベル形状画像を検出して応答器の配置を検出する方法も使用できる。
【0028】
図5は本発明による移動体識別装置の第二の実施例であるラベルプリンタのアンテナ部分を説明する図である。図5(a)は本実施例の電気的切替手段に用いる分波器の特性例を示す図であり、図5(b)はアンテナ部分の配置を示す模式図である。図5には示されていないが、第一の実施例と同様にラベルプリンタはラベル台紙上に配置されたラベルに内蔵された応答器(ICタグ)との間で無線通信を行う質問器と質問器に接続されたアンテナを有し、アンテナはラベル内応答器のICタグインレットと情報の読み書きが行いやすいようにラベル台紙の下面に近接して設置されている。
【0029】
図5(b)に示すように、上記アンテナは互いに指向性の異なる2つのアンテナ、アンテナ51とアンテナ52とからなり、アンテナ51と52のどちらか一方のみを動作させるための電気的切替手段として、本実施例では分波器53を有する。ここで、アンテナ51と52は例えばダイポールアンテナなどの受信電波に対して感度最大となる偏波方向を有する直線偏波のアンテナである。
【0030】
図5(a)は縦軸が減衰量、横軸が周波数を示し、分波器53は周波数F2を境にして、周波数がF2よりも低い帯域(F1の領域)の電波信号に対しては入出力端子54をアンテナ51へ電気的に接続し、周波数がF2よりも高い帯域(F3の領域)の電波信号に対しては入出力端子54をアンテナ52に接続する機能をもつ。本実施例においては、設定された又は検出されたラベルの位置すなわちICタグインレット2のアンテナの感度最大となる偏波方向に対応して質問器から送出する電波の周波数をF1またはF3に切り替えることで、分波器53により自動的に使用するアンテナが最適なアンテナに切り替わることになる。
【0031】
以上のように、本発明によりラベルの形状や大きさ、ラベル内のICタグインレットの位置や向きが自由に設定されている場合にもより少ない電力で確実に情報の読み書きが行える移動体識別装置が得られる。
【0032】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、例えばアンテナとしてはループアンテナやパッチアンテナ、マイクロストリップアンテナ等を用いることができ、また、2つのアンテナの種類が異なっていてもよい。また、2つのアンテナの向きはICタグインレットのアンテナの向きに対応して配置すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明による移動体識別装置の第一の実施例であるラベルプリンタの概略構成図。
【図2】第一の実施例の質問器とアンテナ部分の配置を示す模式図。
【図3】第一の本実施例のラベルプリンタでの電気的切替手段の動作を説明する模式図、図3(a)、図3(b)はラベル台紙上に配置されたラベル内のICタグインレットの位置とそのアンテナの向きが互いに異なる2つの場合を示す図。
【図4】光学的手段を用いてラベル内の応答器の配置、すなわちICタグインレットの配置を検出し、その結果に基づいて電気的切替手段を動作させる場合の一例を示す模式図、図4(a)はラベルからの反射光により検出する場合の一例を示す図、図4(b)はラベルの透過光により検出する場合の一例を示す図。
【図5】本発明による移動体識別装置の第二の実施例であるラベルプリンタのアンテナ部分を説明する図、図5(a)は本実施例の電気的切替手段に用いる分波器の特性例を示す図、図5(b)はアンテナ部分の配置を示す模式図。
【図6】従来の方法による質問器のアンテナとラベル、ICタグインレットの位置関係を模式的に示す図。図6(a)は、ICタグインレットがラベルの中央部にある場合を示す図、図6(b)は、ラベルに対し片寄った位置にある場合を示す図。
【符号の説明】
【0034】
1、61 ラベル
2、62 ICタグインレット
3、21、22、51、52、63 アンテナ
10、60 ラベル台紙
11 質問器
20 ラベルプリンタ
23 電気的切替手段
41 発光器
42 受光器
44 孔
53 分波器
54 入出力端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
応答器との間で無線通信を行う質問器を有する移動体識別装置において、前記質問器に接続されたアンテナを有し、該アンテナは互いに指向性の異なる2つのアンテナからなり、該2つのアンテナのどちらか一方のみを動作させるための電気的切替手段を有することを特徴とする移動体識別装置。
【請求項2】
前記2つのアンテナは、受信電波に対して感度最大となる偏波方向を有する直線偏波のアンテナであることを特徴とする請求項1に記載の移動体識別装置。
【請求項3】
前記2つのアンテナは、上記感度最大となる偏波方向が互いにほぼ直交するように配置されていることを特徴とする請求項2に記載の移動体識別装置。
【請求項4】
前記電気的切替手段がスイッチであることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の移動体識別装置。
【請求項5】
光学的手段を用いて前記応答器の配置を検出し、その結果に基づいて前記電気的切替手段を動作させることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の移動体識別装置。
【請求項6】
前記光学的手段は、前記応答器若しくは前記応答器が設置されたラベルからの反射光又は前記応答器若しくは前記応答器が設置されたラベルの透過光の光量の違いを検出する手段であることを特徴とする請求項5記載の移動体識別装置。
【請求項7】
前記無線通信は2つの異なる周波数を用いてなされ、前記電気的切替手段は分波器を使用したことを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の移動体識別装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−90770(P2008−90770A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−273562(P2006−273562)
【出願日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)
【Fターム(参考)】