説明

移動体識別装置

【課題】 複数のアンテナを切換えることによって広いエリアでICタグを付された移動物体との通信可能で、かつその移動物体が高速に移動する場合にも通信を行うことが可能な移動体識別装置を提供すること。
【解決手段】 物体15の移動方向に配置された複数のアンテナ11、12、13、14を有するリーダーライタ30により、物体15に付されたICタグとの無線通信を行う移動体識別装置において、前記無線通信は搬送波を通信データにより振幅変調した高レベル値と低レベル値の2値からなるASK信号により行われ、かつ前記ASK信号が低レベル値であるときに前記複数のアンテナを物体15の移動に追従して該移動方向に順次切り替える手段を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ICタグを用いたRFIDシステムに関し、特に複数のアンテナを有するリーダーライタにより移動体に付されたICタグとの間で無線通信を行う移動体識別装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、アンテナと個体情報を記憶させたシリコンチップを有するICタグとリーダーライタとの間の無線通信により情報を送受信してICタグが添付された移動体の識別管理を行う移動体識別装置が、生産ライン、流通、交通、医療等のさまざまな分野で実用化されつつある。このようなICタグを用いたRFIDシステムでは、リーダーライタからICタグへ電力を伝送供給するとともに情報の送受を行っている。個体に記録された識別情報の読み出しだけでなく個体への新たな情報の記録も行われる。このような移動体識別装置の一例は下記特許文献1に示されている。
【0003】
実用化が進むにつれてこれらシステムに対する要求も増え続けている。なかでも、通信距離や通信範囲の拡大に対する要求は、それが実現できれば本システムの運用に係る様々な制限を取り払う一つの解になる点で重要である。しかし、電波法によってリーダーライタの送信電力が制限されるためその実現は容易ではない。このため、複数のアンテナを有するリーダーライタを用意し、その複数アンテナを移動体が移動する領域の所定の位置に配置し、移動体の移動に従って送受信を行うアンテナを切換えることによって通信距離や通信範囲を拡大する方法が従来より行われている。
【0004】
しかしながら、従来のアンテナの切換は、リーダーライタからの質問信号の送信、またはリーダーライタとICタグとの間の通信が一旦終了するまで待って行われる。すなわち、リーダーライタから発する通信コマンドの区切りでアンテナを切換るため、例えば生産ラインなどで高速移動する物体の識別装置では、移動物体に貼り付けられたICタグと通信しようとした場合に、当該一つのアンテナの通信エリア内における通信時間が十分得られないため、通信を完了できなくなることが生じてしまう。
【0005】
図3(a)は、従来の移動体識別装置による生産ラインのシステム構成の一例を示す図である。本例ではベルトコンベア16によって高速に移動するICタグが付された被識別物体である物体15とその移動方向に配置された複数のアンテナを有するリーダーライタ10との無線通信によって物体15が識別され、また場合によっては情報が書き込まれる。リーダーライタ10の本体部17にそれぞれ接続されたアンテナ11、アンテナ12、アンテナ13、アンテナ14がベルトコンベア16に沿って順次配置されている。アンテナ11の通信可能な領域をエリア1、アンテナ12の通信可能な領域をエリア2、アンテナ13の通信可能な領域をエリア3、アンテナ14の通信可能な領域をエリア4としたとき、隣り合ったアンテナは通信不可能な領域が生じないように、互いに通信可能領域が重なり合うように設置される。また図示していないが、リーダーライタ10はホストコンピュータと接続し、制御される。例えば、ベルトコンベア16で移送されてくる、ICタグが貼り付けられた物体15を赤外線センサー等の手段で感知し、それに応じてリーダーライタ10を前記ホストコンピュータで制御することにより通信を開始する。
【0006】
図3(b)は、リーダーライタ10とICタグとの質問信号、応答信号のやり取りとアンテナの切替えタイミングの2つの例を示す図であり、この切換例に沿って動作を説明する。
【0007】
図3(b)において、切換例1はベルトコンベア16が比較的ゆっくりした速度で移送を行う場合を想定している。比較的ゆっくりした速度とは、次に説明する動作が確実に行われる速度を言う。先ず、前記赤外線センサー等の手段によって、ICタグの貼り付けられた物体15がアンテナ11の通信可能領域であるエリア1に入ると同時にリーダーライタ10から質問信号が送信され、前記エリア1内で前記質問信号に対する応答信号が物体15に貼り付けられたICタグから送られ、エリア1内で最初の質問、応答の一組の動作を完了する。更なるリーダーライタ10からの質問信号はアンテナ11の通信可能エリア1とアンテナ12の通信可能エリア2の重なり合った領域に物体15が位置している間に、アンテナ12から送信される。アンテナ12から送信された質問信号に対する応答信号は、物体15がエリア2にある間に完了する。
【0008】
以上説明したように、各アンテナの各通信エリアで質問、応答を繰り返すことにより本例のシステム動作は完了する。なお、本図ではアンテナを4個設置しているが、2個以上の複数個であれば、前記動作が可能である。また、場合によりリーダーライタによりICタグに情報が書き込まれる。
【0009】
図3(b)の切換例2は、ベルトコンベア16が比較的速く移送を行う場合を想定している。比較的速い移送速度とは、前記切換例1と異なり、ひとつのエリアで質問、応答の一組の動作が完了しない場合であり、詳細は以下の様である。前記切換例1と同様に、前記赤外線センサー等の手段によって、ICタグの貼り付けられた物体15がアンテナ11の通信可能領域であるエリア1に入ると同時にリーダーライタ10から質問信号が送信される。本例ではベルトコンベア16の移送速度が速いために、アンテナ11の通信可能エリア内通過時間が短く、つまりエリア1では質問信号のみの通信が行われる。質問信号に対する応答信号は、物体15がエリア1とエリア2が重なり合った位置にあり、なおかつ質問と応答を切換るタイミングと同期してアンテナ11とアンテナ12を切換ることで連続性のある質問、応答の動作を行うものである。
【0010】
さらに、次なる質問を必要とする場合は、物体15がエリア2とエリア3が重なり合った位置にあるとき、アンテナ12をアンテナ13に切換え、エリア3内で質問信号を送信する。以上の動作を繰り返すことによってシステム動作は完了する。
【0011】
以上、複数のアンテナを有するリーダーライタを上述のように動作させることによって、通信可能領域を広くしている。
【0012】
【特許文献1】特開2002−216092号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、上記従来例ではアンテナを切換えるタイミングは通信状態の区切りの時間、すなわち質問信号と応答信号の間の時間や質問信号、応答信号がない時間に行われる必要がある。これは、アンテナを切換える瞬間に信号が途切れるためである。さらに、1つの通信に必要な時間を確保するために、物体15が2つのアンテナの通信可能エリアが重なり合ったエリアを通過する時刻と上記のアンテナ切換えタイミングである質問信号と応答信号が切換わる時刻が一致するか、またはある一定の近い時間範囲内に納まっている必要がある。
【0014】
この制限のため、従来の移動体識別装置は、質問信号送信中、もしくは応答信号送信中にひとつのアンテナ通信可能エリアを越えてしまうほどの高速で移動する物体に付されたICタグとの通信ができないといった問題があった。
【0015】
したがって、本発明の課題は、複数のアンテナを切換えることによって広いエリアでICタグを付された移動物体との通信可能で、かつその移動物体が高速に移動する場合にも通信を行うことが可能な移動体識別装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するため、本発明の移動体識別装置は、被識別物体の移動方向に配置された複数のアンテナを有するリーダーライタにより、前記被識別物体に付されたICタグとの無線通信を行う移動体識別装置において、前記無線通信は搬送波を通信データにより振幅変調した高レベル値と低レベル値の2値からなるASK信号により行われ、かつ前記ASK信号が低レベル値であるときに前記複数のアンテナを前記被識別物体の移動に追従して該移動方向に順次切り替える手段を備えることを特徴とする。
【0017】
また、前記通信データより前記複数のアンテナを切り替えるタイミング信号を取り出してもよい。
【0018】
また、前記被識別物体の位置を検出する位置センサーを設置し、該位置センサーの信号と前記タイミング信号により前記複数のアンテナを切り替えてもよい。
【発明の効果】
【0019】
上記のように、本発明では、複数のアンテナを切り替えることにより通信可能エリアを広くすることが可能な移動体識別装置において、前記リーダーライタのアンテナ切換タイミングに係る従来の制限をなくし、リーダーライタからの質問信号の送信やICタグからの応答信号の送信のタイミングによらずアンテナの切替えを行うことが出来るように、通信データをASK変調信号に変換し、そのASK変調信号が低レベル値となる時刻においてアンテナを切換えることによって質問、応答の通信の区切りのタイミングとは関係なくアンテナ切換を行うことが出来る。
【0020】
以上のように本発明の移動体識別装置では、送信中、受信中であっても任意のタイミングでアンテナを切換ることが可能となるため、ベルトコンベアで高速で移送される物体に貼り付けられたICタグと通信する際の前記課題であった制限を取り除くことができる。例えば前記複数アンテナの一つがカバーする通信エリアを任意の通信コマンド例えば質問信号の送信中に通過してしまうような場合においても次のエリアのアンテナへ切換ることが出来るために、ベルトコンベアの移送速度、通信コマンドの送信、受信時間に関わることなく、アンテナの通信可能エリアとICタグの位置関係のみを考慮してシステムを構築することが可能となる。
【0021】
よって本発明により、複数のアンテナを切換えることによって広いエリアでICタグを付された移動物体との通信可能で、かつその移動物体が高速に移動する場合にも通信を行うことが可能な移動体識別装置が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
図1(a)は、本発明の一実施の形態である移動体識別装置による生産ラインのシステム構成の一例を示す図である。図3の従来のシステムと同様にベルトコンベア16によって高速に移動するICタグが付された被識別物体である物体15とその移動方向に配置された複数のアンテナを有するリーダーライタ30との無線通信によって物体15が識別される。リーダーライタ30の本体部18にそれぞれ接続されたアンテナ11、アンテナ12、アンテナ13、アンテナ14がベルトコンベア16に沿って順次配置されている。図3と同様にアンテナ11、12、13、14の通信可能な領域はそれぞれエリア1、エリア2、エリア3、エリア4であり、隣り合ったアンテナは通信可能領域の空白域のないように、互いに通信可能領域が重なり合うように設置される。また、リーダーライタ30はホストコンピュータ20と接続し、制御される。最初のエリア1の入り口には物体15を感知する赤外線センサー21が設置されている。
【0023】
図2は、リーダーライタ30の変調機能部分とアンテナ切替え機能部分を説明するための構成の一例を示す図であり、搬送波であるRFキャリアが変調器24において通信データにより振幅変調されたASK信号に変換される。また通信データはアンテナ切替器23を制御するためのコントローラ22にも入力されてタイミング信号が取り出され、アンテナ切替器23に接続されたアンテナ11、12、13、14はASK信号が低レベル値となる時刻、例えば破線(下向きの矢印で指示)で示したタイミングで切り替えられる。なお、本図ではRFキャリヤ、ASK信号の縦軸は電圧である。
【0024】
図1(b)は、本実施の形態による移動体識別装置のリーダーライタ30とICタグとの質問信号、応答信号のやり取りとアンテナの切替えタイミングの例を示す図であり、この切換例に沿って動作を説明する。物体15がアンテナ11の通信可能エリア1内に入ると同時に赤外線センサー21により感知され、赤外線センサーより送られた信号により、ホストコンピュータ20はリーダーライタ30に、通信すべき物体15が通信可能エリアに移送されたことを知らせ、コマンドの送信を開始する。
【0025】
本例ではベルトコンベア16の移送速度が非常に速い場合を示し、リーダーライタ30からの質問信号が送信されている途中で物体15はアンテナ11の通信可能エリア1を超えてしまう。しかし本例では、質問信号送信中であっても質問信号に影響を与えることなくアンテナを切換えて動作させることができる。図1(b)の下部に示すタイミングチャートに示すように、通信データ内の各フレーム間に存在するASK信号が低レベルとなる時間にアンテナをアンテナ11からアンテナ12に切り替えることにより動作が中断することなく質問信号が送信される。本図ではASK信号の縦軸は電力である。ASK信号の低レベル状態は無線信号電力が閾値以下となる状態であり、このときアンテナが切り替わることにより無線電力がさらに減少しても検出には誤りは生じないからである。なお、通常、通信データ速度は数十〜数百kHz程度であるのでASK信号の低レベル状態の持続時間は数μs〜数十μs程度以上であり、この期間にアンテナを切り替えるのは十分に可能である。
【0026】
また、ICタグからの応答信号もASK信号であり、応答信号の低レベル状態となる時間に同様にアンテナ12からアンテナ13に切り替えることができる。質問信号の発生と応答信号の受信の時間の関係は決められているので、この切替えのタイミングも通信データより決定することができる。
【0027】
以上のように、本発明では、アンテナ切換のタイミングをASK信号の低レベルとなる時間内に切換ることでリーダーライタの送信、受信の区切りのタイミングに制限されずにアンテナを切換えることを可能とした。したがって、通信のタイミングに関わらず、通信相手である物体15が通過している通信可能エリアが把握できれば、アンテナ切替器による通信の中断等を気にすることなく運用することが可能となる。
【0028】
また、物体15の位置の把握は、アンテナ通信可能エリア1内に入る時刻を本例にあるような赤外線センサー21で一旦把握してしまえば、ベルトコンベア16の速度と赤外線センサー21通過後の時間経過から把握することができ、通信可能エリア1と通信可能エリア2の重複している部分でかつASK信号が低レベルとなる時間に切換えることが出来る。また、図示していないが、各アンテナにおける通信可能エリア端にそれぞれ赤外線センサーを設置して、各アンテナの通信可能エリアに物体15が移送されてきたことを感知して、アンテナを切換えることも可能である。
【0029】
また、本実施例では切換えるアンテナ数を4としてあるが、2個以上の複数個であれば同様の効果が得られることは明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1(a)は、本発明の一実施の形態である移動体識別装置による生産ラインのシステム構成の一例を示す図。図1(b)は、本実施の形態による移動体識別装置のリーダーライタとICタグとの質問信号、応答信号のやり取りとアンテナの切替えタイミングの例を示す図。
【図2】本実施の形態のリーダーライタの変調機能部分とアンテナ切替え機能部分を説明するための構成の一例を示す図。
【図3】図3(a)は従来の移動体識別装置による生産ラインのシステム構成の一例を示す図。図3(b)は、従来のリーダーライタとICタグとの質問信号、応答信号のやり取りとアンテナの切替えタイミングの2つの例を示す図。
【符号の説明】
【0031】
10、30 リーダーライタ
11、12、13、14 アンテナ
15 物体
16 ベルトコンベア
20 ホストコンピュータ
21 赤外線センサー
17、18 本体部
22 コントローラ
23 アンテナ切替器
24 変調器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被識別物体の移動方向に配置された複数のアンテナを有するリーダーライタにより、前記被識別物体に付されたICタグとの無線通信を行う移動体識別装置において、前記無線通信は搬送波を通信データにより振幅変調した高レベル値と低レベル値の2値からなるASK信号により行われ、かつ前記ASK信号が低レベル値であるときに前記複数のアンテナを前記被識別物体の移動に追従して該移動方向に順次切り替える手段を備えることを特徴とする移動体識別装置。
【請求項2】
前記通信データより前記複数のアンテナを切り替えるタイミング信号を取り出すことを特徴とする請求項1記載の移動体識別装置。
【請求項3】
前記被識別物体の位置を検出する位置センサーを設置し、該位置センサーの信号と前記タイミング信号により前記複数のアンテナを切り替えることを特徴とする請求項2記載の移動体識別装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−92262(P2008−92262A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−270615(P2006−270615)
【出願日】平成18年10月2日(2006.10.2)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)
【Fターム(参考)】