説明

移動体通信システム、移動体通信装置、移動体通信方法および移動体

【課題】 移動体無線通信において、パケットの逆順到着・輻輳を抑制して、通信の確実性の向上と最低限のパフォーマンスの維持とを両立する。
【解決手段】 車両の速度および/または加速度を計測、またはそのデータを出力して、加速度を検知した段階において、情報処理部が複数のウィンドウサイズおよび/または複数のバッファサイズから、速度および/または加速度の変化に応じた適切なウィンドウサイズ、バッファサイズを選択する。この選択したウィンドウサイズおよび/またはバッファサイズを、無線通信を実行する送受信部に適用し、送受信部における通信条件を速度変化や加速度変化に応じた最適な条件に調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、移動体通信システム、移動体通信装置、移動体通信方法および移動体に関し、特に、車両などの速度変化が著しい移動体において通信を行う場合に使用される通信装置に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来、移動体に備えられた移動体通信において、通信選択方法としては、特許文献1に記載されているものが知られている。
【0003】
この特許文献1には、移動体において利用できる位置情報や電子地図情報などの各種情報を用いて電波通信状況を予見して通信方法を設定し、通信効率を向上させることを目的として、移動体が保持している電子地図データや目的値情報を元に、移動する経路をあらかじめ予想する方法が記載されている。そして、予想した進行する予定のルートを用いて、移動体の現在位置,移動速度,衛星位置,電子地図の建造物データより、電波の遮蔽状況の時間推移が予想される。また、この遮蔽予想に基づく予想遮断時間に応じてパケット受信(送信)時間との相対的な関係で比較が行われて、使用するパケット送信方式が決定される。移動体側においては、決定したパケット送信方式を相手局(基地局)へ通信方法制御メッセージとして送信する。以降、移動体および相手局は通信方法制御メッセージで指定された通信方法に則って通信を行う。
【0004】
さて、現在、使用されているTCPスタックにおいては、通信時に輻輳が生じた場合には、再送する際に、ウィンドウサイズを最小値(1パケット分)まで下げることにより、以後の輻輳の発生を抑制する方法が採用されている。
【0005】
具体的には、従来の移動体通信システムにおいては、速度の変化が生じた場合において、通信状態が悪化しているにもかかわらず、その段階の通信状態を維持しようする。そのため、輻輳の発生まで到達してしまうことがある。そして、このような輻輳が発生すると、ウィンドウサイズが最小化され、スループットが減少してしまう。
【0006】
この方法が採用されている理由としては、固定端末間で通信を行う環境(固定通信環境)において、輻輳自体の発生が生じにくく、輻輳が生じた場合には、ネットワーク自体に大きな問題が発生しているという仮定に基づいていることが挙げられる。
【特許文献1】特開2003−188802号公報
【特許文献2】特開2000−156706号公報
【特許文献3】特開2000−174812号公報
【特許文献4】特開2002−271303号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者の知見によれば、固定通信環境の場合に比して、移動体端末間において通信を行う環境(移動体通信環境)においては、パケットの消失や輻輳が相対的に発生しやすい。そのため、現在の技術においては、TCPスタックのシステムでは、輻輳が発生した際の対応が困難である。これは、TCP/IPが固定端末を用いた通信を前提として設計されたプロトコルであることから不可避の問題である。
【0008】
そこで、この輻輳の発生に対応するために他のプロトコルを定義することも考えられるが、プロトコルとしての標準があるため、他のプロトコルを定義するのは、極めて困難で
ある。
【0009】
また、上述した従来の移動体通信システムにおいて輻輳の発生によりウィンドウサイズが最小化されてしまうと、このウィンドウサイズを復旧するには、時間がかかってしまい、スループットを早急に原状に戻すことが困難になる。
【0010】
また、上述した特許文献1においては、位置情報に基づいて通信環境の変化を対象としているため、瞬時の変化に対応することは、極めて困難である。
【0011】
したがって、この発明の目的は、移動体無線通信において、通信の確実性の向上と最低限のパフォーマンスの維持とを両立することができる移動体通信システム、移動体通信装置および移動体通信方法、ならびにこの移動体通信装置を備えた移動体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、この発明は、
無線通信を実行する端末において、移動体の速度および/または加速度の計測またはデータ入力を実行可能に構成され、
速度および/または加速度の変化に応じて通信条件を調整する
ことを特徴とするものである。
【0013】
すなわち、この発明の第1の発明は、
移動体の速度および/または加速度を計測可能、または、移動体の速度および/または加速度のデータを出力可能に構成された速度計測手段と、
入力された情報データに基づいて、演算処理を実行可能に構成された情報処理手段と、
情報データの無線通信を実行可能に構成された通信手段とを有して構成され、
速度計測手段により計測または出力される、速度および/または加速度の変化に基づいて、情報処理手段により、通信手段における通信条件を調整するように構成されている
ことを特徴とする移動体通信システムである。
【0014】
この発明の第2の発明は、
入力された情報データに基づいて、演算処理を実行可能に構成された情報処理手段と、
情報データの無線通信を実行可能に構成された通信手段とを有し、
情報処理手段および通信手段が搭載される移動体における速度データを入力可能に構成されているとともに、速度データに基づいた速度および/または加速度の変化に応じて、情報処理手段により、通信手段における通信条件を調整可能に構成された
ことを特徴とする移動体通信装置である。
【0015】
この発明の第3の発明は、
速度計測手段が、移動体における速度および/または加速度を計測して出力し、
情報処理手段が、速度および/または加速度の変化に基づいて、無線通信を行う通信手段における通信条件を変更する
ことを特徴とする移動体通信方法である。
【0016】
この第3の発明において、典型的には、速度および/または加速度を計測するステップと、速度および/または加速度の変化を算出するステップと、速度および/または加速度の変化から1つの通信条件を選択するステップと、選択した通信条件を、通信条件に適用するステップとを有する。
【0017】
この発明の第4の発明は、
入力された情報データに基づいて、演算処理を実行可能に構成された情報処理手段と、情報データの無線通信を実行可能に構成された通信手段とを有し、移動体の速度データを入力可能に構成されているとともに、速度データに基づいた速度および/または加速度の変化に応じて、情報処理手段により、通信手段における通信条件を調整可能に構成された移動体通信装置が備えられた
ことを特徴とする移動体である。
【0018】
第2、第3および第4の発明において、好適には、移動体の速度および/または加速度を計測可能に構成された速度計測手段が設けられている。
【0019】
この発明において、典型的には、通信条件は、バッファサイズおよび/またはウィンドウサイズであり、具体的な一例を挙げると、変調方式および/またはTCPウィンドウサイズである。
【0020】
この発明において、具体的には、通信条件が少なくとも2段階に区分され、速度および/または加速度の変化に応じて、情報処理手段により、少なくとも2段階の区分から1つの区分を選択可能に構成されている。
【0021】
上述のように構成されたこの発明による移動体通信システム、移動体通信装置、移動体通信方法および移動体によれば、通信条件を、通信状況の変化に関係する速度および/または加速度の変化に基づいて、変化させることができるので、プロトコルにおけるパフォーマンスダウンの主要因であるパケットの逆順到着・輻輳を抑制することができる。
【発明の効果】
【0022】
したがって、この発明によれば、無線通信を実行する端末において、移動体の速度および/または加速度の計測またはデータ出力を実行可能に構成され、速度および/または加速度の変化に応じて通信条件を調整することにより、移動体通信において、パケットの逆順到着・輻輳を抑制することができるので、通信の確実性の向上とパフォーマンスの維持とを両立することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、この発明の一実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下の一実施形態の全図においては、同一または対応する部分には同一の符号を付す。
【0024】
(移動体通信システム)
まず、この発明の一実施形態による移動体通信システムについて説明する。図1に、この一実施形態による移動体通信システムの構成を示す。
【0025】
図1に示すように、この一実施形態による移動体通信システムにおいては、例えば渋滞状況や工事中、通行止めなどの交通情報(走行GPS情報)をそれぞれの車両5に配信する、交通情報センタの機能を有するセンターサーバ1と、車両5に搭載されているとともにセンターサーバ1から配信された交通情報を車両乗員に対して表示する車載ナビゲーション装置(図1中、図示せず)とを有して構成されている。
【0026】
このセンターサーバ1は、広域ネットワーク2に接続され、センターサーバ1により道路における渋滞状況や工事中、通行止めなどの交通情報が収集される。
【0027】
広域ネットワーク2は、交換局や、それぞれの交換局を接続するネットワーク、このネットワークに接続して所定領域内に存在する移動体端末との間で信号の送受信を行う複数のアンテナ、インフラ施設として地域ごとに設けられた基地局など(いずれも図示せず)
を有して構成されている。
【0028】
また、広域ネットワーク2は、道路近傍の適所に設けられる中継機4(中継機4a,4b,4c,…)や、GPS人工衛星(図示せず)などをインターフェースとして、センターサーバ1と他の端末とが通信可能になるように設定されている。これらのインターフェースとしては、ネットワークに関するあらゆるインフラ施設を採用することが可能である。そして、これらの中継機4は、中継機用の支持塔に中継機4が取付けられていたり、信号機、街灯柱、歩道橋および陸橋などの、いわゆる道路に関連する建造物、構造体および施設などの設備に設置されていたりする。なお、必要に応じて、道路交通情報システムにおいて、たとえば電光掲示板などの表示盤(図示せず)を含む構成としてもよく、この場合も、中継機4などと同様にして設置される。
【0029】
このように、センターサーバ1が広域ネットワーク2と接続されていることにより、センターサーバ1においては、広域ネットワーク2を利用して移動体端末と回線が接続され、双方向無線通信を行うことが可能となる。
【0030】
また、センターサーバ1は、広域ネットワーク2を介して、移動体端末側から所望の地域の道路交通情報の送信を要求する信号を受信した場合に、この要求された所望の地域の道路交通情報を、広域ネットワーク2を介して該当する移動体端末に配信可能となっている。
【0031】
さらに、センターサーバ1は、これらの移動体端末から、広域ネットワーク2を介して、現在位置情報、速度情報および移動体端末における目的地情報などの、いわゆる走行GPS情報を収集可能に構成されているとともに、これらの走行GPS情報を、広域ネットワーク2に接続可能な各車両5に配信可能に構成されている。
【0032】
また、このように移動体端末とセンターサーバ1とが双方向通信可能であることにより、このセンターサーバ1においては、車載装置から供給される情報データを所定のデータベースの記録領域にデータとして記憶し、ユーザ情報やユーザからの配信要求などに基づいて所定の配信処理や情報処理を実行可能に構成されている。
【0033】
(移動体通信装置)
次に、この移動体通信システムにおける移動体としての車両に搭載される移動体通信装置について説明する。図2に、この一実施形態による移動体通信装置を示す。
【0034】
図2に示すように、この一実施形態による移動体通信装置においては、速度計測手段としての車速センサを有する車載ナビゲーション装置10、通信手段として用いられる送受信部30および、情報処理手段としての情報処理部40を有して構成されている。以下に、これらの構成要素について順次説明する。
【0035】
(車載ナビゲーション装置)
まず、車載ナビゲーション装置10について説明する。図2に示すように、この一実施形態による車載ナビゲーション装置10には、電子制御ユニット(ECU)11、車速センサ12、記録媒体再生装置13、記憶部14、GPS(Global Positioning System)受信機15、GPSアンテナ16、表示部17、表示モニタ18、入力部19および入力スイッチ20を有して構成されている。なお、各部は必ずしも一体で構成する場合に限らず、表示部17および表示モニタ18や、入力部19および入力スイッチ20、または記録媒体再生装置13などを、車載ナビゲーション装置10から通信可能な状態で独立させて構成することも可能である。また、これらの表示モニタ18、入力スイッチ20または記録媒体再生装置13は、情報処理部40により制御させるように構成することも可能で
ある。
【0036】
ECU11に接続された車速センサ12は、この一実施形態においては、例えば、車両に標準で装備されている速度センサから構成される。この車速センサ12は、車両の速度および/または加速度を計測可能に構成されている。なお、車両の速度のみを計測可能に構成した場合においては、後述する情報処理部において、必要に応じて加速度が算出される。また、速度計測手段としては、移動体における速度または加速度のデータを出力可能であれば、あらゆる装置を用いても良く、必ずしも車速センサ12に限定されるものではない。
【0037】
また、ECU11には、CD−ROM、DVDまたはハードディスク(HD)などの光学または磁気を利用した記録媒体を再生する記録媒体再生装置13が接続されている。この記録媒体に通信可能エリア(サービスエリア)情報を含んだ地図情報や、後述する制御ルーチンに対応するプログラムが記録されている。記録媒体にプログラムなどが記録されている場合には、ECU11に内蔵された書換可能メモリ(RAM)にロードされ、ECU11により実行される。また、記録媒体に映像データや音楽データが記録されている場合、映像や音楽を再生可能に構成されている。
【0038】
また、GPS受信機15には、GPSアンテナ16が接続されている。そして、GPS受信機15は、このGPSアンテナ16を介して、GPS衛星(図示せず)から出力された信号を受信可能に構成されている。GPS受信機15により受信された信号は、所定形式の信号に変換されてECU11に供給される。このGPS受信機15から供給された信号に基づいて、ECU11により、車両の現在位置に対応する測位が演算される。
【0039】
また、表示部17には、車室内で車両乗員が視認可能な表示モニタ18が接続されている。この表示部17に、ECU11により、車両の現在位置およびその周辺の地図情報からなる画像データが供給されて、画像が表示される。また、入力部19には、車室内で車両乗員が操作可能な入力スイッチ20が接続されている。入力スイッチ20は、例えば、表示モニタ18に表示された画像をスクロールするスイッチや、画像の縮尺を変更するスイッチなど、車載ナビゲーション装置10が有する機能を実現するための種々のスイッチから構成される。入力部19は、ECU11に接続されており、様々な入力スイッチ20の状態に応じた信号がECU11に供給される。
【0040】
(送受信部)
次に、送受信部30について説明する。図2に示すように、送受信部30は、車両5に搭載可能な、例えば携帯電話やPDAなどの移動体端末、または車載固定式の端末から構成される。この送受信部30には、送信機31および受信機33が設けられている。これらの送信機31および受信機33には、それぞれアンテナ32,34を介して、上述した広域ネットワーク2を用いてセンターサーバ1と双方向通信を実行可能に構成されている。なお、この一実施形態においては、送信機31および受信機33を別体として記載しているが、送信機31および受信機33を一体化したいわゆる送受信機とすることも可能である。
【0041】
また、この送受信部30において、ユーザにより入力スイッチ20および入力部19から所定の操作が実行されることにより、この操作に従った配信要求信号などが、広域ネットワーク2を介してセンターサーバ1に送信される。
【0042】
また、この配信要求信号に応じて、センターサーバ1が広域ネットワーク2を介して送受信部30に向けて、配信要求に関する情報を送信すると、送受信部30により、この配信情報を受信する機能を有している。また、ECU11と送受信部30との間において、
情報処理部40を介して信号の入出力可能に構成されている。
【0043】
そして、この送受信部30が車載ナビゲーション装置10に接続されていることから、センターサーバ1と回線接続された状況では、所定地域における道路の交通情報が受信されると、この信号が所定形式の信号に変換されてECU11に供給される。そして、ECU11において、送受信部30が受信した所定地域における道路交通情報が、当該道路の地図情報の表示された表示モニタ18に重畳されて表示される。
【0044】
(情報処理部)
次に、以上説明した車載ナビゲーション装置10および送受信部30との間において、情報を集中させて情報処理を実行する情報処理部40においては、中央演算処理装置(CPU)41を中心として、演算プログラムなどが組み込まれたROM42、情報処理時に一時記憶が行われるRAM43、CPU41により実行可能なプログラムなどが記録されている、例えばHDなどからなる記憶部44が設けられて構成されている。
【0045】
この情報処理部40には、送受信部30から通信混雑率データなどの通信に関係する情報データや、受信された情報データが供給される。また、車載ナビゲーション装置10からは、ルート情報データ、サービスエリア情報データおよび所要時間情報データなどの各種情報データが情報処理部40に供給される。
【0046】
(移動体通信方法)
次に、以上のようにして構成された、この一実施形態による移動体通信装置による移動体通信方法について説明する。図3に、この一実施形態による移動体通信方法のフローチャートを示し、図4に、この移動体通信方法において、変更される変調方式およびTCPウィンドウサイズのレベルを示す。
【0047】
図3に示すように、この一実施形態による移動体通信方法においては、ユーザの車両5に搭載された車載ナビゲーション装置10における車速センサ12において、この速度信号または加速度信号がECU11に供給され、この供給された速度信号が、ECU11から情報処理部のCPU41に供給されている。
【0048】
そして、ステップST1において、速度信号が供給されている情報処理部40により、速度変化または加速度変化が計算される。なお、この一実施形態においては、例えば、情報処理部40における速度または加速度の変化の処理区分を、例えば4段階(4レベル)とする。この区分に関して、速度変化を採用した場合の具体的な一例を挙げると、速度変化が単位時間(例えば1秒)当たり、2m/s2、2m/s2以上3m/s2未満、3m/s2以上4m/s2未満、および4m/s2以上の4段階に分類されている。なお、この区分は、あくまでも一例であり、その他の区分を採用することも可能である。また、速度変化の代わりに加速度変化(m/s3)を採用することも可能であり、それらの両方を採用することも可能である。
【0049】
次に、ステップST2に移行して、CPU41により、この速度変化または加速度変化が、この段階において、後述する受信ウィンドウサイズおよび受信バッファを変更する必要がある変化量であるか否かの判定が実行される。具体的に、上述した4段階の分類の場合においては、速度変化が、上述した各レベルのしきい値(例えば、2m/s2、3m/s2、4m/s2)の前後になるか否かによって、受信ウィンドウサイズおよび受信バッファを変更する必要があるか否かの判定が実行される。
【0050】
この判定の結果、速度変化または加速度変化が、受信ウィンドウサイズおよび受信バッファを変更する必要のない範囲内であった場合、すなわち影響が小さい場合、影響なしと
判断されてステップST1に復帰し、速度または加速度の計測が継続される。具体的には、車両が2m/s2以上3m/s2未満の範囲で加速している場合や、ほぼ一定の速度で走行している場合(加速度(速度変化)は、ほぼ0m/s2)には、ステップST1およびステップST2が繰り返される。なお、加速と減速とが断続的に交互に行われる場合などでも、速度変化の区分が変わらないことが考えられる。この場合もステップST1〜ST2が繰り返される。
【0051】
他方、ステップST2の判定の結果、速度変化または加速度変化により、受信ウィンドウサイズおよび受信バッファサイズを変更する必要が生じる場合、すなわち上述した処理区分が変更される(またがる)場合には、影響有りと判断されてステップST3に移行する。具体的には、通常、車両は加速し続けることはなく、ある速度になった段階で、速度変化は大幅に低減することが多い。このような場合、具体的には、例えば、車両が2m/s2以上3m/s2未満の範囲で加速した後、速度変化がほぼ0m/s2となり、上述した処理区分は変更されることになる。
【0052】
そして、ステップST3において、情報処理部40により、速度変化または加速度変化が何れの区分であるかの演算処理が実行されることにより、変更手段の検討処理が実行される。すなわち、情報処理部40により、速度変化が、上述した処理区分のいずれの範囲であるかの計算が実行される。その後、この計算結果が例えばRAM43などに一時記録される。
【0053】
すなわち、ステップST3における変更手段の検討処理の実行においては、上述した情報処理部40における速度または加速度の変化の処理区分(この一実施形態においては4段階)に対応して、図4に示す表に基づいて、何れの区分に変更されるかが決定される。この対応テーブルは、通信速度が高速である場合には、速度変化に対する許容度が小さく、低速である場合には、速度変化に対する許容度が大きくなることを示し、この一実施形態においては、この4段階から最適なウィンドウサイズが選択される。
【0054】
そして、TCPウィンドウサイズ(RWIN)を調整する場合には、情報処理部40により、図4に示す表の区分が採用される。そして、検出された速度変化が、
4m/s2以上の時には、1K
3〜4m/s2の時には、4K、
2〜3m/s2の時には、16K、
2m/s2未満の時には、64K、
が情報処理部40により選択される。なお、図4に示す区分の対応テーブルのデータは、記憶部44に格納されている。
【0055】
その後、ステップST4において、情報処理部40から送受信部30に変更コマンドが供給され、ステップST3において情報処理部40により選択された通信方式またはTCPウィンドウサイズが、送受信部30に適用される。
【0056】
これらの変調方式またはTCPウィンドウサイズの変更後、図3に示すステップST1に復帰して、車両の速度または加速度の変化の検出が継続して実行される。
【0057】
通常、車両が加速や減速をした後は、ほぼ一定の速度になる場合が多い。すなわち、加速や減速が終了すると、車両の速度変化は小さくなる。そのため、以上説明した、この一実施形態によれば、車両などの移動体の加速や減速時においては、加速や減速の度合いに応じてスループットを低下させて、輻輳の発生を抑制することができ、さらに、速度変化が小さくなった段階で変調方式を元に戻したりTCPウィンドウサイズを拡大させたりして、通信のスループットを早期に復旧させることが可能となる。したがって、通信の悪化
に先立って、TCPスタック側での輻輳が生じないように制御を行い、致命的な通信速度低下を引き起こす輻輳を予防することが可能となるとともに、その通信速度の復帰を早期に行うことが可能となる。
【0058】
また、情報処理部40により上述した処理区分が決定されて、変調方式またはTCPウィンドウサイズが変更または維持された後に、これらの処理を繰り返すことにより、移動体の移動時における加速や減速のような瞬時の変化に対応することができる。さらに、速度変化を帯域の制限ではなく送受信ウィンドウの制限に利用することによって、通信の確実性の向上と最低限のパフォーマンス維持を両立することが可能となる。
【0059】
以上、この発明の一実施形態について具体的に説明したが、この発明は、上述の一実施形態に限定されるものではなく、この発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
【0060】
例えば、上述の実施形態において挙げた通信方式およびTCPウィンドウサイズを選択するためのテーブルの内容は、あくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれと異なるテーブル内容を用いてもよい。
【0061】
また、上述の一実施形態において、速度計測手段としての車速センサ12を車載ナビゲーション装置10に搭載した例について説明したが、この車速センサ12としては、必ずしも車載ナビゲーション装置10に搭載されているものを用いることに限定するものではなく、標準で車両に搭載されている速度計表示のための車速センサを用いることも可能である。
【0062】
また、この発明による移動体通信装置を車両以外の移動体に搭載する場合においても、移動体に車速センサが搭載されている場合には、この車速センサから出力される信号に基づいて、速度または加速度の変化を検出して、通信方式の調整が可能である。
【0063】
また、上述の一実施形態においては、車載ナビゲーション装置10と情報処理部40とを別体として説明したが、必ずしも別体で構成することに限定するものではなく、情報処理部40を車載ナビゲーション装置10に内蔵させた構成を採用することも可能であり、必要に応じて、CPU41とECU11とを共通にすることも可能である。すなわち、車載ナビゲーション装置10により、上述した通信方法を実行させることも可能である。
【0064】
また、送受信部30と情報処理部40とを一体にして、情報処理可能な無線LAN装置とすることも可能である。この構成を採用する場合、この無線LAN装置により、上述した一実施形態による通信方法を実行することが可能である。
【0065】
さらに、上述の一実施形態においては、車載ナビゲーション装置10を搭載した移動体について説明したが、車載ナビゲーション装置10を搭載することなく、車速センサ12のみを用いて、移動体の速度変化または加速度変化を検出するようにすることも可能である。
【0066】
また、上述の一実施形態においては、広域ネットワーク2と車両に搭載された送受信部30との通信の場合を例に説明したが、アドホック車々間通信などの移動体間での通信に適用しても、同様の効果を得ることができる。
【0067】
また、上述の一実施形態においては、この発明の技術的思想をハードウェア構成により実現しているが、構成としては、それぞれの速度センサ、情報処理部および送受信部に該当するモジュールを組み合わせることにより実現されるあらゆる形態を採用することが可
能である。
【0068】
また、上述の一実施形態においては、通信方式およびウィンドウサイズの一例として、4段階に分けた例について説明したが、必ずしも4段階に限定されるものではなく、2段階、3段階に区分することも可能であり、5段階以上に区分することも可能である。また、この区分に応じたバッファサイズを採用する場合についても同様である。
【0069】
また、上述の一実施形態においては、車載ナビゲーション装置10を備えた構成について説明しているが、少なくとも車速センサが備えられていればよく、必ずしも車載ナビゲーション装置を備えている必要はない。
【産業上の利用可能性】
【0070】
この発明は、無線通信端末を備えた移動体における通信の最適化を実行可能なあらゆる端末に適用することができ、具体的には、携帯電話などの携帯端末や、PDA、ノートPCなどに代表されるあらゆる無線通信可能な移動端末に適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】この発明の一実施形態による移動体通信システムを示すブロック図である。
【図2】この発明の一実施形態による移動体に搭載される移動体通信装置を示すブロック図である。
【図3】この発明の一実施形態による移動体通信方法を説明するためのフローチャートである。
【図4】この発明の一実施形態による移動体通信方法において選択される通信条件のテーブルを示す表である。
【符号の説明】
【0072】
1 センターサーバ
2 広域ネットワーク
4,4a,4b,4c, 中継機
5 車両
10 車載ナビゲーション装置
11 ECU
12 車速センサ
13 記録媒体再生装置
14 記憶部
15 GPS受信機
16 アンテナ
17 表示部
18 表示モニタ
19 入力部
20 入力スイッチ
30 送受信部
31 送信機
32,34 アンテナ
33 受信機
40 情報処理部
41 CPU
42 ROM
43 RAM
44 記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体の速度および/または加速度を計測可能、または、上記移動体の速度および/または加速度のデータを出力可能に構成された速度計測手段と、
入力された情報データに基づいて、演算処理を実行可能に構成された情報処理手段と、
情報データの無線通信を実行可能に構成された通信手段とを有して構成され、
上記速度計測手段により計測または出力される、速度および/または加速度の変化に基づいて、上記情報処理手段により、上記通信手段における通信条件を調整するように構成されている
ことを特徴とする移動体通信システム。
【請求項2】
上記通信条件が、バッファサイズおよび/またはウィンドウサイズである
ことを特徴とする請求項1記載の移動体通信システム。
【請求項3】
上記通信条件が少なくとも2段階に区分され、
上記速度および/または加速度の変化に応じて、上記情報処理手段により、上記少なくとも2段階の区分から1つの区分を選択可能に構成されている
ことを特徴とする請求項1記載の移動体通信システム。
【請求項4】
入力された情報データに基づいて、演算処理を実行可能に構成された情報処理手段と、
情報データの無線通信を実行可能に構成された通信手段とを有し、
上記情報処理手段および上記通信手段が搭載される移動体における速度データを入力可能に構成されているとともに、上記速度データに基づいた速度および/または加速度の変化に応じて、上記情報処理手段により、上記通信手段における通信条件を調整可能に構成された
ことを特徴とする移動体通信装置。
【請求項5】
上記通信条件が、バッファサイズおよび/またはウィンドウサイズである
ことを特徴とする請求項4記載の移動体通信装置。
【請求項6】
上記移動体の速度および/または加速度を計測可能に構成された速度計測手段が設けられている
ことを特徴とする請求項4または5記載の移動体通信装置。
【請求項7】
速度計測手段が、移動体における速度および/または加速度を計測して出力し、
情報処理手段が、上記速度および/または加速度の変化に基づいて、無線通信を行う通信手段における通信条件を変更する
ことを特徴とする移動体通信方法。
【請求項8】
速度および/または加速度を計測するステップと、
上記速度および/または加速度の変化を算出するステップと、
上記速度および/または加速度の変化から上記1つの通信条件を選択するステップと、
上記選択した通信条件を、上記通信手段に適用するステップとを有する
ことを特徴とする請求項7記載の移動体通信方法。
【請求項9】
上記通信条件が、バッファサイズおよび/またはウィンドウサイズである
ことを特徴とする請求項7または8記載の移動体通信方法。
【請求項10】
上記通信条件が少なくとも2段階に区分され、
上記速度および/または加速度の変化に応じて、上記少なくとも2段階の通信条件から
1つの通信条件を選択する
ことを特徴とする請求項7乃至9のいずれか1項記載の移動体通信方法。
【請求項11】
入力された情報データに基づいて、演算処理を実行可能に構成された情報処理手段と、情報データの無線通信を実行可能に構成された通信手段とを有し、移動体の速度データを入力可能に構成されているとともに、上記速度データに基づいた速度および/または加速度の変化に応じて、上記情報処理手段により、上記通信手段における通信条件を調整可能に構成された移動体通信装置が備えられた
ことを特徴とする移動体。
【請求項12】
上記移動体の速度および/または加速度を計測可能、または、上記移動体の速度および/または加速度のデータを出力可能に構成された速度計測手段が設けられている
ことを特徴とする請求項11記載の移動体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−5561(P2006−5561A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−178495(P2004−178495)
【出願日】平成16年6月16日(2004.6.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(502087460)株式会社トヨタIT開発センター (232)
【Fターム(参考)】