説明

移動体通信システム

【課題】ヘリコプターを呼び出す場合、またはヘリコプターから防災各機関を呼び出す場合においても、ヘリコプターの所在エリアを意識することなく、相互に通信可能にする。
【解決手段】ヘリコプター2に搭載された移動体無線通信装置3によって、ヘリコプター2自身の位置情報を把握して、どのエリアにいるのかを判断し、エリアに対応する基地局の局番号を記憶するとともに、統制局6のメモリ20に記憶させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、260MHz帯デジタル移動通信システムとして使用される移動体通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
最近、無線を利用した都道府県や市町村向けのデジタル移動通信システムが構築されている。特に、260MHz帯デジタル移動通信システムは、従来のアナログ方式に比較して、以下のような特徴を備えている。
【0003】
すなわち、双方向同時送受信(複信通信)が可能であり、携帯電話のような通信が可能となる。また、従来の音声中心の通信だけでなく、データや画像等のマルチメディア通信が可能となる。さらに、隣接市町村の基地局とのローミング(相互接続)や全国共通の移動局間通信周波数の確保により、隣接市町村との相互応援のための通信システム構築が容易となる。さらに、移動局間通信専用の周波数を確保することができるので、基地局の通信エリア(以下、単に「エリア」とも称する)外でも移動局同士での複信通信が可能となる。さらに、デジタル方式であるため、干渉に強く、秘話性がある。
【0004】
上述したように、自治体向け260MHz帯デジタル移動通信システムにおいては、通常、移動局と基地局との間では複信通信が行われており、移動局が移動すると、移動に伴って接続する基地局を切り替えるハンドオーバ制御を実行することにより連続した通信を実現している。
【0005】
しかし、移動局がヘリコプターのような航空機の場合、電波伝搬環境が通常の携帯電話や車両間無線の移動局より良く、電波が30km以上も飛んでしまう。このため、同じ260MHzの電波を利用する場合、周波数の割当制限もあり、通信エリアを限定しても隣接するエリア同士では混信が避けられない。特に、260MHz帯デジタル移動通信システムは、自治体内における通信システムであるため、他府県との県境に位置する通信エリアでは相互に干渉してしまい、実用的ではない。
【0006】
このように周波数有効利用の観点から、自治体向け260MHz帯デジタル移動通信システムにおいては、通常の基地局との複信通信が認められておらず、基地局を経由することなく局同士で直接通信を行う直接通信方式による複信通信のみが許可される。
【特許文献1】特開2005−197820号公報
【特許文献2】特表2001−522160号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の直接通信方式は、基本的には移動局間で、1対1の通信を行うための通信方式であり、ヘリコプターと、他の施設との間の通信を行うためには、相手側の基地局(自治体向け260MHz帯デジタル移動通信システムでは、免許上は移動局(半固定局)となる)を交換網に接続する必要がある。具体的には統制局にある中継交換機等に接続することになり、これによりヘリコプターから多重無線回線、衛星回線、デジタル移動回線等の防災無線回線を介し、防災各機関(県庁、支部、市町村、消防本部、防災関係機関等)と相互通信が可能となる。
【0008】
しかしながら、県単位でみた場合、全県をカバーするには、相当数の基地局が必要となる。このため、ヘリコプターが現在、どの基地局と通話可能なのか、すなわち、どの基地局のエリアを飛行中なのかを判断し、特定の基地局の方路を選択してヘリコプターを呼び出す必要がある。しかし、実際はヘリコプターが現在どのエリアを飛行しているかを判断することは事実上不可能であり、順々に基地局向け方路を選択し、ヘリコプターを呼び出してみるしか手段は無いことになる。
【0009】
ヘリコプターから発信する場合も、先ず、ヘリコプター自身が現在どの基地局のエリアを飛行中であるかを搭乗員が判断し、その基地局の番号を手動で順次選択の上、通話を希望する相手局を呼び出す必要がある。このため、最寄りの基地局との間で通信を確立するまでに長時間を要するという不具合があった。
【0010】
本発明は上記の事情に鑑み、ヘリコプター等の移動体を呼び出す場合、またはヘリコプター等から防災各機関を呼び出す場合においても、ヘリコプター等の所在エリアを意識することなく、相互通信可能な移動体通信システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために本発明は、各通信エリア内にそれぞれ設けられる基地局と、ヘリコプターまたは軽飛行機を含む移動体に設けられる移動体無線通信装置と、各基地局を統制する統制局とを備え、前記移動体無線装置と統制局との間で基地局を介して双方向通信を行う移動体通信システムであって、前記移動体無線通信装置は、当該移動体の現在位置を測定するGPSセンサと、予め前記基地局の存在する各エリアの位置情報を登録したエリアテーブルと、前記GPSセンサで得られた移動体の現在位置情報に基づき前記エリアテーブルを検索して前記複数の基地局の中から通信先として最適な基地局を選択する選択手段と、選択した基地局を介して前記統制局に対して当該移動体を特定する番号と共に選択した基地局の局番号を伝える伝送手段とを有する車載型無線機と、を備え、前記統制局は、前記基地局を介して伝えられた前記移動体を特定する番号と選択された基地局の局番号とを記憶する記憶手段と、前記移動体への通信要求が出されたときには、前記記憶手段に記憶している局番号の基地局を介して、前記移動体無線通信装置と通信する通信手段と、を備えたことを特徴としている。
【0012】
当該移動体通信システムは、自治体向けの260MHz帯デジタル移動通信システムである。
【発明の効果】
【0013】
本発明による移動体通信システムによれば、ヘリコプター等を呼び出す場合、またはヘリコプター等から各防災機関を呼び出す場合においても、ヘリコプターの所在エリアを意識することなく、相互に通信を行わせることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
<構成>
図1は本発明による移動体通信システムの一実施形態を示すブロック図である。
【0015】
この図に示す移動体通信システム1は、ヘリコプター2に搭載される移動体無線通信装置3と、図2に示す如く各エリア4−1〜4−n内に各々、配置され、260MHz帯のデジタル通信回線を使用して移動体無線通信装置3と通信する基地局(半固定局)5−1〜5−nと、アプローチ回線7を介して各基地局5−1〜5−nを統制する統制局6とを備えており、移動体無線通信装置3に内蔵されているGPSセンサ8によってヘリコプター2の位置を常に検出し、各基地局5−1〜5−nの中からヘリコプター2の現在位置に対応する最適な基地局を選択して統制局6に記憶させることによって、ヘリコプター2の搭乗者と統制局6内外の防災担当者などとの通話を可能に構成されている。
【0016】
移動体無線通信装置3は、地球周回軌道上を回る各GPS衛星からの電波を受信してヘリコプター2の現在位置を示す現在位置情報を出力するGPSセンサ8と、車載型無線機9と、各基地局5−1〜5−nが存在するエリア4−1〜4−nの位置情報を登録したエリアテーブル10とを備えている。
【0017】
車載型無線機9は、GPSセンサ8から出力される位置情報とエリアテーブル10に登録された各エリア4−1〜4−nの位置情報とを照合して、ヘリコプター2が現在、どのエリアを飛行中であるかを判定し、通信可能なエリア内にある基地局を選択する処理、デジタル通信回線11を介して、ヘリコプター2を特定する番号(自局の局番号等)と共に通信に使用する基地局の番号(基地局番号)を当該基地局を介して統制局6に通知する処理、ヘリコプター2の搭乗者、統制局6から通話要求があったとき、選択している基地局とデジタル通信回線を確立する処理などを行う。
【0018】
また、各基地局5−1〜5−nは各々、260MHz帯のデジタル通信回線11を使用して移動体無線通信装置3と通信を行う半固定無線機12と、アプローチ回線7を介して供給された統制局6からの通信指示に基づき、半固定無線機12を制御して、移動体無線通信装置3との通信を行わせる処理、半固定無線機12で受信された局番号などを取り込み、アプローチ回線7を介して統制局6に供給する処理などを行う被遠隔制御装置13とを備えている。
【0019】
また、統制局6は、統制局6内に配置される複数の内線電話機14と、防災回線15を介して接続されている防災各機関16側の電話機と各内線電話機14との間で通信交換を制御する中央交換機17と、統制局6内に配置される専用電話機18と、回線制御装置19と、現在ヘリコプター2と通信可能な基地局5−1〜5−nの局番号を当該ヘリコプター2を特定する番号(局番号など)と共に記憶するメモリ20とを備えている。
【0020】
統制局6の回線制御装置19は、アプローチ回線7を介して何れかの基地局5−1〜5−nから現在ヘリコプター2と通信可能な基地局5−1〜5−nの局番号と当該ヘリコプター2を特定する番号が供給されたとき、これを取り込んでメモリ20に記憶する処理、専用電話機18や中央交換機17などから移動体無線通信装置3を指定する呼び信号が供給されたとき、メモリ20に記憶している局番号を読み出し、対応するアプローチ回線7を介して局番号に対応する基地局を制御し、デジタル通信回線11を介して、この基地局と移動体無線通信装置3との間の回線を確立させ、発呼側の専用電話機18、内線電話機14、防災各機関16の電話機などを操作した防災担当者と被呼側となるヘリコプター2の搭乗者との間の通話を行わせる処理、メモリ20に記憶している局番号の基地局から呼び信号が供給されたとき、専用電話機18、内線電話機14、防災各機関16の電話機などのうち、呼び信号で指定された番号の電話機を呼び出し、被呼側となる防災担当者と発呼側となるヘリコプター2の搭乗者との間の通話を行わせる処理などを行う。
【0021】
<作用>
ヘリコプター2が飛行中において、ヘリコプター2の移動体無線通信装置3では、GPSセンサ8を利用して一定時間毎にヘリコプター2が存在する現在位置を確認する。確認された現在位置情報に基づき、エリアテーブル10内に登録されている基地局の存在する各エリアの位置情報が検索され、ヘリコプター2が通信可能なエリアの基地局、例えばエリア4−1の基地局5−1に対応する局番号が選択されて、選択された局番号が移動体無線通信装置3の局番と共に260MHz帯のデジタル通信回線11を使用した直接通信方式で送信される。
【0022】
これにより、受信可能範囲にある基地局5−1と、移動体無線通信装置3との間の通信が開始され、移動体無線通信装置3→デジタル通信回線11→基地局5−1→アプローチ回線7→統制局6なる経路で、移動体無線通信装置3が使用する基地局5−1の局番号が統制局6に通知され、回線制御装置19に接続されたメモリ20に記憶される。
【0023】
この状態で、ヘリコプター2の搭乗者によって、移動体無線通信装置3が操作されて、統制局6内の専用電話機18、各内線電話機14、統制局6外に設けられた防災各機関16などを指定する番号ボタン、例えば専用電話機18を指定する番号ボタンが選択(押下)されると、移動体無線通信装置3によって、260MHz帯のデジタル通信回線11を使用した直接通信方式で、専用電話機18を示す電話番号が送信され、通信可能なエリア内にある基地局(現在、選択されている基地局)5−1で受信され、基地局5−1→アプローチ回線7→統制局6なる経路で、統制局6に通知される。これにより、統制局6の回線制御装置19によって、通話先に指定された電話番号に対応する専用電話機18が呼び出され、ヘリコプターの搭乗者と、専用電話機18側の防災担当者などとの通話が開始される。
【0024】
一方、ヘリコプター2の移動体無線通信装置3を呼び出す場合には、統制局6内に設置された専用電話機18、内線電話機14、統制局6外に設置された防災各機関16の電話機などに設けられた移動体番号ボタン、例えば専用電話機18に設けられた移動体番号ボタンが選択(押下)されると、統制局6の回線制御装置19によって、これが検知される。そして、メモリ20からヘリコプター2の番号に対応する基地局の局番号(この場合、移動体無線通信装置3から通知された基地局5−1を示す局番号)が選択され、アプローチ回線7を介して、選択された基地局5−1の被遠隔制御装置13に通信開始指示が出される。これにより、選択された基地局5−1によって、デジタル通信回線11を介し、ヘリコプター2の移動体無線通信装置3が呼び出され、ヘリコプター2の搭乗者と、専用電話機18側の防災担当者などとの通話が開始される。
【0025】
<効果>
このように、この実施形態では、ヘリコプター2に搭載された移動体無線通信装置3によって、ヘリコプター2自身の位置情報を把握して、どのエリアに居るのかを判断し、エリアに対応する基地局の局番号を記憶するとともに、統制局6のメモリ20に記憶させるようにしている。このため、ヘリコプター2の搭乗者、統制局6内の専用電話機18、各内線電話機14、統制局6外の防災各機関16の電話機などから通話要求が出されたとき、統制局6に記憶されている局番号に対応した基地局を介して、防災関係者と、ヘリコプター2の搭乗者との間の通話を行わせることができる。
【0026】
これにより、ヘリコプター2の搭乗員は、自分の所在エリアを意識することなく(接続先基地局の選択をすることなく)、通話希望先の防災各機関の呼び出し番号のみを選択して通話を行うことが可能となる。
【0027】
さらに、ヘリコプター2は、定期的に自身の位置情報を統制局6に通知して、その情報を保持させ、ヘリコプター2を呼び出す際にその位置情報から最適な基地局への方路を自動選択させるようにしている。このため、防災各機関16の関係者に、ヘリコプター2の現在位置を意識させることなくヘリコプター2を呼び出し、通話させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明による移動体通信システムの一実施形態を示すブロック図である。
【図2】図1に示す移動体無線通信装置、各基地局、統制局、各エリアの配置例を示す地理的運用形態説明図である。
【符号の説明】
【0029】
1:移動体通信システム
2:ヘリコプター
3:移動体無線通信装置
−1〜4−n:エリア
−1〜5−n:基地局
6:統制局
7:アプローチ回線
8:GPSセンサ
9:車載型無線機
10:エリアテーブル
11:デジタル通信回線
12:半固定無線機
13:被遠隔制御装置
14:内線電話機
15:防災回線
16:防災各機関
17:中央交換機
18:専用電話機
19:回線制御装置
20:メモリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
各通信エリア内にそれぞれ設けられる基地局と、ヘリコプターまたは軽飛行機を含む移動体に設けられる移動体無線通信装置と、各基地局を統制する統制局とを備え、前記移動体無線装置と統制局との間で基地局を介して双方向通信を行う移動体通信システムであって、
前記移動体無線通信装置は、
当該移動体の現在位置を測定するGPSセンサと、
予め前記基地局の存在する各エリアの位置情報を登録したエリアテーブルと、
前記GPSセンサで得られた移動体の現在位置情報に基づき前記エリアテーブルを検索して前記複数の基地局の中から通信先として最適な基地局を選択する選択手段と、選択した基地局を介して前記統制局に対して当該移動体を特定する番号と共に選択した基地局の局番号を伝える伝送手段とを有する車載型無線機と、
を備え、
前記統制局は、
前記基地局を介して伝えられた前記移動体を特定する番号と選択された基地局の局番号とを記憶する記憶手段と、
前記移動体への通信要求が出されたときには、前記記憶手段に記憶している局番号の基地局を介して、前記移動体無線通信装置と通信する通信手段と、
を備えたことを特徴とする移動体通信システム。
【請求項2】
請求項1に記載の移動体通信システムは、260MHz帯の周波数を使用したデジタル移動通信システムであることを特徴とする移動体通信システム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−88033(P2010−88033A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−257434(P2008−257434)
【出願日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】