移動変更用誘電勾配領域を有するエネルギー変換セルおよびその方法
エネルギー変換装置および内部での反応化学種の移動を変化させる方法が、誘電勾配構造(例えば領域、層)の使用を含む。例えば、光子エネルギー変換装置(例えば太陽電池)または化学エネルギー変換装置(例えば燃料電池)において、誘電率に勾配を設ける1つまたは複数の非電気構造を電池内に配置して、光生成化学種または化学反応生成化学種の移動の方向および/または速度を変化させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[0001]本出願の技術分野は、例えば光子エネルギー変換セル装置(例えば光起電力電池)または化学エネルギー変換セル(例えば燃料電池)などのエネルギー変換セル内での電子、正孔、イオン、励起子、およびラジカルな電荷もしくはエネルギーの1種または複数種の移動を改善する装置および方法に関する。本出願の技術分野は、光子エネルギー変換セル内での励起子の移動を実質的に抑制する装置および方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
[0002]エネルギー変換セル装置は一般に、光または化学反応などによるエネルギーを電力に変換するいくつかのステップを必要とする。例えば、太陽電池では、最初のステップは、電子が光子に励起されてより高くより強力なエネルギーレベルになり、エネルギーが空のレベルまたは状態が後に残る電子的なメカニズムを含む。光で励起された電子および(正孔として知られる)空エネルギー状態はともに、別々の回収部位(例えば陰極および陽極)にマイグレーションしなければならない。太陽電池装置では、電子および正孔用の別々の回収部位は負極性および正極性の接点である。これらの電子および正孔は励起子の形で一体で移動することがあり、その後、分離して回収される。
【0003】
[0003]太陽光発電の費用対効果を高くするために、可視光光子を変換して吸収したエネルギーを電気接点に移動し得る励起電荷にする安価な材料を模索する研究が盛んになっている。これまでのところ、高価な高品質シリコンに替わる可能性を秘めた安価な材料はその多くが移動性に大きな難点をもつ。このように移動性が悪いことから、こうした比較的安価の材料は光子エネルギー変換セルに応用することができない。
【0004】
[0004]高品質単結晶シリコン太陽電池では、電子および正孔は拡散係数が大きく寿命(すなわち、光子励起キャリアと正孔とが再結合するのに要する時間であり、再結合すると通常は熱が発生し電荷として回収されない)が長い。単結晶シリコンの電子移動度は100cm2/V−sよりも大きい。光生成少数キャリアの寿命は十分に長く、そのため、アモルファスシリコンでは拡散長が約0.5μmよりも短いが、単結晶シリコンでは100μmよりも長くなる。これらの拡散長は、太陽電池の接触領域を帯電させるべく光生成キャリアが移動し得る距離をほぼ反映している。
【0005】
[0005]アモルファスシリコン光起電力電池(例えば太陽電池)は通常0.2μmよりも厚いので、光生成キャリア(例えば電子、正孔、イオン、励起子、およびラジカルな電荷またはエネルギー)の多くは、回収される前に再結合することになる。この再結合の問題は、その程度を低減することができる。しかし、キャリア回収を支援するのに電界を利用すると、(開路電圧が減少するので)利用可能な光生成電力が減少してしまう。
【0006】
[0006]電界支援回収は一般に、電気的性質に勾配を付け(すなわちドーパント濃度に勾配を付け)、かつ/または強絶縁太陽電池吸収層を設けることを必要とする。アモルファスシリコン太陽電池の場合、絶縁吸収材料を支援電界と組み合わせて使用する。単結晶シリコン太陽電池では、電極の近くでドーパントに勾配を付けることが多く、それによってキャリアの回収を支援し再結合を少なくする。
【0007】
[0007]近年、低コストの固体(例えばプラスチックまたはポリマー)および/または液体を接合したタイプの太陽電池の利用が、代替エネルギー源の重要な候補として注目されている。中でも、色素増感太陽電池(液体接合太陽電池の一種)は、超低コスト材料を組み込んでいるため、特に注目されている。遺憾ながら、固体接合太陽電池および液体接合
太陽電池はいずれも、光生成電荷の移動性が悪いという難点をもつ。例えば、固体太陽電池で使用される材料をその移動度とともに以下に記す。オリゴチオフェン系材料の移動度は0.03cm2/V−s未満であり、フタロシインの移動度は0.01cm2/V−s未満、ペンタセンの移動度は0.62cm2/V−s未満、C60の移動度は0.08cm2/V−s未満、ペリレンジイミドの移動度は約1.5×10−5cm2/V−s未満である。イオン電荷は一般に水溶液中で拡散し、その拡散定数は10−5cm2/s前後であり、これは10−4cm2/V−s前後の移動度と一致する。上記の材料は、移動度がこのように小さいので、光生成電荷キャリアの移動性が悪く、そのため、利用可能な電圧のかなりの部分を回収支援に使用しなければならず、外部の発電に利用可能な電圧が減少してしまう。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
[0008]本出願に記載の技術は概ね、エネルギー変換セル(例えば、光子エネルギー変換セルや化学エネルギー変換セルなど)内での化学種の移動を変更または調整することに関するものである。一実施形態では、本技術は、光起電力電池や燃料電池などのエネルギー変換セル内での電子、正孔、イオン、励起子、およびラジカル系の電荷もしくはエネルギーの1種または複数種の移動を、光起電力電池における光子吸収体などのエネルギー交換領域から回収領域(例えば陽極または陰極)への移動を支援するようになされた(例えば勾配を付けた)誘電体領域を備えたエネルギー変換装置を設けることによって改善する(例えば増大させる)ことに関するものである。別の実施形態では、本技術は、エネルギー交換領域(例えば光子吸収領域)から回収領域への励起子の移動を実質的に抑制するように調整された(例えば勾配を付けた)誘電体領域を備えることによって、光子エネルギー変換セル内での励起子の移動を抑制することに関するものである。
【0009】
[0009]本出願の技術はまた、光学的または化学的に生成された帯電エネルギーキャリアおよび非帯電エネルギーキャリアのスピードを増大させ(いくつかの応用例では減少させ)、かつ、それらの動きの方向を制御する助けとなる非電界構造(例えば絶縁構造)に関するものである。光学的または化学的に生成されるエネルギーキャリアは、電子、正孔、イオンなどの帯電化学種ならびに励起子およびラジカル系のエネルギーまたは電荷(例えば励起用の原子および分子)を含む非帯電化学種である。誘電勾配領域などの非電界構造を利用して太陽電池の性能を改善することができ、かつ、この構造を適用して燃料電池内での化学反応のスピードまたは比率(触媒作用を及ぼす)を改善(することができる。さらに、いくつかの実施形態では、この非電界構造を利用して、励起子などの望まれない光生成化学種の動き(すなわち移動)を実質的に抑制することができる。この非電界構造は概ね、少なくとも1つの誘電率に勾配を付けた要素、誘電率を変化させた要素、または誘電率を変動させた要素(例えば、本明細書では、単一ステップ関数変化またはマルチステップ状もしくは波動状の段階的変化を含む)からなるものであり、この要素は1種または複数種の移動化学種と相互作用するものである。理論に拘泥するわけではないが、こうした誘電勾配構造は、電子、正孔、イオン、励起子、およびラジカル系の電荷もしくはエネルギーの1種または複数種の移動を変化させる(例えば、位置および極性方向に基づいて移動を促進または抑制する)と考えられる。
【0010】
[0010]一態様では、本技術は概ね、移動が改善されたエネルギー変換装置に関するものである。このエネルギー変換装置は、陰極と、第1移動領域と、エネルギー交換領域と、誘電体領域と、第2移動領域と、陽極とを備え、誘電体領域は、陽極または陰極の一方への移動方向に沿って誘電率勾配値が得られるように調整され、それによって、電子、正孔、イオン、励起子、およびラジカル系の電荷もしくはエネルギーの1種または複数種の移動が改善する。いくつかの実施形態では、このエネルギー変換装置は光子エネルギー変換装置であり、そのため、エネルギー交換領域が光子吸収領域であり、そこでは、光子に応
答して電子、正孔、励起子、イオン、またはラジカル系のエネルギーもしくは電荷などの光生成化学種を生成する材料によって光子が受け入れられる。他の実施形態では、このエネルギー変換装置は燃料電池などの化学エネルギー変換装置であり、移動対象の化学種(例えば、電子、正孔、励起子、イオン、またはラジカル系のエネルギーもしくは電荷)が生成されるエネルギー交換領域で化学反応が生じる。
【0011】
[0011]本技術の上記態様の実施形態は、以下の特徴の1つまたは複数を含む。いくつかの実施形態では、エネルギー交換領域は、第1移動領域の少なくとも一部の中に配置される。誘電体領域は、エネルギー交換領域と第2移動領域の界面に配置することができる。いくつかの実施形態では、誘電体領域は、移動方向に沿って誘電率勾配値が得られる形状の構造を有する。つまり、いくつかの実施形態では、誘電体領域は、例えば複数の隆起部または畝部などの誘電材料成膜構造で形成される。この構造の形状により、誘電体領域内で誘電率に勾配が付けられる。いくつかの実施形態では、誘電体領域は、例えば水などの基材内に配置された1種または複数種の誘電材料の複数の粒子を含む。誘電勾配をさらに調整するために、いくつかの実施形態では、誘電体領域にわたって複数の粒子の濃度を単調に変化させる。いくつかの実施形態では、基材内に配置された複数の粒子のサイズを変化させることによって、誘電勾配を調整する。いくつかの実施形態では、誘電体領域は、誘電率に勾配が付けられるように組成を変化させた誘電材料の層である。本態様によるエネルギー変換セルは、光起電力電池、特に固体または液体接合型の太陽電池などの光子エネルギー変換セルとし得る。この光起電力電池の実施形態の一部はさらに、光子吸収を増大させるためのスペクトル改変領域を含む。このスペクトル改変領域は、第1屈折率を有する複合膜と、第1屈折率と異なる第2屈折率を有する基材とを含む。スペクトル改変領域の複合膜は、基材上に配置され、発光材料およびミクロンサイズのシリコン粒子を含む。他の実施形態では、本技術によるエネルギー変換セルは、燃料電池などの化学エネルギー変換セルである。本実施形態では、電子、イオン、励起子、およびラジカル系の電荷もしくはエネルギーなどの反応化学種の1種または複数種が第1移動領域を介して陰極に向かって移動し、これらの反応化学種は陰極での反応において触媒として働く。いくつかの実施形態では、誘電体領域は、単一の反応化学種の移動に影響を及ぼすように、小さな長さスケールにわたって誘電勾配が設けられるように調整される。例えば、いくつかの実施形態では、誘電体領域は、上記移動方向に約100Å以下(例えば、50Å、40Å、30Å、20Å)の長さスケールを有する。いくつかの実施形態では、誘電体領域は、上記移動方向に約10nm以上(例えば、20nm、40nm、50nm、100nm、200nm)の長さスケールを有し、そのため、より大きな反応化学種または反応化学種群の移動がより大きな長さスケールにわたって影響を受ける。いくつかの実施形態は、2つ以上の誘電体領域を含むことを特徴とし、第1誘電体領域は約100Å以下の長さスケールを有し、第2誘電体領域は10nm以上の長さスケールを有する。いくつかの実施形態は、第1移動領域および第2移動領域の少なくとも一方にわたって電界を印加する装置を備えることを特徴とする。
【0012】
[0012]別の態様では、本技術は、移動が改善されたエネルギー変換装置に関するものである。このエネルギー変換装置は、陰極と、第1移動領域と、第1誘電率を有する基材および第1誘電率よりも小さい第2誘電率を有する第2材料であって基材内に分散されて誘電勾配複合領域を形成する第2材料を含むエネルギー交換領域と、第2移動領域と、陽極とを備える。
【0013】
[0013]本技術の上記態様の実施形態は、以下の特徴の1つまたは複数を含む。いくつかの実施形態では、エネルギー交換領域は、第1移動領域の少なくとも一部の中に配置される。エネルギー交換領域は、基材内に分散される第2材料として複数の粒子または空隙を含み得る。エネルギー交換領域内の誘電勾配をさらに調整するために、いくつかの実施形態では、その全体にわたって複数の粒子または空隙の濃度を単調に変化させる。いくつか
の実施形態では、エネルギー交換領域にわたって複数の粒子または空隙のサイズを変化させることによって誘電勾配を調整する。基材は、プラスチック半導体、ポリマー半導体、または無機半導体から選択することができる。本態様によるエネルギー変換セルは、光起電力電池、特に固体または液体接合型の太陽電池などの光子エネルギー変換セルとし得る。この光起電力電池の実施形態の一部は、光子吸収を増大させるためのスペクトル改変領域をさらに備える。このスペクトル改変領域は、第1屈折率を有する複合膜と、第1屈折率と異なる第2屈折率を有する基材とを含む。スペクトル改変領域の複合膜は、基材上に配置され、発光材料およびミクロンサイズのシリコン粒子を含む。他の実施形態では、本技術によるエネルギー変換セルは、燃料電池などの化学エネルギー変換セルである。本実施形態では、電子、イオン、励起子、およびラジカル系の電荷またはエネルギーなどの反応化学種の1種または複数種が第1移動領域を介して陰極に向かって移動し、これらの反応化学種は陰極での反応において触媒として働く。いくつかの実施形態では、誘電体領域は、単一の反応化学種の移動に影響を及ぼすように、小さな長さスケールにわたって誘電勾配が設けられるように調整される。例えば、いくつかの実施形態では、誘電体領域は、上記移動方向に約100Å以下(例えば、50Å、40Å、30Å、20Å)の長さスケールを有する。いくつかの実施形態では、誘電体領域は、上記移動方向に約10nm以上(例えば、20nm、40nm、50nm、100nm、200nm)の長さスケールを有し、そのため、より大きな反応化学種または反応化学種群の移動がより大きな長さスケールにわたって影響を受ける。いくつかの実施形態は、2つ以上の誘電体領域を含むことを特徴とし、第1誘電体領域は約100Å以下の長さスケールを有し、第2誘電体領域は10nm以上の長さスケールを有する。いくつかの実施形態は、第1移動領域および第2移動領域の少なくとも一方にわたって電界を印加する装置を備えることを特徴とする。
【0014】
[0014]さらなる態様では、本技術は、励起子の移動が実質的に抑制された光子エネルギー変換装置に関するものである。いくつかの応用例では、励起子が生成される領域からの励起子の移動が望まれない(すなわち、励起子は、その大きなサイズと反応状態のために、ある種の材料に悪影響を及ぼすことがある)。こうした応用例では、光子エネルギー変換装置は、陰極と、第1移動領域と、光子吸収領域と、誘電体領域と、第2移動領域と、陽極とを備え、誘電体領域は、陽極または陰極の一方への移動方向に沿って誘電率勾配値が得られるように調整され、それによって励起子の移動が抑制される。別の実施形態では、この光子エネルギー変換装置は、陰極と、第1移動領域と、第1誘電率を有する基材および第1誘電率よりも小さい第2誘電率を有する第2材料であって基材内に分散されて誘電勾配複合領域を形成する第2材料を含む光子吸収領域と、第2移動領域と、陽極とを備える。
【0015】
[0015]別の態様では、本技術は、エネルギー変換セル(例えば、エネルギー変換装置)内での移動を改善する方法を対象とする。この方法は、エネルギー変換装置の陽極と陰極の間に少なくとも1つの誘電勾配領域を設けるステップを含み、この少なくとも1つの誘電勾配領域は、所望の帯電した化学種の移動方向に沿って約10nm以上の長さスケールを有する。
【0016】
[0016]本技術の上記態様の実施形態は、以下の特徴の1つまたは複数を含む。いくつかの実施形態では、この方法は、エネルギー変換装置に電界を印加するステップをさらに含む。この方法によって得られる誘電体領域は複数の粒子を含むことができ、誘電勾配領域にわたって粒子の濃度またはサイズを所望の帯電した化学種の移動方向に沿って変化させる。いくつかの実施形態では、誘電体領域は、所望の帯電した化学種の移動方向に沿って約10nm以上の長さスケールが得られる構造を形成するように成膜される。いくつかの実施形態は、第2誘電勾配領域を設ける追加のステップを含むことを特徴とする。
【0017】
[0017]さらなる態様では、本技術は、エネルギー変換装置内での励起子の移動を変化さ
せる方法に関するものである。この方法は、エネルギー変換装置の陽極と陰極の間に少なくとも1つの誘電勾配領域を設けるステップを含み、この少なくとも1つの誘電勾配領域は、所望の励起子の移動方向に沿って約100Å以下の長さスケールを有する。
【0018】
[0018]本技術の上記態様の実施形態は、以下の特徴の1つまたは複数を含む。いくつかの実施形態では、この方法によって設けられる誘電勾配領域は複数の粒子を含み、この誘電勾配領域にわたって粒子の濃度またはサイズを所望の励起子の移動方向に沿って変化させる。いくつかの実施形態では、この誘電勾配領域は、所望の励起子の移動方向に沿って100Å以下の長さスケールが得られる構造を形成するように成膜される。この誘電勾配領域は、励起子の移動を改善するように勾配を付けることができる。他の方法では、この誘電勾配領域は、励起子の移動を実質的に抑制するように勾配を付けることができる。実施形態は、エネルギー変換セル装置に第2誘電勾配領域を設けるステップをさらに含むことも特徴とし得る。
【0019】
[0019]本出願の技術による変換セル、変換装置、および方法により多くの利点が得られる。1つの利点によれば、非電界構造(例えば誘電勾配領域)により化学種の移動(速度および方向)が変化し、それを利用してエネルギー変換セルまたはエネルギー変換装置の所望の性能を実現する(例えば、化学種の移動速度を改善したり、化学種の移動を抑制したりする)ことができる。本技術の別の利点によれば、固体または液体接合型の太陽電池、特に低コストの色素増感太陽電池の光起電力性能が改善される。
【0020】
[0020]上記の実施形態、利点、および特徴は、以下の説明および図面を参照することによってよりよく理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0021】
[0021]図面では、同様の参照記号は全図面を通じて概ね同じ部品を指す。また、図面は必ずしも互いに同じスケールで描かれておらず、本開示の原理を示すために強調されている。
【図1】本技術の実施形態によるエネルギー変換セルの実施形態を示す断面図である。
【図2】エネルギー変換セルの別の実施形態を示す断面図である。
【図3】エネルギー変換セルの一部を示す拡大断面図である。
【図4】図1のエネルギー変換セル内の誘電体領域の実施形態を示す断面図である。
【図5】エネルギー変換セル内で使用する誘電体領域の別の実施形態を示す断面図である。
【図6】エネルギー変換セル内で使用する誘電体領域の別の実施形態を示す断面図である。
【図7】エネルギー変換セル内で使用する誘電体領域の別の実施形態を示す断面図である。
【図8】光子エネルギー変換セル内で使用するスペクトル改変領域を示す断面図である。
【図9】電界勾配および誘電勾配の影響下の神経細胞のイオン電流のグラフである。
【図10】電界装置をさらに備えた図1のエネルギー変換セルを示す断面図である。
【図11】エネルギー変換セルの別の実施形態を示す断面図である。
【図12】勾配を付けた誘電体領域内の反応生成化学種を示す断面図である。
【図13】励起子の移動を実質的に抑制する誘電体領域を備えた光子エネルギー変換セルの実施形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[0022]エネルギー変換セル装置の有効性は一般に、エネルギー交換により生成された(
すなわち、反応により生成された、例えば光により生成されたまたは化学反応により生成された)化学種の回収・反応可能領域(例えば陽極、陰極)への移動性によって制限される。これまで、拡散プロセスおよび/または電界駆動プロセスを利用して、エネルギー交換生成化学種(すなわち反応生成化学種)を陽極または陰極に移動させて発電を行ってきた。本出願の技術は、反応生成化学種(例えば、電子、正孔、イオン、励起子、およびラジカル系の電荷またはエネルギー)の動きに非電界・非拡散プロセスを利用することを対象とする。
【0023】
[0023]本明細書に記載の技術は、光起電力電池および燃料電池の効率およびその中での移動の改善のみならず、これらの変換セルに使用する比較的低コストすなわち安価な材料の組込みにも適用することができる。例えば、本技術の実施形態によってもたらされる大移動度での移動を実現することにより、高価な単結晶シリコンまたはその他の単結晶半導体の代わりに液体色素などの低コスト光子吸収材料を光起電力電池で効果的に使用することができる。
【0024】
[0024]以下、図面を参照する。図1に、本技術によるエネルギー変換セル10の実施形態を示す。エネルギー変換セル10は、陰極11、第1移動領域12、エネルギー交換領域13、誘電体領域14、第2移動領域15、および陽極16を備える。エネルギー変換セル10は、エネルギー交換領域13において開始される反応によって動作する。例えば、光子エネルギー変換セルでは、エネルギー交換領域13内の材料によって光子が吸収される。吸収された光子は、エネルギー交換領域13内の材料に十分なエネルギーを供給するので、低エネルギー価電子帯内の電子がより高いエネルギー状態に励起される。次いで、この反応によって生成される電子および正孔は、第1移動領域12および第2移動領域15の一方を介して陰極11または陽極16に向かって別々に移動する。
【0025】
[0025]セル10の陰極11および陽極16は、例えばガラス板、透明ポリマーシート、または金属ケースなどの保護カバーの間に挟むことができる。陰極11および陽極16は反応生成化学種の回収領域である。つまり、陰極11は、負に帯電した化学種または特定のタイプのラジカル系エネルギーを引きつけ受け入れるように調整された領域であり、陽極16は、正に帯電した化学種またはその他のラジカル系エネルギーを引きつけ受け入れるように調整された領域である。反応生成化学種(例えば、電子、正孔、励起子、イオン、ラジカル系の電荷またはエネルギー)はそれぞれ陽極16または陰極11に向かって移動し、陽極16または陰極11に到達した後は、(a)陽極または陰極内に集まり電気回路で利用されるか、(b)陽極または陰極内での反応の触媒として働き、それによって発電が行われる。
【0026】
[0026]誘電体領域14は、エネルギー交換領域13から陽極11または陰極16に向かう反応生成化学種の移動を支援するようにセル10内に配置される。本実施形態では、誘電体領域14は、エネルギー交換領域13と第2移動領域15の界面に配置される。誘電体領域14は、陽極または陰極の一方への移動方向に沿って誘電率勾配値が得られるように調整された材料を含む。いくつかの実施形態では、この誘電体領域の材料には、電子、正孔、イオン、励起子、およびラジカル系の電荷もしくはエネルギーの1種または複数種の移動を改善するように勾配が付けられている。このような勾配は、単一のステップ関数を用いて誘電率の値に明瞭な段差すなわち変化を設けることによって実現し得る。あるいは、いくつかの実施形態では、複数のステップもしくは波動関数またはその他の連続関数を用いて誘電体領域14全体にわたって反応生成化学種の移動方向に沿って誘電率の値を段階的または連続的に変化させることによって段階的に勾配を実現してもよい。例えば、第1移動領域12を介して陰極11に向かう電子の移動速度を改善すなわち増加させるために、誘電率に勾配を付けてその値を誘電体領域14を介して陰極11に向かう方向に増加させる。
【0027】
[0027]先に論じたように、ある種の太陽電池における反応化学種の移動は、その太陽電池を広く一般に普及させるには劣っており、かなり不十分である。具体的には、導電性プラスチック内での移動度は通常10−5cm2/v−sのオーダである。液体における拡散度は通常10−5cm2/sのオーダであり、これは、(アインシュタインの相対移動度=
【0028】
【数1】
【0029】
によって)移動度に換算すると〜4×10−4cm2/V−s前後になることを示唆する。上記の値は、結晶シリコンの移動度(>100cm2/V−s)やアモルファスシリコンの移動度(〜1cm2/V−s)と比較すると比較的劣っている。これらの値の影響を推定するために、〜17mA/cm−2(変換効率が〜10%の妥当な品質のアモルファスシリコン太陽電池の電流)の電流Jscを得るのに必要とされる電圧Vを考える。Jscは
【0030】
【数2】
【0031】
で表される。式中、Nは光生成化学種の密度(ここでは1018cm−2とする)であり、dは電荷が移動しなければならない領域の厚さで、ここでは0.5μmとする。こうすると、移動度を5×10−5cm−2/V−sとした場合に必要とされる電流を得るには、電圧は0.1Vとなる。したがって、典型的な色素系および/または有機材料系の太陽電池の電圧は〜0.5Vに過ぎず、かつ、移動に必要とされるエネルギーも観測される外部電力に寄与し得ないので、約20%の電力が移動で失われる。
【0032】
[0028]移動速度を改善するために、本出願の技術では誘電勾配を適用することに注目する。理論に拘泥するわけではないが、エネルギー変換セルにおいて誘電勾配を適用することにより反応生成化学種が移動すると考えられる。具体的には、誘電勾配は、反応生成化学種の移動の方向およびスピードに影響を及ぼすと考えられる。
【0033】
[0029]分極の程度は、誘電率εおよび自由空間の誘電率ε0として知られる材料の特性によって記述される。これらは、静電気力および静電エネルギーの基本量である。力ベクトルFおよびエネルギーEは次式で与えられる。
【0034】
【数3】
【0035】
式中、q1およびq2は相互作用する2つの電荷であり、rはこれら2つの電荷を隔てる距離、r’はこれら2つの電荷間の方向を記述する単位ベクトルである。
【0036】
[0030]単一の電荷(例えば電子的な電荷すなわちイオン)が存在する場合、周囲の媒質の分極に関わるエネルギーはかなりの量になる。いかなる場合でも、(例えば近傍の電荷からの)電界が存在する空間の所与の領域では、分極媒質で満たされるとエネルギーが減少し得る。イオンと電荷が分極により周囲媒質と相互作用することが知られており、この分極が、次式で与えられるイオン電界エネルギーWを減少させる。
【0037】
【数4】
【0038】
式中、ε0は自由空間の誘電率であり、ε1は問題にしている媒質の誘電率である。問題にしている領域外の点状の電荷またはイオンによる電界は、この領域が極性媒質または自由空間で満たされる場合には、それぞれ
【0039】
【数5】
【0040】
または
【0041】
【数6】
【0042】
で与えられる。したがって、誘電率の勾配により、変位xについて式3の導関数によって定義されるエネルギー勾配(すなわち力)は次式で与えられる。
【0043】
【数7】
【0044】
[0031]ε0>>ε1であり、かつ、唯一の電界が点状の電荷および/またはイオンによる電界であり、それが問題にしているイオンから外向きに放射される場合、式4は以下のように記述される。
【0045】
【数8】
【0046】
式中、aは最小半径(イオンの最小半径)であり、rは隣のイオンに至る前の途中の距離とみなし得る。式5から、誘電率
【0047】
【数9】
【0048】
勾配により力が生じることがわかる。
【0049】
[0032]その結果、(例えば媒質の変動による)誘電率勾配により、太陽電池やその他の装置およびプロセスにおける移動支援として利用し得る推進力が電荷およびイオンに与え
られる。
【0050】
[0033]帯電した要素と同様、中性の要素も誘電率勾配から推進力を受けることがある。結合した電子と正孔である励起子も、中性ではあるが、誘電勾配から推進力を受けることに特に留意されたい。まず、励起子のエネルギーを既知の形式で記述すると以下のようになる。
【0051】
【数10】
【0052】
式中、Mrは電子正孔対の減少した質量であり、mは電子のもつ残りの質量、EHは水素原子のエネルギーで〜13.6eV、nはエネルギーレベル指数でn=1,2,3...である。誘電勾配によって誘起されるエネルギーの変化を調べると次のようになる。
【0053】
【数11】
【0054】
[0034]上記のことから、色素分子内(または他の分子系内、ならびに/または分子間、ならびに/または固体および/もしくは第2の分子系および/もしくは液体および/もしくは気体への界面)での移動は、局所的な誘電勾配によって著しく影響を受け得ることがわかる。式7による移動方向はエネルギーが減少する方向であり、したがって、誘電率が増加する方向である。この誘電力は、誘電率の3乗に反比例し、かつ、誘電率勾配に比例する。そのため、この力は、開始点で誘電率が小さいステップ勾配のとき最大になる。
【0055】
[0035]励起子の軌道半径も重要な因子である。軌道が大きくなると、(例えば太陽電池の実施形態では)電子の界面への移動確率、または(クロロフィルを使用する光子エネルギー変換セルの場合のように)原子反応物もしくは分子反応物への移動確率が大きくなる。重要なのは、誘電率が大きくなると励起子の軌道が大きくなることである。したがって、励起子は誘電勾配によって高誘電領域に向かって引き寄せられるだけでなく、誘電勾配が進むにつれ移動(または反応)の確率も増大する。誘電率とボーアの公称励起子軌道半径rBとの関係は次式で与えられる。
【0056】
【数12】
【0057】
式中、m*は減少した質量である。励起子の軌道半径は大きな値(例えば42Å)になることがあり、誘電率が大きくなると直線的に大きくなることに留意されたい。
【0058】
[0036]色素やその他の分子内の励起子も、古典的な水素様の状態になることとならないことがあるが、クーロン引力で結合した電子−正孔対様の状態になることのほうが多く、ただしこの場合、互いに古典的な軌道に従わないことがある。この場合、励起子は分子の領域付近へマイグレーションする。そのときのスピードは、この対の最も遅い電荷化学種のスピードである。いずれの場合にも、環境的な誘電勾配を確立し、改変した色素(または他の光吸収構造)を使用して誘電勾配を設けると、移動および/または太陽電池の性能に有利に働く。
【0059】
[0037]分子は独特の形状を有し、多くの場合、線形であるので、電子と正孔の間に作用する力が分子の境界の外側の領域を横切る場合が多く、それによって、環境および環境的な誘電率が、クーロン引力に、したがって帯電した対における化学種間の距離に影響を及ぼす。
【0060】
[0038]上記で論じた理論からわかるように、エネルギー変換セル内で使用する誘電勾配領域により、この領域を通過する反応生成化学種の移動方向および移動速度が変化する。本技術の実施形態では、エネルギー変換セル内に1つまたは複数の誘電勾配領域を組み込むか、または設けることによって、化学種の移動の効率を改善することができる。そのため、エネルギー変換セル10の(図1に示す)エネルギー交換領域13に比較的低コストの材料を用いることができ、それによって、いくつかの応用例(例えば光子エネルギー変換)の商業的な実現可能性がより大きくなる。別の実施形態では、光子エネルギー変換セルに組み込んだ誘電勾配領域では、励起子の移動方向に沿って誘電勾配を小さくするので、励起子の移動を遅くすることができ、それによって、励起子−材料の相互作用の不要なまたは望まれない結果を有効に阻止することができる。
【0061】
[0039]図1に示すエネルギー変換セル10に誘電体領域14を組み込むことによって、比較的低コストの材料を用いてエネルギーを生成することができ、そのため、代替エネルギーの商業的な実現可能性がより大きくなる。例えば、誘電体領域14を色素増感太陽電池で使用することができる。この実施形態では、エネルギー交換領域13(光子吸収領域)はアントシアニン系色素などの液体色素を含み得る。色素によって吸収される光子が色素材料を励起し、その結果、励起子(電子−正孔対)が生成される。交換領域13に隣接して配置される誘電体領域14は、誘電的勾配複合体で形成される。この実施形態では、誘電体領域は、内部に複数のガラス粒子が入った水基材からなる。ガラス粒子の濃度は、誘電率に勾配が付けられて誘電体領域14から陰極11に向かって延びる方向に誘電率が徐々に増加するように誘電体領域にわたって単調に変化させる。誘電率に勾配が付けられた誘電体領域14により、エネルギー交換領域13から離れて(本実施形態ではTiO2粒子で形成される)第1移動領域12に入り陰極11に向かう電子の移動を支援する推進力が生じる。光子反応において後に残った正孔は、(本実施形態ではヨウ素複合体含有電解質で形成される)第2移動領域15からの電子で埋められることになる。そのため、この正孔は、第2移動領域15を介して陽極16に向かって移動する。
【0062】
[0040]エネルギー変換セル10の誘電体領域14は、他のタイプの太陽電池と組み合わせて使用することもできる。例えば、エネルギー交換領域は、例えば半導体性の固体または液体などの別のタイプの光子吸収材料で形成してもよい。こうした半導体性の固体または液体は、約0.5eV〜約3eVの禁止帯幅を有する。半導体性の固体のいくつかの例には、シリコン、ゲルマニウムなどの元素材料、Si−Geなどの合金、オリゴチオフェン系、フタロシイン系、およびペンタセン系の材料などのポリマー、ならびにクロロフィルなどの有機材料があるが、これらに限定されるものではない。
【0063】
[0041]さらに、誘電体領域は、燃料電池などの化学エネルギー変換セルと組み合わせて使用することもできる。このような実施形態の1つでは、誘電体領域14は、それぞれ導電ポリマー膜で形成され、内部に複数のTiO2粒子が分散した第1移動領域12および第2移動領域15内に配置される。これらのTiO2粒子により、ポリマー膜には誘電勾配機能が付与される(すなわち、誘電勾配が得られるようにTiO2粒子を組み込むことができる)。陰極11、エネルギー交換領域13、および陽極16はそれぞれ、プラチナなどの触媒表面で形成される。
【0064】
[0042]上記の燃料電池の実施形態では、陽極が、例えば水素などの反応物燃料から電子を分離する。これらの電子は移動領域12、15を通過することができずに集められ、外
部表面を通過させられる。イオン(または水素燃料電池の実施形態では陽子)は、誘電体TiO2粒子を含む第2移動領域15を通過する。これらのTiO2粒子は移動方向に沿って誘電強度が大きくなるように勾配が付けられており、そのため移動速度が大きくなっている。陽子は第2移動領域15を介して移動し、エネルギー交換領域13/陰極11に至り、そこで、陽子は別の触媒表面に当たる。ここで、外部回路から戻された電子は、燃料(例えば水素)および酸化剤(例えば酸素)と混合され水が形成される。外部回路を移動する電子から電力が得られる。
【0065】
[0043]燃料電池のいくつかの実施形態では、1つ(または複数)の誘電体領域は、移動領域と組み合わされる代わりに、またはそれに加えて、陽極上および陰極上の層または被膜として配置され、それによって、電子交換領域で支援が行われる。これらの誘電体被膜は一般に(例えば50よりも大きい)高誘電率を有する。
【0066】
[0044]図1では、エネルギー変換セルに誘電体領域14を組み込んだ実施形態を示したが、他の実施形態も可能である。例えば、エネルギー交換領域13(すなわち、セル内で反応が開始する領域、例えば太陽電池内の光子吸収領域または燃料電池内の初期化学反応領域)は、図1の実施形態で示すように移動領域から離す必要はない。そうではなく、図2に示すエネルギー変換セル100の第1移動領域102にまたはその一部にエネルギー交換領域103を組み込む(すなわち第1移動領域102またはその一部全体にわたって分散させる)ことができる。その代わりに、またはそれに加えて、第2移動領域105またはその一部にエネルギー交換領域103を組み込むことができる。
【0067】
[0045]いくつかの実施形態では、領域の構造の形で誘電勾配を含むように誘電体領域14を形成することができる。例えば、図3に示すように、成膜中に誘電体領域304を形成する。ここで、誘電体領域304は、変換セル10の一部においてエネルギー交換領域13と第2移動領域15の界面に沿って複数の(図示の)隆起部または(図示しない)畝部を含む構造が得られるように形成する。誘電材料で形成されたこれら複数の隆起部または畝部により、この領域の幅にわたって含まれる誘電材料の量が変化し、それによって、誘電体領域304内で化学種が移動する方向に沿って誘電率に勾配が付けられる。この構造は、リソグラフィもしくはパターンニング、押出し加工、またはその他の成膜プロセスを利用して形成することができる。
【0068】
[0046]いくつかの実施形態では、誘電体領域14の組成または構成を変化させて誘電勾配を形成する。例えば、図4に、誘電体領域14が基材402内に複数の粒子403を含むエネルギー変換セルの実施形態を示す。粒子403および基材402はそれぞれ異なる誘電率を有し、その結果、誘電体領域14内の位置に応じて誘電率が変化する。さらに、複数の粒子403は、それぞれ異なる材料の粒子とすることができる。例えば、粒子403の組成は、誘電体領域14にわたって変化させることができる。図4に示すように、誘電体領域14の第1区域は誘電率εaを有する材料で形成された粒子403aを含み、第2区域は誘電率εbを有する材料で形成された粒子403bを含み、第3区域は誘電率εcを有する材料で形成された粒子403cを含み、第4区域は誘電率εdを有する材料で形成された粒子403dを含む。εa<εb<εc<εdとなるように粒子403a、403b、403c、および403dの誘電材料を選択することによって、誘電体領域14が所望の誘電勾配をもつように(例えば、誘電体領域14の第1区域から第4区域への方向に誘電率が増加するように)調整することができる。
【0069】
[0047]誘電体領域14内のこれら複数の粒子は、その濃度を誘電体領域にわたって単調に変化させ、それによって誘電勾配を形成することもできる。例えば、図5に、基材502にわたって誘電体粒子503の濃度(すなわち単位体積当たりの数)を変化させて勾配を設ける実施形態を示す。この例では、誘電体領域501の上部505から誘電体領域5
01の底部506に向かって誘電率が増加する。
【0070】
[0048]別の実施形態では、複数の粒子のサイズを単調に変化させて誘電勾配を形成することができる。例えば、図6に、誘電体領域601の上部605から誘電体領域の底部606に向かって粒子のサイズが増加する実施形態を示す。その結果、上部605から底部606まで、粒子に含まれる誘電材料の量が単位体積当たり増加し、それによって勾配が得られる。
【0071】
[0049]誘電体領域14は、勾配を付けた材料層(例えば、図7に示すように、誘電体領域701内の第1箇所702aから箇所702bおよび702cを通り、例えば最終箇所702dまで誘電率の値が変化する誘電材料層)、勾配が得られるように形成された誘電材料の構造を含む領域(例えば、図3に示す複数の隆起部または畝部)、または基材もしくは組み込まれる材料(例えば、図4〜6に示す複数の粒子)の濃度を単調に変化させた複合材料として形成することができる。他の実施形態も可能である。誘電材料は、少なくとも約1の誘電率を有する任意のタイプの材料(例えば固体、液体、気体)で形成することができる。誘電材料のいくつかの例には、水、空気、蝋、ガラス、セラミックが含まれる。特に、水基材に入れたガラスビーズ粒子を使用して誘電体領域14を形成することができる。
【0072】
[0050]反応生成化学種は誘電勾配の長さスケールにしたがって移動する。長さスケールが小さい(例えば、100Å未満であり典型的には約10〜50Åの範囲)と、個々の分子または個々の材料粒の中での移動が起こる。このサイズスケールで影響を及ぼす誘電勾配の場合、誘電体構造はこれに類似のサイズスケールを有するべきである(すなわち、十分に小さく、かつ、約10〜50Åにわたって誘電強度の増加または減少が顕著になる程度に勾配ステップを十分に小さくする)。
【0073】
[0051]図12に、分子スケールの誘電勾配を形成したところを示す。この誘電勾配は、残りの環境部分と異なる誘電強度を有する小さなサイズの構造またはステップを追加することにより形成することができる。例えば、誘電材料1202で形成された誘電体領域1201において、誘電体領域の底部1204と上部1203の間の誘電強度または誘電率に、ある長さスケールで勾配を付け(すなわちステップ状にして)、それによって、分子1205内の単一の反応生成化学種1206に影響を及ぼすことができる。具体的には、分子1205と同じまたは類似のサイズスケールで誘電強度が変化するように誘電材料1202に勾配を付けると、この誘電勾配により、化学種の移動は著しい影響を受けることになる。そのため、この場合には、約5〜50Åの分子サイズに対して、誘電勾配のステップサイズまたは長さスケールを約10〜100Å(例えば、10〜50Å、20〜40Å)にする。
【0074】
[0052]上記のように長さスケールが小さいと、単一のまたは限られた数の反応生成化学種の移動を変化させるのに有効である。励起子の移動を変化させることも有用である。なぜならば、励起子は分子または単一の材料粒から離れたときに解離すると考えられるからである。しかし、誘電勾配の長さスケールは、一群または一団の反応生成化学種の移動に影響を及ぼす程度に大きな長さスケールまで大きくしてもよい。この場合、これら反応生成化学種の組合せサイズスケールは、単一ユニットのものとみなせる。つまり、多数の化学種が、周囲の環境における類似のサイズの誘電勾配によって一緒に移動することになる。そのため、一団または一群の反応生成化学種の移動に著しい影響を及ぼすには、誘電勾配の長さスケールを約10nm(例えば20nm、30nm、40nm、50nm、100nm、200nm)のオーダとする。
【0075】
[0053]エネルギー変換セルの応用例によっては、2つ以上の誘電体領域を備えたセルを
提供すると有利なことがある。例えば、変換セル10内でエネルギー交換領域13と第2移動領域15の間に誘電体領域14を1つだけ配置するのではなく、2つの誘電体領域を設けることができる。具体的には、エネルギー交換領域13と第2移動領域15の間に配置した第1誘電体領域に、エネルギー交換領域13と第1移動領域12の間に配置した第2誘電体領域をさらに追加することができる。可能な別の実施形態では、100Å未満の長さスケールで誘電勾配を有する第1誘電体領域も、10nm以上の長さスケールで誘電勾配を有する第2誘電体領域とともに単一のエネルギー変換セル内に設ける。誘電体領域を設ける場所を変えたり、誘電体領域の数を他の値にしたりすることも可能である。
【0076】
[0054]効率および移動をさらに支援するために、追加の要素または任意選択の要素を導入して発電を強化してもよい。例えば、光子エネルギー変換セルの場合、セル10の1つまたは複数の領域にスペクトル改変領域を組み込んでもよい。スペクトル改変領域は、光子エネルギー変換セルの一領域または一区域であって、その内部の材料が未使用の長波長光を使用可能な短波長光に変換して著しく性能を向上させ発電を実現する領域である。スペクトル改変領域の例が、「Solar Cell(太陽電池)」という名称の米国特許出願第12/175,208号に記載されており、US20090050201号として公開されている。ここにこの開示全体を参照により本明細書に組み込む。図8に示す一実施形態では、スペクトル改変領域801は、基材または基板材料802と、基材802上に配置された複合膜803とを含む。複合膜803は、1種または複数種の発光材料(例えば、イットリウム、エルビウム、レニウム、およびハフニウム)および複数のミクロンサイズのシリコン粒子804で形成される。この基材には任意の光透過性材料すなわち光に対して透明な材料を選択し得るが、基材802と複合膜803がそれぞれ異なる屈折率をもつように材料の組合せを選択しなければならない。基材802と複合膜803の屈折率に差があると、長波長光から短波長光への変換を、エネルギー交換領域13に対してより有用にする助けになる。光子エネルギー変換セル装置に入射する光のより多くの部分を、エネルギー交換領域13による光子吸収により貢献する波長に変換することによって、反応化学種の移動性を高めることができる。スペクトル改変領域801は、光起電力電池のいずれの場所にも配置し得る。特に、いくつかの実施形態では、図1に示す陰極11または陽極12の外側のガラスシートまたはその他の保護ケース内にスペクトル改変層を配置する。他の実施形態では、陰極11とエネルギー交換領域13の間にスペクトル改変層を配置する。
【0077】
[0055]いくつかの実施形態では、エネルギー変換セル10に電界を印加して効率を高める装置を特に設けてもよい。電荷(例えば電子および正孔)およびイオンの場合には、電界勾配(電位勾配)および誘電率勾配が同時に作用する状況を作り出すことが可能である。2つの場を同時に用いて移動させると、電界のみによる移動よりもはるかに高速になり得る。
【0078】
[0056]遺憾ながら、電位勾配と誘電勾配の組合せは、励起子の移動には適用できない。励起子は、電荷やイオンと異なり帯電しないため、電界勾配では励起子に推進力が働かない。
【0079】
[0057]電界勾配と誘電率勾配を組み合わせると、エネルギー変換セル内で電荷の形状が改善され、かつ、イオンが移動すると考えられる。以下、このことをより詳細に説明する。
【0080】
[0058]電界および第2のエネルギーのタイプの場∇Φの存在下での帯電したキャリアの移動度は次式で与えられる。
【0081】
【数13】
【0082】
式中、npは問題にしているイオンまたは電荷のキャリアの密度である。式から明らかなように、第2のエネルギーのタイプでの濃度勾配およびkTと濃度npの勾配との積の和が小さい場合、移動度が大きくなり、それによって電荷の流れが著しく増加する。図9に、神経細胞における電流の計算値のグラフを示す。印加電圧(または対応するイオン濃度勾配、両者はネルストの式によって関係付けられるため)が特定の値、この場合〜0.1Vになると、移動が極めて高速になるとともにコンダクタンスが大きくなり、その結果、抵抗が小さくなることに留意されたい。電荷を移動させるのに必要とされる印加電圧が極めて小さくなるのは、その印加電圧(または印加濃度勾配)により対応するエネルギー勾配KT∇ln(np)が生じ、この勾配が式9の分母の他の項、すなわち第2のエネルギーの勾配の項と相殺する場合である。
【0083】
[0059]この非電界勾配と式4の静電エネルギー勾配を等しく置くと(∇Φ≡∇W)、誘電勾配が電荷キャリアおよび/またはイオンの移動度にどのように影響を及ぼし得るかが説明される。次いで、移動度から移動スピードが決まる(キャリア速度は移動度と電界の積であるため
【0084】
【数14】
【0085】
)。
【0086】
[0060]その結果、移動スピードは、エネルギー変換セル装置内の誘電体領域と組み合わせて電界装置を使用することによってさらに最適化され得る。例えば、図10に示すように、電界装置17を設けて、第1移動領域12および第2移動領域15の少なくとも一方にわたって電界をかけることができる。電界装置17はエネルギー変換セル10の外部装置とし、エネルギー変換セル10に電界を印加させてもよいし、あるいは、電界装置17は、セル10の領域12、13、14または15の1つまたは複数の中の構造としてもよい。電界をかける構造の例として、ホウ素原子を第1移動領域12に組み込むとともに、ヒ素原子を第2移動領域15に組み込むことが挙げられる。
【0087】
[0061]図1、2、および10に示す実施形態では、エネルギー変換セル10は、誘電体領域とは別のエネルギー交換領域を備える。しかし、エネルギー交換機能と誘電勾配機能を組み合わせた単一の領域を設けることが可能である。例えば、図11を参照して、エネルギー変換セル900は、陰極901、第1移動領域902、エネルギー交換領域903、第2移動領域904、および陽極905を備える。エネルギー交換領域903は、基材906およびこの基材内に分散された第2材料907を含む。エネルギー交換機能は基材906により実現される。つまり、基材906は、光子エネルギー変換装置(例えば、固体単結晶半導体、固体プラスチック半導体、ポリマー半導体、無機半導体、または液体半導体)内で光子と反応して反応化学種を生成する材料、または燃料電池内(例えば触媒表面)で所望の反応を開始し得る材料である。基材906は、第2材料907とは異なる誘電率を有する。基材906に第2材料907を組み込むことにより、誘電勾配を形成することができる。
【0088】
[0062]いくつかの実施形態では、基材906と異なる材料の複数の粒子を含ませること
によって第2材料907が組み込まれる。他の実施形態では、基材906内に複数の空隙(例えば空気の泡)を含ませることによって第2材料907が組み込まれる。エネルギー交換領域903内の誘電勾配は、異なる誘電材料の粒子を含ませるか、この領域にわたって粒子の濃度を単調に変化させるか、領域903にわたって粒子のサイズを単調に変化させるか、または、これらを任意に組み合わせることによってさらに調整することができる。
【0089】
[0063]場合によっては、望まれないエネルギー交換をなくすために、励起子の移動を抑制することが重要である。例えば、日焼け止めローションでは、酸化亜鉛または酸化チタンの粒子を使用して有害な紫外光を吸収することが望ましい。これらの粒子は、かつて日焼け止めローションの構成物質として一般的なものであった。酸化亜鉛または酸化チタン(または他の材料)に紫外線光子が吸収されると、多くの場合励起子が形成されることが知られている。その後で励起子が解離すると、高エネルギー電子(励起子の一部)が周囲環境の生物分子に移動して損傷(例えば皮膚損傷)を与えることがある。
【0090】
[0064]酸化亜鉛または酸化チタンの粒子に低誘電率被膜を塗布すると、被膜の誘電率が環境(すなわち組織)の誘電率よりもかなり小さく、かつ、酸化粒子(すなわち、酸化亜鉛、酸化チタンまたはその他の紫外光を吸収する粒子もしくは構造)の誘電率よりもかなり小さいので、励起子(またはその解離した化学種)の移動を実質的に抑制またはなくすことができる。励起子および/または励起子の軌道は、周囲の酸化粒子と誘電強度が等しいかそれよりも大きい環境に向かって誘電強度がより小さい環境に入ることはない。
【0091】
[0065]図13を参照すると、勾配を付けた誘電材料で形成される誘電体領域1301を設けて光子吸収粒子1302(すなわち光子吸収領域)を囲むことによって、励起子1306が動いて、または移動して粒子1302から離れたり、周囲環境1307(すなわち、組織およびタンパク質またはその中の他の生物構造が、対応する第1移動領域および陰極である)に入ったりすることを妨げる。この例では、粒子1302は、光子吸収領域として、かつ、光子エネルギー変換セルの第2移動領域および陽極として働く。
【0092】
[0066]粒子1302よりも(かつ、周囲の組織環境よりも)誘電強度が小さく、誘電勾配が約100Å未満(例えば、60Å、50Å、40Å)である誘電体領域1301を適用すると、移動が抑制される。つまり、勾配を付けた誘電材料の長さスケールは100Å以下のオーダであり、それによって、励起子または解離化学種は粒子からの移動を抑制される。誘電体領域1301には、単一ステップで(すなわち、誘電体領域の厚さが100Å未満のオーダである)勾配を付けることもできるし、誘電体領域1301に複数ステップで(すなわち、各ステップが100Å未満)勾配を付けることもできる。
【0093】
[0067]一実施形態では、日焼け止めローションに使用する(誘電率が約14〜1400の)酸化チタン粒子に、(誘電率が約2〜3の)カルナウバ蝋層を50Åの厚さに被覆する。このようにカルナウバ蝋を塗布すると、光子反応生成化学種がチタン粒子から出たり、人体組織などの(誘電率が約75の)水性環境に入ったりすることを抑制するのに有効である。
【0094】
[0068]装置を提供することに加えて、ここで開示する技術は、エネルギー変換装置内の反応化学種の移動を改善または変化させる方法を提供することを対象とする。これらの方法は、少なくとも1つの誘電勾配領域を備えた電子変換セル装置を提供するステップを含む。この少なくとも1つの誘電勾配領域は、所望の反応化学種の移動に適した長さスケールを有する。例えば、励起子は一般に、分子から離れると解離する傾向がある。そのため、重要な長さスケールは100Å以下のオーダ(すなわち、一つの分子サイズ、小型の粒または粒子のサイズ)になる。誘電体領域を含むことによって励起子の移動が変化または
改善される実施形態では、誘電体領域の長さスケールは約100Å以下(例えば、100Å、75Å、50Å、40Å、30Å、20Å、10Å)である。この実施形態では、誘電勾配は、予想される移動の環境に対応する小さな長さスケールを有し、そのため、励起子の移動と同じサイズスケールにわたって誘電強度が著しく増加または減少する。
【0095】
[0069]別の実施形態では、励起子(すなわち、一群または一団の電子、正孔、またはイオン)よりも長い移動距離の構造を有する反応化学種の移動を改善することを対象とする方法が提供される。この方法では、励起子の移動を変化させるのに用いられる長さスケールよりも、長さスケールを大きくすることができる。サイズがより大きいことや、誘電強度がこれらの化学種に影響を及ぼすことにより、これらの化学種はより長い距離を移動することができ、そのため、誘電勾配の長さスケールを大きくすることができる。一般に、長さスケールが約10nm以上(例えば、20nm、30nm、40nm、50nm、60nm)になると、こうした比較的大きいサイズの反応化学種の移動の方向およびスピードが変化または改善される。
【0096】
[0070]上記の方法を組み合わせて適用することにより、2つ以上の誘電体領域を有する装置が製作することができる。これら2つ以上の誘電体領域は、第1誘電体領域が励起子の移動を変化させるように設計されかつ設けられるか、または、第2誘電体領域がより長い距離を移動する他の反応化学種の移動を変化させるように設計されかつ設けられる。
【0097】
[0071]上記の方法を誘電体領域の形状や組成によってさらに最適化することができる(例えば、複数の隆起部や畝部などの形状の構造が形成されるように誘電体領域を成膜することもできるし、組み込む誘電材料の組成、濃度、およびサイズを様々に変えることによって特定の勾配が形成されるように誘電体領域を成膜することもできる)。いくつかの方法では、誘電勾配を有する誘電体領域を設けて帯電した化学種の移動を支援することに加えて、電界を印加することができる。
【実施例】
【0098】
[0072]
[0073]以下の実施例は、本開示の特定の実施形態の実施および利点を示すことのみを意図しており、包括的な本開示の範囲を制限するためのものではない。
【0099】
[0074]対照用太陽電池および本開示による誘電体領域を含む太陽電池をアントシアニン系の色素増感太陽電池の構造に基づいて用意した(対照用太陽電池は典型的または一般的なアントシアニン系の色素増感太陽電池であり、本技術による電池は誘電体領域をさらに含むものであった)。太陽光を太陽電池の電極側に入射させた。炭素含有対向電極を使用した。研磨に通常使用される材料であるナノ粒子アルミナを用いて勾配を付けた誘電層を用意した。
【0100】
[0075]試験は、模擬AM1.5太陽光スペクトル下の室温で実施した。誘電体領域を含むアントシアニン系の太陽電池から収集したデータから、電流が減少しても太陽電池の電圧が増加したことがわかる。ここで、電流の減少は、不透明なナノ粒子アルミナが利用可能な光の一部を吸収したことによるものであった。表1に、勾配型太陽電池から得られたデータと、勾配層がない対照用太陽電池との比較を示す。
【0101】
【表1】
【0102】
[0076]上記の比較データは、誘電体領域により、従来の色素系太陽電池に対して電圧出力が著しく改善されることを示している。
【0103】
[0077]特定の実施形態を参照して本技術を具体的に示し説明してきたが、下記の特許請求の範囲で定義した本発明の要旨および範囲から逸脱することなく、これらの実施形態の形態および細部に様々な変更を加えることができることが当業者には理解されよう。
【技術分野】
【0001】
[0001]本出願の技術分野は、例えば光子エネルギー変換セル装置(例えば光起電力電池)または化学エネルギー変換セル(例えば燃料電池)などのエネルギー変換セル内での電子、正孔、イオン、励起子、およびラジカルな電荷もしくはエネルギーの1種または複数種の移動を改善する装置および方法に関する。本出願の技術分野は、光子エネルギー変換セル内での励起子の移動を実質的に抑制する装置および方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
[0002]エネルギー変換セル装置は一般に、光または化学反応などによるエネルギーを電力に変換するいくつかのステップを必要とする。例えば、太陽電池では、最初のステップは、電子が光子に励起されてより高くより強力なエネルギーレベルになり、エネルギーが空のレベルまたは状態が後に残る電子的なメカニズムを含む。光で励起された電子および(正孔として知られる)空エネルギー状態はともに、別々の回収部位(例えば陰極および陽極)にマイグレーションしなければならない。太陽電池装置では、電子および正孔用の別々の回収部位は負極性および正極性の接点である。これらの電子および正孔は励起子の形で一体で移動することがあり、その後、分離して回収される。
【0003】
[0003]太陽光発電の費用対効果を高くするために、可視光光子を変換して吸収したエネルギーを電気接点に移動し得る励起電荷にする安価な材料を模索する研究が盛んになっている。これまでのところ、高価な高品質シリコンに替わる可能性を秘めた安価な材料はその多くが移動性に大きな難点をもつ。このように移動性が悪いことから、こうした比較的安価の材料は光子エネルギー変換セルに応用することができない。
【0004】
[0004]高品質単結晶シリコン太陽電池では、電子および正孔は拡散係数が大きく寿命(すなわち、光子励起キャリアと正孔とが再結合するのに要する時間であり、再結合すると通常は熱が発生し電荷として回収されない)が長い。単結晶シリコンの電子移動度は100cm2/V−sよりも大きい。光生成少数キャリアの寿命は十分に長く、そのため、アモルファスシリコンでは拡散長が約0.5μmよりも短いが、単結晶シリコンでは100μmよりも長くなる。これらの拡散長は、太陽電池の接触領域を帯電させるべく光生成キャリアが移動し得る距離をほぼ反映している。
【0005】
[0005]アモルファスシリコン光起電力電池(例えば太陽電池)は通常0.2μmよりも厚いので、光生成キャリア(例えば電子、正孔、イオン、励起子、およびラジカルな電荷またはエネルギー)の多くは、回収される前に再結合することになる。この再結合の問題は、その程度を低減することができる。しかし、キャリア回収を支援するのに電界を利用すると、(開路電圧が減少するので)利用可能な光生成電力が減少してしまう。
【0006】
[0006]電界支援回収は一般に、電気的性質に勾配を付け(すなわちドーパント濃度に勾配を付け)、かつ/または強絶縁太陽電池吸収層を設けることを必要とする。アモルファスシリコン太陽電池の場合、絶縁吸収材料を支援電界と組み合わせて使用する。単結晶シリコン太陽電池では、電極の近くでドーパントに勾配を付けることが多く、それによってキャリアの回収を支援し再結合を少なくする。
【0007】
[0007]近年、低コストの固体(例えばプラスチックまたはポリマー)および/または液体を接合したタイプの太陽電池の利用が、代替エネルギー源の重要な候補として注目されている。中でも、色素増感太陽電池(液体接合太陽電池の一種)は、超低コスト材料を組み込んでいるため、特に注目されている。遺憾ながら、固体接合太陽電池および液体接合
太陽電池はいずれも、光生成電荷の移動性が悪いという難点をもつ。例えば、固体太陽電池で使用される材料をその移動度とともに以下に記す。オリゴチオフェン系材料の移動度は0.03cm2/V−s未満であり、フタロシインの移動度は0.01cm2/V−s未満、ペンタセンの移動度は0.62cm2/V−s未満、C60の移動度は0.08cm2/V−s未満、ペリレンジイミドの移動度は約1.5×10−5cm2/V−s未満である。イオン電荷は一般に水溶液中で拡散し、その拡散定数は10−5cm2/s前後であり、これは10−4cm2/V−s前後の移動度と一致する。上記の材料は、移動度がこのように小さいので、光生成電荷キャリアの移動性が悪く、そのため、利用可能な電圧のかなりの部分を回収支援に使用しなければならず、外部の発電に利用可能な電圧が減少してしまう。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
[0008]本出願に記載の技術は概ね、エネルギー変換セル(例えば、光子エネルギー変換セルや化学エネルギー変換セルなど)内での化学種の移動を変更または調整することに関するものである。一実施形態では、本技術は、光起電力電池や燃料電池などのエネルギー変換セル内での電子、正孔、イオン、励起子、およびラジカル系の電荷もしくはエネルギーの1種または複数種の移動を、光起電力電池における光子吸収体などのエネルギー交換領域から回収領域(例えば陽極または陰極)への移動を支援するようになされた(例えば勾配を付けた)誘電体領域を備えたエネルギー変換装置を設けることによって改善する(例えば増大させる)ことに関するものである。別の実施形態では、本技術は、エネルギー交換領域(例えば光子吸収領域)から回収領域への励起子の移動を実質的に抑制するように調整された(例えば勾配を付けた)誘電体領域を備えることによって、光子エネルギー変換セル内での励起子の移動を抑制することに関するものである。
【0009】
[0009]本出願の技術はまた、光学的または化学的に生成された帯電エネルギーキャリアおよび非帯電エネルギーキャリアのスピードを増大させ(いくつかの応用例では減少させ)、かつ、それらの動きの方向を制御する助けとなる非電界構造(例えば絶縁構造)に関するものである。光学的または化学的に生成されるエネルギーキャリアは、電子、正孔、イオンなどの帯電化学種ならびに励起子およびラジカル系のエネルギーまたは電荷(例えば励起用の原子および分子)を含む非帯電化学種である。誘電勾配領域などの非電界構造を利用して太陽電池の性能を改善することができ、かつ、この構造を適用して燃料電池内での化学反応のスピードまたは比率(触媒作用を及ぼす)を改善(することができる。さらに、いくつかの実施形態では、この非電界構造を利用して、励起子などの望まれない光生成化学種の動き(すなわち移動)を実質的に抑制することができる。この非電界構造は概ね、少なくとも1つの誘電率に勾配を付けた要素、誘電率を変化させた要素、または誘電率を変動させた要素(例えば、本明細書では、単一ステップ関数変化またはマルチステップ状もしくは波動状の段階的変化を含む)からなるものであり、この要素は1種または複数種の移動化学種と相互作用するものである。理論に拘泥するわけではないが、こうした誘電勾配構造は、電子、正孔、イオン、励起子、およびラジカル系の電荷もしくはエネルギーの1種または複数種の移動を変化させる(例えば、位置および極性方向に基づいて移動を促進または抑制する)と考えられる。
【0010】
[0010]一態様では、本技術は概ね、移動が改善されたエネルギー変換装置に関するものである。このエネルギー変換装置は、陰極と、第1移動領域と、エネルギー交換領域と、誘電体領域と、第2移動領域と、陽極とを備え、誘電体領域は、陽極または陰極の一方への移動方向に沿って誘電率勾配値が得られるように調整され、それによって、電子、正孔、イオン、励起子、およびラジカル系の電荷もしくはエネルギーの1種または複数種の移動が改善する。いくつかの実施形態では、このエネルギー変換装置は光子エネルギー変換装置であり、そのため、エネルギー交換領域が光子吸収領域であり、そこでは、光子に応
答して電子、正孔、励起子、イオン、またはラジカル系のエネルギーもしくは電荷などの光生成化学種を生成する材料によって光子が受け入れられる。他の実施形態では、このエネルギー変換装置は燃料電池などの化学エネルギー変換装置であり、移動対象の化学種(例えば、電子、正孔、励起子、イオン、またはラジカル系のエネルギーもしくは電荷)が生成されるエネルギー交換領域で化学反応が生じる。
【0011】
[0011]本技術の上記態様の実施形態は、以下の特徴の1つまたは複数を含む。いくつかの実施形態では、エネルギー交換領域は、第1移動領域の少なくとも一部の中に配置される。誘電体領域は、エネルギー交換領域と第2移動領域の界面に配置することができる。いくつかの実施形態では、誘電体領域は、移動方向に沿って誘電率勾配値が得られる形状の構造を有する。つまり、いくつかの実施形態では、誘電体領域は、例えば複数の隆起部または畝部などの誘電材料成膜構造で形成される。この構造の形状により、誘電体領域内で誘電率に勾配が付けられる。いくつかの実施形態では、誘電体領域は、例えば水などの基材内に配置された1種または複数種の誘電材料の複数の粒子を含む。誘電勾配をさらに調整するために、いくつかの実施形態では、誘電体領域にわたって複数の粒子の濃度を単調に変化させる。いくつかの実施形態では、基材内に配置された複数の粒子のサイズを変化させることによって、誘電勾配を調整する。いくつかの実施形態では、誘電体領域は、誘電率に勾配が付けられるように組成を変化させた誘電材料の層である。本態様によるエネルギー変換セルは、光起電力電池、特に固体または液体接合型の太陽電池などの光子エネルギー変換セルとし得る。この光起電力電池の実施形態の一部はさらに、光子吸収を増大させるためのスペクトル改変領域を含む。このスペクトル改変領域は、第1屈折率を有する複合膜と、第1屈折率と異なる第2屈折率を有する基材とを含む。スペクトル改変領域の複合膜は、基材上に配置され、発光材料およびミクロンサイズのシリコン粒子を含む。他の実施形態では、本技術によるエネルギー変換セルは、燃料電池などの化学エネルギー変換セルである。本実施形態では、電子、イオン、励起子、およびラジカル系の電荷もしくはエネルギーなどの反応化学種の1種または複数種が第1移動領域を介して陰極に向かって移動し、これらの反応化学種は陰極での反応において触媒として働く。いくつかの実施形態では、誘電体領域は、単一の反応化学種の移動に影響を及ぼすように、小さな長さスケールにわたって誘電勾配が設けられるように調整される。例えば、いくつかの実施形態では、誘電体領域は、上記移動方向に約100Å以下(例えば、50Å、40Å、30Å、20Å)の長さスケールを有する。いくつかの実施形態では、誘電体領域は、上記移動方向に約10nm以上(例えば、20nm、40nm、50nm、100nm、200nm)の長さスケールを有し、そのため、より大きな反応化学種または反応化学種群の移動がより大きな長さスケールにわたって影響を受ける。いくつかの実施形態は、2つ以上の誘電体領域を含むことを特徴とし、第1誘電体領域は約100Å以下の長さスケールを有し、第2誘電体領域は10nm以上の長さスケールを有する。いくつかの実施形態は、第1移動領域および第2移動領域の少なくとも一方にわたって電界を印加する装置を備えることを特徴とする。
【0012】
[0012]別の態様では、本技術は、移動が改善されたエネルギー変換装置に関するものである。このエネルギー変換装置は、陰極と、第1移動領域と、第1誘電率を有する基材および第1誘電率よりも小さい第2誘電率を有する第2材料であって基材内に分散されて誘電勾配複合領域を形成する第2材料を含むエネルギー交換領域と、第2移動領域と、陽極とを備える。
【0013】
[0013]本技術の上記態様の実施形態は、以下の特徴の1つまたは複数を含む。いくつかの実施形態では、エネルギー交換領域は、第1移動領域の少なくとも一部の中に配置される。エネルギー交換領域は、基材内に分散される第2材料として複数の粒子または空隙を含み得る。エネルギー交換領域内の誘電勾配をさらに調整するために、いくつかの実施形態では、その全体にわたって複数の粒子または空隙の濃度を単調に変化させる。いくつか
の実施形態では、エネルギー交換領域にわたって複数の粒子または空隙のサイズを変化させることによって誘電勾配を調整する。基材は、プラスチック半導体、ポリマー半導体、または無機半導体から選択することができる。本態様によるエネルギー変換セルは、光起電力電池、特に固体または液体接合型の太陽電池などの光子エネルギー変換セルとし得る。この光起電力電池の実施形態の一部は、光子吸収を増大させるためのスペクトル改変領域をさらに備える。このスペクトル改変領域は、第1屈折率を有する複合膜と、第1屈折率と異なる第2屈折率を有する基材とを含む。スペクトル改変領域の複合膜は、基材上に配置され、発光材料およびミクロンサイズのシリコン粒子を含む。他の実施形態では、本技術によるエネルギー変換セルは、燃料電池などの化学エネルギー変換セルである。本実施形態では、電子、イオン、励起子、およびラジカル系の電荷またはエネルギーなどの反応化学種の1種または複数種が第1移動領域を介して陰極に向かって移動し、これらの反応化学種は陰極での反応において触媒として働く。いくつかの実施形態では、誘電体領域は、単一の反応化学種の移動に影響を及ぼすように、小さな長さスケールにわたって誘電勾配が設けられるように調整される。例えば、いくつかの実施形態では、誘電体領域は、上記移動方向に約100Å以下(例えば、50Å、40Å、30Å、20Å)の長さスケールを有する。いくつかの実施形態では、誘電体領域は、上記移動方向に約10nm以上(例えば、20nm、40nm、50nm、100nm、200nm)の長さスケールを有し、そのため、より大きな反応化学種または反応化学種群の移動がより大きな長さスケールにわたって影響を受ける。いくつかの実施形態は、2つ以上の誘電体領域を含むことを特徴とし、第1誘電体領域は約100Å以下の長さスケールを有し、第2誘電体領域は10nm以上の長さスケールを有する。いくつかの実施形態は、第1移動領域および第2移動領域の少なくとも一方にわたって電界を印加する装置を備えることを特徴とする。
【0014】
[0014]さらなる態様では、本技術は、励起子の移動が実質的に抑制された光子エネルギー変換装置に関するものである。いくつかの応用例では、励起子が生成される領域からの励起子の移動が望まれない(すなわち、励起子は、その大きなサイズと反応状態のために、ある種の材料に悪影響を及ぼすことがある)。こうした応用例では、光子エネルギー変換装置は、陰極と、第1移動領域と、光子吸収領域と、誘電体領域と、第2移動領域と、陽極とを備え、誘電体領域は、陽極または陰極の一方への移動方向に沿って誘電率勾配値が得られるように調整され、それによって励起子の移動が抑制される。別の実施形態では、この光子エネルギー変換装置は、陰極と、第1移動領域と、第1誘電率を有する基材および第1誘電率よりも小さい第2誘電率を有する第2材料であって基材内に分散されて誘電勾配複合領域を形成する第2材料を含む光子吸収領域と、第2移動領域と、陽極とを備える。
【0015】
[0015]別の態様では、本技術は、エネルギー変換セル(例えば、エネルギー変換装置)内での移動を改善する方法を対象とする。この方法は、エネルギー変換装置の陽極と陰極の間に少なくとも1つの誘電勾配領域を設けるステップを含み、この少なくとも1つの誘電勾配領域は、所望の帯電した化学種の移動方向に沿って約10nm以上の長さスケールを有する。
【0016】
[0016]本技術の上記態様の実施形態は、以下の特徴の1つまたは複数を含む。いくつかの実施形態では、この方法は、エネルギー変換装置に電界を印加するステップをさらに含む。この方法によって得られる誘電体領域は複数の粒子を含むことができ、誘電勾配領域にわたって粒子の濃度またはサイズを所望の帯電した化学種の移動方向に沿って変化させる。いくつかの実施形態では、誘電体領域は、所望の帯電した化学種の移動方向に沿って約10nm以上の長さスケールが得られる構造を形成するように成膜される。いくつかの実施形態は、第2誘電勾配領域を設ける追加のステップを含むことを特徴とする。
【0017】
[0017]さらなる態様では、本技術は、エネルギー変換装置内での励起子の移動を変化さ
せる方法に関するものである。この方法は、エネルギー変換装置の陽極と陰極の間に少なくとも1つの誘電勾配領域を設けるステップを含み、この少なくとも1つの誘電勾配領域は、所望の励起子の移動方向に沿って約100Å以下の長さスケールを有する。
【0018】
[0018]本技術の上記態様の実施形態は、以下の特徴の1つまたは複数を含む。いくつかの実施形態では、この方法によって設けられる誘電勾配領域は複数の粒子を含み、この誘電勾配領域にわたって粒子の濃度またはサイズを所望の励起子の移動方向に沿って変化させる。いくつかの実施形態では、この誘電勾配領域は、所望の励起子の移動方向に沿って100Å以下の長さスケールが得られる構造を形成するように成膜される。この誘電勾配領域は、励起子の移動を改善するように勾配を付けることができる。他の方法では、この誘電勾配領域は、励起子の移動を実質的に抑制するように勾配を付けることができる。実施形態は、エネルギー変換セル装置に第2誘電勾配領域を設けるステップをさらに含むことも特徴とし得る。
【0019】
[0019]本出願の技術による変換セル、変換装置、および方法により多くの利点が得られる。1つの利点によれば、非電界構造(例えば誘電勾配領域)により化学種の移動(速度および方向)が変化し、それを利用してエネルギー変換セルまたはエネルギー変換装置の所望の性能を実現する(例えば、化学種の移動速度を改善したり、化学種の移動を抑制したりする)ことができる。本技術の別の利点によれば、固体または液体接合型の太陽電池、特に低コストの色素増感太陽電池の光起電力性能が改善される。
【0020】
[0020]上記の実施形態、利点、および特徴は、以下の説明および図面を参照することによってよりよく理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0021】
[0021]図面では、同様の参照記号は全図面を通じて概ね同じ部品を指す。また、図面は必ずしも互いに同じスケールで描かれておらず、本開示の原理を示すために強調されている。
【図1】本技術の実施形態によるエネルギー変換セルの実施形態を示す断面図である。
【図2】エネルギー変換セルの別の実施形態を示す断面図である。
【図3】エネルギー変換セルの一部を示す拡大断面図である。
【図4】図1のエネルギー変換セル内の誘電体領域の実施形態を示す断面図である。
【図5】エネルギー変換セル内で使用する誘電体領域の別の実施形態を示す断面図である。
【図6】エネルギー変換セル内で使用する誘電体領域の別の実施形態を示す断面図である。
【図7】エネルギー変換セル内で使用する誘電体領域の別の実施形態を示す断面図である。
【図8】光子エネルギー変換セル内で使用するスペクトル改変領域を示す断面図である。
【図9】電界勾配および誘電勾配の影響下の神経細胞のイオン電流のグラフである。
【図10】電界装置をさらに備えた図1のエネルギー変換セルを示す断面図である。
【図11】エネルギー変換セルの別の実施形態を示す断面図である。
【図12】勾配を付けた誘電体領域内の反応生成化学種を示す断面図である。
【図13】励起子の移動を実質的に抑制する誘電体領域を備えた光子エネルギー変換セルの実施形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[0022]エネルギー変換セル装置の有効性は一般に、エネルギー交換により生成された(
すなわち、反応により生成された、例えば光により生成されたまたは化学反応により生成された)化学種の回収・反応可能領域(例えば陽極、陰極)への移動性によって制限される。これまで、拡散プロセスおよび/または電界駆動プロセスを利用して、エネルギー交換生成化学種(すなわち反応生成化学種)を陽極または陰極に移動させて発電を行ってきた。本出願の技術は、反応生成化学種(例えば、電子、正孔、イオン、励起子、およびラジカル系の電荷またはエネルギー)の動きに非電界・非拡散プロセスを利用することを対象とする。
【0023】
[0023]本明細書に記載の技術は、光起電力電池および燃料電池の効率およびその中での移動の改善のみならず、これらの変換セルに使用する比較的低コストすなわち安価な材料の組込みにも適用することができる。例えば、本技術の実施形態によってもたらされる大移動度での移動を実現することにより、高価な単結晶シリコンまたはその他の単結晶半導体の代わりに液体色素などの低コスト光子吸収材料を光起電力電池で効果的に使用することができる。
【0024】
[0024]以下、図面を参照する。図1に、本技術によるエネルギー変換セル10の実施形態を示す。エネルギー変換セル10は、陰極11、第1移動領域12、エネルギー交換領域13、誘電体領域14、第2移動領域15、および陽極16を備える。エネルギー変換セル10は、エネルギー交換領域13において開始される反応によって動作する。例えば、光子エネルギー変換セルでは、エネルギー交換領域13内の材料によって光子が吸収される。吸収された光子は、エネルギー交換領域13内の材料に十分なエネルギーを供給するので、低エネルギー価電子帯内の電子がより高いエネルギー状態に励起される。次いで、この反応によって生成される電子および正孔は、第1移動領域12および第2移動領域15の一方を介して陰極11または陽極16に向かって別々に移動する。
【0025】
[0025]セル10の陰極11および陽極16は、例えばガラス板、透明ポリマーシート、または金属ケースなどの保護カバーの間に挟むことができる。陰極11および陽極16は反応生成化学種の回収領域である。つまり、陰極11は、負に帯電した化学種または特定のタイプのラジカル系エネルギーを引きつけ受け入れるように調整された領域であり、陽極16は、正に帯電した化学種またはその他のラジカル系エネルギーを引きつけ受け入れるように調整された領域である。反応生成化学種(例えば、電子、正孔、励起子、イオン、ラジカル系の電荷またはエネルギー)はそれぞれ陽極16または陰極11に向かって移動し、陽極16または陰極11に到達した後は、(a)陽極または陰極内に集まり電気回路で利用されるか、(b)陽極または陰極内での反応の触媒として働き、それによって発電が行われる。
【0026】
[0026]誘電体領域14は、エネルギー交換領域13から陽極11または陰極16に向かう反応生成化学種の移動を支援するようにセル10内に配置される。本実施形態では、誘電体領域14は、エネルギー交換領域13と第2移動領域15の界面に配置される。誘電体領域14は、陽極または陰極の一方への移動方向に沿って誘電率勾配値が得られるように調整された材料を含む。いくつかの実施形態では、この誘電体領域の材料には、電子、正孔、イオン、励起子、およびラジカル系の電荷もしくはエネルギーの1種または複数種の移動を改善するように勾配が付けられている。このような勾配は、単一のステップ関数を用いて誘電率の値に明瞭な段差すなわち変化を設けることによって実現し得る。あるいは、いくつかの実施形態では、複数のステップもしくは波動関数またはその他の連続関数を用いて誘電体領域14全体にわたって反応生成化学種の移動方向に沿って誘電率の値を段階的または連続的に変化させることによって段階的に勾配を実現してもよい。例えば、第1移動領域12を介して陰極11に向かう電子の移動速度を改善すなわち増加させるために、誘電率に勾配を付けてその値を誘電体領域14を介して陰極11に向かう方向に増加させる。
【0027】
[0027]先に論じたように、ある種の太陽電池における反応化学種の移動は、その太陽電池を広く一般に普及させるには劣っており、かなり不十分である。具体的には、導電性プラスチック内での移動度は通常10−5cm2/v−sのオーダである。液体における拡散度は通常10−5cm2/sのオーダであり、これは、(アインシュタインの相対移動度=
【0028】
【数1】
【0029】
によって)移動度に換算すると〜4×10−4cm2/V−s前後になることを示唆する。上記の値は、結晶シリコンの移動度(>100cm2/V−s)やアモルファスシリコンの移動度(〜1cm2/V−s)と比較すると比較的劣っている。これらの値の影響を推定するために、〜17mA/cm−2(変換効率が〜10%の妥当な品質のアモルファスシリコン太陽電池の電流)の電流Jscを得るのに必要とされる電圧Vを考える。Jscは
【0030】
【数2】
【0031】
で表される。式中、Nは光生成化学種の密度(ここでは1018cm−2とする)であり、dは電荷が移動しなければならない領域の厚さで、ここでは0.5μmとする。こうすると、移動度を5×10−5cm−2/V−sとした場合に必要とされる電流を得るには、電圧は0.1Vとなる。したがって、典型的な色素系および/または有機材料系の太陽電池の電圧は〜0.5Vに過ぎず、かつ、移動に必要とされるエネルギーも観測される外部電力に寄与し得ないので、約20%の電力が移動で失われる。
【0032】
[0028]移動速度を改善するために、本出願の技術では誘電勾配を適用することに注目する。理論に拘泥するわけではないが、エネルギー変換セルにおいて誘電勾配を適用することにより反応生成化学種が移動すると考えられる。具体的には、誘電勾配は、反応生成化学種の移動の方向およびスピードに影響を及ぼすと考えられる。
【0033】
[0029]分極の程度は、誘電率εおよび自由空間の誘電率ε0として知られる材料の特性によって記述される。これらは、静電気力および静電エネルギーの基本量である。力ベクトルFおよびエネルギーEは次式で与えられる。
【0034】
【数3】
【0035】
式中、q1およびq2は相互作用する2つの電荷であり、rはこれら2つの電荷を隔てる距離、r’はこれら2つの電荷間の方向を記述する単位ベクトルである。
【0036】
[0030]単一の電荷(例えば電子的な電荷すなわちイオン)が存在する場合、周囲の媒質の分極に関わるエネルギーはかなりの量になる。いかなる場合でも、(例えば近傍の電荷からの)電界が存在する空間の所与の領域では、分極媒質で満たされるとエネルギーが減少し得る。イオンと電荷が分極により周囲媒質と相互作用することが知られており、この分極が、次式で与えられるイオン電界エネルギーWを減少させる。
【0037】
【数4】
【0038】
式中、ε0は自由空間の誘電率であり、ε1は問題にしている媒質の誘電率である。問題にしている領域外の点状の電荷またはイオンによる電界は、この領域が極性媒質または自由空間で満たされる場合には、それぞれ
【0039】
【数5】
【0040】
または
【0041】
【数6】
【0042】
で与えられる。したがって、誘電率の勾配により、変位xについて式3の導関数によって定義されるエネルギー勾配(すなわち力)は次式で与えられる。
【0043】
【数7】
【0044】
[0031]ε0>>ε1であり、かつ、唯一の電界が点状の電荷および/またはイオンによる電界であり、それが問題にしているイオンから外向きに放射される場合、式4は以下のように記述される。
【0045】
【数8】
【0046】
式中、aは最小半径(イオンの最小半径)であり、rは隣のイオンに至る前の途中の距離とみなし得る。式5から、誘電率
【0047】
【数9】
【0048】
勾配により力が生じることがわかる。
【0049】
[0032]その結果、(例えば媒質の変動による)誘電率勾配により、太陽電池やその他の装置およびプロセスにおける移動支援として利用し得る推進力が電荷およびイオンに与え
られる。
【0050】
[0033]帯電した要素と同様、中性の要素も誘電率勾配から推進力を受けることがある。結合した電子と正孔である励起子も、中性ではあるが、誘電勾配から推進力を受けることに特に留意されたい。まず、励起子のエネルギーを既知の形式で記述すると以下のようになる。
【0051】
【数10】
【0052】
式中、Mrは電子正孔対の減少した質量であり、mは電子のもつ残りの質量、EHは水素原子のエネルギーで〜13.6eV、nはエネルギーレベル指数でn=1,2,3...である。誘電勾配によって誘起されるエネルギーの変化を調べると次のようになる。
【0053】
【数11】
【0054】
[0034]上記のことから、色素分子内(または他の分子系内、ならびに/または分子間、ならびに/または固体および/もしくは第2の分子系および/もしくは液体および/もしくは気体への界面)での移動は、局所的な誘電勾配によって著しく影響を受け得ることがわかる。式7による移動方向はエネルギーが減少する方向であり、したがって、誘電率が増加する方向である。この誘電力は、誘電率の3乗に反比例し、かつ、誘電率勾配に比例する。そのため、この力は、開始点で誘電率が小さいステップ勾配のとき最大になる。
【0055】
[0035]励起子の軌道半径も重要な因子である。軌道が大きくなると、(例えば太陽電池の実施形態では)電子の界面への移動確率、または(クロロフィルを使用する光子エネルギー変換セルの場合のように)原子反応物もしくは分子反応物への移動確率が大きくなる。重要なのは、誘電率が大きくなると励起子の軌道が大きくなることである。したがって、励起子は誘電勾配によって高誘電領域に向かって引き寄せられるだけでなく、誘電勾配が進むにつれ移動(または反応)の確率も増大する。誘電率とボーアの公称励起子軌道半径rBとの関係は次式で与えられる。
【0056】
【数12】
【0057】
式中、m*は減少した質量である。励起子の軌道半径は大きな値(例えば42Å)になることがあり、誘電率が大きくなると直線的に大きくなることに留意されたい。
【0058】
[0036]色素やその他の分子内の励起子も、古典的な水素様の状態になることとならないことがあるが、クーロン引力で結合した電子−正孔対様の状態になることのほうが多く、ただしこの場合、互いに古典的な軌道に従わないことがある。この場合、励起子は分子の領域付近へマイグレーションする。そのときのスピードは、この対の最も遅い電荷化学種のスピードである。いずれの場合にも、環境的な誘電勾配を確立し、改変した色素(または他の光吸収構造)を使用して誘電勾配を設けると、移動および/または太陽電池の性能に有利に働く。
【0059】
[0037]分子は独特の形状を有し、多くの場合、線形であるので、電子と正孔の間に作用する力が分子の境界の外側の領域を横切る場合が多く、それによって、環境および環境的な誘電率が、クーロン引力に、したがって帯電した対における化学種間の距離に影響を及ぼす。
【0060】
[0038]上記で論じた理論からわかるように、エネルギー変換セル内で使用する誘電勾配領域により、この領域を通過する反応生成化学種の移動方向および移動速度が変化する。本技術の実施形態では、エネルギー変換セル内に1つまたは複数の誘電勾配領域を組み込むか、または設けることによって、化学種の移動の効率を改善することができる。そのため、エネルギー変換セル10の(図1に示す)エネルギー交換領域13に比較的低コストの材料を用いることができ、それによって、いくつかの応用例(例えば光子エネルギー変換)の商業的な実現可能性がより大きくなる。別の実施形態では、光子エネルギー変換セルに組み込んだ誘電勾配領域では、励起子の移動方向に沿って誘電勾配を小さくするので、励起子の移動を遅くすることができ、それによって、励起子−材料の相互作用の不要なまたは望まれない結果を有効に阻止することができる。
【0061】
[0039]図1に示すエネルギー変換セル10に誘電体領域14を組み込むことによって、比較的低コストの材料を用いてエネルギーを生成することができ、そのため、代替エネルギーの商業的な実現可能性がより大きくなる。例えば、誘電体領域14を色素増感太陽電池で使用することができる。この実施形態では、エネルギー交換領域13(光子吸収領域)はアントシアニン系色素などの液体色素を含み得る。色素によって吸収される光子が色素材料を励起し、その結果、励起子(電子−正孔対)が生成される。交換領域13に隣接して配置される誘電体領域14は、誘電的勾配複合体で形成される。この実施形態では、誘電体領域は、内部に複数のガラス粒子が入った水基材からなる。ガラス粒子の濃度は、誘電率に勾配が付けられて誘電体領域14から陰極11に向かって延びる方向に誘電率が徐々に増加するように誘電体領域にわたって単調に変化させる。誘電率に勾配が付けられた誘電体領域14により、エネルギー交換領域13から離れて(本実施形態ではTiO2粒子で形成される)第1移動領域12に入り陰極11に向かう電子の移動を支援する推進力が生じる。光子反応において後に残った正孔は、(本実施形態ではヨウ素複合体含有電解質で形成される)第2移動領域15からの電子で埋められることになる。そのため、この正孔は、第2移動領域15を介して陽極16に向かって移動する。
【0062】
[0040]エネルギー変換セル10の誘電体領域14は、他のタイプの太陽電池と組み合わせて使用することもできる。例えば、エネルギー交換領域は、例えば半導体性の固体または液体などの別のタイプの光子吸収材料で形成してもよい。こうした半導体性の固体または液体は、約0.5eV〜約3eVの禁止帯幅を有する。半導体性の固体のいくつかの例には、シリコン、ゲルマニウムなどの元素材料、Si−Geなどの合金、オリゴチオフェン系、フタロシイン系、およびペンタセン系の材料などのポリマー、ならびにクロロフィルなどの有機材料があるが、これらに限定されるものではない。
【0063】
[0041]さらに、誘電体領域は、燃料電池などの化学エネルギー変換セルと組み合わせて使用することもできる。このような実施形態の1つでは、誘電体領域14は、それぞれ導電ポリマー膜で形成され、内部に複数のTiO2粒子が分散した第1移動領域12および第2移動領域15内に配置される。これらのTiO2粒子により、ポリマー膜には誘電勾配機能が付与される(すなわち、誘電勾配が得られるようにTiO2粒子を組み込むことができる)。陰極11、エネルギー交換領域13、および陽極16はそれぞれ、プラチナなどの触媒表面で形成される。
【0064】
[0042]上記の燃料電池の実施形態では、陽極が、例えば水素などの反応物燃料から電子を分離する。これらの電子は移動領域12、15を通過することができずに集められ、外
部表面を通過させられる。イオン(または水素燃料電池の実施形態では陽子)は、誘電体TiO2粒子を含む第2移動領域15を通過する。これらのTiO2粒子は移動方向に沿って誘電強度が大きくなるように勾配が付けられており、そのため移動速度が大きくなっている。陽子は第2移動領域15を介して移動し、エネルギー交換領域13/陰極11に至り、そこで、陽子は別の触媒表面に当たる。ここで、外部回路から戻された電子は、燃料(例えば水素)および酸化剤(例えば酸素)と混合され水が形成される。外部回路を移動する電子から電力が得られる。
【0065】
[0043]燃料電池のいくつかの実施形態では、1つ(または複数)の誘電体領域は、移動領域と組み合わされる代わりに、またはそれに加えて、陽極上および陰極上の層または被膜として配置され、それによって、電子交換領域で支援が行われる。これらの誘電体被膜は一般に(例えば50よりも大きい)高誘電率を有する。
【0066】
[0044]図1では、エネルギー変換セルに誘電体領域14を組み込んだ実施形態を示したが、他の実施形態も可能である。例えば、エネルギー交換領域13(すなわち、セル内で反応が開始する領域、例えば太陽電池内の光子吸収領域または燃料電池内の初期化学反応領域)は、図1の実施形態で示すように移動領域から離す必要はない。そうではなく、図2に示すエネルギー変換セル100の第1移動領域102にまたはその一部にエネルギー交換領域103を組み込む(すなわち第1移動領域102またはその一部全体にわたって分散させる)ことができる。その代わりに、またはそれに加えて、第2移動領域105またはその一部にエネルギー交換領域103を組み込むことができる。
【0067】
[0045]いくつかの実施形態では、領域の構造の形で誘電勾配を含むように誘電体領域14を形成することができる。例えば、図3に示すように、成膜中に誘電体領域304を形成する。ここで、誘電体領域304は、変換セル10の一部においてエネルギー交換領域13と第2移動領域15の界面に沿って複数の(図示の)隆起部または(図示しない)畝部を含む構造が得られるように形成する。誘電材料で形成されたこれら複数の隆起部または畝部により、この領域の幅にわたって含まれる誘電材料の量が変化し、それによって、誘電体領域304内で化学種が移動する方向に沿って誘電率に勾配が付けられる。この構造は、リソグラフィもしくはパターンニング、押出し加工、またはその他の成膜プロセスを利用して形成することができる。
【0068】
[0046]いくつかの実施形態では、誘電体領域14の組成または構成を変化させて誘電勾配を形成する。例えば、図4に、誘電体領域14が基材402内に複数の粒子403を含むエネルギー変換セルの実施形態を示す。粒子403および基材402はそれぞれ異なる誘電率を有し、その結果、誘電体領域14内の位置に応じて誘電率が変化する。さらに、複数の粒子403は、それぞれ異なる材料の粒子とすることができる。例えば、粒子403の組成は、誘電体領域14にわたって変化させることができる。図4に示すように、誘電体領域14の第1区域は誘電率εaを有する材料で形成された粒子403aを含み、第2区域は誘電率εbを有する材料で形成された粒子403bを含み、第3区域は誘電率εcを有する材料で形成された粒子403cを含み、第4区域は誘電率εdを有する材料で形成された粒子403dを含む。εa<εb<εc<εdとなるように粒子403a、403b、403c、および403dの誘電材料を選択することによって、誘電体領域14が所望の誘電勾配をもつように(例えば、誘電体領域14の第1区域から第4区域への方向に誘電率が増加するように)調整することができる。
【0069】
[0047]誘電体領域14内のこれら複数の粒子は、その濃度を誘電体領域にわたって単調に変化させ、それによって誘電勾配を形成することもできる。例えば、図5に、基材502にわたって誘電体粒子503の濃度(すなわち単位体積当たりの数)を変化させて勾配を設ける実施形態を示す。この例では、誘電体領域501の上部505から誘電体領域5
01の底部506に向かって誘電率が増加する。
【0070】
[0048]別の実施形態では、複数の粒子のサイズを単調に変化させて誘電勾配を形成することができる。例えば、図6に、誘電体領域601の上部605から誘電体領域の底部606に向かって粒子のサイズが増加する実施形態を示す。その結果、上部605から底部606まで、粒子に含まれる誘電材料の量が単位体積当たり増加し、それによって勾配が得られる。
【0071】
[0049]誘電体領域14は、勾配を付けた材料層(例えば、図7に示すように、誘電体領域701内の第1箇所702aから箇所702bおよび702cを通り、例えば最終箇所702dまで誘電率の値が変化する誘電材料層)、勾配が得られるように形成された誘電材料の構造を含む領域(例えば、図3に示す複数の隆起部または畝部)、または基材もしくは組み込まれる材料(例えば、図4〜6に示す複数の粒子)の濃度を単調に変化させた複合材料として形成することができる。他の実施形態も可能である。誘電材料は、少なくとも約1の誘電率を有する任意のタイプの材料(例えば固体、液体、気体)で形成することができる。誘電材料のいくつかの例には、水、空気、蝋、ガラス、セラミックが含まれる。特に、水基材に入れたガラスビーズ粒子を使用して誘電体領域14を形成することができる。
【0072】
[0050]反応生成化学種は誘電勾配の長さスケールにしたがって移動する。長さスケールが小さい(例えば、100Å未満であり典型的には約10〜50Åの範囲)と、個々の分子または個々の材料粒の中での移動が起こる。このサイズスケールで影響を及ぼす誘電勾配の場合、誘電体構造はこれに類似のサイズスケールを有するべきである(すなわち、十分に小さく、かつ、約10〜50Åにわたって誘電強度の増加または減少が顕著になる程度に勾配ステップを十分に小さくする)。
【0073】
[0051]図12に、分子スケールの誘電勾配を形成したところを示す。この誘電勾配は、残りの環境部分と異なる誘電強度を有する小さなサイズの構造またはステップを追加することにより形成することができる。例えば、誘電材料1202で形成された誘電体領域1201において、誘電体領域の底部1204と上部1203の間の誘電強度または誘電率に、ある長さスケールで勾配を付け(すなわちステップ状にして)、それによって、分子1205内の単一の反応生成化学種1206に影響を及ぼすことができる。具体的には、分子1205と同じまたは類似のサイズスケールで誘電強度が変化するように誘電材料1202に勾配を付けると、この誘電勾配により、化学種の移動は著しい影響を受けることになる。そのため、この場合には、約5〜50Åの分子サイズに対して、誘電勾配のステップサイズまたは長さスケールを約10〜100Å(例えば、10〜50Å、20〜40Å)にする。
【0074】
[0052]上記のように長さスケールが小さいと、単一のまたは限られた数の反応生成化学種の移動を変化させるのに有効である。励起子の移動を変化させることも有用である。なぜならば、励起子は分子または単一の材料粒から離れたときに解離すると考えられるからである。しかし、誘電勾配の長さスケールは、一群または一団の反応生成化学種の移動に影響を及ぼす程度に大きな長さスケールまで大きくしてもよい。この場合、これら反応生成化学種の組合せサイズスケールは、単一ユニットのものとみなせる。つまり、多数の化学種が、周囲の環境における類似のサイズの誘電勾配によって一緒に移動することになる。そのため、一団または一群の反応生成化学種の移動に著しい影響を及ぼすには、誘電勾配の長さスケールを約10nm(例えば20nm、30nm、40nm、50nm、100nm、200nm)のオーダとする。
【0075】
[0053]エネルギー変換セルの応用例によっては、2つ以上の誘電体領域を備えたセルを
提供すると有利なことがある。例えば、変換セル10内でエネルギー交換領域13と第2移動領域15の間に誘電体領域14を1つだけ配置するのではなく、2つの誘電体領域を設けることができる。具体的には、エネルギー交換領域13と第2移動領域15の間に配置した第1誘電体領域に、エネルギー交換領域13と第1移動領域12の間に配置した第2誘電体領域をさらに追加することができる。可能な別の実施形態では、100Å未満の長さスケールで誘電勾配を有する第1誘電体領域も、10nm以上の長さスケールで誘電勾配を有する第2誘電体領域とともに単一のエネルギー変換セル内に設ける。誘電体領域を設ける場所を変えたり、誘電体領域の数を他の値にしたりすることも可能である。
【0076】
[0054]効率および移動をさらに支援するために、追加の要素または任意選択の要素を導入して発電を強化してもよい。例えば、光子エネルギー変換セルの場合、セル10の1つまたは複数の領域にスペクトル改変領域を組み込んでもよい。スペクトル改変領域は、光子エネルギー変換セルの一領域または一区域であって、その内部の材料が未使用の長波長光を使用可能な短波長光に変換して著しく性能を向上させ発電を実現する領域である。スペクトル改変領域の例が、「Solar Cell(太陽電池)」という名称の米国特許出願第12/175,208号に記載されており、US20090050201号として公開されている。ここにこの開示全体を参照により本明細書に組み込む。図8に示す一実施形態では、スペクトル改変領域801は、基材または基板材料802と、基材802上に配置された複合膜803とを含む。複合膜803は、1種または複数種の発光材料(例えば、イットリウム、エルビウム、レニウム、およびハフニウム)および複数のミクロンサイズのシリコン粒子804で形成される。この基材には任意の光透過性材料すなわち光に対して透明な材料を選択し得るが、基材802と複合膜803がそれぞれ異なる屈折率をもつように材料の組合せを選択しなければならない。基材802と複合膜803の屈折率に差があると、長波長光から短波長光への変換を、エネルギー交換領域13に対してより有用にする助けになる。光子エネルギー変換セル装置に入射する光のより多くの部分を、エネルギー交換領域13による光子吸収により貢献する波長に変換することによって、反応化学種の移動性を高めることができる。スペクトル改変領域801は、光起電力電池のいずれの場所にも配置し得る。特に、いくつかの実施形態では、図1に示す陰極11または陽極12の外側のガラスシートまたはその他の保護ケース内にスペクトル改変層を配置する。他の実施形態では、陰極11とエネルギー交換領域13の間にスペクトル改変層を配置する。
【0077】
[0055]いくつかの実施形態では、エネルギー変換セル10に電界を印加して効率を高める装置を特に設けてもよい。電荷(例えば電子および正孔)およびイオンの場合には、電界勾配(電位勾配)および誘電率勾配が同時に作用する状況を作り出すことが可能である。2つの場を同時に用いて移動させると、電界のみによる移動よりもはるかに高速になり得る。
【0078】
[0056]遺憾ながら、電位勾配と誘電勾配の組合せは、励起子の移動には適用できない。励起子は、電荷やイオンと異なり帯電しないため、電界勾配では励起子に推進力が働かない。
【0079】
[0057]電界勾配と誘電率勾配を組み合わせると、エネルギー変換セル内で電荷の形状が改善され、かつ、イオンが移動すると考えられる。以下、このことをより詳細に説明する。
【0080】
[0058]電界および第2のエネルギーのタイプの場∇Φの存在下での帯電したキャリアの移動度は次式で与えられる。
【0081】
【数13】
【0082】
式中、npは問題にしているイオンまたは電荷のキャリアの密度である。式から明らかなように、第2のエネルギーのタイプでの濃度勾配およびkTと濃度npの勾配との積の和が小さい場合、移動度が大きくなり、それによって電荷の流れが著しく増加する。図9に、神経細胞における電流の計算値のグラフを示す。印加電圧(または対応するイオン濃度勾配、両者はネルストの式によって関係付けられるため)が特定の値、この場合〜0.1Vになると、移動が極めて高速になるとともにコンダクタンスが大きくなり、その結果、抵抗が小さくなることに留意されたい。電荷を移動させるのに必要とされる印加電圧が極めて小さくなるのは、その印加電圧(または印加濃度勾配)により対応するエネルギー勾配KT∇ln(np)が生じ、この勾配が式9の分母の他の項、すなわち第2のエネルギーの勾配の項と相殺する場合である。
【0083】
[0059]この非電界勾配と式4の静電エネルギー勾配を等しく置くと(∇Φ≡∇W)、誘電勾配が電荷キャリアおよび/またはイオンの移動度にどのように影響を及ぼし得るかが説明される。次いで、移動度から移動スピードが決まる(キャリア速度は移動度と電界の積であるため
【0084】
【数14】
【0085】
)。
【0086】
[0060]その結果、移動スピードは、エネルギー変換セル装置内の誘電体領域と組み合わせて電界装置を使用することによってさらに最適化され得る。例えば、図10に示すように、電界装置17を設けて、第1移動領域12および第2移動領域15の少なくとも一方にわたって電界をかけることができる。電界装置17はエネルギー変換セル10の外部装置とし、エネルギー変換セル10に電界を印加させてもよいし、あるいは、電界装置17は、セル10の領域12、13、14または15の1つまたは複数の中の構造としてもよい。電界をかける構造の例として、ホウ素原子を第1移動領域12に組み込むとともに、ヒ素原子を第2移動領域15に組み込むことが挙げられる。
【0087】
[0061]図1、2、および10に示す実施形態では、エネルギー変換セル10は、誘電体領域とは別のエネルギー交換領域を備える。しかし、エネルギー交換機能と誘電勾配機能を組み合わせた単一の領域を設けることが可能である。例えば、図11を参照して、エネルギー変換セル900は、陰極901、第1移動領域902、エネルギー交換領域903、第2移動領域904、および陽極905を備える。エネルギー交換領域903は、基材906およびこの基材内に分散された第2材料907を含む。エネルギー交換機能は基材906により実現される。つまり、基材906は、光子エネルギー変換装置(例えば、固体単結晶半導体、固体プラスチック半導体、ポリマー半導体、無機半導体、または液体半導体)内で光子と反応して反応化学種を生成する材料、または燃料電池内(例えば触媒表面)で所望の反応を開始し得る材料である。基材906は、第2材料907とは異なる誘電率を有する。基材906に第2材料907を組み込むことにより、誘電勾配を形成することができる。
【0088】
[0062]いくつかの実施形態では、基材906と異なる材料の複数の粒子を含ませること
によって第2材料907が組み込まれる。他の実施形態では、基材906内に複数の空隙(例えば空気の泡)を含ませることによって第2材料907が組み込まれる。エネルギー交換領域903内の誘電勾配は、異なる誘電材料の粒子を含ませるか、この領域にわたって粒子の濃度を単調に変化させるか、領域903にわたって粒子のサイズを単調に変化させるか、または、これらを任意に組み合わせることによってさらに調整することができる。
【0089】
[0063]場合によっては、望まれないエネルギー交換をなくすために、励起子の移動を抑制することが重要である。例えば、日焼け止めローションでは、酸化亜鉛または酸化チタンの粒子を使用して有害な紫外光を吸収することが望ましい。これらの粒子は、かつて日焼け止めローションの構成物質として一般的なものであった。酸化亜鉛または酸化チタン(または他の材料)に紫外線光子が吸収されると、多くの場合励起子が形成されることが知られている。その後で励起子が解離すると、高エネルギー電子(励起子の一部)が周囲環境の生物分子に移動して損傷(例えば皮膚損傷)を与えることがある。
【0090】
[0064]酸化亜鉛または酸化チタンの粒子に低誘電率被膜を塗布すると、被膜の誘電率が環境(すなわち組織)の誘電率よりもかなり小さく、かつ、酸化粒子(すなわち、酸化亜鉛、酸化チタンまたはその他の紫外光を吸収する粒子もしくは構造)の誘電率よりもかなり小さいので、励起子(またはその解離した化学種)の移動を実質的に抑制またはなくすことができる。励起子および/または励起子の軌道は、周囲の酸化粒子と誘電強度が等しいかそれよりも大きい環境に向かって誘電強度がより小さい環境に入ることはない。
【0091】
[0065]図13を参照すると、勾配を付けた誘電材料で形成される誘電体領域1301を設けて光子吸収粒子1302(すなわち光子吸収領域)を囲むことによって、励起子1306が動いて、または移動して粒子1302から離れたり、周囲環境1307(すなわち、組織およびタンパク質またはその中の他の生物構造が、対応する第1移動領域および陰極である)に入ったりすることを妨げる。この例では、粒子1302は、光子吸収領域として、かつ、光子エネルギー変換セルの第2移動領域および陽極として働く。
【0092】
[0066]粒子1302よりも(かつ、周囲の組織環境よりも)誘電強度が小さく、誘電勾配が約100Å未満(例えば、60Å、50Å、40Å)である誘電体領域1301を適用すると、移動が抑制される。つまり、勾配を付けた誘電材料の長さスケールは100Å以下のオーダであり、それによって、励起子または解離化学種は粒子からの移動を抑制される。誘電体領域1301には、単一ステップで(すなわち、誘電体領域の厚さが100Å未満のオーダである)勾配を付けることもできるし、誘電体領域1301に複数ステップで(すなわち、各ステップが100Å未満)勾配を付けることもできる。
【0093】
[0067]一実施形態では、日焼け止めローションに使用する(誘電率が約14〜1400の)酸化チタン粒子に、(誘電率が約2〜3の)カルナウバ蝋層を50Åの厚さに被覆する。このようにカルナウバ蝋を塗布すると、光子反応生成化学種がチタン粒子から出たり、人体組織などの(誘電率が約75の)水性環境に入ったりすることを抑制するのに有効である。
【0094】
[0068]装置を提供することに加えて、ここで開示する技術は、エネルギー変換装置内の反応化学種の移動を改善または変化させる方法を提供することを対象とする。これらの方法は、少なくとも1つの誘電勾配領域を備えた電子変換セル装置を提供するステップを含む。この少なくとも1つの誘電勾配領域は、所望の反応化学種の移動に適した長さスケールを有する。例えば、励起子は一般に、分子から離れると解離する傾向がある。そのため、重要な長さスケールは100Å以下のオーダ(すなわち、一つの分子サイズ、小型の粒または粒子のサイズ)になる。誘電体領域を含むことによって励起子の移動が変化または
改善される実施形態では、誘電体領域の長さスケールは約100Å以下(例えば、100Å、75Å、50Å、40Å、30Å、20Å、10Å)である。この実施形態では、誘電勾配は、予想される移動の環境に対応する小さな長さスケールを有し、そのため、励起子の移動と同じサイズスケールにわたって誘電強度が著しく増加または減少する。
【0095】
[0069]別の実施形態では、励起子(すなわち、一群または一団の電子、正孔、またはイオン)よりも長い移動距離の構造を有する反応化学種の移動を改善することを対象とする方法が提供される。この方法では、励起子の移動を変化させるのに用いられる長さスケールよりも、長さスケールを大きくすることができる。サイズがより大きいことや、誘電強度がこれらの化学種に影響を及ぼすことにより、これらの化学種はより長い距離を移動することができ、そのため、誘電勾配の長さスケールを大きくすることができる。一般に、長さスケールが約10nm以上(例えば、20nm、30nm、40nm、50nm、60nm)になると、こうした比較的大きいサイズの反応化学種の移動の方向およびスピードが変化または改善される。
【0096】
[0070]上記の方法を組み合わせて適用することにより、2つ以上の誘電体領域を有する装置が製作することができる。これら2つ以上の誘電体領域は、第1誘電体領域が励起子の移動を変化させるように設計されかつ設けられるか、または、第2誘電体領域がより長い距離を移動する他の反応化学種の移動を変化させるように設計されかつ設けられる。
【0097】
[0071]上記の方法を誘電体領域の形状や組成によってさらに最適化することができる(例えば、複数の隆起部や畝部などの形状の構造が形成されるように誘電体領域を成膜することもできるし、組み込む誘電材料の組成、濃度、およびサイズを様々に変えることによって特定の勾配が形成されるように誘電体領域を成膜することもできる)。いくつかの方法では、誘電勾配を有する誘電体領域を設けて帯電した化学種の移動を支援することに加えて、電界を印加することができる。
【実施例】
【0098】
[0072]
[0073]以下の実施例は、本開示の特定の実施形態の実施および利点を示すことのみを意図しており、包括的な本開示の範囲を制限するためのものではない。
【0099】
[0074]対照用太陽電池および本開示による誘電体領域を含む太陽電池をアントシアニン系の色素増感太陽電池の構造に基づいて用意した(対照用太陽電池は典型的または一般的なアントシアニン系の色素増感太陽電池であり、本技術による電池は誘電体領域をさらに含むものであった)。太陽光を太陽電池の電極側に入射させた。炭素含有対向電極を使用した。研磨に通常使用される材料であるナノ粒子アルミナを用いて勾配を付けた誘電層を用意した。
【0100】
[0075]試験は、模擬AM1.5太陽光スペクトル下の室温で実施した。誘電体領域を含むアントシアニン系の太陽電池から収集したデータから、電流が減少しても太陽電池の電圧が増加したことがわかる。ここで、電流の減少は、不透明なナノ粒子アルミナが利用可能な光の一部を吸収したことによるものであった。表1に、勾配型太陽電池から得られたデータと、勾配層がない対照用太陽電池との比較を示す。
【0101】
【表1】
【0102】
[0076]上記の比較データは、誘電体領域により、従来の色素系太陽電池に対して電圧出力が著しく改善されることを示している。
【0103】
[0077]特定の実施形態を参照して本技術を具体的に示し説明してきたが、下記の特許請求の範囲で定義した本発明の要旨および範囲から逸脱することなく、これらの実施形態の形態および細部に様々な変更を加えることができることが当業者には理解されよう。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子、正孔、イオン、励起子(excitons)、およびラジカル系(radical-based)の電荷(charge)もしくはエネルギーの1種または複数種の移動、が改善されたエネルギー変換(conversion)セル(cell)であって、
陰極と、
第1移動領域(transport region)と、
エネルギー交換(exchange)領域と、
誘電体領域と、
第2移動領域と、
陽極と、
を備え、前記誘電体領域は、前記陽極または陰極の一方への移動方向に沿って誘電率勾配(a dielectric constant of a graded value)が得られるように調整され(tailored)、
それによって、電子、正孔、イオン、励起子、およびラジカル系の電荷もしくはエネルギーの1種または複数種の移動が改善される、エネルギー変換セル。
【請求項2】
前記エネルギー交換領域は、前記第1移動領域の少なくとも一部の中に配置される、請求項1に記載のエネルギー変換セル。
【請求項3】
前記誘電体領域は、前記エネルギー交換領域と前記第2移動領域の界面(interface)に
配置される、請求項1に記載のエネルギー変換セル。
【請求項4】
前記誘電体領域は、前記移動方向に沿って誘電率勾配が得られる形状の構造を有する、請求項3に記載のエネルギー変換セル。
【請求項5】
前記構造は、前記界面に沿って複数の隆起部(bumps)または畝部(ridges)を含む、請求
項4に記載のエネルギー変換セル。
【請求項6】
前記誘電体領域は、基材内に配置された1種または複数種の誘電材料の複数の粒子を含む、請求項1に記載のエネルギー変換セル。
【請求項7】
前記基材は水である、請求項6に記載のエネルギー変換セル。
【請求項8】
前記誘電体領域にわたって前記複数の粒子の濃度を単調に変化させる、請求項6に記載のエネルギー変換セル。
【請求項9】
前記誘電体領域にわたって複数の粒子のサイズを単調に(monotonically)変化させる、
請求項6に記載のエネルギー変換セル。
【請求項10】
前記誘電体領域は、誘電率勾配を設けるために組成が変化(varied composition)した層を含む、請求項1に記載のエネルギー変換セル。
【請求項11】
光子エネルギー変換セルを備える、請求項1に記載のエネルギー変換セル。
【請求項12】
前記光子エネルギー変換セルは光起電力電池を備える、請求項11に記載のエネルギー変換セル。
【請求項13】
前記光起電力電池は、固体または液体接合型の太陽電池を備える、請求項12に記載のエネルギー変換セル。
【請求項14】
スペクトル改変(modification)領域をさらに備え、
前記スペクトル改変領域は、第1屈折率を有する複合膜(composite film)と、前記第1屈折率と異なる第2屈折率を有する基材(matrix)とを含み、
前記複合膜は前記基材上に配置され(disposed)、前記複合膜は発光(luminescent)材料
およびミクロンサイズのシリコン粒子を含む、請求項11に記載のエネルギー変換セル。
【請求項15】
燃料電池を備える、請求項1に記載のエネルギー変換セル。
【請求項16】
電子、イオン、励起子、およびラジカル系の電荷もしくはエネルギーの1種または複数種が前記第1移動領域を介して前記陰極に向かって移動し、前記移動した電子、イオン、励起子、またはラジカル系の電荷もしくはエネルギーは前記陰極での反応において触媒として働く、請求項1に記載のエネルギー変換セル。
【請求項17】
前記誘電体領域は、前記移動方向に約100Å以下の長さスケール(length scale)を有する、請求項1に記載のエネルギー変換セル。
【請求項18】
前記誘電体領域は、前記移動方向に約10nm以上の長さスケールを有する、請求項1に記載のエネルギー変換セル。
【請求項19】
第2誘電体領域をさらに備える、請求項1に記載のエネルギー変換セル。
【請求項20】
前記第2誘電体領域は、前記移動方向に、前記誘電体領域の前記長さスケールとは異なる長さスケールを有する、請求項19に記載のエネルギー変換セル。
【請求項21】
前記第1移動領域および前記第2移動領域の少なくとも一方にわたって電界を印加する装置をさらに備える、請求項1に記載のエネルギー変換セル。
【請求項22】
電子、正孔、イオン、励起子、およびラジカル系の電荷もしくはエネルギーの1種または複数種の移動が改善されたエネルギー変換セルであって、
陰極と、
第1移動領域と、
第1誘電率を有する基材(matrix)および前記第1誘電率よりも小さい第2誘電率を有する第2材料であって前記基材(matrix material)内に分散されて(dispersed)誘電勾配(dielectrically graded)複合領域(composite region)を形成する第2材料を含むエネルギー
交換領域と、
第2移動領域と、
陽極と、
を備える、エネルギー変換セル。
【請求項23】
前記エネルギー交換領域は、前記第1移動領域の少なくとも一部の中に配置される、請求項22に記載のエネルギー変換セル。
【請求項24】
前記第2材料は複数の粒子または空隙(voids)を含む、請求項22に記載の光子エネル
ギー変換セル。
【請求項25】
前記基材は、プラスチック半導体、ポリマー半導体、または無機半導体を含む、請求項24に記載の光子エネルギー変換セル。
【請求項26】
前記基材にわたって前記複数の粒子または空隙の濃度(concentration)を単調に変化さ
せる、請求項24に記載のエネルギー変換セル。
【請求項27】
前記基材にわたって複数の粒子または空隙のサイズを単調に変化させる、請求項24に記載のエネルギー変換セル。
【請求項28】
光子エネルギー変換セルを備える、請求項22に記載のエネルギー変換セル。
【請求項29】
前記光子エネルギー変換セルは光起電力電池を備える、請求項28に記載のエネルギー変換セル。
【請求項30】
スペクトル改変領域をさらに備え、
前記スペクトル改変領域は、第1屈折率を有する複合膜と、前記第1屈折率と異なる第2屈折率を有するスペクトル改変(modification)基材(matrix)とを含み、
前記複合膜は前記スペクトル改変基材上に配置され、前記複合膜は発光材料およびミクロンサイズのシリコン粒子を含む、請求項28に記載のエネルギー変換セル。
【請求項31】
燃料電池を備える、請求項22に記載のエネルギー変換セル。
【請求項32】
電子、イオン、励起子、およびラジカル系の電荷もしくはエネルギーの1種または複数種が前記第1移動領域を介して前記陰極に向かって移動し、前記移動した電子、イオン、励起子、またはラジカル系の電荷もしくはエネルギーは前記陰極での反応において触媒として働く、請求項20に記載のエネルギー変換セル。
【請求項33】
前記誘電勾配複合領域は、前記移動方向に約100Å以下の長さスケールを有する、請求項22に記載のエネルギー変換セル。
【請求項34】
前記誘電勾配複合領域は、前記移動方向に約10nm以上の長さスケールを有する、請求項22に記載のエネルギー変換セル。
【請求項35】
第2誘電勾配複合領域をさらに備える、請求項22に記載のエネルギー変換セル。
【請求項36】
前記第1移動領域および前記第2移動領域の少なくとも一方にわたって電界を印加する装置をさらに備える、請求項22に記載のエネルギー変換セル。
【請求項37】
励起子の移動が実質的に抑制された光子エネルギー変換セルであって、
陰極と、
第1移動領域と、
光子吸収領域と、
誘電体領域と、
第2移動領域と、
陽極と、
を備え、前記誘電体領域は、前記陽極または陰極の一方への移動方向に沿って誘電率勾配が得られるように調整され、それによって励起子(exciton)の移動が抑制(inhibit)される、光子エネルギー変換セル。
【請求項38】
励起子の移動が実質的に抑制された(inhibited)光子(photon)エネルギー変換セルであ
って、
陰極と、
第1移動領域と、
第1誘電率を有する基材および前記第1誘電率よりも小さい第2誘電率を有する第2材料であって前記基材内に分散されて誘電勾配複合領域を形成する第2材料を含む光子吸収
領域と、
第2移動領域と、
陽極と、
を備える、光子エネルギー変換セル。
【請求項39】
エネルギー変換装置内での帯電した化学種(species)の移動を改善する方法であって、
前記エネルギー変換装置の陽極と陰極の間に少なくとも1つの誘電勾配領域を設けるステップを含み、
前記少なくとも1つの誘電勾配領域は、所望の帯電した化学種の移動方向に沿って約10nm以上の長さスケールを有する、方法。
【請求項40】
前記エネルギー変換装置に電界を印加するステップをさらに含む、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記少なくとも1つの誘電勾配領域は複数の粒子を含み、前記少なくとも1つの誘電勾配領域にわたって前記粒子の濃度またはサイズを所望の帯電した化学種の前記移動方向に沿って変化させる、請求項39に記載の方法。
【請求項42】
前記少なくとも1つの誘電勾配領域は、所望の帯電した化学種の前記移動方向に沿って約10nm以上の長さスケールが得られる構造を形成するように成膜される、請求項39に記載の方法。
【請求項43】
第2誘電勾配領域を設けるステップをさらに含む、請求項39に記載の方法。
【請求項44】
エネルギー変換装置内での励起子の移動を変化させる方法であって、
前記エネルギー変換装置の陽極と陰極の間に少なくとも1つの誘電勾配領域を設けるステップを含み、
前記少なくとも1つの誘電勾配領域は、所望の励起子の移動方向に沿って約100Å以下の長さスケールを有する、方法。
【請求項45】
前記少なくとも1つの誘電勾配領域は複数の粒子を含み、前記少なくとも1つの誘電勾配領域にわたって前記粒子の濃度(concentration)またはサイズを所望の励起子の前記移
動方向に沿って変化させる、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
前記少なくとも1つの誘電勾配領域は、所望の励起子の前記移動方向に沿って約100Å以下の長さスケールが得られる構造を形成するように成膜される(deposited)、請求項
44に記載の方法。
【請求項47】
第2誘電勾配領域を設けるステップをさらに含む、請求項44に記載の方法。
【請求項48】
前記少なくとも1つの誘電勾配領域は、励起子の移動を改善するように勾配が付けられる、請求項44に記載の方法。
【請求項49】
前記少なくとも1つの誘電勾配領域は、励起子の移動を実質的に抑制するように勾配が付けられる、請求項44に記載の方法。
【請求項1】
電子、正孔、イオン、励起子(excitons)、およびラジカル系(radical-based)の電荷(charge)もしくはエネルギーの1種または複数種の移動、が改善されたエネルギー変換(conversion)セル(cell)であって、
陰極と、
第1移動領域(transport region)と、
エネルギー交換(exchange)領域と、
誘電体領域と、
第2移動領域と、
陽極と、
を備え、前記誘電体領域は、前記陽極または陰極の一方への移動方向に沿って誘電率勾配(a dielectric constant of a graded value)が得られるように調整され(tailored)、
それによって、電子、正孔、イオン、励起子、およびラジカル系の電荷もしくはエネルギーの1種または複数種の移動が改善される、エネルギー変換セル。
【請求項2】
前記エネルギー交換領域は、前記第1移動領域の少なくとも一部の中に配置される、請求項1に記載のエネルギー変換セル。
【請求項3】
前記誘電体領域は、前記エネルギー交換領域と前記第2移動領域の界面(interface)に
配置される、請求項1に記載のエネルギー変換セル。
【請求項4】
前記誘電体領域は、前記移動方向に沿って誘電率勾配が得られる形状の構造を有する、請求項3に記載のエネルギー変換セル。
【請求項5】
前記構造は、前記界面に沿って複数の隆起部(bumps)または畝部(ridges)を含む、請求
項4に記載のエネルギー変換セル。
【請求項6】
前記誘電体領域は、基材内に配置された1種または複数種の誘電材料の複数の粒子を含む、請求項1に記載のエネルギー変換セル。
【請求項7】
前記基材は水である、請求項6に記載のエネルギー変換セル。
【請求項8】
前記誘電体領域にわたって前記複数の粒子の濃度を単調に変化させる、請求項6に記載のエネルギー変換セル。
【請求項9】
前記誘電体領域にわたって複数の粒子のサイズを単調に(monotonically)変化させる、
請求項6に記載のエネルギー変換セル。
【請求項10】
前記誘電体領域は、誘電率勾配を設けるために組成が変化(varied composition)した層を含む、請求項1に記載のエネルギー変換セル。
【請求項11】
光子エネルギー変換セルを備える、請求項1に記載のエネルギー変換セル。
【請求項12】
前記光子エネルギー変換セルは光起電力電池を備える、請求項11に記載のエネルギー変換セル。
【請求項13】
前記光起電力電池は、固体または液体接合型の太陽電池を備える、請求項12に記載のエネルギー変換セル。
【請求項14】
スペクトル改変(modification)領域をさらに備え、
前記スペクトル改変領域は、第1屈折率を有する複合膜(composite film)と、前記第1屈折率と異なる第2屈折率を有する基材(matrix)とを含み、
前記複合膜は前記基材上に配置され(disposed)、前記複合膜は発光(luminescent)材料
およびミクロンサイズのシリコン粒子を含む、請求項11に記載のエネルギー変換セル。
【請求項15】
燃料電池を備える、請求項1に記載のエネルギー変換セル。
【請求項16】
電子、イオン、励起子、およびラジカル系の電荷もしくはエネルギーの1種または複数種が前記第1移動領域を介して前記陰極に向かって移動し、前記移動した電子、イオン、励起子、またはラジカル系の電荷もしくはエネルギーは前記陰極での反応において触媒として働く、請求項1に記載のエネルギー変換セル。
【請求項17】
前記誘電体領域は、前記移動方向に約100Å以下の長さスケール(length scale)を有する、請求項1に記載のエネルギー変換セル。
【請求項18】
前記誘電体領域は、前記移動方向に約10nm以上の長さスケールを有する、請求項1に記載のエネルギー変換セル。
【請求項19】
第2誘電体領域をさらに備える、請求項1に記載のエネルギー変換セル。
【請求項20】
前記第2誘電体領域は、前記移動方向に、前記誘電体領域の前記長さスケールとは異なる長さスケールを有する、請求項19に記載のエネルギー変換セル。
【請求項21】
前記第1移動領域および前記第2移動領域の少なくとも一方にわたって電界を印加する装置をさらに備える、請求項1に記載のエネルギー変換セル。
【請求項22】
電子、正孔、イオン、励起子、およびラジカル系の電荷もしくはエネルギーの1種または複数種の移動が改善されたエネルギー変換セルであって、
陰極と、
第1移動領域と、
第1誘電率を有する基材(matrix)および前記第1誘電率よりも小さい第2誘電率を有する第2材料であって前記基材(matrix material)内に分散されて(dispersed)誘電勾配(dielectrically graded)複合領域(composite region)を形成する第2材料を含むエネルギー
交換領域と、
第2移動領域と、
陽極と、
を備える、エネルギー変換セル。
【請求項23】
前記エネルギー交換領域は、前記第1移動領域の少なくとも一部の中に配置される、請求項22に記載のエネルギー変換セル。
【請求項24】
前記第2材料は複数の粒子または空隙(voids)を含む、請求項22に記載の光子エネル
ギー変換セル。
【請求項25】
前記基材は、プラスチック半導体、ポリマー半導体、または無機半導体を含む、請求項24に記載の光子エネルギー変換セル。
【請求項26】
前記基材にわたって前記複数の粒子または空隙の濃度(concentration)を単調に変化さ
せる、請求項24に記載のエネルギー変換セル。
【請求項27】
前記基材にわたって複数の粒子または空隙のサイズを単調に変化させる、請求項24に記載のエネルギー変換セル。
【請求項28】
光子エネルギー変換セルを備える、請求項22に記載のエネルギー変換セル。
【請求項29】
前記光子エネルギー変換セルは光起電力電池を備える、請求項28に記載のエネルギー変換セル。
【請求項30】
スペクトル改変領域をさらに備え、
前記スペクトル改変領域は、第1屈折率を有する複合膜と、前記第1屈折率と異なる第2屈折率を有するスペクトル改変(modification)基材(matrix)とを含み、
前記複合膜は前記スペクトル改変基材上に配置され、前記複合膜は発光材料およびミクロンサイズのシリコン粒子を含む、請求項28に記載のエネルギー変換セル。
【請求項31】
燃料電池を備える、請求項22に記載のエネルギー変換セル。
【請求項32】
電子、イオン、励起子、およびラジカル系の電荷もしくはエネルギーの1種または複数種が前記第1移動領域を介して前記陰極に向かって移動し、前記移動した電子、イオン、励起子、またはラジカル系の電荷もしくはエネルギーは前記陰極での反応において触媒として働く、請求項20に記載のエネルギー変換セル。
【請求項33】
前記誘電勾配複合領域は、前記移動方向に約100Å以下の長さスケールを有する、請求項22に記載のエネルギー変換セル。
【請求項34】
前記誘電勾配複合領域は、前記移動方向に約10nm以上の長さスケールを有する、請求項22に記載のエネルギー変換セル。
【請求項35】
第2誘電勾配複合領域をさらに備える、請求項22に記載のエネルギー変換セル。
【請求項36】
前記第1移動領域および前記第2移動領域の少なくとも一方にわたって電界を印加する装置をさらに備える、請求項22に記載のエネルギー変換セル。
【請求項37】
励起子の移動が実質的に抑制された光子エネルギー変換セルであって、
陰極と、
第1移動領域と、
光子吸収領域と、
誘電体領域と、
第2移動領域と、
陽極と、
を備え、前記誘電体領域は、前記陽極または陰極の一方への移動方向に沿って誘電率勾配が得られるように調整され、それによって励起子(exciton)の移動が抑制(inhibit)される、光子エネルギー変換セル。
【請求項38】
励起子の移動が実質的に抑制された(inhibited)光子(photon)エネルギー変換セルであ
って、
陰極と、
第1移動領域と、
第1誘電率を有する基材および前記第1誘電率よりも小さい第2誘電率を有する第2材料であって前記基材内に分散されて誘電勾配複合領域を形成する第2材料を含む光子吸収
領域と、
第2移動領域と、
陽極と、
を備える、光子エネルギー変換セル。
【請求項39】
エネルギー変換装置内での帯電した化学種(species)の移動を改善する方法であって、
前記エネルギー変換装置の陽極と陰極の間に少なくとも1つの誘電勾配領域を設けるステップを含み、
前記少なくとも1つの誘電勾配領域は、所望の帯電した化学種の移動方向に沿って約10nm以上の長さスケールを有する、方法。
【請求項40】
前記エネルギー変換装置に電界を印加するステップをさらに含む、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記少なくとも1つの誘電勾配領域は複数の粒子を含み、前記少なくとも1つの誘電勾配領域にわたって前記粒子の濃度またはサイズを所望の帯電した化学種の前記移動方向に沿って変化させる、請求項39に記載の方法。
【請求項42】
前記少なくとも1つの誘電勾配領域は、所望の帯電した化学種の前記移動方向に沿って約10nm以上の長さスケールが得られる構造を形成するように成膜される、請求項39に記載の方法。
【請求項43】
第2誘電勾配領域を設けるステップをさらに含む、請求項39に記載の方法。
【請求項44】
エネルギー変換装置内での励起子の移動を変化させる方法であって、
前記エネルギー変換装置の陽極と陰極の間に少なくとも1つの誘電勾配領域を設けるステップを含み、
前記少なくとも1つの誘電勾配領域は、所望の励起子の移動方向に沿って約100Å以下の長さスケールを有する、方法。
【請求項45】
前記少なくとも1つの誘電勾配領域は複数の粒子を含み、前記少なくとも1つの誘電勾配領域にわたって前記粒子の濃度(concentration)またはサイズを所望の励起子の前記移
動方向に沿って変化させる、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
前記少なくとも1つの誘電勾配領域は、所望の励起子の前記移動方向に沿って約100Å以下の長さスケールが得られる構造を形成するように成膜される(deposited)、請求項
44に記載の方法。
【請求項47】
第2誘電勾配領域を設けるステップをさらに含む、請求項44に記載の方法。
【請求項48】
前記少なくとも1つの誘電勾配領域は、励起子の移動を改善するように勾配が付けられる、請求項44に記載の方法。
【請求項49】
前記少なくとも1つの誘電勾配領域は、励起子の移動を実質的に抑制するように勾配が付けられる、請求項44に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公表番号】特表2012−517095(P2012−517095A)
【公表日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−549290(P2011−549290)
【出願日】平成22年2月5日(2010.2.5)
【国際出願番号】PCT/US2010/023358
【国際公開番号】WO2010/091278
【国際公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【出願人】(508095256)ザ リサーチ ファウンデーション オブ ステイト ユニバーシティ オブ ニューヨーク (11)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年2月5日(2010.2.5)
【国際出願番号】PCT/US2010/023358
【国際公開番号】WO2010/091278
【国際公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【出願人】(508095256)ザ リサーチ ファウンデーション オブ ステイト ユニバーシティ オブ ニューヨーク (11)
【Fターム(参考)】
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