説明

移動子、磁気浮上搬送装置、及び搬送軸合わせ方法

【課題】 高温超伝導体を超伝導臨界温度以下の温度まで冷却しなくても移動させられる移動子と磁気浮上搬送装置を提供する。
【解決手段】 低温槽11内に移動可能に設けられたキャリア12から移動子2に設けられた搬送用磁石181、182に磁力を及ぼし、移動子2を磁気浮上させてキャリア12を移動させる前に、その移動軸線方向の誤差を修正する際、移動子2に設けた転動手段4によって低温槽上をころがり移動させて誤差を検出する。高温超伝導体を超伝導臨界温度以下の温度まで冷却しなくても済む。その場合、移動子2のころがり移動を低温槽11の長手方向に制限する制限機構を設けておけば、低温槽11上から落下する危険がなくなって都合がよい。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、移動子を磁気浮上移動させて被搬送物の搬送を行う磁気浮上搬送装置、及び、その磁気浮上搬送装置に用いられる移動子にかかり、特に、移動軸線の修正が容易な磁気浮上搬送装置、及び移動子に関する。
【0002】
【従来の技術】発明者等は、先に被搬送物の磁気浮上搬送を行う磁気浮上搬送装置を提案した。その磁気浮上搬送装置を図4の符号103で示す。この磁気浮上搬送装置103は真空槽131を有しており、その真空槽131の内部には隔壁141が設けられ、高真空領域132と低真空領域133とに仕切られている。
【0003】この隔壁141には、略直方体形状の低温槽111が、当該隔壁141を貫くようにして設けられており、低温槽111の大部分が高真空領域内に位置し、ごく一部分が低真空領域133内に位置するようにされている。低温槽111の底面には、当該低温槽111を水平面内で首振り移動させる移動軸修正機構が設けられており、その移動軸修正機構に設けられ、真空槽131の外に取り出された調節ねじ120を回すことで、隔壁141に固定された部分を支点として、低温槽111の向きが水平面内で修正され、それによって、キャリア112の移動軸線方向を修正できるように構成されている。
【0004】この低温槽111の低真空領域133内には冷却装置123が配置され、また、室温室121が設けられており、該室温室121内部には、モーター124が配置されている。また、この低真空領域133内には接続細管122が設けられ、該接続細管122によって、低温槽111と室温室121との内部空間が接続されている。
【0005】低温槽111の上には、搬送用磁石1181、1182と搬送アーム135とを有し、該搬送アーム135先端に被搬送物136を載置できるように構成された移動子102が配置されている。他方、低温槽111の内部には高温超伝導体1081、1082を有するキャリア112が配置されている。
【0006】この高温超伝導体1081、1082の中心間の間隔は、搬送用磁石1181、1182の中心間の間隔と同じになるようにされている。また、高温超伝導体1081、1082の中心同士を結ぶ直線は、キャリア112の移動軸線方向に向くように構成されている。
【0007】以上の構成の従来技術の磁気浮上搬送装置103によって被搬送物136の搬送を行う場合を説明すると、先ず、真空槽131を高真空状態にした後、冷却装置123を起動し、低温槽111内に引き回された冷却パイプ113によって、低温槽111内に充満された冷却媒体ガスを冷却する。その冷却媒体ガスによってキャリア112を冷却し、高温超伝導体1081、1082を超伝導臨界温度以下の温度まで冷却し、超伝導状態にする。その状態になったところで昇降機構1501、1502により移動子102を降ろして行くと、搬送用磁石1181、1182に及ぼされる磁気的反発力と移動子102全体の荷重とが釣り合うところで移動子102が磁気浮上する。
【0008】移動子102が磁気浮上した状態でモーター124を起動して、接続細管122に挿入された回転シャフト117を回転させ、ボールねじ114によってキャリア112を移動させると、高温超伝導体1081、1082の拘束力によって搬送用磁石1181、1182が一緒に移動し、移動子102の磁気浮上移動が行われる。
【0009】その磁気浮上移動によって、搬送アーム135先端に載置された被搬送物136を、その搬送先である測定装置160内の搬出入室161内に搬入する。そして、そこに設けられたピックアップ機構(図示せず)によって被搬送物136を持ち上げた後、搬送アーム135を搬出入室161内から抜き出し、真空槽131と測定装置160との間の仕切バルブを閉じて被搬送物136の搬送作業を終了する。
【0010】このような磁気浮上搬送装置103では、移動子102を非接触で移動できることから、接触搬送によるパーティクル発生を嫌う高精度分析技術等、超清浄雰囲気を必要とする技術分野では広く使用されるに到っている。
【0011】しかしながら、従来技術の移動子102は、キャリア112の移動方向と同じ方向にしか移動できない。従って、移動子102の移動軸線115の方向が不正確であり、ずれがあった場合には、被搬送物136を搬出入室161内の正確な位置に搬送することができなくなる。かかる場合、搬送アーム135を搬出入室161内に挿入して、その先端の位置を観察しながら前記調節ねじ120を用いて低温槽111を動かして、磁気浮上をしている移動子102を一緒に動かすことで、移動軸線115の方向を修正していた。
【0012】しかしながら装置小型化のために、真空槽131には細長の円筒形状の容器が用いられるのが普通であり、そのため、真空槽131の内壁と低温槽111の外壁とが非常に近接してしまっている。従って、低温槽111はわずかな量しか動かすことができず、移動軸修正機構によって修正できる移動軸線115のずれ量もわずかでしかない。
【0013】しかも、このような移動軸線115のずれは、搬出入室161内に、搬送アーム135先端を挿入してみて初めて観察できるので、移動軸線115のずれ量がねじ120による修正可能な範囲を超えていた場合には、アーム135を搬出入室161から抜き出し、移動子102を所定位置に戻し、昇降機構1501、1502を動作させ、ハンガー1191、1192によって移動子102を持ち上げた後、超伝導臨界温度以下まで冷却されている低温槽111の内部を常温まで昇温させ、次いで、真空槽131内に大気を導入して、作業者が移動子102を配置し直し、移動軸線115のずれを修正する必要があった。
【0014】そして、移動軸線115を修正した後、再度真空槽131内を高真空状態まで真空排気するとともに低温槽111内を冷却し、高温超伝導体1081、1082を超伝導臨界温度以下の温度にして移動子102を磁気浮上させていた。
【0015】しかしながら、低温槽内の高温超伝導体1081、1082の位置を視認することができないため、低温槽111を常温まで温度上昇させて移動子102を再配置した場合でも、移動軸線115のずれ量が調節ねじ120によって修正できる程度まで小さくなっているとは限らない。再配置によっても被搬送物136を正しい位置に搬送できなかった場合には、再度低温槽111を常温まで温度上昇させて移動子102の再々配置を行わなければならない。
【0016】以上説明したように、従来技術の移動子102は磁気浮上をしなければ移動することができず、しかも、移動子102を再配置する度に低温槽111を常温まで上昇させ、再び超伝導臨界温度以下まで冷却するという作業を繰り返さなければならず、昇温に14時間、冷却に18時間という長時間を要するという問題があった。
【0017】更に都合が悪いことには、このような移動子102の移動軸線115のずれは、搬送用磁石1181、1182の中心が、高温超伝導体1081、1082の中心を通る鉛直線上に位置せず、ずれている場合に生じるため、そのようなずれの大きさは、高温超伝導体1081、1082から搬送用磁石1181、1182に及ぼす磁気的反発力に影響を与えるため、磁気的反発力が弱い場合は移動子102の磁気浮上移動が不安定になってしまうという問題がある。
【0018】かかる場合、中心同士のずれをそのままにして、調節ねじ120によって低温槽111の向きを変えるだけでは、搬送用磁石1181、1182と高温超伝導体1081、1082との相対的な位置関係が変わらず、中心位置のずれ量を小さくすることができないため、移動子102の磁気浮上移動を安定化させることができないという問題があった。
【0019】
【発明が解決しようとする課題】この発明は、上記従来技術の諸問題を解決するために創作されたものであり、その目的は、高温超伝導体を超伝導臨界温度以下の温度まで冷却しなくても移動させられる移動子、及びその移動子を用いて簡単に移動軸線の向きを修正することができる磁気浮上搬送装置を提供することにある。
【0020】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するために、請求項1記載の発明装置は、搬送用磁石を有し、低温槽内で超伝導臨界温度以下の温度に冷却された高温超伝導体から及ぼされる磁気的反発力と拘束力によって浮上し、前記高温超伝導体の移動に伴って磁気浮上移動をする移動子であって、転動機構が設けられ、浮上をしていないときは前記低温槽上をころがり移動できるように構成されたことを特徴とする。
【0021】この場合、請求項2記載の発明装置のように、規制機構を設け、前記ころがり移動の方向を前記低温槽の長手方向に制限するのが好ましい。
【0022】また、請求項3記載の発明装置は、前記低温槽内に移動可能に設けられたキャリアと、前記低温槽上に昇降可能に配置された移動子と、前記移動子に設けられた搬送用磁石とを有し、前記キャリアに高温超伝導体を設け、超伝導臨界温度以下の温度に冷却したときに、その高温超伝導体から前記搬送用磁石に及ぼされる磁気的反発力と拘束力によって前記移動子が浮上し、前記高温超伝導体を移動させると前記移動子が磁気浮上移動をするように構成された磁気浮上搬送装置であって、前記移動子と前記低温槽との間には転動機構が位置するようにされ、前記移動子は、前記転動機構により、浮上をしていないときでも前記低温槽上を移動できるように構成されたことを特徴とする。
【0023】この場合、請求項4記載の発明装置のように、規制機構を設け、前記移動子が浮上をしていないときの移動を低温槽の長手方向の移動に制限することが好ましい。
【0024】また、請求項5記載の発明方法のように、前記キャリアに、超伝導臨界温度以上の温度で前記搬送用磁石に吸引される被吸引部材を設け、搬送軸を合わせることも可能である。
【0025】上述した本発明の構成によれば、低温槽内に移動可能に設けられたキャリアを超伝導臨界温度以下の温度まで冷却し、該キャリアに設けられた高温超伝導体から低温槽上に配置された移動子に設けられた搬送用磁石に磁気的拘束力を及ぼすと、その移動子は磁気浮上し、キャリアを移動させるとピン止め効果によって、移動子をキャリアの移動方向と同じ方向に移動させ、磁気浮上搬送を行うことができる。
【0026】他方、移動子の移動軸線を修正する場合には、高温超伝導体を冷却しなくても、転動機構によって、移動子をころがり移動させられるので、それによって移動子の実際の搬送先の位置が分かるので、それを観察して移動軸線方向の誤差を修正することが可能となる。
【0027】移動子はキャリアの移動に従って移動する必要があるので、移動軸線調整の間中、キャリア側に搬送用磁石に吸引される被吸引部材を設けておけば、キャリアが搬送用磁石に吸引されない材料で構成されている場合であっても、移動子を磁力でころがり移動させることが可能となる。
【0028】そのころがり移動をさせる際、移動子の移動軸線のずれ量が大きいと、移動子が低温槽上から落下してしまう危険がある。それを避けるためには移動子や低温槽等に規制機構を設け、移動子のころがり移動を低温槽の長手方向に制限するとよい。
【0029】
【発明の実施の形態】以下、この発明装置の好適な実施の形態について、本発明方法とともに図面を参照しながら説明する。図1を参照し、符号3は、本発明の磁気浮上搬送装置の一例であり、真空槽31と低温槽11とを有している。
【0030】真空槽31は直径約15cmの円筒形形状をしたステンレススチールで構成されており、その内部には隔壁41が設けられ、内部空間が高真空領域32と低真空領域33とに仕切られている。
【0031】低温槽11は、長手方向の全長が約2mの略直方体形状に成形されたステンレススチールで構成されており、その低温槽11は、隔壁41に、当該隔壁41を貫くようにして設けられており、その大部分が高真空領域32内に位置し、ごく一部分が低真空領域33内に位置するようにされている。
【0032】低真空領域33内には冷却装置23が配置され、また、室温室21が設けられており、その室温室21の内部にはモーター24が配置されている。また、この低真空領域33内には、接続細管22も配置されており、その接続細管22によって、室温室21の内部空間と低温槽11の内部空間とが接続されている。
【0033】室温室21は大気と遮断できるように構成されており、その室温室21にガス導入孔が配置され、低温槽11内に冷却媒体ガス(ヘリウムガス)が充填されており、その低温槽11と、接続細管22と、室温室21の各内部空間に同じ冷却媒体ガスが充満されている。
【0034】低温槽11内には、冷却装置23に接続された冷却パイプ13が引き回されるとともに、キャリア12が配置されており、該冷却パイプ13内部に封入された冷却媒体(ヘリウムガス)を冷却装置23によって冷却しながら循環させると、低温槽11内に充満された冷却媒体ガスが冷却され、その冷却媒体ガスを介してキャリア12を冷却でき、超伝導臨界温度以下の温度にできるように構成されている。その冷却の際には、低温槽11周囲に設けられた熱シールド37によって、真空槽31壁面からの熱輻射が低温槽11に直接到達せず、冷却効率が高まるようにされている。
【0035】また、低温槽11内部の底面には支持基板16が設けられ、該支持基板16上にはボールねじ14が水平に支持されており、前記キャリア12は、このボールねじ14の可動部分に固定されている。また、低温槽11の壁面には、リニアガイド10が水平に配設されており、前記キャリア12は、そのリニアガイド10に移動可能に取り付けられている。
【0036】前記モーター24の回転軸は回転シャフト17に取り付けられ、その回転シャフト17は、接続細管22内を挿通されて前記ボールねじ14のシャフト部分に取り付けられており、モーター24を動作させて回転シャフト17を回転させると、キャリア12は、リニアガイド10に沿った一定の移動軸線方向を往復移動できるようにされている。
【0037】他方、低温槽11外部の底面には、当該低温槽11を水平面内で首振り移動させる移動軸修正機構が設けられており、その移動軸修正機構に設けられ、真空槽31の外部に取り出された調節ねじ20を回せば、該低温槽11の隔壁41に固定された部分を支点として、低温槽11の長手方向の向きが水平面内で移動され、それによって、キャリア12の移動軸線方向を修正できるように構成されている。
【0038】真空槽31の外部には昇降機構501、502が設けられ、前記昇降機構501、502に接続され、真空槽31を高真空状態を維持したままで上下移動できるように構成されたハンガー191、192が熱遮蔽板37と低温槽11との間に位置するようにされている。
【0039】低温槽11上に移動子2を配置する際、このハンガー191、192上に移動子2を乗せ、昇降機構501、502を動作させると、真空槽31の高真空状態を維持したままで、移動子2を上下移動できるように構成されている。
【0040】この移動子2には、所定間隔(50cm)で固定された二個の搬送用磁石181、182が設けられており、前記キャリア12には、ホルダ91、92が設けられ、各ホルダ91、92に、常温で前記搬送用磁石181、182に吸着されるケイ素鋼で構成された被吸引部材81、82をそれぞれ装着すると、各被吸引部材81、82の中心が、前記搬送用磁石181、182と同じ間隔で同じ方向に配列されるように構成されている。
【0041】この移動子2は、低温槽11の長手方向に伸びる搬送アーム35を有しており、その先端部分はU字形状に成形され、分析試料が納められた被搬送物36が載置されている。また、各搬送用磁石181、182の周辺には、転動機構である車輪4が、四個ずつ計八個設けられており、各車輪4の回転によって移動子2が低温槽11上を転動できるようにされている。
【0042】この移動子2の移動軸線方向の調整方法を説明する。以下の操作は常温で行う。前記昇降機構501、502ハンガー191、192とで移動子2を持ち上げ、真空槽31に設けられた窓から位置修正用治具を挿入し、搬送用磁石181、182の中心が、それぞれ被吸引部材81、82の中心を通る鉛直軸線上に位置するようにし、その後昇降機構501、502によって移動子2を下降させ、低温槽11上に置く。図2はその状態を示した図である。
【0043】搬送先の装置である測定装置60内の搬出入室61を高真空雰囲気にしておきたい場合には、その状態から真空槽31を真空排気した後、真空槽31と搬出入室61との間の仕切バルブを開け、前記モーター24を動作させてキャリア12を移動させる。
【0044】移動子2は、キャリア12に磁気的に拘束されており、移動子2本体と低温槽11との間には車輪4が位置しているので、移動子2はキャリア12の移動に追随してころがり移動し、その搬送アーム35の先端を搬出入室61内に挿入すると搬送位置を確認できる。
【0045】その際、移動子2の移動軸15がずれており、アーム35の先端部分を正しい位置に移動させられなかった場合は、調節ねじ20によって低温槽11を動かし、移動軸15の向きを修正することができる。ずれ量が調節ねじ20で修正できる範囲を超えていた場合や、搬送用磁石181、182と高温超伝導体とをより正確に対向させたい場合には、真空槽31と搬出入室61との間の仕切バルブを閉じ、真空槽31内に大気を導入した後移動子2を配置し直し、再び搬送位置の確認を行えばよい。このように、移動子2を磁気浮上させなくても移動軸15のずれ量を検出できるので、キャリア12を超伝導臨界温度以下の温度まで冷却する必要がない。
【0046】以上説明したように、移動軸15のずれを修正した後、ホルダ91、92から被吸引部材81、82を取り去り、その代わりに高温超伝導体を装着すると、その高温超伝導体と搬送用磁石181、182は正確に対向している。
【0047】高温超伝導体に交換した後、真空槽31内を真空排気し、昇降機構501、502を動作させ、ハンガー191、192によって移動子2を持ち上げ、冷却装置23を動作させ、冷却パイプ13によって低温槽11内に充満された冷却媒体を介してキャリア12を冷却し、高温超伝導体を高温超伝導臨界温度以下の温度まで冷却し、次いで昇降機構501、502によって移動子2を下降させて行くと、ある位置で高温超伝導体が搬送用磁石181、182に及ぼす磁気的反発力と移動子2全体の荷重とが釣り合う。
【0048】このときの移動子2の磁気浮上高さをhとし、また、図2のI−I線断面の一部を示した図3(a)のように、車輪4を低温槽11上に乗せたときの搬送用磁石181、182の高さをaとすると、 h > a ……(1)となるように高さa、即ち車輪4の高さを設定しておけば、移動子2は、低温槽11と非接触で浮上することができる。
【0049】移動子2が磁気浮上している状態からハンガー191、192をわずかに降下させ、ハンガー191、192と移動子2とを非接触の状態にした後、モーター24を動作させてキャリア12を移動させると、ハンガー191、192を残した状態で、高温超伝導体の磁気的反発力と拘束力によって、移動子2がキャリア12に追随して磁気浮上移動される。
【0050】その磁気浮上移動により、搬送アーム35先端に載置された被搬送物36を搬出入室61内に搬入し、図示しないピックアップ機構によって受け渡しを行い、搬送アーム35を搬出入室61から取り出し、真空槽31と測定装置60との間に設けられた仕切バルブを閉じると搬送作業は終了する。
【0051】次に、本発明の他の実施の形態の移動子を説明する。その移動子は、図3(b)に符号2'で示す。この移動子2'が有する部材であって、前述の移動子2と同じ部材については同じ符号を付す。
【0052】この移動子2'は、前述の移動子が有する部材は全て備えている他、ころがり移動をする際に、その方向を低温槽11の長手方向に制限する規制機構7が設けられている。その規制機構7を具体的に説明すると、該規制機構7は、移動子2'の側壁面に二個ずつ計四個設けられた車輪アーム6と、その先端にそれぞれ設けられた側車輪5とで構成され、車輪4を低温槽11上に乗せたときに、各側車輪5は低温槽11の側面と接触し、移動子2'の移動軸線の方向とキャリア12の移動軸線の方向とが一致するようにされている。
【0053】そして各側車輪5の回転軸線の方向は車輪4の回転軸線の方向と垂直にされているので、キャリア12を移動させると車輪4と側車輪5とが回転して移動子2'がころがり移動をする。従って移動軸線の修正を行うときは、この移動子2'の移動は低温槽11の長手方向の移動に制限されており、低温槽11上から落下することがない。
【0054】ここで、車輪4を低温槽11上に乗せたときの搬送用磁石181、182の高さをa、低温槽11表面から側車輪5先端までの深さをb、この移動子2が磁気浮上をするときの高さをhとすると、次式、 h > a+b ……(2)を満たせば、キャリア12に設けられた高温超伝導体から及ぼされる磁気的反発力と拘束力によって、磁気浮上することができる。
【0055】他方、上記(2)式を満たさない場合でも、この移動子2'を使用して移動軸線の修正を行い、正確な方向を求めた後、この移動子2に代え、規制機構7を有さない前記移動子2や、従来技術のような車輪4を有さない移動子を、その正確な方向に向けて配置すれば、磁気浮上移動による非接触でダストフリーの搬送を行うことが可能となる。
【0056】即ち、移動軸線の向きを修正する際に用いた移動子で被搬送物の搬送も行ってもよいし、被搬送物の重量が重い場合等は、移動軸線の修正後、なるべく軽量の移動子に代えることも可能である。
【0057】また、上記実施の形態は、被吸引部材81、82をホルダ91、92に保持させて移動軸線の向きを修正した場合を説明したが、高温超伝導体と被吸引部材81、82とを一緒にキャリア12に設けてもよい。その場合には、高温超伝導体の中心を結ぶ直線上に被吸引部材81、82の中心を配置し、その中心間隔を高温超伝導体の中心間隔と同じ間隔にしておくとよい。なお、被吸引部材や搬送用磁石の数は二個に限定されるものではない。その被吸引部材は珪素鋼で構成してもよいが、被吸引部材自体を磁石で構成してもよい。
【0058】なお、本発明の転動機構は車輪に限定されるものではなく、ベアリングやころ等、移動子を摺動させずに移動させられるものであれば広く含まれる。更に、その転動機構は移動子に設ける場合に限定されるものではなく、低温槽側に設けた磁気浮上搬送装置も本発明に含まれる。
【0059】また、規制機構は、上述のように車輪アーム6と側車輪5とで構成する場合に限定されるものではなく、移動子が転がり移動する際に、その方向を低温槽の長手方向に制限し、移動子が低温槽上から落下しないようにしたものが広く含まれる。そのような規制機構は移動子に設ける場合でなく、例えば低温槽に壁を設ける等、移動子の移動方向を低温槽の長手方向に制限する構成が広く含まれる。
【0060】
【発明の効果】高温超伝導体を超伝導臨界温度以下の温度まで冷却しなくても移動子を移動させることができるので、移動軸線方向の修正を短時間で簡単に行うことができる。搬送用磁石と高温超伝導体との中心位置同士のずれを簡単に解消できるので、移動子を安定に磁気浮上移動させることが可能となる。
【0061】
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の一実施例の移動子、及び磁気浮上搬送装置を説明するための図
【図2】 その移動軸の調節の仕方を説明するための図
【図3】 (a)転動機構を説明するための図 (b)規制機構を説明するための図
【図4】 従来技術の移動子、及び磁気浮上搬送装置を説明するための図
【符号の説明】
2、2'…移動子 3…磁気浮上搬送装置 4…転動機構 7…規制機構
1、82…被吸引部材 11…低温槽 12…キャリア
13…冷却パイプ 181、182…搬送用磁石 31…真空槽
36…被搬送物

【特許請求の範囲】
【請求項1】 搬送用磁石を有し、低温槽内で超伝導臨界温度以下に冷却された高温超伝導体から及ぼされる磁気的反発力と拘束力によって浮上し、前記高温超伝導体の移動に伴って磁気浮上移動をする移動子であって、転動機構が設けられ、浮上をしていないときは前記低温槽上をころがり移動できるように構成されたことを特徴とする移動子。
【請求項2】 前記ころがり移動の方向を低温槽の長手方向に制限する規制機構が設けられたことを特徴とする請求項1記載の移動子。
【請求項3】 低温槽と、前記低温槽内に移動可能に設けられたキャリアと、前記低温槽上に昇降可能に配置された移動子と、前記移動子に設けられた搬送用磁石とを有し、前記キャリアに高温超伝導体を設け、超伝導臨界温度以下の温度に冷却したときに、その高温超伝導体から前記搬送用磁石に及ぼされる磁気的反発力と拘束力によって前記移動子が浮上し、前記高温超伝導体を移動させると前記移動子が磁気浮上移動をするように構成された磁気浮上搬送装置であって、前記移動子と前記低温槽との間には転動機構が位置するようにされ、前記移動子は、前記転動機構により、浮上をしていないときでも前記低温槽上を移動できるように構成されたことを特徴とする磁気浮上搬送装置。
【請求項4】 前記移動子が浮上をしていないときの移動を低温槽の長手方向の移動に制限する規制機構が設けられたことを特徴とする請求項3記載の磁気浮上搬送装置。
【請求項5】 前記キャリアに、超伝導臨界温度以上の温度で前記搬送用磁石に吸引される被吸引部材を配置することにより、請求項3又は請求項4のいずれか1項記載の磁気浮上搬送装置の搬送軸を合わせる搬送軸合わせ方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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