説明

移動度分析装置に組み合わされた「液滴ピックアップイオン源」及びその方法

イオン移動度分析装置は、荷電された目的分子が供される「微分型移動度分析装置」、「イオン移動度スペクトル装置」及び「微分型移動度スペクトル装置」の少なくともいずれかを含む。イオンは、キャピラリ末端にエレクトロスプレイイオン源を含む「液滴ピックアップイオン源」からイオン移動度分析装置へ供給されるとともに、前記荷電液滴は、目的分子を実質的に全く有しない混合溶媒から形成される。荷電液滴は、バッファガスが或る圧力で満たされた「ピックアップ領域」又は試料表面に近接した領域へと電場によって牽引される。ここで荷電液滴は目的分子を取り込み、「ピックアップ領域」とは別の又は一体化した、加熱脱溶媒領域の中で荷電液滴中の液体が蒸発した際に、荷電液滴中の電荷を目的分子へ移動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分子イオンのためのイオン源及びガス封入型イオン移動度分析装置に関し、また関連する装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
関連技術におけるイオン源は、目的分子が開裂しないよう、穏やかにイオンを生成する必要がある。これは、エレクトロスプレイイオン源により成され得る。エレクトロスプレイイオン源では、導電性の液体は小さなキャピラリを通って押し出される。キャピラリの出口では小さな液滴が形成されるが、これらのうち多数は電荷を帯びており、加速されて発散ビームを形成する。もしも該荷電液滴の一部が目的分子を含んでおり、液滴中の液体が蒸発したならば、液滴電荷は前記分子に留まることができる。このようなイオン源は以下のものを含む。
【0003】
1.関連技術における「エレクトロスプレイイオン源」。該エレクトロスプレイイオン源では、目的分子はイオン源に供給される導電性の液体中に溶解している。これは、(a)目的分子が前記液体(例えば、異なる溶媒の混合物)に可溶であり、及び(b)エレクトロスプレイイオン源が前記液体から荷電液滴を効率よく生成できることが必要である。
【0004】
2.試料処理が多くのアプリケーション(応用)に使用することができるような「液滴ピックアップイオン源」。このような「液滴ピックアップイオン源」は、目的分子が存在する「ピックアップ領域」中を液滴が通過する際、目的分子が液滴中に取り込まれて、微量の目的分子が溶解した荷電液滴が形成されるようなエレクトロスプレイイオン源である。該「ピックアップ領域」では、荷電液滴は次の場合に該分子を取り込むことができる。(a)目的分子が該「ピックアップ領域」の中で、該領域に入り込んだ荷電液滴の表面に吸着され得る自由分子として存在している場合(このような自由分子は、例えば固体又は液体試料からレーザービームによって放出され得る)、(b)目的分子が「ピックアップ領域」内部の固体又は液体試料の表面に存在しており、荷電液滴の表面と相互作用する際に、その荷電液滴の表面に直接吸着され得る場合、及び(c)目的分子が別個に形成された中性液滴中に予め溶解されていて、「ピックアップ領域」中の荷電液滴と融合することができる場合。
【0005】
この「液滴ピックアップイオン源」の関連技術版はこれまで用いられてきたが、あくまで質量分析装置のイオン源としてのみであった。
【0006】
関連技術である移動度分析装置では、電場がガス中において分子イオン雲を或る平均牽引速度で牽引するが、この平均牽引速度は電場強度と共に増大する。このときの比例定数がイオン移動度であって、このイオン移動度は分子断面積にほぼ反比例して増加する。このような移動度分析装置は、以下のものを含む。
【0007】
1.「微分型移動度分析装置(DMA)」。略一定の電場が、ガスの流れに対して略垂直方向にイオンを牽引する。目的イオンがガスの流れを横切るのに必要な時間に応じて、ガスの流れが電場と垂直方向にイオンをより短く、又はより長く移動させる。
【0008】
2.「イオン移動度スペクトル装置(IMS)」。略一定の電場が、静止ガス又は電場に対して略平行方向に流れるガス中においてイオンを牽引する。目的イオンの平均牽引速度に応じ、該イオンは電場が存在する領域を異なる時間で通過する。該電場は静電場であるが、部分的にパルス状としたり、或いは進行波とすることができる。
【0009】
3.「微分型移動度スペクトル装置(DMS)」。与えられたガス中で、異なるイオンの移動度は電場の強度と共に異なる様式で変化する。このようなDMSでは、高周波電場がガスの流れに対し略垂直方向に、2つの電極間でイオンを前後に牽引する。高周波電場の波形は非対称に設定される。その結果、高電場は第一の方向にイオンを短時間牽引し、低電場はより第二の(反対の)方向にイオンを長時間牽引する。こうすると、2つの電極間を通過できるイオンは、高電場での移動度と低電場での移動度の比率が、高周波波形の非対称性に応じた特定の値を有するイオンとなる。このようなシステムは、平面電極又は二重円筒電極間に形成される電場を用いて開発されてきた。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
「液滴ピックアップイオン源」はこれまで関連技術において質量分析装置にイオンを導入するためにのみ用いられてきたものであるが、本発明の様々な態様では、生成された分子イオンがガス封入型移動度分析装置へ導入されるように改変される。これにより、以下のことが可能である。
【0011】
1.関連技術であるかさ高く高価格な質量分析装置よりも、少なくとも1台の(例えば軽量で低価格な)移動度分析装置を用いてイオンの移動度スペクトルを記録すること。
【0012】
2.少なくとも1台の(例えば軽量で低価格な)移動度分析装置を、移動度フィルターとして用いること。該フィルターから、或る範囲の移動度のイオンのみ、或いはその移動度「K」が最大値より小さい「Kmax≧K」か、最小値より大きい「Kmin<K」イオンのみが質量分析装置の中へ入る。この場合、移動度により選択されたイオンの質量スペクトルが得られるが、これは、全ての移動度のイオンの質量スペクトルに比べ、特定の分子に関するより高精度な情報を提供する。この情報から、イオンの質量とイオンの移動度から成る2次元強度分布をも構築できる。
【0013】
「液滴ピックアップ領域」では、目的分子は「ピックアップ領域」に存在するか、或いは「ピックアップ領域」に入っていく。ここで目的分子は、エレクトロスプレイイオン源から同じ「ピックアップ領域」に入ってきた荷電液滴に取り込まれる。荷電液滴は、エレクトロスプレイイオン源によって混合溶媒から形成されるが、目的分子はこの中にごく微量しか溶解していない。荷電液滴中の液体が蒸発すると、液滴電荷は取り込まれた目的分子へと移動する。
【0014】
目的分子が荷電液滴の表面に吸着可能な自由分子として「ピックアップ領域」に導入されるのは、バッファガス中の蒸気としてか、或いはレーザービーム(図1)やエネルギー粒子ビームの衝突によって固体又は液体試料の表面から放出された際であっても良い。目的分子は、「ピックアップ領域」の中で、固体又は液体試料の表面に存在することもできる。この場合、荷電液滴が試料と直接相互作用する際に、目的分子は荷電液滴に取り込まれる(図2)。多くの移動度スペクトル又は移動度により選択されたイオンの質量スペクトルが記録され得る時、バッファガス中の蒸気はガスクロマトグラフからの流出気体とすることができ、静置液体試料は液体クロマトグラフからの流出液とすることができる。どちらの場合でも、クロマトグラフ流出物中の新しい分子の挙動を記録またはモニターできる。また、試料表面での目的分子の局所分布も、レーザービームを液体又は固体試料の表面上にて走査したり、又は荷電液滴の拡散雲と試料表面との相互作用位置を固体又は液体試料上にて走査して記録され得る。
【0015】
また、目的分子が荷電液滴の表面に吸着可能な自由分子として「ピックアップ領域」の中へ導入されるのは、「ピックアップ領域」の中へ直接(図3)及び/又はバッファガス蒸気と共に何らかの「混合室」(図4)を通ってであっても良い。これは、例えばガスクロマトグラフからの流出気体中の新しい分子の挙動を記録又はモニターするために(図3)、多くの移動度スペクトル又は移動度により選択されたイオンの質量スペクトルが記録される場合に有益である。
【0016】
目的分子は、別個に形成され、バッファガス中に浮遊している「中性液滴」中に取り込まれて「ピックアップ領域」内に直接(図3)、及び/又は何らかの「混合室」を通って導入されても良い(図4)。目的分子の荷電液滴への移動は、中性液滴が「ピックアップ領域」で荷電液滴と融合し、及び/又は中性液滴の一部が既に混合室内にある場合に成され得る。或いは、目的分子の荷電液滴への移動は、中性液滴中の液体が蒸発し、目的分子が「ピックアップ領域」(図3)及び/又は部分的にはすでに混合室(図4)において荷電液滴の表面に吸着可能な自由分子となる場合に成され得る。
【0017】
中性液滴への目的分子の取り込みは、中性液滴を構成する液体に目的分子が溶解することによって成され得る。この液体は、シリンジ中又は液体クロマトグラフのキャピラリ中の液体でもよい。或いは該分子を上流のどこかでの閉空間で中性液滴に吸着させることにより、取り込むことができる。該閉空間では、該分子は自由分子として存在可能である(例えば、レーザービーム又はエネルギー粒子ビームによって試料から放出された、又はガスクロマトグラフの流出気体等の何らかのバッファガス中の蒸気として)。
【0018】
前述の各種の場合、クロマトグラムにおける異なる分子の出現時刻は、移動度スペクトル中の変化によってモニターすることができ、或いは移動度により選択された分子の質量スペクトルの変化によってより高精度でモニターすることができる。これは、クロマトグラフからの流出物中で変化する光吸収によって、或いは利用可能な全ての移動度のイオンから得られる質量スペクトルの変化によって大雑把にモニターするという関連技術と対比できると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
本発明の上述の、及び/又は他の様々な態様は、次の添付図と併せて、後述する各種の代表的な実施例の記載から明らかにされ、より容易に理解され得るであろう。
【図1】「液滴ピックアップイオン源」及び移動度分析装置の第一の非限定的実施例の模式図。
【図2】「液滴ピックアップイオン源」及び移動度分析装置の第二の非限定的実施例の模式図。
【図3】「液滴ピックアップイオン源」及び移動度分析装置の第三の非限定的実施例の模式図。
【図4】「液滴ピックアップイオン源」及び移動度分析装置の第四の非限定的実施例の模式図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の各種の実施例を、添付した図面を参照しながらより詳細に説明する。以下の説明の中で、図中の同じ参照番号は、両図において同じ構成要素を表すために用いられる。詳細な構成や要素の配置など、明細書で定義されている事項は、本発明の包括的理解を助けるために提供されているに過ぎない。従って、本発明を該定義事項に限定されることなく実施し得ることは明らかである。また、周知の機能又は構成については、本発明を不必要な詳細な事柄において不明瞭にする恐れがあるため詳しく説明しない。
【0021】
図1は、「液滴ピックアップイオン源」及び移動度分析装置の第一の非限定的実施例の模式図である。移動度分析装置1は、イオンが入口格子又はアパーチャ2を通して移送され、移動度を分析されたイオンがイオン検出器3で記録され得るか、或いは質量分析装置の中へ入るように設けられている。エレクトロスプレイイオン源のキャピラリ4や、加速された荷電液滴のビーム5の境界線もまた示されている。レーザ6はビーム7を発生し、そのビーム7は可傾ミラー8によって方向付けられ、レンズ9を通って、可動支持台11上に適宜載置された固体又は液体の試料10へと進む。
【0022】
レーザビーム7は、目的分子を試料10から放出させることができる。この時、前記分子は試料10から拡散雲12へ移動する。移動度分析装置1でのイオン運動方向13は、荷電液滴のビームの主方向14に対して或る傾斜角度15で傾けられる。
【0023】
イオン移動度分析装置1は、イオン移動度スペクトル装置(IMS)として示されている。イオンは移動度分析装置1の中へ、格子2を通って加速される。移動度分析装置1の中では、イオンはバッファガス中を別の電場によって牽引され、イオン検出器3にて記録される。
【0024】
該イオン信号の出現時刻から、移動度分析装置中のイオン速度を求めることができ、従って対応するイオン移動度を求めることができる。或いは、該検出器3を、一定時間開くイオンシャッターに置き替えることができる。この一定時間の間、特定の移動度を有するイオンが、次に配置された質量分析装置の入口へと送られ得る。
【0025】
エレクトロスプレイキャピラリ4の端から、荷電液滴はビーム5の中へ加速される。図示される「液滴ピックアップイオン源」において、荷電液滴は、目的分子が殆ど溶解していない導電性の混合溶媒から形成されるものとする。該目的分子は、レーザビーム7によって試料から放出された後、「ピックアップ領域」中の荷電液滴の表面に、自由分子として吸着される。該レーザビームは、或る角度に配置され、ミラー8によって偏向させられ、さらにレンズ9により可動支持台11によって所望の位置に載置された試料10上の微細なスポットへ集束される。
【0026】
試料10は、次のようなものとすることができる。
【0027】
1.固体試料。この場合、試料表面上の任意のスポットにおける分子を分析することができる。従って、スポットの位置はミラー8及び/又は可動支持台11によってレーザパルス毎に変えられる。
【0028】
2.表面上でレーザービームが(例えばテレビ画面のように)走査される固体試料。得られた移動度スペクトル又は移動度により選択された分子の質量スペクトルが、いろいろな分子の局所分布を明らかにする。
【0029】
3.液体試料。この場合、レーザスポットの位置は、対流によって液体の表面が新しくなる間、固定され得る。及び/又は、
【0030】
4.液体クロマトグラフから流出する液体試料。新しい目的分子がクロマトグラム中に出現するとき、移動度スペクトルが経時的に変化する。
【0031】
前述の場合、取り込まれた目的分子は、液滴の液体が蒸発して、取り込まれた分子へ液滴電荷が移動する際にイオン化される。
【0032】
「液滴ピックアップイオン源」では、キャピラリ4は「エレクトロスプレイイオン源」のキャピラリである。さらに、「ピックアップ領域」の主な部分は、荷電液滴のビーム5と、放出された自由分子の拡散雲12とが重なり合った部分である。移動度分析装置中のイオン運動方向13は、荷電液滴によるビーム方向14に対し、前記傾斜角度15だけ傾いている。この角度は、殆どの分子イオンはイオン移動度スペクトル装置へ入ることができるが、荷電液滴はごく僅かしか入れないように選択される。
【0033】
図2は、「液滴ピックアップイオン源」及び移動度分析装置の第二の非限定的実施例の模式図である。移動度分析装置1は、イオンが入口格子又はアパーチャ2を通して移送され、移動度を分析されたイオンがイオン検出器3によって記録され得るか、或いは質量分析装置の中へ入り得るように設けられている。エレクトロスプレイイオン源のキャピラリ4や、加速された荷電液滴のビーム5の境界線もまた示されている。該実施例では、荷電液滴のビームは固体又は液体の試料10へと向けられる。試料は、荷電液滴が試料に衝突する範囲を変更できるように、例えば荷電液滴が試料表面と相互作用して目的分子をピックアップする範囲を変更できるように、可動支持台11の上に載置される。
【0034】
移動度分析装置1の中のイオン運動方向13は、荷電液滴のビームの主方向14に対し或る傾斜角度15で傾けられ、且つ両方とも試料表面に対して傾けられる。
【0035】
第1の実施例と同様に、イオン移動度分析装置1はイオン移動度スペクトル装置(IMS)として示されている。イオンは移動度分析装置1の中へ、格子2を通って加速される。イオン移動度分析装置1の中では、イオンはバッファガス中を別の電場によって牽引され、イオン検出器3で記録される。該イオン信号の出現時刻から、移動度分析装置中のイオン速度と、それに対応するイオン移動度を求めることができる。或いは、該検出器3を、一定時間開くイオンシャッターと取り替えることができる。この一定時間の間、特定の移動度を有するイオンが、次に配置される質量分析装置の入口の方へと送られる。
【0036】
図3は、「液滴ピックアップイオン源」及び移動度分析装置の第二の非限定的実施例の模式図である。移動度分析装置1は、イオンが入口格子又はアパーチャ2を通して移送され、移動度を分析されたイオンがイオン検出器3によって記録され得るか、或いは質量分析装置の中へ入り得るように設けられている。エレクトロスプレイイオン源のキャピラリ4や、加速された荷電液滴のビーム5の境界線もまた示されている。
【0037】
キャピラリ16は、バッファガスを拡散雲17として放出し、拡散雲17は蒸気又は別の発生器で形成された中性液滴を「ピックアップ領域」へ運ぶように設けられている。移動度分析装置中のイオン運動方向13は、荷電液滴のビーム方向14に対し、或る傾斜角度15で傾けられる。
【0038】
第1の実施例と同様に、イオン移動度分析装置1はイオン移動度スペクトル装置(IMS)として示されている。イオンは移動度分析装置1の中へ、格子2を通って加速される。イオン移動度分析装置1の中では、イオンはバッファガス中を別の電場によって牽引され、イオン検出器3にて記録される。該イオンの信号の出現時刻から、移動度分析装置中のイオン速度と、それに対応するイオン移動度を求めることができる。或いは、該検出器3を、一定時間開くイオンシャッターと取り替えることができる。この一定時間の間、特定の移動度を有するイオンが、次に配置される質量分析装置の入口の方へと送られる。
【0039】
キャピラリ4から荷電液滴が加速され、発散ビーム5を形成する。図示される「液滴ピックアップイオン源」において、荷電液滴は、目的分子が殆ど溶解していない導電性の混合溶媒から形成される。該目的分子は、「ピックアップ領域」中の荷電液滴の中に取り込まれる。これは「ピックアップ領域」の中で、以下のような場合に起こり得る。
【0040】
1.該荷電液滴が、目的分子が溶解した混合溶媒又は目的分子が殆ど溶解していない混合溶媒から別個に形成された中性液滴と融合した場合。後者の場合、該中性液滴は固体又は液体試料の表面と相互作用したか、又は、目的分子を含むガスが封入された空間を通った時に目的分子をピックアップしている。該中性液滴は、拡散雲17を形成するバッファガスにより運ばれ、第2のキャピラリ16から噴出する。又は、
【0041】
2.自由な目的分子が、中性液滴中の液体が蒸発した後に、拡散雲17の中に存在する場合。又は、
【0042】
3.目的分子の蒸気が拡散雲17の中に存在する場合。もしガスクロマトグラフからの流出気体が分析に供されるならば、このような蒸気は経時的に変化するので、多くの移動度スペクトル又は移動度により選択されたイオンの質量スペクトルが記録される必要がある。
【0043】
上述の場合、取り込まれた目的分子は、荷電液滴の液体が蒸発し、取り込まれた分子へ液滴電荷が移動する際にイオン化される。
【0044】
「液滴ピックアップイオン源」の主要部は「ピックアップ領域」である。例えば、荷電液滴のビーム5と、蒸気及び/又は中性液滴を運ぶバッファガスの拡散雲17とが重なり合った部分である。移動度分析装置におけるイオン運動方向13は、荷電液滴のビーム方向14に対し或る傾斜角度15で傾いている。この角度は、殆どの分子イオンがイオン移動度スペクトル装置に入るが、中性及び荷電液滴は実質的に全く入らないように選択され得る。
【0045】
図4は、「液滴ピックアップイオン源」及び移動度分析装置の第三の非限定的実施例の模式図である。
【0046】
移動度分析装置1は、イオンが入口格子又はアパーチャ2を通して移送され、移動度を分析されたイオンがイオン検出器3によって記録され得るか、或いは質量分析装置の中へ入り得るように設けられている。また、「混合室」18は、荷電液滴と、中性液滴又は蒸気を運ぶバッファガスとが、キャピラリ4及び16を通じて内部へ導入され、共にキャピラリ19を通じて「ピックアップ領域」へ送られるように設けられている。第4のキャピラリ20は、目的の蒸気を含むバッファガスだけが「混合室」18に運ばれるように、設けられてもよい。また、第5のキャピラリ21も設けても良い。これを通じてバッファガスが、全体の気圧を一定の値に調節するために排気され得る。移動度分析装置におけるイオン運動方向13は、荷電液滴のビーム方向14に対し或る傾斜角度15で傾けられる。
【0047】
第1の実施例と同様に、イオン移動度分析装置1はイオン移動度スペクトル装置(IMS)として示されている。イオンは移動度分析装置1の中へ、格子2を通って加速される。イオン移動度分析装置1の中では、イオンはバッファガス中を別の電場によって牽引され、イオン検出器3にて記録される。該イオン信号の出現時刻から、移動度分析装置中のイオン速度と、それに対応するイオン移動度を求めることができる。或いは、該検出器3を、一定時間開くイオンシャッターと取り替えることができる。この一定期間の間、特定の移動度を有するイオンが、次に配置される質量分析装置の入口の方へと送られる。
【0048】
エレクトロスプレイイオン源のキャピラリ4から、荷電液滴は、ごく微量の目的分子しか含まない混合溶媒から生成された荷電液滴と共に混合室18へ送られる。キャピラリ16を通じ、目的分子を取り込んで別個に生成した中性液滴が、目的分子の蒸気を多少含むバッファガスと共に、混合室18の中へ送られる。
【0049】
キャピラリ19を経由して、キャピラリ4及び16から流れる混合ガスの一部は「ピックアップ領域」へと運ばれる。キャピラリ20を経由して、混合室18へさらにガスが導入されてバッファガスの混合や圧力を制御する。また、別のキャピラリ21を経由して、混合室18の中のバッファガスの一部が排気される。キャピラリ19を経由して、荷電液滴及び中性液滴を含む混合室18中のガスが、発散ビーム22として「ピックアップ領域」の中へ現れる。混合室内又はピックアップ領域内のどちらかで、荷電液滴は中性液滴と融合し、より大きな荷電液滴を形成する。また、自由分子は最初の荷電液滴又はより大きな新しい液滴に吸着する。
【0050】
移動度分析装置の中のイオン運動方向13は、荷電液滴のビーム方向14に対し前記傾斜角度15で傾けられる。この角度は、大部分の分子イオンはイオン移動度分析装置へ入るが、中性及び荷電液滴は実質的に入れないように選択され得る。
【0051】
上述の場合、取り込まれた目的分子は、荷電液滴の液体が蒸発し、取り込まれた分子へ液滴電荷が移動する際にイオン化される。
【0052】
実施例によれば、移動度分析装置1は、異なる移動度のイオンを異なる時間に、次に配置される第2の移動度層又は質量分析装置に送る移動度分離装置として使用できる。同時に、移動度分析装置は移動度スペクトル装置としても用いることができる。これにより、異なる移動度のイオンが異なる時間に記録され、さらに一つの移動度スペクトル(或いは連続した複数の移動度スペクトル)が得られる。
【0053】
さらに、イオン移動度分析装置中の各々のガス圧とピックアップ領域中のガス圧は、略同じとしてもよい。或いは、イオン移動度分析装置のガス圧は、ピックアップ領域のガス圧より少なくとも20mbar高くか又は低くしてもよい。さらに、移動度分析装置中のガス圧は、大気圧と同程度か、あるいは大気圧より実質的に低くてもよい。
【0054】
上述した各種の実施例では、荷電液滴中の液体は「ピックアップ領域」とは別の、又は一体化した、加熱脱溶媒領域で蒸発させてもよい。
【0055】
また上述した実施例では、移動度分析装置は、移動度を分析されたイオンの少なくとも一部を、さらなる移動度分析のために別の移動度分析装置へと送る、及び/又は移動度を選択されたイオンの質量スペクトルを記録するため質量分析計に送る、移動度フィルタとしても用いることができる。ここでは、移動度を分析される一部のイオンの移動度(K)は、(a)最大移動度以下(Kmax≧K)及び(b)最大移動度以下かつ最小移動度以上(Kmax≧K≧Kmin)の少なくともいずれかである。
【0056】
上述した各種の実施例は単なる例示に過ぎず、限定的に解釈されるものではない。本願の教示するところは、他のタイプの装置にも容易に適用できる。また、実施例の記述は、説明を意図したものであって、請求項の範囲を限定するものではなく、多くの代替物、改良例及び変形例があることは当業者にとって明らかであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)「微分型移動度分析装置」(DMA)、(b)「イオン移動度スペクトル装置(IMS)」及び(c)「微分型移動度スペクトル装置(DMS)」のうちの少なくとも一つを有し、荷電された目的分子が供給されるイオン移動度分析装置であって、
イオンは、目的分子を実質的に含まない混合溶媒から荷電液滴を形成するエレクトロスプレイイオン源を備える「液滴ピックアップイオン源」から前記イオン移動度分析装置に供給され、
前記荷電液滴は、固体又は液体試料の表面若しくはバッファガスが或る圧力で満たされた空間である「ピックアップ領域」の中へ電場によって牽引され、該「ピックアップ領域」では前記荷電液滴が前記目的分子を取り込み、前記「ピックアップ領域」とは別、又は一体化した加熱脱溶媒領域で前記荷電液滴中の液体を蒸発させて、前記荷電液滴の電荷を前記目的分子へ移動させる、イオン移動度分析装置。
【請求項2】
前記エレクトロスプレイイオン源と前記移動度分析装置の間に配置される前記「ピックアップ領域」において、前記目的分子はレーザビーム又はエネルギー粒子ビームが前記試料上に衝突することにより放出される自由分子として存在するとともに、前記試料は固体及び液体のうちのどちらかである、請求項1に記載のイオン移動度分析装置。
【請求項3】
前記レーザビームは前記試料の表面の或る一点に集束される、請求項2に記載のイオン移動度分析装置。
【請求項4】
前記集束されたレーザビームは、(a)レーザビームを偏向させるか、又は(b)試料を動かす、ことにより、その集束点が試料上を移動するように前記試料の表面を走査する、請求項3に記載のイオン移動度分析装置。
【請求項5】
得られた移動度スペクトル及び移動度により選択された質量スペクトルのうち少なくともいずれかが、試料上のいろいろな目的分子の局所分布を決定するために用いられる、請求項4に記載のイオン移動度分析装置。
【請求項6】
試料は少なくとも液体クロマトグラフからの流出液の一部であり、目的分子のうち新しいものが前記液体クロマトグラフの前記流出液中に現れると、移動度スペクトルが経時的に変化する、請求項3に記載のイオン移動度分析装置。
【請求項7】
前記目的分子は、前記「ピックアップ領域」の中においてバッファガス中の蒸気として別のキャピラリにより前記「ピックアップ領域」の中へ導入された後、自由分子として存在する、請求項1に記載のイオン移動度分析装置。
【請求項8】
前記蒸気及び前記バッファガスは、少なくともガスクロマトグラフからの流出気体の一部を含み、前記目的分子のうち新しいものが前記ガスクロマトグラフの前記流出気体の中に現れると、移動度スペクトルが経時的に変化する、請求項7に記載のイオン移動度分析装置。
【請求項9】
前記荷電液滴が固体又は液体試料の表面と直接相互作用する際に、目的分子が前記荷電液滴の中に取り込まれる、請求項1に記載のイオン移動度分析装置。
【請求項10】
荷電液滴の拡散雲が異なる時間に試料の異なる場所に向かって押し出されることにより、前記荷電液滴が試料表面を効率よく走査し、移動度スペクトル又は移動度により選択された質量スペクトルのうち少なくともいずれかが試料上のいろいろな目的分子の局所分布を決定するために用いられる、請求項8に記載のイオン移動度分析装置。
【請求項11】
別のキャピラリが追加され、前記キャピラリを通じて、前記目的分子を含み別個に生成された中性液滴が前記「ピックアップ領域」へ導入されるイオン移動度分析装置であって、前記目的分子は、前記中性液滴が試料表面と相互作用した際、若しくは前記中性液滴が、目的分子が蒸気の分子として或いはレーザビーム又はエネルギー粒子ビームの衝突によって液体又は固体対象物から放出された分子として存在するバッファガスを通過した際に前記中性液滴中に溶解した分子であるか、或いは前記「ピックアップ領域」より上流で前記中性液滴中に取り込まれた分子である、請求項1に記載のイオン移動度分析装置。
【請求項12】
前記中性液滴は、前記「ピックアップ領域」又は前記「ピックアップ領域」で前記中性液滴中の液体が蒸発し、目的分子が前記荷電液滴の表面に吸着可能な自由分子として存在してから、前記荷電液滴と融合するとともに、荷電液滴は前記「ピックアップ領域」において目的分子を取り込んで存在し、前記荷電液滴中の液体が蒸発すると、液滴が目的分子へと液滴電荷を移動させる、請求項11に記載のイオン移動度分析装置。
【請求項13】
目的分子の荷電液滴への取り込みは、中性液滴及び荷電液滴がそれぞれ別のキャピラリを経由して導入される混合室中で部分的に起こり、前記混合室からのガスは前記「ピックアップ領域」へ別のキャピラリを通じて導入され、この時バッファガスが他のキャピラリを通じて混合室へ導入されるか、或いはさらに別に追加されたキャピラリを通じて前記混合室中のガスの一部が排気される、請求項12に記載のイオン移動度分析装置。
【請求項14】
移動度スペクトル装置として用いられ、異なる移動度を持つイオンの少なくとも一部が異なる時間に記録されることにより、一つ又は連続した移動度スペクトルが得られる、請求項1に記載のイオン移動度分析装置。
【請求項15】
特定の移動度を持つイオンが記録される際に、イオンの一部が別の移動度分析装置へとさらなる移動度分析のために移動され、及び/又は移動度により選択されたイオンの質量スペクトルを記録するために質量分析装置へ移動される、請求項14に記載のイオン移動度分析装置。
【請求項16】
移動度を分析されたイオンの少なくとも一部をさらなる移動度分析のために別の移動度分析装置へ送り、及び/又は移動度により選択されたイオンの質量スペクトルを記録するために質量分析装置へ送るための移動度フィルタとして用いられ、移動度を分析される一部のイオンの移動度(K)は、少なくとも(a)最大移動度以下(Kmax≧K)及び(b)最大移動度以下かつ最小移動度以上(Kmax≧K≧Kmin)のいずれかである、請求項1に記載のイオン移動度分析装置。
【請求項17】
時間依存型の移動度スペクトル装置であり、異なる時間に異なる移動度を持つイオンを、次に配置された移動度分析装置又は質量分析装置へと通過させる、請求項1に記載のイオン移動度分析装置。
【請求項18】
前記イオン移動度分析装置中と前記「ピックアップ領域」中のガス圧が略同じである、請求項1に記載のイオン移動度分析装置。
【請求項19】
前記イオン移動度分析装置中のガス圧が、「ピックアップ領域」のガス圧よりも少なくとも20mbar高いか又は低い、請求項1に記載のイオン移動度分析装置。
【請求項20】
前記イオン移動度分析装置中のガス圧が大気圧と同程度である、請求項1に記載のイオン移動度分析装置。
【請求項21】
前記イオン移動度分析装置中のガス圧が大気圧よりも実質的に低い、請求項1に記載のイオン移動度分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2011−520132(P2011−520132A)
【公表日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−509605(P2011−509605)
【出願日】平成21年5月12日(2009.5.12)
【国際出願番号】PCT/US2009/043530
【国際公開番号】WO2009/140227
【国際公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】