説明

移動式チャンバー装置及び移動式チャンバーによる試験方法

【課題】
建築現場に出向いて、建築物に使用する建築材料や家具等の使用実態に即したシックハウスの原因物質の捕集が可能な移動式チャンバー装置及び移動式チャンバーによる試験方法を提供することにある。
【解決手段】
車両の荷台に設けられたチャンバーと、チャンバー内に送り込む空気を清浄するフィルタと、清浄された空気を所定の温度及び所定の湿度に保持する恒温恒湿装置と、チャンバー内を所定温度に保持するヒーターと、チャンバー内の空気を捕集する空気捕集装置とを備え、車両により移動可能に設けられたチャンバー内に建築材料や家具等の試験部材を収納し、試験部材から放散される物質を含むチャンバー内の空気を捕集することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築材料等から放散する化合物を捕集するための移動式チャンバー装置及び移動式チャンバーによる試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、建築材料や家具等から放散するシックハウスの原因物質である揮発性有機化合物(VOC)、ホルムアルデヒド及びその他の化合物を捕集して測定する放散測定方法に小型チャンバー法がある。この放散測定方法には、小型チャンバーが用いられてきた。
【0003】
従来の小型チャンバーとしては、例えば、非特許文献1に示される500L小型チャンバーがある。この500L小型チャンバーは、容量が500リットルのチャンバー、空気清浄装置、温度・湿度制御装置、流量・風速制御装置、空気捕集装置、分析装置等から構成されている。チャンバー内には、空気清浄装置で清浄された空気が流量・風速制御装置で流量や風速を制御されて送り込まれている。また、チャンバー内の温度や湿度は、温度・湿度制御装置により、VOC等の化合物の放散に適した条件に保持されている。
【0004】
測定にあたっては、試験片をチャンバーに収納し、試験片からチャンバー内の空気中にVOC等が放散され、その放散されたVOC等を含むチャンバー内の空気を、空気捕集装置で捕集する。そして、捕集した空気を分析装置により分析する。
【非特許文献1】日本規格協会発行,「建築材料の揮発性有機化合物(VOC)、ホルムアルデヒド及び他のカルボニル化合物放散測定法−小型チャンバー法」,JIS A 1901,平成15年1月20日制定
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の小型チャンバーでは、チャンバーが小さいと共に、チャンバーが分析施設内に据え付けられていることから、建築材料丸ごとではなく建築材料の一部分にしか過ぎない試験片しか測定できず、建築材料や家具等の使用実態に即した捕集が困難で、建築物の完成後にシックハウスの原因物質が問題になることがあった。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、建築現場に出向いて、建築物に使用する建築材料や家具等の使用実態に即したシックハウスの原因物質の捕集が可能な移動式チャンバー装置及び移動式チャンバーによる試験方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の移動式チャンバー装置は、車両の荷台に設けられたチャンバーと、チャンバー内に送り込む空気を清浄するフィルタと、清浄された空気を所定の温度及び所定の湿度に保持する恒温恒湿装置と、チャンバー内を所定温度に保持するヒーターと、チャンバー内の空気を捕集する空気捕集装置とを備え、車両により移動可能に設けられたチャンバー内に建築材料や家具等の試験部材を収納し、試験部材から放散される物質を含むチャンバー内の空気を捕集することを特徴とする。
【0008】
請求項2記載の移動式チャンバー装置は、チャンバーが、車両の荷台用のコンテナにより形成されていることを特徴とする。
【0009】
請求項3記載の移動式チャンバー装置は、ヒーターが、住宅の床暖房用ヒーターで、チャンバーの壁内に配設されていることを特徴とする。
【0010】
請求項4記載の移動式チャンバーによる試験方法は、車両の荷台に設けられたチャンバーと、チャンバー内に送り込む空気を清浄するフィルタと、清浄された空気を所定の温度及び所定の湿度に保持する恒温恒湿装置と、チャンバー内を所定温度に保持するヒーターと、チャンバー内の空気を捕集する空気捕集装置とを備えた移動式チャンバー装置を用いて、車両により移動可能に設けられた該チャンバー内に建築材料や家具等の試験部材を収納し、試験部材から放散される揮発性有機化合物やホルムアルデヒド等のシックハウスの原因物質を含むチャンバー内の空気を捕集することを特徴とする。
【0011】
請求項5記載の移動式チャンバーによる試験方法は、移動式チャンバー装置のチャンバーが、車両の荷台用のコンテナにより形成されていることを特徴とする。
【0012】
請求項6記載の移動式チャンバーによる試験方法は、移動式チャンバー装置のヒーターが、住宅の床暖房用ヒーターで、チャンバーの壁内に配設されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明によれば、車両により移動可能に設けられたチャンバー内に建築材料等の試験部材を収納することから、建築現場に出向いて、建築物に使用する建築材料や家具等の使用実態に即したシックハウスの原因物質の捕集が可能である。
【0014】
請求項2の発明によれば、チャンバーが、既存の車両の荷台用のコンテナにより形成されていることから、容量の大きなチャンバーを容易に形成でき、装置のコストを抑えることが可能である。また、荷台用のコンテナは床面が長方形で、長手の建築材料や家具等を丸ごと収納してシックハウスの原因物質の捕集が可能である。
【0015】
請求項3の発明によれば、ヒーターが、住宅の床暖房用ヒーターであることから、建築材料や家具等の使用環境に近似した環境での測定ができで、シックハウスの原因物質の実態に即した捕集が可能である。
【0016】
請求項4の発明によれば、車両により移動可能に設けられたチャンバー内に建築材料等の試験部材を収納することから、建築現場に出向いて、建築物に使用する建築材料や家具等の使用実態に即したシックハウスの原因物質の捕集が可能である。
【0017】
請求項5の発明によれば、チャンバーが、既存の車両の荷台用のコンテナにより形成されていることから、容量の大きなチャンバーを容易に形成でき、装置のコストを抑えることが可能である。また、荷台用のコンテナは床面が長方形で、長手の建築材料や家具等を丸ごと収納してシックハウスの原因物質の捕集が可能である。
【0018】
請求項6の発明によれば、ヒーターが、住宅の床暖房用ヒーターであることから、建築材料や家具等の使用環境に近似した環境での測定ができで、シックハウスの原因物質の実態に即した捕集が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の形態について図面を参照しながら具体的に説明する。図1は、本発明に係る移動式チャンバー装置の外観を示す説明図である。図2は同移動式チャンバー装置の背面の外観を示す説明図、図3は同移動式チャンバー装置の側面の外観を示す説明図である。図4は、同移動式チャンバー装置の構成を示す構成図である。本発明の形態における移動式チャンバー装置1は、建築材料や家具等から放散するシックハウスの原因物質である揮発性有機化合物(VOC)、ホルムアルデヒド及びその他の化合物を捕集して測定する放散測定に用いるチャンバーである。
【0020】
本実施例の移動式チャンバー装置1は、車両であるトラック5と、トラック5の荷台に搭載されたコンテナ10と、空気供給制御装置8と、空気捕集装置18等から構成されている。コンテナ10は、一般に市販されるトラックの荷台用のコンテナと同等のもので、例えば内外装面がステンレスで形成されている。コンテナ10の大きさは、例えば、奥行約4m、幅約1.8m、高さ約1.6mである。ただし、コンテナ10の容量は、トラック5に積載が許された範囲であれば特に制限されるものではない。また、コンテナ10の内壁面には、ヒーター11が内装されている。このヒーター11は、住宅の床暖房用に用いられているものである。ヒーター11としては、例えば、半導体カーボンを発熱体として用いたものがある。また、コンテナ10の庫内10aには、網状又はすのこ状の棚13が設けられ、建築材料W1〜W5は、その棚13の上に載置される。尚、このコンテナ10が、建築材料W1〜W5から放散する揮発性有機化合物(VOC)、ホルムアルデヒド及びその他の化合物を捕集するためのチャンバーとなる。また、捕集するにあたって、庫内10aの密閉度が問題となるが、通常のトラック5に用いられるコンテナは密封度が高く、既製品を用いることが可能である。
【0021】
空気供給制御装置8は、コンテナ10の庫内10aに空気を送り、その空気の温度や湿度を制御するための装置である。空気供給制御装置8は、ケミカルフィルタ20、恒温恒湿装置21,バルブ24等から構成されている。ケミカルフィルタ20は吸気口30から取り入れた外気を清浄するためのもので、清浄された空気はダクト31を介して恒温恒湿装置21に送られる。恒温恒湿装置21は、内部の空気の温度及び湿度を操作パネル22,23で定めた値に保持する装置である。恒温恒湿装置21から出た空気は、空気の流量を制御するバルブ24及びダクト32を介して、コンテナ10の庫内10aに送り込まれる構成となっている。尚、庫内10aに流れ込む空気の流量を測定するために、ダクト32に流量計25が設けられている。また、庫内10aの温度を測定するために温度計26が、庫内10aの湿度を測定するために湿度計27がそれぞれ設けられている。この温度計26や湿度計27の表示部は、恒温恒湿装置21を覆う筐体28の側面に設けられている。尚、空気供給制御装置8は、トラック5の移動の際には、コンテナ10の庫内10aに収納されている。
【0022】
空気捕集装置18は、コンテナ10の庫内10aの空気を捕集し、捕集した空気をサンプルとして持ち帰り可能にするものである。コンテナ10の背面には、捕集口15が設けられ、その捕集口15に差し込まれたダクト33により空気捕集装置18が庫内10aの空気を捕集可能となっている。
【0023】
次に、本実施例の移動式チャンバー装置1の使用方法を説明する。まず、空気供給制御装置8をコンテナ10に収納したトラック5が、家屋等の建築物の建築現場に出向く。そして、その建築現場で、図1に示すように、空気供給制御装置8をセッティングする。そして、コンテナ10の庫内10aの棚13の上に、試験対象である建築材料W1〜W5を載置する。尚、この建築材料W1〜W5は、試験のために特別に切り出した試験片ではなく、試験が終わった後は、実際に建築物に使用する建材や家具そのものである。次に、ケミカルフィルタ20で清浄された空気を、コンテナ10の庫内10aの温度が約30℃で湿度が約80%になるように恒温恒湿装置21で制御し、庫内10aに送り込む。また、庫内10aに送り込む空気の流量は、庫内10aの空気が2時間に1回程度入れ替わる程度の量である。実際には、流量計25、温度計26、湿度計27の値を見ながらバルブ24や恒温恒湿装置24の設定を変更して、流量、温度、湿度が保たれるようにする。
【0024】
そして、所定時間が経過し、庫内10aの空気中に揮発性有機化合物(VOC)、ホルムアルデヒド及びその他の化合物が放散され得た状態で、空気捕集装置18を用いて庫内10aの空気を捕集する。空気捕集装置18で捕集された空気は、捕集した建築現場で分析するのではなく、分析装置のある施設に持ち帰り分析を行うようにする。
【0025】
以上のように、本実施例の移動式チャンバー装置1によれば、トラック5により移動可能に設けられたコンテナ10の庫内10aに建築材料W1〜W5の試験部材を収納することから、建築現場に出向いて、建築物に使用する建築材料W1〜W5や家具等の使用実態に即したシックハウスの原因物質の捕集が可能である。すなわち、実際に建築物に使用する建築材料W1〜W5や家具等そのものを測定することで、その建築材料W1〜W5を使用した建築物が、完成後にシックハウスの原因物質で問題にならないか否か予め確認することができる。
【0026】
また、チャンバーが、既存のトラック5のコンテナ10により形成されていることから、容量の大きなチャンバーを容易に形成でき、装置のコストを抑えることが可能である。また、トラック5用のコンテナ10は床面が長方形で、長手の建築材料W1〜W5や家具等を丸ごと収納してシックハウスの原因物質の捕集が可能である。
【0027】
さらに、ヒーター11が、住宅の床暖房用ヒーターであることから、建築材料W1〜W5や家具等の使用環境に近似した環境での測定ができで、シックハウスの原因物質の実態に即した捕集が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0028】
以上のように、本発明の移動式チャンバー装置は、移動が可能で、チャンバーの容量も大きいことから、建築材料だけでなく建築物内で使用する家具やカーテン等のシックハウスの原因物質の捕集にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係る移動式チャンバー装置の外観を示す説明図である。
【図2】同移動式チャンバー装置の背面の外観を示す説明図である。
【図3】同移動式チャンバー装置の側面の外観を示す説明図である。
【図4】同移動式チャンバー装置の構成を示す構成図である。
【符号の説明】
【0030】
1・・・・移動式チャンバー装置
5・・・・トラック
8・・・・空気供給制御装置
10・・・コンテナ
11・・・ヒーター
15・・・捕集口
18・・・空気捕集装置
20・・・ケミカルフィルタ
21・・・恒温恒湿装置
24・・・バルブ
25・・・流量計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の荷台に設けられたチャンバーと、
該チャンバー内に送り込む空気を清浄するフィルタと、
該清浄された空気を所定の温度及び所定の湿度に保持する恒温恒湿装置と、
該チャンバー内を所定温度に保持するヒーターと、
該チャンバー内の空気を捕集する空気捕集装置とを備え、
該車両により移動可能に設けられた該チャンバー内に建築材料や家具等の試験部材を収納し、
該試験部材から放散される物質を含む該チャンバー内の空気を捕集することを特徴とする移動式チャンバー装置。
【請求項2】
前記チャンバーが、車両の荷台用のコンテナにより形成されていることを特徴とする請求項1記載の移動式チャンバー装置。
【請求項3】
前記ヒーターが、住宅の床暖房用ヒーターで、前記チャンバーの壁内に配設されていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の移動式チャンバー装置。
【請求項4】
車両の荷台に設けられたチャンバーと、該チャンバー内に送り込む空気を清浄するフィルタと、該清浄された空気を所定の温度及び所定の湿度に保持する恒温恒湿装置と、該チャンバー内を所定温度に保持するヒーターと、該チャンバー内の空気を捕集する空気捕集装置とを備えた移動式チャンバー装置を用いて、
該車両により移動可能に設けられた該チャンバー内に建築材料や家具等の試験部材を収納し、
該試験部材から放散される揮発性有機化合物やホルムアルデヒド等のシックハウスの原因物質を含む該チャンバー内の空気を捕集することを特徴とする移動式チャンバーによる試験方法。
【請求項5】
前記移動式チャンバー装置のチャンバーが、車両の荷台用のコンテナにより形成されていることを特徴とする請求項4記載の移動式チャンバーによる試験方法。
【請求項6】
前記移動式チャンバー装置のヒーターが、住宅の床暖房用ヒーターで、前記チャンバーの壁内に配設されていることを特徴とする請求項4又は請求項5記載の移動式チャンバーによる試験方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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