説明

移動式型枠を用いて成形されたトンネルの覆工コンクリートの養生のための養生設備

【課題】養生に用いる水または蒸気による冷却により前記覆工コンクリートの温度が低下することに起因する前記覆工コンクリートのひび割れを発生させることなく、前記覆工コンクリートを効率的に養生することができる養生設備を提供すること。
【解決手段】移動式型枠を用いて成形されたトンネルの覆工コンクリートの養生ための養生設備は、トンネルの軸線に沿って配置された、湿気を与えないで前記覆工コンクリートの養生を行う第1の養生装置および湿気を与えて前記覆工コンクリートの養生を行う第2の養生装置を含み、第1の養生装置は、第1の台車と、該第1の台車に固定された第1のフレームと、該第1のフレームに固定された第1の養生手段とを有し、第2の養生装置は、第2の台車と、該第2の台車に固定された第2のフレームと、該第2のフレームに固定された第2の養生手段とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動式型枠を用いて成形されたトンネルの覆工コンクリートの養生のための養生設備に関する。
【背景技術】
【0002】
移動式型枠を用いて覆工コンクリートの成形を行うトンネルでは、前記トンネルの掘削に伴って前記移動式型枠を移動させるため、通常、前記覆工コンクリートの打込みの約20時間後という比較的早い時期に脱型を行う。このため、脱型後、養生を行わずに前記覆工コンクリートを放置すると、前記覆工コンクリートは比較的早く乾燥するため、前記覆工コンクリートの水和反応が十分に行われなかったり、前記覆工コンクリートの乾燥収縮によるひび割れが発生する。そこで、脱型後、前記覆工コンクリートの乾燥を防止するために水または蒸気のような湿気を与えて前記覆工コンクリートの養生を行う。
【0003】
移動式型枠を用いて成形されたトンネルの覆工コンクリートの従来の養生方法には、散水することにより前記覆工コンクリートの表面に水を供給するもの、前記覆工コンクリートの表面に透水性マットを密着させ、該透水性マットを経て前記覆工コンクリートの表面に水を供給するもの(特許文献1参照)、前記覆工コンクリートの表面に蒸気を供給するもの(特許文献2参照)がある。また、蒸気を供給して前記覆工コンクリートの養生を行う養生設備には、トンネルの軸線方向に移動可能な台車と、該台車に固定されたフレームと、該フレームに取り付けられた、前記覆工コンクリートの表面に蒸気を供給する加湿機とを含むもの(特許文献2参照)がある。
【特許文献1】特開平10−102773号公報
【特許文献2】特開2000−73696号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前記覆工コンクリートの温度は、前記覆工コンクリートの打込み後、水和反応により上昇し、前記覆工コンクリートの打込みの約12時間後ないし約26時間後に最も高くなる。すなわち、脱型時の前記覆工コンクリートの温度は最も高い。このため、脱型後、すぐに湿気を与えて前記覆工コンクリートの養生を行うと、前記覆工コンクリートは、養生に用いる水または蒸気により冷却され、前記覆工コンクリートの温度は、前記覆工コンクリートに湿気を与えない場合と比較して非常に速く低下する。これにより、前記覆工コンクリートにひび割れが発生し、前記覆工コンクリートの品質を低下させるという問題が生じる。
【0005】
本発明の目的は、養生に用いる水または蒸気による冷却により前記覆工コンクリートの温度が低下することに起因する前記覆工コンクリートのひび割れを発生させることなく、前記覆工コンクリートを効率的に養生することができる養生設備を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、トンネルの軸線に沿って配置された、湿気を与えないで前記覆工コンクリートの養生を行う第1の養生装置および湿気を与えて前記覆工コンクリートの養生を行う第2の養生装置を含むことを特徴とする。
【0007】
本発明に係る、移動式型枠を用いて成形されたトンネルの覆工コンクリートの養生ための養生設備は、トンネルの軸線に沿って配置された、湿気を与えないで前記覆工コンクリートの養生を行う第1の養生装置および湿気を与えて前記覆工コンクリートの養生を行う第2の養生装置を含む。第1の養生装置は、トンネルの軸線方向に移動可能な第1の台車と、該第1の台車に固定された第1のフレームと、該第1のフレームに固定された第1の養生手段とを有し、第2の養生装置は、トンネルの軸線方向に移動可能な第2の台車と、該第2の台車に固定された第2のフレームと、該第2のフレームに固定された第2の養生手段とを有する。
【0008】
湿気を与えないで前記覆工コンクリートの養生を行う第1の養生装置と湿気を与えて前記覆工コンクリートの養生を行う第2の養生装置とがトンネルの軸線に沿って配置されているため、前記養生設備をトンネルの軸線に沿って移動させることにより、脱型後の前記覆工コンクリートに、湿気を与えないで行う養生と湿気を与えて行う養生とを順に施すことができる。湿気を与えて前記覆工コンクリートの養生を行うことに先立ち、湿気を与えないで前記覆工コンクリートの養生を行うことによって、湿気を与えないで前記覆工コンクリートの養生を行う間に、水または蒸気により前記覆工コンクリートを冷却させることなく、前記覆工コンクリートの温度を時間をかけて低下させることができる。これにより、養生に用いる水または蒸気による冷却により前記覆工コンクリートの温度が低下することに起因する前記覆工コンクリートのひび割れの発生を防止することができる。
【0009】
前記第1の養生装置の長さと前記第2の養生装置の長さとの比は、湿気を与えないで前記覆工コンクリートの養生を行うのに要する日数と湿気を与えて前記覆工コンクリートの養生を行うのに要する日数との比とすることができる。前記第1の養生装置の長さと前記第2の養生装置の長さとの比は、前記第1の養生装置による養生期間と前記第2の養生装置による養生期間との比に相当する。このため、予め前記第1の養生装置の長さと前記第2の養生装置の長さとの比を湿気を与えないで前記覆工コンクリートの養生を行うのに要する日数と湿気を与えて前記覆工コンクリートの養生を行うのに要する日数との比とすることによって、前記覆工コンクリートの養生をより効率的に行うことができる。前記第1の養生装置の長さと前記第2の養生装置の長さとの比は、1:2とすることができる。
【0010】
前記第1の養生手段は、前記第1のフレームに連結された、前記覆工コンクリートの表面形状に対応する形状を有するシート受台と、該シート受台に取り付けられた、前記覆工コンクリートの表面を覆う非透水性シートとを備えることができる。前記非透水性シートで前記覆工コンクリートの表面を覆うことによって、前記覆工コンクリートの表面から水分を逃がさないようにし、前記覆工コンクリートの乾燥を防止することができる。
【0011】
前記第2の養生手段は、前記第2のフレームに連結された、前記覆工コンクリートの表面形状に対応する形状を有するマット受台と、該マット受台に取り付けられた、前記覆工コンクリートの表面に水を供給するための透水性マットとを備えることができ、前記第2の養生装置は、前記第2の台車を昇降させる昇降手段を備えることができる。前記昇降手段で前記第2の台車を上昇させることにより前記透水性マットを前記覆工コンクリートの表面に密着させることができる。前記透水性マットを前記覆工コンクリートの表面に密着させた状態で前記透水性マットに水を供給することによって、前記透水性マットを経て前記覆工コンクリートの表面に水を供給することができる。また、前記第2の養生装置の移動時には、前記昇降手段で前記第2の台車を下降させることにより前記透水性マットの密着を解除することができる。前記昇降手段は、それぞれの一端が前記第2の台車に固定され、他端が地面に向けられた複数のジャッキとすることができる。
【0012】
前記マット受台は、前記トンネルのアーチ部の形状に対応する形状を有する頂部と、前記トンネルの左右の側壁部の形状に対応する形状を有する第1の側部および第2の側部であって、前記頂部の一端に枢着された第1の側部と、前記頂部の他端に枢着された第2の側部とを有し、前記第2の養生装置は、前記第1の側部を前記頂部に関して回転させる第1の回転手段と、前記第2の側部を前記頂部に関して回転させる第2の回転手段とを備えることができる。前記第1の回転手段および前記第2の回転手段は、前記昇降手段とともに、前記透水性マットを前記覆工コンクリートの表面に密着させ、または密着を解除するのに使用される。前記第1の回転手段は、一端が前記第1の側部に連結され、他端が前記第2のフレームに連結されたジャッキとし、前記第2の回転手段は、一端が前記第2の側部に連結され、他端が前記第2のフレームに連結されたジャッキとすることができる。
【0013】
前記第2の養生手段は、前記第2のフレームに取り付けられた、前記覆工コンクリートの表面に散水する散水ノズルを先端に備えた配管を備えることができる。また、前記第2の養生手段は、前記第2のフレームに取り付けられた、前記覆工コンクリートの表面に蒸気を供給する加湿機を備えることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、前記養生設備をトンネルの軸線に沿って移動させることにより、脱型後の前記覆工コンクリートに、湿気を与えないで行う養生と湿気を与えて行う養生とを順に施すことができる。これにより、養生に用いる水または蒸気による冷却により前記覆工コンクリートの温度が低下することに起因する前記覆工コンクリートのひび割れを発生させることなく、前記覆工コンクリートを効率的に養生することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1に示すように、移動式型枠10を用いて成形されたトンネル12の覆工コンクリート14の養生のための養生設備16は、湿気を与えないで覆工コンクリート14の養生を行う第1の養生装置18と、湿気を与えて覆工コンクリート14の養生を行う第2の養生装置20とを備える。
【0016】
第1の養生装置18は、図2に示すように、第1の台車22と、該第1の台車に固定された第1のフレーム24と、該第1のフレームに連結されたシート受台26と、該シート受台に取り付けられた非透水性シート28とを備える。
【0017】
第1の台車22は、それぞれがトンネル12の軸線方向に伸びる一対の第1台車桁22a、22bと、それぞれが一方の第1台車桁22aに取り付けられた複数の第1車輪22cと、それぞれが他方の第1台車桁22bに取り付けられた複数の第2車輪22dとを有する。第1車輪22cは第1のレール30a上を移動し、第2車輪22dは第2のレール30b上を移動する。各レール30a、30bは、トンネル12のインバート部12aに設けられた底部コンクリート12b上に設置されている。
【0018】
第1のフレーム24は、それぞれが一対の柱32a、32bおよび該柱を連結する横桁32cからなる複数の第1フレーム部材32を有する。各第1フレーム部材32は、第1の台車22上に配置され、一方の柱32aは一方の第1台車桁22aに固定され、他方の柱24bは他方の第1台車桁22bに固定されている。
【0019】
シート受台26は、覆工コンクリート14の表面形状に対応する形状を有し、トンネル12の軸線に沿って配置された複数の上方に凸状の第1アーチ桁26aと、それぞれが該第1アーチ桁に連結された、トンネル12の軸線方向に伸びる複数の第1水平桁26bとを備える。各第1アーチ桁26aは、各第1フレーム部材32に固定されている。第1のフレーム24は、各第1アーチ桁26aの固定を強固にするために、それぞれの一端が第1フレーム部材32の1つに連結され、他端が第1アーチ桁26aの1つに連結された複数の第1固定部材24aを備えることができる。
【0020】
非透水性シート28は、覆工コンクリート14の表面を覆うようにシート受台26上に配置され、アーチ桁26aまたは第1水平桁26bに固縛して固定されている。非透水性シート28はビニルシートとすることができる。
【0021】
また、図1に示した例では、第1の養生装置18は、トンネル12の軸線に沿って間隔を置いて配置された第1の閉塞手段34および第2の閉塞手段36であって、非透水性シート28のトンネル12の軸線方向における一端部と覆工コンクリート14との隙間を閉塞する第1の閉塞手段34と、非透水性シート28の他端部と覆工コンクリート14との隙間を閉塞する第2の閉塞手段36とを備える。
【0022】
第1の閉塞手段34は、非透水性シート28の前記一端部を覆工コンクリート14に押し付けるゴム製の第1バルーン34aであり、第2の閉塞手段36は、非透水性シート28の前記他端部を覆工コンクリート14に押し付けるゴム製の第2バルーン36aである。第1バルーン34aは、非透水性シート28の前記一端部と、非透水性シート28の前記一端部の下方に位置するアーチ桁26a’との間に配置され、該アーチ桁に固定されている。第2バルーン36aは、非透水性シート28の前記他端部と、非透水性シート28の前記他端部の下方に位置するアーチ桁26a”との間に配置され、該アーチ桁に固定されている。
【0023】
非透水性シート28の各端部と覆工コンクリート14との隙間の閉塞は、例えば、非透水性シート28の各端部を釘のような固定手段(図示せず)にて覆工コンクリート14に固定することによって行うこともできる。このように第1、第2の閉塞手段34、36を用いない場合、第1の養生装置18は、第1、第2の閉塞手段34、36を有しなくてもよい。
【0024】
第2の養生装置20は、図3に示すように、第2の台車38と、該第2の台車に固定された第2のフレーム42と、該第2のフレームに連結されたマット受台44と、該マット受台に取り付けられた透水性マット46と、第2の台車38を昇降させる昇降手段40とを備える。
【0025】
第2の台車38は、第1の台車22と同様、それぞれがトンネル12の軸線方向に伸びる一対の第2台車桁38a、38bと、それぞれが一方の第2台車桁38aに取り付けられた複数の第3車輪38cと、それぞれが他方の第2台車桁38bに取り付けられた複数の第4車輪38dとを有する(図1)。第3車輪38cは第1のレール30a上を移動し、第4車輪38dは第2のレール30b上を移動する。
【0026】
昇降手段40は、トンネル12の横断方向に間隔を置いて配置された第1ジャッキ40aおよび第2ジャッキ40bを有する。第1ジャッキ40aは、その一端が一方の第2台車桁38aに固定され、他端が地面に向けられており、第2ジャッキ40bは、その一端が他方の第2台車桁38bに固定され、他端が地面に向けられている。第1ジャッキ40aおよび第2ジャッキ40bは、透水性マット46を覆工コンクリート14の表面に密着させまたは密着を解除するのに使用される。
【0027】
第2のフレーム42は、第1のフレーム24と同様、それぞれが一対の柱48a、48bおよび該柱を連結する横桁48cからなる複数の第2フレーム部材48を有する。各第2フレーム部材48は、第2の台車38上に配置され、一方の柱48aは一方の第2台車桁38aに固定され、他方の柱48bは他方の第1台車桁38bに固定されている。
【0028】
マット受台44は、覆工コンクリート14の表面形状に対応する形状を有し、トンネル12の軸線に沿って配置された複数の上方に凸状の第2アーチ桁50と、それぞれが該第2アーチ桁に連結された、トンネル12の軸線方向に伸びる複数の第2水平桁52とを備える。各第2アーチ桁50は、各第2フレーム部材48に固定されている。第2のフレーム42は、各第2アーチ桁50の固定を強固にするために、それぞれの一端が第2フレーム部材48の1つに連結され、他端が第2アーチ桁50の1つに連結された複数の第2固定部材42aを備えることができる。
【0029】
また、マット受台44は、トンネル12のアーチ部12cの形状に対応する形状を有する頂部50aと、該頂部の一端に枢着された、トンネル12の第1の側壁部12dの形状に対応する形状を有する第1の側部50bと、頂部50aの他端に枢着された、トンネル12の第2の側壁部12eの形状に対応する形状を有する第2の側部50cとを有する。
【0030】
第2の養生装置20は、トンネル12の横断方向に間隔を置いて配置された、第1の側部50bを頂部50aに関して回転させる第1の回転手段54および第2の側部50cを頂部50aに関して回転させる第2の回転手段56を有する。第1の回転手段54は、一端が第1の側部50bに連結され、他端が第2のフレーム42の一方の柱48aに連結された第3ジャッキ54aであり、第2の回転手段56は、一端が第2の側部50cに連結され、他端が第2のフレーム42の他方の柱38bに連結された第4ジャッキ56aである。
【0031】
第3ジャッキ54aおよび第4ジャッキ56aは、昇降手段40とともに透水性マット46を覆工コンクリート14の表面に密着させまたは密着を解除するのに使用される。透水性マット46の密着および密着の解除が昇降手段40による第2の台車38の昇降のみによって行われる場合、マット受台44の各側部50b、50cは、頂部50aに剛に結合され、第2の養生装置20は、第1、第2の回転手段54、56を有しなくてもよい。
【0032】
透水性マット46は、覆工コンクリート14の表面を覆うように配置され、第2アーチ桁50または第2水平桁52にクランプのような固定手段(図示せず)により固定されている。透水性マット46は、図4に示すように、覆工コンクリート14の表面に密着させる不織布のような透水性シート46aと、該透水性シートに取り付けられた、トンネル12の軸線方向に伸びる穴付き給水管46bと、透水性シート46aが接着された合板46cとを有する。給水管46bは、透水性マット46の最も高い位置に配置されており、給水管46bによって供給された水は、該給水管の穴46b’を経て透水性シート46aに供給され、その後、流れ落ちつつ透水性シート46aを経て覆工コンクリート14の表面に供給される。覆工コンクリート14の表面への給水量を多くするために、透水性マット46は、給水管46bに加え、他の複数の給水管(図示せず)を備えることができる。
【0033】
図5に示す例では、第2の養生装置58は、マット受台44、透水性マット46および昇降手段40を有する図3の例に代え、それぞれが先端に散水ノズル60を備えた複数の配管62を有する。散水ノズル60は、覆工コンクリート14の表面に散水するのに使用される。配管62は、第2のフレーム42に連結された取付部材64に固定されている。配管62の数は、覆工コンクリート14の表面への給水量に応じて変更することができる。
【0034】
図6に示す例では、第2の養生装置66は、配管62を有する図5の例に代え、複数の加湿機68を有する。加湿機68は、第2のフレーム42に連結された取付部材64に固定されており、覆工コンクリート14の表面に蒸気を供給するのに使用される。また、第2の養生装置66は、覆工コンクリート14の表面の湿潤状態を効率よく維持するために、覆工コンクリート14の表面を覆うカバー70を備えることができる。この場合、加湿機68は、カバー70と覆工コンクリート14との間に配置されている。カバー70は、覆工コンクリート14の表面形状に対応する形状を有するカバー受台72に固定され、カバー受台72は、第2のフレーム42に連結されている。カバー70は、ビニルシートのような非透水性シートとすることができる。
【0035】
図1に示した例では、第1の養生装置18の長さ74は、移動式型枠10の長さ、すなわち一度に打込みを行う覆工コンクリート14の長さである10.5mとし、第2の養生装置20の長さ76は、第1の養生装置18の長さ74の2倍である21.0mとする。図示の例では、第2の養生装置20は、それぞれが同じ長さを有する前半部78および後半部80を有する。前半部78および後半部80は、連結部材82により連結されている。
【0036】
覆工コンクリート14の養生を行うとき、図1に示すように、まず、第1の養生装置18を移動式型枠10のトンネル12の掘削方向における後方(図面左方)に配置し、ワイヤーロープのような連結手段84により移動式型枠10に連結する。次に、第1の養生装置18の後方(図面左方)に第2の養生装置20を配置する。
【0037】
移動式型枠10により覆工コンクリート14の第1の部分を成形し、脱型した後、移動式型枠10をその長さ分だけ前方(図面右方)へ移動させることによって、第1の養生装置18を前記第1の部分の位置に移動させる。これにより、第1の養生装置18の非透水性シート28は、前記第1の部分に配置される。第1の養生装置18の移動は、移動式型枠10によるほか、トラックのような牽引用車両(図示せず)を用いてもよい。
【0038】
次に、前記第1の部分の表面から水分を逃がさないように非透水性シート28の周縁部と前記第1の部分との隙間を塞ぐ。非透水性シート28の周縁部のうち、トンネル12の軸線方向における2つの端部の閉塞は、第1バルーン34aおよび第2バルーン36aのそれぞれに空気を注入し、第1バルーン34aで非透水性シート28の一端部を、第2バルーン36aで非透水性シート28の他端部を前記第1の部分に押し付けることにより行う(図1)。また、図2に示すように、トンネル12の周方向における2つの端部の閉塞は、複数の木材のような錘86を載せて非透水性シート28の各端部を前記第1の部分または底部コンクリート12bに押さえ付けることにより行う。このようにして前記第1の部分の表面を透水性シート28で覆う。この状態で、湿気を与えないで前記第1の部分の養生を行う。
【0039】
湿気を与えないで前記第1の部分の養生を行う間、透水性シート28により前記第1の部分の表面をトンネル12内を流れる空気から隔離することによって前記第1の部分の乾燥を防止しつつ、前記第1の部分の温度を時間をかけて低下させることができる。前記第1の部分の乾燥を防止することによって、前記第1の部分に強度を発揮させる効果を高めることができる。また、前記第1の部分の温度を低下させることによって、後に水や蒸気を与えて前記第1の部分を養生するときに前記水や前記蒸気によって前記第1の部分が冷却されるのを防ぐことができる。これにより、前記水や前記蒸気による冷却によって前記第1の部分にひび割れが発生するのを防止することができる。前記第1の部分の温度を十分に低下させるために、湿気を与えないで前記第1の部分を養生する期間は、少なくとも約24時間とするのが望ましい。
【0040】
第1の養生装置18により前記第1の部分の養生を行う間、移動式型枠10により覆工コンクリート14の第2の部分の成形を行う。移動式型枠10による前記第2の部分の成形を終えた後、前記第1の部分の成形を終えたときと同様、移動式型枠10の長さ分だけ移動式型枠10および第1の養生装置18を移動させる。
【0041】
次に、第1の養生装置18による養生を終えた前記第1の部分に第2の養生装置20の前半部78が配置されるように第2の養生装置20を移動させる。第2の養生装置20の移動は、トラックのような牽引用車両(図示せず)で牽引することにより行う。第2の養生装置20の牽引に要する力が比較的小さいときは、第2の養生装置20を第1の養生装置18に連結し、第2の養生装置20を第1の養生装置18とともに移動させてもよい。また、第2の養生装置20の移動は、第3ジャッキ54aおよび第4ジャッキ56aを縮め、第2の台車38を下降させた状態で行う。
【0042】
第2の養生装置20を移動させた後、第1ジャッキ40aおよび第2ジャッキ40bにより第2の台車38を上昇させる(図3)。このとき、各ジャッキ44a、44bが各レール30a、30bに接触しないように、第1ジャッキ40aの下には、第1のレール30aを跨ぐように底部コンクリート12b上に置かれた逆コの字状の第1の台座88を配置し、第2ジャッキ40bの下には、第2のレール30bを跨ぐように底部コンクリート12b上に置かれた逆コの字状の第2の台座90を配置する。第2の台車38の上昇は、第1ジャッキ40aが第1の台座88を介して底部コンクリート12bからの反力を受け、第2ジャッキ40bが第2の台座90を介して底部コンクリート12bからの反力を受けることによって行う。
【0043】
その後、マット受台44の第1の側部50bをトンネル12の第1の側壁部12dに向けて回転させるように第3ジャッキ54aを伸ばし、マット受台44の第2の側部50cをトンネル12の第2の側壁部12eに向けて回転させるように第4ジャッキ56aを伸ばす。このように、第2の台車38の上昇と、マット受台44の第1、第2の側部50b、50cの回転とにより、透水性マット46を前記第1の部分の表面に密着させる。
【0044】
透水性マット46を前記第1の部分の表面に密着させた後、透水性マット46の給水管46bに水を供給する。給水管46bによって供給された水は、該給水管の穴46b’を経て透水性シート46aに供給され、その後、透水性シート46aを経て前記第1の部分の表面に供給される。前記第1の部分の表面に水を供給することによって、前記第1の部分の硬化を促進し、前記第1の部分に十分な強度を与えることができる。
【0045】
第2の養生装置20の前半部78により前記第1の部分の養生を行う間に、第1の養生装置18により前記第2の部分の養生を行い、移動式型枠10により覆工コンクリート14の第3の部分の成形を行う。移動式型枠10による前記第3の部分の成形を終えた後、前記第2の部分の成形を終えたときと同様、移動式型枠10の長さ分だけ移動式型枠10、第1の養生装置18および第2の養生装置20を移動させる。
【0046】
第2の養生装置20を移動させるとき、第3ジャッキ54aおよび第4ジャッキ56aを縮め、第1ジャッキ40aおよび第2ジャッキ40bにより第2の台車38を下降させる。これにより透水性マット46の密着を解除する。
【0047】
第2の養生装置20の移動によって、第2の養生装置20の後半部80は、第2の養生装置20の前半部78による養生を終えた前記第1の部分に配置される。その後、第2の養生装置20の前半部78によるときと同様、第2の養生装置20の後半部80により湿度を与えて前記第1の部分の養生を行う。このようにして、第1の養生装置18および第2の養生装置20を順に移動させて覆工コンクリート14の養生を行う。
【0048】
図示の例では、第2の養生装置20の長さは第1の養生装置18の長さの2倍であるため、第2の養生装置20による前記第1の部分の養生期間は、第1の養生装置18による前記第1の部分の養生期間の2倍となる。例えば、第1の養生装置18による前記第1の部分の養生期間が2日であるとき、第2の養生装置20による前記第1の部分の養生期間は4日である。このように、第1の養生装置18の長さと第2の養生装置20の長さとの比は、湿気を与えないで養生を行う期間と湿気を与えて養生を行う期間との比に相当する。よって、予め第1の養生装置18の長さと第2の養生装置20の長さとの比を湿気を与えないで行う養生に要する日数と湿気を与えて行う養生に要する日数との比とすることにより、効率的に覆工コンクリート14の養生を行うことができる。
【0049】
湿気を与えて行う養生には、透水性マット46を有する第2の養生装置20を用いる図1、3の例に代え、図5に示した、散水ノズル60を有する配管62を備えた第2の養生装置58を用いることができる。この場合、前記第1の部分の養生は、配管62に水を供給し、散水ノズル60を経て前記第1の部分の表面に散水することにより行う。また、湿気を与えて行う養生には、散水ノズル60を有する配管62を備えた第2の養生装置58を用いる図5の例に代え、図6に示した、加湿機68を有する第2の養生装置66を用いることができる。この場合、前記第1の部分の養生は、加湿機68により前記第1の部分の表面に蒸気を供給することにより行う。
【0050】
湿気を与えないで覆工コンクリート14の養生を行った後、湿気を与えて覆工コンクリート14の養生を行う養生方法では、湿気を与えないで覆工コンクリート14の養生を行う間も覆工コンクリート14の乾燥を防止することができる。このため、覆工コンクリート14の水和反応を促進し、覆工コンクリート14に十分な強度を発揮させることができる。前記養生方法によるコンクリートに強度を発揮させる効果を確認した実験によると、前記養生方法によりコンクリートの養生を行うことによって、脱型せずに養生を行う場合と同等の圧縮強度を前記コンクリートに発揮させることができる。
【0051】
前記実験は、脱型後の養生方法が異なる3つのコンクリートの供試体を用いて行った。各供試体は、材齢2日で脱型し、第1供試体は、脱型後、養生を行わなかった。第2供試体は、脱型後、湿気を与えずに2日間の養生を行い、その後、湿気を与えて4日間の養生を行った。第3供試体は、脱型後、湿気を与えずに4日間の養生を行い、その後、湿気を与えて2日間の養生を行った。湿気を与えない養生は、コンクリートの表面をビニルシートで覆うことにより行い、湿気を与える養生は、前記コンクリートの表面に水を供給することにより行った。各供試体の大きさは、縦が30cm、横が30cm、高さが30cmである。
【0052】
前記実験では、材齢29日の各供試体の前記コンクリートの表面からの深さが0cmないし5cmの部分、5cmないし10cmの部分、10cmないし15cmの部分の圧縮強度を測定し、測定した値を標準強度と比較した。前記標準強度は、材齢28日まで脱型せずに養生したコンクリートの供試体の圧縮強度である。
【0053】
各供試体の各部分の圧縮強度の前記標準強度に対する比率を示す図7によると、第2供試体の前記比率の平均値は0.99であり、第3供試体の前記比率の平均値は1.06であり、第2供試体および第3供試体の圧縮強度は、前記標準強度とほぼ等しい。このように、湿気を与えないでコンクリートの養生を行った後、湿気を与えて前記コンクリートの養生を行う養生方法によって、前記コンクリートに十分な強度を発揮させることができる。他方、脱型後に養生を行わない第1供試体の圧縮強度は、前記標準強度に対して1割以上低いことから、前記養生方法によるコンクリートに強度を発揮させる効果は、脱型後に養生を行わない場合と比較して非常に大きいといえる。
【0054】
本発明によれば、養生設備16をトンネル12の軸線に沿って移動させることにより、脱型後の覆工コンクリートに、湿気を与えないで行う養生と湿気を与えて行う養生とを順に施すことができる。これにより、養生に用いる水または蒸気による冷却により前記覆工コンクリートの温度が低下することに起因する前記覆工コンクリートのひび割れを発生させることなく、前記覆工コンクリートを効率的に養生することができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明に係る養生設備が配置されたトンネルの縦断面図。
【図2】本発明に係る第1の養生装置の正面図。
【図3】本発明の第1の実施例における第2の養生装置の正面図。
【図4】図3の線4における拡大図。
【図5】本発明の第2の実施例における第2の養生装置の正面図。
【図6】本発明の第3の実施例における第2の養生装置の正面図。
【図7】第1ないし第3供試体の圧縮強度の標準強度に対する比率。
【符号の説明】
【0056】
10 移動式型枠
12 トンネル
12c アーチ部
12d 第1の側壁部
12e 第2の側壁部
14 覆工コンクリート
16 養生設備
18 第1の養生装置
20、58、66 第2の養生装置
22 第1の台車
24 第1のフレーム
26 シート受台
28 非透水性シート
38 第2の台車
40 昇降手段
42 第2のフレーム
44 マット受台
46 透水性マット
50a 頂部
50b 第1の側部
50c 第2の側部
54 第1の回転手段
56 第2の回転手段
60 散水ノズル
62 配管
68 加湿機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動式型枠を用いて成形されたトンネルの覆工コンクリートの養生ための養生設備であって、トンネルの軸線に沿って配置された、湿気を与えないで前記覆工コンクリートの養生を行う第1の養生装置および湿気を与えて前記覆工コンクリートの養生を行う第2の養生装置を含み、第1の養生装置は、トンネルの軸線方向に移動可能な第1の台車と、該第1の台車に固定された第1のフレームと、該第1のフレームに固定された第1の養生手段とを有し、第2の養生装置は、トンネルの軸線方向に移動可能な第2の台車と、該第2の台車に固定された第2のフレームと、該第2のフレームに固定された第2の養生手段とを有する、トンネルの覆工コンクリートの養生設備。
【請求項2】
前記第1の養生装置の長さと前記第2の養生装置の長さとの比は、湿気を与えないで前記覆工コンクリートの養生を行うのに要する日数と湿気を与えて前記覆工コンクリートの養生を行うのに要する日数との比に相当する、請求項1に記載のトンネルの覆工コンクリートの養生設備。
【請求項3】
前記第1の養生装置の長さと前記第2の養生装置の長さとの比は、1:2である、請求項1に記載のトンネルの覆工コンクリートの養生設備。
【請求項4】
前記第1の養生手段は、前記第1のフレームに連結された、前記覆工コンクリートの表面形状に対応する形状を有するシート受台と、該シート受台に取り付けられた、前記覆工コンクリートの表面を覆う非透水性シートとを含む、請求項1に記載のトンネルの覆工コンクリートの養生設備。
【請求項5】
前記第2の養生手段は、前記第2のフレームに連結された、前記覆工コンクリートの表面形状に対応する形状を有するマット受台と、該マット受台に取り付けられた、前記覆工コンクリートの表面に水を供給するための透水性マットとを含み、前記第2の養生装置は、前記第2の台車を昇降させる昇降手段を備える、請求項1に記載のトンネルの覆工コンクリートの養生設備。
【請求項6】
前記昇降手段は、それぞれの一端が前記第2の台車に固定され、他端が地面に向けられた複数のジャッキである、請求項5に記載のトンネルの覆工コンクリートの養生設備。
【請求項7】
前記マット受台は、前記トンネルのアーチ部の形状に対応する形状を有する頂部と、前記トンネルの左右の側壁部の形状に対応する形状を有する第1の側部および第2の側部であって、前記頂部の一端に枢着された第1の側部と、前記頂部の他端に枢着された第2の側部とを有し、前記第2の養生装置は、前記第1の側部を前記頂部に関して回転させる第1の回転手段と、前記第2の側部を前記頂部に関して回転させる第2の回転手段とを含む、請求項5に記載のトンネルの覆工コンクリートの養生設備。
【請求項8】
前記第1の回転手段は、一端が前記第1の側部に連結され、他端が前記第2のフレームに連結されたジャッキであり、前記第2の回転手段は、一端が前記第2の側部に連結され、他端が前記第2のフレームに連結されたジャッキである、請求項7に記載のトンネルの覆工コンクリートの養生設備。
【請求項9】
前記第2の養生手段は、前記第2のフレームに取り付けられた、前記覆工コンクリートの表面に散水する散水ノズルを先端に備えた配管を含む、請求項1に記載のトンネルの覆工コンクリートの養生設備。
【請求項10】
前記第2の養生手段は、前記第2のフレームに取り付けられた、前記覆工コンクリートの表面に蒸気を供給する加湿機を含む、請求項1に記載のトンネルの覆工コンクリートの養生設備。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−231517(P2007−231517A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−50923(P2006−50923)
【出願日】平成18年2月27日(2006.2.27)
【出願人】(000001317)株式会社熊谷組 (551)
【出願人】(593147531)大旺建設株式会社 (15)
【出願人】(000158725)岐阜工業株式会社 (56)
【Fターム(参考)】