説明

移動栽培装置

【課題】簡素な構造でありながら、プランターに散布された水とプランターに散布された薬剤が混ざらず、排水処理および廃液処理が容易となる移動栽培装置を提供する。
【解決手段】プランター2を搬送する搬送装置20と、搬送される前記プランター2に向けて水を散布する潅水装置30と、搬送される前記プランター2に向けて薬剤を散布する防除装置40と、を備えた移動栽培装置1において、散布された水および散布された薬剤を前記プランター2の下方で受け止める受け樋21と、前記受け樋21が受け止めた水又は薬剤の案内方向を切り換える切換弁22と、を設け、前記切換弁22は、前記受け樋21が水を受け止めた場合に該水を排水樋23に案内し、前記受け樋21が薬剤を受け止めた場合に該薬剤を廃液樋24に案内する、とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動栽培装置の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、プランターを搬送する搬送装置と、搬送されるプランターに水を散布する潅水装置と、搬送されるプランターに薬剤を散布する防除装置と、を備えた移動栽培装置が知られている(例えば特許文献1参照)。このような移動栽培装置は、プランターごとに水および薬剤の散布量(散布頻度等)を設定できるため、多品種の植物を同時に栽培することが可能である。
【0003】
しかし、このような移動栽培装置は、プランターに散布された水とプランターに散布された薬剤が混ざった場合に、排水処理(廃液処理)が困難になると考えられる。そのため、移動栽培装置は、プランターに散布された水とプランターに散布された薬剤が混ざらないように構成する必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−57448号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、簡素な構造でありながら、プランターに散布された水とプランターに散布された薬剤が混ざらず、排水処理および廃液処理が容易となる移動栽培装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0007】
即ち、請求項1においては、
プランターを搬送する搬送装置と、
搬送される前記プランターに向けて水を散布する潅水装置と、
搬送される前記プランターに向けて薬剤を散布する防除装置と、を備えた移動栽培装置において、
散布された水および散布された薬剤を前記プランターの下方で受け止める受け樋と、
前記受け樋が受け止めた水又は薬剤の案内方向を切り換える切換弁と、を設け、
前記切換弁は、前記受け樋が水を受け止めた場合に該水を排水樋に案内し、前記受け樋が薬剤を受け止めた場合に該薬剤を廃液樋に案内する、とした。
【0008】
請求項2においては、請求項1に記載の移動栽培装置において、
前記切換弁を制御可能とする制御装置を備え、
前記制御装置は、前記潅水装置が水を散布した場合に前記受け樋が水を受け止めたと判断して該水を前記排水樋に案内するように前記切換弁を制御し、前記防除装置が薬剤を散布した場合に前記受け樋が薬剤を受け止めたと判断して該薬剤を前記廃液樋に案内するように前記切換弁を制御する、とした。
【0009】
請求項3においては、請求項1又は請求項2に記載の移動栽培装置において、
前記防除装置、前記受け樋および前記切換弁は、作業場から離れた位置に設けられる、とした。
【発明の効果】
【0010】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0011】
請求項1に記載の発明によれば、切換弁は、受け樋が水を受け止めた場合に、該水を排水樋に案内する。また、切換弁は、受け樋が薬剤を受け止めた場合に、該薬剤を廃液樋に案内する。これにより、簡素な構造でありながら、プランターに散布された水とプランターに散布された薬剤が混ざらず、排水処理および廃液処理が容易となる。
【0012】
請求項2に記載の発明によれば、制御装置は、潅水装置が水を散布した場合に、受け樋が水を受け止めたと判断して該水を排水樋に案内するように切換弁を制御する。また、制御装置は、防除装置が薬剤を散布した場合に、受け樋が薬剤を受け止めたと判断して該薬剤を廃液樋に案内するように切換弁を制御する。これにより、プランターに散布された水とプランターに散布された薬剤が混ざらないように自動管理することができる。
【0013】
請求項3に記載の発明によれば、防除装置、受け樋および切換弁は、作業場から離れた位置に設けられる。これにより、プランターに向けて散布された薬剤が作業者にかかることを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る移動栽培装置の実施の一形態を示す平面模式図。
【図2】プランターが載置された栽培ベンチを示す斜視図。
【図3】潅水装置が水を散布している状態を示す側面模式図。
【図4】防除装置が薬剤を散布している状態を示す側面模式図。
【図5】電動モータによって切換弁を回動させる構造を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下では、図面を参照しつつ、本発明に係る移動栽培装置の実施の一形態である移動栽培装置1について説明する。図1に示す如く、移動栽培装置1は、複数のプランター2・2・・・、複数の(厳密にはプランター2・2・・・と同数の)栽培ベンチ10・10・・・、搬送装置20、潅水装置30、防除装置40、制御装置50を具備する。
【0016】
本実施形態では、重力が作用する方向に基づいて上下方向が定められ、上下方向に垂直な方向として前後方向が定められ、上下方向および前後方向に垂直な方向として左右方向が定められる。以下では便宜上、前後方向を「縦方向」、左右方向を「横方向」と定め、これらの方向を用いて説明する。
なお、本実施形態では、縦方向および横方向がいずれも水平面に対して平行(上下方向に対して垂直)であるが、本発明はこれに限定されない。すなわち、植物の栽培に支障をきたさない限度において、縦方向および横方向が水平面に対して多少傾斜していても(水平面に対して平行でなくても)良い。
【0017】
プランター2は、植物を栽培するための容器である。図2に示す如く、プランター2の外形は縦方向に短く、横方向に長い形状を有する。より詳細には、プランター2の外形は概ねその上面に比べて下面の縦方向および横方向における長さが短い四角錐台形状であり、プランター2の内部には植物およびこれを栽培するための土等を収容する空間が形成される。プランター2の上面は大きく開口し、プランター2の下面には余剰の水および薬剤を外部に排出するための排出孔(不図示)が形成される。
なお、本実施形態のプランター2は、イチゴを栽培する用途に用いられるが、本移動栽培装置1は他の種々の植物を栽培する用途に適用することが可能である。
【0018】
栽培ベンチ10は、プランター2を支持するものである。図2に示す如く、栽培ベンチ10は、ロアフレーム11、一対のアッパーフレーム12・12、計八つの車輪13・13・・・、一対の規制アーム15・15、計四つの支持アーム16・16・16・16およびICタグ17を備える。
【0019】
プランター2は、ロアフレーム11の上面において一対のアッパーフレーム12・12で挟まれる部分に載置される。このとき、プランター2の係止片2a・2aは、それぞれ一対のアッパーフレーム12・12に係止される。また、車輪13・13・・・は、ロアフレーム11の下方に設けられており、栽培ベンチ10を移動可能とする。規制アーム15・15および支持アーム16・16・16・16は、「栽培された植物のプランター2の外部まで伸長した部分」を支持する保護ネット(不図示)が取り付けられる。ICタグ17は、対応するプランター2(ICタグ17が設けられた栽培ベンチ10に支持されるプランター2)により栽培される植物の情報を読み書きできる。
【0020】
搬送装置20は、プランター2を搬送するものである。より詳細には、搬送装置20は、プランター2を支持した栽培ベンチ10を搬送するものである。搬送装置20は、第一縦搬送装置20A、第二縦搬送装置20B、第一横搬送装置20Cおよび第二横搬送装置20Dで構成される。
【0021】
図1に示す如く、第一縦搬送装置20Aおよび第二縦搬送装置20Bは、左右方向(横方向)に並べて配置され、栽培ベンチ10・10・・・(ひいては、これらに支持されるプランター2・2・・・)を前後方向(縦方向)に搬送する。
第一横搬送装置20Cおよび第二横搬送装置20Dは、前後方向(縦方向)に並べて配置され、栽培ベンチ10・10・・・(プランター2・2・・・)を左右方向(横方向)に搬送する。
【0022】
第一横搬送装置20Cの右半部は第一縦搬送装置20Aの前端部の前方に配置され、第一横搬送装置20Cの左半部は第二縦搬送装置20Bの前端部の前方に配置される。このため、第一横搬送装置20Cは、第一縦搬送装置20Aから栽培ベンチ10・10・・・(プランター2・2・・・)を受け取り、第二縦搬送装置20Bに栽培ベンチ10・10・・・(プランター2・2・・・)を送り渡すことができる(図1中に示す黒塗りの矢印参照)。
【0023】
第二横搬送装置20Dの右半部は第一縦搬送装置20Aの後端部の後方に配置され、第二横搬送装置20Dの左半部は第二縦搬送装置20Bの後端部の後方に配置される。このため、第二横搬送装置20Dは、第二縦搬送装置20Bから栽培ベンチ10・10・・・(プランター2・2・・・)を受け取り、第一縦搬送装置20Aに栽培ベンチ10・10・・・(プランター2・2・・・)を送り渡すことができる(図1中に示す黒塗りの矢印参照)。
【0024】
こうして、移動栽培装置1は、第一縦搬送装置20Aから第一横搬送装置20C、第二縦搬送装置20Bおよび第二横搬送装置20Dを経て第一縦搬送装置20Aに戻る無端状(リング状)の搬送経路に沿って栽培ベンチ10・10・・・(プランター2・2・・・)を搬送することを可能としている。
なお、本移動栽培装置1は、栽培ベンチ10・10・・・(プランター2・2・・・)を搬送経路に沿って反時計回りに搬送すること又は時計回りに搬送することが可能である。
【0025】
潅水装置30は、搬送されるプランター2に向けて水を散布するものである。本実施形態において潅水装置30は、第二横搬送装置20Dの中途部に配置されている。潅水装置30は、制御装置50からの指示に基づいて作動し、第二横搬送装置20Dによって搬送されるプランター2に向けて水を散布する(図3参照)。
【0026】
図1に示す如く、制御装置50は、潅水装置30および読み取り装置51に電気通信回線を介して接続されている。制御装置50は、読み取り装置51を用いてICタグ17に書き込まれた情報、すなわち、水の散布量(散布頻度等)を読み取り、潅水装置30に制御信号を送信する。こうして、潅水装置30は、制御装置50からの指示に基づいて、所定のプランター2に向けて水を適宜に散布することができる。
【0027】
防除装置40は、搬送されるプランター2に向けて薬剤を散布するものである。本実施形態において防除装置40は、潅水装置30の近傍に配置されている。防除装置40は、制御装置50からの指示に基づいて作動し、第二横搬送装置20Dによって搬送されるプランター2に向けて薬剤を散布する(図4参照)。
【0028】
図1に示す如く、制御装置50は、防除装置40および読み取り装置51に電気通信回線を介して接続されている。制御装置50は、読み取り装置51を用いてICタグ17に書き込まれた情報、すなわち、薬剤の散布量(散布頻度等)を読み取り、防除装置40に制御信号を送信する。こうして、防除装置40は、制御装置50からの指示に基づいて、所定のプランター2に向けて薬剤を適宜に散布することができる。
【0029】
制御装置50は、上述したように、予め設定された水および薬剤の散布量(散布頻度等)に基づいて、潅水装置30や防除装置40を制御するものである。より詳細には、制御装置50は、プランター2ごとに水および薬剤の散布量(散布頻度等)を設定することができ、設定に基づいて潅水装置30や防除装置40を作動させる。これにより、制御装置50は、多品種の植物(本実施形態では品種の異なるイチゴ)を同時に栽培することを可能としている。
【0030】
また、図3および図4に示す如く、本移動栽培装置1は、受け樋21と、切換弁22と、排水樋23と、廃液樋24と、を備える。なお、図中に示す黒塗りの矢印は、プランター2および栽培ベンチ10の搬送方向を示している。
【0031】
受け樋21は、潅水装置30によって散布された水および防除装置40によって散布された薬剤を受け止める。本実施形態において受け樋21は、第二横搬送装置20Dを構成する搬送レーンの下方に配置されている。このため、受け樋21は、プランター2に向けて散布された水のうち、飛散した水や植物の葉を伝って零れ落ちた水を該プランター2の下方で受け止めることができる。また、受け樋21は、プランター2に向けて散布された薬剤のうち、飛散した薬剤や植物の葉を伝って零れ落ちた薬剤を該プランター2の下方で受け止めることができる。
【0032】
受け樋21は、左右方向の中央部が下方に傾斜するように形成(断面視V字形状に形成)された板状の部材である。受け樋21には、受け止めた水又は薬剤が零れないように、側板21wが形成されている。また、受け樋21の底部には、切換弁22に連通する案内孔21hが設けられている。このため、受け樋21は、受け止めた水又は薬剤を底部に集めて、切換弁22に案内することができる。
【0033】
切換弁22は、受け樋21が受け止めた水又は薬剤の案内方向を切り換える。本実施形態において切換弁22は、受け樋21に設けられた案内孔21hの下方に配置されている。また、切換弁22の下方には、左右方向に延設された排水樋23と廃液樋24が設置されている。
【0034】
切換弁22は、支持軸22sを中心として回動可能に構成された板状の部材である。切換弁22には、案内する水又は薬剤が零れないように、側板22wが形成されている。また、支持軸22sには、回動ハンドル22hが取り付けられているため、切換弁22を左周り方向又は右周り方向に任意に回動させることが可能である。このため、切換弁22は、受け樋21が水を受け止めた場合に、該水を排水樋23に案内することができる(図3参照)。また、切換弁22は、受け樋21が薬剤を受け止めた場合に、該薬剤を廃液樋24に案内することができる(図4参照)。
なお、排水樋23は、該排水樋23に案内された水を貯溜槽に導く又は自然界に放出させる。廃液樋24は、該廃液樋24に案内された薬剤を貯溜槽に導く。
【0035】
このような構成により、本実施形態に係る移動栽培装置1においては、簡素な構造でありながら、プランター2に散布された水とプランター2に散布された薬剤が混ざらず、排水処理および廃液処理が容易となる。
【0036】
また、図5に示す如く、切換弁22は、電動モータ22mを用いて回動可能に構成するとしても良い。この場合、制御装置50は、潅水装置30や防除装置40のほか、電動モータ22mにも電気通信回線を介して接続される。このため、制御装置50は、潅水装置30が水を散布した場合に、受け樋21が水を受け止めたと判断して該水を排水樋23に案内するように切換弁22を制御することができる。また、制御装置50は、防除装置40が薬剤を散布した場合に、受け樋21が薬剤を受け止めたと判断して該薬剤を廃液樋24に案内するように切換弁22を制御することができる。つまり、潅水装置30と防除装置40の作動に連動して、切換弁22が切り換えられる構成とすることができる。
【0037】
このような構成により、本実施形態に係る移動栽培装置1においては、プランター2に散布された水とプランター2に散布された薬剤が混ざらないように自動管理することができる。
【0038】
なお、電動モータ22mを用いることなく、空気アクチュエータ(エアシリンダ)等を用いた構成であっても良い。この場合、制御装置50は、潅水装置30や防除装置40のほか、電磁バルブにも電気通信回線を介して接続される。このように、空気アクチュエータ等を用いた構成であっても同様の効果を得ることが可能である。
また、切換弁22は、いわゆるシーソー構造に限定するものではなく、逆Y字状に構成した分岐管の上部管を案内孔21hに連通し、一方の下部管を排水樋23に案内し、他方の下部管を廃液樋24に案内し、中央の分岐部に弁体を配置して案内方向を切り換える構造であっても良い。
【0039】
次に、本実施形態に係る移動栽培装置1の他の特徴点について説明する。
【0040】
図1に示す如く、本移動栽培装置1において防除装置40、受け樋21および切換弁22は、作業場WFから離れた位置に設けられている。より詳細には、防除装置40、受け樋21および切換弁22は、作業場WFが隣接された第一横搬送装置20Cから離れた位置にある第二横搬送装置20Dに設けられている。ここで、作業場WFとは、作業者が収穫作業や管理作業、プランター2の入れ替え作業、制御装置50の入力作業等を行なう場所と定義できる。従って、防除装置40、受け樋21および切換弁22は、作業者が作業を行なう場所から離れた位置に設けられている。
【0041】
このような構成により、本実施形態に係る移動栽培装置1においては、プランター2に向けて散布された薬剤が作業者にかかることを防止できる。
【符号の説明】
【0042】
1 移動栽培装置
2 プランター
10 栽培ベンチ
20 搬送装置
20A 第一縦搬送装置
20B 第二縦搬送装置
20C 第一横搬送装置
20D 第二横搬送装置
21 受け樋
21h 案内孔
21w 側板
22 切換弁
22s 支持軸
22h 回動ハンドル
22w 側板
23 排水樋
24 廃液樋
30 潅水装置
40 防除装置
50 制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プランターを搬送する搬送装置と、
搬送される前記プランターに向けて水を散布する潅水装置と、
搬送される前記プランターに向けて薬剤を散布する防除装置と、を備えた移動栽培装置において、
散布された水および散布された薬剤を前記プランターの下方で受け止める受け樋と、
前記受け樋が受け止めた水又は薬剤の案内方向を切り換える切換弁と、を設け、
前記切換弁は、前記受け樋が水を受け止めた場合に該水を排水樋に案内し、前記受け樋が薬剤を受け止めた場合に該薬剤を廃液樋に案内する、ことを特徴とする移動栽培装置。
【請求項2】
前記切換弁を制御可能とする制御装置を備え、
前記制御装置は、前記潅水装置が水を散布した場合に前記受け樋が水を受け止めたと判断して該水を前記排水樋に案内するように前記切換弁を制御し、前記防除装置が薬剤を散布した場合に前記受け樋が薬剤を受け止めたと判断して該薬剤を前記廃液樋に案内するように前記切換弁を制御する、ことを特徴とする請求項1に記載の移動栽培装置。
【請求項3】
前記防除装置、前記受け樋および前記切換弁は、作業場から離れた位置に設けられる、ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の移動栽培装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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