説明

移動機構の防塵装置および測定機

【課題】可動部材への影響を極力低減できる防塵装置およびこれを用いた測定機を提供する。
【解決手段】Y軸移動機構3を覆う帯状の1枚の防塵シート30を備える。防塵シート30は、ステージ2の移動領域のうち、ステージ2を挟んだ一方側の開口23を覆うとともに一端がステージ2に連結された第1表面覆部31と、ステージ2を挟んだ他方側の開口23を覆うとともに他端がステージ2に連結された第2表面覆部32と、第1表面覆部の他端と第2表面覆部の一端とを連結するとともにY軸移動機構3を挟んで第1表面覆部および第2表面覆部とは反対側に配置された裏面覆部33とを有し、これらの覆部が前記可動部材の移動に伴って回行可能に構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動機構の防塵装置および測定機に関する。
【背景技術】
【0002】
画像測定機、三次元測定機、形状測定機など、ステージなどの移動機構を有する装置には、移動機構内部への異物の侵入を防ぐため、あるいは、移動機構内部の保護のために、防塵装置が備えられている(特許文献1参照)。
【0003】
例えば、移動機構は、図5に示すように、支持台11にステージ2の移動方向と平行に配置されたボールねじ軸15と、このボールねじ軸15を回転させるモータ16と、ステージ2に設けられボールねじ軸15に螺合されたナット部材17とから構成されている。防塵装置は、ステージ2の移動方向一方側を覆う蛇腹部材61と、ステージ2の移動方向他方側を覆う蛇腹部材62とから構成されている。
【0004】
いま、ステージ2が移動すると、図6に示すように、ステージ2の移動に合わせて、一方の蛇腹部材61が縮み、反対側の蛇腹部材62が伸びる。このとき、ステージ2の移動領域が常に蛇腹部材61,62で覆われているから、移動機構内部への異物の侵入が防止され、あるいは、移動機構内部が保護される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実公平4−21051号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、蛇腹部材61,62の動きは不規則であり、摺動抵抗を一定に確保することは難しい。とくに、ステージ2の移動方向に合わせて蛇腹部材61,62を保持するために、蛇腹部材61,62の幅方向端部を収納するガイド溝を設けると、蛇腹部材61,62の伸縮に伴って、ガイド溝に接する蛇腹部材の折り返し部分の摺動抵抗も変動するため、ステージ2に及ぼす影響が変わってくる。
【0007】
図7は、実際の測定機において、蛇腹部材の影響を評価した一例である。同図中、実線(あり)は、蛇腹部材を用いた測定機において、ワークを測定したときのステージ2の移動距離とワークの測定結果(変位)との関係を示す図である。同図中、破線(なし)は、蛇腹部材を用いない測定機において、同じワークを測定したときのステージ2の移動距離とワークの測定結果(変位)との関係を示す図である。
この結果からも分かるように、蛇腹部材を用いたものでは、摺動抵抗や引っ掛かりによって、測定データにスパイクノイズが発生していることが分かる。従って、今後、要求される測定精度が高くなるにつれて、蛇腹構造の防塵装置の影響を無視することができなくなることが予想され、新しい防塵装置が要望される。
【0008】
本発明の目的は、このような従来の課題を解決すべく、可動部材への影響を極力低減できる防塵装置およびこれを用いた測定機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の移動機構の防塵装置は、可動部材を往復直線移動させる移動機構の防塵装置であって、前記移動機構を覆う帯状の1枚の防塵シートを備え、前記防塵シートは、前記可動部材の移動領域のうち、前記可動部材を挟んだ一方側を覆うとともに一端が前記可動部材に連結された第1表面覆部と、前記可動部材を挟んだ他方側を覆うとともに他端が前記可動部材に連結された第2表面覆部と、前記第1表面覆部の他端と前記第2表面覆部の一端とを連結するとともに前記移動機構を挟んで前記第1表面覆部および第2表面覆部とは反対側に配置された裏面覆部とを有し、これらの覆部が前記可動部材の移動に伴って回行可能に構成されている、ことを特徴とする。
【0010】
このような構成によれば、1枚の帯状の防塵シートから構成されているため、従来の蛇腹部材の構成に比べ、摺動抵抗の変動を小さくできる。つまり、防塵シートの幅方向端部にガイド溝を設けたとしても、ガイド溝と接する部分の摺動抵抗が変化することも少ないため、摺動抵抗の変動を小さく抑えることができる。
また、防塵シートは、可動部材を挟んだ一方側を覆う第1表面覆部と、可動部材を挟んだ他方側を覆う第2表面覆部と、これら第1表面覆部および第2表面覆部を連結するとともに移動機構を挟んで第1表面覆部および第2表面覆部とは反対側に配置された裏面覆部とを有するから、つまり、可動部材および防塵シートで、駆動機構を囲む構成であるから、駆動機構内への異物、とくに、ほこりの侵入を確実に防ぐことができる。
【0011】
本発明の移動機構の防塵装置において、前記防塵シートは、静電気帯電防止材または静電気除去材によって構成されている、ことが好ましい。
このような構成によれば、防塵シートにほこりなどが付着するのを防止できるので、ほこりの堆積による加工・測定環境の悪化を防ぐことができる。そのため、クリーンな加工・測定環境で作業を行うことができる。
【0012】
本発明の移動機構の防塵装置において、前記第1表面覆部と前記裏面覆部との連結部、および、前記第2表面覆部と前記裏面覆部との連結部には、前記防塵シートの回行動作をガイドするガイドローラが設けられ、前記防塵シートの張力が一定に保たれる方向へ前記ガイドローラのうち少なくとも1つのガイドローラを付勢する付勢手段が設けられている、ことが好ましい。
このような構成によれば、第1表面覆部と裏面覆部との連結部、および、第2表面覆部と裏面覆部との連結部には、防塵シートの回行動作をガイドするガイドローラが設けられているから、可動部材の移動に対して、覆部の回行動作をスムーズに行える。しかも、これらのガイドローラのうち、少なくとも1つのガイドローラは、防塵シートの張力が一定に保たれる方向へ付勢されているから、防塵シートを略一定の摺動抵抗で安定して移動させることができる。
【0013】
本発明の測定機は、上述したいずれかの移動機構の防塵装置を備えたことを特徴とする。
このような構成によれば、上述した各移動機構の防塵装置で述べた効果が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態を示す形状測定機の正面図。
【図2】同上実施形態の側面図。
【図3】同上実施形態の移動機構および防塵装置を示す断面図。
【図4】防塵装置の変形例を示す図。
【図5】従来の蛇腹部材を用いた駆動機構の防塵装置を示す図。
【図6】従来の蛇腹部材を用いた駆動機構の防塵装置の動作状態を示す図。
【図7】従来の蛇腹部材を用いた駆動機構の防塵装置の評価結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
<形状測定機の説明(図1および図2参照)>
図1は、本発明の防塵装置および測定機を形状測定機に適用した実施形態の正面図、図2は、同形状測定機の側面図である。
本実施形態に係る形状測定機は、基台1と、被測定物を載置する可動部材としてのステージ2と、このステージ2を前後方向(Y軸方向)へ変位させるY軸移動機構3と、基台1の上面にステージ2を跨いで設けられた門形フレーム4と、この門形フレーム4のクロスレール4Aに左右方向(X軸方向)へ変位可能に設けられたXスライダ5と、このXスライダ5をX軸方向へ移動させるX軸移動機構6と、Xスライダ5に上下方向(Z軸方向)へ移動可能に設けられたZスライダ7と、このZスライダ7を昇降させるZ軸移動機構8と、Zスライダ7の下端に設けられたプローブ9と、Y軸移動機構3を覆う防塵装置10とを含んで構成されている。
【0016】
ステージ2は、図3に示すように、基台1の上面に支持された支持台11にガイド部材12を介してY軸方向へ変位に設けられている。支持台11には、Y軸方向に沿ってシート挿通孔13が貫通形成されている。
Y軸移動機構3は、支持台11の上面にY軸方向と平行に支持されたボールねじ軸15と、このボールねじ軸15を回転させるモータ16と、ステージ2に設けられているとともにボールねじ軸15に螺合されたナット部材17とを有する送りねじ機構によって構成されている。
X軸移動機構6やZ軸移動機構8も、Y軸移動機構3と同様に、例えば、ボールねじ軸と、モータと、ボールねじ軸に螺合されたナット部材とを有する送りねじ機構によって構成されている。
なお、これら Y軸移動機構3、門形フレーム4、Xスライダ5、X軸移動機構6、Zスライダ7およびZ軸移動機構8などは、プローブ9と可動部材としてのステージ2とを、X軸方向、Y軸方向およびZ軸方向、つまり、三次元方向へ相対移動させる相対移動機構を構成している。
【0017】
<Y軸駆動機構の防塵装置の説明(図3参照)>
Y軸移動機構3の防塵装置10は、ステージ2およびY軸移動機構3の周囲を覆う防塵ケース20と、この防塵ケース20の開口23を覆うとともにY軸移動機構3の上下面および前後面を覆う帯状の防塵シート30と、この防塵シート30の回行動作をガイドするガイド手段40とから構成されている。
防塵ケース20は、ステージ2およびY軸移動機構3の正面および裏面を覆う前後壁21と、ステージ2およびY軸移動機構3の側面を覆う側壁22とを有し、これらで囲まれた上面にステージ2の上部を露出するための開口23を有する箱状に形成されている。前後壁21および側壁22の上端には、内側へ略直角に折り曲げられた鍔部21A,22Aが形成されている。
【0018】
防塵シート30は、静電気帯電防止処理が施された静電気帯電防止材からなる1枚の帯状のシート、あるいは、静電気除去材からなる1枚の帯状のシートで、しかも、表面が低摩擦なシートから構成されている。例えば、単層樹脂シート、あるいは、異なる複数の樹脂シート(フィルム)を積層した複数層樹脂シートから構成されている。シートは、幅寸法がステージ2の幅寸法と同等かこれより僅かに広い寸法に形成され、また、厚みは、シートの回行に伴って破損しない強度を有する厚さが望ましい。
また、防塵シート30は、ステージ2の移動領域のうち、ステージ2を挟んだ一方側の開口23を覆うとともに一端(図3中右端;後端)がステージ2に連結された第1表面覆部31と、ステージ2を挟んだ他方側の開口23を覆うとともに他端(図3中左端:前端)がステージ2に連結された第2表面覆部32と、Y軸移動機構3を挟んで第1表面覆部31および第2表面覆部32とは反対側に配置された裏面覆部33と、第1表面覆部31の他端(図3中左端:前端)と裏面覆部33の他端(図3中左端:前端)とを連結する連結部34と、第2表面覆部32の一端(図3中右端:後端)と裏面覆部33の一端(図3中右端:後端)とを連結する連結部35とを有し、これらの覆部および連結部がステージ2の移動に伴って回行可能に構成されている。
【0019】
第1表面覆部31および第2表面覆部32の幅方向両端(図3の紙面と直交する方向の両端)は、鍔部22Aの下面に対して僅かな隙間を隔てて、あるいは、僅かに接する状態で配置されている。また、第1表面覆部31の他端(前端)および第2表面覆部32の一端(後端)も、鍔部21Aの下面に対して僅かな隙間を隔てて、あるいは、僅かに接する状態で配置されている。従って、これらの隙間から異物の侵入が防止されている。
裏面覆部33は、支持台11のシート挿通孔13を通ってY軸方向と平行に配置されている。
【0020】
ガイド手段40は、第1表面覆部31と連結部34との角部に設けられたガイドローラ41と、連結部34と裏面覆部33との角部に設けられたガイドローラ42と、裏面覆部33と連結部35との角部に設けられたガイドローラ43と、連結部35と第2表面覆部32との角部に設けられたガイドローラ44とから構成されている。つまり、4つのガイドローラ41〜44により構成されている。
これらのガイドローラ41〜44は、防塵ケース20に回転可能に支持されている。
【0021】
<測定動作>
測定にあたっては、ステージ2の上に被測定物を載置したのち、ステージ2をY軸方向へ、プローブ9をX軸およびZ軸方向へ移動させながら、プローブ9を被測定物に接触させる。すると、そのときの各軸の座標値、つまり、ステージ2のY軸座標値、プローブ9のX軸およびZ軸値が取り込まれるから、これらの座標値から被測定物の寸法や形状が測定される。
【0022】
いま、ステージ2がY軸方向へ移動すると、例えば、図3中左方向へ移動すると、ステージ2の移動に伴って、防塵シート30は、図3中反時計方向へ回行される。このとき、防塵シート30はたるむことなく一定の張力で回行されるから、摺動抵抗の変動を小さく抑えることができる。
【0023】
<実施形態の効果>
(1)防塵装置10は、1枚の帯状の防塵シート30を含んで構成されているため、従来の蛇腹部材の構成に比べ、摺動抵抗の変動を小さくできる。
(2)防塵シート30は、ステージ2を挟んだ一方側の開口23を覆う第1表面覆部31と、ステージ2を挟んだ他方側の開口23を覆う第2表面覆部32と、これら第1表面覆部31および第2表面覆部32を連結するとともにY軸移動機構3を挟んで第1表面覆部31および第2表面覆部32とは反対側に配置された裏面覆部33とを有するから、つまり、ステージ2および防塵シート30で、Y軸移動機構3を囲む構成であるから、Y軸移動機構3内への異物、とくに、ほこりの侵入を確実に防ぐことができ、
【0024】
(3)防塵シート30はシート状であるため、従来の蛇腹部材に比べ、ほこりなどが付着するのを防止できる。従って、ほこりの堆積による加工・測定環境の悪化を防ぐことができる。そのため、クリーンな加工・測定環境で作業を行うことができる。
しかも、静電気帯電防止シートや静電気除去シートで構成されているので、静電気によるほこりの付着を極力排除できる。
【0025】
(4)第1表面覆部31と裏面覆部33との連結部34、および、第2表面覆部32と裏面覆部33との連結部35には、防塵シートの回行動作をガイドするガイドローラ41〜44が設けられているから、ステージ2の移動に対して、覆部の回行動作がスムーズに行える。
【0026】
<変形例>
なお、本発明は、前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
前記実施形態において、4つのガイドローラ41〜44の少なくとも1つのガイドローラを付勢する付勢手段を設け、これにより、防塵シート30の張力を一定に保つようにしてもよい。
例えば、図4に示すように、2つのガイドローラ43,44の連結部材50で連結し、この連結部材50をばねなどの付勢手段51で外方へ付勢するようにすれば、防塵シート30を略一定の摺動抵抗で安定して移動させることができる。
【0027】
前記実施形態では、防塵装置10を、Y軸移動機構3に適用した例について説明したが、これに限られない。例えば、X軸移動機構6やZ軸移動機構8に適用しても、同様な効果が期待できる。
また、前記実施形態で述べた形状測定機に限らず、画像測定機や三次元測定機などの測定機であってもよく、あるいは、工作機械などでもよい。つまり、可動部材を往復直線移動させる移動機構を備えた測定機や工作機械などに、本発明の防塵装置を適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、画像測定機、三次元測定機、形状測定機などの測定機のほか、ワークを載置したテーブルを移動させる移動機構を有する工作機械などにも利用することができる。
【符号の説明】
【0029】
2…ステージ(可動部材)、
3…Y軸移動機構(移動機構)、
10…防塵装置、
20…防塵ケース、
30…防塵シート、
31…第1表面覆部、
32…第2表面覆部、
33…裏面覆部、
34…連結部、
35…連結部、
40…ガイド手段、
41〜44…ガイドローラ、
51…付勢手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可動部材を往復直線移動させる移動機構の防塵装置であって、
前記移動機構を覆う帯状の1枚の防塵シートを備え、
前記防塵シートは、前記可動部材の移動領域のうち、前記可動部材を挟んだ一方側を覆うとともに一端が前記可動部材に連結された第1表面覆部と、前記可動部材を挟んだ他方側を覆うとともに他端が前記可動部材に連結された第2表面覆部と、前記第1表面覆部の他端と前記第2表面覆部の一端とを連結するとともに前記移動機構を挟んで前記第1表面覆部および第2表面覆部とは反対側に配置された裏面覆部とを有し、これらの覆部が前記可動部材の移動に伴って回行可能に構成されている、ことを特徴とする移動機構の防塵装置。
【請求項2】
請求項1に記載の移動機構の防塵装置において、
前記防塵シートは、静電気帯電防止材または静電気除去材によって構成されている、ことを特徴とする移動機構の防塵装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の移動機構の防塵装置において、
前記第1表面覆部と前記裏面覆部との連結部、および、前記第2表面覆部と前記裏面覆部との連結部には、前記防塵シートの回行動作をガイドするガイドローラが設けられ、
前記防塵シートの張力が一定に保たれる方向へ前記ガイドローラのうち少なくとも1つのガイドローラを付勢する付勢手段が設けられている、ことを特徴とする移動機構の防塵装置。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれかを備えたことを特徴とする測定機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2010−242907(P2010−242907A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−93861(P2009−93861)
【出願日】平成21年4月8日(2009.4.8)
【出願人】(000137694)株式会社ミツトヨ (979)
【Fターム(参考)】