説明

移動無線システム

【課題】簡単な構成で、複数の通信を同時に行うことが可能な移動無線システムを提供する。
【解決手段】第1および第2移動局装置31,41と基地局装置14とを備えて列車無線システム1を構成する。第1および第2移動局装置31,41にそれぞれ第1および第2車上情報装置36,46を接続し、第1および第2車上情報装置36,46を互いに通信可能に接続する。たとえば第1移動局装置31を代表局装置として、第1移動局装置31が基地局装置14と無線通信を開始したときに、第1移動局装置31から第1車上情報装置36を介して第2車上情報装置46に無線装置使用中信号を送信させる。そして第2車上情報装置46によって、第2移動局装置41を代表局装置に切り換える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の無線回線を介して、基地局装置と移動局装置との間で無線通信を行う移動無線システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術の移動無線システムが、たとえば特許文献1に開示される。特許文献1に開示される移動無線システムでは、基地局装置(以下、単に「基地局」という場合がある)は、移動局装置(以下、単に「移動局」という場合がある)との音声交信中に所定の情報の伝送の要求があると、無線回線のモードを音声交信から情報通信へ切り換え、所定の情報の伝送が完了すると、無線回線のモードを音声交信へ復帰させるように構成される。
【0003】
特許文献1に開示される移動無線システムでは、基地局は、音声交信と情報の伝送とを同時に行うことができるだけの数の無線回線を有していない。また移動局は、音声交信と情報の伝送とを同時に行うことができるだけの数の無線装置を有していない。したがって、音声交信中に情報の伝送の要求があった場合には、前述のように無線回線のモードを音声交信から情報通信に切り換える必要があり、音声交信と情報伝送とを同時に行うことができない。
【0004】
特許文献1には、音声交信と情報伝送とを同時に行うための技術として、無線回線を、音声交信チャネルと情報伝送チャネルとが同時に通信を行うように構成することが開示されている。このような構成の無線回線を用いることによって、基地局は、音声交信と情報の伝送とを同時に行うことが可能になる。
【0005】
しかし、移動局が、音声交信と情報の伝送とを同時に行うことができるだけの数の無線装置を有していなければ、音声交信と情報の伝送とを同時に行うことはできない。換言すれば、基地局が移動局との間に複数の無線回線を有していたとしても、移動局が同時通信可能な無線回線の数以上の数の通信を同時に行うことはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−153511号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述のように、特許文献1に開示される移動無線システムでは、基地局が移動局との間に複数の無線回線を有していたとしても、移動局が同時通信可能な無線回線の数以上の数の通信を同時に行うことはできない。したがって、回線輻輳時には、いずれかの通信を待機させる必要があるので、たとえば緊急性の高い通信が複数発生した場合に、これらの通信を同時に行うことができないおそれがある。
【0008】
また特許文献1に開示される移動無線システムにおいて、複数の通信を同時に行うためには、移動局が通信用の無線装置を複数有していることが必要であり、構成が複雑になるおそれがある。
【0009】
したがって、特許文献1に開示される移動無線システムには改良の余地がある。
【0010】
本発明の目的は、簡単な構成で、複数の通信を同時に行うことが可能な移動無線システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の移動無線システムは、同一の移動体に搭載される複数の移動局装置と、前記複数の移動局装置と無線通信可能な基地局装置とを備える移動無線システムであって、前記移動体に搭載されて前記複数の移動局装置にそれぞれ接続され、前記移動局装置を介して前記基地局装置と無線通信する複数の通信装置を備え、各通信装置は、他の通信装置と通信可能に接続され、前記複数の移動局装置のうち、前記基地局装置と優先的に無線通信する代表局装置として予め定められる移動局装置は、前記基地局装置と無線通信を開始すると、自装置が使用中であることを表す使用中信号を、自装置に接続される通信装置を介して、同一の移動体に搭載される他の移動局装置に接続される通信装置に送信し、前記他の移動局装置に接続される通信装置は、前記代表局装置として予め定められる移動局装置から送信された使用中信号を受信すると、前記他の移動局装置に、前記代表局装置として動作するように指示することを特徴とする。
【0012】
また本発明の移動無線システムは、同一の移動体に搭載される複数の移動局装置と、前記複数の移動局装置と無線通信可能な基地局装置とを備える移動無線システムであって、前記移動体に搭載されて前記複数の移動局装置にそれぞれ接続され、前記移動局装置を介して前記基地局装置と無線通信する複数の通信装置を備え、各通信装置は、他の通信装置と通信可能に接続され、前記複数の移動局装置のうち、前記基地局装置と優先的に無線通信する代表局装置として予め定められる移動局装置は、自装置に接続される通信装置から前記基地局装置との通信を開始するように指示されると、自装置が使用中であるか否かを判断し、自装置が使用中であると判断すると、自装置に接続される通信装置を介して、同一の移動体に搭載される他の移動局装置に接続される通信装置に、前記他の移動局装置を前記代表局装置に切り換えるように指示することを特徴とする。
【0013】
また本発明の移動無線システムは、同一の移動体に搭載される複数の移動局装置と、前記複数の移動局装置と無線通信可能な基地局装置とを備える移動無線システムであって、各移動局装置は、他の移動局装置と通信可能に接続され、前記複数の移動局装置のうち、前記基地局装置と優先的に無線通信する代表局装置として予め定められる移動局装置は、前記基地局装置と無線通信を開始すると、自装置が使用中であることを表す使用中信号を、同一の移動体に搭載される他の移動局装置に送信し、前記他の移動局装置は、前記代表局装置として予め定められる移動局装置から送信された使用中信号を受信すると、前記代表局装置として動作することを特徴とする。
【0014】
また本発明の移動無線システムは、同一の移動体に搭載される複数の移動局装置と、前記複数の移動局装置と無線通信可能な基地局装置とを備える移動無線システムであって、各移動局装置は、前記基地局装置から呼出信号を受信すると、自装置が使用中であるか否かを判断し、自装置が使用中でないと判断すると、前記基地局装置に呼出応答信号を送信し、前記基地局装置は、前記呼出応答信号を受信すると、前記呼出応答信号を送信した移動局装置との無線通信を開始することを特徴とする。
【0015】
また本発明の移動無線システムは、同一の移動体に搭載される複数の移動局装置と、前記複数の移動局装置と無線通信可能な基地局装置とを備える移動無線システムであって、各移動局装置は、前記基地局装置から呼出信号を受信すると、自装置が前記基地局装置と優先的に無線通信するように予め定められる代表局装置であるか否かを判断し、自装置が代表局装置であると判断すると、前記基地局装置に呼出応答信号を送信し、前記基地局装置は、前記呼出応答信号を受信すると、前記呼出応答信号を送信した移動局装置との無線通信を開始することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の移動無線システムによれば、同一の移動体に搭載される複数の移動局装置のうち、使用中でない移動局装置を用いて、新たに無線通信を行うことができる。これによって、各移動局装置に備える無線装置の数を増やすことなく、基地局装置との間で、複数の通信を同時に行うことができる。したがって、簡単な構成で、複数の通信を同時に行うことが可能な移動無線システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1の実施の形態である列車無線システム1の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態における列車無線システム1において、音声交信中にデータ通信が発生したときの処理手順を示すシーケンス図である。
【図3】本発明の第2の実施の形態における列車無線システムにおいて、音声交信中にデータ通信が発生したときの処理手順を示すシーケンス図である。
【図4】本発明の第3の実施の形態である列車無線システム2の構成を示すブロック図である。
【図5】本発明の第4の実施の形態における列車無線システムにおいて、音声交信中にデータ通信が発生したときの処理手順を示すシーケンス図である。
【図6】本発明の第5の実施の形態における列車無線システムにおいて、音声交信中にデータ通信が発生したときの処理手順を示すシーケンス図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<第1の実施の形態>
図1は、本発明の第1の実施の形態である列車無線システム1の構成を示すブロック図である。列車無線システム1は、地上局装置10と、車上局装置50とを備えて構成される。列車無線システム1は、移動無線システムに相当する。車上局装置50は、列車60に搭載される。列車60は、移動体に相当する。
【0019】
地上局装置10は、指令卓装置11、地上情報装置12、中央制御装置13、基地局装置14および基地局アンテナ15を備える。基地局装置(以下、単に「基地局」という場合がある)14は、基地局インタフェース(略称:I/F)20、基地局無線装置21および基地局高周波部22を備える。基地局無線装置21は、基地局制御チャネル(略称:CH)用無線装置21a、基地局第1通信CH用無線装置21b、基地局第2通信CH用無線装置21cおよび基地局第3通信CH用無線装置21dを含む。
【0020】
車上局装置50は、複数の車上移動局装置(以下、単に「車上移動局」または「移動局」という場合がある)31,41と、移動局31,41と同数の移動局アンテナ32,42および車上情報装置36,46とを備える。基地局14は、前述のように複数の無線装置21a〜21dを含む基地局無線装置21を備えるので、複数の移動局31,41と無線通信可能である。つまり、基地局14は、基地局無線装置21によって、複数の移動局31,41と同時に無線通信を行うことが可能である。「無線通信」は、音声交信およびデータ通信を含む。
【0021】
1つの移動局に対して、1つの移動局アンテナと、1つの車上情報装置とが接続され、列車60を構成する各車両に搭載される。列車60は、移動局31,41、移動局アンテナ32,42および車上情報装置36,46が搭載される車両(以下「無線車両」という場合がある)30,40を含む複数の車両が連結されて構成される。
【0022】
本実施の形態では、列車60は、2つの無線車両30,40、具体的には第1無線車両30および第2無線車両40を含む。各無線車両30,40には、移動局31,41、移動局アンテナ32,42および車上情報装置36,46が搭載される。車上情報装置36,46は、通信装置に相当する。
【0023】
各移動局31,41は、移動局高周波部33,43、移動局無線装置34,44および移動局I/F35,45を備える。各移動局無線装置34,44は、制御CH用無線装置34a,44aおよび通信CH用無線装置34b,44bを含む。図示は省略するが、各移動局高周波部33,43は、合成分配器および送受信共用フィルターなどを備える。
【0024】
具体的には、第1無線車両30には、第1移動局装置(以下「第1移動局」という場合がある)31、第1移動局アンテナ32および第1車上情報装置36が搭載される。第1移動局31は、第1移動局高周波部33、第1移動局無線装置34および第1移動局I/F35を備える。第1移動局無線装置34は、制御CH用無線装置34aおよび通信CH用無線装置34bを含む。第1移動局I/F35は、第1車上情報装置36との間のインタフェースである。
【0025】
同様に、第2無線車両40には、第2移動局装置(以下「第2移動局」という場合がある)41、第2移動局アンテナ42および第2車上情報装置46が搭載される。第2移動局41は、第2移動局高周波部43、第2移動局無線装置44および第2移動局I/F45を備える。第2移動局無線装置44は、制御CH用無線装置44aおよび通信CH用無線装置44bを含む。第2移動局I/F45は、第2車上情報装置46との間のインタフェースである。
【0026】
指令卓装置11は、音声交信を行うために、複数の移動局の中から呼出し先を選んで設定し、呼出し先の移動局31,41と音声交信を行う。ここで呼出し先の選択範囲としている「複数の移動局」は、同じ編成の列車に搭載される複数の移動局ではなく、異なる編成の列車に搭載される複数の移動局を意味する。
【0027】
具体的に述べると、指令卓装置11は、編成が異なる列車に搭載される複数の移動局の中から、1つの移動局を呼出し先として選ぶ。同じ編成の列車に複数の移動局が搭載される場合には、指令卓装置11は、同じ編成の列車に搭載される複数の移動局を1種類と捉えて、編成が異なる列車に搭載される複数種類の移動局の中から、1種類の移動局を呼出し先として選ぶ。
【0028】
指令卓装置11は、このようにして呼出し先を選んで設定して、特定の編成の列車、具体的には、特定の編成の列車に搭載される移動局を呼出す。
【0029】
地上情報装置12は、移動局31,41とデータ通信を行う。中央制御装置13は、指令卓装置11、地上情報装置12および基地局装置14に接続されている。中央制御装置13は、音声交信を行うとき、およびデータ通信を行うときの無線回線の制御を行う。図示は省略するが、基地局高周波部22は、合成分配器および送受信共用フィルターなどを備える。
【0030】
地上情報装置12は、中央制御装置13と接続され、列車無線を介して車上情報装置36,46との間で、列車60に関連する情報である列車関連情報を送受信する。列車関連情報は、通告情報、運行情報、乗務員支援情報、車両30,40の状態を表す車両状態情報、ならびに車両30,40に故障が発生したこと、および発生した故障の状況を表す車両故障情報などを含む。
【0031】
通告情報は、悪天候、災害、事故などによる、速度規制、運転区間およびダイヤの変更、列車種別の変更などの運転情報の変更指示を行うための情報である。運行情報は、自路線、他路線の事故、列車遅れ、振替輸送などの乗客に案内するための情報である。乗務員支援情報は、車掌などの乗務員が、乗客からの問合せに対する回答および乗客への案内を行うための情報であり、たとえば他の列車の遅延情報、接続列車などの情報である。
【0032】
図示は省略するが、地上情報装置12は、前述の列車関連情報を入出力する入出力端末装置と、列車関連情報を車上情報装置36,46に配信するサーバ装置と、列車関連情報を表示する表示装置と、列車関連情報を記憶する記憶装置と、外部装置との間で情報の授受を行う外部インタフェースとを含む。
【0033】
車上情報装置36,46は、車上移動局31,41と接続され、車上移動局31,41を介して基地局14と無線通信する。具体的には、車上情報装置36,46は、列車無線を介して地上情報装置12との間で、前述の列車関連情報を送受信する。図示は省略するが、車上情報装置36,46は、列車関連情報を入出力する入出力端末装置と、列車関連情報を同じ編成の列車60内の他の車上情報装置に配信する配信装置と、列車関連情報を記憶する記憶装置と、外部装置との間で情報の授受を行う外部インタフェースとを含む。
【0034】
車上情報装置36,46は、前述の通告情報、運行情報などの地上から車上に伝送されてきた情報を保有および出力する。また、車上情報装置36,46は、車両機器の故障時に、車両機器から接点または伝送によって、車両機器の状態を表す情報を受け取り、保有する。車上情報装置36,46は、車両機器から受け取った車両機器の状態を表す情報を車上移動局装置31,41に渡し、地上情報装置12へ伝送する。
【0035】
また車上情報装置36,46は、同時に移動する同じ編成の列車60内に複数配置され、同じ編成の列車60内の他の車上情報装置と通信可能に接続されている。本実施の形態では、前述のように列車60内には、第1および第2車上情報装置36,46が搭載され、互いに接続されている。
【0036】
同じ編成の列車60に搭載される複数の車上情報装置36,46から、同時に車両故障情報などの情報が伝送される場合、同じ編成の列車60に搭載される複数の移動局装置31,41が、同時に無線信号を送信することになる。したがって、無線信号同士の衝突によって、情報を伝送できなくなることがある。
【0037】
この無線信号同士の衝突を避けて、情報が伝送できなくなることを防ぐために、車上局装置50では、同じ編成の列車60に搭載される複数の移動局装置31,41の中で、情報を送信する移動局装置を1つだけにする。そのために、車上局装置50は、複数の車上情報装置36,46の中から、情報を発信する車上情報装置を1つに限定する。この限定されて代表して情報を発信する車上情報装置と、それに接続される移動局装置とを合わせて、代表局装置という。以下の説明では、代表局装置を、単に「代表局」という場合がある。代表局は、基地局14と優先的に無線通信する。
【0038】
たとえば、同じ編成の列車60に搭載される複数の移動局装置31,41および車上情報装置36,46のうち、進行方向の先頭車両に搭載されている移動局装置および車上情報装置が、代表局として割り当てられる。その先頭車両に搭載されている移動局装置および車上情報装置に異常が発生した場合には、同じ編成の列車60に搭載される他の移動局装置および車上情報装置に代表局が切り換えられる。代表局は、車上情報装置36,46同士の間で情報の授受を行い、授受した情報に基づいて切り換えられる。
【0039】
次に、第1移動局31および第2移動局41を用いた列車無線による音声交信中に、車上局装置50から地上情報装置12に向けたデータ通信が発生した場合の動作について説明する。
【0040】
図2は、本発明の第1の実施の形態における列車無線システム1において、音声交信中にデータ通信が発生したときの処理手順を示すシーケンス図である。図2では、指令卓装置11と車上局装置50との音声交信中に、車上局装置50から地上情報装置12に向けたデータ通信が発生した場合の動作について説明する。
【0041】
まず、同じ編成内の2つの移動局31,41が同時に無線信号を送信すると、無線信号が衝突することになるので、いずれか一方の移動局およびそれに接続される車上情報装置を、代表局としてデータ通信を行うように割り当てる。ここでは、第1無線車両30に搭載される第1車上情報装置36およびそれに接続される第1移動局31を代表局として動作する場合について説明する。
【0042】
図1および図2を参照して、指令卓装置11に対して、指令卓装置11の使用者(以下「指令員」という場合がある)によって、第1移動局31の個別通話呼出操作が行われると、ステップa1において、指令卓装置11は、中央制御装置13に呼出信号を出力する。中央制御装置13は、呼出信号を受信すると、受信した呼出信号を、ステップa2において基地局14に出力する。基地局14は、呼出信号を受信すると、受信した呼出信号を、ステップa3において第1移動局31に向けて基地局アンテナ15から送信する。
【0043】
具体的には、指令卓装置11から出力された呼出信号は、ステップa2において、中央制御装置13を経由して、基地局14の基地局I/F20から基地局制御CH用無線装置21aに入り、ステップa3において、基地局高周波部22を経て、基地局アンテナ15から送信される。
【0044】
基地局アンテナ15から送信された呼出信号は、第1移動局31の第1移動局アンテナ32から第1移動局高周波部33を通り、第1移動局制御CH用無線装置34aで受信される。第1移動局31は、受信した信号が自局の呼出信号であることを認識すると、ステップa4において、第1移動局制御CH用無線装置34aから、第1移動局高周波部33を通して、第1移動局アンテナ32から呼出応答信号を送信する。
【0045】
基地局14は、呼出応答信号を受信すると、受信した呼出応答信号を、ステップa5において、中央制御装置13に出力する。このように基地局14を経由して中央制御装置13が呼出応答信号を受信すると、中央制御装置13は、ステップa6において、基地局14に対して、第1通信チャネル(CH)を割り当てる無線チャネル指定信号を返すとともに、ステップa7において、指令卓装置11に対して、通話開始信号を送出する。
【0046】
基地局14は、無線チャネル指定信号を受信すると、ステップa8において、第1移動局制御CH用無線装置21aで第1移動局31に対して無線チャネル指定信号を送信するとともに、ステップa9において、第1通信チャネル(CH)用無線装置21bで通話、すなわち音声交信を開始する。
【0047】
第1移動局31は、第1移動局制御CH用無線装置34aで無線チャネル指定信号を受信すると、ステップa10において、第1移動局通信CH用無線装置34bを第1通信CHに設定し、通話を開始するとともに、第1移動局I/F35に、第1移動局通信CH用無線装置34が使用中であることを表す無線装置使用中信号を送信する。第1移動局I/F35は、無線装置使用中信号を受信すると、ステップa11において、第1車上情報装置36に、無線装置使用中信号を送信する。このようにして、第1移動局31は、第1移動局I/F35を経由して、第1車上情報装置36に対し、第1移動局通信CH用無線装置34aが使用中であることを伝える。
【0048】
第1車上情報装置36は、無線装置使用中信号を受信すると、ステップa12において、同じ編成内の他の無線車両である第2無線車両40に搭載された第2移動局41と接続された第2車上情報装置46に無線装置使用中信号を送信する。
【0049】
第2車上情報装置46は、無線装置使用中信号を受信すると、ステップa13において、第2移動局I/F45に、代表局である旨の通知を行うとともに、ステップa14において、代表局を第1移動局31から第2移動局41に切換えたことを表す代表通知信号を第1車上情報装置36に送信する。第1車上情報装置36は、代表通知信号を受信すると、ステップa15において、第1移動局I/F35に、非代表局である旨の通知を行う。
【0050】
このようにして、第2移動局41が代表局になった状態で、車上局装置50から地上情報装置12へのデータ通信が発生した場合、たとえば車両事故などの発生によって、車両故障情報などを送信するためのデータ通信が発生した場合、移動無線システム1は、以下のように動作する。
【0051】
車両故障などの発生によってデータ通信が発生した場合、ステップa16において、代表局である第2移動局41に接続される第2車上情報装置46から、第2移動局I/F45へデータ送信要求信号が送信される。第2移動局I/F45は、データ送信要求信号を受信すると、受信したデータ送信要求信号を、ステップa17において、第2移動局制御CH用無線装置44aに与える。第2移動局制御CH用無線装置44aは、データ送信要求信号を受取ると、受取ったデータ送信要求信号を、ステップa18において、第2移動局高周波部43を経て、第2移動局アンテナ42から送信する。
【0052】
第2移動局41から送信されたデータ送信要求信号は、基地局アンテナ15から基地局高周波部22を経て、基地局制御CH用無線装置21aで受信される。基地局制御CH用無線装置21aは、データ送信要求信号を受信すると、受信したデータ送信要求信号を、ステップa19において、基地局I/F20を経て、中央制御装置13に送信する。
【0053】
中央制御装置13は、データ送信要求信号を受信すると、ステップa20において、基地局14に対し、空き回線として、たとえば第2通信CHを割り当てるように指示する無線チャネル指定信号を送信する。
【0054】
基地局14は、無線チャネル指定信号を受信すると、受信した無線チャネル指定信号を、ステップa21において、基地局制御CH用無線装置21aによって、基地局高周波部22を経て、基地局アンテナ15から第2移動局41に送信する。
【0055】
基地局14から送信された無線チャネル指定信号は、第2移動局アンテナ42から第2移動局高周波部42を通り、第2移動局制御CH用無線装置44aで受信される。第2移動局41は、第2移動局制御CH用無線装置44aで受信した無線チャネル指定信号が、自局の呼出信号であることを認識すると、ステップa22において、第2移動局通信CH用無線装置44bを第2通信CHに設定し、第2移動局I/F45に対して、データ送信許可信号を送信する。
【0056】
第2移動局I/F45は、データ送信許可信号を受信すると、受信したデータ送信許可信号を、ステップa23において、第2車上情報装置46に対して送信する。第2車上情報装置46は、データ送信許可信号を受信すると、ステップa24において、第2移動局I/F45、第2移動局通信CH用無線装置44b、第2移動局高周波部43、第2移動局アンテナ42、基地局アンテナ15、基地局高周波部22、基地局第2通信CH用無線装置21c、基地局I/F20、中央制御装置13を経て、地上情報装置12との間でデータ伝送を行う。
【0057】
送信するデータがなくなり、ステップa25において、第2車上情報装置46から、第2移動局I/F45へデータ終了要求信号が送信される。第2移動局41は、第2移動局I/F45でデータ終了要求信号を受信すると、受信したデータ終了要求信号をステップa26において第2移動局制御CH用無線装置44aに与える。そして移動局41は、ステップa27において、第2移動局制御CH用無線装置44aによって、データ終了要求信号を切断要求信号として、第2高周波部43を経て、第2移動局アンテナ42から送信する。
【0058】
第2移動局アンテナ42から送信された切断要求信号であるデータ終了要求信号は、基地局アンテナ15から基地局高周波部22を経て、基地局制御CH用無線装置21aで受信され、ステップa28において、基地局I/F20を経て、中央制御装置13に送信される。
【0059】
中央制御装置13は、切断要求信号であるデータ終了要求信号を受信すると、ステップa29において、基地局14に対し、第2通信CHを切断するように指示する切断信号を送信する。
【0060】
基地局14は、基地局制御CH用無線装置21aで切断信号を受信すると、受信した切断信号を、ステップa30において、基地局制御CH用無線装置21aによって、基地局高周波部22を経て、基地局アンテナ15から送信する。また、基地局14は、ステップa31において、基地局第2通信CH用無線装置21cを通信状態から空線状態にするとともに、基地局第2通信CH用無線装置21cが空線状態になったことを表す空線信号を、基地局第2通信CH用無線装置21cから基地局高周波部22および基地局アンテナ15を介して送信する。
【0061】
基地局制御CH用無線装置21aから送信された切断信号は、第2移動局アンテナ42から第2移動局高周波部43を通り、第2移動局制御CH用無線装置44aで受信される。また基地局第2通信CH用無線装置21cから送信された空線信号は、第2移動局通信CH用無線装置44bで検出される。第2移動局41は、第2移動局制御CH用無線装置44aで受信した切断信号が自局の呼出信号であることを認識するか、または第2移動局通信CH用無線装置44bで空線信号を検出すると、ステップa32において、第2移動局通信CH用無線装置44bを無通信状態に戻し、第2移動局制御CH用無線装置44aから第2移動局I/F45に対して、データ終了信号を送信する。
【0062】
第2移動局I/F45は、データ終了信号を受信すると、ステップa33において、第2車上情報装置46に対してデータ終了信号を送信する。第2車上情報装置46は、データ終了信号を受信すると、データ伝送を終了する。
【0063】
その後、指令卓装置12に対して、指令員によって、第1移動局31の個別通話終話操作が行われると、指令卓装置12は、ステップa34において、終話信号を中央制御装置13に送信する。中央制御装置13は、終話信号を受信すると、受信した終話信号をステップa35において基地局14に送信する。基地局14は、基地局I/F20を介して終話信号を受信すると、ステップa37において、受信した終話信号を基地局制御CH用無線装置21aから基地局高周波部22および基地局アンテナ22を介して送信する。このようにして終話信号は、中央制御装置3を経由して、基地局14の基地局I/F20から基地局制御CH用無線装置21aに入り、基地局高周波部22を経て、基地局アンテナ15から送信される。
【0064】
また基地局14は、基地局I/F20を介して終話信号を受信すると、第1通信CH用無線装置21bを通信状態から空線状態にするとともに、第1通信CH用無線装置21bが空線状態になったことを表す空線信号を、第1通信CH用無線装置21bから基地局高周波部22および基地局アンテナ15を介して送信する。
【0065】
基地局制御CH用無線装置21aから送信された終話信号は、第1移動局アンテナ32から第1移動局高周波部33を通り、第1移動局制御CH用無線装置34aで受信される。また基地局第1通信CH用無線装置21bから送信された空線信号は、第1移動局通信CH用無線装置34bで検出される。第1移動局31は、第1移動局制御CH用無線装置34aで受信した切断信号が自局の切断信号であることを認識するか、または第1移動局通信CH用無線装置34bで空線信号を検出すると、ステップa39において、第1移動局通信CH用無線装置34bを無通信状態に戻し、第1移動局I/F35に対して、無線装置使用可信号を送信する。
【0066】
第1移動局I/F35は、無線装置使用可信号を受信すると、ステップa40において、受信した無線装置使用可信号を第1車上情報装置36に対して送信する。第1車上情報装置36は、無線装置使用可信号を受信すると、ステップa41において、第2移動局41から第1移動局31に代表局を戻すように指示する代表通知信号を、第2車上情報装置46に送信する。また第1車上情報装置36は、ステップa41において、第1移動局I/F35に、代表局である旨の通知を行う。第2車上情報装置46は、代表通知信号を受信すると、ステップa43において、非代表局である旨の通知を行う。
【0067】
以上のように本実施の形態では、同一編成の列車60に搭載される第1および第2移動局31,41のうち、第1移動局31が既に通信中で、新たな通信ができない状態のときに、同一編成の列車60の他の車両に搭載される第2移動局41に代表局を切り換える。これによって、複数の通信を同時に行うことが可能となる。
【0068】
このように本実施の形態では、同一の移動体、具体的には同一編成の列車60に搭載される複数の移動局31,41のうち、使用中でない移動局を用いて、新たに無線通信を行うことができる。これによって、各移動局31,41に備える無線装置34a,34b,44a,44bの数を増やすことなく、基地局14との間で、複数の通信を同時に行うことができる。したがって、簡単な構成で、複数の通信を同時に行うことが可能な列車無線システム1を提供することができる。
【0069】
本実施の形態では、基地局14に4台の無線装置21a〜21dを搭載した例を示したが、基地局14に搭載する無線装置の台数は、これに限定されるものではなく、必要回線数に応じて増減可能である。基地局14に搭載される無線装置の台数が本実施の形態と異なる場合でも、本実施の形態と同様に実施可能である。
【0070】
また本実施の形態では、各移動局31,41に搭載される無線装置が2台の例を示したが、各移動局31,41に搭載される無線装置の台数は、これに限定されない。基地局14との間の無線回線数よりも、各移動局31,41に搭載される無線装置の台数が少ない構成であれば、本実施の形態と同様に実施可能である。
【0071】
<第2の実施の形態>
図3は、本発明の第2の実施の形態における列車無線システムにおいて、音声交信中にデータ通信が発生したときの処理手順を示すシーケンス図である。図3において、前述の第1の実施の形態における図2に示すステップに対応するステップについては、同一の参照符を付して、共通する説明を省略する。本実施の形態の列車無線システムの構成は、前述の図1に示す第1の実施の形態における列車無線システム1と同一であるので、図示および共通する説明を省略する。
【0072】
前述の第1の実施の形態では、図2に示すように、車上局装置50の片側の移動局、具体的には第1移動局31の通信回線が使用中になった場合に、そのことをステップa11〜ステップa12で第1車上情報装置36から第2車上情報装置46に伝え、ステップa13〜ステップa15で代表局を他の移動局、具体的には第2移動局41に切り換える例について説明した。
【0073】
本実施の形態では、図3に示すように、車上局装置50の2つの移動局31,41のうち、一方の移動局の通信回線が使用中になった場合、たとえばステップa10で無線装置使用中信号が第1移動局I/F35で受信された場合でも、代表局を切り換える動作は行わない。
【0074】
本実施の形態では、車両事故の発生などによって車両故障情報などが発生したときに、代表局の車上情報装置から、代表局の移動局I/Fにデータ送信要求信号を送り、その時点で代表局の移動局I/Fによって、代表局の移動局無線装置が使用可能か否かを判断する。代表局の移動局I/Fは、代表局の移動局無線装置が使用できないと判断した場合には、代表局の車上情報装置を介して、他の移動局の車上情報装置に対して、他の移動局に代表局を切り換えるように指示する。これによって、他の移動局でデータ通信を行うことが可能になる。
【0075】
具体的には、車両故障などの発生によってデータ通信が発生したときに、ステップb1において、代表局を構成する第1車上情報装置36が、代表局を構成する第1移動局31の第1移動局I/F35にデータ送信要求信号を送信する。第1移動局I/F35は、データ送信要求信号を受信すると、第1移動局通信CH用無線装置34bが使用可能か否かを判断する。図3に示す例では、既に第1移動局通信CH用無線装置34bは使用中であるので、移動局I/F35は、第1移動局通信CH用無線装置34bが使用できないと判断し、ステップa11において、第1車上情報装置36に無線装置使用中信号を送信する。
【0076】
その後は、前述の図2に示す第1の実施の形態と同様にして、ステップa11〜ステップa39の処理を行う。本実施の形態では、ステップa39において、第1移動局制御CH用無線装置34aから第1移動局I/F35に無線装置使用可信号が送信された後には、ステップa40〜ステップa43の代表局を第1移動局31に戻す処理は行われないので、代表局は、第2移動局41のままとなる。
【0077】
以上のように本実施の形態では、第1の実施の形態と同様に、同一編成の列車60に搭載される複数の移動局31,41のうち、使用中でない移動局を用いて、新たに無線通信を行うことができる。これによって、各移動局31,41に備える無線装置34a,34b,44a,44bの数を増やすことなく、基地局14との間で、複数の通信を同時に行うことができる。したがって、簡単な構成で、複数の通信を同時に行うことが可能な列車無線システム1を提供することができる。
【0078】
また本実施の形態では、代表局である第1移動局31の通信回線が使用中になった場合でも、新たにデータ通信が発生するまでは、代表局の切換えを行わない。したがって、前述の第1の実施の形態に比べて、通信開始前に代表局の切り換えは発生するが、データ通信がないときに代表局が頻繁に切り換わることを防止することができる。
【0079】
本実施の形態では、前述のようにステップa39の処理の後には、ステップa40〜ステップa43の処理は行われないが、ステップa40〜ステップa43の処理を行って、代表局を第1移動局31に戻すようにしてもよい。
【0080】
<第3の実施の形態>
図4は、本発明の第3の実施の形態である列車無線システム2の構成を示すブロック図である。本実施の形態の列車無線システム2は、前述の第1の実施の形態の列車無線システム1と類似するので、対応する部分については同一の参照符を付して、同様の説明を省略する。
【0081】
前述の第1および第2の実施の形態では、列車無線システム1は、車上局装置50の複数の移動局31,41に接続された車上情報装置36,46間の通信を用いて、通信する移動局を切り換えるように構成される。
【0082】
本実施の形態では、列車無線システム2の車上局装置51は、同じ編成の列車60に搭載される複数の移動局31,41の移動局I/F35,45同士を通信可能に接続し、予め代表局に割り当てられている移動局の移動局無線装置が使用中の場合に、代表局を他の移動局に切り換えるように構成される。
【0083】
具体的には、列車無線システム2の車上局装置51は、同じ編成の列車60に搭載される2つの移動局31,41の移動局I/F35,45同士を通信可能に接続し、代表局に割り当てられている一方の移動局の移動局無線装置が使用中の場合に、代表局を他方の移動局に切り換えるように構成される。代表局に割り当てられている移動局31,41が使用中であるか否かの判断、および代表局を切り換えるか否かの判断は、各移動局I/F35,45によって行われる。
【0084】
たとえば第1移動局31の第1移動局無線装置34が使用中である場合、前述の図2に示すステップa10において、第1移動局制御CH用無線装置34aから第1移動局I/F35に、自局が使用中であることを表す無線装置使用中信号が送信される。第1移動局I/F35は、無線装置使用中信号を受信すると、自局が使用中であることを他の移動局I/F、すなわち第2移動局I/F45に通知する。具体的には、第1移動局I/F35は、他の移動局I/Fである第2移動局I/F45に無線装置使用中信号を送信することによって、自局が使用中であることを通知する。
【0085】
自局が使用中であることの通知が行われている間、すなわち無線装置使用中信号が送信されている間は、自局が使用中であることの通知を受けた他の移動局、すなわち無線装置使用中信号を受信した他の移動局が、代表局に切り換えられる。本実施の形態では、他の移動局である第2移動局I/F45は、無線装置使用中信号を受信すると、自局を代表局に切り換える。すなわち第2移動局41は、無線装置使用中信号を受信すると、代表局として動作する。これによって、車上情報装置36,46間で無線装置使用中信号を送受信せずに、代表局を切り換えることができる。
【0086】
このように移動局I/F35,45同士を通信可能に接続することによって、車上情報装置36,46を介することなく、代表局を切り換えることができる。したがって、いずれかの移動局が使用中である場合でも、使用中でない移動局を用いて、地上局装置10との間で新たに通信を行うことが可能となる。
【0087】
以上のように本実施の形態では、第1および第2の実施の形態と同様に、同一編成の列車60に搭載される複数の移動局31,41のうち、使用中でない移動局を用いて、新たに無線通信を行うことができる。これによって、各移動局31,41に備える無線装置34a,34b,44a,44bの数を増やすことなく、基地局14との間で、複数の通信を同時に行うことができる。したがって、簡単な構成で、複数の通信を同時に行うことが可能な列車無線システム2を提供することができる。
【0088】
本実施の形態における列車無線システム2の構成は、車両30,40に車上情報装置36,46が搭載されていない場合、および車両30,40に車上情報装置36,46が搭載されていても移動局31,41と接続されていない場合に有効である。
【0089】
具体的には、これらの場合に移動局I/F35,45同士を通信可能に接続することによって、各車両30,40に搭載される移動局31,41の移動局I/F35,45に、他の車両に搭載される機器の接点情報を表す信号などが入力されたときに、接点情報を表す信号などを、使用中でない移動局を用いて、地上局装置10と送受信することが可能となる。他の車両に搭載される機器の接点情報を表す信号としては、たとえば非常発報信号、デッドマン信号、防護発報通知信号、車両機器故障信号などがある。
【0090】
非常発報信号は、他の列車を緊急で停止させたり、乗客の安全のために架線の電気を遮断したりするために、そのトリガとなる車内の操作釦および、扉が開いたことを検知したことを示す信号である。デッドマン信号は、列車運転中に運転士の意識喪失などの異常事態が発生した場合に、自動的に列車を停止させる運転保安装置からの信号である。防護発報通知信号は、事故が発生したとき、および線路内に人が侵入したときなどに、安全のために他の列車を停止させるために乗務員が釦操作で通知する信号である。車両機器故障信号は、車両に搭載される機器が故障したときに、その旨を通知する信号である。
【0091】
また本実施の形態では、前述のように車上情報装置36,46を介することなく、代表局を切り換えることができるので、車上情報装置36,46を設けない構成とすることが可能である。したがって、車上局装置51を簡略化し、移動無線システム2の構成を簡単化することが可能である。
【0092】
以上の実施の形態では、第1移動局I/F35と第2移動局I/F45とが、直接接点で接続される場合、たとえば通信ケーブルで接続される場合を示しているが、これに限らず、第1移動局I/F35と第2移動局I/F45とは、無線伝送で接続されてもよい。
【0093】
また以上の実施の形態では、代表局として割り当てられている移動局31,41が使用中であるか否かの判断、および代表局を切り換えるか否かの判断は、各移動局I/F35,45によって行われるが、これに限定されず、各移動局I/F35,45に接続されている無線装置によって行われてもよい。
【0094】
<第4の実施の形態>
図5は、本発明の第4の実施の形態における列車無線システムにおいて、音声交信中にデータ通信が発生したときの処理手順を示すシーケンス図である。図5において、前述の第1の実施の形態における図2に示すステップに対応するステップについては、同一の参照符を付して、共通する説明を省略する。本実施の形態の列車無線システムの構成は、前述の図1に示す第1の実施の形態における列車無線システム1と同一であるので、図示および共通する説明を省略する。
【0095】
前述の第1の実施の形態では、車両30,40に搭載される車上情報装置36,46からデータ通信が発生する場合の動作例について説明したが、本実施の形態では、図5に示すように、地上情報装置12からデータ通信が発生する場合の動作について説明する。
【0096】
図1および図5を参照して、前述の第1の実施の形態と同様にして、ステップa1〜ステップa12の処理が行われ、指令卓装置11と基地局第1通信CH用無線装置21bと第1移動局通信CH用無線装置34bとの間が音声交信中となる。本実施の形態では、ステップa13〜ステップa15の処理は行われず、ステップc1に移行する。
【0097】
地上情報装置12でデータ通信が発生すると、地上情報装置12は、ステップc1において、データ呼出信号を中央制御装置13に出力する。中央制御装置13は、データ呼出信号を受取ると、受取ったデータ呼出信号を、ステップc2において基地局14に出力する。基地局14は、データ呼出信号を受取ると、受取ったデータ呼出信号を、ステップc3において基地局アンテナ15から送信する。
【0098】
具体的には、地上情報装置12から出力されたデータ呼出信号は、中央制御装置13を経て、基地局14の基地局I/F20から基地局制御CH用無線装置21aに入り、基地局高周波部22を経て、基地局アンテナ15から送信される。
【0099】
基地局アンテナ15から送信されたデータ呼出信号は、同一編成の列車60内に搭載される全ての移動局31,41、すなわち第1移動局31および第2移動局41に到達する。移動局31,41のうち、自局の移動局無線装置34,44が使用中でない移動局、本実施の形態では第2移動局41のみデータ呼出応答信号を返信する。
【0100】
具体的には、第1移動局31および第2移動局41は、移動局アンテナ32,42から移動局高周波部33,43を通り、移動局制御CH用無線装置34a,44aで受信したデータ呼出信号が自局の呼出信号であることを認識すると、移動局通信CH用無線装置34b,44bが使用中であるか否かを判断する。本実施の形態では、第2移動局通信CH用無線装置44bは使用中ではないので、第2移動局41は、ステップc4において、データ呼出応答信号を返信する。第1移動局通信CH用無線装置34bは使用中であるので、第1移動局31は、データ呼出応答信号を返信しない。
【0101】
第2移動局41から返信されたデータ呼出応答信号は、基地局14の基地局制御CH用無線装置21aで受信される。基地局14は、データ呼出応答信号を受信すると、受信したデータ呼出応答信号を、ステップc5において中央制御装置13に送信する。このようにして基地局14を経由して中央制御装置13がデータ呼出応答信号を受信すると、中央制御装置13は、ステップc6において、基地局14に対し、第2通信CHを割り当てるように指示する無線チャネル指定信号を返す。それとともに、中央制御装置13は、ステップc7において、地上情報装置12に対し、データ通信開始信号を送出する。
【0102】
基地局14は、無線チャネル指定信号を受信すると、ステップc8において、基地局制御CH用無線装置21aによって、第2移動局41に対し、無線チャネル指定信号を送信するとともに、第2通信CH用無線装置21cでデータ通信を開始する。
【0103】
第2移動局41は、第2移動局制御CH用無線装置44aで無線チャネル指定信号を受信すると、第2移動局通信CH用無線装置44bを第2通信CHに設定して、データ通信を開始するとともに、ステップc10において、第2移動局制御CH用無線装置44aから第2移動局I/F45にデータ送信許可信号を与える。第2移動局I/F45は、データ送信許可信号を受取ると、受取ったデータ送信許可信号を、ステップc11において第2車上情報装置46に出力する。
【0104】
このようにして第2移動局41は、第2移動局I/F45経由で、第2車上情報装置46に対し、データ送信許可状態であることを伝える。これによって、ステップc9において、地上情報装置12と基地局第2通信CH用無線装置21cと第2移動局通信CH用無線装置44bと第2車上情報装置46との間がデータ通信中となる。
【0105】
送信するデータがなくなり、ステップc12において、地上情報装置12から、中央制御装置13へデータ終了信号が送信されると、中央制御装置13は、ステップa29において、基地局14に切断信号を送信する。また中央制御装置13は、ステップc13において、地上情報装置12に対し、データ終了応答信号を返信する。
【0106】
基地局14は、切断信号を受信すると、受信した切断信号を、ステップa30において基地局アンテナ15から送信する。具体的には、中央制御装置13から送信された切断信号は、基地局14の基地局I/F20から基地局制御CH用無線装置21aに入り、基地局高周波部22を経て、基地局アンテナ15から送信される。また、基地局14は、ステップa31において、基地局第2通信CH用無線装置21cを通信状態から空線状態にするとともに、基地局第2通信CH用無線装置21cが空線状態になったことを表す空線信号を、基地局第2通信CH用無線装置21cから送信する。
【0107】
次いで、第1の実施の形態と同様にして、ステップa32〜ステップa40の処理が行われる。本実施の形態では、第1車上情報装置36は、ステップa40において第1移動局I/F35から送信された無線装置使用可信号を受信すると、受信した無線装置使用可信号を、ステップc14において第2車上情報装置46に送信する。本実施の形態では、ステップa41〜ステップa43の処理は行われない。
【0108】
以上のように本実施の形態では、各移動局31,41は、基地局14からデータ呼出信号を受信すると、自装置が使用中であるか否かを判断し、自装置が使用中でないと判断すると、データ呼出応答信号を送信する。基地局14は、データ呼出応答信号を受信すると、そのデータ呼出応答信号を送信した移動局41との送信を開始する。これによって、いずれかの移動局が使用中である場合でも、使用中でない移動局を用いて、地上局装置10との間で新たに通信を行うことが可能となる。
【0109】
このように本実施の形態では、第1〜第3の実施の形態と同様に、同一編成の列車60に搭載される複数の移動局31,41のうち、使用中でない移動局を用いて、新たに無線通信を行うことができる。これによって、各移動局31,41に備える無線装置34a,34b,44a,44bの数を増やすことなく、基地局14との間で、複数の通信を同時に行うことができる。したがって、簡単な構成で、複数の通信を同時に行うことが可能な列車無線システムを提供することができる。
【0110】
<第5の実施の形態>
図6は、本発明の第5の実施の形態における列車無線システムにおいて、音声交信中にデータ通信が発生したときの処理手順を示すシーケンス図である。図5において、前述の第1の実施の形態における図2に示すステップ、および前述の第4の実施の形態における図5に示すステップに対応するステップについては、同一の参照符を付して、共通する説明を省略する。本実施の形態の列車無線システムの構成は、前述の図1に示す第1の実施の形態における列車無線システム1と同一であるので、図示および共通する説明を省略する。
【0111】
前述の第4の実施の形態では、移動局31,41が、図5に示すステップc3で基地局14から送信されたデータ呼出信号を受信したときに、自局の移動局無線装置33,34が使用中であるか否かを判断し、自局の移動局無線装置33,34が使用中でない移動局のみ、データ呼出応答信号を返信する例について説明した。本実施の形態では、図6に示すように、移動局I/F35,45経由で、車上情報装置36,46から、代表局に関する情報である代表局情報をもらっておき、代表局の移動局31,41のみ、データ呼出応答信号を返信する。
【0112】
具体的には、前述の第4の実施の形態と同様にステップa1〜ステップa12の処理が行われた後、ステップc1の処理が行われる前に、前述の第1の実施の形態と同様にステップa13〜ステップa15の処理が行われる。これによって、指令卓装置11と基地局第1通信CH用無線装置21bと第1移動局通信CH用無線装置34bとの間が音声交信中となるとともに、代表局が第1移動局31から第2移動局41に切換えられる。次いで、第4の実施の形態と同様にステップc1〜ステップc3の処理が行われる。
【0113】
本実施の形態では、第1移動局31および第2移動局41は、ステップc3で基地局14から送信されたデータ呼出信号を受信すると、自局が代表局であるか否かを判断する。本実施の形態では、第2移動局41は代表局であり、第1移動局31は代表局でないので、第2移動局41のみが、自局が代表局であると判断する。そして第2移動局41は、受信したデータ呼出信号が自局の呼出信号であることを認識すると、ステップc4において、データ呼出応答信号を返信する。
【0114】
次いで、前述の第4の実施の形態と同様にステップc5〜ステップc13およびステップa29〜ステップa40の処理が行われる。その後、本実施の形態では、第1の実施の形態と同様にステップa41〜ステップa43の処理が行われる。これによって、代表局が第2移動局41から第1移動局31に戻る。
【0115】
以上のように本実施の形態によれば、第1〜第4の実施の形態と同様に、同一編成の列車60に搭載される複数の移動局31,41のうち、使用中でない移動局を用いて、新たに無線通信を行うことができる。これによって、各移動局31,41に備える無線装置34a,34b,44a,44bの数を増やすことなく、基地局14との間で、複数の通信を同時に行うことができる。したがって、簡単な構成で、複数の通信を同時に行うことが可能な列車無線システムを提供することができる。
【0116】
また本実施の形態によれば、移動局I/F35,45経由で、車上情報装置36,46から、代表局に関する情報である代表局情報をもらっておき、代表局の移動局31,41のみ、データ呼出応答信号を返信する。これによって、各移動局31,41が自局が使用中であるか否かを判断するステップを省略することができるので、基地局14から送信されたデータ呼出信号に対して、データ呼出応答信号を即座に返信することができる。これによって、緊急時などに迅速にデータ通信を開始することができる。
【0117】
以上に述べた各実施の形態は、本発明の例示に過ぎず、本発明の範囲内において構成を変更することができる。たとえば、列車無線システムの構成は、必ずしも前述の実施の形態のような構成に限定されず、移動する装置と地上系の装置との間で、音声およびデータの無線通信を行うシステムであれば、本発明と同様に実施可能である。
【符号の説明】
【0118】
1 列車無線システム、10 地上局装置、11 指令卓装置、12 地上情報装置、13 中央制御装置、14 基地局装置、15 基地局アンテナ、20 基地局I/F、21 基地局無線装置、22 基地局高周波部、30,40 無線車両、31,41 移動局装置、32,42 移動局アンテナ、33,43 移動局高周波部、34,44 移動局無線装置、35,45 移動局I/F、36,46 車上情報装置、50,51 車上局装置、60 列車。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一の移動体に搭載される複数の移動局装置と、前記複数の移動局装置と無線通信可能な基地局装置とを備える移動無線システムであって、
前記移動体に搭載されて前記複数の移動局装置にそれぞれ接続され、前記移動局装置を介して前記基地局装置と無線通信する複数の通信装置を備え、
各通信装置は、他の通信装置と通信可能に接続され、
前記複数の移動局装置のうち、前記基地局装置と優先的に無線通信する代表局装置として予め定められる移動局装置は、前記基地局装置と無線通信を開始すると、自装置が使用中であることを表す使用中信号を、自装置に接続される通信装置を介して、同一の移動体に搭載される他の移動局装置に接続される通信装置に送信し、
前記他の移動局装置に接続される通信装置は、前記代表局装置として予め定められる移動局装置から送信された使用中信号を受信すると、前記他の移動局装置に、前記代表局装置として動作するように指示することを特徴とする移動無線システム。
【請求項2】
同一の移動体に搭載される複数の移動局装置と、前記複数の移動局装置と無線通信可能な基地局装置とを備える移動無線システムであって、
前記移動体に搭載されて前記複数の移動局装置にそれぞれ接続され、前記移動局装置を介して前記基地局装置と無線通信する複数の通信装置を備え、
各通信装置は、他の通信装置と通信可能に接続され、
前記複数の移動局装置のうち、前記基地局装置と優先的に無線通信する代表局装置として予め定められる移動局装置は、自装置に接続される通信装置から前記基地局装置との通信を開始するように指示されると、自装置が使用中であるか否かを判断し、自装置が使用中であると判断すると、自装置に接続される通信装置を介して、同一の移動体に搭載される他の移動局装置に接続される通信装置に、前記他の移動局装置を前記代表局装置に切り換えるように指示することを特徴とする移動無線システム。
【請求項3】
同一の移動体に搭載される複数の移動局装置と、前記複数の移動局装置と無線通信可能な基地局装置とを備える移動無線システムであって、
各移動局装置は、他の移動局装置と通信可能に接続され、
前記複数の移動局装置のうち、前記基地局装置と優先的に無線通信する代表局装置として予め定められる移動局装置は、前記基地局装置と無線通信を開始すると、自装置が使用中であることを表す使用中信号を、同一の移動体に搭載される他の移動局装置に送信し、
前記他の移動局装置は、前記代表局装置として予め定められる移動局装置から送信された使用中信号を受信すると、前記代表局装置として動作することを特徴とする移動無線システム。
【請求項4】
同一の移動体に搭載される複数の移動局装置と、前記複数の移動局装置と無線通信可能な基地局装置とを備える移動無線システムであって、
各移動局装置は、前記基地局装置から呼出信号を受信すると、自装置が使用中であるか否かを判断し、自装置が使用中でないと判断すると、前記基地局装置に呼出応答信号を送信し、
前記基地局装置は、前記呼出応答信号を受信すると、前記呼出応答信号を送信した移動局装置との無線通信を開始することを特徴とする移動無線システム。
【請求項5】
同一の移動体に搭載される複数の移動局装置と、前記複数の移動局装置と無線通信可能な基地局装置とを備える移動無線システムであって、
各移動局装置は、前記基地局装置から呼出信号を受信すると、自装置が前記基地局装置と優先的に無線通信するように予め定められる代表局装置であるか否かを判断し、自装置が代表局装置であると判断すると、前記基地局装置に呼出応答信号を送信し、
前記基地局装置は、前記呼出応答信号を受信すると、前記呼出応答信号を送信した移動局装置との無線通信を開始することを特徴とする移動無線システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−156929(P2012−156929A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−16200(P2011−16200)
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】