説明

移動無線機

【課題】送信電力を減らしつつ良好に通信の接続の維持することが可能な移動無線機を提供する。
【解決手段】受信電力が強いときは送信電力を弱くし、受信電力が弱いときは送信電力を強くする制御を行う移動無線機10において、指向性もしくは偏波面が互いに異なるアンテナAt1およびアンテナAt2と、アンテナAt1とアンテナAt2の少なくとも一方を介して通信する通信部(RFチップ13およびデュプレクサ12)と、通信部の通信するアンテナをアンテナAt1とアンテナAt2との間で切替えるアンテナ切替回路11と、送信電力が所定の第1閾値を超えるとアンテナ切替回路11にアンテナを切替えさせる切替制御部14と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動無線機に関し、特に、受信電力が強いときは送信電力を弱くし、受信電力が弱いときは送信電力を強くする制御を行う移動無線機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の移動無線機として、送信電力の過多による無駄な電力消費をなくすために、受信強度が高い場合には送信電力が小さいアンテナで通信を行うように切替え、受信強度が低い場合には送信電力が大きいアンテナで通信を行うように切替える技術が知られている(例えば特許文献1〜5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−077103号公報
【特許文献2】特開2000−174678号公報
【特許文献3】特開2004−356921号公報
【特許文献4】特開平07−245577号公報
【特許文献5】特開2003−324373号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した従来の移動無線機においては受信電力を監視しており、受信レベルが低下(受信状況が悪化)すると送信電力を増加し、受信レベルが上昇(受信状況が改善)すると送信電力を低下する制御を行っている。しかしながら、この方法では、アンテナの指向性や偏波面しだいで基地局がアンテナのヌル点に入ることがあり、電波状況が良好であるにもかかわらず送信電力が増加し、消費電力が増加してしまうという課題があった。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたもので、送信電力を減らしつつ良好に通信の接続の維持することが可能な移動無線機の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明にかかる移動無線機は、受信電力が強いときは送信電力を弱くし、受信電力が弱いときは送信電力を強くする制御を行う移動無線機において、第1アンテナと第2アンテナと通信部と切替部と切替制御部とを備える構成としてある。該構成において、第1アンテナと第2アンテナは指向性もしくは偏波面が互いに異なっている。この指向性もしくは偏波面は互いに相違していればどのような組合せであってもよいが、例えば、上記第1アンテナと上記第2アンテナの指向性もしくは偏波面を互いに直交させるようにすることができる。このように指向性もしくは偏波面を互いに直交させると、一方のアンテナの感度が最小化するときに他方のアンテナの感度が最大化するため、送信電力の減少を効率よく実現することができる。
上記通信部は、第1アンテナと第2アンテナの少なくとも一方を介して通信する。この通信では、受信と送信とで使用するアンテナが異なってもよいし、受信と送信とで使用するアンテナが同一でもよい。ただし、受信に利用するアンテナは第1アンテナと第2アンテナの何れか一方であり、送信に利用するアンテナも第1アンテナと第2アンテナの何れか一方である。
上記切替部は、上記通信部の受信と送信の少なくとも一方に使用するアンテナを上記第1アンテナと上記第2アンテナとの間で切替えるスイッチとして機能する。なお、上記切替部は、受信用アンテナと送信用アンテナを同時に切替えてもよいし異なるタイミングで切替えてもよく、前者であれば受信用アンテナと送信用アンテナが一括して切替えられ、後者であれば受信用アンテナと送信用アンテナが個別に切替えられる。
上記切替制御部は、送信電力が所定の第1閾値を超えると上記切替部にアンテナを切替えさせる。この所定の第1閾値は、各移動無線機の特性に応じて実験的に決定されるものである。
上記切替制御部は、送信信号の伝送線路上の何れか部位で移動無線機の実際の送信電力を検出しており、この検出結果に基づいて上記送信電力が所定の第1閾値を超えたか否かを判断している。送信電力の検出は、例えば、上記通信部の出力する送信信号の伝送線路上に検波回路を配置することにより行うことが出来る。この場合、上記切替制御部は、該検波回路の検波出力に基づいてアンテナの切替信号を生成して上記切替部に出力し、上記切替部は上記切替信号が入力されると上記通信部の受信と送信の少なくとも一方に使用するアンテナを上記第1アンテナと上記第2アンテナとの間で切替えることになる。
【0007】
このように送信電力に基づいてアンテナの切替えを行うことにより、電波状況自体は良好であるにも関わらず通信相手から送信されてくる電波の到来方向とアンテナの指向性や偏波面との関係で受信状況が悪化して送信電力が上昇している場合であっても、通信に利用するアンテナを指向性もしくは偏波面の異なるアンテナに切替えるため、通信状況を良好に保つことができる。受信状況が改善されると、受信電力が上昇するため送信電力も低下し、送信にかかる電力消費を抑えることができる。
【0008】
また、本発明の選択的な一態様として、上記切替制御部は、上記送信電力が上記所定の第1閾値を超えて上記切替部にアンテナを切替させてから所定時間が経過すると、上記送信電力が上記所定の第1閾値よりも大きい第2閾値を超えたか否かを判断し、上記送信電力が該第2閾値を超えているときは再び上記切替部にアンテナを切替させるように構成してもよい。このように構成することにより、受信状況が悪化の原因が電波状況の悪化であっても対応可能となる。すなわち、上記送信電力が上記所定の第1閾値を超えていたときにはアンテナを切替え、送信電力の変化に基づいて受信状況が改善したか否かを判断する。そして、受信状況が改善していない場合は、受信状況の良好なアンテナに再び切替えを行う。このようにアンテナの再切替えを行った場合は、受信状況が改善するまで、その後のアンテナ切替えを行わないようにしてもよい。
【0009】
また、本発明の選択的な一態様として、上記切替制御部は、ダイバーシティ制御信号に基づいて上記通信部の受信用アンテナを切替え、上記送信電力が上記第1閾値を超えたか否かに基づいて上記通信部の送信用アンテナを切替えるようにしてもよい。ダイバーシティ制御信号とは、各アンテナの受信状況に基づいて、複数のアンテナの中から受信状況の最も優れたアンテナを優先的に用いるようにアンテナを切替えるための制御信号である。すなわち、受信電力に基づいてアンテナの切替えを行わせるダイバーシティ制御信号で受信用のアンテナの切替えを行う一方、受信用のアンテナについては送信電力に基づいてアンテナの切換えを行わせる。よって、受信と送信のそれぞれで最適な通信状況を維持できるようになる。
【0010】
また、本発明の選択的な一態様として、送信電力の上昇指令を受信すると上記送信電力を上昇させる送信電力制御部を更に備えてもよい。そもそも、良好な通信には、本移動無線機と通信相手との双方において受信電力が所定の基準レベルに達していることが必要であり、本移動無線機における送信電力によって通信相手側に適切なレベルの受信電力が得られているか否かにより、本移動無線機の送信電力を調整することが望ましいからである。
【0011】
なお、上述した移動無線機は、他の機器に組み込まれた状態で実施されたり他の方法とともに実施されたりする等の各種の態様を含む。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように本発明によれば、送信電力を減らしつつ良好に通信の接続の維持することが可能な移動無線機を提供ことができる。
また請求項2にかかる発明によれば、アンテナ間で指向性や偏波面の弱点が良好に相互補完されるため、さらに通信の接続を維持しやすくなる。
また請求項3にかかる発明によれば、実際の送信電力に基づいてアンテナの切替を行うため、送信に最適なアンテナが選択されるようになり、通信の接続を維持と送信電力を減少をさらに良好にできる。
また請求項4にかかる発明によれば、実際に電波状況が悪化しているときにも対応可能であり、このような場合でも適切なアンテナを選択して通信を維持できる。
また請求項5にかかる発明によれば、受信と送信とで最適なアンテナを選択することにより、送信電力を減らしつつ良好に通信の接続を維持できる。
また請求項6にかかる発明によれば、送信電力を適切に上昇することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】移動無線システムの構成を示す説明図である。
【図2】携帯無線機のハードウェア構成を示すブロック図である。
【図3】切替制御部を採用した構成と採用しない構成の違いを説明する図である。
【図4】切替信号とアンテナ切替回路の切替タイミングとの関係を示すグラフである。
【図5】アンテナAt1とアンテナAt2の相違を説明する図である。
【図6】アンテナの切替制御を説明する図である。
【図7】変形例1にかかる移動無線機のハードウェア構成を示すブロック図である。
【図8】参照電圧Vref1,Vref2について説明する図である。
【図9】変形例2にかかる移動無線機の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、下記の順序に従って本発明の実施形態を説明する。
(1)本実施形態の構成:
(2)変形例1:
(3)変形例2:
(4)まとめ:
【0015】
(1)本実施形態の構成:
図1は、本発明の一実施形態にかかる移動無線システム100の構成を示す説明図である。同図に示すように、移動無線システム100は基地局Bと移動無線機10とを備えている。なお、本実施形態では、移動無線機10の通信相手として基地局Bを例にとって説明を行うが、通信相手としては移動無線機10と通信可能な他の移動無線機であってもよい。また、移動無線機10の具体例としては、携帯電話機、トランシーバー、スマートフォン、などが例示される。
【0016】
基地局Bと移動無線機10とは無線通信が可能であり、基地局Bは移動無線機10から送信されてくる信号の受信レベルが変動すると、送信電力の変更を指令する送信レベル指令信号を移動無線機10に送信する。すると、移動無線機10は、この送信レベル指令信号に応じて、例えば、送信レベル指令信号が送信電力の上昇を指令している場合は送信電力を上昇し、送信レベル指令信号が送信電力の低下を指令している場合は送信電力を低下させる制御を行う。
【0017】
図2は移動無線機10のハードウェア構成を示すブロック図である。同図に示すように、移動無線機10は、信号処理部16と、RFチップ13と、パワーアンプ15と、デュプレクサ12と、アンテナ切替回路11と、切替制御部14と、アンテナAt1と、アンテナAt2と、送信電力制御部17と、を備えている。以下、データの流れに沿って、各部について詳細に説明して行く。
【0018】
信号処理部16は、表示データや音声データ、その他のデータに基づいて送信データを生成しており、生成した送信データをRFチップ13に入力する。送信データはRFチップ13の変調回路13aに入力され、所定の方式で変調された送信信号Soutに変換される。送信信号Soutはパワーアンプ15に入力され、パワーアンプ15は、送信に利用されるアンテナでの送信電力が所定のレベルになるように、送信信号Soutの信号レベルを増幅する。パワーアンプ15で増幅された送信信号Soutは、デュプレクサ12に入力される。
【0019】
送信電力制御部17は、パワーアンプ15の増幅率を制御している。送信電力制御部17は、移動無線機10の受信電力を監視しており、移動無線機10の受信電力が高くなるほどパワーアンプ15の増幅率を低下させ、移動無線機10の受信電力が低くなるほど増幅率を上昇させるように制御する。受信電力のレベルは、基本的には基地局Bとの通信状況を示している。従って、送信電力制御部17の制御により、通信状況が悪化しているときには送信電力が上昇して通信が維持され、通信状況が良好なときには送信電力を低下して送信系の消費電力を抑制する。
【0020】
なお、基地局Bから送信電力制御のためのコマンドが送信されてくるのであれば、送信電力制御部17は、基地局Bから送信されてくるコマンドに基づいてパワーアンプ15の増幅率を制御してもよい。例えば、基地局Bが移動無線機10の送信する電波強度を監視し、電波強度が弱くなると送信電力を上昇させるコマンド(上昇指令)を送信し、電波強度が強くなると送信電力を低下させるコマンド(下降指令)を送信するのであれば、これらのコマンドに従ってパワーアンプ15の増幅率を制御すれば、移動無線機10の受信電力が高くなるほどパワーアンプ15の増幅率を低下させ、移動無線機10の受信電力が低くなるほど増幅率を上昇させるように制御することができる。
【0021】
デュプレクサ12は、パワーアンプ15に加えてRFチップ13の復調回路13bとも接続されている。デュプレクサ12のパワーアンプ15と接続する伝送線路と復調回路13bと接続する伝送線路は異なるラインである。デュプレクサ12は、復調回路13bへ受信信号Sinを出力し、パワーアンプ15から送信信号Soutが入力される。このデュプレクサ12とRFチップ13が本実施形態において通信部を構成する。なお、通信部はデュプレクサ12やRFチップ13に限定されるものではなく、送信データをアンテナを介して送信可能な無線通信用の電気信号に変換し、アンテナを介して無線通信により受信した電気信号から受信データを復元する処理を行うための構成であれば様々なものを採用可能である。
【0022】
また、デュプレクサ12にはアンテナ切替回路11も接続されており、デュプレクサ12とアンテナAt1もしくはアンテナAt2の間では、受信信号Sinと送信信号Soutとが2重化されることになる。すなわち、デュプレクサ12は、FDD(Frequency Division Duplex)もしくはTDD(Time Division Duplex)などの二重通信方式に対応しており、アンテナ切替回路11から入力された受信信号Sinを復調回路13bに出力しつつ、パワーアンプ15から入力された送信信号Soutをアンテナ切替回路11に出力している。なお、デュプレクサ12は、公知の各種構成を採用することができる。
【0023】
アンテナ切替回路11にはアンテナAt1とアンテナAt2が接続されており、切替制御部14から入力される切替信号Swに従って何れか一方を選択して基地局Bとの通信に利用する。
切替制御部14は、切替信号Swを作成するために、検波回路14aと整流回路14bを備えている。検波回路14aはパワーアンプ15とデュプレクサ12とを接続する伝送線路から送信信号Soutを検波して整流回路14bに入力する。整流回路14bは、高周波交流信号である送信信号Soutを整流平滑して直流とし、パワーアンプ15の送信信号Soutの送信電力に応じた直流の電圧信号を生成する。このようにして生成された電圧信号は、切替信号Swとしてアンテナ切替回路11に入力される。
【0024】
図3は、切替制御部14を採用した構成と採用しない構成の違いを説明する図である。同図では、切替制御部14を採用した構成と採用しない構成とで、アンテナの出力電圧が同一になるようにしてある。まず、切替制御部14を採用しない構成において、パワーアンプ15の出力する送信信号Soutの電力を23dBmとしてあり、ワット値に換算したときに200mWとなるものとする。一方、本実施形態のように、切替制御部14を採用して伝送線路上に検波回路14aを配置すると、検波出力を得るために例えば0.5dBmだけ余分な電力が必要になり、アンテナの送信電力はその分だけ減衰してしまう。これを補うために、パワーアンプ15では、予め0.5dBmの減衰が発生することを見越して、送信信号Soutが23.5dBmとなるように増幅しておく。ただし、電流は指数関数的に増加するため、dBm値では0.5dBmの増加であってもワット値では30mWの増加であり、送信系の消費電力が大きく増加することが分かる。
【0025】
すなわち、本実施形態の構成は、送信電力の瞬時値で考えると送信電力の増加であり、実際のところ移動無線機10の移動が行われなければ送信電力が増加するだけである。従って、このような送信信号Soutの伝送ラ線路上に回路を挿入することは、0.1dBmでも送信電力を低下させたいという要望のある中では一般的に行われるものではない。しかしながら、本発明の発明者は、移動無線機10を移動しながら使用した場合には、アンテナがヌル点に入った状態での通信を防止することにより送信電力を減少させる構成を提案することにより、送信電力をトータルで減少させることを目的としているため、切替制御部14を採用している。
【0026】
図4は、切替信号Swとアンテナ切替回路11の切替タイミングとの関係を示すグラフである。アンテナ切替回路11は、比較用の参照電圧Vrefと切替信号Swとを比較している。そして、送信電圧の上昇により切替信号Swが上昇して切替信号SwがVrefを超えると、基地局Bとの通信に利用するアンテナを他方のアンテナに切替える。
【0027】
このようにして切替えられるアンテナAt1とアンテナAt2とは、指向性もしくは偏波面が互いに異なっている。図5はアンテナAt1とアンテナAt2の相違を説明する図である。図5(a)はアンテナAt1とアンテナAt2とで指向性が異なる場合、図5の(b)はアンテナAt1とアンテナAt2とで偏波面が異なる場合である。
【0028】
図5(a)の場合は、アンテナAt1は図の左右方向に指向性を有しているのに対し、アンテナAt1は図の上下方向に指向性を有しており、互いの指向性が直交している。そのため、ある方向から送信電波が到来したときに、アンテナAt1で受信感度が最大化するとアンテナAt2の受信感度が最小化し、アンテナAt1で受信感度が最小化するとアンテナAt2の受信感度が最大化する。従って、アンテナAt1とアンテナAt2が同時にヌル点に入らない。なお、図5(a)には、アンテナの指向性が互いに直交する場合について示してあるが、互いの指向性が完全に一致するのでなければ、各アンテナの指向性は適宜に選択可能である。
【0029】
図5(b)の場合は、アンテナAt1は図のyz平面に一致する偏波面を有しているのに対し、アンテナAt2は図のzy平面に一致する偏波面を有しており、互いに偏波面が直交している。そのため、yz平面に一致するように偏波した電波が到来すると、アンテナAt1の受信感度は最大化するがアンテナAt2の受信感度は最小化し、xy平面に一致するように偏波した電波が到来すると、アンテナAt1の受信感度が最小化するがアンテナAt2の受信感度は最大化する。そのため、アンテナAt1とアンテナAt2の双方が同時にヌル点に入らないようになっている。なお、図5(b)ではアンテナ間の偏波面が互いに直交する例を記載してあるが、互いの偏波面が完全に一致しなければ偏波面の組合せは適宜に選択可能である。
【0030】
図6は、アンテナの切替制御を説明する図である。同図では、アンテナAt1とアンテナAt2とで指向性が異なる場合を例にとって示してあり、各アンテナの指向性と基地局との位置関係を示すとともに、各位置S1〜S3へと移動無線機10が移動する際のアンテナの切り替わる順番を表で示してある。なお、位置S1〜S3はいずれも基地局Bと安定して通信可能な範囲内であり、ヌル点に入ったとき以外は通信状況は安定している、すなわち、受信レベルは高いものとする。
【0031】
まず、移動無線機10は位置S1にあり、このとき移動無線機10はアンテナAt1で基地局Bと通信しているものとする。このとき、アンテナAt1の指向性は基地局Bからの送信電波の到来方向と合致しており、受信状況が安定しているため受信電力は高く、送信電力は低くなっている。
【0032】
次に、移動無線機10が位置S1から位置S2へと移動すると、アンテナAt1の指向性は基地局Bの送信電波の到来方向とずれてしまい、アンテナAt1はヌル点に入る。ヌル点に入るとアンテナAt1を介して受信する受信電力は低下し、送信電力制御部17がパワーアンプ15の増幅率を上昇させるため、移動無線機10の送信電力が上昇する。送信電力が上昇して切替制御部14の出力する切替信号Swが参照電圧Vrefを超えると、アンテナ切替回路11は、通信に利用するアンテナをアンテナAt2に切替える。このとき、アンテナAt1とは指向性が異なるアンテナAt2は、基地局Bの送信電波の到来方向と合致しているため、受信電力が上昇して送信電力が低下する。よって、通信が維持されるとともに、送信系の消費電力が抑制される。
【0033】
そして、移動無線機10が位置S2から位置S3へと移動すると、今度はアンテナAt2の指向性が送信電波の到来方向とずれて、アンテナAt2はヌル点に入る。従って、位置S1から位置S2へと移動したときと同様にアンテナの切替が行われ、アンテナAt1が通信に利用されるようになる。このときアンテナAt1の指向性は、基地局Bの送信電波の到来方向と合致しているため、受信電力が上昇して送信電力が低下する。よって、通信が維持されるとともに、送信系の消費電力が抑制される。
【0034】
アンテナAt1もしくはアンテナAt2は、基地局Bで変調された信号を受信する。以下、この信号を受信信号Sinと記載する。この受信信号Sinは、アンテナ切替回路11を通ってデュプレクサ12に入力される。デュプレクサ12は、FDDやTDD方式で受信信号Sinを復調回路13bに入力する。復調回路13bは、受信信号Sinを復調して受信データを得て、この受信データを信号処理部16に入力することになる。信号処理部16は、このようにして得られた受信データを利用して、表示を行ったり音声を出力したりデータを作成したりすることになる。
【0035】
以上のように、指向性もしくは偏波面の異なる2本のアンテナを適宜切替えて利用することにより、基地局Bの通信エリア内に移動無線機10があるにもかかわらず、アンテナのヌル点によって通信が困難な場合であっても、通信を維持しつつ送信にかかる消費電力を低下できるようになっている。また、上述した実施形態では、切替制御部14、アンテナ切替回路11をハードウェアで構成しているため、一方のアンテナがヌル点に入ったときに高速にアンテナを切替えることができる。従って、基地局Bの通信エリア内であれば常に強い受信電力を受けることができる。
【0036】
なお、本実施形態ではアンテナ切替回路11で切替信号Swと参照電圧Vrefとの比較を行っているが、切替制御部14で予め電圧の比較をしておいて、アンテナ切替回路11にアンテナの切換えを指示するときのみ切替信号Swが出力されるようにしてもよい。このように構成する場合は、切替制御部14の整流回路14bの後段に比較器を設けておいて、この比較器で直流電圧信号と参照電圧とを比較し、直流電圧信号が参照電圧を上回ったときにのみ所定の電圧をアンテナ切替回路11に出力するようにすればよい。
【0037】
(2)変形例1:
以上説明した実施形態では、移動無線機10が基地局Bの通信エリア内に有る場合について説明を行ったが、移動無線機10が基地局Bの通信エリア外に移動した場合であっても本発明を適用可能である。以下、変形例1にかかる移動無線機110が基地局Bの通信エリア外に移動した場合に適用して好適な変形例1について説明する。
【0038】
図7は、変形例1にかかる移動無線機110のハードウェア構成を示すブロック図である。同図では、図2と同様の構成については、図2と同じ符号を付して説明を省略するものとする。同図では、図2の構成に加えて、切替制御部14が比較回路14cを備えている。この比較回路14cには2種類の参照電圧Vref1,Vref2が供給されている(Vref1<Vref2)。
【0039】
図8は、参照電圧Vref1,Vref2について説明する図である。同図には、送信電力に対応する送信電圧Voutの時間変動の一例と、比較回路14cの行う参照電圧との比較制御の流れを示すフローチャートとを示してある。
同図に示すように、比較回路14cは、Vout<Vref1の間は、繰り返し送信電圧Voutと参照電圧Vref1とを比較しており(ステップS10)、送信電圧Voutが参照電圧Vref1を超えると、比較回路14cはアンテナ切替回路11に切替信号Swを入力する。すると、アンテナ切替回路11は、通信に利用するアンテナを他方のアンテナに変更する(ステップS20)。
【0040】
そして、参照電圧Vref1との比較の結果、アンテナの切替が行われたときには、アンテナの切替から所定時間が経過した後に(ステップS30)、比較回路14cは送信電圧Voutと参照電圧Vref2との比較を行う(ステップS40)。ここで、Vout≧Vref2である場合には再びアンテナの切換えを行う(ステップS50)。アンテナを切替えたにも関わらず送信電圧Voutが増加しているため、元のアンテナに戻して送信電力を低下させるためである。そして、比較回路14cは送信電圧Voutと参照電圧Vref2との比較を繰り返す(ステップS60)。
【0041】
ステップS60は、Vout≧Vref2である間は繰り返し実行され、Vout<Vref2になるとステップS10に戻る。すなわち、Vout≧Vref2の状態が続く間はアンテナの切替は行わない。アンテナを切替えたことによって送信電圧が参照電圧Vref1よりも減少したか、もしくはアンテナを切替えても送信電圧には大きな変化がないためこれ以上アンテナの切換えを行う必要もないからである。このように2つ目の参照電圧との比較を行うことにより、送信電力の上昇の原因がアンテナのヌル点に入ったことなのか移動無線機110が基地局Bの通信エリア外に出たためなのかを判断し、後者の場合には、通信エリア内に戻るまでアンテナの切替を抑制することができる。
【0042】
(3)変形例2:
また、上述した実施形態は既存の受信ダイバーシティと併用することにより、さらに受信状況に適したアンテナ選択を行い、通信の維持と送信電力の減少とを実現することが可能である。図9は、本変形例2にかかる移動無線機210の構成を示すブロック図である。同図において図2と同一の構成については図2と同じ符号を付して説明を省略する。図8では、図2の構成に加えて、スイッチ回路111a,111b,111c,ダイバーシティ制御部14dを備えている。
【0043】
スイッチ回路111cは入力端子Tc0と出力端子Tc1,Tc2を備えており、切替制御回路14の出力する切替信号に基づいて入力端子Tc0を出力端子Tc1,Tc2の何れかに切替えて接続することにより、入力端子Tc0から入力された信号を出力端子Tc1,Tc2の何れか一方から出力できるようになっている。入力端子Tc0には、パワーアンプ15で増幅された変調送信信号が入力されており、出力端子Tc1はスイッチ回路111bの入力端子Tb0に接続され、出力端子Tc2はデュプレクサ12に接続されている。
【0044】
スイッチ回路111bは入力端子Tb0と出力端子Tb1,Tb2を備えており、ダイバーシティ制御部14dの出力するダイバーシティ制御信号に基づいて入力端子Tb0を出力端子Tb1,Tb2の何れかに切替えて接続することにより、入力端子Tb0から入力された信号を出力端子Tb1,Tb2の何れか一方から出力できるようになっている。入力端子Tb0は上述したようにスイッチ回路111cの出力端子Tc1に接続され、出力端子Tb1はアンテナAt1に接続され、出力端子Tb2はアンテナAt2に接続されている。
【0045】
スイッチ回路111aは入力端子Ta0と出力端子Ta1,Ta2を備えており、ダイバーシティ制御部14dの出力するダイバーシティ制御信号に基づいて入力端子Ta0を出力端子Ta1,Ta2の何れかに切替えて接続することにより、入力端子Ta0から入力された信号を出力端子Ta1,Ta2の何れか一方から出力できるようになっている。入力端子Ta0はデュプレクサ12の二重信号出力側に接続されており、出力端子Ta1はアンテナAt1に接続され、出力端子Ta2はアンテナAt2に接続されている。
【0046】
ダイバーシティ制御部14dは、いわゆる選択またはスイッチングダイバーシティ技法と同様の方式でスイッチ回路111a,111bのスイッチング制御を行うものであり、デュプレクサ12から復調回路13bへ出力される受信信号Sinの平均値を基準レベルとして取得し、この基準レベルに基づいて上位基準レベル及び下位基準レベルを設定し、受信信号Sinの瞬時レベルと設定された上位基準レベル及び下位基準レベルとを比較し、その比較結果にスイッチ回路111a,111bの駆動信号を生成する。この駆動信号が、本実施形態においてダイバーシティ制御信号に相当する。なお、本変形例では、受信に利用するアンテナをアンテナAt1とアンテナAt2の何れか一方としてあるため、選択またはスイッチングダイバーシティ技法を例にとって説明しているが、むろん、ダイバーシティ制御部14dで各アンテナAt1とアンテナAt2との双方で同一の信号を受信するように構成し、他の公知のダイバーシティ技法(例えば、同位相合成ダイバーシティ、最大比率合成ダイバーシティなど)を利用してダイバーシティ制御信号を生成しても構わない。
【0047】
以上のように構成された移動無線機210においては、スイッチ回路111cは、図2のアンテナ切替回路11と同様に切替制御部14の出力する切替信号Swに従って、送信電力が上昇すると、基地局Bへの送信に利用するアンテナを他方のアンテナに切替える。
スイッチ回路111aとスイッチ回路111bは、ダイバーシティ制御部14dの制御に従って切り替わるが、ダイバーシティ制御部14dはスイッチ回路111aを接続するアンテナとスイッチ回路111bを接続するアンテナとが、互いに異なるように切替制御を行う。すなわち、スイッチ回路111aが入力端子Ta0を出力端子Ta1に接続しているときは、スイッチ回路111bは入力端子Tb0を出力端子Tb2に接続し、スイッチ回路111aが入力端子Ta0を出力端子Ta2に接続しているときは、スイッチ回路111bは入力端子Tb0を出力端子Tb1に接続する。
【0048】
以上のような切替制御を行うことにより、送信信号を送信するためのアンテナの切替は送信電力に基づいて行われ、受信信号を送信するためのアンテナの切替は受信電力に基づいて行われることになる。このように、受信用のアンテナと送信用のアンテナとを個別に切替選択できるようにしたことにより、受信信号の周波数と送信信号の周波数とでアンテナの指向性に違いが生じる場合であっても、おのおので最適なアンテナが選択される。すなわち、従来あるダイバーシティ方式の移動無線機では受信と送信とで指向性が異なる可能性について考慮されていなかったが、変形例2のように送信の指向性を考慮した最適なアンテナ選択が可能になるといえる。
【0049】
(4)まとめ:
以上説明した実施形態にかかる移動無線機10は、受信電力が強いときは送信電力を弱くし、受信電力が弱いときは送信電力を強くする制御を行う移動無線機10において、指向性もしくは偏波面が互いに異なるアンテナAt1およびアンテナAt2と、アンテナAt1とアンテナAt2の少なくとも一方を介して通信する通信部(RFチップ13およびデュプレクサ12)と、通信部の通信するアンテナをアンテナAt1とアンテナAt2との間で切替えるアンテナ切替回路11と、送信電力が所定の第1閾値を超えるとアンテナ切替回路11にアンテナを切替えさせる切替制御部14と、を備えている。このように構成することにより、送信電力を減らしつつ良好に通信の接続の維持することが可能な移動無線機10を提供することができる。
【0050】
なお、上述した実施形態や変形例では、移動無線機10が基地局Bと通信する場合を例にとって説明したが、基地局Bの代わりに他の移動無線機と通信する場合であっても同様の構成で同様の作用効果を奏することは言うまでもない。
【0051】
なお、本発明は上記実施形態や変形例に限られるものでない。例えば、上述した部材や構成であって相互に置換可能なものを適宜その組合せを変更して適用すること、公知技術であって上述した部材や構成と相互置換可能なものと適宜置換したり組合せを変更して適用すること、上述されていないが公知技術等に基づいて上述した部材および構成等の代用として当業者が容易に想定し得るものと置換したり組合せを変更して適用すること、は本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0052】
10…移動無線機、11…アンテナ切替回路、12…デュプレクサ、13…RFチップ、13a…変調回路、13b…復調回路、14…切替制御部、14a…検波回路、14b…整流回路、14c…比較回路、15…パワーアンプ、16…信号処理部、17…送信電力制御部、100…移動無線システム、110…移動無線機、111a…スイッチ回路、111b…スイッチ回路、111c…スイッチ回路、14d…ダイバーシティ制御部、210…移動無線機、At1…アンテナ、At2…アンテナ、B…基地局

【特許請求の範囲】
【請求項1】
受信電力が強いときは送信電力を弱くし、受信電力が弱いときは送信電力を強くする制御を行う移動無線機において、
指向性もしくは偏波面が互いに異なる第1アンテナおよび第2アンテナと、
上記第1アンテナと上記第2アンテナの少なくとも一方を介して通信する通信部と、
上記通信部の受信と送信の少なくとも一方に使用するアンテナを上記第1アンテナと上記第2アンテナとの間で切替える切替部と、
送信電力が所定の第1閾値を超えると上記切替部にアンテナを切替えさせる切替制御部と、
を具備することを特徴とする移動無線機。
【請求項2】
上記第1アンテナと上記第2アンテナの指向性もしくは偏波面は互いに直交している請求項1に記載の移動無線機。
【請求項3】
上記切替制御部は、上記通信部の出力する送信信号の伝送線路上に配置される検波回路を備え、該検波回路の検波出力に基づいてアンテナの切替信号を生成して上記切替部に出力し、
上記切替部は上記切替信号が入力されると上記通信部の受信と送信の少なくとも一方に使用するアンテナを上記第1アンテナと上記第2アンテナとの間で切替える請求項1または請求項2に記載の移動無線機。
【請求項4】
上記切替制御部は、上記送信電力が上記所定の第1閾値を超えて上記切替部にアンテナを切替させてから所定時間が経過すると、上記送信電力が上記所定の第1閾値よりも大きい第2閾値を超えたか否かを判断し、上記送信電力が該第2閾値を超えているときは再び上記切替部にアンテナを切替させる請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の移動無線機。
【請求項5】
上記切替制御部は、ダイバーシティ制御信号に基づいて上記通信部の受信用アンテナを切替え、上記送信電力が上記第1閾値を超えたか否かに基づいて上記通信部の送信用アンテナを切替える請求項1〜請求項4の何れか1項に記載の移動無線機。
【請求項6】
送信電力の上昇指令を受信すると上記送信電力を上昇させる送信電力制御部を更に備える請求項1〜請求項5の何れか1項に記載の移動無線機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−147064(P2011−147064A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−8074(P2010−8074)
【出願日】平成22年1月18日(2010.1.18)
【出願人】(000201113)船井電機株式会社 (7,855)
【Fターム(参考)】