説明

移動物体の温度測定装置

【課題】本発明は、空間を揺動しながら移動する移動物体の温度を直接、かつ、正確に測定可能な移動物体の温度測定装置を提供することを目的とする。
【解決手段】ターゲット6が赤外線カメラ3により撮像された金属溶湯5の画像の中央にくるように制御手段10により制御した時の放射温度計2の出力がターゲット6の温度となるように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば手動で操作されるタンディッシュから鋳型に注ぎ込まれる溶融した金属溶湯のような揺動しながら移動する移動物体の温度を直接、かつ、正確に測定する移動物体の温度測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から溶融した金属溶湯を自動注湯装置を用いて鋳型に注ぎ込むことによって製造する方法が知られている。近年では、湯回り不良等の温度低下に起因した鋳造欠陥を防止し、良質な製品を製造する目的で、金属溶湯の温度を連続的に測定する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
上記特許文献1に記載された金属溶湯の温度測定方法は、自動注湯装置のタンディッシュの底に設けられた注湯ノズルから鋳型内に落下する金属溶湯を放射温度計を用いて測定し、この測定した金属溶湯の温度を予め設定した補正値にて補正して、タンディッシュ内の金属溶湯の温度を推定する技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−204556号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
鋳込まれた製品のトレーサビリティの観点からすると、本来鋳型に注ぎ込む直前の金属溶湯の温度を直接、かつ、正確に測定することが必要であるにも拘らず、上記特許文献1に記載された金属溶湯の温度測定方法では、推定するしかないといった難点があった。
【0006】
また、鋳造で多品種少量の製品を製造する場合には、自動注湯装置を使用するのではなく、タンディッシュに替わる取鍋を手動で操作するのが通常である。この場合、取鍋や鋳型に注ぎ込む金属溶湯自体がどうしても揺動してしまうため、上記特許文献1に記載された金属溶湯の温度測定方法のように、タンディッシュから離れた位置に放射温度計を固定設置していたのでは、揺動しながら落下する金属溶湯の温度を計測できないという問題点があった。
【0007】
上述したように、上記特許文献1に記載された金属溶湯の温度測定方法では、空間を揺動しながら移動する移動物体(例えば、金属溶湯)の温度を直接、かつ、正確に測定できない。
【0008】
本発明の目的は、空間を揺動しながら移動する移動物体の温度を直接、かつ、正確に測定可能な移動物体の温度測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的を達成するために、本発明の請求項1に記載の発明は、
空間を揺動しながら移動する被測定移動物体から発せられた放射光に対して、所定波長以下の放射光を透過させ、前記所定波長を超える放射光は反射させる特性を有したフィルタと、このフィルタを透過した放射光により前記被測定移動物体の所定箇所の温度を測定するための放射温度計と、前記フィルタにより反射した放射光により前記被測定移動物体の画像を形成するための赤外線カメラと、前記フィルタを前記被測定移動物体と前記放射温度計との間に所定の角度で設置することにより、前記放射温度計と前記赤外線カメラを互いの光軸が一致するように支持可能な支持体と、前記赤外線カメラにより形成された前記被測定移動物体の画像から前記被測定移動物体の所定箇所の特徴点を抽出し、この抽出した特徴点に基づいて、前記被測定移動物体の所定箇所が前記被測定移動物体の画像の中央にくるように前記支持体の位置を制御するための制御手段と、を備え、
前記被測定移動物体の所定箇所が前記被測定移動物体の画像の中央にくるように前記制御手段により制御した時の前記放射温度計の出力が前記被測定移動物体の所定箇所の温度となるように構成されたことを特徴とする移動物体の温度測定装置である。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、
前記支持体には、レーザポインタが設置され、このレーザポインタの光軸を前記放射温度計の光軸及び前記赤外線カメラの光軸と一致させたことを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、
前記レーザポインタの出射光の形状は、前記被測定移動物体の所定箇所上で直線が交差した形状であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、
空間を揺動しながら移動する被測定移動物体から発せられた放射光に対して、所定波長以下の放射光を透過させ、前記所定波長を超える放射光は反射させる特性を有したフィルタと、このフィルタを透過した放射光により前記被測定移動物体の所定箇所の温度を測定するための放射温度計と、前記フィルタにより反射した放射光により前記被測定移動物体の画像を形成するための赤外線カメラと、前記フィルタを前記被測定移動物体と前記放射温度計との間に所定の角度で設置することにより、前記放射温度計と前記赤外線カメラを互いの光軸が一致するように支持可能な支持体と、前記赤外線カメラにより形成された前記被測定移動物体の画像から前記被測定移動物体の所定箇所の特徴点を抽出し、この抽出した特徴点に基づいて、前記被測定移動物体の所定箇所が前記被測定移動物体の画像の中央にくるように前記支持体の位置を制御するための制御手段と、を備え、
前記被測定移動物体の所定箇所が前記被測定移動物体の画像の中央にくるように前記制御手段により制御した時の前記放射温度計の出力が前記被測定移動物体の所定箇所の温度となるように構成されているため、空間を揺動しながら移動する移動物体の温度を直接、かつ、正確に測定可能な移動物体の温度測定装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係る移動物体の温度測定装置の概略構成を説明するためのものであり、(a)は同装置と被測定移動物体としての金属溶湯5間の光の流れを模式的に示す模式説明図、(b)は同装置の赤外線カメラ3から支持体1までの信号の流れを模式的に示す模式説明図である。
【図2】図1に示すフィルタ7の光学特性図である。
【図3】図1に示すホットミラー8の光学特性図である。
【図4】図1に示すレーザポインタ4の出射光の金属溶湯5上のターゲット6に表示される形状を模式的に示す拡大模式説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態について、添付図面を参照しながら説明する。
【0015】
図1は、本発明の一実施形態に係る移動物体の温度測定装置の概略構成を説明するためのものであり、(a)は同装置と被測定移動物体としての金属溶湯5間の光の流れを模式的に示す模式説明図、(b)は同装置の赤外線カメラ3から支持体1までの信号の流れを模式的に示す模式説明図である。
【0016】
図1において、1は支持体、2、3、4はそれぞれ光軸を予め一致させて支持体1に支持された放射温度計、赤外線カメラ、レーザポインタ、5は空間を揺動しながら移動する被測定移動物体としての金属溶湯、6は金属溶湯5上の所定箇所としてのターゲット、7はフィルタ、8はホットミラー、9は反射ミラー、10は制御手段、11は駆動機構、20は金属溶湯5から放射された放射光、20aは放射光20がフィルタ7を透過した放射光、20bは放射光20がフィルタ7で反射され、さらにホットミラー8で反射した放射光、30はレーザポインタ4から出射されターゲット6に当たる波長λが635nmの出射光である。
【0017】
図2はフィルタ7の光学特性図(入射角45°の場合)であり、波長λが(例えば、所定波長としての)約600nm以下を透過し、これを超えると反射する特性を有している。また、図3はホットミラー8の光学特性図(入射角45°の場合)であり、波長λが(例えば、所定波長としての)約700nm以下を透過し、これを超えると反射する特性を有している。
【0018】
また、図1(a)において、フィルタ7、ホットミラー8、反射ミラー9が、放射温度計2、赤外線カメラ3、レーザポインタ4に対して、例えば、所定角度がそれぞれ45°になるように設置されているため、放射温度計2と赤外線カメラ3とレーザポインタ4を互いの光軸が一致するように、かつ、同じ側に揃えて支持体1で支持できる。
【0019】
したがって、金属溶湯5から放射された放射光20の内の波長λが約600nm以下の放射光がフィルタ7を透過し、検出部の測定中心波長λが例えば、550nmである放射温度計2に垂直に入射されることにより、金属溶湯5の温度が測定できる。また、金属溶湯5から放射された放射光20の内の波長λが約600nmを超える放射光は、フィルタ7で直角に反射され、さらにホットミラー8で波長λが約700nmを超える放射光が直角に反射され、赤外線カメラ3に垂直に入射することにより、金属溶湯5の画像が形成できる。
【0020】
さらに、図1(b)に示すように、赤外線カメラ3により撮像された金属溶湯5の画像から金属溶湯5上のターゲット6の特徴点を抽出し、この抽出した特徴点に基づいて、ターゲット6が金属溶湯5の画像の中央にくるように、制御手段10の指示に従って駆動機構11を駆動し、支持体1の位置を制御する。
【0021】
本願発明の請求項1に係る発明(以下、「請求項1に係る発明」という)を特定するためには、必ずしも上述したレーザポインタ4、ホットミラー8、反射ミラー9は必須ではなく、支持体1、放射温度計2、赤外線カメラ3、フィルタ7、制御手段10を少なくとも備え、ターゲット6が赤外線カメラ3により形成された金属溶湯5の画像の中央にくるように制御手段10により制御した時の放射温度計2の出力がターゲット6の温度となるように構成されていればよい。すなわち、請求項1に係る発明を採用することにより、空間を揺動しながら移動する金属溶湯5の温度を直接、かつ、正確に測定可能な温度測定装置を実現できる。
【0022】
また、図1(a)において、レーザポインタ4の出射光30は、反射ミラー9で直角に反射され、ホットミラー8を透過し、さらにフィルタ7で直角に反射され、ターゲット6に当たる。このレーザポインタ4の出射光30は赤色であるため、ターゲット6の位置を可視化できる。
【0023】
図4は、図1(a)に示すレーザポインタ4の出射光30の金属溶湯5上のターゲット6に表示される形状を模式的に示す拡大模式説明図である。図4において、金属溶湯5上のターゲット6に表示される出射光30の形状は、ターゲット6上で直線30aと直線30bが交差した形状をなしているため、ターゲット6の位置がより鮮明になり、一段とターゲット6の視認性が向上する。このように、出射光30の形状が、金属溶湯5のターゲット6上で直線が交差した形状であれば、ターゲット6の位置がより鮮明になり、一段とターゲット6の視認性が向上する。
【0024】
なお、本実施形態においては、空間を揺動しながら移動する被測定移動物体として、金属溶湯を用いて説明したが、これに限定されるものではなく、空間を揺動しながら移動し、かつ放射光を発する移動物体に対して広く適応可能である。
【符号の説明】
【0025】
1:支持体
2:放射温度計
3:赤外線カメラ
4:レーザポインタ
5:金属溶湯
6:ターゲット
7:フィルタ
8:ホットミラー
9:反射ミラー
10:制御手段
11:駆動機構
20:放射光
20a:放射光20がフィルタ7を透過した放射光
20b:放射光20がフィルタ7で反射され、さらにホットミラー8で反射した放射光
30:レーザポインタ4の出射光
30a、30b:出射光30のターゲット6上に表示された形状(直線)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空間を揺動しながら移動する被測定移動物体から発せられた放射光に対して、所定波長以下の放射光を透過させ、前記所定波長を超える放射光は反射させる特性を有したフィルタと、このフィルタを透過した放射光により前記被測定移動物体の所定箇所の温度を測定するための放射温度計と、前記フィルタにより反射した放射光により前記被測定移動物体の画像を形成するための赤外線カメラと、前記フィルタを前記被測定移動物体と前記放射温度計との間に所定の角度で設置することにより、前記放射温度計と前記赤外線カメラを互いの光軸が一致するように支持可能な支持体と、前記赤外線カメラにより形成された前記被測定移動物体の画像から前記被測定移動物体の所定箇所の特徴点を抽出し、この抽出した特徴点に基づいて、前記被測定移動物体の所定箇所が前記被測定移動物体の画像の中央にくるように前記支持体の位置を制御するための制御手段と、を備え、
前記被測定移動物体の所定箇所が前記被測定移動物体の画像の中央にくるように前記制御手段により制御した時の前記放射温度計の出力が前記被測定移動物体の所定箇所の温度となるように構成されたことを特徴とする移動物体の温度測定装置。
【請求項2】
前記支持体には、レーザポインタが設置され、このレーザポインタの光軸を前記放射温度計の光軸及び前記赤外線カメラの光軸と一致させたことを特徴とする請求項1に記載の移動物体の温度測定装置。
【請求項3】
前記レーザポインタの出射光の形状は、前記被測定移動物体の所定箇所上で直線が交差した形状であることを特徴とする請求項2に記載の移動物体の温度測定装置。











【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−185774(P2011−185774A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−51826(P2010−51826)
【出願日】平成22年3月9日(2010.3.9)
【出願人】(504358148)株式会社神鋼エンジニアリング&メンテナンス (8)
【Fターム(参考)】