説明

移動物体検出装置

【課題】 自車両が走行している場合に、静止物体から反射された反射信号成分を抑制して、効率よく移動物体のみを検出する。
【解決手段】 レーダ装置1により自車両の周囲の移動物体を検出するに際して、信号処理部4は、FFT処理部32により周波数差信号の周波数スペクトルを算出すると共に、周波数オフセット量算出部33により、自車両速度に応じたドップラシフト量を算出する。そして、周波数オフセット部34は、送信周波数上昇期間の周波数スペクトルをドップラシフト量だけ正方向にオフセットさせると共に、送信周波数下降期間の周波数スペクトルをドップラシフト量だけ負方向にオフセットさせ、物標認識部35は、正方向にオフセットされた周波数スペクトルと、負方向にオフセットされた周波数スペクトルとを差分演算して得られる周波数スペクトルに基づいて、移動物体を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば車両に搭載され、当該車両の周囲に存在する障害物等を検出する移動物体検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、障害物検知システムやACC(Adaptive Cruise Control)システムなどに使用されるセンサとして、赤外線を使用したレーザレーダやミリ波を使用した電波レーダなどが知られている。これらの障害物検知システムやACCシステムは、主として自動車専用道路での使用が前提とされているが、市街地走行への適用が検討されている。このように、車両が市街地を走行している状態では、車両周囲の障害物として静止物体と移動物体とが多く混在する状況であるので、移動物体の検出をより効率良く行う必要がある。
【0003】
これに対し、自車両が静止している状態において、静止物体からの反射信号に影響を受けず移動物体の検出を行う電波レーダ装置としては、下記の特許文献1に記載されているように、送信電波の周波数を変調するFM(Frequency Modulation)−CW(Continuous Wave)レーダを備え、周波数上昇期間から得られるパワースペクトルと周波数下降部分から得られるパワースペクトルとの差分演算を行うことによって、移動物体のみを抽出するというものがあった。
【特許文献1】特開平6−214017号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、自車両が市街地を走行している場面では、静止物体も自車両の車速に応じた相対速度で静止物体が移動するので、当該相対速度に応じた反射信号を入力してしまい、パワースペクトルの差分処理だけでは静止物体を検出しないという処理を行うことができなかった。
【0005】
そこで、本発明は、上述した実情に鑑みて提案されたものであり、自車両が走行している場合に、静止物体から反射された反射信号成分を抑制して、効率よく移動物体を検出することができる移動物体検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る移動物体検出装置は、三角波信号の強度変化に従って周波数変調を施して、送信周波数上昇期間と送信周波数下降期間とを含む送信信号を送出する送信手段と、送信手段から送出された送信信号が物体に反射し、当該反射した送信信号を受信信号として受信し、当該受信信号と送信信号との周波数差を示す周波数差信号を生成する受信手段と、受信手段により生成した周波数差信号を用いて、自車両の周囲の移動物体を検出する信号処理手段とを備える。
【0007】
このような移動物体検出装置により自車両の周囲の移動物体を検出するに際して、信号処理手段は、周波数解析手段により、周波数差信号の周波数スペクトルを算出すると共に、周波数オフセット量算出手段により、自車両の速度情報を入力して、当該自車両速度に応じた周波数シフト量を算出する。そして、周波数オフセット手段は、送信周波数上昇期間の周波数スペクトルを周波数シフト量だけ正方向にオフセットさせると共に、送信周波数下降期間の周波数スペクトルを周波数シフト量だけ負方向にオフセットさせ、物標認識手段は、周波数オフセット手段によって正方向にオフセットされた周波数スペクトルと、周波数オフセット手段によって負方向にオフセットされた周波数スペクトルとを差分演算して得られる周波数スペクトルに基づいて、移動物体を検出することにより、上述の課題を解決する。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る移動物体検出装置によれば、送信信号と受信信号との周波数差を示す周波数スペクトルを算出し、送信周波数上昇期間の周波数スペクトルを自車速に基づく周波数シフト量だけ正方向に周波数シフトさせると共に、送信周波数下降期間の周波数スペクトルを自車速に基づく周波数シフト量だけ負方向に周波数シフトさせることによって、自車速に相当する相対速度の静止物体で反射して発生した周波数シフトを、送信周波数上昇期間と送信周波数下降期間とで等しい周波数成分に置換することができる。したがって、この移動物体検出装置によれば、送信周波数上昇期間の周波数スペクトルと送信周波数下降期間の周波数スペクトルとの差分演算を行うことによって、静止物体で反射した周波数成分を抑制して、移動物体の反射した周波数成分を検出することができ、移動物体の検出効率を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0010】
本発明を適用したレーダ装置は、赤外線光を出射して物標で反射した赤外線光を受信する移動物体検出装置や、電波を出射して物標で反射した電波を受信する移動物体検出装置に適用される。このレーダ装置は、物標の位置を求めるための方式として、三角波状に周波数変調や振幅変調を施した連続波を送信し、反射信号の周波数変位や位相変位に基づいて距離を算出するCW(Continuous Wave)方式を採用したものである。また、このレーダ装置1は、例えば自車両に搭載され、当該自車両の周囲に存在する物標のうち、静止物体を除く移動物体までの距離及び相対速度を検出するものである。以下、本発明の第1実施形態及び第2実施形態について説明する。
【0011】
[第1実施形態]
本発明は、例えば図1に示すように構成された第1実施形態に係るレーダ装置1に適用される。
【0012】
[レーダ装置1の構成]
このレーダ装置1は、自車両の前方に向けて送信波である無線電波を送信し、当該送信波が物標で反射した無線電波を受信波として受信するものである。このレーダ装置1は、図1に示すように、無線電波を送信波として送出する信号送出部2と、反射電波を受信波として受信する信号受信部3と、当該信号送出部2及び信号受信部3を制御して、自車両前方の物標を認識する信号処理部4とから構成されている。
【0013】
信号送出部2は、信号処理部4と接続されたVCO(Voltage Controlled Oscillator、電圧制御発振器)11、分配器12及び送信波を送出する送信アンテナ13を備える。
【0014】
この信号送出部2は、信号処理部4から三角波信号を入力し、当該三角波信号の強度に従ってVCO11が周波数を変更する発振動作を行うことによって、送信アンテナ13から送信させる送信波の周波数変調を行い、当該周波数変調が施された送信信号を分配器12に供給する。分配器12は、VCO11からの送信信号が供給されると、当該送信信号を所定の電力比で分配する。この分配器12によって分配された送信信号は、送信アンテナ13及び信号受信部3に供給される。送信アンテナ13は、分配器12から送信信号が供給されると、当該送信信号の周波数及び強度に従った送信波を送出する。
【0015】
信号受信部3は、信号送出部2から送信されて自車両前方の物標で反射された無線電波を受信波として受信する受信アンテナ21、ミキサ回路22及び信号処理部4と接続された増幅アンプ23を備える。
【0016】
この信号受信部3は、受信波を受信アンテナ21で受信すると、当該受信波の周波数及び振幅に応じた受信信号としてミキサ回路22に供給する。ミキサ回路22は、受信アンテナ21から受信信号が供給されると、当該受信信号と、分配器12から供給された送信信号(LO信号)とをミキシングして、周波数差信号である受信IF信号を増幅アンプ23に供給する。増幅アンプ23は、ミキサ回路22からのミキシングされた受信IF信号を所定の電圧値まで増幅させて、信号処理部4に供給する。このような信号受信部3から信号処理部4に供給される受信IF信号は、ミキサ回路22で送信信号とミキシングされているので、物標の反射によってシフトされた周波数成分と、送信信号の周波数成分との差分の周波数を含むことになる。
【0017】
信号処理部4は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等から構成され、当該ROMに記憶された信号送出部2及び信号受信部3の制御処理プログラムや物標認識プログラムを実行することにより、機能的な各部31〜35を実現する。
【0018】
この信号処理部4は、信号送出部2に三角波信号を供給する三角波発生部31、信号受信部3から受信IF信号が供給される周波数解析手段であるFFT(Fast Fourier Transform:高速フーリエ変換)処理部32、図示しない車速センサと接続された周波数オフセット量算出部33、周波数オフセット部34、物標認識部35を備える。
【0019】
この信号処理部4は、信号送出部2から送信波を送出させるに際して、例えば物標認識部35から三角波発生部31に三角波信号を発生させる指令を与え、三角波発生部31を動作させる。これにより、三角波発生部31は、VCO11で周波数変調するための三角波信号を信号送出部2に供給して、信号送出部2から送信波を送出させる。
【0020】
また、信号処理部4は、信号送出部2から送信波を送出させ、信号受信部3からの受信IF信号をFFT処理部32で受信する。このFFT処理部32は、供給された受信IF信号に高速フーリエ変換処理を施すことによって、周波数差信号の周波数スペクトルを作成して、周波数オフセット部34に供給する。
【0021】
更に、信号処理部4は、物標認識部35によって物標を認識するに際して、周波数オフセット量算出部33によって、図示しない車速センサから自車速情報を読み込む。周波数オフセット量算出部33は、自車速に応じた周波数シフト量であるドップラシフト量を算出し、周波数オフセット部34に供給する。この周波数オフセット量算出部33によって算出されるドップラシフト量は、後述するが、静止物体との相対速度に起因して発生する送信波と受信波との周波数シフト量を打ち消すような周波数量を算出する。また、このドップラシフト量は、静止物体の相対速度が高い場合、すなわち自車両の速度が高くなるほど、大きな量を周波数シフトさせるようなテーブルデータによって決定される。
【0022】
周波数オフセット部34は、FFT処理部32からの周波数スペクトル及び周波数オフセット量算出部33からのドップラシフト量が供給されると、ドップラシフト量を用いて送信周波数上昇期間での受信IF信号の周波数スペクトルを正の方向に周波数シフトさせ、送信信号の周波数下降部分での受信IF信号の周波数スペクトルを負の方向に周波数シフトさせる。すなわち、周波数オフセット部34は、送信信号の周波数を上昇させている期間の受信IF信号の周波数スペクトルであってドップラシフト量だけ正方向に周波数シフトされた情報(送信周波数上昇期間の周波数スペクトル)と、送信信号の周波数を下降させている期間の受信IF信号の周波数スペクトルであってドップラシフト量だけ負方向に周波数シフトされた情報(送信周波数下降期間のスペクトル)とを物標認識部35に供給する。
【0023】
物標認識部35は、上昇時周波数スペクトル情報及び下降時周波数スペクトル情報が周波数オフセット部34から供給されると、当該送信周波数上昇期間の周波数スペクトルと送信周波数下降期間の周波数スペクトルとの差分を演算して、自車両前方に存在する静止物体を除く移動物体の検出を行う。このとき、物標認識部35は、移動物体の距離及び自車両に対する相対速度を演算し、当該演算結果をACC制御部等に供給する。
【0024】
[レーダ装置1の動作]
つぎに、上述したように構成されたレーダ装置1におけるレーダ動作について説明する。
【0025】
まず、自車両が走行している場合におけるレーダ装置1のレーダ動作について図2を参照して説明する。
【0026】
このレーダ装置1は、図2(a)に示すような三角波信号が三角波発生部31からVCO11に供給されると、VCO11は、図2(b)に示すように送信周波数が変化する送信信号を発振させる。この送信信号は、三角波信号の強度が上昇する時刻t1までの期間が次第に周波数が上昇する期間であり、三角波信号の強度が下降する時刻t1から時刻t2までの期間が次第に周波数が下降する期間となっており、当該送信周波数上昇期間と送信周波数下降期間とを繰り返している。したがって、送信アンテナ13から送出される送信波も、送信信号と同様に送信周波数上昇期間と送信周波数下降期間とを繰り返した電磁波となっている。
【0027】
そして、レーダ装置1は、受信アンテナ21により、図2(c)中の実線で示すような受信波を検出する。この受信波は、レーダ装置1から物標までの距離に応じて、図2(c)中の点線で示した送信波と比較して時間遅延が生じており、また、自車両と物標との相対速度に応じてドップラ効果による周波数シフトが発生している。ここで、受信波には、自車両が走行することによって発生する相対速度に基づく周波数シフト分と、物標が移動していることによって発生する相対速度に基づく周波数シフト分とを含んでいる。
【0028】
この受信波に応じた受信信号は、ミキサ回路22により、図2(b)に示すような送信信号とミキシングされることによって、図2(d)に示すように、送信信号と受信信号の周波数差に相当する受信IF信号となる。
【0029】
この受信IF信号は、図2(d)に示すように、周波数差である周波数f1と周波数f2とを含む。ここで、受信IF信号は、時刻t11に至る間の送信周波数上昇期間において周波数f1に変化する周波数差があり、時刻t12に至る間の送信周波数下降期間において周波数f2に変化する周波数差があり、更に、時刻t13に至る間の周波数上昇期間において周波数f1に変化する周波数差がある。この周波数差f1,f2の2つの周波数が含まれるということは、受信波が静止物体と移動物体とが混在する空間で反射されることによって、受信波が静止物体及び移動物体の双方のドップラ効果を受けたことに起因した周波数シフトが発生していることを意味している。
【0030】
つぎに、自車両が停止している場合におけるレーダ装置1のレーダ動作について図2を参照して説明する。
【0031】
自車両が停止している状態において、静止物体で反射した受信波を検出した場合において、図3(a)に示す三角波信号を信号送出部2に供給して図3(b)に示す周波数変化の送信波を送出させると、信号受信部3により図3(c)に示す周波数変化の受信波を受信する。ここで、送信波と受信波との周波数差は、自車両と静止物体との相対速度が「0」であるので、受信波にドップラ効果による周波数シフトはなく、送信周波数上昇期間の受信IF信号の周波数と送信周波数下降期間の受信IF信号の周波数は同一の周波数f1のみとなる。
【0032】
そして、このような受信IF信号は、自車両が走行していないので周波数オフセット部34による周波数シフトがなされずに、物標認識部35に送られる。そして、送信周波数上昇期間と送信周波数下降期間との2つの周波数スペクトルの差分演算を物標認識部35で行うと、周波数差がなくなる。これにより、停車した状態で静止物体から反射した受信波では、信号が無い状態となり、物標認識部35で静止物体を検出する信号成分を相殺することができる。
【0033】
これに対し、図2に示すように移動物体で反射して取得した受信IF信号は、2つの周波数f1,f2が存在し、周波数オフセット部34で自車速に基づく周波数シフトが施されて、物標認識部35に供給される。したがって、少なくとも図2(d)に示す送信周波数上昇期間における時刻t1以前の周波数と、送信周波数下降期間における時刻t1〜時刻t2での周波数との差分演算を行うことにより、移動物体で送信波が反射したことによる周波数シフトを検出することができる。すなわち、移動物体で反射された場合はドップラ効果による周波数シフトが存在するため、周波数スペクトルの差分演算で相殺されること無く、移動物体のみに基づく信号を検出することができる。
【0034】
換言すれば、自車速から静止物体の相対速度を算出し、送信周波数上昇部分の受信IF信号には自車速に基づくドップラシフト量に相当する正の周波数オフセットを加え、送信周波数下降部分の受信IF信号には自車速に基づくドップラシフト量に相当する負の周波数オフセットを加えることで、静止物体の信号成分を送信周波数上昇部分と送信周波数下降部分で同じ周波数になるように変換することにより、周波数スペクトルの差分演算によって移動物体の信号成分のみの検出を行う。
【0035】
更に具体的には、図4に自車両が停止した状態で静止物体からの受信波を受信した場合の受信IF信号の周波数スペクトルを示すように、送信周波数上昇期間での受信IF信号と送信周波数下降期間での受信IF信号とでは略同じ周波数の信号成分となる。したがって、物標認識部35により、周波数スペクトルの差分演算を行うことによって、静止物体で反射した信号成分を相殺することが可能となる。
【0036】
また、図5に自車両が停止した状態で移動物体からの受信波を受信した場合の受信IF信号の周波数スペクトルを示すように、送信周波数上昇期間での受信IF信号と送信周波数下降期間での受信IF信号とでは、異なる周波数に信号成分が現れる。この例では、送信周波数上昇期間での受信IF信号と送信周波数下降期間での受信IF信号とで、周波数差が、移動物体の速度で生じるドップラ周波数の2倍の値になる。したがって、物標認識部35により、周波数スペクトルの差分演算を行うことによって、大きな信号成分を得ることができる。
【0037】
更に、移動物体の移動速度が既知である場合、図5に示した受信IF信号の周波数スペクトルに対し、送信周波数上昇期間の周波数スペクトルには移動速度に応じたドップラシフト量だけ正の方向に周波数シフトさせ、送信周波数下降期間の周波数スペクトルには移動速度に応じたドップラシフト量だけ負の方向に周波数シフトさせると、図6に示すようになる。すなわち、送信周波数上昇期間での受信IF信号と周波数下降期間での受信IF信号とで、信号成分が等しい周波数となる。
【0038】
したがって、本発明を適用したレーダ装置1では、上述の図6を参照した場合とは逆に、自車両の移動速度が既知である場合に静止物体で反射した受信波を受信している状況に適用できる。つまり、自車両の速度が既知であるため、自車両の速度に基づくドップラシフト量を計算し、送信周波数上昇期間での受信IF信号の周波数スペクトルを正方向に、送信周波数下降期間での受信IF信号の周波数スペクトルを負方向に周波数シフトさせることによって、静止物体で反射した周波数成分を送信周波数上昇期間と送信周波数下降期間とで等しい周波数に置換することができる。そして物標認識部35によって、二つの周波数スペクトルの差分演算を行うことで静止物体で反射することによって現れた周波数シフト分を減衰させることができる。
【0039】
また、このレーダ装置1では、自車両が市街地等を低速走行している状況や自車両が停止しているであって静止物体が多く検出されてしまう場合には、物標認識部35によって送信周波数上昇期間の受信IF信号と送信周波数下降期間の受信IF信号との差分演算を行って移動物体を検出し、その一方で、予め設定した所定速度以上の速度で自車両が走行している場合には、ドップラシフト量をオフセットした上での差分演算を行わず、送信周波数上昇期間の周波数スペクトルと送信周波数下降期間の周波数スペクトルとの差分演算を行って静止物体及び移動物体の双方を検出する処理を行っても良い。すなわち、レーダ装置1では、高速走行時には、FFT処理部32で周波数解析を施した周波数スペクトルと、三角波発生部31による周波数変調とから、周波数スペクトルのピーク値のずれを算出する処理を行うことになる。
【0040】
[第1実施形態の効果]
以上詳細に説明したように、本発明を適用した第1実施形態に係るレーダ装置1によれば、送信周波数上昇期間の周波数スペクトルを自車速に基づくドップラシフト量だけ正方向に周波数シフトさせると共に、送信周波数下降期間の周波数スペクトルを自車速に基づくドップラシフト量だけ負方向に周波数シフトさせることによって、自車速に相当する相対速度の静止物体で反射して発生した周波数シフトを、送信周波数上昇期間と送信周波数下降期間とで等しい周波数成分に置換することができる。したがって、このレーダ装置1によれば、送信周波数上昇期間の受信IF信号と送信周波数下降期間の受信IF信号との差分演算を行うことによって、静止物体で反射した信号成分を低減して、移動物体の反射した信号成分を検出することができ、移動物体の検出効率を向上させることができる。
【0041】
したがって、このレーダ装置1によれば、例えば静止物体と移動物体とが多く混在する市街地を低速で走行している場合や停止している場合のように、壁等の側方に存在する不要な静止物体からの受信波の検出頻度が高くなる場合であっても、自車両に接近するように移動する移動物体の検出が困難となる状況を抑制することができる。
【0042】
また、このレーダ装置1によれば、自車両が低速走行をしている場合や停止している場合には、受信IF信号の差分演算を行って移動物体を効率良く検出する一方で、自車両が高速走行している場合には、周波数スペクトルのピーク値の変化を検出して静止物体及び移動物体の双方を検出するようにしたので、ACC制御等の物標検出機能に影響を与えることなく、移動物体のみの検出時と、ACC制御時とで信号送出部2を共用することができる。
【0043】
[第2実施形態]
つぎに、第2実施形態に係るレーダ装置1について説明する。なお、上述の第1実施形態と同様の部分については同一符号を付することによりその詳細な説明を省略する。
【0044】
このレーダ装置1は、図7に示すように、信号送出部2から送出する送信波を横方向に走査させるためのビームスキャン部41を設け、当該ビームスキャン部41からの情報を使用して周波数オフセット量算出部42及び物標認識部43を動作させる点で、第1実施形態に係るレーダ装置1とは異なる。
【0045】
ビームスキャン部41は、送信アンテナ13を横方向に回転可能な機構を備え、送信アンテナ13を横方向に回転させることによって、送信アンテナ13の送信波送出範囲を横方向に走査する。そして、ビームスキャン部41は、現在の送信アンテナ13の回転角度に相当する送信アンテナ13の送出方位情報を作成して、周波数オフセット量算出部42及び物標認識部43に出力する。
【0046】
周波数オフセット量算出部42は、ビームスキャン部41からの送出方位情報を入力すると、当該送出方位情報で示される方向に自車両の速度情報をベクトル分解し、送出方位での速度成分を抽出する。そして、周波数オフセット量算出部42は、当該送出方位での速度成分から、自車速に基づくドップラシフト量を算出して、周波数オフセット部34に供給する。これにより、周波数オフセット部34では、供給されたドップラシフト量を用いて、送信周波数上昇期間での受信IF信号の周波数スペクトルを正方向に周波数シフトし、送信周波数下降期間での受信IF信号の周波数スペクトルを負方向に周波数シフトさせて、物標認識部43に出力する。
【0047】
物標認識部43は、周波数オフセット部34から送信周波数上昇期間での周波数スペクトル及び送信周波数下降期間での周波数スペクトルを入力すると、当該周波数スペクトル間の差分演算を行うことによって、送信アンテナ13の送信方位に存在する移動物体を検出することができる。また、この物標認識部43は、ビームスキャン部41からの送信方位情報から、当該送信方位における移動物体の有無及び距離、移動物体の相対速度を求めて、ACC制御部に送信する。
【0048】
このように、第2実施形態に係るレーダ装置1によれば、送信波の送信方位を走査させながら障害物検出を行う場合に、静止物体との相対速度及び移動物体の相対速度が方位によって異なる場合であっても、当該送信方位における静止物体で反射した信号成分を低減させて、移動物体を効率よく検出することができる。すなわち、このレーダ装置1によれば、移動物体を検出する必要がある全ての方位において静止物体での反射による信号成分を低減すると共に、移動物体の検出をより効率よく行うことができる。
【0049】
また、このレーダ装置1によれば、方位によってACC制御等を行う場合や、ACC制御を低速走行時にも行う場合であって送信波の走査範囲を広角化させる必要がある場合であっても、自車両の走行方向と送信方位とが大きく異なることなく、当該送信方位によって異なるドップラシフト量を適切に調整して、静止物体での反射による信号成分を低減すると共に、移動物体の検出をより効率よく行うことができる。
【0050】
[第3実施形態]
つぎに、第3実施形態に係るレーダ装置1について説明する。なお、上述の実施形態と同様の部分については同一符号を付することによりその詳細な説明を省略する。
【0051】
第3実施形態に係るレーダ装置1は、図8に示すように、自車速情報、操舵角情報及び左右車輪速差情報を入力する自車両の移動ベクトルを算出する移動ベクトル算出部51を備えた点で、第2実施形態に係るレーダ装置1とは異なる。
【0052】
移動ベクトル算出部51は、図示しない車速センサからの車速のみならず、運転者のステアリングホイール操作と連動した舵角センサ及び左右の車輪速センサで検出された車輪速情報を使用して、自車両の進行方向を含む移動ベクトルを算出する。この移動ベクトルは、直進方向のみならず、左右に転回移動する方向の移動ベクトルを含んでいる。
【0053】
これにより周波数オフセット量算出部42は、ビームスキャン部41からの送信方位における移動ベクトルから、当該移動ベクトルに応じた自車速のドップラシフト量を求めて周波数オフセット部34に供給する。
【0054】
したがって、物標認識部43では、自車両が左右方向に転回移動する場合であっても、自車速の移動ベクトルを使用して、当該移動ベクトル方向に存在する静止物体で反射した信号成分を低減して、当該移動ベクトル方向に存在する移動物体で反射した信号成分を取り出すことができる。これにより、自車両が直進する場合の以外であっても送出方位毎の自車両の速度成分を正確に算出することができ、交差点等で自車両が転舵動作であるときの静止物体の検出を抑制すると共に、自車両に接近してくる移動物体を効率的に検出することができる。
【0055】
すなわち、レーダ装置1によれば、自車両が転舵している状態では、レーダ装置1の送出方向と自車両の進行方向にズレが生じて、自車速の送出方位における速度成分が誤ったものとなるが、自車両の進行方向の車両中心軸からのズレを考慮して自車速の移動ベクトルを分解して、ドップラシフト量を求めるための自車速に補正を加えることができるので、自車の進行方向の如何によらず、安定した移動物体の検出を行うことができる。
【0056】
[第4実施形態]
つぎに、第4実施形態に係るレーダ装置1について説明する。なお、上述の実施形態と同様の部分については同一符号を付することによりその詳細な説明を省略する。
【0057】
第4実施形態に係るレーダ装置1は、図9に示すように、信号送出部2の分配器12にサーキュレータ61及びビームスキャン部62を接続し、当該ビームスキャン部62に送信アンテナと受信アンテナとを共用とした送受信アンテナ63を接続した点で、上述した実施形態とは異なる。
【0058】
上述した実施形態では送信アンテナの送出方位軸を変更するように構成していたが、この送受信アンテナ63は、例えば送信アンテナと受信アンテナとを同一基板内に形成し、当該基板を横方向に単振動させることによって、送信アンテナと受信アンテナとの共用化、送受信方位の走査を実現する。
【0059】
このようなレーダ装置1は、送受信アンテナ63から送信波を送出する場合には、サーキュレータ61によって分配器12からビームスキャン部62に送信信号を供給させ、送受信アンテナ63によって受信波を受信する場合には、サーキュレータ61から信号受信部3に受信信号を供給する切換処理を行う。これにより、レーダ装置1は、送受信アンテナ63を送受信共用として動作させる。
【0060】
また、レーダ装置1は、上述の第2及び第3実施形態と同様に、ビームスキャン部62から周波数オフセット量算出部64及び物標認識部65に送信方位情報を供給し、送信波の送信方位に基づいてドップラシフト量を変更して、物標認識部65において送信波の送信方位における移動物体の検出を行う。
【0061】
このように、第4実施形態に係るレーダ装置1によれば、送信アンテナと受信アンテナとを共用した送受信アンテナ63を使用しても、上述したように送信波の送信方位を走査させながら、当該送信方位における移動物体を効率よく検出することができる。
【0062】
なお、上述の実施の形態は本発明の一例である。このため、本発明は、上述の実施形態に限定されることはなく、この実施の形態以外であっても、本発明に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計等に応じて種々の変更が可能であることは勿論である。
【0063】
すなわち、上述したレーダ装置1では、送信波の送出方向を自車両前方であるとして説明したが、これに限らず、自車両後方や自車両側方であっても上述した効果を発揮するのは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明を適用した第1実施形態に係るレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明を適用した第1実施形態に係るレーダ装置において受信波から移動物体のみを検出する処理を説明するための図であって、(a)は三角波信号の強度変化、(b)は送信波の周波数変化、(c)は受信波の周波数変化、(d)は受信IF信号の周波数変化を示す図である。
【図3】本発明を適用した第1実施形態に係るレーダ装置において静止物体で反射した受信波を用いた処理を説明するための図であって、(a)は三角波信号の強度変化、(b)は送信波の周波数変化、(c)は受信波の周波数変化、(d)は受信IF信号の周波数変化を示す図である。
【図4】自車両が停止した状態で静止物体からの受信波を受信した場合の受信IF信号の周波数スペクトルを示す図である。
【図5】自車両が停止した状態で移動物体からの受信波を受信した場合の受信IF信号の周波数スペクトルを示す図である。
【図6】移動物体の移動速度が既知である場合、図5に示した受信IF信号の周波数スペクトルに対し、送信周波数上昇期間の周波数スペクトル及び送信周波数下降期間の周波数スペクトルに周波数シフトさせた場合を説明するための図である。
【図7】本発明を適用した第2実施形態に係るレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【図8】本発明を適用した第3実施形態に係るレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【図9】本発明を適用した第4実施形態に係るレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0065】
1 レーダ装置
2 信号送出部
3 信号受信部
4 信号処理部
11 VCO
12 分配器
13 送信アンテナ
21 受信アンテナ
22 ミキサ回路
23 増幅アンプ
31 三角波発生部
32 FFT処理部
33,42,64 周波数オフセット量算出部
34 周波数オフセット部
35,43,65 物標認識部
41,62 ビームスキャン部
51 移動ベクトル算出部
61 サーキュレータ
63 送受信アンテナ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
三角波信号の強度変化に従って周波数変調を施して、送信周波数上昇期間と送信周波数下降期間とを含む送信信号を送出する送信手段と、
前記送信手段から送出された送信信号が物体に反射し、当該反射した送信信号を受信信号として受信し、当該受信信号と前記送信信号との周波数差を示す周波数差信号を生成する受信手段と、
前記受信手段により生成した周波数差信号を用いて、前記自車両の周囲の移動物体を検出する信号処理手段とを備え、
前記信号処理手段は、
前記周波数差信号の周波数スペクトルを算出する周波数解析手段と、
前記自車両の速度情報を入力して、当該自車両速度に応じた周波数シフト量を算出する周波数オフセット量算出手段と、
前記送信周波数上昇期間の前記周波数スペクトルを前記周波数シフト量だけ正方向にオフセットさせると共に、前記送信周波数下降期間の前記周波数スペクトルを前記周波数シフト量だけ負方向にオフセットさせる周波数オフセット手段と、
前記周波数オフセット手段によって正方向にオフセットされた周波数スペクトルと、前記周波数オフセット手段によって負方向にオフセットされた周波数スペクトルとを差分演算して得られる周波数スペクトルに基づいて、移動物体を検出する物標認識手段と
を備えることを特徴とする移動物体検出装置。
【請求項2】
前記送信手段は、前記送信信号の送信方位を走査させる送信方位走査手段を備え、
前記周波数オフセット手段は、前記送信方位走査手段による前記送信信号の送信方位における前記自車両の速度成分を算出して、当該算出した速度成分に応じた周波数シフト量を算出すること
を特徴とする請求項1に記載の移動物体検出装置。
【請求項3】
前記周波数オフセット手段は、前記自車両の移動方向を検出し、当該自車両の移動方向に基づいて前記送信信号の送信方位における前記自車両の速度成分を補正して、周波数シフト量を算出することを特徴とする請求項2に記載の移動物体検出装置。
【請求項4】
前記信号処理手段は、前記自車両速度が高い場合には前記周波数オフセット手段による周波数スペクトルのオフセットをさせずに、前記物標認識手段によって前記送信周波数上昇期間の周波数スペクトルと前記送信周波数下降期間の周波数スペクトルとの差分演算を行い、前記自車両速度が低い場合又は停止している場合には前記周波数オフセット手段によりオフセットされた周波数スペクトルを用いて差分演算を行うことを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れかに記載の移動物体検出装置。
【請求項5】
前記周波数オフセット量算出手段は、前記自車両と静止物体との相対速度に起因して発生する前記送信信号と前記受信信号との周波数シフト量を打ち消すような周波数シフト量を算出することを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れかに記載の移動物体検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−38687(P2006−38687A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−220233(P2004−220233)
【出願日】平成16年7月28日(2004.7.28)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】