説明

移動目標検出装置

【課題】移動目標の検出性能の低下を抑えて、移動目標の検出及び速度推定を実施することができる移動目標検出装置を得る。
【解決手段】プラットフォームの移動方向に分割可能な開口を持つアンテナを用いて取得された2つの受信信号をそれぞれ格納するデータ格納部1、2と、データ格納部1、2に格納されたレーダ画像2枚分の受信信号についてそれぞれ距離方向に圧縮するレンジ圧縮処理部10A、10Bと、2つのレンジ圧縮後のデータをもとに移動目標を検出する移動目標検出部20と、検出された移動目標の各観測時刻におけるアンテナとの距離から目標速度を推定する目標速度粗推定部50とを設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、アンテナの移動方向に開口を分割したアンテナを用いて取得されたPRI分だけずれた2枚のレーダ画像を用いて、移動目標の検出及びその移動速度を推定する移動目標検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レーダでは一般に指向性を有するアンテナから電磁波を放射し、目標からの散乱波を観測する。この時、目標からの反射波と同時に地表面からの不要反射(クラッタ)が観測されるため、反射の小さな目標を検出することは容易ではない。そこで、例えば移動目標を観測する場合には、ドップラー効果を利用してクラッタを抑圧し、移動目標を検出する方法が用いられる。
【0003】
ところが、レーダプラットフォームが移動する場合には、アンテナビームの角度方向の広がりに応じてクラッタのドップラー周波数が拡がるため、低速で移動する目標の信号とクラッタの信号の分別が困難になる。そこで、アンテナ開口をアンテナの移動方向に分割して、連続する2パルス間で等価的にアンテナが静止している状況を作り出し、クラッタからの信号を抑圧する技術が考案されている。
【0004】
図13は、従来の移動目標検出装置の観測ジオメトリを示す図である。図13において、移動目標1000と、ビームのフットプリント1001と、送受信アンテナ1002と、レーダプラットフォーム1003とが示されている。
【0005】
なお、ここでは、レーダプラットフォーム1003の進行方向とアンテナ開口面は平行で、ビームはアンテナ開口面に垂直である場合を仮定して説明する。また、2次元平面を仮定して動作を説明するが、これらの仮定を満足しない場合においても、容易に拡張して考えることが可能である。
【0006】
図10は、従来の移動目標検出装置の構成を示すブロック図である(例えば、非特許文献1参照)。
【0007】
図10において、一定回数分観測して得られた各アジマス時刻における受信アンテナの第1のアンテナ開口により取得された受信パルスを格納しているデータ格納部1と、一定回数分観測して得られた各アジマス時刻における受信アンテナの第2のアンテナ開口で得られた受信パルスを格納しているデータ格納部2と、データ格納部1に格納されているデータを画像再生する画像再生処理部100Aと、データ格納部2に格納されているデータを画像再生する画像再生処理部100Bと、画像再生された2枚のレーダ画から移動目標を検出するSAR−GMTI(Synthetic Aperture Radar - Ground Moving Target Indication)処理部200と、SAR−GMTI処理により検出された移動目標の速度を算出する目標速度算出処理部300と、検出された移動目標とその移動速度を格納する出力データ格納部3とが設けられている。
【0008】
図11は、従来の移動目標検出装置のSAR−GMTI処理部の構成を示すブロック図である。
【0009】
図11において、SAR−GMTI処理部200は、2枚のレーダ画像の差分または複素相関を算出する複素データ差分または複素相関処理部201と、この複素データ差分または複素相関処理部201で算出された結果を基に閾値処理により移動目標を検出する閾値処理部202とにより構成されている。
【0010】
図12は、従来の移動目標検出装置の目標速度算出処理部の構成を示すブロック図である。
【0011】
図12において、目標速度算出処理部300は、SAR−GMTI処理部200において検出された移動目標について2枚のレーダ画像間の位相差を算出する位相差算出処理部301と、この位相差算出処理部301で算出された位相差を基に移動目標の移動速度を算出する目標速度算出部302とにより構成される。
【0012】
次に、従来の移動目標検出装置の動作について説明する。
【0013】
従来の移動目標検出装置においては、図14に示すように、動作するアンテナを用いて受信された信号を処理することで、移動目標を検出する。第1の送信パルス(1パルス目)は電気的位相中心1007aで送信され1008aで受信されるため、送受の電気的位相中心は中間点1004とみなすことができる。
【0014】
同様に、第2の送信パルス(2パルス目)は1007bで送信され1008bで受信されるので、送受の電気的位相中心は中間点1004とみなすことができる。以上から、第1のアンテナ開口で受信されるデータと第2のアンテナ開口で受信されるデータの電気的位相中心は中間点1004で等価的に同一とみなすことができる。このため、第1の送信パルスと第2の送信パルスによる観測は、空間的に静止した位置1004から行なわれたものとみなすことが可能となる。
【0015】
このような観測を一定回数繰り返して取得された2つの受信信号をデータ格納部1及びデータ格納部2にそれぞれ蓄積する。蓄積されたそれぞれの信号を画像再生処理部100A、100Bへ送り2枚分のレーダ画像を再生する。なお、その原理や手順は合成開口レーダの画像再生処理として広く知られたものである。
【0016】
上記手順により再生された2枚のレーダ画像は、図14で説明したように、空間的には同一の位置から観測されたレーダ画像ではあるが、観測した時刻が1パルス間隔分ずれていることが特徴となる。すなわち、地表面の静止目標(この場合クラッタ)は、2つの画像再生処理の結果に置いて同一の信号として現れる。一方、移動目標の反射波はパルス間に移動した分の位相回転が生じる。
【0017】
この特性を利用して、図11の複素データ差分または複素相関処理部201において2枚のレーダ画像の差分または複素相関を算出すると、クラッタと移動目標の信号に差異が生じることが期待される。例えば、クラッタの信号が完全に第1のアンテナで取得したデータと第2のアンテナで取得したデータが一致している場合、複素データの差分は原点に分布する。また、複素相関を算出した結果は実軸上に分布する。一方、移動目標の信号は差分及び複素相関処理に関わらず複素平面上に現れる。この特性を利用することで移動目標の検出を実施する。
【0018】
しかし、樹木などが風の影響で揺らぐことや受信機の熱雑音などにより受信信号の振幅や位相が変動することがある。このため、同一位置からクラッタを観測した場合においても完全に同一な信号を受信することが困難である場合がある。例えば、第1のアンテナにより取得された信号の画像再生結果と第2のアンテナで取得された信号の画像再生結果の差分を算出した場合、クラッタ成分が完全に一致しているのであれば原点に分布することになるが、上記の理由でクラッタ信号についても複素平面上に分布することになる。この様子を図15に示す。
【0019】
図11の閾値処理部202は、図15の分布に対してある閾値1009(Pth)を設けて移動目標を検出する。閾値1009の設定においては、2枚のレーダ画像間の位相差及び移動目標とクラッタの信号の強度比(SCR:Signal to Clutter Ratio)を2つの変数として、次の式(1)において与えられた誤警報確率Pfaの下で検出確率が最大となる閾値Pthを算出する。
【0020】
【数1】

【0021】
なお、p(η,Ψ)はクラッタの複素平面上での確率密度分布を与える式である。ηは受信信号の振幅で、Ψは位相角である。図15の複素平面上の各信号1010の確率密度が、算出された閾値1009(Pth)以下であれば移動目標として検出する。
【0022】
【非特許文献1】C.H.Gierull,“Statistical Analysis of Multilook SAR Interferograms for CFAR Detection of Ground Moving Targets”,IEEE Trans.GRS vol.42, no.4, pp691 - 701, 2004.
【非特許文献2】Sharma, J.; Gierull, C. & Collins, M, “The influence of target acceleration on velocity estimation in dual-channel SAR-GMTI,” IEEE Trans. Geosci. Remote Sens., vol. 44, no. 1, pp. 134 - 147, Jan. 2006
【非特許文献3】C.B.Chang and J.A.Tabaczynski,“Application of state estimation to target tracking,” IEEE Trans. Autom.Control, vol.29, no.2, pp.98-108, Feb. 1984.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
従来の移動目標検出装置は、画像再生処理に用いるパラメータ設定を静止目標として処理していた。このため、移動目標についても同様のパラメータを用いて画像再生処理による画像再生を実施した場合、移動目標の画像再生結果は移動目標が位置する本来の位置からアジマス方向にシフトした、ぼけた画像が再生される。これは、静止目標と移動目標のドップラー周波数の違いによりレンジマイグレーション処理が精度良く行なわれないことと、相関積分に用いる参照信号とミスマッチにより、合成開口処理を実施する上で十分なコヒーレント積分が実施されないことが原因である。特に、移動目標のぼけは受信強度によるものであり移動目標と周辺クラッタとのSCRの低下の原因となる。このため、移動目標と周辺クラッタのSCRと2枚の画像間の位相差をもとに閾値処理による移動目標を検出する移動目標検出装置においては、移動目標と周辺クラッタのSCRが低下するため移動目標の検出性能が低下するという問題点があった。
【0024】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、その目的は、移動目標の検出性能の低下を抑えて、移動目標の検出及び速度推定を実施することができる移動目標検出装置を得るものである。
【課題を解決するための手段】
【0025】
この発明に係る移動目標検出装置は、プラットフォームの移動方向に分割可能な開口を持つアンテナを用いて取得された2つの受信信号をそれぞれ格納する第1及び第2のデータ格納部と、前記第1及び第2のデータ格納部に格納されたレーダ画像2枚分の受信信号についてそれぞれ距離方向に圧縮する第1及び第2のレンジ圧縮処理部と、2つのレンジ圧縮後のデータをもとに移動目標を検出する移動目標検出部と、検出された移動目標の各観測時刻におけるアンテナとの距離から目標速度を推定する目標速度粗推定部とを設けたものである。
【発明の効果】
【0026】
この発明に係る移動目標検出装置は、移動目標の検出性能の低下を抑えて、移動目標の検出及び速度推定を実施することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
実施の形態1.
この発明の実施の形態1に係る移動目標検出装置について図1及び図2を参照しながら説明する。図1は、この発明の実施の形態1に係る移動目標検出装置の構成を示すブロック図である。なお、各図中、同一符号は同一又は相当部分を示す。
【0028】
図1において、この発明の実施の形態1に係る移動目標検出装置は、一定回数分観測して得られた各アジマス時刻における受信アンテナの第1のアンテナ開口により取得された受信パルスを格納しているデータ格納部(第1のデータ格納部)1と、一定回数分観測して得られた各アジマス時刻における受信アンテナの第2のアンテナ開口で得られた受信パルスを格納しているデータ格納部(第2のデータ格納部)2と、受信アンテナの第1のアンテナ開口より受信された受信パルスと参照信号との相関処理により距離分解能を向上させるレンジ圧縮処理部(第1のレンジ圧縮処理部)10Aと、受信アンテナの第2のアンテナ開口より受信された受信パルスと参照信号との相関処理により距離分解能を向上させるレンジ圧縮処理部(第2のレンジ圧縮処理部)10Bと、レンジ圧縮処理部10(10A、10B)でレンジ圧縮処理された2枚分のデータをもとに移動目標を検出する移動目標検出部20と、移動目標検出部20において検出された移動目標の各アジマス時刻におけるレンジの軌跡を基に移動目標の移動速度(目標速度)を推定する目標速度粗推定部50と、検出された移動目標とその移動速度を格納する出力データ格納部3とが設けられている。
【0029】
図2は、この発明の実施の形態1に係る移動目標検出装置の移動目標検出部の構成を示すブロック図である。
【0030】
図2において、移動目標検出部20は、第1のアンテナ開口で受信されたレンジ圧縮処理後の複素データと第2のアンテナ開口で受信されたレンジ圧縮処理後の複素データの差分を算出する複素データ差分処理部21と、図15の分布に対してある閾値を設けて移動目標を検出する閾値処理部22とが設けられている。
【0031】
つぎに、この実施の形態1に係る移動目標検出装置の動作について図面を参照しながら説明する。
【0032】
レンジ圧縮処理部10では、受信アンテナにより受信されたパルスと参照信号との相関処理を以下の式(2)に基づいて実施する。
【0033】
【数2】

【0034】
ここで、E(t,τ)は、レンジ圧縮後の受信パルス信号を示す。E(t,τ)は、受信アンテナにより取得した受信パルスを示し、E(τ)は、参照信号を表す。なお、tはアジマス時刻であり、τはレンジ方向の観測時刻である。
【0035】
移動目標検出部20では、2枚分の受信データの差分を算出して閾値処理することで移動目標を検出する。なお、この移動目標検出部20の詳細な処理については後述する。
【0036】
目標速度粗推定部50では、移動目標検出部20において検出された移動目標の各アジマス時刻における移動目標とアンテナとの距離の軌跡とこの軌跡の理論式との比較をする。この理論式は、非特許文献2で導出されているような、次の式(3)で表されているものを用いる。
【0037】
【数3】

【0038】
ここで、Rは、アンテナの真横に移動目標が存在するときのアンテナと移動目標の距離を示す。同様に、Vrngは、移動目標のレンジ方向の速度、Vazは移動目標のアジマス方向の速度、arngは、移動目標のレンジ方向の加速度、aazは、移動目標のアジマス方向の加速度を示す。
【0039】
また、θは、オフナディア角、Vsatは、プラットフォームの速度である。式(3)の移動目標の速度に関するパラメータを変化させて算出される理論値と移動目標の軌跡の比較から最も類似している理論値の各パラメータを移動目標として決定する。
【0040】
なお、移動目標の各アジマス時刻におけるアンテナとの距離を表す式として式(3)を用いたが、これに限るものではなく、アンテナと移動目標の各アジマス時刻での距離を示すものであれば他の式を用いてもよい。また、類似の指標としては、理論値と観測値の相関値や差分の最小値など2つの値の類似性を示すことの出来る値であればその種類は問わない。さらに、この理論値は予め理論値をデータベースとして保有することで想定される移動目標の速度のパラメータを変化させて計算する処理を低減させることが可能である。
【0041】
レンジ圧縮処理部10でレンジ圧縮処理された各アンテナ開口のデータをそれぞれER1、ER2とする。なお、ER1及びER2は共に複素データである。ER1及びER2は、図14で説明したように動作するアンテナにより得られたデータであるので、静止目標(クラッタ)から観測される受信データは同じとみなすことができる。一方、移動目標は1パルス分の観測時間差があるため受信データに差異が生じる。この特性を利用して、移動目標検出部20の複素データ差分処理部21は、次の式(4)のようにER1とER2の差分を算出する。
【0042】
【数4】

【0043】
算出された複素差分データをもとに、閾値処理部22によりある検出確率のもとで移動目標を検出する。すなわち、複素差分データが閾値以下であれば、移動目標として検出する。
【0044】
実施の形態2.
上記の実施の形態1においては、移動目標の速度の推定結果は位置情報のみを用いているため、分解能程度の誤差が生じる。
【0045】
そこで、この発明の実施の形態2では、移動目標と判別されたデータと移動目標の速度を推定して式(3)から得られる移動目標の各観測時刻における位置でのデータの理論値との相関処理により位相レベルでの速度推定を実施し、より詳細な速度情報を推定する。
【0046】
この発明の実施の形態2に係る移動目標検出装置について図3を参照しながら説明する。図3は、この発明の実施の形態2に係る移動目標検出装置の構成を示すブロック図である。
【0047】
図3において、この発明の実施の形態2に係る移動目標検出装置は、データ格納部1と、データ格納部2と、レンジ圧縮処理部10(10A、10B)と、移動目標検出部20と、式(3)から算出される移動目標の速度に応じた各観測アジマス時刻における移動目標の位置の軌跡から算出される位相情報を有する参照関数と、移動目標検出部20で移動目標と判定されたデータとの相関処理により移動目標の移動速度を詳細に推定する目標速度精推定部70と、出力データ格納部3とが設けられている。
【0048】
つぎに、この実施の形態2に係る移動目標検出装置の動作について図面を参照しながら説明する。
【0049】
移動目標検出部20において、移動目標と検出された移動目標のデータDPCAと移動目標の速度を推定して式(3)から算出される式(4)の理論値DPCAとの相関処理を考えられる移動目標の各速度に応じて式(5)のように実施する。なお、推定した移動目標の速度から算出される理論値DPCAについては、予め算出し、データベースに蓄えて、必要に応じてデータベースからデータを読み出すことで計算時間を低減することが可能となる。
【0050】
【数5】

【0051】
式(5)の結果に対して最大となる移動目標の速度が移動目標の速度として決定する。以上のように、移動目標の速度推定を、予め推定して得られる移動目標の各観測時間における位置の理論値から得られる参照関数との相関処理を実施することで位相オーダでのマッチング処理が実施できるのでより詳細な移動目標の速度推定が可能となる。
【0052】
実施の形態3.
上記の実施の形態2では、移動目標の詳細な速度を推定するために移動目標の速度を推定した速度を用いて式(3)から得られる各観測時刻における移動目標の理論的な位置を算出し、その結果から算出される参照信号との相関処理を実施するため、より詳細な移動目標の速度を推定する場合には、推定する移動目標の速度を考えられる全ての範囲で実施する必要がある。
【0053】
そこで、この実施の形態3では、目標速度精推定部70の前処理として推定速度入力部30を実施する。
【0054】
この発明の実施の形態3に係る移動目標検出装置について図4を参照しながら説明する。図4は、この発明の実施の形態3に係る移動目標検出装置の構成を示すブロック図である。
【0055】
図4において、この発明の実施の形態3に係る移動目標検出装置は、データ格納部1と、データ格納部2と、レンジ圧縮処理部10(10A、10B)と、移動目標検出部20と、目標速度精推定部70で推定する移動目標のとりうる範囲を使用者が入力することで設定する推定速度入力部30と、目標速度精推定部70と、出力データ格納部3とが設けられている。
【0056】
つぎに、この実施の形態3に係る移動目標検出装置の動作について図面を参照しながら説明する。
【0057】
推定速度入力部30では、目標速度精推定部70で推定する移動目標の速度とその範囲±ΔVを使用者がキーボードなどの外部入力装置を用いて入力することで設定する。なお、値の入力の順番や方法については、これらの値が設定できるのであればその種類は問わない。また、予め入力される値をデータベースに蓄えておき番号などで選択する方式でも構わない。
【0058】
これにより、目標速度精推定部70において推定する移動目標の速度をある範囲に絞ることが可能となるため、移動目標の速度推定に要する負荷を低減することが可能となる。
【0059】
実施の形態4.
上記の実施の形態3では、目標速度の詳細な推定に移動目標の詳細な速度を推定するために仮定する移動目標の速度の範囲を絞り込むために使用者が入力していた。
【0060】
そこで、この実施の形態4では、目標速度粗推定部50において推定した移動目標の速度の結果を基に目標速度精推定部70で推定する移動目標の速度の範囲を決定する。
【0061】
この発明の実施の形態4に係る移動目標検出装置について図5を参照しながら説明する。図5は、この発明の実施の形態4に係る移動目標検出装置の構成を示すブロック図である。
【0062】
図5において、この発明の実施の形態4に係る移動目標検出装置は、データ格納部1と、データ格納部2と、レンジ圧縮処理部10(10A、10B)と、移動目標検出部20と、目標速度粗推定部50と、この目標速度粗推定部50で推定された移動目標の速度情報を基に目標速度精推定部70で推定する移動目標の速度の範囲を設定する推定速度設定部60と、目標速度精推定部70と、出力データ格納部3とが設けられている。
【0063】
つぎに、この実施の形態4に係る移動目標検出装置の動作について図面を参照しながら説明する。
【0064】
推定速度設定部60では、目標速度粗推定部50において推定された移動目標の移動速度を基に、ある範囲±ΔVについて移動目標の速度を自動的に設定する。
【0065】
これにより、目標速度精推定部70において推定する移動目標の速度の絞り込みを予め設定することなく適応的に設定することができる。
【0066】
実施の形態5.
上記の実施の形態4では、移動目標の検出を2枚の位相差及び移動目標と周辺クラッタのSCRにより、予め設定した検出確率に基づいて実施している。このため、後方散乱断面積の大きい静止目標についても移動目標と誤って検出される可能性がある。
【0067】
そこで、この実施の形態5では、移動目標と判定された目標について速度推定結果から閾値処理を実施して、移動目標の検出性能を向上する。
【0068】
この発明の実施の形態5に係る移動目標検出装置について図6を参照しながら説明する。図6は、この発明の実施の形態5に係る移動目標検出装置の構成を示すブロック図である。
【0069】
図6において、この発明の実施の形態5に係る移動目標検出装置は、データ格納部1と、データ格納部2と、レンジ圧縮処理部10(10A、10B)と、移動目標検出部20と、目標速度粗推定部50と、推定速度設定部60と、目標速度精推定部70と、目標速度精推定部70において推定された移動目標の速度について予め設定した閾値以下の速度を有する目標については静止目標と判断する閾値再処理部80と、出力データ格納部3とが設けられている。
【0070】
つぎに、この実施の形態5に係る移動目標検出装置の動作について図面を参照しながら説明する。
【0071】
閾値再処理部80は、目標速度精推定部70において推定された移動目標の速度について予め設定した閾値以下の速度を有する目標については静止目標と判断する。なお、閾値再処理部80については、図1の目標速度粗推定部50、図3の目標速度精推定部70、図4の目標速度精推定部70の後の処理としてもよい。
【0072】
この発明の実施の形態5の移動目標検出装置を用いることで、受信強度の高いクラッタ領域においても精度良く移動目標の検出が可能となる。
【0073】
実施の形態6.
上記の実施の形態5においては、移動目標の各アジマス時刻におけるアンテナとの距離の軌跡が複数目標で交差しないことを前提としている。
【0074】
この実施の形態6では、これら移動目標の軌跡を追尾することで交差した軌跡の分離を図る方式である。
【0075】
この発明の実施の形態6に係る移動目標検出装置について図7を参照しながら説明する。図7は、この発明の実施の形態6に係る移動目標検出装置の構成を示すブロック図である。
【0076】
図7において、この発明の実施の形態6に係る移動目標検出装置は、データ格納部1と、データ格納部2と、レンジ圧縮処理部10(10A、10B)と、移動目標検出部20と、移動目標検出部20の出力結果において得られる複数の移動目標の各アジマス時刻におけるアンテナとの距離の軌跡についてそれぞれ時刻変化に応じた位置を基に移動目標の軌跡を追尾する追尾処理部40と、目標速度粗推定部50と、推定速度設定部60と、目標速度精推定部70と、閾値再処理部80と、出力データ格納部3とが設けられている。
【0077】
つぎに、この実施の形態6に係る移動目標検出装置の動作について図面を参照しながら説明する。
【0078】
追尾処理部40では、移動目標検出部20の出力結果において得られる複数の移動目標の各アジマス時刻におけるアンテナとの距離の軌跡についてそれぞれ時刻変化に応じた位置を基に移動目標の軌跡を追尾する。これにより複数の目標が交差している場合においても、それぞれの移動目標に分離する。
【0079】
この追尾処理部40の動作原理、手順などについては、例えば非特許文献3に記されているような良く知られている追尾処理を適用し、移動目標の各観測アジマス時刻における移動目標の軌跡を追尾できる能力を有していればよく、その種類は問わない。
【0080】
なお、上記の実施の形態2において追尾処理を実施する情報として移動目標の位置情報のみではなく速度などを仮定して追尾処理することで、移動目標の速度を推定することも可能である。
【0081】
また、移動目標の速度及び位置情報による各観測アジマス時刻における移動目標の軌跡を予めデータとして蓄えておくことで追尾処理による計算の負荷を低減させることも可能である。
【0082】
さらに、追尾処理部40は、上記の実施の形態1から実施の形態5までの種類に関係なく移動目標検出部20の後段処理として使用することで、全ての形態においても適用することが可能である。
【0083】
実施の形態7.
この実施の形態7では、移動目標検出部20で移動目標を判定するデータについて、各観測時間方向についてフーリエ変換を実施する。
【0084】
この発明の実施の形態7に係る移動目標検出装置について図8及び図9を参照しながら説明する。図8は、この発明の実施の形態7に係る移動目標検出装置の構成を示すブロック図である。
【0085】
図8おいて、この発明の実施の形態7に係る移動目標検出装置は、データ格納部1と、データ格納部2と、レンジ圧縮処理部10(10A、10B)と、各観測時間に取得された受信パルス列のデータについて、観測時間方向にフーリエ変換するフーリエ変換演算部(第1及び第2のフーリエ変換演算部)90(90A、90B)と、移動目標検出部20と、目標速度粗推定部50と、出力データ格納部3とが設けられている。
【0086】
つぎに、この実施の形態7に係る移動目標検出装置の動作について図面を参照しながら説明する。
【0087】
フーリエ変換演算部90は、各観測時間に取得された受信パルス列のデータについて、観測時間方向にフーリエ変換する。
【0088】
これにより、図9(a)及び(b)に示すように観測時間の中心に同一距離に位置する目標901及び902をレンジドップラー領域において同一のデータ903として扱うことが可能となる。
【0089】
なお、フーリエ変換演算部90は、移動目標検出部20の前で処理すればよく、上記の実施の形態1によらず本発明の全ての実施の形態で実施することが可能である。
【0090】
これにより、取得した全画素分のデータについて移動目標の検出処理を実施することなく移動目標を検出することができるため、計算負荷などを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】この発明の実施の形態1に係る移動目標検出装置の構成を示すブロック図である。
【図2】この発明の実施の形態1に係る移動目標検出装置の移動目標検出部の構成を示すブロック図である。
【図3】この発明の実施の形態2に係る移動目標検出装置の構成を示すブロック図である。
【図4】この発明の実施の形態3に係る移動目標検出装置の構成を示すブロック図である。
【図5】この発明の実施の形態4に係る移動目標検出装置の構成を示すブロック図である。
【図6】この発明の実施の形態5に係る移動目標検出装置の構成を示すブロック図である。
【図7】この発明の実施の形態6に係る移動目標検出装置の構成を示すブロック図である。
【図8】この発明の実施の形態7に係る移動目標検出装置の構成を示すブロック図である。
【図9】この発明の実施の形態7に係る移動目標検出装置のレンジドップラー領域におけるデータを示す図である。
【図10】従来の移動目標検出装置の構成を示すブロック図である。
【図11】従来の移動目標検出装置のSAR−GMTI処理部の構成を示すブロック図である。
【図12】従来の移動目標検出装置の目標速度算出処理部の構成を示すブロック図である。
【図13】従来の移動目標検出装置の観測ジオメトリを示す図である。
【図14】従来の移動目標検出装置の送受信動作を示す図である。
【図15】複素平面上の信号の確率密度分布を示す図である。
【符号の説明】
【0092】
1 データ格納部、2 データ格納部、3 出力データ格納部、10A レンジ圧縮処理部、10B レンジ圧縮処理部、20 移動目標検出部、21 複素データ差分処理部、22 閾値処理部、30 推定速度入力部、40 追尾処理部、50 目標速度粗推定部、60 推定速度設定部、70 目標速度精推定部、80 閾値再処理部、90A フーリエ変換演算部、90B フーリエ変換演算部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラットフォームの移動方向に分割可能な開口を持つアンテナを用いて取得された2つの受信信号をそれぞれ格納する第1及び第2のデータ格納部と、
前記第1及び第2のデータ格納部に格納されたレーダ画像2枚分の受信信号についてそれぞれ距離方向に圧縮する第1及び第2のレンジ圧縮処理部と、
2つのレンジ圧縮後のデータをもとに移動目標を検出する移動目標検出部と、
検出された移動目標の各観測時刻におけるアンテナとの距離から目標速度を推定する目標速度粗推定部と
を備えたことを特徴とする移動目標検出装置。
【請求項2】
プラットフォームの移動方向に分割可能な開口を持つアンテナを用いて取得された2つの受信信号をそれぞれ格納する第1及び第2のデータ格納部と、
前記第1及び第2のデータ格納部に格納されたレーダ画像2枚分の受信信号についてそれぞれ距離方向に圧縮する第1及び第2のレンジ圧縮処理部と、
2つのレンジ圧縮後のデータをもとに移動目標を検出する移動目標検出部と、
検出された移動目標の各観測時刻における位置の軌跡から算出される参照信号を用いて目標速度を推定する目標速度精推定部と
を備えたことを特徴とする移動目標検出装置。
【請求項3】
前記目標速度精推定部で推定する移動目標のとりうる範囲を入力する推定速度入力部をさらに備えた
ことを特徴とする請求項2記載の移動目標検出装置。
【請求項4】
プラットフォームの移動方向に分割可能な開口を持つアンテナを用いて取得された2つの受信信号をそれぞれ格納する第1及び第2のデータ格納部と、
前記第1及び第2のデータ格納部に格納されたレーダ画像2枚分の受信信号についてそれぞれ距離方向に圧縮する第1及び第2のレンジ圧縮処理部と、
2つのレンジ圧縮後のデータをもとに移動目標を検出する移動目標検出部と、
検出された移動目標の各観測時刻におけるアンテナとの距離から目標速度を推定する目標速度粗推定部と、
前記目標速度粗推定部で推定された移動目標の速度情報を基に後段で推定する移動目標の速度の範囲を設定する目標速度設定部と、
検出された移動目標の各観測時刻における位置の軌跡から算出される参照信号を用いて目標速度を推定する目標速度精推定部と
を備えたことを特徴とする移動目標検出装置。
【請求項5】
推定された移動目標の速度について予め設定した閾値以下の速度を有する目標については静止目標と判断する閾値再処理部をさらに備えた
ことを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれかに記載の移動目標検出装置。
【請求項6】
前記移動目標検出部の出力結果において得られる複数の移動目標の各アジマス時刻におけるアンテナとの距離の軌跡についてそれぞれ時刻変化に応じた位置を基に移動目標の軌跡を追尾する追尾処理部をさらに備えた
ことを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれかに記載の移動目標検出装置。
【請求項7】
各観測時間に取得され圧縮された受信パルス列のデータについて、観測時間方向にそれぞれフーリエ変換する第1及び第2のフーリエ変換演算部をさらに備えた
ことを特徴とする請求項1から請求項6までのいずれかに記載の移動目標検出装置。
【請求項8】
前記移動目標検出部は、
第1のアンテナ開口で受信されたレンジ圧縮処理後の複素データと第2のアンテナ開口で受信されたレンジ圧縮処理後の複素データの差分を算出する複素データ差分処理部と、
算出した差分に対して所定の閾値を設けて移動目標を検出する閾値処理部とを有する
ことを特徴とする請求項1から請求項7までのいずれかに記載の移動目標検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2009−236720(P2009−236720A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−83899(P2008−83899)
【出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】