説明

移動相供給装置及びその移動相供給装置を用いた液体クロマトグラフ

【課題】
グラジエントの立ち上がりを改善する。
【解決手段】
2種類の移動相A,Bをそれぞれ送液する送液部6,8は、送液ポンプ10,14の下流に逆流も感知できる実流量測定部12,16が設けられ、制御装置13,17がそれぞれの実流量測定部12,16の流量測定値がそれぞれの送液流路2,4の設定流量と一致するようにそれぞれの送液ポンプ10,14の駆動を調整する。設定流量がゼロの場合に実流量測定部12又は16が逆流を感知すれば、逆流を防ぐように対応する送液ポンプ10,14が駆動される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、それぞれの移動相を送液するための送液ポンプを備えた複数の送液流路、前記複数の送液流路を合流させて移動相を混合するミキサ、及び設定流量に基づいて前記各送液ポンプの駆動を制御する制御装置を備えて組成を調節しながら移動相を供給する高圧グラジエント方式の移動相供給装置と、その移動相供給装置を用いた高速液体クロマトグラフを含む液体クロマトグラフに関するものである。
【背景技術】
【0002】
図4に従来の高圧グラジエント方式の移動相供給装置を備えた液体クロマトグラフを示す。
移動相A,Bを送液するための送液流路2,4上にそれぞれの送液ポンプ10,14が設けられている。送液ポンプ10,14はモータの回転数を制御することによって送液量を調節する。送液流路2,4はミキサ18で合流しており、ミキサ18は移動相AとBを混合して分析流路20に送液するようになっている。分析流路20にはインジェクタ(試料注入部)22を介して分離カラム24が設けられ、カラム24の下流に検出器26が設けられている。
【0003】
インジェクタ22から注入された試料は、ミキサ18で混合された移動相により分離カラム24に導かれて成分ごとに分離され、分離された試料成分は検出器26で検出される。
送液ポンプ10及び14は制御装置19aによってそれぞれの送液量が制御され、所定の送液プログラムに沿って送液量が変化させられる。
【0004】
このような液体クロマトグラフで、例えば、図5(A)に示されるように、移動相A液を100%、移動相B液を0%という送液状態から分析を開始し、徐々に移動相A液の濃度を減らし、移動相B液の濃度を増やしていき、最終的に移動相A液を0%、移動相B液を100%に変化させることで、カラム24での試料の保持力を変化させながら分析していくような方法はグラジエント分析法と呼ばれている。特に、このように、複数の送液ポンプを用いて、送液ポンプの下流側で複数の移動相を合流させるグラジエント方式は、高圧グラジエント方式と呼ばれている(例えば、特許文献1参照。)。なお、図5で、縦軸のA,BはそれぞれA液100%、B液100%を示している。横軸は時間である。
【特許文献1】特開2003−98166号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば図4の構成において、分析開始前の移動相A液が100%、移動相B液が0%という送液状態や、分析終了時に移動相A液が0%、移動相B液が100%という送液状態の場合、2台の送液ポンプ10,14のうち、移動相が0%となる側の送液ポンプは駆動を停止しているのが従来の移動相供給装置である。そして、通常のグラジエント分析では、分析開始前には分析開始前の状態(この場合、移動相A液が100%、移動相B液が0%という送液状態)を暫くの時間にわたって維持させて、カラム24内の状態を安定させる。
【0006】
分析開始前の状態を移動相A液が100%、移動相B液が0%とすると、分析開始前の状態に維持されているとき、停止している側の送液ポンプ14の気密が完全に保てるわけではないので、送液している側の移動相A液が送液ポンプ14の方へ押し出されて逆流する現象が起こる。逆流量が多いと、分析を開始して送液装置14が送液を始めても、逆流した分は移動相B液が送られないので、図5(B)に示されるように、グラジエントの立ち上がりが悪くなり、その結果正しい分析ができないという問題が生じる。これは分析開始前の状態が移動相B液100%、移動相A液0%であっても全く同じである。
【0007】
本発明は、グラジエントの立ち上がりに関するそのような問題を解決した高圧グラジエント方式の移動相供給装置と、その移動相供給装置を用いた液体クロマトグラフを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の移動相供給装置では、それぞれの移動相を送液するための送液ポンプを備えた複数の送液流路で送液ポンプの下流に逆流も感知できる実流量測定部を設け、設定流量がゼロの送液流路において逆流を感知したときは、それを打ち消すように送液ポンプを駆動するようにしたことを特徴とするものである。
設定流量がゼロの送液流路においても移動相の逆流が感知されたときは、逆流に打ち勝つための微量な送液動作が行なわれる。
【0009】
本発明の液体クロマトグラフは、本発明の移動相供給装置を備え、その移動相供給部から移動相が供給される分析流路において移動相供給部の下流に設けられた試料注入部と、試料注入部の下流に設けられ注入された試料を成分ごとに分離する分離カラムと、分離カラムで分離された各成分を検出する検出器とを備えている。
【発明の効果】
【0010】
本発明の移動相供給装置においては、各送液流路の実流量測定部で逆流も感知できるようにして、設定流量がゼロの送液流路においても逆流が感知されたときは送液ポンプを駆動して逆流を防ぐことができるようにしたので、送液停止中の送液流路でも移動相の逆流を防ぐことができ、それによりグラジエントの立ち上がりが改善される。
【0011】
本発明の液体クロマトグラフにおいては、移動相供給装置として本発明のものを備えているので、移動相の逆流が防止されてグラジエントの立ち上がりが改善され、正確な分析を行なうことができる。特に、移動相の送液流量が非常に少なく、逆流の影響が大きいμL/分やnL/分といったミクロLC(液体クロマトグラフ)やナノLCで、本発明の効果が大きく現れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に本発明における移動相供給装置を備えた液体クロマトグラフの一実施例を図面を参照して説明する。
図1はその液体クロマトグラフを示す流路図である。この実施例において用いているグラジエント方式の移動相供給装置は、A液とB液の2種類の移動相を混合して送液するものであるが、本発明はこれに限定されるものではなく、3種類以上の移動相を混合して送液するグラジエント方式の移動相供給装置にも同様に適用できる。
【0013】
2種類の移動相A,Bはそれぞれの送液流路2,4によってミキサ18に送液されて混合される。A液を送液する送液流路2上には送液部6が設けられており、B液を送液する送液流路4上には送液部8が設けられている。
【0014】
送液部6は、送液ポンプ10と、送液ポンプ10によって送液される実際の送液流量を測定するために送液ポンプ10の下流に設けられた実流量測定部12と、設定流量に基づいて送液ポンプ10の駆動を制御する制御装置13とを備えている。送液機構8も同じ構成であり、送液ポンプ14と、送液ポンプ14によって送液される実際の送液流量を測定するために送液ポンプ14の下流に設けられた実流量測定部16と、設定流量に基づいて送液ポンプ14の駆動を制御する制御装置17とを備えている。
【0015】
実流量測定部12,16は逆流も感知できるものである。制御装置13,17はそれぞれの送液流路2,4の流量が設定流量となるようにそれぞれの送液ポンプ10,14の駆動を調整するものである。
【0016】
送液ポンプ10,14は駆動用モータが回転することによって、液体を送液する。送液ポンプ10,14は、例えばプランジャ往復動型のポンプであり、駆動用モータに接続されたカムと、そのカムの外周に端部が当接して往復運動するプランジャと、プランジャが往復運動することで移動相の吸入と吐出を行なうポンプヘッドとを備えている。送液ポンプ10,14の送液量はモータの回転数によって決定される。
【0017】
逆流も感知できる実流量測定部12,16として、例えば流路の中央をヒータで加熱し、その上流側と下流側の温度勾配を測定することで流量を測定する方式のもの、又は流路内に小さな水車を組み込み、その水車の回転速度を測定することで流量を測定する方式のものなど、種々の方式のものがあるが、いずれの方式のものも使用することができる。
【0018】
19は流量設定部であり、グラジエント分析のためのグラジエントプログラムに従ったリ、ユーザによる直接設定などによって各送液流路2,4の制御装置13,17にそれぞれの設定流量を設定する。
【0019】
ミキサ18で混合された移動相を送液して分析するための分析流路20上には、試料を分析流路20に注入するためのインジェクタ(試料注入部)22が設けられ、インジェクタ22の下流にはインジェクタ22から注入された試料を成分ごとに分離する分離カラム24が設けられ、分離カラム24の下流には分離カラム24で分離されて溶出する試料成分を検出する検出器26が設けられている。
【0020】
送液部6,8をさらに詳細に図2に示す。送液部6と8は同じ構成をしているので、送液部6のみを詳細に示し、送液部8は1つのブロックとしてのみ示す。
送液ポンプ10はポンプヘッド10aと、ポンプヘッド10aを駆動する駆動用モータ10bとを備えている。ポンプヘッド10aからの移動相流路に実流量測定部12が設けられている。
【0021】
13aは実流量演算部であり、実流量測定部12からの信号を取り込み、流量を計算する。13bは送液制御部であり、流量設定部19の設定値に基づいてモータ制御部13cでモータ10の回転数を制御する。モータ制御部13cが駆動用モータ10bの回転を制御することで、所定流量の移動相がポンプヘッド10aにより送液される。
【0022】
制御部13は実流量演算部13a、送液制御部13b及びモータ制御部13cを含んでいる。制御部17の構成も同じである。
制御部13,17及び流量設定部19はCPUなどにより構成される。この実施例では送液流路2,4にそれぞれの制御部を設けているが、制御部13と17を1つにしたり、さらに流量設定部19も含めて1つのCPUで実現するようにし、それぞれの送液流路2,4のための機能をそれぞれのプログラムにより実現するようにしてもよい。
【0023】
制御部13による流量制御を図3に示す。
送液制御部13bは流量設定部19での設定値を取り込み、設定流量がゼロでない場合にはモータ制御部13cを介して駆動用モータ10bをその設定値に対応した回転数で回転させる。その回転数に応じてポンプから移動相が送液される。
【0024】
流量設定部19でこの送液流路2の流量がゼロに設定された場合、駆動用モータ10bの回転を停止させる。このとき、実際の流量がゼロとなっているかどうかを実流量測定部12で確認する。実流量測定部12は逆流を検出することができるようになっている。その送液流路2の実流量測定部12では、それがヒータ加熱による温度勾配を測定する機構であれば温度勾配が通常送液と反対になれば逆流と推定でき、それが微小水車の機構であれば回転方向が通常送液と反対になれば逆流と推定できる。このようにして実流量演算部12が逆流と判定すると送液制御部13bに逆流であることが伝えられる。送液制御部13bはモータ制御部13cにより、逆流量に打ち勝つ分のモータ回転数を駆動用モータ10bへ与える。実流量を測定しながら、実流量がゼロとなるまでモータ回転数が調整され、実流量がゼロとなるところで駆動用モータ10bの回転数が維持される。
【0025】
他方の送液部8においても全く同様にして、送液ポンプ14の駆動用モータ(図示は省略)の回転数が制御され、設定流量に応じた送液ポンプ14の駆動用モータの駆動と、設定流量ゼロ時の逆流が防止される。
このように、流量制御の機構は閉ループで作動しているため、フィードバック制御によって逆流もなく、また送液もしない状態をつくることができる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の移動相供給装置は移動相の組成を変化させながら分析を行なう高圧グラジエント方式の液体クロマトグラフに利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】一実施例の液体クロマトグラフの構成を示す流路図である。
【図2】同実施例における移動相供給装置を示すブロック図である。
【図3】同実施例の動作を示すフローチャート図である。
【図4】従来の液体クロマトグラフを示す流路図である。
【図5】グラジエント動作における移動相組成変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0028】
2,4 送液流路
6,8 送液部
10,14 送液ポンプ
12,16 実流量測定部
13,17 制御装置
13a 実流量演算部
13b 送液制御部
13c モータ制御部
18 ミキサ
19 流量設定部
20 分析流路
22 インジェクタ
24 分離カラム
26 検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれの移動相を送液するための送液ポンプを備えた複数の送液流路、前記複数の送液流路を合流させて移動相を混合するミキサ、及び設定流量に基づいて前記各送液ポンプの駆動を制御する制御装置を備えて組成を調節しながら移動相を供給する高圧グラジエント方式の移動相供給装置において、
前記各送液流路で送液ポンプの下流に逆流も感知できる実流量測定部を設け、
前記制御装置は設定流量がゼロの送液流路において逆流を感知したときは、それを打ち消すように送液ポンプを駆動するようにしたことを特徴とする移動相供給装置。
【請求項2】
請求項1に記載の移動相供給装置と、
前記移動相供給部から移動相が供給される分析流路において前記移動相供給部の下流に設けられた試料注入部と、
前記試料注入部の下流に設けられ注入された試料を成分ごとに分離する分離カラムと、
前記分離カラムで分離された各成分を検出する検出器と、
を備えた液体クロマトグラフ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−266975(P2006−266975A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−87803(P2005−87803)
【出願日】平成17年3月25日(2005.3.25)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)