説明

移動端末および通信方法

【課題】 基地局から送信される情報を基地局と直接通信できない端末に中継する際に、電波利用効率が良く、かつ、遅延の小さい通信を提供する。
【解決手段】 移動端末は所定の間隔で存在通知メッセージを送信し、他の移動端末に自端末の存在を通知する。存在通知メッセージを受信した移動端末は、送信元の移動端末を記憶する。また、基地局から定期的に送信される信号(ビーコン)を受信した際に、基地局信号受領メッセージを送信し、他の移動端末に対し自端末が基地局の通信可能エリア内にいることを通知する。基地局信号受領メッセージを受信した移動端末は、送信元の移動端末を記憶する。基地局からの配信データを受信した移動端末は、上記記憶した移動端末に基づいて配信データを中継するか否かを決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基地局から送信される情報を、基地局と直接通信できない端末に中継する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
道路に設置された無線装置(基地局)と、道路を通行中の車両に搭載された車載端末との間で、交通情報などを送受信する路車間通信が行われている。この路車間通信では、車両は基地局と通信可能な範囲に位置しなければならないが、基地局の通信可能エリアは限られている。そして、道路上の全ての場所で基地局と通信可能にするように基地局を設置することは経済的にも困難である。
【0003】
一方、車両に搭載された車載端末同士で通信を行う車車間通信が現在開発段階にある。そこで、基地局からの情報を受信した車両が、その情報を他の車両へ中継送信することで、基地局と直接通信できない車両に対しても情報を配信することが可能となる。
【0004】
この中継を行う方法として、基地局からの通信を受信した全ての車両が中継送信する方法がある。この方法はフラッディングと呼ばれている。しかし、この方法では、基地局からの電波が届かない車両が存在するか否かや、その位置などを考慮することなく全ての車両が中継送信するので、過剰な中継により無線帯域が消費されてしまう。また、隣接する車載端末同士で電波の不要干渉が起こりやすく、電波の利用効率が著しく劣化するという問題があった。
【0005】
この問題を回避する中継方法として、特許文献1に記載の技術が知られている。すなわち、無線パケットを受信した端末はそれぞれ、中継送信する前にランダムな時間、受信モードに入り待機する。そして、この待機時間内に他の端末が中継したパケットを受信した場合には、中継送信を中止する。待機時間内に他の端末が中継したパケットを受信しない場合には、中継送信を実行する。これにより、ネットワーク内の不要な通信を少なくし、電波の利用効率を改善することが可能となる。
【特許文献1】特開2003−218886号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のような従来技術の場合には、次のような問題が生じていた。すなわち、基地局からの無線パケットを中継する際に、待機時間が経過してから中継を行っているため、中継が遅れてしまうという問題がある。これは、車両などのような高速で移動している端末に対して、緊急を要する情報を送信しようとする場合などに、特に問題となる。また、上記方法では、中継する必要がない端末が中継してしまうという問題もあった。
【0007】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、基地局から送信される情報を基地局と直接通信できない端末に中継する際に、電波利用効率が良く、かつ、遅延の小さい通信を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係る移動端末は、基地局および他の移動端末と通信が可能な移動端末であって、基地局から送信されるデータ(配信データ)を受信し、そのデータを、基地局の通信可能エリア外に位置する移動端末に中継する。基地局と移動端
末間の無線方式と、移動端末同士の無線方式は同じであっても異なっていても良い。また、使用される無線方式はどのような無線方式であっても構わない。
【0009】
本発明に係る移動端末は、基地局信号受領メッセージ送信手段と、基地局エリア内端末記憶手段と、存在通知メッセージ送信手段と、隣接端末記憶手段と、中継決定手段を有する。
【0010】
基地局は、自局の存在を移動端末に通知する信号を定期的に送信している。この信号は、自局の存在を示す制御情報のみを含む信号であっても良く、上記配信データ(ペイロード)を含む信号であっても良い。基地局信号受領メッセージ送信手段は、この基地局から送信された信号を受信したときに、基地局からの信号を受信したことを他の移動端末へ通知する基地局信号受領メッセージを送信する。基地局信号受領メッセージには、送信元の端末を識別できる識別子が含まれる。
【0011】
基地局エリア内端末記憶手段は、他の移動端末から送信された基地局信号受領メッセージを受信したときに、送信元の移動端末を、基地局の通信可能エリア内の端末として記憶する。具体的には、基地局信号受領メッセージに含まれる送信端末の識別子を記憶することなどにより行えばよい。
【0012】
存在通知メッセージ送信手段は、他の移動端末に対して自端末の存在を通知する存在通知メッセージを、所定の時間間隔で送信する。存在通知メッセージを送信する時間間隔は、基地局が定期的に送信する信号と重ならないように設定されていることが好ましい。存在通知メッセージには、送信元の端末を識別できる識別子が含まれる。
【0013】
隣接端末記憶手段は、他の移動端末から送信された存在通知メッセージを受信したときに、送信元の移動端末を、自端末と直接通信可能な端末として記憶する。具体的には、存在通知メッセージに含まれる送信端末の識別子を記憶することなどにより行えばよい。
【0014】
中継決定手段は、基地局から受信したデータを中継するか否かを、隣接端末記憶手段によって記憶された移動端末と、基地局エリア内端末記憶手段によって記憶された移動端末とに基づいて決定する。すなわち、中継決定手段は、自端末と直接通信可能な移動端末と、基地局と直接通信可能な移動端末とに基づいて、中継するか否かを決定する。
【0015】
このように、基地局信号受領メッセージを利用して基地局と直接通信可能な移動端末を把握し、存在通知メッセージを利用して自端末と直接通信可能な移動端末を把握することで、自端末の周囲に中継を必要とする移動端末が存在するか否かが判断できる。したがって、基地局からのデータを受信した中継端末は、周囲に中継を必要とする移動端末が存在しないときは中継を行わなくなるので、電波の利用効率を高めることが可能となる。また、中継判断の際に、待機時間を設けずに判断するため、遅延の小さい中継が可能となる。
【0016】
また、本発明における中継決定手段は、隣接端末記憶手段によって記憶された移動端末の中に、基地局エリア内端末記憶手段によって記憶されていない移動端末が存在する場合に、基地局から受信したデータを中継すると決定することが好ましい。すなわち、中継決定手段は、基地局と直接通信できない移動端末が、自端末と通信可能な範囲にいる場合に、基地局から受信したデータを中継すると決定する。これにより、周囲に中継を必要とする移動端末が存在しないときは、中継を行わなくなるので電波の利用効率を高めることが可能となる。
【0017】
この際、中継決定手段は、自端末と直接通信可能な移動端末の中に、基地局と直接通信できない移動端末が、所定の数以上ある場合に、基地局から受信したデータを中継すると
決定しても良い。こうすることで、基地局の通信可能エリアの端部付近にある移動端末が中継送信することになり、中継送信する移動端末の数を減らすことができ、したがって、より効率的な通信が可能となる。
【0018】
また、本発明における中継決定手段は、隣接端末記憶手段によって記憶された移動端末の数と、基地局エリア内端末記憶手段によって記憶された移動端末の数との差に基づいて、基地局から受信したデータを中継するか否か決定してもよい。基地局エリア内端末記憶手段によって記憶された移動端末、すなわち基地局信号受領メッセージを受信した端末からは、通信エラーがない限り、存在通知メッセージも受信できる。つまり、基地局エリア内端末記憶手段によって記憶された移動端末の集合は、隣接端末記憶手段によって記憶された移動端末の集合の部分集合となる。したがって、両記憶手段によって記憶されている移動端末の数の差を比較するだけで、「自端末と直接通信可能であるが、基地局とは直接通信可能ではない移動端末の数」を求めることができ、処理が容易になる。ここで、中継決定手段は、上記差が1以上のときに中継すると決定しても良いし、上記差が所定の閾値以上のときに中継すると決定しても良い。
【0019】
本発明に係る移動端末は、電波の到来方位を判別可能なアンテナを有することが好ましい。この場合、隣接端末記憶手段は、受信した存在通知メッセージの送信元の端末を、この存在通知メッセージの到来方位とともに、自端末と直接通信可能な端末として記憶する。すなわち、隣接端末記憶手段は、自端末と直接通信可能な端末を、その端末が存在する方位と合わせて記憶する。
【0020】
そして、中継決定手段は、隣接端末記憶手段によって記憶されていて、かつ、基地局からのデータの到来方位と反対方位に位置する移動端末の中に、基地局エリア内端末記憶手段によって記憶されていない移動端末が存在する場合に、基地局から受信したデータを中継すると決定する。自端末よりも基地局に近い移動端末は、基地局の通信可能エリア内にあるので、データを中継する必要はない。したがって、中継を必要とする端末は、自端末よりも基地局から遠い位置の端末、すなわち基地局からのデータの到来方向と反対方向に位置する移動端末のみである。よって、自端末よりも基地局から遠い位置の移動端末に基づいて中継判断をすることで、より電波利用効率の良い中継をすることが可能となる。特に、自端末よりも基地局に近い移動端末からの基地局信号受領メッセージが、何らかの理由により自端末で受信できなかったときでも、精度の高い中継判断をすることが可能である。
【0021】
本発明における中継決定手段は、さらに、基地局エリア内端末記憶手段によって記憶された移動端末が、基地局からのデータの到来方位にのみ存在する場合に、基地局から受信したデータを中継すると決定することが好ましい。すなわち、基地局の方位と反対方向に、基地局と直接通信可能な移動端末が存在する場合には、基地局から受信したデータを中継しないことが好ましい。こうすることで、基地局の通信可能エリア内に位置する移動端末のうち、通信可能エリア端部の移動端末が中継送信することになり、電波利用効率の良い中継が可能となる。
【0022】
本発明は、また、上記移動端末を備えた車両として構成されても良い。
【0023】
本発明に係る通信方法は、基地局から送信されるデータを受信し、そのデータを、基地局の通信可能エリア外に位置する移動端末に中継する通信方法である。本発明に係る通信方法は、基地局から送信された信号を受信したときに、基地局からの信号を受信したことを他の移動端末へ通知する基地局信号受領メッセージを送信するステップと、他の移動端末から送信された基地局信号受領メッセージを受信したときに、送信元の移動端末を、基地局の通信可能エリア内の端末として記憶するステップと、他の移動端末に対して自端末
の存在を通知する存在通知メッセージを所定の時間間隔で送信するステップと、他の移動端末から送信された存在通知メッセーを受信したときに、送信元の移動端末を、自端末と直接通信可能な端末として記憶するステップと、基地局から受信したデータを中継するか否かを、記憶した自端末と直接通信可能な移動端末と、記憶した基地局の通信可能エリア内の移動端末とに基づいて決定するステップとを含む。
【0024】
本発明は、上記通信方法を移動端末に実行させるためのプログラムとして構成されても良い。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、基地局から送信される情報を基地局と直接通信できない端末に中継する際に、電波利用効率を良くし、かつ、遅延を少なくすることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下に図面を参照して、この発明の好適な実施の形態を例示的に詳しく説明する。本実施形態では、道路に設置された路側機(基地局)と、車両に搭載された移動端末の間で行う路車間通信を、移動端末間で中継することによって基地局の通信可能エリアを実質的に拡大する例を挙げる。
【0027】
<システム概要>
図1は、本実施形態における基地局および車両の構成例を示す図である。車両A,B,Cは基地局13と直接通信可能なエリア(通信可能エリア)14の中に位置しているため、基地局13と直接通信することができる。一方、車両D,Eは直接は基地局と通信することができない。
【0028】
なお、路車間および車車間で行われる無線通信方式は、同じ方式であっても異なる方式であっても良い。具体的な通信方式としては、IEEE802.11xや802.16や802.20およびDSRC(Dedicated Short Range Communication)などが考えられるが、その他の方式であっても構わない。
【0029】
基地局13は、定期的にビーコンと呼ばれる自局の存在を移動端末に通知するための信号を発信している。この信号には、基地局13を識別するための識別子が含まれる。なお、基地局13が定期的に発信する信号は、ビーコンすなわち制御情報のみを含む信号である必要はなく、配信データを含む信号であっても構わない。
【0030】
また、各車両は車両間で定期的にローカルビーコンと呼ばれる信号(存在通知メッセージ)を送信している。このローカルビーコンによって、各車両はその時点で直接通信することのできる車両を把握することが可能である。
【0031】
<システム構成>
図2は、本実施形態における車両の機能ブロック図である。車両1は、移動端末2を備えている。移動端末2は、アンテナ3、通信制御部4、記録部5を含む。
【0032】
アンテナ3は、路車間通信用と車車間通信用で異なるアンテナを使用しても良いし、一つのアンテナを兼用しても良い。ここで、アンテナ3は前方および後方に指向性を有しており、電波の到来方向が前方であるか後方であるか判別することができる。アンテナ3は、例えば、八木アンテナやホーンアンテナなど一方向に指向性を有するアンテナを前向きおよび後向きに1つずつ備えたもので構成可能である。
【0033】
通信制御部4は、補助記憶装置に格納されたプログラムをCPU(中央処理装置)が実
行することにより、実現される。通信制御部4は、基地局信号受領メッセージ送信部6、基地局エリア内端末記録部7、存在通知メッセージ送信部8、隣接端末記録部9、中継決定部10を含む。各部の処理内容については、後ほど詳細に説明する。
【0034】
記録部5は、RAM(Random Access Memory)から成り、基地局エリア内端末テーブル11および隣接端末テーブル12を含む。基地局エリア内端末テーブル11は、基地局の通信可能エリア内に位置する移動端末を記憶するテーブルであり、隣接端末テーブル12は、自端末と直接通信可能な移動端末(隣接端末)を記憶するテーブルである。ここでは、両テーブルを異なるものとして図示したが、1つのテーブルでまとめて記憶しても構わない。なお、各テーブルの構成は後述する。
【0035】
<メッセージ交換処理>
次に、図を用いて通信制御部4が行う処理を説明する。まず、図3を用いて、基地局信号受領メッセージ送信部6、基地局エリア内端末記録部7の処理を説明する。
【0036】
基地局13からビーコンが送信され、そのビーコンがアンテナ3aを通じて移動端末2aに受信される(ステップS101)。基地局信号受領メッセージ送信部6aは、ビーコンの受信を検知すると、このビーコンを受信したことを他の移動端末に通知するために基地局信号受領メッセージを送信する(ステップS102)。この基地局信号受領メッセージには、MAC(Media Access Control)アドレスなどの自端末の識別子が格納される。
【0037】
基地局信号受領メッセージは、移動端末2aのアンテナ3aを通じて送信され、移動端末2aと直接通信可能な位置にある移動端末2bによって受信される(ステップS103)。移動端末2bは、基地局信号受領メッセージを受信すると、基地局エリア内端末記録部7bがそのメッセージに格納されている送信元の移動端末2aの識別子を取得し、基地局エリア内端末テーブル11bに格納する(ステップS104,S105)。
【0038】
このように、各移動端末は、基地局からの信号に応答して基地局信号受領メッセージを交換することによって、基地局の通信可能エリア内に位置する移動端末を把握することができる。
【0039】
次に、図4を用いて、存在通知メッセージ送信部8および隣接端末記録部9の処理を説明する。
【0040】
移動端末2aの存在通知メッセージ送信部8aは定期的に、自端末の存在を周囲の端末に通知するための存在通知メッセージを送信する(ステップS201)。この存在通知メッセージには、MACアドレスなどの自端末の識別子が格納される。
【0041】
移動端末2aのアンテナ3aから送信された存在通知メッセージは、移動端末2bのアンテナ3bによって受信される(ステップS202)。移動端末2bが存在通知メッセージを受信すると、移動端末2bの隣接端末記録部9bはそのメッセージに格納されている送信元の移動端末2aの識別子を取得し、隣接端末テーブル12bに格納する(ステップS203、S204)。この際、存在通知メッセージの到来方向をアンテナ3bにより判別できるので、この到来方向すなわち送信元の端末である移動端末2aの位置する方向も同時に隣接端末テーブル12bに格納する。
【0042】
このように、各移動端末は、定期的に存在通知メッセージを交換することによって、周囲に存在する直接通信可能な移動端末を把握することができる。また、その移動端末の存在する方向も把握することができる。
【0043】
<テーブル構成>
次に、基地局エリア内端末テーブル11および隣接端末テーブル12に構成について説明する。ここでは、基地局および車両の位置関係が図1の状態にあるとして説明する。
【0044】
図5(a)は図1の状態での各車両が有する隣接端末テーブルの例である。図1では、車両A,B,Cの3台が基地局の通信可能エリア14(以下、基地局エリアという)に位置する。また、各車両は等間隔に並んでおり、それぞれ前方の2車両および後方の2車両と通信可能であるとする。すなわち、車両Aは車両B,Cと通信可能である。同様に、車両Bは車両A,C,Dと、車両Cは車両A,B,D,Eと、車両Dは車両B,C,Eと、車両Eは車両C,Dとそれぞれ通信可能である。これらの車両間では、存在通知メッセージが交換される。したがって、隣接端末テーブル12は図5(a)に示すようになる。各車両は、存在通知メッセージの到来方向が判別できるので、各隣接端末の存在方向を隣接端末テーブル12に格納する。
【0045】
図5(b)は図1の状態での各車両が有する基地局エリア内端末テーブルの例である。車両A,B,Cは基地局13からビーコンを受信すると基地局信号受領メッセージを送信する。車両Aからのメッセージは、車両B,Cによって受信される。車両Bからのメッセージは、車両A,C,Dによって受信される。車両Cからのメッセージは、車両A,B,D,Eによって受信される。したがって、基地局エリア内端末テーブル11は図5(b)に示すようになる。
【0046】
なお、図5では隣接端末テーブル12と基地局エリア内端末テーブル11をそれぞれ異なるテーブルとして管理した場合を図示したが、両テーブルを1つのテーブルで管理しても良い。この場合は、図6で示すようなテーブルとなる。存在通知メッセージを受信したときに、送信元の移動端末がテーブルに隣接端末として記憶されていなかったら、基地局エリア外の隣接端末として記憶する。そして、基地局信号受領メッセージを受信したときに、その送信元の端末を基地局エリア内に位置すると記憶する。なお、存在通知メッセージを受信する前に、基地局信号受領メッセージを受信した場合は、送信元の端末を基地局エリア内に位置する隣接端末として新しく記憶すればよい。
【0047】
<中継判断処理>
次に、図7を用いて移動端末2が基地局13から配信データを受信したときの処理を説明する。基地局13から送信された配信データは、基地局13の通信可能エリア内に位置する移動端末2によって受信される(ステップS301)。通信制御部4が、受信したデータを、中継する必要がありうるデータと判断すると、受信したデータを中継決定部6に渡す(ステップS302)。中継決定部6は、記録部5の基地局エリア内端末テーブル11および隣接端末テーブル12を参照して、配信データを中継するか否かを決定する(ステップS303)。中継決定部6は、中継すると決定した場合には、アンテナ3を通じて中継する(ステップS304)。
【0048】
ステップS303における中継判断の処理を、図8のフローチャートを用いて説明する。まずステップS401で、隣接端末のうちに、基地局エリア外の端末があるか調べる。隣接端末がない、もしくは、全ての隣接端末が基地局エリア内にある場合には、ステップS404に進み中継しないと決定する。隣接端末のうちに、基地局エリア外に位置する端末がある場合には、ステップS402に進む。ステップS402では、自端末の後方に位置する隣接端末の全てが基地局エリア外であるか調べる。全てが基地局エリア外に位置している場合は、ステップS403に進み中継すると決定する。自端末の後方に基地局エリア内に位置している隣接端末がある場合には、ステップS404に進み中継しないと決定する。
【0049】
具体的に、基地局および車両の配置が図1の状態にある場合を例にとって、実際の中継判断を詳細に説明する。基地局13からの配信データを受信できる車両は通信可能エリア14内に位置する車両A,B,Cの3台である。ここで、各車両は図6のように、隣接端末テーブル12と基地局エリア内端末テーブル11を1つのテーブルとして保持している。
【0050】
車両Aの隣接端末(車両B,C)は、全てが基地局エリア内にいるため、車両Aは中継する必要がないと判断する(ステップS401でNO)。
【0051】
車両Bの隣接端末(車両A,C,D)のうち、車両Dは基地局エリア内ではない(ステップS401でYES)。しかし、車両Bの後方に位置する車両のうち、車両Cは基地局エリア内にいるため、車両Cが中継すればよいので車両Bは中継する必要がない(ステップS402でNO)。したがって、車両Bは中継しないと判断する。
【0052】
車両Cの隣接端末(車両A,B,D,E)のうち、車両D,Eは基地局エリア内ではない(ステップS401でYES)。そして、自端末の後方には基地局エリア内位置する端末は存在しない(ステップS402でYES)。つまり、車両Cは基地局エリア内に位置する車両のうち、最後方に位置する車両であることが分かる。したがって、車両Cは基地局13から配信された配信データを中継すると決定する。
【0053】
<作用・効果>
このように、存在通知メッセージを利用して各移動端末は自端末と直接通信可能な移動端末を把握し、基地局信号受領メッセージを利用して基地局の通信可能エリア内に位置する移動端末を把握する。その際に、存在通知メッセージの到来方向を検知することで、隣接端末の存在する方向も把握する。基地局から配信データを受信したときに、これらの情報に基づいて、基地局エリア内に位置する移動端末のうち最後方に位置する移動端末が中継送信することができ、したがって、電波の利用効率の良い中継を実現することができる。また、中継の際に待機時間を設ける必要もなく遅延の小さい中継が可能である。
【0054】
さらに、上記の中継判断処理においては、自端末の後方にある隣接端末のみに着目して中継判断を行っている。つまり、自端末の前方(基地局と同じ方向)に位置する隣接端末が基地局エリア外にあったとしても、それは考慮されない。自端末の前方に位置する(自端末より基地局に近い)にもかかわらず基地局エリア外である、つまりその端末からの基地局信号受領メッセージを受信できないということは、通信エラーが起きたためと考えられる。このように、メッセージ交換の際に通信エラーが起きた場合でも、その影響を受けずに精度の高い中継判断処理を行うことが可能である。
【0055】
<変形例>
上記中継判断では、基地局エリア内の最後方に位置する1台の車両のみが中継する方法を取っていた。しかしながら、通信エラーなどがあることを考えると、中継車両を1台にすることは確実性に欠けるとも考えられる。そこで、配信データを受信した移動端末は、自端末の後方に基地局エリア外の移動端末が存在し、かつ、自端末の後方に基地局エリア内の移動端末がN台以下しか存在しない場合に中継すると判断しても良い。図1の状況でN=1とすると、車両BおよびCの2台が中継することになる。N=0とすると、上記実施形態における中継判断処理となる。
【0056】
この方法によると、電波の利用効率は多少下がるが、中継の確実性が向上する。Nの値は、電波の到達距離と車両の分布密度の関係や、電波の利用効率と実現したい中継の確実性の関係などを考慮して設計することが好ましい。
【0057】
上記の実施形態では、移動端末2のアンテナ3は電波の到来方位を判別可能なアンテナであるとしていたが、それは本発明に必須ではない。すなわち、アンテナ3が電波の到来方位を判別することができなくてもよい。その場合、図1の状況における、隣接端末テーブル12および基地局エリア内端末テーブル11は、図9のようになり隣接端末が自端末の前方または後方にいずれに位置するかの情報は持たない。
【0058】
この場合、中継決定部6は、隣接端末のうち基地局エリア外に位置する端末の数が所定値以上の場合に中継すると決定しても良い。所定値を2にした場合は、車両Cのみが中継することになり、所定値を1にした場合は車両B,Cが中継することになる。また、隣接端末に占める基地局エリア外の端末の割合が所定値以上の場合に中継すると決定しても良い。例えば、所定値を1/2とした場合は車両Cのみが中継することになり、所定値を1/3として場合には車両B,Cが中継することになる。これらの所定値は、電波の到達距離と車両の分布密度の関係や、電波の利用効率と実現したい中継の確実性の関係などを考慮して設計することが好ましい。
【0059】
また、上記実施形態では、基地局13は路側に固定された路側機である例を取り上げたが、基地局13は、例えば車両に搭載された無線機など、移動するものであっても構わない。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本実施形態における、基地局と車両の構成例を示す図である。
【図2】本実施形態における、移動端末の構成を示すブロック図である。
【図3】本実施形態における、基地局から信号(ビーコン)を受信したときの処理を示す図である。
【図4】本実施形態における、存在通知メッセージ送信時の処理を示す図である。
【図5】本実施形態における、隣接端末テーブルと基地局エリア内端末テーブルの例を示す図である。
【図6】本実施形態における、隣接端末テーブルと基地局エリア内端末テーブルの例を示す図である。
【図7】本実施形態における、基地局から配信データを受信したときの処理を示す図である。
【図8】本実施形態における、中継判断の処理を示す図である。
【図9】本実施形態における、隣接端末テーブルと基地局エリア内端末テーブルの例を示す図である。
【符号の説明】
【0061】
1,A,B,C,D,E 車両
2 移動端末
3 アンテナ
4 通信制御部
5 記録部
6 基地局信号受領メッセージ送信部
7 基地局エリア内端末記録部
8 存在通知メッセージ送信部
9 隣接端末記録部
10 中継決定部
11 基地局エリア内端末テーブル
12 隣接端末テーブル
13 基地局
14 通信可能エリア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基地局から送信されるデータを受信し、そのデータを、基地局の通信可能エリア外に位置する移動端末に中継する移動端末であって、
前記基地局から送信された信号を受信したときに、該信号を受信したことを他の移動端末へ通知する基地局信号受領メッセージを送信する基地局信号受領メッセージ送信手段と、
他の移動端末から送信された前記基地局信号受領メッセージを受信したときに、送信元の移動端末を、前記基地局の通信可能エリア内の端末として記憶する基地局エリア内端末記憶手段と、
他の移動端末に対して自端末の存在を通知する存在通知メッセージを、所定の時間間隔で送信する存在通知メッセージ送信手段と、
他の移動端末から送信された前記存在通知メッセージを受信したときに、送信元の移動端末を、自端末と直接通信可能な端末として記憶する隣接端末記憶手段と、
前記基地局から受信したデータを中継するか否かを、前記隣接端末記憶手段によって記憶された移動端末と、前記基地局エリア内端末記憶手段によって記憶された移動端末とに基づいて決定する中継決定手段と、
を有する移動端末。
【請求項2】
前記中継決定手段は、前記隣接端末記憶手段によって記憶された移動端末の中に、前記基地局エリア内端末記憶手段によって記憶されていない移動端末が存在する場合に、前記基地局から受信したデータを中継すると決定する
ことを特徴とする請求項1に記載の移動端末。
【請求項3】
前記中継決定手段は、前記隣接端末記憶手段によって記憶された移動端末の数と、前記基地局エリア内端末記憶手段によって記憶された移動端末の数との差に基づいて、前記基地局から受信したデータを中継するか否か決定する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の移動端末。
【請求項4】
電波の到来方位を判別可能なアンテナを有し、
前記隣接端末記憶手段は、前記存在通知メッセージの送信元の移動端末を、該存在通知メッセージの到来方位とともに、自端末と直接通信可能な端末として記憶し、
前記中継決定手段は、前記隣接端末記憶手段によって記憶されていて、かつ、前記基地局からのデータの到来方位と反対方位に位置する移動端末の中に、前記基地局エリア内端末記憶手段によって記憶されていない移動端末が存在する場合に、前記基地局から受信したデータを中継すると決定する
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の移動端末。
【請求項5】
前記中継決定手段は、前記基地局エリア内端末記憶手段によって記憶された移動端末が、前記基地局からのデータの到来方位にのみ存在する場合に、前記基地局から受信したデータを中継すると決定する
ことを特徴とする請求項4に記載の移動端末。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の移動端末を備えた車両。
【請求項7】
基地局から送信されるデータを受信し、そのデータを、基地局の通信可能エリア外に位置する移動端末に中継する通信方法であって、
前記基地局から送信された信号を受信したときに、該信号を受信したことを他の移動端末へ通知する基地局信号受領メッセージを送信するステップと、
他の移動端末から送信された前記基地局信号受領メッセージを受信したときに、送信元
の移動端末を、基地局の通信可能エリア内の端末として記憶するステップと、
他の移動端末に対して自端末の存在を通知する存在通知メッセージを所定の時間間隔で送信するステップと、
他の移動端末から送信された前記存在通知メッセージを受信したときに、送信元の移動端末を、自端末と直接通信可能な端末として記憶するステップと、
前記基地局から受信したデータを中継するか否かを、前記記憶した自端末と直接通信可能な移動端末と、前記記憶した基地局の通信可能エリア内の移動端末とに基づいて決定するステップと、
を含む通信方法。
【請求項8】
請求項7に記載の通信方法を移動端末に実行させるためのプログラム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2006−311282(P2006−311282A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−132165(P2005−132165)
【出願日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(502087460)株式会社トヨタIT開発センター (232)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】