説明

移動端末間の無線通信方法

【課題】互いに異種バージョンのインターネットプロトコルを採用する移動端末間においても好適に無線通信が可能な移動端末間の無線通信方法を提供する。
【解決手段】移動端末11間の無線通信を実現するため、ネットワーク層とトランスポート層の間に、各移動端末11の現在における位置情報を管理する位置情報管理層を新たに挿入したプロトコルスタックを構成し、移動情報管理層に基づいて当該移動端末11の通信位置に対応した位置指示子を管理するとともに、トランスポート層とそれより上位のアプリケーション層により当該移動端末のIDを管理することにより、上記位置指示子と上記IDとを分離して管理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動端末間の無線通信方法に関し、特に互いに異種バージョンのインターネットプロトコルを採用する移動端末間においても好適に無線通信が可能な移動端末間の無線通信方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インターネットにおいては、インターネットプロトコル(IP)の下、通常パケットを基本単位として相手側にデータを送信する。パケットは、発信元、送信先のIPアドレスに関する情報等が記述されるIPヘッダと、実データが記述されるペイロードとで構成される。IPは、従来より、IPv4(Internet Protocol version 4)と、IPv6(Internet Protocol version 6)の規格が存在する(例えば、特許文献1参照。)。主として使用されているのは32ビットのアドレス空間を持つIPv4であるが、IPアドレスの不足が発生することが予測されることから128ビットのアドレス空間を持つIPv6が新たに使用されるようになっている。しかしながら、このIPv4は、IPv6との間で基本的には通信を行うことができないという問題点がある。
【0003】
また現在のインターネットにおけるもう一つの問題点としては、携帯電話等を始めとした移動端末における通信の全てサポートできていない点がある。
【0004】
これら2つの問題点の主な理由の一つとしては、現在のインターネットがネットワーク層のみならず、トランスポート層及びアプリケーション層を用いてIPアドレスを形成している点にある。このIPアドレスの値とタイプは、IPプロトコルのバージョンと無関係に作られ、また移動端末であればその現在位置とは無関係に作られる。ネットワーク層、トランスポート層及びアプリケーション層は、何れもこのIPプロトコルのバージョンと、移動端末の現在位置をサポートしてIPアドレスを作ることを行っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−207206号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、互いに異種バージョンのインターネットプロトコルを採用する移動端末間においても好適に無線通信が可能な移動端末間の無線通信方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明を適用した移動端末間の無線通信方法は、移動端末間の無線通信を実現するための移動端末間の無線通信方法において、ネットワーク層とトランスポート層の間に、上記各移動端末の現在における位置情報を管理する位置情報管理層を新たに挿入したプロトコルスタックを構成し、上記移動情報管理層に基づいて当該移動端末の通信位置に対応した位置指示子を管理するとともに、上記トランスポート層とそれより上位のアプリケーション層により当該移動端末のIDを管理することにより、上記位置指示子と上記IDとを分離して管理する。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、互いに異種バージョンのインターネットプロトコルを採用する移動端末間においても好適に無線通信が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明を適用した無線通信システムの構成例を示す図である。
【図2】本発明において新たに定義されたプロトコルスタックの構成を示す図である。
【図3】GWに実装された位置情報管理層について説明するための図である。
【図4】本発明を適用した無線通信システムにおいて、移動端末が移動した例を示す図である。
【図5】本発明を適用した移動端末間の無線通信方法の具体的な処理動作について説明をするためのフローチャートである。
【図6】本発明を適用した移動端末間の無線通信方法の具体的な処理動作について説明をするための他のフローチャートである。
【図7】ネットワークヘッダにおける送信元と送信先の位置指示子の例を示す図である。
【図8】移動端末が移動した場合における具体的な処理動作について説明するためのフローチャートである。
【図9】移動端末が移動した場合における具体的な処理動作について説明するための他のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を適用した移動端末間の無線通信方法の実施の形態について詳細に説明する。
【0011】
本発明を適用した無線通信システム1は、図1に示すように、移動端末11間で公衆通信網5を介してインターネットによりパケット通信を行うためのシステムである。この無線通信システム1は、各移動端末11の通信網6毎に設けられたゲートウェイ(GW)12と、各移動端末11のホストネームを管理するためのレジストリ(HNR:Host Name Registry)13と、ドメインネームを管理するためのレジストリ(DNR:Domain Name Registry)14とを備えている。
【0012】
移動端末11は、インターネットプロトコル(IP)に基づいてパケットによる無線通信を行うホストであり、例えば携帯電話、パーソナルコンピュータ(PC)等を初めとしたモバイル端末等で構成される。例えば、通信網6a内にある移動端末11aが、他の通信網6b内にある他の移動端末11bとの間で無線通信を行う場合には、GW12aから公衆通信網5を介してGW12bを通じてパケットデータが送受信されることとなる。
【0013】
GW12は、公衆通信網5と、通信網6とを中継するための通信機器、ネットワークノードである。このGW12は、公衆通信網5と、通信網6との間で互いにプロトコルが異なる場合であってもこれをプロトコル変換可能なように、例えばプロトコルトランスレータ等が実装されている。
【0014】
HNR13は、ホストネーム、ID、位置情報、並びにその他セキュリティに関する情報が記録されるサーバである。
【0015】
DNR14は、ドメインネームを記録するとともに、対応するHNR13のIDや位置情報を記録する。即ちDNR14は、ドメインネームを階層構造の下でより効果的に管理することもできる。
【0016】
ちなみにHNR13とDNR14のフォーマットは、DNS(Domain Name System)のそれに類似するものである。
【0017】
図2は、本発明において新たに定義されたプロトコルスタックの構成を示している。プロトコルは下位層から上位層に向けて、順に物理層、データリンク層、ネットワーク層、位置情報管理層、トランスポート層、アプリケーション層が定義されている。従来と比較してこの位置情報管理層がネットワーク層とトランスポート層との間において挿入されている。この位置情報管理層の存在により、アプリケーション層とトランスポート層がIDと名前を使用する。これらはネットワーク層において使用される各移動端末11間において互いに異なるものとなる。またこの位置情報管理層の存在により、移動端末11が他の箇所に移動する場合においても、トランスポート層とアプリケーション層の通信期間に影響を及ぼすことなく、ネットワーク層が互いに異なるネットワークプロトコル、移動端末11、通信期間を使用することを許容するものである。
【0018】
GW12は、図3に示すように上述した位置情報管理層の機能が実装されている。これら位置情報管理層の機能により、GW12のIDテーブルにおいて記録されているID−位置指示子マップを使用することで、ネットワーク層のプロトコル又は現在の位置指示子(locator)をデータパケットのヘッダに記述することが可能となる。GW12は、移動端末11が移動の間にその管轄する通信網6が変化する場合においても、新たにアップデートされた情報をID−位置指示子マップに変換していくことにより、移動端末11の管理を行うことが可能となる。
【0019】
全ての移動端末11は、一般的に独自のホストネームを持っている。このホストネームは2つのパートから成っている。一つは、ローカルホストネームであり、もう一つは、グローバルドメインネームである。これらは、記号“#”により連結される。例えば、ホストネームにおいて“mh#domain1.com”と、“ch#example.com”が存在する場合において、mhとchは、ローカルホストネームである。これに対して、domain1.comとexample.comとは、互いにドメインネームである。ホストは、少なくとも1以上のIDを持っている。移動端末11(ホスト)は、それぞれの通信網6に入ったときに、当該通信網6において使用されるネットワークプロトコルにより提供される位置指示子を得ることができる。例えば、通信網6がIPv4プロトコルを使用している場合には、移動端末11は、例えば"10.10.10.100."を得ることができる。
【0020】
本発明による無線通信の例は、図4に基づいて説明することができる。この図4の例では、2つのホスト(移動端末11a、移動端末11b)が存在し、それぞれが通信網6a、6bの中に位置するものとする。ちなみに、移動端末11aのホストネームは、“ch#domain-1.jp”であり、移動端末11bのホストネームは、“mh#domain-2.jp”である。ここで移動端末11a、11bがそれぞれの属する通信網6a、6bの中に入った段階で、通信リンクが確立されて互いに無線通信がスタートすることとなる。このとき、移動端末11bが仮に通信網6bから通信網6cへ移動したとき、通信セッションは開かれることが無くなる。これは、各通信網6a〜6cが互いに異なるネットワーク層のプロトコルを使用しているのであり、これらのプロトコルは、公衆通信網5とは異なるものであるためである。
【0021】
このため、本発明においては、新たに位置情報管理層を定義し、これをIPヘッダに含めるものとする。
【0022】
上述したように、本発明によれば、ネットワーク層とトランスポート層の間に、各移動端末11の現在における位置情報を管理する位置情報管理層を新たに挿入したプロトコルスタックを構成している。この移動情報管理層に基づいて移動端末11の通信位置に対応した位置指示子を管理するとともに、トランスポート層とそれより上位のアプリケーション層により移動端末11のIDを管理することにより、位置指示子とIDとを分離して管理する。
【0023】
次に本発明を適用した移動端末間の無線通信方法の具体的な処理動作について説明をする。
【0024】
先ずホスト(移動端末11)が通信網6において捕捉されたときに、処理動作がスタートする。図5に示すように、ステップS11において移動端末11は、ホストネームやID、他のセキュリティ情報等を含む認証要求をGW12に対して実行する。
【0025】
移動端末11による認証情報を確認するために、GW12は、HNR13のIDや位置指示子を知らなければならず、GW12はHNR13にアクセスすることができる。かかる目的の下、GW12は、DNR14に対してドメインネーム解決要求を送信する(ステップS12)。次にかかるDNR14からドメインネーム解決応答を受信する(ステップS13)。かかるドメインネーム解決応答には、HNR13のIDや位置指示子が含まれており、かかるドメインネーム解決応答を受信したGW12は、これら各情報を知ることが可能となる。次にGW12は、かかるドメインネーム解決応答に基づいて、ステップS14においてHNR13に対して認証要求を送信し、HNR13は、GW12に対して認証確認を受信する。
【0026】
移動端末11の認証が成功した場合、GW12は、移動端末11に対して各種制御が行われると共に、システムパラメータが割り当てられる(ステップS15)。これらはGW12から移動端末11にかかるロケータコンフィグネーションと、システムパラメータの割り当てに関するメッセージを送信することにより行われる(ステップS16)。GW12は、移動端末11のホストネーム、ID、LLoc(local locator)や、他のセキュリティ情報等を自己のIDテーブル内に記録する(ステップS17)。ここでいうLLocとは、その通信網6(GW12)の管轄下において割り当てられる位置指示子である。
【0027】
次に移動端末11からGW12へ、その新たな位置支持子の登録を要求するため、HNR13に対する記録のアップデート要求を送信する(ステップS18)。GW12はかかるアップデート要求を受信した場合、自身のバッファー内においてかかるメッセージを一時的に記憶し、各種処理を実行する。次にこのGW12は、HNR13に対してアップデート要求を送信する(ステップS19)。HNR13は、受信したメッセージについてセキュリティ情報をチェックした上で、その記録をアップデートし(ステップS20)、かかるアップデートが終了した旨の応答メッセージをGW12へ送信する(ステップS21)。GW12はかかる応答メッセージを受信する。仮にHNR13において記録のアップデートが失敗した場合には、GW12はHNR13に対して再度アップデート要求を送信する。これに対して、HNR13において記録のアップデートが成功した場合には、ステップS22に移行し、GW12は移動端末11に対して応答メッセージを送信する。
【0028】
これらの処理動作を通じて、移動端末11は、通信網12との間で通信接続が行われることとなる。そして、互いに異なる通信網12a、12bに通信接続がなされた移動端末11a、11b間において相互に無線通信を行うことが可能となる。移動端末11aは、移動端末11bとの間で通信を開始したとき、移動端末11aのみが移動端末11bのホストネーム(例えばmh#domain-2.jp)を知ることが可能となる。移動端末11aは、移動端末11bに関するネットワーク中の位置情報に関する情報について通常は取得することができない。このため、移動端末11aにおけるアプリケーション層は、移動端末11a、11bにより識別されるトランスポート層を通じてデータの送信を開始することとなる。トランスポート層のプロトコルは、それ自身でデータを発信することができる。位置情報管理層は、後述するプロセスを通じて、ホストネームを、対応するIDと位置識別子に組み込むことを実行する。
【0029】
図6は、本発明を適用したホストネーム解決法の具体的なフローを示している。先ずステップS31に示すように、互いにIDと位置指示子を保有している。これらIDと位置指示子は、識別において使用されるものであって、通信用のデータパケットを送るために、ネットワーク層や位置情報管理層において使用される。本発明を適用した方法において必要となる構成要素は、移動端末11a、11b、GW12a、12b、HNR13、DNR14である。図6の例では、移動端末11aから移動端末11bに対してデータを送信する例を示しているが、当然その反対も生じえる。
【0030】
先ずステップS31において、移動端末11aは、GW12aに対してホストネーム解決要求を送信する。このとき移動端末11aは、かかるホストネーム解決要求を自身の中に蓄積しておく。
【0031】
次にステップS32へ移行し、GW12aは、ドメインネームキャッシュと、ホストネーム解決要求の2つのキャッシュを維持する。ここでいうドメインネームキャッシュは、HNR13のIDと位置識別子のマッピングに関する情報も含まれる。ホストネーム解決要求のキャッシュは、現在進行しているホストネーム解決要求のメッセージの内容を含むものである。ちなみに、ホストネーム解決要求は、ターゲットホストネーム、メッセージ識別番号、ホストネーム、ID、位置識別子、その他ステータス情報が含まれる。
【0032】
GW12aが移動端末11aからホストネーム解決要求を受信した場合には、ホストネーム解決要求キャッシュリストを自身において格納する。GW12aは、送信先となるドメインネームをドメインネームキャッシュリストから探索する。仮に送信先となるドメインネームがかかるキャッシュから見つけることができた場合には、以下説明するステップS33における処理動作をスキップし、ステップS34へ移行する。仮にドメインネームキャッシュの中から何ら候補を見つけることができない場合には、GW12aは、ホストネーム解決要求におけるステータスを、“ドメインネーム解決 in-progress”に設定する。そして、GW12aは、ドメインネーム解決要求をDNR14へ送信する。
【0033】
次にステップS33へ移行し、かかるドメインネーム解決要求をGW12aから受信したDNR14は、送信先のドメインネームの候補のために、その記録群を探索する。仮にその候補を探索することができない場合には、メッセージの内容に変更を加えることなく、DNR14への上位層に対する要求をそのまま活用する。仮に候補を探索することができた場合には、DNR14はGW12に対して、ドメインネーム解決応答を送信する。
【0034】
次にステップS34へ移行し、GW12aは、ドメインネーム解決応答を受信する。このドメインネーム解決応答には、送信先の移動端末11bのHNR13のID、DNR13から提供された位置指示子等が含まれている。かかるドメインネーム解決応答を受信したGW12aは、ホストネーム解決要求をHNR13へ送信する。これらホストネーム解決要求は、HNR13に対するホストネーム解決要求キャッシュにおいて格納されている。GW12は、ドメインネームキャッシュにおいて、HNR13のIDや、GLocに対して送信先のドメインネーム等を記録している。仮にそれがリストから見つけられない場合には、ドメインネーム解決応答のメッセージからそれを得ることが可能となる。その結果ステータス情報の改変も行われることとなる。
【0035】
次にステップS35へ移行する。そして、HNR13は、ホストネーム解決要求を受信した場合には、送信先のIDや位置指示子のためのHNR13の記録において送信先のホストネームを探索する。HNR13は、特にこのホストネーム解決要求に改変を施さない。即ち、このHNR13は単にメッセージを送信先の移動端末11bに向けて中継するのみである。実際にこのHNR13は、ホストネーム解決要求をGW12bへと送信する。
【0036】
GW12bは、ホストネーム解決要求を受信したとき、係るGW12bは、送信先のホストネーム及び/又はホストIDを、IDテーブルにおいて取得する。また、このGW12bは、かかるホストネーム解決要求を中継して、移動端末11bへ送信する(ステップS36)。
【0037】
ステップS37において、移動端末11bは、ホストネーム解決要求を受信した場合、送信元のホストネーム(IDと位置指示子)をIDテーブルにおいて記録する。移動端末11bは、要求されたアプリケーションコードに基づいて、それに見合ったIDと位置指示子を選択する。このとき、IDと位置指示子の組を1以上選択することも可能となる。かかる場合には、それぞれの組について優先度が割り当てられる。より高い優先度のIDと位置指示子は、パケットのヘッダーにおける位置情報管理層やネットワーク層に記述された送信元のIDや位置指示子であり、これらには、ホストネーム解決応答のメッセージが含まれている。移動端末11bは、最も優先度の高いものをこれに含めてもよい。
【0038】
ステップS38において、GW12bが移動端末11bからホストネーム解決応答を受信した場合、GW12bは、必要に応じて位置指示子を変化させるとともに、IDテーブルにおけるIDと位置指示子のマッピングを行う。また、GW12bは、GW12aに対して、ホストネーム解決応答のメッセージを送信する。
【0039】
次にステップS39へ移行し、GW12aは、ホストネーム解決応答を受信した場合、ホストネーム解決要求のキャッシュを探索し、これに対応する要求メッセージを見つけ出す。即ち、IDテーブルにおいて、送信先の移動端末11のID、位置指示子のマッピングを蓄積する。応答メッセージの内容については、送信元の位置指示子から送信元の移動端末11aのLLocへの変更や、送信先の位置指示子からそのLLocへの変更がなされている。また、このGW12aは、ホストネーム解決応答を送信元の移動端末11aへ送信する。
【0040】
またステップS40へ移行し、送信元の移動端末11aは、ホストネーム解決応答をGW12aから受信したとき、かかる応答と整合するか否かホストネーム解決要求のキャッシュを確認する。係る応答と整合する要求を見つけた場合には、IDテーブルにおいてIDと位置指示子のマッピングを更に加える。
【0041】
次に、データパケットフォワーディング法(Date Packet Forwarding Method)について説明をする。データパケットが、ネットワーク中で伝送される場合に、トランスポート層と位置情報管理層の値は変化しない。しかし、ネットワークヘッダにおける送信元と送信先の位置指示子の値は、データパケットが図7に示すようなGW12を通じて送信されるにつれて変化する。この図7は、移動端末11aから移動端末11bに向けて送信されるデータパケットのヘッダの記述情報を示している。
【0042】
送信元の移動端末11aは、その位置指示子として、LLoc1を使用している。また、送信先の移動端末11bは、送信先の位置指示子として、GW12aのLLoc_GW1を使用している。パケットがGW12aに到達した場合、GW12aは、IDテーブルを探索することにより、位置指示子について領域的位置指示子から全体的位置指示子へと変換を行う。送信元の位置指示子(LLoc1)は、GW12aの全体的な位置指示子(GLoc_GW1)へと変換される。そして送信先の位置指示子(LLoc_GW1)は、通信端末12bの全体的位置指示子へと変換されることとなる。かかる通信端末12bの全体的位置指示子は、例えばGLoc_GW2である。
【0043】
そのパケットは、当該パケットがGW12bへ到達するまで、公衆通信網5においてGLoc_GW2の位置指示子を先行して使用し続ける。GW12bは、そのIDテーブルを探索し、送信元の位置指示子をその領域的位置指示子としてLLoc_GW2とLLoc_2等に変換する。パケットは、LLoc_2を使用する通信網6bよりも先行して取得している。パケットは、移動端末11bから移動端末11aへ逆方向へ送られる場合においても、同様の処理が行われる。図7には、かかるIDテーブルの例を示している。それぞれIDテーブルには、ホストとなる移動端末11a、11b毎にIDと、位置指示子が記述されている。
【0044】
このように、本発明では、IDと位置指示子とがマッピングされたテーブルを管理するとともに位置情報管理層の機能が実装されたGW12移動端末における位置情報管理層により最新の位置指示子を更新し、他の移動端末により、かかる更新された最新の位置指示子を参照することにより移動端末間の無線通信を実現する。
【0045】
次に移動制御法(Mobility Management Method)について説明をする。移動制御法は、移動端末11のユーザが常時通信可能とするものである。仮に移動端末11が一の通信網6から他の通信網6へ移動した場合、その間継続して行われる通信は、中断されることはない。移動端末11が移動した場合、その位置指示子は変化する。移動端末11が異なる通信網6に移動した場合に、各種ヘッダの情報も変化する。更に、様々な通信網が異なるネットワーク層のプロトコルを使用する場合、位置指示子も異種ネットワーク間において異なるものとなる。
【0046】
移動制御法では、以下の処理を実行する。移動端末11が、新たな位置指示子を取得するために新たな通信網6に置かれる。HNR13の記録のアップデートを行い、ID、位置指示子のマッピングは、移動端末11がアクセス可能なGW12のみならず、対応するGW12のIDテーブルにおいて記録される。
【0047】
図8はかかる移動制御法のフローチャートを示している。このフローチャートでは、図4に示すように移動端末11bが通信網6bから通信網6cへ移動した場合に、これと移動端末11aとが通信を行う場合を例に挙げている。
【0048】
先ずステップS51において、移動端末11aと、移動端末11bとは、GW12a、12bを介して無線通信を行う。即ち、移動端末11aからGW12a、GW12bを介して移動端末11bへデータパケットが送信され、移動端末11bからGW12a、GW12bを介して移動端末11aへデータパケットが送信されることとなる。この過程で移動端末11aが移動して通信網6cへ移動した場合、当該通信網6cにおいて捕捉されることになり、新たなネットワークとして通信網6cが決定されることとなる。
【0049】
次にステップS52において、通信端末11bからGW12cへ認証要求を送信する。この認証プロセスは、上述と同様である。即ち、この認証要求は、GW12cから更にHNR13へと送信される。HNR13はかかる認証要求を受けて認証応答をGW12cへ送信する。
【0050】
次にステップS53へ移行し、新たなネットワークとなったGW12cは、LLocを送信し、GW12のIDやLLoc、GLocを移動端末11bへと送信する。
【0051】
次にステップS54へ移行し、移動端末11bはGW12bとGW12cに対して、移譲指示を送信する。GW12bへと送られる移譲指示は、移動端末11bのホストネーム、IDに加え、新たなGLocと同様に過去のLLoc、過去のGLocが送信される。GW12cへと送られる移譲指示は、移動端末11bのホストネーム、IDに加え、過去のGLocと同様に新たなLLoc、新たなGLocが送信される。これら移譲指示においては、仮にGW12bがID、位置指示子マップを即座にGW12cへと変換した場合、又はID、位置指示子を受信した後にGW12cから変換要求があった場合には、それを示すためのフラグを立てるようにしてもよい。また、GW12b、12cはそれぞれ移動端末11bに対してかかる移譲指示に対する応答メッセージを送信するようにしてもよい。
【0052】
次にステップS55へ移行し、移譲指示を受け付けた後、GW12bは、移動端末11bのエントリーのためにIDテーブルをチェックする。GW12bは、移動端末11のエントリーを、新たなGLocに置き換える。また、ID/位置指示子マップは、通信相手の移動端末11に関する情報を含める。GW12bは、ID/位置指示子マップの変換要求をGW12cへ送信し、GW12cは、かかるID/位置指示子マップを受信した後、その応答メッセージをGW12bへ送信する。
【0053】
ステップS56において、GW12bは、送信相手である移動端末11aに対応するGW12aに対してID/位置指示子マップのアップデート要求を送信する。この送信相手である移動端末11aのIDと位置指示子は、IDテーブルから得られる。ID/位置指示子のアップデート要求のメッセージには、通信相手である移動端末11aのID、ホストネーム、GLocと同様に移動端末11bのホストネーム、ID、過去のGLoc、新たなGLoc等が含まれる。GW12aは、かかるアップデート要求を受けて、アップデート応答をGW12bへ送信する。GW12bは、かかるアップデート応答を受けるまでID、位置指示子のリストを保持する。またGW12bは、アップデート応答を受けた場合には、かかるID、位置指示子のリストを更新し、必要に応じて追加、削除する。GW12は、IDテーブルにおいて、それぞれのマップがアップデートされたか否かのフラグを立てる。
【0054】
ステップS57において、GW12cは、ID/位置指示子マップのアップデート要求をGW12aに送信する。かかるアップデート要求を受けたGW12cは、IDテーブルを更新、追加、削除の何れかを行い、GW12cに対してアップデート応答を送信する。アップデート応答を受信したGW12cは、移譲終了通知を移動端末11bに対して行う。
【0055】
次にステップS58へ移行し、移動端末11b、GW12c、GW12a、移動端末11aという経路で新たに通信リンクが確立され、データパケットが送受信される。
【0056】
次にステップS59へ移行し、ステップS57において移譲終了通知を受信した移動端末11bは、HNR記録アップデート要求をGW12cに対して送信する。GW12cはかかるHNR記録アップデート要求をHNR13へ送信する。HNR13においてアップデートが行われた後、HNR13からHNR記録アップデート応答がGW12cへ送信され、GW12cからかかるHNR記録アップデート応答が移動端末11bへ送信される。
【0057】
次にステップS60へ移行し、移動端末11bからGW12bにID/位置指示子マップ削除要求を送信する。GW12bは、かかるID/位置指示子マップを削除した後、移動端末11bに対してID/位置指示子マップ削除応答を送信する。
【0058】
このように、本発明によれば、一の移動端末11が移動した場合には、その移動元のGW12から移動先のGW12に向けてマッピングされたテーブルを移譲するとともに、その移動先のゲートウェイのテーブルに対して位置指示子を更新する。
【0059】
次にステップS61へ移行し、GW12と移動端末11bとは互いに非接続状態となる。
【0060】
図9は、上述した図8において説明したフローチャートの他の実施形態を示している。この図9において、上述した図8と同一の処理動作については、係る図8の説明を引用することで以下での説明を省略する。この図9の形態では、GW12bとGW12cとが互いにオーバーラップする場合を示している。
【0061】
先ずステップS51において、移動端末11bはGW12bと非接続接続状態となり、その後探索を行って新たなネットワーク(通信網6)が決定されることとなる。この段階で、GW12bに対してパケット伝送が多少行われてロスとなってしまう。かかるパケットデータのロスは、GW12bとの間で非接続となった移動端末11を確認した段階でパケットデータを一時的に蓄積するバッファーを持つことにより、減らすことが可能となる。
【0062】
また、ステップS54においては、移動端末11bは、GW12bとの間で非接続状態であるため、移動端末11bは、GW12cのみに対して、移譲指示を送信する。移譲指示の詳細は、上述したステップS54に準じるものである。
【0063】
ステップS55において、GW12cは、移動端末11bのID/位置指示子マップの変換要求をGW12cへ送信し、GW12bからGW12cへマップの変換が行われる。GW12bは、上述したバッファーに格納されたパケットデータも同様にGW12cへと送信する。
【0064】
ステップS60においては、GW12cからGW12bにID/位置指示子マップ削除要求を送信する。GW12bは、かかるID/位置指示子マップを削除した後、GW12bに対してID/位置指示子マップ削除応答を送信する。
【符号の説明】
【0065】
1 無線通信システム
5 公衆通信網
6 通信網
11 移動端末
12 ゲートウェイ(GW)
13 HNR
14 DNR

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動端末間の無線通信を実現するための移動端末間の無線通信方法において、
ネットワーク層とトランスポート層の間に、上記各移動端末の現在における位置情報を管理する位置情報管理層を新たに挿入したプロトコルスタックを構成し、
上記移動情報管理層に基づいて当該移動端末の通信位置に対応した位置指示子を管理するとともに、上記トランスポート層とそれより上位のアプリケーション層により当該移動端末のIDを管理することにより、上記位置指示子と上記IDとを分離して管理すること
を特徴とする移動端末間の無線通信方法。
【請求項2】
IDと位置指示子とがマッピングされたテーブルを管理するとともに上記位置情報管理層の機能が実装されたゲートウェイに対して、一の移動端末における位置情報管理層により最新の位置指示子を更新し、他の移動端末により、かかる更新された最新の位置指示子を参照することにより移動端末間の無線通信を実現すること
を特徴とする請求項1記載の移動端末間の無線通信方法。
【請求項3】
上記一の移動端末が移動した場合には、その移動元のゲートウェイから移動先のゲートウェイに向けて上記マッピングされたテーブルを移譲するとともに、その移動先のゲートウェイのテーブルに対して位置指示子を更新すること
を特徴とする請求項2記載の移動端末間の無線通信方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−248966(P2012−248966A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−117391(P2011−117391)
【出願日】平成23年5月25日(2011.5.25)
【出願人】(301022471)独立行政法人情報通信研究機構 (1,071)
【Fターム(参考)】