説明

移動装置

【課題】振動モータを用いて簡易かつ正確に移動体を回転または移動させる。
【解決手段】移動装置1は、回転軸5に偏って取り付けられる錘部材6を有する振動モータ2と、振動モータ2が取り付けられ、振動モータ2と共に移動可能な移動体3と、移動体3が錘部材6の慣性力により所定方向に移動するように、錘部材6が所定の回転位置のときに振動モータ2を減速させるか停止させる回転制御部4と、を備える。振動モータ2の錘6が所定位置まで回転したときに、振動モータ2の回転を減速または停止させると、錘6に慣性力が働くことに着目し、この慣性力を利用して移動装置1を所望の方向に移動させるため、振動モータ2が1個だけの場合でも、移動装置1を左右の方向に移動させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動モータを用いて移動体を移動または回転させる移動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
振動モータは、モータ本体から伸びる回転軸に錘を偏って取り付けた構造である。回転軸に取り付けた錘を回転させると、錘の重心の位置が時間的に変化して、モータ本体が振動する。
この種の振動モータは、携帯電話やゲーム機などの電子機器に幅広く用いられている。例えば、携帯電話では、ユーザに着信を知らせるためのバイブレーション機能を実現するために振動モータが用いられている。また、ゲーム機でも、ゲーム効果を高めるために振動モータでバイブレーション機能を実現している。
【0003】
例えば、携帯電話を硬質または衝撃を吸収しない材質からなる床面に置いて振動させると、振動が床面に直接伝達されて、携帯電話は不規則に激しく振動する。振動によって、携帯電話は床面をたたくため、その反作用で、携帯電話は浮き上がったり、不規則に回転したり、移動したりする。このような携帯電話の動きは、携帯電話が軽いほど、また内蔵している振動モータの駆動力が大きいほど、激しくなる。
【0004】
このように、振動モータを内蔵する電子機器は、振動モータの振動によって、回転したり移動したりするため、振動モータを電子機器の回転や移動に積極的に利用する試みもなされている(例えば、特許文献1および2参照)。
特許文献1には、モータの振動を、本体の底部下面に植設された植毛に伝達させて本体を移動させる技術が開示されている。また、特許文献2には、足部を傾斜方向に振動させて本体を移動させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−291575号公報
【特許文献2】特開2008−194070号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1,2のいずれも、振動モータの回転方向により本体の移動方向を制御するものではない。また、複数の振動モータの回転方向の組み合わせにより、本体の移動方向や回転方向を制御できることについても開示も示唆もない。
【0007】
このように、従来は、振動モータによる振動を移動体の移動に利用するという考えはあったものの、振動モータの回転方向に着目して本体の移動方向を制御するという具体的な提案はなかったため、振動モータを用いて電子機器を所望の方向に正確に移動させることは不可能であった。
【0008】
本発明は、上述した問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、振動モータを用いて簡易かつ正確に移動体を回転または移動させることができる移動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様では、回転軸に偏って取り付けられる錘部材を有する振動モータと、前記振動モータが取り付けられ、前記振動モータと共に移動可能な移動体と、前記移動体が前記錘部材の慣性力により所定方向に移動するように、前記錘部材が所定の回転位置のときに前記振動モータを減速させるか停止させる回転制御部と、を備えることを特徴とする移動装置を提供する。
また、本発明の一態様では、回転軸に偏って取り付けられる錘部材をそれぞれ有する少なくとも2つの振動モータと、前記振動モータのそれぞれが取り付けられ、前記振動モータと共に回転および移動可能な移動体と、前記移動体が所定方向に回転または移動するように、前記振動モータのそれぞれを同期して回転させる回転制御部と、を備える移動装置を提供する。
また、本発明の一態様では、回転軸に偏って取り付けられる錘部材をそれぞれ有する少なくとも2つの振動モータと、前記振動モータのそれぞれが取り付けられ、前記振動モータと共に回転および移動可能な移動体と、前記移動体の複数箇所に取り付けられ、床面に接触されて床面上を移動可能な複数の脚部と、前記複数の脚部のいずれかを基点として他の脚部が所定方向に回転または移動するように、前記振動モータのそれぞれを回転させる回転制御部と、を備えることを特徴とする移動装置が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、振動モータを用いて簡易かつ正確に、移動体を所望の回転角度または所望の方向に回転または移動させることができる移動装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る移動装置の内部構成を示す図。
【図2】振動モータ2としてステッピングモータを用いた場合の回転制御部4の処理動作の一例を示すフローチャート。
【図3】振動モータ2としてDCモータを用いた場合の回転制御部4の処理動作の一例を示すフローチャート。
【図4】(a)は本発明の第2の実施形態に係る移動装置1の内部構成図、(b)は複数の脚部16を有する移動装置の内部構成を示す図、(c)は移動装置1に2個の脚部16を設けて、振動モータ2A,2Bを交互に駆動する例を示す上面図。
【図5】(a)は図4(a)の移動装置1の概略構成を示すブロック図、(b)はDCモータを用いた移動装置1の概略構成を示すブロック図。
【図6】位置検出センサ13を用いて錘6の位置を検出する方法を説明する図。
【図7】(a)は移動装置1を右側に移動(前進)させる例を示す図、(b)は移動装置1を反時計回りに回転させる例を示す図。
【図8】第2の実施形態に係る回転制御部4の処理動作の一例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0013】
(第1の実施形態)
まず、第1の実施形態に係る移動装置の原理を説明する。本実施形態に係る移動装置1は振動モータ2を内蔵している。振動モータ2は、モータ本体から伸びる回転軸5に錘6を偏って取り付けている。錘6の遠心力は、回転する錘位置の接線方向から90度の方向(径の外側方向)に働いている。したがって、錘6の重心が回転軸5を基準として最右端に来たときは、遠心力は床面の水平方向右側に働き、錘6の重心が回転軸5を基準として最左端に来たときは、遠心力は水平方向左側に働くことになる。
【0014】
錘6の重心が回転軸5を基準として最右端にあるときに、振動モータ2を取り付けた移動装置1と床面7との摩擦力が遠心力より小さければ、移動装置1は水平方向右側に移動する。また、錘6の重心が回転軸5を基準として最左端にあるときに、振動モータ2を取り付けた移動装置1と床面7との摩擦力が遠心力より小さければ、移動装置1は水平方向左側に移動する。移動装置1が左右に移動すると、床面7との摩擦熱によって移動エネルギーが消費されて、やがて移動装置1は停止する。
【0015】
ここで、振動モータ2の回転速度が一定であれば、振動モータ2は左右に交互に振動するだけであり、特定方向に移動したり回転することはない。
【0016】
ところが、錘6の重心が最右端から最左端まで回転する間は振動モータ2の回転速度を低く抑えて、遠心力が摩擦力を上回らないようにし、最左端を過ぎてから徐々に回転速度を上げて、最右端に到達したときに遠心力が摩擦力を上回るようにし、最右端を過ぎると振動モータ2の回転を減速または停止させたとすると、最右端での遠心力による慣性力が変化し、この変化が振動モータ2に伝わり、移動装置1は右側に移動する。
【0017】
このような回転速度の制御を繰り返すことで、移動装置1を所望の方向に移動させることができる。以下に詳述する第1の実施形態では、この原理を利用して、移動装置1を所望の方向に移動させる。
【0018】
図1は本発明の第1の実施形態に係る移動装置の内部構成を示す図である。図1の移動装置1は、振動モータ2と、移動体3と、回転制御部(駆動制御部)4とを備えている。振動モータ2は、回転軸5に偏って取り付けられる錘6を有する。移動体3は振動モータ2と回転制御部4を内蔵している。
【0019】
振動モータ2は、ステッピングモータやDCモータなどの回転軸5に偏って錘6を取り付けることができるモータであればよく、具体的なモータの種類は問わない。ただし、モータの種類によって、回転制御部4の制御の仕方が異なる。以下では、ステッピングモータを用いた例とDCモータを用いた例をそれぞれ説明する。
【0020】
図2は振動モータ2としてステッピングモータを用いた場合の回転制御部4の処理動作の一例を示すフローチャートである。まず、錘6の現在位置を把握する(ステップS1)。例えば、図1では不図示の位置検出センサ等を用いて錘6の現在位置を検出する。位置検出センサは、回転する錘6が所定の回転位置に来たときに錘6を検出するため、位置検出センサが錘6を検出できなければ、検出できる位置まで錘6を回転させて、検出できた位置で振動モータ2を停止させる。
【0021】
次に、上述の錘6の位置(初期位置)から移動装置1を所望の位置に移動させるのに必要な錘6の停止目標位置までの振動モータ2のステップ数と回転速度を計算する(ステップS2)。次に、計算したステップ数と回転速度に基づいて、振動モータ2に与える駆動パルス数と駆動パルスの周波数を調整する(ステップS3)。
【0022】
次に、ステップS3での調整値に基づいて、振動モータ2に対して駆動パルスを与えて(ステップS4)、与えた駆動パルス数を計測する(ステップS5)。これにより、振動モータ2は、ステップ単位で回転していく。
【0023】
次に、錘6が停止目標位置に来たか否かを判定する(ステップS6、回転位置判断部)。このステップS6では、ステップS3で調整した駆動パルス数と同じ個数の駆動パルスを振動モータ2に与えたか否かで停止目標位置に来たか否かを判断する。なお、停止目標位置は、上述したステップS1とS2の処理結果により把握することができる。
【0024】
停止目標位置は理想的には回転軸5を基準として最右端または最左端である。最右端および最左端では、床面7に平行な右方向および左方向における遠心力が最も大きいためである。ただし、遠心力の水平方向成分が多少ともあるのであれば、水平方向への移動は可能である。よって、ステップS6の停止目標位置は、図1の最右端または最左端から円周上に90度離れた点でなければ、どの点でもよい。すなわち、錘6の遠心力の少なくとも一部の成分が床面7の水平方向を向いていれば、錘6の遠心力を利用して移動装置1を床面の左右方向に移動させることができる。このように、移動装置1の移動方向は、振動モータ2の回転軸5を基準とする左右方向、より具体的には、回転軸5に直交する床面7に水平な方向である。
【0025】
錘6がまだ停止目標位置に来ていないと判定された場合はステップS3に戻り、停止目標位置に来たと判定された場合は振動モータ2への駆動パルスの供給を停止するか、駆動パルスの間隔を広げる(ステップS7)。これにより、振動モータ2は停止するか減速し、錘6には慣性力が作用して、床面7に水平な方向の右側または左側に一歩移動することになる。
【0026】
ここで、「一歩」の長さは、振動モータ2を停止または減速する直前の振動モータ2の回転速度、錘6の重量、移動装置1本体の重量、および床面7の摩擦力などに依存して変わる値である。
【0027】
次に、移動装置1の移動が完了するまで待機し(ステップS8)、移動装置1が目標位置まで移動したか否かを判定する(ステップS9)。目標位置まで移動した場合は処理を終了し、まだ目標位置まで達していなければ、ステップS1に戻って処理を繰り返す。移動装置1が目標位置に到達したか否かの判断は、移動装置1の一歩の長さと処理の繰り返し数に基づいて行う。あるいは、移動装置1に光学マウスに内蔵されている光学センサ等を搭載して、移動装置1の移動方向と移動量を検出できるようにしてもよい。あるいは、外部の電磁波の強度を測定して判断してもよい。
【0028】
一方、図3は振動モータ2としてDCモータを用いた場合の回転制御部4の処理動作の一例を示すフローチャートである。まず、図2のステップS1と同様に、錘6の現在位置を不図示の位置検出センサ等により検出し、検出できた位置で振動モータ2を停止させる(ステップS11)。そして、振動モータ2をゆっくりした回転速度で回転させる(ステップS12)。ゆっくりした回転速度で回転を開始させる理由は、いきなり高速で回転させると、慣性力による反作用で移動装置1が逆方向に動いてしまうおそれがあるためであり、ゆっくりした回転速度から目標回転速度に向けて徐々に回転速度を上げるようにする(ステップS13)。最終的な回転速度は、予め設定した回転速度であり、この回転速度に達するまでに錘6を回転させる場合もある。
【0029】
ステッピングモータは、駆動パルスを与えてステップ的に回転させたが、DCモータは直流電圧または直流電流を与えて回転させる。DCモータで回転速度を上げるには、直流電圧または直流電流の振幅を大きくすればよい。
【0030】
DCモータの回転が安定した後、錘6が停止位置に来たか否かを判定する(ステップS14、回転位置判断部)。停止位置に来ていなければ、定電圧または定電流駆動を行って(ステップS15)、再度ステップS14の判定処理を行う。錘6の停止位置は、予め設定されるものであり、図2のステップS6の停止目標位置と同様に、錘6の遠心力の水平方向成分がある場所である。
【0031】
一方、錘6が停止位置に来た場合は、DCモータにブレーキをかけて減速または停止させる(ステップS16)。これにより、錘6に慣性力が作用して、移動装置1はその慣性力の方向に一歩移動する。
【0032】
ここで、DCモータは、制動(ブレーキ)をかけない限り、減速または停止しないため、上述したステップS16ではブレーキをかける処理が必須となる。これに対して、ステッピングモータは、駆動パルスを停止するか駆動パルスの間隔を広げれば、減速または停止するため、ブレーキをかける処理は不要である。
【0033】
次に、移動装置1が移動し終わるまで待機する(ステップS17)。次に、移動装置1が目標位置まで移動したか否かを判定する(ステップS18)。目標位置まで移動した場合は処理を終了し、まだ目標位置に達していなければステップS11に戻る。目標位置まで移動したか否かの判断は、一歩の長さをDCモータの回転速度等から見積もって、それに図3の処理の繰り返し数を乗じて移動距離を推定することで行う。あるいは、この判断は、光学センサ等や外部の電磁波の強度測定により行ってもよい。
【0034】
このように、第1の実施形態では、振動モータ2の錘6が所定位置まで回転したときに、振動モータ2の回転を減速または停止させると、錘6に慣性力が働くことに着目し、この慣性力を利用して移動装置1を所望の方向に移動させるため、振動モータ2が1個だけの場合でも、移動装置1を振動モータ2の回転軸5を基準とする左右の方向に移動させることができる。なお、振動モータ2が移動体3の重心になければ、移動体3は円弧を描いて左右に移動する。
【0035】
より具体的には、振動モータ2としてステッピングモータを用いた場合は、錘6が所定の停止目標位置まで回転すると、駆動パルスを停止させるか、あるいは駆動パルスの周波数を低くすることで、移動装置1を回転軸5を基準とする左右の方向に移動させることができる。また、振動モータ2としてDCモータを用いた場合は、錘6が所定の停止位置まで回転するとDCモータにブレーキをかけることで、移動装置1を左右の方向に移動させることができる。
【0036】
(第2の実施形態)
第2の実施形態は、少なくとも2個の振動モータを同期させて、あるいは非同期に駆動することで、移動装置1を所望の位置まで移動または回転させるものである。
【0037】
図4(a)は本発明の第2の実施形態に係る移動装置1の内部構成図、図5(a)は図4(a)の移動装置1の概略構成を示すブロック図である。図4(a)に示すように、移動装置1は、少なくとも2個の振動モータ2A,2Bと、移動体3と、回転制御部4とを備えている。各振動モータ2A,2Bは、図1と同様に回転軸5に偏って取り付けられる錘6を有する。移動体3は振動モータ2A,2Bと回転制御部4を内蔵している。
【0038】
振動モータ2A,2Bは、ステッピングモータやDCモータなどの回転軸5に偏って錘6を取り付けることができるモータであればよく、具体的なモータの種類は問わない。
【0039】
図5(a)に示すように、回転制御部4は、CPU11と、各振動モータ2A,2Bを駆動する少なくとも2つのモータドライバ12とを有する。図4(a)では省略しているが、回転制御部4には、錘6の位置を検出する位置検出センサ13と、移動装置1の方位を検出するジャイロセンサ14とが接続されている。
【0040】
位置検出センサ13の詳細については後述するが、場合によっては省略してもよい。ジャイロセンサ14は、移動装置1が所望の方向に移動したか否かを検出するために設けられている。ジャイロセンサ14の代わりに地磁気センサを設けてもよい。
【0041】
本実施形態では、各振動モータ2A,2Bを同期して駆動することに特徴がある。同期して駆動することにより、移動装置1を所望の場所まで移動または回転させるのに必要な各振動モータ2A,2Bの回転数や回転周波数の計算が容易になる。ただし、各振動モータ2A,2Bの回転数や回転周波数の計算が多少複雑になっても構わない場合または正確な移動方向や移動距離を把握する必要がない場合は、各振動モータ2A,2Bを非同期で駆動してもよい。
【0042】
また、望ましくは、各振動モータ2A,2Bの錘6の位置を揃えた状態で、各振動モータ2A,2Bを同期して駆動する。各振動モータ2A,2Bの錘6の位置を揃える理由は、振動モータ2A,2Bには回転軸5に偏って錘6が取り付けられており、複数の振動モータ2A,2Bの駆動開始時に、それぞれの錘6の位置が異なっていると、仮に複数の振動モータ2A,2Bを同時に駆動したとしても、複数の振動モータ2A,2Bの回転速度は必ずしも同じにはならないためである。
【0043】
各振動モータ2A,2Bの錘6の位置を揃えるには、複数の振動モータ2A,2Bの駆動を停止する際に、錘6の位置を揃えた状態で駆動を停止させればよい。これにより、その後に複数の振動モータ2A,2Bの駆動を再開するときに、どの振動モータでも、同じ位置から錘6が回転することになり、各振動モータ2A,2Bの錘6の遠心力を揃えることができる。
【0044】
錘6の位置を合わせる方法として、1)錘6が特定の位置を通過したことを検出して、その位置で錘6を停止させる方法と、2)重力を利用して錘6の重心を最下方に移動させる方法とがある。
【0045】
上記1)の方法では、図6に示すような位置検出センサ13を用いる。図6は位置検出センサ(錘検出部)13を用いて錘6の位置を検出する方法を説明する図であり、図6(a)は位置検出センサ11周辺の正面図、図6(b)は側面図である。位置検出センサ13は、発光素子と受光素子を内蔵しており、発光素子は振動モータ2の回転軸5方向に光を発光する。錘6の前面には反射板15を取り付けてあり、この反射板15は発光素子からの光を反射する。反射された光は受光素子に入射される。錘6は、回転軸5周りに回転しており、錘6が最下方まで下がったときのみ、位置検出センサ13の発光素子からの光を反射して、位置検出センサ13の受光素子がこの反射光を受ける。したがって、錘6が最下方まで下がったときのみ、位置検出センサ13は錘6の位置を検出する。そして、位置検出センサ13が錘6の位置を検出すると、その位置に錘6を固定すべく、CPU11はモータドライバ12に振動モータ2の停止を指示する。これにより、モータドライバ12は振動モータ2への駆動信号の供給を停止し、振動モータ2の回転も停止する。よって、すべての振動モータ2は、錘6の回転位置を揃えた状態で停止する。
【0046】
上記2)の方法では、モータドライバ12から振動モータ2への駆動信号の供給を停止して回転フリー状態とし、錘6が重力により自然に最下方まで下がるようにする。
【0047】
上記1)と2)のいずれの場合も、錘6が最下方まで下がった位置で各振動モータ2が停止し、この位置から振動モータ2の駆動を再開するようにする。これにより、どの振動モータ2であっても、同じ位置から錘6が回転するようになり、錘6に加わる遠心力も等しくなる。
【0048】
移動装置1に取り付けられる振動モータの数は、移動装置1の大きさや振動モータの振動エネルギーによって適宜変更するのが望ましい。以下では、2個の振動モータ2A,2Bを設ける例について説明する。
【0049】
第2の実施形態では、2個の振動モータ2A,2Bを同期して回転させることで、移動装置1を所望の方向に移動または回転させる。
【0050】
図7(a)は移動装置1を右側に移動(前進)させる例、図7(b)は移動装置1を反時計回りに回転させる例を示している。図7(a)のように移動装置1を図示の右側に移動(前進)させるためには、2個の振動モータ2A,2Bの錘6の遠心力が図示の右方向の成分を持っているときに、これら振動モータ2A,2Bを減速または停止させればよい。これにより、錘6に対して図示の右側に慣性力が作用し、移動装置1は図示の右側(前進側)に移動する。
【0051】
一方、図7(b)のように移動装置1を図示の反時計回りに回転させるためには、振動モータ2Aの錘6の遠心力が図示の左方向に成分を持ち、振動モータ2Bの錘6の遠心力が図示の右方向の成分を持っているときに、これらモータを減速または停止させる。これにより、振動モータ2Aは移動装置1を図示の左側に移動させ、振動モータ2Bは移動装置1を図示の右側に移動させることから、結果として移動装置1は図示の反時計回りに回転する。
【0052】
なお、振動モータ2A,2Bを回転させる方向は、振動モータ2A,2Bの取付方向によって変化する。よって、錘6の停止位置を変えないとすれば、振動モータ2A,2Bを180度回転して取り付けた場合は、慣性の方向を合わせるために回転の方向を変える必要がある。
【0053】
移動装置1の底面が床面7に接触している場合、移動装置1の底面の面積が大きいほど摩擦力が大きくなり、振動モータ2で発生する慣性力では移動しにくくなる。そこで、図4(b)に示すように、移動装置1の底面に複数の脚部16を設けて、これら脚部16でのみ床面7と接触するようにして、床面7との摩擦力を減らすのが望ましい。
【0054】
図4(b)に示すように、移動装置1の底面に複数の脚部16を設ける場合は、振動モータ2A,2Bを非同期で駆動してもよい。例えば、図4(c)は移動装置1に2個の脚部16を設けて、振動モータ2A,2Bを交互に駆動する例を示す上面図である。振動モータ2Aを駆動すると、振動モータ2Aから離れた下側の脚部16が支点となって、移動装置1は図示の右側に移動する。次に、振動モータ2Aを停止させて振動モータ2Bを駆動すると、振動モータ2Bから離れた上側の脚部16が支点となって、移動装置1は図示の右側に移動する。このように、振動モータ2A,2Bを交互に駆動することで、移動装置1を振動モータ2A,2Bの回転軸5を基準として右側または左側に移動させることができる。
【0055】
このように、移動装置1に脚部16を設ければ、脚部16を基点として移動装置1は移動または回転を行うことになり、移動装置1の移動または回転制御を行いやすくなる。
【0056】
図8は第2の実施形態に係る回転制御部4の処理動作の一例を示すフローチャートである。まず、移動装置1の現在の方位を検出する(ステップS21)。ここでは、例えばジャイロセンサを用いて現在の方位を検出する。
【0057】
次に、移動または回転すべき方向を把握する(ステップS22)。そして、設定した目標位置まで移動装置1が移動するように、2個の振動モータ2A,2Bを回転駆動する(ステップS23〜S26)。具体的には、移動装置1を時計回り(右方向)に回転させるには、振動モータ2A,2Bそれぞれの軸端、すなわち回転軸5を錘6の方向から見て、振動モータ2A,2Bの錘6に左方向の遠心力が働いているときに両モータを減速または停止させる(ステップS23)。また、移動装置1を反時計回り(左方向)に回転させるには、2個の振動モータ2A,2Bの錘6に右方向の遠心力が働いているときに両モータを減速または停止させる(ステップS24)。また、移動装置1を前進させるには、いずれのモータでも錘6に前進方向の遠心力が働いているときに両モータを減速または停止させる(ステップS25)。また、移動装置1を後退させるには、いずれのモータでも錘6に後退方向の遠心力が働いているときに両モータを減速または停止させる(ステップS26)。
【0058】
ステップS23〜S26の処理によって移動装置1が移動または回転すると、次に、ジャイロセンサを用いて移動装置1の現在の方位を検出する(ステップS27)。そして、ステップS27の検出結果により、正しい方向に進んだか否かを判定する(ステップS28)。正しい方向に進んでいないと判定されると、ステップS22に戻って、移動先の修正を行う。正しい方向に進んだと判定された場合は、図8のフローチャートを終了する。
【0059】
ところで、第2の実施形態に係る振動モータ2A,2Bは、ステッピングモータのように制動部(ブレーキ)を必要としないモータでもよいし、DCモータのように制動部を必要とするモータでもよい。例えばDCモータを用いる場合の移動装置の概略構成は図5(b)のようなブロック図で表される。図5(b)の移動装置は、図5(a)の移動装置の構成に加えて、各振動モータ2A,2Bごとに制動部17を設けている。
【0060】
制動部17を有する場合は、図8のステップS23〜S26の処理を行う際に、錘6が所定の位置まで回転した時点で、制動部17でブレーキをかけてモータを減速または停止させる。
【0061】
このように、第2の実施形態では、少なくとも2個の振動モータ2A,2Bを同期して駆動するため、移動装置1を所望の場所まで移動または回転させることができる。
【0062】
本発明の態様は、上述した個々の実施形態に限定されるものではなく、当業者が想到しうる種々の変形も含むものであり、本発明の効果も上述した内容に限定されない。すなわち、特許請求の範囲に規定された内容およびその均等物から導き出される本発明の概念的な思想と趣旨を逸脱しない範囲で種々の追加、変更および部分的削除が可能である。
【符号の説明】
【0063】
1 移動装置
2、2A、2B 振動モータ
3 移動体
4 回転制御部
5 回転軸
6 錘
11 CPU
12 モータドライバ
13 位置検出センサ
14 ジャイロセンサ
15 反射板
17 制動部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸に偏って取り付けられる錘部材を有する振動モータと、
前記振動モータが取り付けられ、前記振動モータと共に移動可能な移動体と、
前記移動体が前記錘部材の慣性力により所定方向に移動するように、前記錘部材が所定の回転位置のときに前記振動モータを減速させるか停止させる回転制御部と、を備えることを特徴とする移動装置。
【請求項2】
前記振動モータは、前記錘部材を有するステッピングモータであり、
前記ステッピングモータに与える駆動パルスの数および駆動周波数を設定する駆動制御部と、
前記駆動制御部で設定した個数の駆動パルスを前記ステッピングモータに与えたか否かを判断する回転位置判断部と、を備え、
前記回転制御部は、前記回転位置判断部により与えたと判断された場合に、前記振動モータを減速させるか停止させることを特徴とする請求項1に記載の移動装置。
【請求項3】
前記振動モータは、前記錘部材を有するDCモータであり、
前記DCモータが安定するまで所定回数回転した後に、所定の回転位置に達したか否かを判断する回転位置判断部と、
前記DCモータの回転を制動する制動部と、を備え、
前記回転制御部は、前記回転位置判断部により前記所定の回転位置に達したと判断された場合に、前記制動部により前記DCモータの回転を制動して、前記振動モータを減速させるか停止させることを特徴とする請求項1に記載の移動装置。
【請求項4】
前記回転制御部が前記振動モータを減速させるか停止させる基準となる前記錘部材の前記所定の回転位置は、前記錘部材の遠心力の少なくとも一部の成分が前記所定方向である回転位置であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の移動装置。
【請求項5】
回転軸に偏って取り付けられる錘部材をそれぞれ有する少なくとも2つの振動モータと、
前記振動モータのそれぞれが取り付けられ、前記振動モータと共に回転および移動可能な移動体と、
前記移動体が所定方向に回転または移動するように、前記振動モータのそれぞれを同期して回転させる回転制御部と、を備えることを特徴とする移動装置。
【請求項6】
前記回転制御部は、前記振動モータのそれぞれの前記錘部材の回転位置を揃えた状態で、前記振動モータのそれぞれを同期して回転させることを特徴とする請求項5に記載の移動装置。
【請求項7】
前記錘部材の回転位置を検出する錘検出部を備え、
前記回転制御部は、前記錘検出部で前記錘部材の回転位置が検出された時点で前記振動モータを停止させることを特徴とする請求項6に記載の移動装置。
【請求項8】
前記移動体に取り付けられる地磁気センサまたはジャイロセンサを備え、
前記回転制御部は、前記地磁気センサまたは前記ジャイロセンサの検出信号に基づいて、前記移動体が所定方向に移動または回転するように前記少なくとも2つの振動モータの回転方向を制御することを特徴とする請求項5乃至7のいずれかに記載の移動装置。
【請求項9】
回転軸に偏って取り付けられる錘部材をそれぞれ有する少なくとも2つの振動モータと、
前記振動モータのそれぞれが取り付けられ、前記振動モータと共に回転および移動可能な移動体と、
前記移動体の複数箇所に取り付けられ、床面に接触されて床面上を移動可能な複数の脚部と、
前記複数の脚部のいずれかを基点として他の脚部が所定方向に回転または移動するように、前記振動モータのそれぞれを回転させる回転制御部と、を備えることを特徴とする移動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−48809(P2013−48809A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−189340(P2011−189340)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000114215)ミネベア株式会社 (846)
【Fターム(参考)】