説明

移動通信システム、基地局装置、およびハンドオーバ方法

【課題】ハンドオーバ中の移動局から送信されたデータが消失しないよう、基地局間の通信経路を切り替えること。
【解決手段】ハンドオーバ先である基地局12は、第1の移動局のハンドオーバ開始に伴い、第1の移動局から送信された無線信号に応じたRTPパケットをハンドオーバ元の基地局から受信するとともに、受信したRTPパケットを、第1の移動局と呼接続する第2の移動局と無線通信を行う相手基地局に転送するRTP通信制御部34と、受信したRTPパケットに含まれる音声情報と、第1の移動局から受信した無線信号に含まれる音声情報と、の同一性を判定する音声比較部40と、音声情報の同一性が確認されたタイミングで、RTP通信制御部34が相手基地局に送信するRTPパケットを、ハンドオーバ元の基地局から受信するRTPパケットから、第1の移動局から受信する無線信号に応じたRTPパケットに切り替える送信データ切替部42と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動通信システム、基地局装置、およびハンドオーバ方法に関し、特に、ネットワークを介して接続された複数の基地局装置を含む移動通信システムにおけるハンドオーバ技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やPHS(Personal Handy-phone System)などの移動通信システムでは、通話品質の向上や回線コストの削減などを目的として、基地局間の基幹回線(バックボーン)を回線交換網からIP(Internet Protocol)網に移行することが検討されている。基地局間がIP網で接続される移動通信システムでは、移動局のハンドオーバに伴って基地局間の通信経路が切り替えられる。
【0003】
図6は、基地局間のデータ通信にコネクションレス型伝送プロトコルの1つであるRTP(Real-time Transport Protocol)を適用する従来の移動通信システム70において、移動局74−2と呼接続している移動局74−1が基地局72−1から基地局72−2にハンドオーバする手順を説明する図である。同図に示すように、移動局74−1がハンドオーバを開始する前は、ハンドオーバ元の基地局72−1と移動局74−2が無線接続する基地局72−3との間にRTPセッション1(切替元セッション)が確立されており、このRTPセッション1を用いて通信データが送受信されている(同図(a)参照)。
【0004】
ここで移動局74−1が基地局72−2へのハンドオーバを開始すると、基地局72−3は、ハンドオーバ元の基地局72−1との間に確立されたRTPセッション1を解放し、新たにハンドオーバ先の基地局72−2との間でRTPセッション2(切替先セッション)を確立する(同図(b)参照)。
【0005】
なお、特許文献1には、IP網における網障害や通信品質の低下を安価かつ簡略に回避するための技術が開示されている。また、特許文献2には、音声またはデータ通信を維持しながらWWAN(Wireless Wide Area Network:無線広帯域ネットワーク)とWLAN(Wireless Local Area Network:無線ローカルエリアネットワーク)との間で自動シームレス垂直ローミングを行うための技術が開示されている。
【特許文献1】特開2001−53794号公報
【特許文献2】特表2004−517574号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の移動通信システムでは、ハンドオーバに伴う基地局間の通信経路の切り替えが非同期で行われるため、ハンドオーバ中の移動局から送信されたデータの一部が基地局で破棄されてしまう場合があった。
【0007】
たとえば、図6に示す移動通信システム70において、RTPセッション1の解放タイミングに対してRTPセッション2の確立タイミングが早い場合、基地局72−3はすでに基地局72−1からのデータ送信が終了したRTPセッション1を監視し続け、基地局72−2から送信されるRTPセッション2のデータを破棄してしまうことがあった。逆に、RTPセッション1の解放タイミングに対してRTPセッション2の確立タイミングが遅い場合、基地局72−3はRTPセッション1のジッタバッファ内に蓄積されたデータを移動局74−2に送信することなく破棄してしまうことがあった。
【0008】
本発明は、上記従来の課題に鑑みてなされたものであり、ハンドオーバ中の移動局装置から送信されたデータが消失しないよう、ネットワークを介して接続された基地局装置間の通信経路を切り替える移動通信システム、基地局装置、およびハンドオーバ方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明に係る移動通信システムは、ネットワークを介して接続された複数の基地局装置を含み、第1の移動局装置が第1の基地局装置から第2の基地局装置にハンドオーバを行う移動通信システムであって、前記第1の基地局装置は、前記第1の移動局装置から受信した無線信号に応じたデータを、前記第1の移動局装置と呼接続する第2の移動局装置と無線通信を行う相手基地局装置に送信する第1データ送信手段と、前記第1の移動局装置のハンドオーバ開始に伴い、前記第1データ送信手段により送信されるデータの送信先を、前記相手基地局装置から前記第2の基地局装置に切り替えるデータ送信先切替手段と、を含み、前記第2の基地局装置は、前記第1データ送信手段により送信されるデータを受信するデータ受信手段と、前記データ受信手段により受信されたデータを前記相手基地局装置に転送する第2データ送信手段と、前記データ受信手段により受信されたデータに含まれる情報と、前記第1の移動局装置から受信した無線信号に含まれる情報と、の同一性を判定する同一性判定手段と、前記同一性判定手段により情報の同一性が確認されたタイミングで、前記第2データ送信手段により送信されるデータを、前記データ受信手段により受信されるデータから、前記第1の移動局装置から受信する無線信号に応じたデータに切り替える送信データ切替手段と、を含むことを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、ハンドオーバ元の基地局装置から相手基地局装置に対して送信されたデータと、ハンドオーバ先の基地局装置から相手基地局装置に対して送信されるデータと、が一致したタイミングで、基地局装置間の通信経路が切り替えられるため、ハンドオーバ中の移動局装置から送信されたデータの消失を防ぐことができる。
【0011】
また、本発明の一態様では、前記基地局装置間で送受信されるデータは、コネクションレス型の伝送プロトコルに基づくパケットであり、前記送信データ切替手段は、前記送信データの切り替え前後で前記第2データ送信手段が送信するパケットの連続性が維持されるよう、前記切り替え前に送信されたパケットのヘッダ情報の少なくとも一部を、前記切り替え後に送信されるパケットに引き継ぐ。この態様によれば、相手基地局装置にパケット伝送レイヤにおけるセッションの切り替え動作をさせることなく、相手基地局装置に送信するパケットの送信元をハンドオーバ元の基地局装置からハンドオーバ先の基地局装置に切り替えるので、ハンドオーバに伴う相手基地局装置側の処理負荷を低減することができる。
【0012】
この態様では、前記コネクションレス型の伝送プロトコルは、RTPプロトコルであってもよく、前記送信データ切替手段は、前記送信データの切り替え前後で前記第2データ送信手段が送信するパケットの連続性が維持されるよう、前記切り替え前に送信されたRTPパケットのヘッダに含まれるシーケンス番号とタイムスタンプと同期送信元識別子とを、前記切り替え後に送信されるRTPパケットに引き継いでもよい。こうすれば、相手基地局装置にRTPセッションの切り替え動作をさせることなく、相手基地局装置とハンドオーバ元の基地局装置との間で確立されたRTPセッションを解放すると同時に、相手基地局装置とハンドオーバ元の基地局装置との間に新たなRTPセッションを確立することができる。
【0013】
また、本発明に係る基地局装置は、他の基地局装置とネットワークを介して接続され、前記他の基地局装置と無線通信を行う第1の移動局装置のハンドオーバ開始に伴い第1の移動局装置と無線通信を開始する基地局装置であって、前記ハンドオーバの開始に伴い、前記第1の移動局装置から送信された無線信号に応じたデータを前記他の基地局装置から受信するデータ受信手段と、前記データ受信手段により受信されたデータを、前記第1の移動局装置と呼接続する第2の移動局装置と無線通信を行う相手基地局装置に転送するデータ送信手段と、前記データ受信手段により受信されたデータに含まれる情報と、前記第1の移動局装置から受信した無線信号に含まれる情報と、の同一性を判定する同一性判定手段と、前記同一性判定手段により情報の同一性が確認されたタイミングで、前記データ送信手段により送信されるデータを、前記データ受信手段により受信されるデータから、前記第1の移動局装置から受信する無線信号に応じたデータに切り替える送信データ切替手段と、を含むことを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係るハンドオーバ方法は、ネットワークを介して接続された複数の基地局装置を含む移動通信システムにおいて、第1の移動局装置が第1の基地局装置から第2の基地局装置にハンドオーバを行うためのハンドオーバ方法であって、前記第1の移動局装置によるハンドオーバの開始に伴い、前記第1の基地局装置が、前記第1の移動局装置から受信した無線信号に応じたデータの送信先を、前記第1の移動局装置と呼接続する第2の移動局装置と無線通信を行う相手基地局装置から前記第2の基地局装置に切り替えるデータ送信先切替ステップと、前記データ送信先切替ステップの後、前記第2の基地局装置が、前記第1の基地局装置から送信されるデータを受信するデータ受信ステップと、前記第2の基地局装置が、前記データ受信ステップで受信したデータを前記相手基地局装置に転送するデータ送信ステップと、前記第2の基地局装置が、前記データ受信ステップで受信したデータに含まれる情報と、前記第1の移動局装置から受信した無線信号に含まれる情報と、の同一性を判定する同一性判定ステップと、前記第2の基地局装置が、前記同一性判定手段ステップで情報の同一性を確認したタイミングで、前記データ送信ステップで送信するデータを、前記データ受信ステップで受信するデータから、前記第1の移動局装置から受信する無線信号に応じたデータに切り替えるステップと、を含むことを特徴とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0016】
図1は、本発明の一実施形態に係る移動通信システム10の全体構成図である。同図に示すように、移動通信システム10は、複数の基地局12(ここでは基地局12−1〜12−3のみを示す。)と複数の移動局14(ここでは移動局14−1,14−2のみを示す。)を含んで構成されている。基地局12−1〜12−3は、IP網16を介して相互に接続されている。
【0017】
移動通信システム10では、移動局14−1が移動局14−2と音声通信を行う場合、図1に示すように、移動局14−1が無線接続する基地局12−1と移動局14−2が無線接続する基地局12−3との間にRTPセッションが確立され、このRTPセッションを介して音声データが送受信される。ここで、移動局14−1が基地局12−1から基地局12−2にハンドオーバすると、新たに基地局12−2と基地局12−3との間に確立されるRTPセッションを用いて音声データが送受信されるようになる。特に、本実施形態に係る移動通信システム10は、ハンドオーバ中の移動局14−1から送信された音声データが消失しないよう、ハンドオーバ先の基地局12−2と基地局12−3との間にRTPセッションを確立する(RTPセッションを切り替える)、という機能を有している。
【0018】
以下では、上記機能を実現するために基地局12が備える構成について詳細に説明する。
【0019】
図2は、基地局12の機能ブロック図である。同図に示すように、基地局12は、アンテナ20、無線部22、制御部24、記憶部26、回線インターフェース28を含んで構成される。
【0020】
アンテナ20は、無線部22から供給される無線信号を放射する。また、移動局14から送信される無線信号を受信し、その無線信号を無線部22に出力する。なお、送信および受信は、無線部22の指示に従って時分割で切り替えられる。
【0021】
無線部22は、パワーアンプ、ローノイズアンプ、帯域通過フィルタ、ミキサ、D/Aコンバータ、A/Dコンバータ、変調回路、復調回路などを含んで構成される。そして、アンテナ20で受信された無線信号をベースバンド信号に変換し、そのベースバンド信号を無線受信データとして制御部24に出力する。また、制御部24から入力される無線送信データを無線信号に変換し、変換した無線信号を送信出力レベルにまで増幅してアンテナ20に供給する。
【0022】
制御部24は、たとえばCPUおよびCPUの動作を制御するプログラムで構成され、基地局12の各部を制御する。また、呼管理部30、UDP/IP通信制御部32、RTP通信制御部34、データ処理部36を機能的に含み、他の基地局12とのデータ通信に係る処理を行う。これらの機能は、たとえば記憶部26に記憶されるプログラムをCPUが実行することによって実現される。
【0023】
記憶部26は、たとえばRAMやROMなどのメモリ素子で構成され、制御部24を機能させるための各種プログラムを記憶する。また、移動局14−1からの無線受信データを一時的に格納するバッファとしても動作する。
【0024】
回線インターフェース28は、基地局12とIP網16とを相互に接続し、IP網16を介して入力されるデータ(UDP/IPパケット)を制御部24に出力するとともに、制御部24から入力されるデータ(UDP/IPパケット)をIP網16を介して他の基地局12に出力する。
【0025】
次に、制御部24の機能的構成をより詳細に説明する。
【0026】
呼管理部30は、図示しない交換機(またはそれに類する上位装置)からの通知(たとえば、呼接続開始通知やハンドオーバ開始通知)に応じて、呼管理に係る各種処理を行う。たとえば、移動局14の呼接続に伴ってRTPセッションを確立したり、移動局14のハンドオーバに伴ってRTPセッションを切り替えたりするために、UDP/IP通信制御部32、RTP通信制御部34、データ処理部36を制御する。
【0027】
なお、交換機(またはそれに類する上位装置)は、たとえば図1に示す移動局14−1から「基地局12−1から基地局12−2へハンドオーバする」との通知を受けると、ハンドオーバ元の基地局12−1に、ハンドオーバ先の基地局12−2に係る情報(IPアドレスなど)を含むハンドオーバ開始通知を送信する。また、ハンドオーバ先の基地局12−2には、ハンドオーバ元の基地局12−1および基地局12−3に係る情報(IPアドレスなど)を含むハンドオーバ開始通知を送信する。
【0028】
UDP/IP通信制御部32は、呼管理部30の指示に従って、UDP/IPプロトコルに基づくIP網16上のデータ通信に係る処理を行う。具体的には、他の基地局12との間でUDP/IPセッションを確立したり、確立されたUDP/IPセッションを解放したりする。そして、回線インターフェース28から入力されるUDP/IPパケットからRTPパケットを取得し、取得したRTPパケットをRTP通信制御部34に出力する。また、RTP通信制御部34から入力されるRTPパケットに所定のUDPヘッダおよびIPヘッダを付与し、生成されたUDP/IPパケットを回線インターフェース28を介して送信する。
【0029】
RTP通信制御部34は、呼管理部30の指示に従って、RTPプロトコルに基づくIP網16上のデータ通信に係る処理を行う。具体的には、他の基地局12との間でRTPUDP/IPセッションを確立したり、確立されたUDP/IPセッションを解放したりする。そして、UDP/IP通信制御部32から入力されるRTPパケットからペイロードデータを取得し、そのペイロードデータを有線受信データとしてデータ処理部36に出力するとともに、RTPパケットのヘッダ情報の一部(シーケンス番号、タイムスタンプ、SSRC(Synchrozination Source:同期送信元)識別子)を記憶する(図3の網掛け部分参照)。また、データ処理部36から入力される有線送信データに所定のRTPヘッダを付与し、生成されたRTPパケットをUDP/IP通信制御部32に出力する。
【0030】
データ処理部36は、データ送信先切替部38、音声比較部40、送信データ切替部42を含み、呼管理部30の指示に従って、他の基地局12との間で送受信するデータおよび移動局14との間で送受信するデータに係る処理を行う。以下、データ送信先切替部38については、当該基地局12が図1に示すハンドオーバ元の基地局12−1であるとして説明する。一方、音声比較部40および送信データ切替部42については、当該基地局12が図1に示すハンドオーバ先の基地局12−2であるとして説明する。
【0031】
基地局12−1におけるデータ送信先切替部38は、移動局14−1のハンドオーバ開始に伴い、無線部22から入力される移動局14−1からの無線受信データの送信先を、基地局12−3からハンドオーバ先の基地局12−2に切り替える。これにより、移動局14−1のハンドオーバが完了するまで、ハンドオーバ元の基地局12−1から基地局12−3に送信されるべきRTPパケットは、基地局12−1と基地局12−2との間で確立されたRTPセッションにてハンドオーバ先の基地局12−2に送信されるようになる(図4(a)参照)。基地局12−1から送信されたRTPパケットを受信した基地局12−2は、RTPセッションの切り替え(切替元セッションの解放および切替先セッションの確立)を行うまでの間(後述)、ハンドオーバ元の基地局12−1から送信されたRTPパケットをそのまま基地局12−3に転送する(図4(a)参照)。
【0032】
基地局12−2における音声比較部40は、移動局14−1から送信された同一の音声データを、ハンドオーバ元の基地局12−1との間に確立されたRTPセッションおよび無線伝送路の2つの通信経路で取得する。そして、2つの通信経路それぞれで取得された音声データがハンドオーバ先の基地局12−2において同期するタイミングを特定するために、それら2つの音声データについて音声情報の同一性を判定する。
【0033】
すなわち、音声比較部40は、ハンドオーバ元の基地局12−1から受信したRTPパケットに含まれる音声情報と、移動局14−1から受信した無線信号に含まれる音声情報と、を比較することによりそれらの同一性を判定する。たとえば、ハンドオーバ元の基地局12−1から送信されたRTPパケットに含まれる音声データと、無線部22から入力された移動局14−1からの無線受信データに含まれる音声データと、を直接比較してもよいし、上記RTPパケットに含まれる音声データに応じた音声波形(アナログ信号)と、上記無線受信データに含まれる音声データに応じた音声波形(アナログ信号)と、の相関を求めてもよい。そして、音声比較部40は、音声情報の同一性を確認したタイミングで、後述する送信データ切替部42に送信データの切り替えを指示する。
【0034】
なお、音声比較部40は、無線部22から入力される無線受信データを記憶部26(バッファ)に一時的に格納し、RTPパケットに含まれるペイロードデータと同一の(または相関の高い)無線受信データがバッファに格納されているか否かを確認することにより、音声情報の同一性を判定してもよい。こうすれば、移動局14−1から送信された同一の音声データが、異なる通信経路を介して異なるタイミングで基地局12−2に到達しても、基地局12−2において両音声データが同期するタイミングを正しく特定することができる。
【0035】
基地局12−2における送信データ切替部42は、音声比較部40により音声情報の同一性が確認されたタイミングで、RTP通信制御部34が基地局12−3に送信するRTPパケットを、ハンドオーバ元の基地局12−1から受信するRTPパケットから、無線部22から入力される移動局14−1からの無線受信データを含むRTPパケットに切り替える。これにより、ハンドオーバ中の移動局14−1から送信された音声データが消失することなく、ハンドオーバ先の基地局12−2と基地局12−3との間に新たなRTPセッションが確立される(図4(b)参照)。
【0036】
特に、送信データ切替部42は、RTP通信制御部34が基地局12−3に送信するRTPパケットを切り替える前と後でRTPパケットの連続性が維持されるよう、RTP通信制御部34に指示する。すなわち、RTP通信制御部34が切り替え直前に送信したRTPパケット(ここでは「切替前RTPパケット」という。)のヘッダ情報の一部が、切り替え直後に送信されるRTPパケット(ここでは「切替後RTPパケット」という。)に引き継がれるよう、RTP通信制御部34に指示する。
【0037】
具体的には、RTP通信制御部34は、送信データ切替部42の指示に従って、切替後RTPパケットのシーケンス番号に、切替前RTPパケットのシーケンス番号に1を加えた値を設定する。また、切替後RTPパケットのタイムスタンプに、切替前RTPパケットのタイムスタンプに切替後RTPパケットに含まれる音声データの再生時間を加えた値を設定する。さらに、切替後RTPパケットのSSRC識別子には、切替前RTPパケットのSSRC識別子をそのまま設定する。
【0038】
これにより、移動局14−1のハンドオーバに伴ってRTPセッション切り替えても、基地局12−3から見たRTPパケットの送信元はハンドオーバ元の基地局12−1のまま変化しない上、基地局12−3が受信するRTPパケットのシーケンス番号およびタイムスタンプの連続性が維持されるようになる。このため、基地局12−3は、移動局14−1のハンドオーバに伴ってRTPセッションの切り替え動作をする必要がなく、処理負荷が低減される。具体的には、RTPセッションの切り替えに伴って行うべき、(1)ハンドオーバ元の基地局12−1との間に確立されたRTPセッションの解放処理、(2)ハンドオーバ先の基地局12−2とのRTPセッションの確立処理、(3)RTP再生時間の再生時刻の再計算処理、の実行を省くことができる。
【0039】
ここで、基地局12の動作について説明する。
【0040】
図5は、図1に示す移動局14−1のハンドオーバに伴いハンドオーバ先の基地局12−2で実行されるRTPセッションの切り替え処理の一例を示すフロー図である。移動局14−1が基地局12−1から基地局12−2へのハンドオーバを開始すると、移動局14−1は、基地局12−1との無線通信に加え、新たにハンドオーバ先の基地局12−2との無線通信を開始する。また、ハンドオーバ元の基地局12−1は、移動局14−1から受信した無線信号に応じたRTPパケットの送信先を、基地局12−3からハンドオーバ先の基地局12−2に切り替える。
【0041】
これに応じて、基地局12−2は、移動局14−1から送信された無線信号を受信するとともに(S100)、受信した無線信号に応じた音声データをバッファに格納する(S102)。また、基地局12−2は、ハンドオーバ元の基地局12−1から送信されたRTPパケットを受信する(S104)。
【0042】
次に、基地局12−2は、S104で受信したRTPパケットに含まれる音声データと同一の音声データがバッファに格納されているか否かを判定する(S106)。バッファに同一の音声データが格納されていなければ(S106:N)、S104で受信したRTPパケットをそのまま基地局12−3に転送する(S108)。また、転送したRTPパケットのヘッダに含まれるシーケンス番号、タイムスタンプ、SSRC識別子を記憶する(S110)。
【0043】
一方、S104で受信したRTPパケットに含まれる音声データと同一の音声データがバッファに格納されていれば(S106:Y)、基地局12−2は、S110で記憶したシーケンス番号、タイムスタンプ、SSRC識別子を引き継いで基地局12−3との間に新たなRTPセッションを確立する(S112)。すなわち、基地局12−2は、基地局12−3に送信するRTPパケットを切り替える前と後でRTPパケットの連続性が維持されるよう、基地局12−3に送信するRTPパケットを、ハンドオーバ元の基地局12−1から受信するRTPパケットから、移動局14−1からの無線受信データを含むRTPパケットに切り替える。
【0044】
以上説明した移動通信システム10によれば、ハンドオーバ元の基地局12−1から基地局12−3に対して送信された音声データと、ハンドオーバ先の基地局12−1から基地局12−3に対して送信される音声データと、が一致したタイミングで、ハンドオーバ先の基地局12−2と基地局12−3との間にRTPセッションが確立されるため、ハンドオーバ中の移動局14−1から送信されたデータの消失を防ぐことができる。
【0045】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、種々の変形実施が可能である。たとえば、以上の説明では、基地局間がIP網で接続された移動通信システムにおける音声通信に本発明を適用したが、本発明は、基地局間がIP網以外のネットワーク(無線網でもよい)で接続された移動通信システムでの通信全般に適用可能である。また、基地局間のデータ伝送には、RTPに限らず、UDPその他のプロトコルを適用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の実施形態に係る移動通信システムの全体構成図である。
【図2】本発明の実施形態に係る基地局の機能ブロック図である。
【図3】RTPパケットの構成を示す図である。
【図4】本発明の実施形態に係るハンドオーバ手順を説明する図である。
【図5】本発明の実施形態に係るRTPセッションの切り替え処理の一例を示すフロー図である。
【図6】従来のハンドオーバ手順を説明する図である。
【符号の説明】
【0047】
10 移動通信システム、12 基地局、14 移動局、16 IP網、20 アンテナ、22 無線部、24 制御部、26 記憶部、28 回線インターフェース、30 呼管理部、32 UDP/IP通信制御部、34 RTP通信制御部、36 データ処理部、38 データ送信先切替部、40 音声比較部、42 送信データ切替部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネットワークを介して接続された複数の基地局装置を含み、第1の移動局装置が第1の基地局装置から第2の基地局装置にハンドオーバを行う移動通信システムであって、
前記第1の基地局装置は、
前記第1の移動局装置から受信した無線信号に応じたデータを、前記第1の移動局装置と呼接続する第2の移動局装置と無線通信を行う相手基地局装置に送信する第1データ送信手段と、
前記第1の移動局装置のハンドオーバ開始に伴い、前記第1データ送信手段により送信されるデータの送信先を、前記相手基地局装置から前記第2の基地局装置に切り替えるデータ送信先切替手段と、を含み、
前記第2の基地局装置は、
前記第1データ送信手段により送信されるデータを受信するデータ受信手段と、
前記データ受信手段により受信されたデータを前記相手基地局装置に転送する第2データ送信手段と、
前記データ受信手段により受信されたデータに含まれる情報と、前記第1の移動局装置から受信した無線信号に含まれる情報と、の同一性を判定する同一性判定手段と、
前記同一性判定手段により情報の同一性が確認されたタイミングで、前記第2データ送信手段により送信されるデータを、前記データ受信手段により受信されるデータから、前記第1の移動局装置から受信する無線信号に応じたデータに切り替える送信データ切替手段と、
を含むことを特徴とする移動通信システム。
【請求項2】
請求項1に記載の移動通信システムにおいて、
前記基地局装置間で送受信されるデータは、コネクションレス型の伝送プロトコルに基づくパケットであり、
前記送信データ切替手段は、前記送信データの切り替え前後で前記第2データ送信手段が送信するパケットの連続性が維持されるよう、前記切り替え前に送信されたパケットのヘッダ情報の少なくとも一部を、前記切り替え後に送信されるパケットに引き継ぐ、
ことを特徴とする移動通信システム。
【請求項3】
請求項2に記載の移動通信システムにおいて、
前記コネクションレス型の伝送プロトコルは、RTPプロトコルであり、
前記送信データ切替手段は、前記送信データの切り替え前後で前記第2データ送信手段が送信するパケットの連続性が維持されるよう、前記切り替え前に送信されたRTPパケットのヘッダに含まれるシーケンス番号とタイムスタンプと同期送信元識別子とを、前記切り替え後に送信されるRTPパケットに引き継ぐ、
ことを特徴とする移動通信システム。
【請求項4】
他の基地局装置とネットワークを介して接続され、前記他の基地局装置と無線通信を行う第1の移動局装置によるハンドオーバの開始に伴い該第1の移動局装置と無線通信を開始する基地局装置であって、
前記ハンドオーバの開始に伴い、前記第1の移動局装置から送信された無線信号に応じたデータを前記他の基地局装置から受信するデータ受信手段と、
前記データ受信手段により受信されたデータを、前記第1の移動局装置と呼接続する第2の移動局装置と無線通信を行う相手基地局装置に転送するデータ送信手段と、
前記データ受信手段により受信されたデータに含まれる情報と、前記第1の移動局装置から受信した無線信号に含まれる情報と、の同一性を判定する同一性判定手段と、
前記同一性判定手段により情報の同一性が確認されたタイミングで、前記データ送信手段により送信されるデータを、前記データ受信手段により受信されるデータから、前記第1の移動局装置から受信する無線信号に応じたデータに切り替える送信データ切替手段と、
を含むことを特徴とする基地局装置。
【請求項5】
ネットワークを介して接続された複数の基地局装置を含む移動通信システムにおいて、第1の移動局装置が第1の基地局装置から第2の基地局装置にハンドオーバを行うためのハンドオーバ方法であって、
前記第1の移動局装置によるハンドオーバの開始に伴い、前記第1の基地局装置が、前記第1の移動局装置から受信した無線信号に応じたデータの送信先を、前記第1の移動局装置と呼接続する第2の移動局装置と無線通信を行う相手基地局装置から前記第2の基地局装置に切り替えるデータ送信先切替ステップと、
前記データ送信先切替ステップの後、前記第2の基地局装置が、前記第1の基地局装置から送信されるデータを受信するデータ受信ステップと、
前記第2の基地局装置が、前記データ受信ステップで受信したデータを前記相手基地局装置に転送するデータ送信ステップと、
前記第2の基地局装置が、前記データ受信ステップで受信したデータに含まれる情報と、前記第1の移動局装置から受信した無線信号に含まれる情報と、の同一性を判定する同一性判定ステップと、
前記第2の基地局装置が、前記同一性判定手段ステップで情報の同一性を確認したタイミングで、前記データ送信ステップで送信するデータを、前記データ受信ステップで受信するデータから、前記第1の移動局装置から受信する無線信号に応じたデータに切り替えるステップと、
を含むことを特徴とするハンドオーバ方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−81669(P2009−81669A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−249492(P2007−249492)
【出願日】平成19年9月26日(2007.9.26)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】