説明

移動量測定装置および方法

【課題】累積的な移動量および1回測定当たりの移動量の測定精度が共に良好な移動量測定装置。
【解決手段】画像を入力する手段と、入力画像を記憶する手段と、記憶された画像の一部をテンプレート画像として抜き出す手段と、入力画像とテンプレート画像との相関計算によりパターンマッチングをする手段と、パターンマッチングの結果を用いて被測定物の移動量を算出する手段と、を備え、移動量を算出する手段は、固定されたテンプレート画像を用いたパターンマッチングにより計算された移動量と、逐次更新されたテンプレート画像を用いたパターンマッチングにより計算された移動量とを比較し、移動量の差が一定値未満の場合は固定されたテンプレート画像に基づく移動量を選択し、移動量の差が一定値以上の場合は両方の移動量を用いて補正計算することによって、被測定物の移動量を算出する移動量測定装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像処理を用いた移動量測定装置および方法に関し、特に加速や減速を伴う移動体の移動量測定装置および方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
物体の移動量を画像処理により測定する技術として、テンプレートパターンマッチングがある。図4は、テンプレートパターンマッチングを用いる移動量測定装置の一般的な構成を示すブロック図である。まず、画像入力部40にて、ある時刻t(m)における被測定物の画像を取得し、これを入力画像として画像記憶部41に記憶する。テンプレート画像抜出部45にて、あらかじめ設定された条件に従って入力画像の一部を抜き出し、これをテンプレート画像としてテンプレート画像記憶部46に記憶する。パターンマッチング部42では、テンプレート画像に対して、テンプレート画像を記憶した時刻t(m)とは別の時刻t(n)において同様に画像入力部40にて取得され画像記憶部41に記憶された被測定物の入力画像を使って、パターンマッチングが行われる。パターンマッチングには、例えば正規相関計算が使われる。移動量算出部43では、正規相関計算により得られた相関分布がピーク値を示す座標とテンプレート画像の座標との差分により、時刻t(n)−t(m)間の被測定物の移動量が計算される。
【0003】
テンプレートパターンマッチングにおけるテンプレート画像の設定方法は一般的に2つある。1つは、テンプレート画像を一度登録すると、これを更新することなく用いる方法である。以後、これを固定テンプレート方法と称する。固定テンプレート方法では、パターンマッチングは、固定されたテンプレート画像に対して行われる。もう1つは、画像を取得する度にテンプレート画像を更新する方法である。以後、これを逐次更新テンプレート方法と称する。逐次更新テンプレート方法では、パターンマッチングは、時間的に連続して取得された画像間で行われる。従来の測定技術、代表的にはPIV(Particle Image Velocity)法とPTV(Particle Tracking Velocity)法は、どちらか一方のテンプレート画像に基づく移動量を使って被測定物の移動量を測定する。(非特許文献1参照)
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】可視化情報学会編「PIVハンドブック」森北出版 2002年7月20日第1版1刷発行(P68−85)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
撮像素子で移動体を撮影すると、撮影された画像は移動体の移動速度に応じて像が伸びた状態になる。このときの像のび量をDとし、移動体の速度をVとし、撮像素子の露光時間をTsとすると、D=V×Tsとなる。つまり、移動体は、像のび量D分だけ大きくぼやけた像として撮影される。移動体が等速度運動をしている場合には、同一の移動体を異なる時刻に撮影しても像伸び量Dは同じである。そのため、このときの2つ画像でパターンマッチングを行うと、画像上で被測定物は同一形状をしているために、精度よくパターンマッチングを行うことが可能である。一方、移動体が加速や減速をする場合、像伸び量Dは変動するため、パターンマッチングの精度は低下する。例えば、ある時刻tiの移動体速度をVi、時刻tjの移動体速度をVjとし、露光時間をTsとする。時刻tiで撮影される移動体の像伸び量DiはDi=Vi×Ts、時刻tjで撮影される移動体の像伸び量DjはDj=Vj×Tsである。これら2つの時刻における画像をパターンマッチングすると像伸び量の差ΔD=Di−Dj分だけ、大きさの異なる被測定物を比較することになる。したがって、ΔD分だけ不確定性が生じ、ΔDに応じた移動量測定誤差が発生する。
【0006】
図3を参照して、背景技術で説明したテンプレートパターンマッチングを用いた移動量測定装置における課題を説明する。
【0007】
上述のように、テンプレートパターンマッチングにおけるテンプレート画像の設定方法には、固定テンプレート方法と逐次更新テンプレート方法との2つがある。図3は、上段から、移動体の時間に対する速度プロファイル、固定テンプレート方法を用いたときのテンプレート画像、入力画像、および逐次更新テンプレート方法を用いたときのテンプレート画像を模式的に表している。移動体が停止している状態から測定を開始し、移動体が加速後、等速度になるまでの様子を示している。時刻t1で固定テンプレート方法および逐次更新テンプレート方法の初期のテンプレート画像を登録し、時刻t2以降に、移動量の測定を開始する。固定テンプレート方法では、時刻t1に登録したテンプレート画像と移動量を求めたい時刻tkにおける入力画像とを使ってパターンマッチングをする。また、逐次更新テンプレート方法では、撮影の度にその時の入力画像を使ってテンプレート画像を更新しているため、時刻tk−1および時刻tkの入力画像を使ってパターンマッチングをすることになる。
【0008】
固定テンプレート方法を用いたパターンマッチングでは、ある時刻で記憶したテンプレート画像がそれ以降の時刻に画像内のどこにあるかを計算するため、移動量の測定に累積的な誤差は生じない。しかしながら、被測定物の速度が上がれば上がるほど、入力画像における像伸び量は増える。被測定物の速度が変化する場合、固定テンプレート方法を用いたパターンマッチングでは、像伸び量が変化することによって移動体のテンプレート画像と入力画像との形状が異なることとなり、移動量の測定精度が低下する傾向がある。
【0009】
一方、逐次更新テンプレート方法を用いたパターンマッチングでは、被測定物の速度の上昇に伴い、テンプレート画像にも像伸び現象が生じる。したがって、比較的近い像伸び量を持った入力画像とテンプレート画像との間でパターンマッチングを行うこととなる。そのため、逐次更新テンプレート方法を用いたパターンマッチングでは、1回測定当りの移動量の測定精度が良い。しかしながら、逐次更新テンプレート方法を用いたパターンマッチングでは、画像が入力される度にテンプレート画像が更新されるため、測定毎に誤差が生じることとなり、累積的な移動量の測定誤差が大きくなる傾向がある。
【0010】
このように、従来の移動量測定技術を用いる移動量測定装置は、測定する移動体が加速や減速を伴う場合に、移動量の測定精度が低下しやすい。
そこで、本発明は、加速や減速を伴う移動体の移動量を測定するに当って、1回測定当りの移動量および累積的な移動量を共に良好な精度で測定できる移動量測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための本発明の移動量測定装置は、被測定物の画像を入力する手段と、入力された画像を記憶する手段と、記憶された画像の一部をテンプレート画像として抜き出す手段と、
入力された画像とテンプレート画像との相関計算によりパターンマッチングをする手段と、パターンマッチングの結果を用いて被測定物の移動量を算出する手段と、を備える移動量測定装置であって、移動量を算出する手段は、固定されたテンプレート画像を用いたパターンマッチングにより計算された移動量と、逐次更新されたテンプレート画像を用いたパターンマッチングにより計算された移動量とを比較し、移動量の差が一定値未満の場合は、固定されたテンプレート画像を用いたパターンマッチングにより計算された移動量を選択することによって、および移動量の差が一定値以上の場合は、両方の移動量を用いることによって、被測定物の移動量を算出し、ここで、移動量の差が一定値以上の場合の被測定物の移動量の算出には、両方の移動量を用いて算出される被測定物の累積的な移動量が、固定されたテンプレート画像を用いたパターンマッチングにより計算された累積的な移動量と近似するような補正計算式を用いることを特徴とする移動量測定装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、加速や減速を伴う移動体を測定する場合においても測定精度が良好な移動量測定装置および方法を提供するものである。本発明の移動量測定装置および方法によれば、像伸び現象等を原因とする移動量の測定精度の低下を低減させ、1回測定当りの移動量および累積的な移動量を共に良好な精度で測定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施例に係るブロック図である。
【図2】本発明の実施例に係るフローチャートである。
【図3】従来技術による課題を説明する図である。
【図4】従来技術のブロック図である。
【図5】(a)から(d)は、本発明の実施例に係る効果を説明する速度グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(実施例)
図1は、本発明の1つの実施例の移動量測定装置の全体を表すブロック図である。移動量測定装置は、画像入力部10、画像記憶部11、パターンマッチング部12、移動量算出部13、移動量結果出力部14、テンプレート画像抜出部15、テンプレート画像記憶部16から構成される。さらに、テンプレート画像記憶部16は、固定テンプレート画像記憶部161と逐次更新テンプレート画像記憶部162との2つから構成される。また、移動量算出部13は、固定テンプレートからの移動量算出部131、逐次更新テンプレートからの移動量算出部132、移動量差算出部133、および移動量補正部134から構成される。
【0015】
画像入力部10には、CCDやCMOSのような撮像素子を有するデジタルカメラ、または高速度カメラのようなものが接続される。画像記憶部11およびテンプレート画像記憶部16はパソコンおよび/または画像処理装置上のメモリに対応するものであり、共通していても別個のものであってもよい。移動量出力部14はパソコンのメモリやHDDなどの記録媒体、ディスプレイ表示、および/またはアナログ電気信号出力等に接続される。
【0016】
図2のフローチャートを参照して、処理の手順を示す。測定を開始すると、ステップ21で、画像入力部10から画像が入力され、画像記憶部11にて画像データが記憶される。ステップ22で、テンプレート画像抜出部15にて、画像記憶部11の画像の一部が固定テンプレート画像として抜き出され、固定テンプレート画像記憶部161に記憶される。さらに、ステップ23で、同じ画像を逐次更新テンプレート画像記憶部162にも記憶する。第1回目の入力画像については、テンプレート画像を記憶するだけで、移動量の計算は行わない。
【0017】
次に、移動量が算出される手順を説明する。移動量算出は、ステップ24で、画像入力部10に第2回目以降の画像入力がなされてから行われる。
【0018】
ステップ24で、画像入力部10に第2回目以降の画像入力がなされると、画像記憶部11で画像データが記憶される。次に、パターンマッチング部12で、固定テンプレート画像と入力画像とのパターンマッチング(ステップ25)、および逐次更新テンプレート画像と入力画像とのパターンマッチング(ステップ27)が行われる。この2つパターンマッチングの順番には特に意味がなく、図2のフローチャートでは2つに処理を分けて記載している。本実施例では、パターンマッチングのための相関計算をパソコンのマルチコアCPUで演算させており、図2のフローチャートのように並列計算を行っている。
【0019】
ステップ26で、固定テンプレートからの移動量算出部131にて、固定テンプレート画像と入力画像とのパターンマッチングの結果から得られた相関ピークの座標と、固定テンプレート画像の座標とから、まず、測定開始時点からの被測定物の移動量が算出される。次いで、このように算出された現入力画像についての移動量と、同様に算出された直前の入力画像についての移動量との差から、連続する2回の画像入力の間の被測定物の移動量が算出される。この連続する2回の画像入力の間の被測定物の移動量を、後続するステップにおける計算に用いる。以後、「連続する2回の画像入力の間の被測定物の移動量」を、「1回測定当りの被測定物の移動量」と記述する。ステップ28では、逐次更新テンプレートからの移動量算出部132で、逐次更新テンプレート画像と入力画像とのパターンマッチングの結果から得られた相関ピークの座標と逐次更新テンプレート画像の座標とから、1回測定当りの被測定物の移動量が算出される。なお、これらの移動量の計算には、画像の分解能よりも高い精度を得るために、サブピクセル推定として、ガウス関数フィッティングを用いている。ガウス関数に替えて、2次関数フィッティングを使用してもよい。固定テンプレートからの移動量算出部131および逐次更新テンプレートからの移動量算出部132の両方の処理が終了してから、ステップ29に進む。
【0020】
ステップ29では、移動量差計算部133にて、2つのパターンマッチング方法により算出した移動量の差が計算され、およびこの移動量の差が一定値以上であるか否かが判断される。「移動量の差」は、像伸び現象等により固定テンプレート方法を用いた移動量の測定精度が低下したかどうかを示す指標であり、大きいほど精度が低下したことを示す。「一定値」は、要求する精度の程度等に応じて適宜設定することができる。
【0021】
まず、ステップ29で移動量の差が一定値以上であると判断されたときは、ステップ31に進む。ステップ31では、移動量補正部134にて、2つのパターンマッチング方法により算出された移動量を使った移動量補正処理が行われる。ステップ31における移動量補正処理の具体的な内容については、後述する。これに対し、ステップ29で移動量の差が一定値未満であると判断されたときは、ステップ30に進む。ステップ30では、移動量補正処理が必要であるか否かが判断される。移動量補正処理の必要性の判断基準については、後述する。ステップ30で移動量補正処理が必要であると判断された場合は、ステップ31に進んで移動量補正処理が行われる。ステップ31の次はステップ32に進み、移動量結果出力部14にて、補正後の移動量の算出結果が出力される。一方、ステップ30で移動量補正処理は必要でないと判断された場合は、ステップ33に進み、移動量結果出力部14にて、移動量の算出結果が出力される。ステップ32および33のそれぞれにおける移動量の算出結果の出力の詳細については、後述する。
【0022】
ステップ32および33のいずれかで移動量の算出結果が出力された後、ステップ34で、テンプレート画像抜出部15にて、現入力画像の被測定物が検出された部分の画像座標を計算することによって、逐次更新テンプレート画像が抜き出される。次いでステップ35で、前ステップで抜き出された逐次更新テンプレート画像によって、逐次更新テンプレート画像記憶部162における逐次更新テンプレート画像が更新される。
【0023】
次いで、ステップ24に戻り、以降、画像が入力される度にこの一連の処理が続けられる。
【0024】
(移動量補正処理)
本実施例のステップ31の移動量補正処理における補正計算について説明する。
【0025】
具体的には、補正計算を行う画像の入力番号を(i)とし、そのときの被測定物の、固定テンプレート方法による移動量をLfix(i)、逐次更新テンプレート方法による移動量をLnenew(i)、および補正計算により算出される移動量をL(i)とする。なお、ステップ31の移動量補正処理における「移動量」は、1回測定当りの被測定物の移動量を指すものとする。
【0026】
第1回目の補正計算、すなわち直前に入力された入力番号(i−1)の画像に対して移動量補正処理を行っていない場合の入力番号(i)の画像に対する補正計算は、下記(式1)により行う。
【0027】
【数1】

【0028】
第1回目の補正計算を行った場合、直後に入力した入力番号(i+1)の画像に対しては、ステップ29における移動量の差が一定値以上か未満かに係わらず、下記(式2)により第2回目の補正計算を行い、被測定物の移動量を算出する。
【0029】
【数2】

【0030】
さらに、その直後に入力した入力番号(i+2)の画像に対しては、ステップ29における移動量の差が一定値以上か未満かに係わらず、下記(式3)により第3回目の補正計算を行い、被測定物の移動量を算出する。ここでは、(式3)を、入力番号(i+k)の画像に対する計算式として記述してある。
【0031】
【数3】

【0032】
このように、ステップ29でいったん移動量の差が一定値以上であると判断されると、それから連続する合計3回の入力画像に対して、ステップ31で(式1)から(式3)までの計算式を順次用いて第1回目から第3回目の補正計算を行う。さらに後続する入力画像に対しては、移動量の差が一定値未満にならない限り、(式3)の補正計算を行う。一方、さらに後続する入力画像についての移動量の差が一定値未満になった場合は、次に説明する補正計算終了計算を行う。
【0033】
すなわち、現入力画像についてステップ29で移動量の差が一定値未満であると判断された場合であっても、その直前の入力画像に対して(式1)から(式3)のいずれかを用いた補正計算が行われている場合は、ステップ30で移動量補正処理が必要と判断される。詳細には、その直前の入力画像に対して(式1)または(式2)を用いた補正計算が行われている場合は、ステップ31では、それぞれ(式2)または(式3)を用いた補正計算を行う。また、その直前の入力画像に対して(式3)を用いた補正計算が行われている場合は、ステップ31では、下記(式4)により補正計算を行う。以後、(式4)による補正計算を、「補正計算終了計算」と称する。ここでは、(式4)を入力番号(i+m)の画像に対する計算式として記述してある。
【0034】
【数4】

【0035】
このように、ステップ29で移動量の差が1回でも一定値以上であると判断された場合は、その後一定値未満になっても、ステップ31で(式3)の補正計算までは必ず補正計算を続け、(式4)の補正計算終了計算を含めると最低4回は補正計算を続ける。したがって、本実施例においてステップ30で移動量補正処理が必要であると判断する判断基準は、その直前の入力画像に対してステップ31の補正計算が行われており、且つその補正計算に用いられた計算式が(式4)ではないことである。
【0036】
(移動量の算出結果の出力)
ステップ32およびステップ33のそれぞれにおける移動量の算出結果の出力について説明する。なお、上述のとおり、ステップ29で移動量の差が一定値未満であると判断された場合であって、且つステップ30で移動量補正処理が必要でないと判断された場合に、ステップ33で算出結果を出力する。ステップ29で移動量の差が一定値未満であると判断された場合であってもステップ30で移動量補正処理が必要であると判断された場合、およびステップ29で移動量の差が一定値以上であると判断された場合は、ステップ32で算出結果を出力する。
【0037】
ステップ33では、ステップ26で算出した1回測定当りの被測定物の移動量を、固定テンプレート方法による移動量の算出結果Lfix(j)として出力する。一方、ステップ32では、ステップ31の移動量補正処理において計算式(式1)から(式4)のいずれかにより算出された移動量を、補正後の移動量の算出結果L(j)として出力する。ここで、入力番号(i)の画像から補正計算を開始し、入力番号(i+m)の画像で補正計算を終了したとする。補正計算開始から終了までの間に(式1)から(式4)の補正計算式によって算出された移動量を足し合わせると、下記(式5)のように、補正後の被測定物の累積的な移動量は、固定テンプレート方法による累積的な移動量と厳密に一致する。
【0038】
【数5】

【0039】
本実施例における(式1)から(式4)までの計算式を用いる補正処理方法は、本発明で用いることのできる補正処理方法の単なる1つの例である。本発明は、移動量の補正処理において、最終的に(式5)を満足するような計算式を用いるものであり、そのような式であればいずれをも用いることができる。例えば、本実施例ではステップ31において(式1)から(式4)の4つの式を用いたが、これに限られない。より多くの式を用いることによって、1回測定当りの誤差がより小さい移動量の測定が可能となる。
【0040】
また、本実施例におけるステップ32およびステップ33のそれぞれでは、移動量の算出結果として、1回測定当りの被測定物の移動量を選択して出力した。しかし、これに限られず、このようにして算出した移動量を合計して、移動量測定開始時からの累積的な移動量として算出結果を出力してもよい。
【0041】
図5(a)から(d)のグラフを用いて、本発明の実施例に係る効果を説明する。横軸は時間、縦軸は被測定物の移動速度を示す。各グラフは、被測定物の停止状態から測定を開始して、加速後、等速度運動を続け、減速し、再び停止状態になったときの測定結果を示し、特に、等速度運動領域付近の像伸びが大きい部分を抽出している。図5(a)は被測定物の移動をレーザー速長器にて測定した結果であり、この値が被測定物の真の移動量つまり速度を表している。図5(b)は、固定テンプレート方法により移動量を算出した結果である。固定テンプレート方法を用いた場合は、ときどき速度が急激に高くなっており、1回測定当りの被測定物の移動量の測定精度が低下していることがわかる。これは、像伸びの影響によるものと思われる。図5(c)は、逐次更新テンプレート方法により移動量を算出した結果である。図5(b)の固定テンプレート方法による算出結果と比較すると、逐次更新テンプレート方法を用いた場合は、等速運動中における速度変化が小さく、1回測定当りの被測定物の移動量の測定精度が高いことがわかる。一方、測定開始時から被測定物が停止状態となるまでの間の累積的な移動量は、固定テンプレート方法を用いた場合の方が、逐次更新テンプレート方法を用いた場合よりも、レーザー速長器により測定した真の移動量に近似していた。図5(d)は、本発明の実施例により移動量を算出した結果である。本発明を用いた場合は、等速運動中における速度変化の大きさは、固定テンプレート方法と逐次更新テンプレート方法との間である。したがって、1回測定当りの被測定物の移動量の測定精度は、逐次更新テンプレート方法よりは低いものの、固定テンプレートよりも高いことがわかる。また、測定開始時から被測定物が停止状態となるまでの間の累積的な移動量は、固定テンプレート方法と同等となった。
【0042】
したがって、本発明によれば、加速や減速を伴う移動体の移動量を、像伸びによる測定誤差を低減しつつ累積的な測定誤差を低く保ち、高精度に測定することが可能となる。
【0043】
また、一般に、移動量を連続的に測定するに当り、算出された移動量にローパスフィルタ処理を行うことで、測定誤差やノイズを低減する方法もよく知られており、FIRおよびIIRといったデジタルフィルタ処理がよく使用される。固定テンプレート方法を用いた場合、得られた移動量にローパスフィルタ処理すると、フィルタリングによるデータの遅延が生じるために、移動量の測定の応答性が低くなる。測定誤差やノイズを低減するために、ローパスフィルタ処理の代わりに本発明を用いることにより、データの遅延効果を低減することが可能となる。
【符号の説明】
【0044】
10 画像入力部
11 画像記憶部
12 パターンマッチング部
13 移動量算出部
131 固定テンプレートからの移動量算出部
132 逐次更新テンプレートからの移動量算出部
133 移動量差算出部
134 移動量補正部
14 移動量結果出力部
15 テンプレート画像抜出部
16 テンプレート画像記憶部
161 固定テンプレート画像記憶部
162 逐次更新テンプレート画像記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定物の画像を入力する手段と、
入力された画像を記憶する手段と、
記憶された画像の一部をテンプレート画像として抜き出す手段と、
入力された画像とテンプレート画像との相関計算によりパターンマッチングをする手段と、
パターンマッチングの結果を用いて被測定物の移動量を算出する手段と、
を備える移動量測定装置であって、
前記移動量を算出する手段は、
固定されたテンプレート画像を用いたパターンマッチングにより計算された移動量と、逐次更新されたテンプレート画像を用いたパターンマッチングにより計算された移動量とを比較し、
移動量の差が一定値未満の場合は、固定されたテンプレート画像を用いたパターンマッチングにより計算された移動量を選択することによって、および移動量の差が一定値以上の場合は、両方の移動量を用いることによって、被測定物の移動量を算出し、
ここで、移動量の差が一定値以上の場合の被測定物の移動量の算出には、両方の移動量を用いて算出される被測定物の累積的な移動量が、固定されたテンプレート画像を用いたパターンマッチングにより計算された累積的な移動量と近似するような補正計算式を用いることを特徴とする移動量測定装置。
【請求項2】
被測定物の画像を入力する工程と、
入力された画像を記憶する工程と、
記憶された画像の一部をテンプレート画像として抜き出す工程と、
入力された画像とテンプレート画像との相関計算によりパターンマッチングをする工程と、
パターンマッチングの結果を用いて被測定物の移動量を算出する工程と、
を含む移動量測定方法であって、
前記移動量を算出する工程は、
固定されたテンプレート画像を用いたパターンマッチングにより計算された移動量と、逐次更新されたテンプレート画像を用いたパターンマッチングにより計算された移動量とを比較し、
移動量の差が一定値未満の場合は、固定されたテンプレート画像を用いたパターンマッチングにより計算された移動量を選択することによって、および移動量の差が一定値以上の場合は、両方の移動量を用いることによって、被測定物の移動量を算出し、
ここで、移動量の差が一定値以上の場合の被測定物の移動量の算出には、両方の移動量を用いて算出される被測定物の累積的な移動量が、固定されたテンプレート画像を用いたパターンマッチングにより計算された累積的な移動量と近似するような補正計算式を用いることを特徴とする移動量測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−220409(P2012−220409A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−88227(P2011−88227)
【出願日】平成23年4月12日(2011.4.12)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】