説明

移動防止装置付き車いす

【課題】前向きと後ろ向きのどちらであっても選択的に、労力を必要とせずに簡単な操作によって、谷側への転がり移動を防止することのできる、移動防止装置付き車いすを提供する。
【解決手段】車輪2に固定された爪車12と、基端部が軸支され先端部に爪車12に選択的に係止される2つの爪部を有する撞木状の爪14と、爪14を回動させるためのレバー24とを備え、レバー24の操作により、爪14と爪車12を係止させて車輪2の前進方向の回転を拘束する状態、爪14と爪車12を係止させて車輪2の後退方向の回転を拘束する状態、爪14と爪車12を係止させないで車輪2の前後方向の回転を可能にする状態のいずれかの状態を選択可能に構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、斜面における移動を防止するための装置を備えた移動防止装置付き車いすに関する。
【背景技術】
【0002】
車いすの車輪は、前後方向に自由に回転できる構造になっている。このため、利用者が前向きで坂を昇る場合、車輪を前方に回転させる漕ぎ手を素早く戻して車いすが後退しないうちに、同じ漕ぎ動作を繰り返さねばならない。また、足漕ぎ車いすのように後ろ向きで坂を昇る場合、車輪を後方(上昇方向)に回転させる足や手を素早く戻し、同じ漕ぎ動作を繰返し続けねばならない。手漕ぎ動作や足漕ぎ動作を止めると、重力によって車いすは谷側に転がり落ちる。この転がりを防止するため、利用者は大変な不安と労力を強いられる。坂の途中で停めたい場合には、手漕ぎ、足漕ぎのいずれの場合でも、坂の勾配方向に対し直角に車輪を向けて回転を阻止する等の負担が利用者に強いられる。坂の勾配方向に対し直角に車輪を向けた態勢は極めて不安定で、前後の向きを逆転させる危険な事態も起こしかねない。また、電動車いすの場合には、停止時間が長引くほど動力を余計に消費することになる。
【0003】
これまで、車いすの利用者が前向きで坂を昇る場合に、車いすの後退を防止するための技術が知られている(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3を参照)。しかし、いずれも車いすの後退防止対策、すなわち後ろ向きの谷側への転がり防止対策にのみ有効なものばかりであり、前向きの転がり防止対策にも有効なものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−216176号公報
【特許文献2】特開平10−272159号公報
【特許文献3】特開2004−141586号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明は、前向きと後ろ向きのどちらであっても選択的に、労力を必要とせずに簡単な操作によって、谷側への転がり移動を防止することのできる、移動防止装置付き車いすを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の移動防止装置付き車いすは、車輪に固定された爪車と、基端部が軸支され先端部に前記爪車に選択的に係止される2つの爪部を有する撞木状の爪と、前記爪を回動させるためのレバーとを備え、前記レバーの操作により、前記爪と前記爪車を係止させて前記車輪の前進方向の回転を拘束する状態、前記爪と前記爪車を係止させて前記車輪の後退方向の回転を拘束する状態、前記爪と前記爪車を係止させないで前記車輪の前後方向の自由な回転を可能にする状態のいずれかの状態を選択可能に構成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
レバーの操作により、前向きと後ろ向きのどちらであっても選択的に車輪の回転を拘束することができ、労力を必要とせず簡単な操作によって、谷側への転がり移動を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例1の移動防止装置付き車いすに設けられた可逆回転爪車の動作を説明するための説明図である。
【図2】実施例1の移動防止装置付き車いすを示す一部分の正面図である。
【図3】実施例1の移動防止装置付き車いすを示す一部分の側面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、図1に示す可逆回転爪車機構が軸の回転軸方向の違いに応じて動力を拘束できることに着目し、車いすのフレームと回転する車軸部との間にレバーの転倒操作によって作動する可逆回転爪車を取りつけ、爪車に噛みあう爪の姿勢をレバーの転倒操作によって変更することにより、拘束する車輪の回転方向を切換え、車いすの前向きや後ろ向きを問わずに坂を昇る場合の谷側への転がり移動を防止するものである。すなわち、レバーを一方に倒すことで車輪の前方への回転を、また、他方に倒すことで後方への回転をそれぞれ拘束するものである。
【0010】
また、本発明は、前方、及び後方への移動を防止する単なるブレーキとは異なり、拘束する車輪の回転方向を選択できることを特徴とする。
【0011】
以下、本発明の移動防止装置付き車いすの実施例について、添付した図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0012】
本実施例の移動防止装置付き車いすを示す図1〜図3において、1は車いす本体であって、車輪2、移動防止装置としての可逆回転爪車3を備えている。なお、図2、3は、車いすの2つある車輪のうちの一方のみを示しているが、両輪とも同様の構成となっている。
【0013】
車輪軸11には、車輪2が軸支されており、車輪2には、可逆回転爪車3を構成する爪車12が固定されている。また、車いす本体1のフレームには、軸13が固定されており、軸13には、可逆回転爪車3を構成する撞木状の爪14と、円板15とが回動自在に軸支されている。なお、撞木状の爪14は、図示されるように、基端側が軸支され、先端側に爪車12の外周に設けられた歯に選択的に係止される2つの爪部を有している。円板15には、スプロケット16が設けられるとともに、撞木状の爪14を両脇から挟み込んで案内するための2本の棒17が設けられている。
【0014】
一方、車いす本体1のフレームには、別の軸18が固定されており、軸18には、スプロケット19が回動自在に軸支されている。スプロケット19には、ボス20が設けられているとともに、スプロケット19は、タイミングベルト21によりスプロケット16と連結されている。
【0015】
スプロケット19のボス20には、板ばね22が固定されており、軸18には、円板23が固定されている。また、スプロケット19には、レバー24が固定されている。円板23には、レバー24の方向角に対応付けて設けられた3つの切り込み溝が形成されており、板ばね22は、円板23の外周を押し付けるように構成されている。また、レバー24の転倒角度範囲を小さくして、撞木状の爪14を180度以上回転させる必要があることから、スプロケット19の半径は、スプロケット16の半径よりも大きくなっている。
【0016】
つぎに、作用効果について説明する。
【0017】
図1、図3において実線で表される撞木状の爪14は、レバー24を一方側へ倒したときの撞木状の爪14の位置を示している。このとき、撞木状の爪14は、自重による回転トルクにより爪車12の外周に押し付けられている。そして、爪車12の外周に形成された歯に撞木状の爪14が係止されて、爪車12の反時計回りの回転が拘束されている。爪車12は車輪2に固定されているので、車輪2の同方向の回転も拘束されている。また、板ばね22が円板23の外周の切り込み溝に係合することで、レバー24の角度が安定に保たれている。なお、このとき、車輪2は時計回りには自由に回転可能である。
【0018】
レバー24を起こすと、板ばね22と円板23の外周の切り込み溝の係合が一旦外れる。また、スプロケット19が回転し、スプロケット19にタイミングベルト21で連結されたスプロケット16が固定された円板15が回転する。撞木状の爪14は、円板15に設けられた棒17により案内されて中立位置の角度に移動する。この中立位置において、再び、板ばね22が円板23の外周の別の切り込み溝に係合することで、レバー24の角度が中立位置に安定に保たれる。このとき、爪車12の外周に形成された歯と撞木状の爪14の係止が解かれているので、車輪2はどちらの向きにも自由に回転可能である。
【0019】
さらにレバー24を他方側に倒すと、再び板ばね22と円板23の外周の切り込み溝の係合が外れ、スプロケット19が回転に伴って円板15が回転する。撞木状の爪14は、円板15に設けられた棒17により案内されて図面において左側に倒れた位置の角度に移動する。このとき、撞木状の爪14は、自重による回転トルクにより爪車12の外周に押し付けられ、爪車12の外周に形成された歯に撞木状の爪14が係止されて、爪車12の時計回りの回転が拘束され、車輪2の同方向の回転が拘束される。また、再び、板ばね22が円板23の外周の切り込み溝に係合することで、レバー24の角度が安定に保たれる。なお、このとき、車輪2は反時計回りには自由に回転可能である。
【0020】
なお、再びレバー24を起こす場合、或いは一方側に倒す場合は、上記とは逆の動作となる。
【0021】
レバー24を操作したときの撞木状の爪14は、円板15の回転によって爪車12の半径方向に上下する。円板15に固定された2本の棒17の中心角は、図3に示すように、レバー24を転倒させた安定状態において撞木状の爪14の上下動を妨げない大きさであり、レバー24がいずれかの側に倒れている限り、爪車12は、スプロケット16、スプロケット19との結合関係を断たれる。2本の案内棒17は、レバー24が中立位置に保持される場合に撞木状の爪14が爪車12に接触することをなくす役割を果たす。
【0022】
以上のように、本実施例の移動防止装置付き車いすは、車輪2に固定された爪車12と、基端部が軸支され先端部に前記爪車12に選択的に係止される2つの爪部を有する撞木状の爪14と、前記爪14を回動させるためのレバー24とを備え、前記レバー24の操作により、前記爪14と前記爪車12を係止させて前記車輪2の前進方向の回転を拘束する状態、前記爪14と前記爪車12を係止させて前記車輪2の後退方向の回転を拘束する状態、前記爪14と前記爪車12を係止させないで前記車輪2の前後方向の回転を可能にする状態のいずれかの状態を選択可能に構成したものであり、レバー24の操作により、前向きと後ろ向きのどちらであっても選択的に車輪2の回転を拘束することができ、労力を必要とせず簡単な操作によって、谷側への転がり移動を防止することができる。したがって、坂を昇る利用者は、途中で停まる場合において転がり移動を防止するために腕力や脚力により車輪の回転を抑え続けなくともよく、体力に応じて漕ぎ作業を中断して自由に休憩しながら坂を昇ることが可能となる。
【符号の説明】
【0023】
2 車輪
12 爪車
14 爪
24 レバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪に固定された爪車と、基端部が軸支され先端部に前記爪車に選択的に係止される2つの爪部を有する撞木状の爪と、前記爪を回動させるためのレバーとを備え、前記レバーの操作により、前記爪と前記爪車を係止させて前記車輪の前進方向の回転を拘束する状態、前記爪と前記爪車を係止させて前記車輪の後退方向の回転を拘束する状態、前記爪と前記爪車を係止させないで前記車輪の前後方向の回転を可能にする状態のいずれかの状態を選択可能に構成したことを特徴とする移動防止装置付き車いす。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−46655(P2013−46655A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−185523(P2011−185523)
【出願日】平成23年8月29日(2011.8.29)
【出願人】(304027279)国立大学法人 新潟大学 (310)