説明

移植可能なヒトニューロン幹細胞

【課題】遺伝的に改変されたヒトニューロン幹細胞、該幹細胞の生存する子孫細胞、及びクローンの提供。
【解決手段】ニューロン幹細胞(NCS)の安定なクローンがヒト胎児終脳から単離されている。これらの自己再生するクローンは、インビトロで、全3種の基礎的ニューロン細胞型(ニューロン、稀突起膠細胞およびアストロサイト)を自発的に生じさせることができる。これらのNCSは、発生中の新生マウス脳の胚領域への移植後に、それらのげっ歯類の対照物と同様に、正常な発生の局面に関与することができる。これらは、確立した移動経路に沿った散在したCNS領域への移動、微小環境の刺激に応答した発生的かつ領域的に適切な細胞型への分化、および宿主祖先を伴う非破壊的な非腫瘍形成性の点在を包含する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝的に改変されたヒトニューロン幹細胞、該幹細胞の生存する子孫細胞、該幹細胞のクローン、に関する。
【背景技術】
【0002】
ニューロン幹細胞(NSC)は、発生中の神経系のおよび成体の神経系にさえ存在しそして成熟CNSのひと続きのより特化された細胞を生じさせている原因である比較的原始の未拘束(uncommitted)細胞であると仮定されている1-12。それらは、(a)複数の領域および発生の情況において全部のニューロン系統の細胞(ニューロン(理想的には複数のサブタイプ)、稀突起膠細胞、大グリア細胞)に分化する(すなわち多分化能または多能性である);(b)自己再生または自己複製する(すなわち類似の潜在能力をもつ新たなNSCもまた生じさせる);(c)発生および/もしくは変性するCNS領域を占めるそれらの能力により、機能上定義されている。単クローンの派生の明白な立証が定義に必須である。すなわち、単一の細胞がこれらの属性を所有しなければならない。培養物中で増殖された、幹細胞の特性をもつげっ歯類のニューロン細胞が、哺乳動物の脳中に再移植可能であり、そこでそれらが適切に再統合しかつ外来遺伝子を安定に発現することができた13-16という最も初期の認識を伴い、遺伝子治療学者および回復推進(restorative)神経生物学者は、治療的利点ならびに発生の機構の理解のためにこうした現象をどのように利用することができるのかを推測し始めた。これら、および彼らが開始した研究(別の場所で概観されている2,9-11,17-21)は、NSCの使用は、それらの固有の生物学によって、現在利用可能な移植片材料および遺伝子伝達ベヒクルの限界のいくつかを回避し、そして多様な新規治療戦略を実行可能にするかも知れないという希望を提供した20-22
【0003】
幹細胞の特性をもつニューロン細胞は、胚、新生および成体のげっ歯類のCNSから単離され、そして後成的(例えば、上皮増殖因子[EGF]もしくは塩基性線維芽細胞増殖因子[bFGF]のような分裂促進因子1,5,16,23-27または膜基質7を用いて)および遺伝子的(例えばvmycもしくはSV40ラージT抗原のような増殖遺伝子(propagating
gene)1,9-15,17-19,28-32を用いて)双方の多様な同等に有効かつ安全な手段によりインビトロで増殖されている。培養物中でこうしたNSCを増殖状態に維持することは、移植後のインビボの正常な発生の刺激に応答する(細胞周期から引き離す、宿主細胞と相互作用する、適切に分化する9-16,29-33)それらの能力を覆すようではない。これらの極めて形成的な細胞は、とりわけ脳全体の胚領域(germinal zone)への移植(implantation)後に、時間的かつ領域的に適切な様式で移動かつ分化する。それらはマウスの中枢神経軸に沿った正常な発生に参画し、内在性の祖先と非破壊的に混ざり、それらの表現型決定のため局所の微小環境の刺激に対し類似に応答し、そして多様なニューロン細胞型およびグリア細胞型に適切に分化する。加えて、それらはインビボで外来遺伝子(レポーター遺伝子および治療遺伝子双方)を発現することができ9-21,29-32、そしてニューロンおよび/もしくはグリアの非存在もしくは変性の設定において特定のニューロン細胞の置換えが可能である9,11,31,32
【発明の概要】
【0004】
本明細書は、これらの重要な機能をインビトロおよびインビボで演じるヒトNSCのクローンの潜在能力を例証する。われわれは、それらが多分化能であり、自己再生し、移植可能であり、形成性であり、そして移動性であること;原型の神経変性性の遺伝的酵素欠損を交差修正(cross-correct)することができる遺伝子産物(こうした疾患の遺伝子治療に必要な前駆体)を分泌すること;所定の領域および段階(細胞が最初に得られたものと異なる場合であっても)に適切な発生プログラムを(多様な胚領域への移植後に)インビ
ボで実行すること;エクスビボの遺伝子操作(例えば外来遺伝子のレトロウイルス媒介性の形質導入)が可能であること、また、移植後に、広範に散在するCNS領域中でインビボでその導入遺伝子(transgene)を発現する(遺伝子送達/治療の潜在能力をさらに確立する)ことが可能であること;そして、(治療的なCNS細胞の置換えの潜在能力を示唆する)神経変性および損なわれた発生の原型のマウス突然変異体モデルにおいて特定の欠陥のあるニューロン集団の置換えに向かって分化することが可能であることを示す。(bFGFを用いて)後成的もしくは(構成的にダウンレギュレートされたvmycを介して)遺伝子的のいずれかの手段により増殖されるヒトNSCの能力の間での比較もまた行い;その知見は、増殖のこれら2種の普遍的な手段が同等に有効かつ安全であることを示唆する(研究者が彼らの研究もしくは臨床の要求に最良に適合する技術を自由に選んでよいことを意味する)。
【0005】
(発明の詳細な記述)
われわれは、厳格に定義された幹細胞の特徴をもつニューロン細胞が、実際にヒト脳から単離されることができ、また、下等哺乳動物のNSCの挙動を模倣することができるという証拠を提示する。これらの観察結果は、ヒトCNSに対するある種の神経発生の原理の保存を与えるのみならず、しかし、それらは、この分類のニューロン細胞が、ヒトでの研究および臨床の問題にも同様に最終的には適用されることができることを示唆している。実際のところ、本報告書に記述される実際のヒトNSCクローンがその機能をはたすことができるのみならず、しかし、われわれのデータは、こうした細胞が複数の研究および/もしくは治療の問題の要求を満足するであろうということを除き、他の研究者が、多様な同等に安全かつ有効な(後成的および遺伝子的双方の)方法によってヒト材料の他の供給源からこうした細胞を容易に得かつ増殖することができることを示唆している。
【0006】
NSCの潜在能力において増大する興味は造血幹細胞におけるものと類似であった。この興味は、NSCは、単に移植の規範での胎児組織の置換物、もしくは遺伝子送達のための単に別のベヒクルでないという認識から生じている。それらの基礎生物学は、少なくとも細胞の検査により示されるとおり、遺伝子治療および遺伝子修復のための他のベヒクルが所有していないかも知れない潜在能力をそれらに付与しているようである。例えば、それらが移植後にニューロン構造に統合している(integrate)かも知れないことは、多様な遺伝子産物の調節された放出ならびに文字どおりの細胞の置換えを見込むことができる。(現在利用可能な遺伝子伝達ベクターは通常、実際には変性しておりかつ置換えを必要とすることができる確立されたニューロン回路により新たな遺伝情報を中継することに依存している一方で、NSCはこれらの経路の再構成に参画することができる。)酵素および細胞の置換えは、CNSの特定の解剖学的に範囲を定められた領域にのみならず、しかしまた、所望の場合は、胚領域への単純な移植により広く行き渡った様式でCNSのより大きな領域に標的を定めることができる。多くの神経学的疾患は、パーキンソン病でそうであるように特定の部位に限局されないため、この能力は重要である。むしろ、それらの神経病理学は、しばしば広範囲、多病巣、もしくは包括的(例えば、多様な外傷性、免疫学的、感染性、虚血性、遺伝的、代謝性もしくは神経変性性の過程に存在する病変)でさえある。これらは、ニューロンの移植の範囲を超えると慣習的に見なされる治療の挑戦である。従って、NSCは、CNSでの移植および遺伝子治療の規範の範囲を広めるよう助けてきた。NSCは容易にかつ妨害されずに血液脳関門を通過し、そして、直ちに、直接、そして必要な場合は散在した様式で、それらの外来遺伝子産物をCNSに送達する。加えて、NSCは神経変性に応答性であることができ、欠陥のある細胞型を補償するようにそれらの分化を移動させる。これらの特性の根底にある生物学は、実際的価値があるかも知れないだけでなく、しかし基礎的な発生の機構を解明するかも知れない。
【0007】
われわれの結果を要約するために、(共通のレトロウイルス挿入部位の存在により明白に主張されかつ後成的もしくは遺伝子的手段のいずれかにより増殖された)ヒトNSCの
クローンが、インビボで正常なCNSの発生に参画し、かつ、確立した移動経路に沿った多様な胚領域から広範に散在した領域までの移動を包含する、正常な微小環境の刺激に対して応答することが可能である。単一のNSCは、全3種の基礎的ニューロン系統((多様な型の)ニューロン、稀突起膠細胞および大グリア細胞(これゆえに多分化能))で子孫を生じさせ、ならびに類似の潜在能力をもつ新たなNSCを生じさせる(すなわち自己再生)ことが可能である。所定のヒトNSCクローンは、インビボで、マウス宿主への移植後に、内在性のマウス祖先(それらはこれらと一様に混ざる)について確立したパターンを模倣して、ニューロン軸の長さに沿って、領域および発生段階に適切な系統のニューロン細胞に(すなわち、神経発生が正常に持続しているニューロン、およびグリア発生が優位を占めるグリアに)分化するのに十分に形成的である。従って、例えば、それらは、中枢神経軸の一端でOBへの、そして他端で小脳中の顆粒ニューロンへの移動後にニューロンを生じさせることができ、なおまた大グリア細胞および稀突起膠細胞(生後新皮質、皮質下白質および線条体で生じる適切な細胞型)も生じることができる。さらに重要なことは、真の幹細胞に期待されることができるとおり、われわれは、これらのNSCが分化することが可能であったニューロン型の多くが、該細胞が当初得られた発生段階(例えば懐胎中)で産生されないが、しかしむしろNSC移植の段階および領域で産生されることを立証することができ、こうして適切な(領域に加えて)時間的な発生の応答性を主張した。
【0008】
興味深いことに、最も確固たる分化は、細胞がより未分化の外観を長期間維持することができた培養皿においてではなく、しかし、それらが分化された表現型を迅速に達成した移植脳において、最終的に達成された。この結論は、インビトロ実験については、大グリア細胞発生(脳の発生において典型的に産生される最後の細胞型)の誘導は共培養される一次CNS細胞(おそらく「環境」を再創製する)の存在を必要とした一方、インビボ環境へのNSCの単純な移植は移植実験で十分であったという観察結果によってもまた支持されている。
【0009】
こうした豊富な遺伝子的に均一の操作可能な細胞は、インビボおよびインビトロでヒトNSCの生物学を研究するための価値あるモデルを明瞭に代表する。われわれは、本論文で、ヒトNSCクローンが、真の臨床医の立場でそれらを有効であると期待するよう導くことができる能力を所有することを立証した。
【0010】
われわれは、(単一の単純な移植処置からであっても)それらの広範に散在した位置で、レトロウイルスで形質導入される外来遺伝子(lacZ)を発現するこれらの細胞の能力を立証し、将来の治療的遺伝子伝達戦略の見込みを提供する。これらのヒトNSCにより送達される遺伝子産物が、全部の型の機能不全のニューロン細胞を交差修正することを期待することができることは、その特定の遺伝子産物が(標的を定められた突然変異誘発を介して)欠乏しているニューロン細胞の原型モデル(テイ−サックス(Tay−Sachs)マウス細胞)への指標の治療タンパク質(ヘキソサミニダーゼ)の成功裏の送達を立証するわれわれの実験により示唆された。ニューロン、グリアおよび未熟な感覚上皮の祖先の表現型までものテイ−サックス(Tay−Sachs)の脳細胞は、これらのヒトNSCの分泌性産物により効果的に救助することができ、そしてそれらを効果的に補完することができた。この遺伝子産物は、標的ニューロン細胞中に内在化されると、大多数の突然変異された細胞での病的GM2蓄積を未然に防いだ。この成功裏の分子交差修正は、細胞移植およびインビボ移動データと一緒になって、テイ−サックス(Tay−Sachs)が一代表例である、広範囲の遺伝性代謝疾患および他の神経発生的ヒト疾患の治療のためのヒトNSC媒介性の戦略の実行可能性を確立する助けとなる。
【0011】
要約すれば、NSCは、移植可能な応答性ニューロン細胞の生成において同等に有効かつ安全である多様な(後成的および遺伝子的双方の)手段により増殖することができ(そ
して、実際のところ、細胞周期調節タンパク質と可逆的に相互作用する共通の最後の分子経路に接近することができ)る。従って、1つの技術により永続されるNSCの研究から獲得される洞察は、他を使用する研究に由来する洞察と正当に結合されて、NSCの生物学のより完全な像を提供する助けとなるかも知れない。さらに、NSCを単離および操作するためにはどの技術が最も効果的であるかに関するNSCの文献での論争の解決の補助、およびヒト起源の細胞でそうすることにおいて、研究者および/もしくは臨床医の特定の研究もしくは臨床の問題の要求に最良に役立つ増殖技術を選ぶための扉は彼らに開かれている。これらは重要な実際的意味を有することができる。遺伝子的手段(例えば、通常の発生機構および環境の刺激により構成的にダウンレギュレートされるvmyc構築物)によるNSCの増殖が、多くの要求に対して今日までのところ最も安全で、容易で、有効で、信頼できかつ費用効率のよい方法であるようであることは興味深い。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明にかかる、各推定のヒトニューロン幹細胞(NSC)クローンの単クローン性の性質は、それぞれのゲノム内の単一のレトロウイルス挿入部位を立証することにより確認される。[A](bFGFにより増殖されそしてその後lacZおよびneoをコードするレトロウイルスで形質導入された)推定のヒトNSCクローンH1からのゲノムDNAを(プロウイルス内で1ヶ所のみ切断する)HindIIIで消化し、そしてneoに相補的な放射標識されたヌクレオチドプローブとともにインキュベートした。単クローンの派生は、それらが単一の感染した「親」細胞(矢印)由来であったことを示す、コロニー中の全細胞に共通の組込み部位をもつ単一の組込まれたレトロウイルスの存在により確認される。陽性対照として、neoをコードする2種の組込まれたレトロウイルス(組込まれたvmycをコードするレトロウイルスからの1種および別個のlacZをコードするレトロウイルスからの1種13,28)を含有するマウスNSCクローン17.2は、2バンド(矢印)を適切に示す。プローブの特異性は、レトロウイルスに感染しておらずそのゲノム中にneo配列、そしてこれゆえにハイブリダイゼーション産物を示さない陰性対照、ヒト髄芽腫細胞系DaOYにより立証される。[B]推定のクローンH9、H6、D10およびC2(bFGFおよび/もしくはEGF中で増殖されそしてそれから増殖遺伝子vmycをコードするレトロウイルスにその後感染したヒトNSCコロニー)からのゲノムDNAを、Bgl IIもしくはBam HI(そのそれぞれはプロウイルス内で1ヶ所のみ切断する)で消化し、そしてその後、プロウイルスのvmycに相補的なプローブを利用するサザン分析にかけた。単一のレトロウイルス組込み部位が全コロニーで認識され、各推定のクローンの単クローン性の性質を確認する。単一コピーのvmycを含有し13,28そして陽性対照としてはたらくマウスNSCクローンC17.2もまた1バンドを有する。[A]でのように、陰性対照(ウイルスに感染していないヒトDaOY細胞)はバンドを有しない。
【図2】本発明にかかる、インビトロでのヒトニューロン幹細胞(NSC)の特徴づけ。[A]NSCは、血清を含まないbFGFを補充された培地中でクラスターとして成長する傾向がある。それらは、血清を含有する培地に移された場合には神経細糸に免疫反応性のニューロン[B]もしくはCNPアーゼに免疫反応性の稀突起膠細胞[C]に、または、例えば、典型的なタイプ−1の原形質性アストロサイトを具体的に説明する[D]でのように、一次マウスCNS培養物とともに共培養され(かつヒト特異的抗GFAP抗体で同定され)る場合にGFAPを発現するアストロサイトに、自発的に分化する。これゆえに、単一のクローンは全ニューロン系統の細胞を発生させる潜在能力を有する(「多分化能」)。全条件下で、クローン中に新たな未熟な未分化のビメンチンに免疫反応性のNSC[E]が存在し、クローンの「自己再生する」(すなわち新たな多分化能NSCを産生する)能力を示唆している。
【図3】本発明にかかる、ヒトニューロン幹細胞(NSC)は、遺伝子が突然変異されている多系統のニューロン細胞(例えば、テイ−サックス(Tay−Sachs)マウスからの脳細胞)において、原型の遺伝子産物欠乏(例えばβ−ヘキソサミニダーゼ−A)を補完することが可能である。ヒトNSCは(マウスNSCと同様に)神経発生的欠損を交差修正することが可能であるという原理の証明として、ヘキソサミニダーゼ−Aの非存在をもたらすβ−ヘキソサミニダーゼのα−サブユニットの標的を定められた突然変異誘発を介して発生された39、原型の神経発生的障害、テイ−サックス(Tay−Sachs)疾患のマウスの脳からのニューロン細胞を、ヒトNSCからの分泌性遺伝子産物に曝露して、この欠損の補完を遂行するそれらの能力を評価した。[A−C]NASBG組織化学(ノマルスキ(Nomarski)光学)により測定されるようなヘキソサミニダーゼ活性。機能的ヘキソサミニダーゼは活性のレベルに比例した強度をもつ赤桃色沈殿を生成する。[A]NSCに曝露されないテイ−サックス(Tay−Sachs)ニューロン細胞(矢印)は、検出可能なヘキソサミニダーゼを有しないか、もしくは最小限の検出可能なヘキソサミニダーゼを有する。(低い残余のヘキソサミニダーゼ−B活性を反映する、少数のわずかに桃色のNASBG+の細胞がときに観察される)。比較すれば、マウスNCS(例えばクローンC17.2H)[B]もしくはヒトNSC[C]からの分泌性産物に曝露されたテイ−サックス(Tay−Sachs)ニューロン細胞は、今や、強く赤色に染色し(野性型の強度)、それらが交差修正された、すなわち、NSC馴化培地から有意の量の機能的に活性なヘキソサミニダーゼを内在化したことを示唆している。[D−L]テイ−サックス(Tay−Sachs)の脳からのどのニューロン細胞型が交差修正されたかを決定する助けとするため、([C]でのように)トランスウェル系でヒトNSCとともに共培養されていた一次解離テイ−サックス(Tay−Sachs)ニューロン細胞を、ヘキソサミニダーゼのヒトα−サブユニットに対するフルオレセイン標識抗体[D−F]およびニューロン細胞型特異的抗原に対する抗体(TR標識二次抗体により可視化される)[それぞれG−I]の双方と反応させた。二重フィルターを通した顕微鏡写真は、細胞型マーカーを伴うα−サブユニットの共局在化を確認した[それぞれJ−L]。これらの今やα−サブユニット陽性の修正された細胞のあるサブセット[D]は、ニューロンマーカーNeuNのそれらの発現により示されるとおり[G、J]ニューロンであり;α−サブユニット+の細胞のあるサブセット[E]は、グリアのマーカーGFAPのそれらの共発現により具体的に説明されるとおり[H、K]グリアであり;そしてα−サブユニット+の細胞のあるサブセット[F]は、中間フィラメントネスチンの存在により示されるとおり[I、L]未熟な未分化のCNS前駆体であった。(テイ−サックス(Tay−Sachs)の脳からの未処理の細胞はα−サブユニットについて染色しなかった。)[M][A−C]でみられるような、成功裏に救助された(すなわちNASBG+の)一次テイ−サックス(Tay−Sachs)ニューロン細胞のパーセント。NASBG+であった(第一のヒストグラム)「未処理の」テイ−サックス(Tay−Sachs)のα−サブユニットが存在しない細胞(−/−)(すなわちNSCに曝露されない)の数は極めて少なかった。(このパーセンテージが0でないことは、いくつかの細胞において薄桃色の評価可能な細胞を産生させるのにときに十分に十分である突然変異体細胞における若干の低い残余のヘキソサミニダーゼ−B活性を反映する。)対照的に、マウスNSC(C17.2)(第二のヒストグラム)、ヘキソサミニダーゼを過剰発現するよう工作されたマウスNSC(C17.2H)(第三のヒストグラム)、もしくはヒトNSC(第四のヒストグラム)からの分泌性産物で「処理された」テイ−サックス(Tay−Sachs)ニューロン細胞のなかで、交差修正されたヘキソサミニダーゼ含有細胞のパーセントは有意に増加した(p<0.01)。NSCは、この救助を遂行するそれらの能力では相互と有意に異ならなかった。(野性型マウスからのニューロン細胞のNASBG染色は陽性対照としてはたらき、そして、ほぼ100%がNASBG+であった。ヒストグラムは提示されない。)[N]遺伝子産物の欠乏の補完は、減少されたGM2蓄積を伴うテイ−サックス(Tay−Sachs)CNS細胞のパーセントにより具体的に説明されるとおり、突然変異されたニューロン細胞中での病的な表現型の救助をもたらす。NSCに曝露されないテイ−サックス(Tay−Sachs)細胞(第一のヒストグラム)のなかで、GM2+の細胞のパーセントは大きく、それらの病理学的に高いレベルの貯蔵を反映し、そして[M]による酵素の欠如と矛盾しない。対照的に、マウス([M]でのとおり、第二および第三のヒストグラム)もしくはヒトのNSC(第四のヒストグラム)への曝露後の検出可能なGM2貯蔵を伴わない、交差修正されたテイ−サックス(Tay−Sachs)細胞のパーセントは、突然変異体におけるより有意により小さく(p<0.01)、野性型(+/+)マウス脳(第五のヒストグラム)におけるものに接近していた。再度、NSCは、この救助を遂行するそれらの能力で相互と有意に異ならなかった。
【図4】本発明にかかる、新生マウスの脳室下胚領域(SVZ)への移植後のヒトニューロン幹細胞(NSC)の発生的に適切な移動。[A、B]ドナー由来のヒトNSCは、移植後24時間までに、宿主SVZ内で内在性の祖先に統合しかつ非破壊的にそれらと混ざる。[A]で強調されている、典型的な短い突起を伴う代表的なドナー由来の細胞(赤色)は、密に充填された内在性SVZ細胞とともに点在している([B]の重なり合う画像中でDAPI(青色)により可視化されている)。[C]移植2週間後、多くのドナー由来細胞(赤色)が、この冠状断面で可視化されるとおり、側方脳室(LV)での移植のそれらの部位から皮質下白質(矢印)および脳梁(c)内に広範囲に混ざっている。皮質下白質(矢印)内の代表的な移動する細胞(囲まれた挿入物中で高倍率で可視化されている)が、移動する前駆体細胞に特徴的な先導突起を有することが示されている。[D、E]この代表的なクレシルバイオレットで対染色された傍矢状切片でみられるとおり、他のドナー由来細胞が、前SVZ中のそれらの統合部位から移動して吻側移動流(「RMS」)に進入した(嗅球(「OB」)につながる)。RMS内の代表的なBrdU−イムノペルオキシダーゼ(immunoperoxidase)陽性(褐色)のドナー由来細胞(矢印)が[D]に低倍率で見られ、また、[E]ではより高倍率で可視化され、移動する宿主細胞と混ぜられている。OB中のそれらの最終位置におけるこれらのドナーのヒトNSC由来細胞のさらなる特徴づけおよび可視化を図5に提示する。目盛棒線:100μm。
【図5】本発明にかかる、発生中の新生マウスのSVZへの移植後のインビボでのヒトニューロン幹細胞(NSC)クローンの分化および外来遺伝子(β−ガラクトシダーゼ)発現の散在。[A−C]安定に移植された、β−ガラクトシダーゼ(β−gal)を発現する、代表的ヒトNSCクローンH1からのドナー由来細胞を、Xgal組織化学[A、B]および抗β−gal ICC[C]で検出した。[A]の一連の顕微鏡写真中に写真で示されるドナー由来細胞は室周および皮質下白質領域内にある(図4による)。(上図および下図(左に低倍率、右に対応する高倍率)は、単一のレシピエント内の代表的ないくぶん隣接する(semi-adjacent)領域からであり、細胞の有意の分布を示唆し;矢印は側方脳室を示す。)さらに、(図4Dでのように位置される)嗅球(OB)を通る代表的な高倍率の顕微鏡写真により[B、C]に具体的に説明されるとおり、このクローンからのドナー由来細胞は、この発生的に適切な部位に広範囲に移動したのみならず、しかしこの離れた位置で(すなわちインビボで散在した様式で)βgalを発現し続ける。この発生段階でOBに移動していたSVZ由来の祖先の亜集団の通常の運命はニューロン性になることである。[D−G]では、出生時にSVZに移植されたBrdU標識されたNSC(代表的クローンH6)由来の成熟OB中のドナー由来のニューロンが、ヒト特異的NF抗体に対するそれらの免疫反応性[D]、ならびに成熟ニューロンのマーカー、NeuNのそれらの発現[E−G]の双方により同定され;共焦点顕微鏡検査下では、BrdU+(これゆえにドナー由来)の細胞([E]中の矢印、フルオレセイン)は、NeuN+([F]中の矢印、テキサスレッド)であり、二重フィルターを用いて最良に認識される([G]中の矢印)。ドナー由来細胞[F中の矢印]と類似の大きさ、形態および位置を共有する2種の宿主のOBニューロン([G]中のBrdU−/NeuN+)が、この代表的なドナー由来のBrdU+/NeuN+ニューロン(矢印)に隣接している。[H、I]稀突起膠細胞特異的なタンパク質CNPアーゼ[H]およびBrdU[I]に対する抗体で二重標識された、新生の脳室内移植後の成体皮質下白質(図4Cによる)中で適切な、代表的なドナー由来の(クローンH6)稀突起膠細胞(矢印)の高倍率図。細胞体から伸長する特徴的な細胞質突起が示される([H]中の矢尻)。(CNPアーゼ+の細胞の形態は、BrdU二重標識に必要とされるHCl前処理によりいくぶん損傷されている。)[J]ヒト特異的抗GFAP抗体で同定される、新生の脳室内移植後の成体の皮質下白質(矢印)(図4Cによる)および線条体における成熟のドナー由来のアストロサイト(クローンH6)。差し込み図が、代表的なヒトのGFAP+の細胞の特徴的な成熟アストロサイトの形態をより高倍率でより良好に具体的に説明する。[K−Q]vmycの発現は移植後48時間以内にダウンレギュレートされる。[K]、[M]および[O]は、それぞれ隣接する図[L]、[N]および[P、Q]のDAPIに基づく核染色である。代表的ヒトNSCクローンH6は、増殖遺伝子vmycを用いて(十分に特徴づけられたマウスのNSCクローンC17.2でそうであったように)発生させた。移植後24時間でのSVZ(矢印)中のH6由来細胞(赤色)におけるvmycの免疫反応性([L]、および[N]により高倍率で)は、統合されたH6由来細胞([Q](ここでは移植後3週間が示されるが、しかし移植後24時間のいかなる点も代表する)でBrdU標識により可視化される)で持続的に非存在である[P]。目盛棒線:[A]、[K]および[L]に適用される:100μm;[D]、[E]および[F、G]、[H]に適用され、また[I]、[J]、[M]に適用され、そして[N]に適用される:10μm;[O]および[P、Q]に適用される:50μm
【図6】本発明にかかる、神経変性の顆粒ニューロンに欠陥のある曲がり尾(mea)マウスモデルの小脳への移植後のヒトニューロン幹細胞(NSC)によるニューロンの置換え。[A−G]新生のmea外胚層(EGL)への移植後の抗BrdUイムノペルオキシダーゼ細胞化学(褐色の核)により成熟小脳で同定される(代表的クローンH6からの)BrdU挿入されたドナー由来の細胞。(小脳表面上のEGLは、内顆粒層(IGL)が出現する際に消失して、器官形成の終了時に最深の小脳皮質層となる13。)[A]クローンH6由来の細胞が、この傍矢状切片で成熟小脳の全葉のIGL(「igl」;矢尻)に存在する。(顆粒ニューロンは、前葉で若干の突出を伴い小脳全体で減少している。)[B]より高倍率の、レシピエントのIGL内に存在する多数のドナー由来細胞を立証する、[A]で矢尻「b」により示された代表的小脳後葉。[C−G]増大する倍率の、meaの小脳前葉のIGL内のドナー由来細胞(褐色の核)。([A、B]におけるものと異なる動物。)[G]ノルマルスキ(Normarski)光学が、いくつかの残余の宿主のBrdU陰性の小脳顆粒ニューロン(矢尻)およびBrdU+のドナー由来ニューロン(矢印)(全動物の全部の移植された葉で見られるものを代表する)の大きさおよび形態の類似性をもたらす。[H、I][A−G]からのドナー由来のBrdU+の細胞の亜集団のニューロンの分化の確認を、抗BrdU[H中の緑色]および成熟ニューロンのマーカーNeuN[I中の赤色](対応する矢印で示される)での共標識により具体的に説明する。(いくつかの隣接するドナー由来細胞は、それらのBrdU+([H]中の矢尻)により示されるように非ニューロン性であるが、しかしNeuN表現型である(免疫染色の特異性もまた具体的に説明する))。[J]ヒト染色体のセントロメアを同定するヒト特異的プローブ(赤色)を用いるFISHにより、IGL内の細胞がヒトドナー由来の細胞であることが確認される。目盛棒線:[A]、[B]:100μm;[F]、[G]、[J]:10μm
【発明を実施するための形態】
【0013】
実験プロトコル
培養物中でのヒトNSCの維持および増殖
妊娠15週のヒト胎児(別の場所55に詳述される)の終脳(とりわけ周室部)から調製された一次解離ニューロン細胞(細胞5×105個/ml)の懸濁物を、以下の成長培地、すなわちbFGF(10〜20μg/ml)(カルバイオケム(Calbiochem
))およびヘパリン(8μg/ml)ならびに/もしくはEGF(10〜20μg/ml)を添加したN2培地(ギブコ(Gibco))を補充されたF12培地を含む(1:1)ダルベッコの改変イーグル培地(DMEM)中で、未被覆の組織培養皿(コーニング(Corning))上で培養した。培地は5日ごとに交換した。細胞の凝集物は、大きさが10個の細胞直径より大きい場合に以下のとおり解離した。すなわち、ハンク(Hank)の平衡塩溶液およびHepes緩衝液で2回すすぎ、37℃で15分間トリプシン−EDTA(0.05%)中に置き、ダイズトリプシンインヒビター中で摩砕し、穏やかな遠心分離によりペレットにし、そして細胞5×105個/mlで上のような成長培地中で再培養した。
【0014】
分化の培養条件
解離されたNSCを、10%ウシ胎児血清(FBS)(ギブコ(Gibco))を含むDMEM中、ポリ−l−リシン(PLL)被覆された8穴チャンバースライド(ヌンク(Nunc))上で培養し、そしてICCのため毎週(インビトロで4週まで)継代した。大部分の場合、分化が自発的に発生した。(ヒト特異的抗GFAP抗体に対する免疫反応性により評価されるような)アストロサイトの成熟のためには、ヒトクローンを新生CD−1マウス脳の一次解離培養物とともに共培養した。
【0015】
ヒトNSCへのレトロウイルス媒介性の遺伝子伝達
2種の異なる異種栄養性の複製能力のないレトロウイルスベクターを使用してヒトNSCを感染させた。ウイルスのLTRから転写されたlacZおよび内的SV40初期プロモーターから転写されたneoをコードするレトロウイルスベクターは、それがPG13異種栄養性エンベロープを担持したことを除いてBAGベクター13に類似であった。このベクターは、移植実験のための安定な、組織学的に検出可能および免疫検出可能な遺伝子マーカーを提供したのみならず、しかしまた所定のコロニー中に存在する細胞のサザン分析での単一の共通のレトロウイルス挿入部位の立証による単クローン性の確認も可能にした。(LTRから転写された)vmyc(および内的SV40初期プロモーターから転写されたneo)をコードする両栄養性の複製能力のないレトロウイルスベクターは、遺伝子的手段によるヒトNSCクローンの増殖を可能にしたのみならず、しかし上述されたような全部の子孫の単クローン性の起源の確認もまた可能にした。この両栄養性ベクターは、GP+envAM12両栄養性パッケージング系統54を感染させるのに、(マウスNSCクローンC17.2を生成するために記述された13,28とおり)vmycをコードする環境栄養性レトロウイルスベクターを使用して生成した。成功裏の感染体(infectant)を選択しかつ拡張した。これらの新たなプロデューサー(producer)細胞からの上清は、4×105CFUの力価で両栄養性のエンベロープを担持する複製能力のないレトロウイルス粒子を含有し、これら粒子はG418耐性により示されるとおり、ヒトニューロン細胞を効率的に感染させた。ヘルパーウイルス粒子もしくは複製能力のある組換えウイルス粒子は産生されなかった。いずれかのベクターでのbFGFおよび/もしくはEGFで維持されるヒトニューロン細胞の感染は類似の手順に従った。すなわち、ポリブレン(8μg/ml)を含む2mlの成長培地中の標的細胞の懸濁物に、それぞれのパッケージング系統からの3mlの上清(4×105CFU)を添加し、そして37℃で4時間インキュベートし;培地をその後新鮮な成長培地で置換え;感染を24時間後に反復し;第二の感染の72時間後に、感染した細胞をG418(0.3〜1.0mg/ml)で10日間選択し、そして、下述されるとおり制限希釈法および増殖により個々のクローンを生成させた。全部の場合での単クローン性は、下述されるとおり、lacZもしくはvmycのいずれかをコードするウイルスについてのサザン分析で単一ゲノム挿入部位を同定することにより確認した。
【0016】
ヒトNSCのクローニング
細胞を上のとおり解離し、成長培地で細胞1個/15μlの濃度に希釈し、そしてテラ
サキ(Terasaki)皿のウェルあたり15μlで培養した。単一の細胞を含むウェルをプレーティング直後に記録した。単一細胞クローンを拡張させ、そしてbFGFを含有する成長培地中で維持した。レトロウイルスは各感染事象で宿主細胞のゲノムに1回無作為に組込むため、その挿入部位は独特の分子標識としてはたらき;その細胞の全部の子孫もまたそれおよびその標識のみを担持することができる。従って、全部の場合での単クローン性を、その後、lacZもしくはvmycのいずれかをコードするウイルスについて、サザン分析で単一かつ同一のゲノム挿入部位を全部の子孫で同定することにより確認した。独特のウイルス配列に相補的な放射標識されたプローブへのハイブリダイゼーションは、レトロウイルス組込み部位あたり所定の分子量の1個のバンドを生じる。プローブは、該クローンに対し適切なように、lacZをコードするベクターのvmycもしくはneo部分のいずれかに対して発生させた。vmycプローブは32P dCTPでのニックトランスレーション標識により発生させた。neoプローブは32P dCTPを利用するPCRにより発生させた。ゲノムDNAを標準的手順により推定のヒトNSCクローンから単離し、そして組込まれたプロウイルス内で1ヶ所のみ切断し残存する切断は隣接領域中のみである制限エンドヌクレアーゼで消化した。vmycプローブを用いる分析のためには、DNAをBgl IIもしくはBam HIで消化し;neoプローブについてはDNAをBgl IIで切断した。サザン分析の残りは標準的手順に従った。検出可能なバンドを有しないはずである、ウイルスで感染されていないDaOYヒト細胞系が陰性対象としてはたらいた。(一度発生されたクローンの健全(health)を保証するため(とりわけ小型の場合)、10%FBSおよび5%ウマ血清(HS)をときに培地に添加した。)
【0017】
ヒトNSCクローンの低温保存
トリプシン処理されたヒト細胞をペレットにし、そして以下(すなわち10%DMSO(シグマ(Sigma))、50%FBS、40%bFGFを含有する成長培地)のように構成された凍結溶液に再懸濁した。懸濁物を1.5mlのヌンク(Nunc))バイアルに分割し、長期貯蔵のためゆっくりと−140℃にした。バイアルを37℃の水浴中に置くことにより細胞を融解し、そしてバイアルからの穏やかな取り出しの後に、過剰の成長培地に再懸濁しかつ培養した。成長培地は当初8時間後に交換してDMSOを除いた。
【0018】
突然変異に誘発されるβ−ヘキソサミニダーゼ欠乏症の交差修正
ヒトNSCを上述されたとおり維持した。マウスNSCクローン「C17.2」および「C17.2H」(後者はβ−ヘキソサミニダーゼのヒトのα−サブユニットをコードするレトロウイルスで形質導入されたC17.2のサブクローン30)を、類似の血清を含まない条件で維持した。NSCを、新生マウス(野性型もしくはα−サブユニットが存在しない(テイ−サックス(Tay−Sachs))マウス39のいずれか)の脳からの一次解離ニューロン培養物13とともに(結果で詳述されるような)トランスウェル(transwell)系で共培養した。これらの一次培養物を、血清を含まない条件下で調製し(トリプシンはダイズトリプシンインヒビターで不活性化した)、PLL被覆された12mmのガラス製カバーガラス上で培養し、そしてNSCについて上述された培地中で維持し;一組の対照条件においては、bFGFおよびヘパリンを培地から除外したが;しかしながら結果は影響されなかった。ヘキソサミニダーゼ活性の存在を標準的組織化学的技術30によりアッセイした。すなわち、細胞を4%パラホルムアルデヒド(PFA)中で固定し、50mMクエン酸緩衝液(pH4.4)で洗浄し、そして50mMクエン酸緩衝液(pH4.5)中NASBG(0.25mM)とともに40℃で3時間インキュベートした。その後、それらを20℃で2〜3時間、1000倍希釈されたパラローザニリンヘキサソニウム塩の存在下で同一の基質に曝露した。ヘキソサミニダーゼを含有する細胞は、それらの酵素活性レベルに直接比例してだんだんに桃赤色に染色する30。野性型マウスの解離された脳からの一次ニューロン細胞のNASBG染色は、正常染色(図3B、C中のものに同一)の強度およびNASBG+の細胞のパーセント(〜100%)の双方の陽性対照としてはたら
いた。一次解離培養物中のニューロン細胞型は、標準的ニューロン細胞型特異的マーカー;ニューロンについてはNeuN(100倍);アストロサイトについてはGFAP(500倍);稀突起膠細胞についてはCNPアーゼ(500倍);未熟な未分化の感覚上皮由来の祖先についてはネスチン(1000倍)について、ICCにより同定した。ヒトβ−ヘキソサミニダーゼのα−サブユニットの存在は特異的抗体を用いるICCを介して検出した30。細胞は、どの型の突然変異体のテイ−サックス(Tay−Sachs)CNS細胞がヒトNSCからの交差修正酵素を内在化したかを評価するために、その抗体およびニューロン細胞型特異的抗体に対する二重免疫反応性について評価した。細胞質内GM2ガングリオシドもまた特異的抗体により認識した39
【0019】
移植
上のとおり解離されたNSCを、0.045%トリパンブルーを含むリン酸緩衝生理的食塩水(PBS)1μl中細胞4×104個で再懸濁し、そして移植されるまで氷上で十分に摩砕されて維持した。いくつかの移植の規範については、低温麻酔された出生後第0日(P0)のマウスの側方脳室を透照により可視化し、そして、既に記述されたとおり29,30引かれたガラスマイクロピペットを介して各脳室中に2μlの細胞懸濁物を穏やかに注入した。EGL移植については、P0マウスの小脳を透照し、そして、既に記述されたとおり13,31、各小脳半球および虫部のEGLに2μlの細胞懸濁物を類似に直接移植した。これらの動物を小脳の器官形成の完了後に殺した。全部の移植レシピエントおよび移植されない対照は、移植の日に開始して、シクロスポリン(10mg/kgIP)(サンド(Sandoz))を毎日受領した。
【0020】
インビボでのドナーヒトNSCの検出および特徴づけ
移植されたマウスを、連続的時間点、すなわちP1、P2および第5週齢まで毎週殺し、そして4%PFA(0.1M PIPES緩衝液、pH6.9中)で灌流した。脳を20μm間隔にて低温で薄片にした。ドナー由来の細胞は多数の方法で認識された。lacZで形質導入された細胞は、下に詳述されるような13,32Xgal組織化学もしくは抗βgal抗体を用いたICCのいずれかにより同定した。全部のNSC(lacZを運搬するものでさえ)は、移植前に、BrdUもしくは非拡散性のバイタルレッド蛍光膜色素PHK−26(シグマ(Sigma))で前標識した。BrdU標識のためには、20μMのヌクレオチド類似物を移植48時間前に培養物に添加し;これらの細胞をその後、下述されるとおり抗BrdU抗体によりインビボで同定した。製造元の説明書により調製されたPHK標識された細胞は、テキサスレッド(TR)フィルターを通して蛍光により検出された。マウス宿主中のヒトドナー由来の細胞の存在、およびインビボでの特定のニューロン細胞型のヒト起源の確認もまた、ヒト特異的抗ニューロン細胞型抗体の使用、およびヒト染色体セントロメアに特異的なプローブを使用するFISHにより確認した。双方の手順を下述する。宿主およびドナー双方の細胞の細胞核を可視化するため、ならびに解剖学的位置および関係を確認するのを助けるために、いくつかの切片を青色蛍光核標識DAPI中でもまたインキュベート(20℃で10分間)した。
【0021】
ICC
ヒト特異的抗体および抗ニューロン細胞型抗体を用いるICCを、標準的手順を使用して実施した。移植された脳からの低温切片を0.3%トリトンX−100中で浸透化(permeabilized)し、そして、抗ヒトNF抗体(150倍;ベーリンガー(Boehringer))もしくは抗ヒトGFAP抗体(200倍;スターンバーガー(Sternberger))とともに4℃で一夜インキュベートした。フルオレセイン結合抗マウスIgG二次抗体(200倍;ベクター(Vector))により免疫反応性を示した。切片は、細胞核を可視化するためにDAPI中でもまたインキュベートした。ドナー由来の細胞がβgalもしくはBrdUの存在により認識されるはずであった場合には、ニューロン細胞型特異的マーカーに対する抗体とともに、βgalもしくはBrdUのいずれかに対す
る抗体とともに組織切片をインキュベートすることにより、これらの細胞の表現型を特徴づけた。βgal免疫染色(1000倍;カペル(Capel))のための切片は上のとおり調製した。BrdUが挿入された細胞をICCを介して示すためには、組織切片をいくぶん異なって調製した。それらをPBS中で水を加えて元に戻し、2N HCl中37℃で30分間インキュベートし、0.1Mホウ酸ナトリウム緩衝液(pH8.3)で2回洗浄し、PBS中で3回洗浄し、0.3%トリトンX−100中で浸透化し、そして抗BrdU抗体(10倍;ベーリンガー(Boehringer))とともに37℃で1時間インキュベートした。フルオレセイン結合(250倍;ジャクソン(Jackson))二次抗体もしくはビオチニル化(200倍;ベクター(Vector))二次抗体のいずれかを用いて免疫反応性を示した。使用されたニューロン細胞型特異的抗体は以下のとおりであった。すなわち、ニューロンを同定するための抗NF(250倍;スターンバーガー(Sternberger))および抗NeuN(20倍;マレン(R.Mullen)の贈与);稀突起膠細胞を同定するための抗CNPアーゼ(200〜500倍;スターンバーガー(Sternberger));アストロサイトを同定するための抗GFAP(150倍;シグマ(Sigma))。これらのマーカーについての免疫染色はTR結合二次抗体[200倍;ベクター(Vector)]を用いて示された。vmyc発現(ドナー由来細胞に独特)は、該タンパク質に対する抗体(1000倍;UBI)で評価した。
【0022】
ヒト特異的セントロメアについてのFISH
動物を4%PFAおよび2%グルタルアルデヒドで灌流した。脳の低温切片を4%PFA中で後固定し、0.2%トリトンX−100中で浸透化し、PBS中で洗浄し、0.2N HCl中で20分間インキュベートし、PBS中で再度洗浄し、そしてその後0.1Mトリス、0.005M EDTA(pH8.0)中でプロテイナーゼK(100μg/ml)に37℃で15分間曝露した。その後、切片を、PBS中0.1%グリシン中で2分間、およびその後PBS中で5分間洗浄した。切片を4%PFA中で再度後固定し、PBS中で洗浄し、そしてその後50%ホルムアミド、2×SSCで5分間すすいだ。全部のヒト染色体上に独特にかつ特異的に存在するセントロメアの領域に相補的な、ジゴキシゲニン標識されたプローブ(オンコール(Oncor))をその後切片に添加し、切片をカバーガラスで覆い、ゴムのりで封止し、100℃で10分間変性させ、そしてその後氷上に5分間置いた。切片を37℃で15時間ハイブリダイズさせ、その後それらを65%ホルムアミド、その後2×SSC中43℃で30分間、そしてその後2×SSC中37℃で30分間、そして最後にPBS中20℃で15分間洗浄した。PBS中0.5%BSAおよび5%NHS中5倍希釈された抗ジゴキシゲニンTR結合抗体(ベーリンガー(Boehringer))によりプローブを検出した(37℃で30分)。スライドをPBS中で3回すすぎ(洗浄あたり15分)、DAPIとともにインキュベートし、PBS中で再度すすぎ、そして蛍光顕微鏡検査のため検鏡用に作った。
【0023】
結果
ヒトニューロン幹細胞の単離、増殖およびクローニング
ヒトCNSからのNSCの単離、増殖、特徴づけ、クローニングおよび移植は、構成的にダウンレギュレートされたvmycおよび増殖因子(とりわけbFGF)で拡張されたNSCクローンの形質導入後に増殖された「青写真(blueprint)」に従った。NSCが(遺伝子的に増殖されたクローンでさえ34)血清を含まない培地中でbFGFおよびEGFに応答して分割するようであるという観察結果5,35に基づき、解離された一次ヒトニューロン組織の開始集団のこの用件を充たす細胞についてのスクリーニングおよび濃縮の双方のための方法として、この二重の応答性を選んだ。加えて、一次ニューロン細胞は、当初、NSCの比較的豊富な集団を(下等哺乳動物で)もつと仮定されたCNSの領域、すなわち胎児終脳の脳室領域(VZ)1,7,8,23から(われわれの能力の最高の状態まで)得た。
【0024】
15週のヒト胎児脳からの解離されたニューロン細胞を、当初、bFGFおよび/もしくはEGFを含有する血清を含まない培地中で多クローン性集団として成長させた。培養された細胞は、二重応答性について樹立しかつ選択するために、しばしば、2種の分裂促進因子の一方もしくは他方を含有する培地の間で移動させた。そうして、いくつかの集団を、下述されるとおりにその後の操作およびクローニングのためbFGF単独中で維持し;他者は、また下述されるとおりにvmycのレトロウイルス媒介性の形質導入およびその後のクローニングに使用した。
【0025】
細胞のクローンの関係を評価するための明白な分子標識を提供するため、ならびに移植後のいくつかの細胞の同定を助長しかつインビボで外因性遺伝子を発現するそれらの能力を評価するために、いくつかのbFGFで増殖された亜集団を、lacZ(大腸菌(E.coli)のβ−ガラクトシダーゼ[βgal]遺伝子)およびneo(ネオマイシン耐性の遺伝子)双方をコードする両栄養性の複製能力のないレトロウイルスベクターに感染させた。感染した細胞をG418(ネオマイシン類似物)中で生存について選択した。単一のコロニーを最初に限界希釈法により単離し;その後、独特の染色体挿入部位をもつ1コピーのみのlacZ/neoをコードするレトロウイルスが存在したことを立証することにより、所定のコロニー中の細胞の単クローン性を確認した。組込まれたプロウイルス中で1ヶ所切断する制限エンドヌクレアーゼで消化された、個別のコロニーからのゲノムDNAを、neoに相補的な放射標識されたプローブを用いるサザン分析にかけた。例えば、クローンH1では、全部のlacZ/neo+の細胞が、実際のところ、単一の共通のレトロウイルス組込み部位を有し、それらが単一の感染した「親」細胞に由来したことを示した[図1A]。
【0026】
上述されたようなヒトNSCについて濃縮された幾つかの集団をvmycで形質導入して、複数の安定なクローンを生じさせた。とりわけ、bFGFで維持された細胞を、vmycおよびneoをコードする両栄養性(または両種性)の複製能力のないレトロウイルスベクター28に感染させた。個々のG418耐性のコロニーを単離し、そして別個の培養物として維持した。再度、各推定のクローンが唯一の独特のレトロウイルス挿入部位を有したことを立証することにより、各コロニーの単クローン性を主張した[図1B]。全部のvmycで形質導入されたヒト細胞のコロニー(ならびに陽性対照として包含された樹立マウスNSCクローンC17.2)は、プロウイルスのエンドヌクレアーゼ二分およびvmycプローブへのハイブリダイゼーション後に同一分子量の単一のバンドを生成した。従って、後成的に維持された細胞について真実であったとおり、全部のvmycで形質導入されたコロニーは単クローン性であった。5種のクローン(H6、H9、D10、C2、E11)をこの手順により発生させ、そしてbFGFを含有する血清を含まない培地中で維持した。
【0027】
所定の細胞がNSCとして分類されるためには、全部のニューロン系統で子孫を生じかつそうすることができる他の単一の細胞を生じさせなければならず;従って、所定のコロニー中の全細胞が同一クローンのメンバーであったことを明白に主張することが絶対必要であった。この必須の基準に合致したため、クローンの追加の特徴づけを進めることが可能であった。
【0028】
クローンのインビトロでの特徴づけ
多分化能および自己再生
未被覆の皿、およびbFGFを補充された血清を含まない培地においては、全部のクローンがクラスターとして培養物中で成長し、このクラスターは最低1年間毎週継代することが可能であった[図2A]。これらのクラスター内の細胞は、未熟な多分化能ニューロンの祖先の頻繁に使用されかつ信頼できるマーカー25、中間フィラメントビメンチンを発
現した。これらのクラスターを解離しかつそれらを血清含有培地中で培養する(bFGFで増殖されるげっ歯類のNSCおよび祖先を分化させるのに既に使用されている技術16,25,37)ことにより、これらのクローンはニューロンおよび稀突起膠細胞に自発的に分化した[図2B、D]。これらの分化する条件下で5日後に、全クローン中の大多数の細胞(90%)がニューロンマーカー神経細糸(NF)に対し免疫反応性となった[図2B]一方、より小さい比率(10%)が稀突起膠細胞のマーカーCNPアーゼを発現した[図2C]。神経膠線維酸性タンパク質(GFAP)を発現する成熟アストロサイトは、これらの培養条件下では当初(インビトロで1ヶ月後であっても)認識されなかった。しかしながら、一次解離胚マウスCNS組織との共培養により、これらのヒトクローン中でGFAP発現を誘導することができた[図2D]。上に言及された多様な分化系統特異的なマーカーを発現する(「多分化能」を樹立する)細胞に加えて、各クローンは、新たな未熟なビメンチン+の細胞もまた生じさせ[図2E]、これは順に、その後の継代に際して、複数の分化したニューロンのマーカーを発現する新たな細胞、ならびに新たなビメンチン+の継代可能な細胞を生じさせることができた(すなわち「自己再生の可能性」)。
【0029】
これらの結果は、移植後にインビトロおよびインビボで検討されるべきクローンの全部が、NSCの操作上の定義(全3種の基礎的ニューロン系統の子孫に分化する能力をもった、単一細胞由来の安定な自己再生する多分化能のビメンチン+のクローン)を満足したことを主張した。全部のクローンは、遺伝子的に改変されたにしろ後成的に維持されたにしろ、インビトロでのそれらの挙動および表現型において顕著に類似であった。この比較を継続するために、下述されるインビボ移植実験でこれらの多様なクローンを同時に使用した。
【0030】
保存
注目すべきことに、全部のクローンは、細胞生存率に対する最小限の副作用を伴い、かつ、融解に際しての増殖もしくは分化に対する識別できる影響を伴わずに、効率的に低温保存することができた(実験プロトコルで詳述される)。
【0031】
遺伝子欠損を補完および交差修正する能力
分子治療のためのベヒクルとしてのそれらの潜在能力の評価を助けるため、われわれは次に、十分に制御されかつ観察可能な条件下で、マウスNSCと同一の効率で原型の遺伝子的代謝欠損を補完かつ交差修正するヒトNSCの能力を評価した30,29,38。選ばれた指標の遺伝子欠損は、ヒトにおいて治療不可能かつ変えられない神経変性性のリソソーム貯蔵疾患、テイ−サックス(Tay−Sachs)の原因である突然変異、β−ヘキソサミニダーゼのα−サブユニットの非存在であった。α−サブユニットの非存在は、GM2ガングリオシドをGM3に代謝するのに必要とされるヘキソサミニダーゼAの欠乏症につながる。脳中での病的なGM2の蓄積は該疾患の進行性の神経変性の特徴につながる。交差修正を遂行するヒトNSCの能力を、以下の2種の確立したマウスNSC、すなわち「クローンC17.2」およびヘキソサミニダーゼを過剰発現するようにα−サブユニットのレトロウイルスの形質導入を介して工作されたC17.2のサブクローン30(「クローンC17.2H」と呼ばれる)と比較した。これらのマウスNSCクローンを使用した以前の研究は、それらがかなりの量の機能的なヘキソサミニダーゼA(ヒトテイ−サックス(Tay−Sachs)患者からの線維芽細胞により細胞内取込みされるとみられる30)を合成および分泌の双方をしたことを確立した。α−サブユニットをコードする遺伝子が特に突然変異された39最近の世代のトランスジェニックマウスは、今や、テイ−サックス(Tay−Sachs)の動物モデル由来の実際のニューロン細胞を交差修正するヒトNSC(ならびにマウスNSC)の能力の検査を可能にした。さらに、特定の遺伝子産物、リソソーム酵素活性および細胞内の病的表現型の迅速かつ信頼できる検出のための確立された標準化されたツールの利用可能性は、このモデルを理想的にした。
【0032】
突然変異体のニューロンの表現型を救助することが可能な分泌可能な遺伝子産物を産生するそれらの能力を評価するために、NSC(マウスおよびヒト)ならびに対照細胞を、ヘキソサミニダーゼの通過を可能にするのに十分であるがしかし細胞の通過には十分でない孔径(0.4μm)をもつメンブレンの一側上で培養した。メンブレンを部分的にウェル中に浸積し、その底部にカバーガラスをのせ、その上に新生テイ−サックス(Tay−Sachs)マウスの脳から解離されたニューロン細胞を培養した。このトランスウェル系での10日の共培養後に、突然変異体のニューロン細胞を担持するカバーガラスを、以下(すなわち(1)ナフトール−AS−BI−N−アセチル−β−Dグルクロニシド(NASBG)への曝露後の赤色沈殿の産生によりアッセイされるようなヘキソサミニダーゼ活性の存在について[図3A−C、M];(2)α−サブユニットに対する抗体およびCNS細胞型特異的マーカーに対する抗体の双方を用いて、どのテイ−サックス(Tay−Sachs)ニューロン細胞型が修正する遺伝子産物を内在化したかを決定すること[図3D−L];および(3)GM2の貯蔵の減少について[図3N])のとおり検査した。
【0033】
単独で培養されたテイ−サックス(Tay−Sachs)のCNS細胞では最小限の固有のヘキソサミニダーゼ活性が存在した[図3A]一方、ヘキソサミニダーゼ活性は、細胞をマウスもしくはヒトのNSCとともに共培養した場合に正常の強度まで増大した[図3B、C]。ヒトNSCに媒介される交差修正の程度は、マウスNSCにより遂行されたものと同じくらい成功裏かつ有効であり、未処理の対照でよりも有意により大きい(p<0.01)NASBG+のテイ−サックス(Tay−Sachs)のCNS細胞のパーセントを生じた[図3M]。図3D−Lにより示唆されるとおり、テイ−サックス(Tay−Sachs)マウスの脳からの全部のニューロン細胞型(ニューロン、グリア、祖先)が修正された。この増大された酵素活性が基礎的な細胞の神経病理学的過程に好都合に強い影響を与えたことの表示として、異常な細胞質内のGM2蓄積を伴わないテイ−サックス(Tay−Sachs)のCNS細胞のパーセントは、ヒトNSCからの分泌性産物に曝露されたもので、未処理のテイ−サックス(Tay−Sachs)培養物でよりも有意により低く(p<0.01)、野性型のマウス脳からのものに近づいていた[図3N]。
【0034】
従って、ヒトNSCクローンは、遺伝子に基づく欠損を修正しそして病的状態を低下させるために、複数の系統の標的を定められた損なわれたCNS細胞により利用されるはずである、十分な有効性をもつ機能的遺伝子産物を産生かつ分泌することが可能である。これらのデータは、遺伝子治療のための潜在的ベヒクルとしてのそれらの妥当性を確立する助けとなる。
【0035】
クローンのインビボの特徴づけ
インビボでの発生プログラムの多分化能、形成性および遂行
われわれは、次に、ヒトNSCクローン(後成的に増殖されようと遺伝子的に増殖されようと)が、未熟な脳への移植(transplantation)後に移植する(engraft)ことができたのみならず、しかしインビボの正常な発生の刺激に適切に応答しかつ適応することもまたできた(すなわち、適切に移動し、宿主実質に統合し、所定の発生の時間的な「窓」で(その窓がNSCが得られた場合と異なっていたとしても)所定の領域に適切なニューロン細胞型に分化する)かどうかを決定した。
【0036】
個別のヒトNSCクローンからの解離された細胞を、新生マウスの側方脳室(lateral ventricle)に両側で注入して、それらをSVZに到達させた。移植前に、いくつかのヒト細胞を、上で詳述されたとおりlacZレポーター遺伝子を用いて形質導入した。導入遺伝子のダウンレギュレーションの危険(移植されたドナー由来の細胞の誤った同定の付随した危険を伴う)について制御しかつこれを回避するために、細胞をまた、移植2日前のBrdUへのインビトロ曝露により、および/もしくは移植直前の非拡散性のバイタル蛍光膜色素PHK−26を用いてのいずれかでも前標識した。安定に移植された細胞をその
後、Xgal組織化学により;BrdU、βgal、ヒト特異的NFおよび/もしくはヒト特異的GFAPに対し向けられた抗体を用いる免疫細胞化学(ICC)により;ヒト特異的汎染色体α−セントロメアプローブを使用する蛍光インシトゥハイブリダイゼーション(FISH)により;ならびに/またはPHK蛍光により、適切なように検出した。いくつかの細胞については、それらのドナーのヒト起源を確認するために複数の同定技術を使用した。ドナー由来細胞の細胞型の同一性もまた、ニューロン細胞型特異的マーカーに対し向けられた抗体を用いる二重染色により必要なように確立した。
【0037】
ヒトNSCクローンは、脳室内移植の後に、それらのマウスの対照物のものを模倣する、発生的に適切な挙動を示した[図4、5]。さらに、後成的に永続にされたクローンの移植、移動および分化は、遺伝子的に(vmycで)永続にされたクローンのものに同一であった。(後者の範疇の5クローンのうち3種が十分に移植し[表];不十分に移植した残りの2クローンは下で論考するであろう。)後成的および遺伝子的の双方で維持されたドナー細胞は、移植後48時間以内にSVZに統合した[図4A、B;5A、K−N]。SVZ由来の内在性の宿主の祖先は、28日の期間にわたって、皮質下白質および皮質中に背側および側方にのみ移動し、そして大グリア細胞および稀突起膠細胞になることが既知であり;その段階でグリア発生がそれらの領域で優位を占める一方、神経発生は終了している44。類似の様式で、移植されたヒトNSCはまた、移植後2週間までに皮質下白質に沿って広範囲に移動し[図4C]、そして、3〜5週までに、稀突起膠細胞およびアストロサイトに適切に分化していた[図5H−J]。興味深いことに、インビボでのドナー由来のアストロサイトの即座の検出[図5J]は、インビボの環境からの単離においてインビトロでヒトNSCクローンが維持されていた場合の成熟したアストロサイトの初期の非存在と対照をなす(一次マウスCNSとの共培養が大グリア細胞発生を誘導するのに必要とされたことを想起されたい[図2D])。マウスCNSの他の成分から生ずる有益なシグナルは、多分化能細胞からのアストロサイトの分化および/もしくは成熟を誘発もしくは促進するのに必要なようである。
【0038】
内在性のSVZの祖先の第二の既知の運命は、RMSに沿って前方に移動しかつOB介在ニューロンに分化することである。移植後1週間までに、SVZからのドナー由来のヒト細胞の亜集団がRMSに沿って移動することが示された[図4D、E]。いくつかの場合においては、RMS中のこれらの細胞は小さな群中で一緒に移動する[図4E](内在性のマウスSVZ前駆体について典型的な挙動43,44)。移植3週間後に、RMS内の祖先の期待された運命により、ヒト起源のドナー由来のニューロンの亜集団(例えばヒト特異的なNF+の細胞)が、宿主ニューロンと混ぜられてOBの実質内に存在した[図5B−G、これは図4Dの写真で示されるようなOBを通る切片の高倍率図を表す]。これらのドナー由来細胞がヒトNF+であったのみならず[図5D]、しかし、OBを通る切片を、BrdUに対する抗体(前標識されたドナー由来のヒト細胞を同定するため)および成熟したニューロンのマーカーNeuNに対する抗体の双方と反応させた場合、ヒト起源の多数の二重標識されたBrdU+/NeuN+のドナー由来細胞が顆粒層内に統合され[図5E−G]、内在性の宿主のマウス介在ニューロンのNeuN発現パターンを模倣した[図5F、G]。
【0039】
ヒトNSCの形成性の程度をさらに検査するため、同一のクローンを、中枢神経軸の反対端で異なる胚領域に移植した。新生マウス小脳のEGLへの同一のヒトNSCの移植は、この異なる位置で多様なニューロン細胞型を適切に生じ(主としてIGL中の小脳顆粒細胞介在ニューロン[図6C−I])、この結果は次のセクションでより詳細に論考する。
【0040】
従って、インビボでは、インビトロ[図2]でのように、全部の移植可能なヒトNSCクローンが、全3種の基礎的ニューロン系統、すなわちニューロン[例えば図5D−G;
6];稀突起膠細胞[例えば図5H、I];およびアストロサイト[例えば図5J]の細胞を生じさせることができる。移植された脳は組織学的に正常に見えた(ドナー細胞は宿主実質中に一様に移動しかつ統合し、認識可能な移植片の縁を生じなかった)のみならず、しかし、移植された動物は、挙動の異常もしくは神経学的機能不全の他の表示を示さなかった。従って、ドナーのヒトNSCからの寄与を受領した脳構造は正常に発生したようであった。
【0041】
これらの移植研究において、大部分のクローンは極めて良好に移植した一方、5種の遺伝子的に増殖されたNSCクローンの2種は不十分に移植したようであった[表]。にもかかわらず、インビトロで、これらのクローンは、より確固として移植するクローンのものに外見上同一の特徴を示した。従って、インビトロでの見かけ上同等な多分化能は、必ずしもインビボで同等な潜在能力に訳されず、研究者が移植の規範において各クローンを個々に試験する必要性を示唆している。この観察結果は、混合された多クローン性集団(現在文献16,33,41,45,46中にある多くの移植研究の出発原料)の移植は、それらの不可避的な変化する特徴、および多様なクローンの表示の移動のため、問題の多い戦略かも知れないことをさらに警告している。
【0042】
インビボでの外来の導入遺伝子の発現
とりわけ広範囲の、多病巣性のもしくは包括的な病変を特徴とする疾患のための遺伝子治療の規範は、臨床状況が要求する場合は、ドナー細胞が(解剖学的に制限された位置で統合することが可能である10,16,32,45,46ことに加えて)広範に散在した位置で外来遺伝子を発現することが可能であることを必要とする。図5A−Cに写真で示される、レトロウイルスで形質導入されたlacZを発現する代表的クローン(新生マウスの脳室およびSVZに移植後)は、成熟した動物の離れた部位での宿主実質への移動ならびにその内への安定な統合および成熟の後、容易に検出可能なβgalを産生し続けた。
【0043】
vmyc発現の自発的、構成的ダウンレギュレーション
興味深いことに、また、重要なことに、遺伝子的に操作されたヒトNSCクローンの場合には、移植レシピエントの脳が多数の安定に移植される健康な十分に分化した非破壊的ドナー由来細胞を含有している[図4;5A−J、Q;6]という事実にもかかわらず、増殖遺伝子産物vmycは、移植後24〜48時間を越えてドナーのヒト細胞中で検出不可能である[図5K−Q]。これらの観察結果は、核分裂停止および/もしくは分化の間、CNS前駆体中では内在性の細胞のmycをダウンレギュレートする正常な発生の機構によりvmycが調節されていることを示唆している。移植後の安定に移植されたNSCからの自発的かつ構成的なvmyc発現の喪失は、インビボで数年後でさえ、移植されたvmycが増殖されたNSC由来のCNS腫瘍の不変の非存在と矛盾しない9,13,29-32。ヒトNSCでは脳腫瘍はみられていない。
【0044】
インビボでのニューロン細胞の置換え
遺伝子治療戦略の基礎として、ヒトNSC媒介性の外来遺伝子発現のインビトロおよびインビボの有望な効力を確立したため、われわれは次に、こうした細胞がニューロン細胞の置換えもまた媒介することができるかどうかの確立を追求した。確立した神経学的マウス突然変異体は、特定のニューロン細胞の置換えの規範を試験するための理想的モデルを古典的に提供している。屈曲尾(meander tail)(mea)突然変異体は、神経変性および損なわれた発生の1つのこうしたモデルである。meaは小脳、とりわけ前葉において顆粒ニューロンが細胞自律性に発生および/もしくは生存できないことを特徴とする47。マウスNSCは顆粒ニューロンが不完全なIGLを再構成することが可能である31
【0045】
CNSの障害においてニューロンを置換えるそれらの能力を評価するため、ヒトNSCクローンを新生meaマウス小脳のEGLに移植した。小脳の器官形成の完了時に分析さ
れた場合、ドナー由来のヒト細胞は小脳のIGL全体に存在した[図6]。それらは、それらが混ざったいくつかの残余の内在性のマウス宿主顆粒ニューロンに同一の[図6G]小脳の顆粒ニューロンの決定的な大きさ、形態および位置を所有した[図6E−G]。これらの「置換え」ニューロンがヒト起源のものであったということはFISHにより確認され、上述されたヒト特異的な染色体プローブについて陽性の細胞の存在を立証する[図6J]。ヒト由来の細胞が実際上ニューロン性であったということは、meaのIGL中の大部分の移植された細胞がNeuNに対し免疫反応性であった[図6H、I]ことを立証することにより確認され;OBでのように、IGL中の内在性の介在ニューロンは同様にNeuNを発現する。従って、ヒト起源の移植されたNSCは、系統決定のための変動する局所刺激に対し適切に応答するのに十分に形成性なようである。
【0046】
表:ヒトニューロン幹細胞*クローン
クローン 増殖技術 移植可能
H1 bFGF +
H6 vmyc +
H9 vmyc +
C2 vmyc +
D10 vmyc −
E11 vmyc −

*ニューロン幹細胞は、(複数の型の)ニューロン、稀突起膠細胞およびアストロサイト、ならびに新しいニューロン幹細胞を(インビトロおよび/もしくはインビボで)生じさせることが可能である単一の細胞と定義されている。これらの子孫がその単一の細胞および相互にクローン的に関連しているということは、この定義の必須の部分である。従って、多分化能および自己再生の双方を主張するためには単クローン性の明白な立証が必要である。
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

【0049】
【表3】

【0050】
【表4】

【0051】
【表5】

【0052】
【表6】

【図1−1】

【図1−2】

【図2−1】

【図2−2】

【図3−1】

【図3−2】

【図3−3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
インビトロ(in−vitro)で安定な細胞系として維持されかつ生存する宿主被験者への要求に沿ったインビボ(in−vivo)の移植に適する、遺伝子的に改変されたヒトニューロン幹細胞であって、
(i)有糸分裂性の自己複製する細胞系としてインビトロで継代される間は未拘束かつ未分化のままであり、
(ii)未拘束細胞としてインビボで移植可能であり、
(iii)移植後、生存する宿主被験者の神経系内での統合のために、移植部位から他の解剖学的部位へインビボで任意に移動し、
(iv)移植後、生存する宿主被験者中で、局所の解剖学的部位で実質組織中にインシトゥ(in−situ)で統合し、そして
(v)統合後に、インシトゥで、ニューロン、稀突起膠細胞およびアストロサイトより成る群から選択される基本細胞型に分化する、
ヒト起源の原始ニューロン幹細胞;および
特定のタンパク質産物をコードする外来遺伝子より構成される最低1個のDNAセグメントを担持するウイルスベクターを包含するよう遺伝子的に改変されているヒトゲノムDNA、
を含んで成る前記遺伝子的に改変されたヒトニューロン幹細胞。
【請求項2】
ウイルスベクターが両種指向性レトロウイルスのウイルスベクターである、請求項1に記載の遺伝子的に改変されたヒトニューロン幹細胞。
【請求項3】
ウイルスベクターが外因性vmycDNA配列を包含し、かつ、
(a)前記vmycDNA配列がインビトロで高度に発現されて、インビトロで維持される間に前記ヒトニューロン幹細胞を増殖細胞周期に存在させかつ迅速に増殖させ、さらに(b)インビボの細胞増殖の速度が終止するような生存する宿主被験者の構成組織により、インビボの細胞移植後に、前記vmycDNA配列の発現が制御されるようになりかつダウンレギュレートされる、
請求項1に記載の遺伝子的に改変されたヒトニューロン幹細胞。
【請求項4】
インビトロで安定な細胞系として維持されかつ生存する宿主被験者への要求に沿ったインビボの移植に適する、遺伝子的に改変されたヒトニューロン幹細胞の生存する子孫細胞であって、
(i)有糸分裂性の細胞としてインビトロで維持される間は未拘束のままであり、
(ii)未拘束細胞としてある選択された部位にてインビボで移植可能であり、
(iii)移植後、生存する宿主被験者の神経系内での統合のために、移植部位から他の解剖学的部位へインビボで任意に移動し、
(iv)移植後、生存する宿主被験者中で、局所の解剖学的部位で実質組織中にインシトゥで統合し、そして
(v)統合後に、インシトゥで、ニューロン、稀突起膠細胞およびアストロサイトより成る群から選択される基本細胞型に分化する、
ヒトニューロン幹細胞起源の多能性子孫細胞;および
特定のタンパク質産物をコードする外来遺伝子より構成される少なくとも1個のDNAセグメントを担持するウイルスベクターを包含するよう遺伝子的に改変されているヒトゲノムDNA、
を含んで成る前記の遺伝子的に改変されたヒトニューロン幹細胞の生存する子孫細胞。
【請求項5】
ウイルスベクターが両種指向性レトロウイルスのウイルスベクターである、請求項4に記載の遺伝子的に改変されたヒトニューロン幹細胞の生存する子孫細胞。
【請求項6】
ウイルスベクターが外因性vmycDNA配列を持ち、かつ、
(i)前記vmycDNA配列がインビトロで高度に発現されて、インビトロで維持される間に前記多能性子孫細胞を増殖細胞周期に存在させかつ迅速に増殖させ、さらに
(ii)インビボの多能性子孫細胞増殖の速度が終止するような生存する宿主被験者の構成組織により、インビボの細胞移植後に、前記vmycDNA配列の発現が制御されるようになりかつダウンレギュレートされる、
請求項4に記載の遺伝子的に改変されたヒトニューロン幹細胞の生存する子孫細胞。
【請求項7】
生存する宿主被験者への要求に沿ったインビボの移植に適する、個々の明確な細胞系としてインビボで安定に維持される遺伝子的に改変されたヒトニューロン幹細胞のクローンであって、
(i)単一の遺伝的に改変されたヒトニューロン幹細胞に由来し、かつ、該幹細胞の子孫細胞であり、
(ii)有糸分裂性の自己複製する細胞系としてインビトロで継代される間は未拘束かつ未分化のままであり、
(iii)未拘束細胞としてインビボで移植可能であり、
(iv)移植後、生存する宿主被験者の神経系内での統合のために、移植部位から他の解剖学的部位へインビボで任意に移動し、
(v)移植後、生存する宿主被験者中で、局所の解剖学的部位で実質組織中にインシトゥで統合し、
(vi)統合後に、インシトゥで、ニューロン、稀突起膠細胞およびアストロサイトより成る群から選択される基本細胞型に分化し、そして
(vii)共通に同じ遺伝的に改変されたヒトゲノムDNAを有する
複数のヒト起源の原始ニューロン幹細胞;および
特定のタンパク質産物をコードする外来遺伝子より構成される少なくとも1個のDNAセグメントを持つウイルスベクターを包含するよう遺伝子的に改変されているヒトゲノムDNA、
を含んで成る前記遺伝子的に改変されたヒトニューロン幹細胞のクローン。
【請求項8】
生存する宿主被験者への要求に沿ったインビボの移植に適する、個々の明確な細胞系としてインビボで安定に維持される遺伝子的に改変されたヒトニューロン幹細胞子孫のクローンであって、
(i)単一の遺伝的に改変されたヒトニューロン幹細胞の先祖に由来し、かつ、該幹細胞の子孫細胞であり、
(ii)有糸分裂性の自己複製する細胞系としてインビトロで継代される間は未拘束かつ未分化のままであり、
(iii)未拘束細胞としてインビボで移植可能であり、
(iv)移植後、生存する宿主被験者の神経系内での統合のために、移植部位から他の解剖学的部位へインビボで任意に移動し、
(v)移植後、生存する宿主被験者中で、局所の解剖学的部位で実質組織中にインシトゥで統合し、
(vi)統合後に、インシトゥで、ニューロン、稀突起膠細胞およびアストロサイトより成る群から選択される基本細胞型に分化し、そして
(vii)共通に同じ遺伝的に改変されたヒトゲノムDNAを有する
複数の多能性の生存する子孫細胞;および
特定のタンパク質産物をコードする外来遺伝子より構成される少なくとも1個のDNAセグメントを持つウイルスベクターを包含するよう遺伝子的に改変されているヒトゲノムDNA、
を含んで成る前記遺伝子的に改変されたヒトニューロン幹細胞子孫のクローン。
【請求項9】
ウイルスベクターが両種指向性レトロウイルスのウイルスベクターである、請求項7または8に記載のクローン。
【請求項10】
ウイルスベクターが外因性vmycDNA配列を包含し、かつ、
(a)前記vmycDNA配列がインビトロで高度に発現されて、インビトロで維持される間に前記ヒトニューロン幹細胞を増殖細胞周期に存在させかつ迅速に増殖させ、さらに(b)インビボの細胞増殖の速度が終止するような生存する宿主被験者の構成組織により、インビボの細胞移植後に、前記vmycDNA配列の発現が制御されるようになりかつダウンレギュレートされる、
請求項7または8に記載のクローン。
【請求項11】
インビトロで安定および同定可能な細胞系として維持されかつ生存する宿主被験者への要求に沿ったインビボの移植に適する、EGFおよびbFGFの両受容体を含んでなる原始ヒトニューロン幹細胞クローンであって、
(i)ヒトの介在する手段により遺伝的に改変されていない天然のヒトゲノムDNAを持ち、
(ii)有糸分裂性細胞系としてエピジェネティクス手段を用いてインビトロで継代される間は未拘束かつ未分化のままであり、
(iii)移植後、生存する宿主被験者の神経系内でのインビボでの統合のために、移植部位から他の解剖学的部位へインビボで移動でき、
(iv)移植後、生存する宿主被験者中で、局所の解剖学的部位で実質組織中にインシトゥで統合でき、
(v)インシトゥで、ニューロン、稀突起膠細胞およびアストロサイトより成る群から選択されるいずれか1種のニューロン細胞型に分化でき、そして
(vi)EGFおよびbFGFの両受容体を発現する
ヒト起源の多能性かつ自己複製性ニューロン幹細胞を含んでなる、
前記の原始ヒトニューロン幹細胞クローン。
【請求項12】
インビトロで安定および同定可能な細胞系として維持されかつ生存する宿主被験者への要求に沿ったインビボの移植に適する、前記のEGFおよびbFGFの両受容体を含んでなる原始ヒトニューロン幹細胞クローンの生存する子孫。

【図4】
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【図5−1】
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【図5−2】
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【図5−3】
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【図6−1】
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【図6−2】
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【図6−3】
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【公開番号】特開2011−15693(P2011−15693A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−192514(P2010−192514)
【出願日】平成22年8月30日(2010.8.30)
【分割の表示】特願2000−565105(P2000−565105)の分割
【原出願日】平成11年8月5日(1999.8.5)
【出願人】(501060806)ザ・チルドレンズ・メデイカル・センター・コーポレーシヨン (3)
【出願人】(501060817)ザ・ユニバーシテイ・オブ・ブリテイツシユ・コロンビア (2)
【氏名又は名称原語表記】THE UNIVERSITY OF BRITISH COLUMBIA
【出願人】(501060828)ユニバーシテイ・オブ・ペンシルベニア (1)
【Fターム(参考)】