説明

移植可能なプロテーゼ

【課題】移植可能なプロテーゼおよび移植可能なプロテーゼ用の殻を提供すること。
【解決手段】(i)内側表面および外側表面を有する外殻であって、該外側表面は、身体内の組織に接触するように適合されている、外殻4;(ii)該外殻に収容された生体適合性充填材層6;(iii)内側殻および外側殻を有する発泡材内層であって、該内側殻および該外側殻は、該発泡材の細孔が該生体適合性充填材で満たされることを実質的に防止し、該発泡材内層は、該生体適合性充填材層に収容されている、発泡材内層8;ならびに(iv)所望により1回以上繰り返される層(ii)および(iii);ならびに(v)該発泡材内層の該内側殻に収容された生体適合填材を備える、移植可能なプロテーゼ8。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(分野)
本発明は、移植可能なプロテーゼおよび移植可能なプロテーゼ用の殻、ならびにこれらを作製する方法に関し、特に、乳房移植物として使用するために適切な、生体適合性充填材を含む軽量の移植可能なプロテーゼに関する。
【背景技術】
【0002】
(背景)
再建手術および美容外科手術は、現在では一般の業務である。特に、美容乳房手術は、乳房切除術などの手順により損なわれた女性の乳房の再建を可能にするために開発された。美容乳房手術はまた、例えば、乳房のサイズを増大させるため、非対称性を補正するため、形状を変化させるため、および奇形を繕うために、移植物を付けることによって、女性の乳房の外観を改善するために利用可能になっている。
【0003】
一般に、移植物は、特定の形状を提供し得ること、およびこの形状を多年にわたり維持し得ること(好ましくは、その移植物が取り付けられる女性の生涯にわたって維持されて、さらなる侵襲性外科手術の必要性を排除し得ること)を要求される。移植物はまた、好ましくは実際の乳房の感触を模倣する、特定の感触を有することを要求される。移植物はまた、人体との相互作用によって破壊されないような生体耐久性を必要とし、そしてその女性の健康が過激な状況下でこの移植物により劇的に損なわれないように、生体適合性であることを必要とする。例えば、この移植物は、この移植物からの漏出の場合に非毒性であることを要求される。
【0004】
今日使用されている標準的な移植物は、代表的に加硫シリコーンまたはポリウレタン製の外殻、および代表的にシリコーンゲルまたは生理食塩水から形成される内部成分を備える。一般的に使用される充填材料の比重は、一般に、0.95g/cm〜1.15g/cmの間である。平均的な移植物は、50グラム〜1000グラムの間、またはより大きい重量でさえあり得る。この移植物の重量は、人には無視できない追加である。
【0005】
多年にわたり、乳房移植物は、多くの問題を引き起こすことが知られている。ほとんどが、移植物の重量に関する問題であり、例えば、下垂症(すなわち、たるみおよび変形)、乳房組織萎縮症、乳房組織を通る移植物の突出、背中の疼痛、および皮膚のストライー(straie)である。
【0006】
シリコーンの乳房移植物殻に多孔性を作製するための塩の使用が試みられている。殻の発泡構造をもたらす多孔性は、主として被膜収縮に関する問題に取り組むために、移植物の外側に作製されている。この概念はまた、移植物と乳房組織との間の密度差を相殺するために使用されている。密度差は、しわをもたらし、そしてそれに関連する、生理食塩水を満たされた移植物における畳みじわ破壊(fold flaw failure)をもたらす。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、例えば、以下を提供する:
(項目1)
(i)内側表面および外側表面を有する外殻であって、該外側表面は、身体内の組織に接触するように適合されている、外殻;
(ii)該外殻に収容された生体適合性充填材層;
(iii)内側殻および外側殻を有する発泡材内層であって、該内側殻および該外側殻は、該発泡材の細孔が該生体適合性充填材で満たされることを実質的に防止し、該発泡材内層は、該生体適合性充填材層に収容されている、発泡材内層;ならびに
(iv)所望により1回以上繰り返される層(ii)および(iii);ならびに
(v)該発泡材内層の該内側殻に収容された生体適合性充填材
を備える、移植可能なプロテーゼ。
【0008】
(項目2)
(i)内側表面および外側表面を有する外殻であって、該外側表面は、身体内の組織に接触するように適合されている、外殻;
(ii)該外殻に収容されている生体適合性充填材層;ならびに
(iii)内側殻および外側殻を有する発泡材内層であって、該内側殻および該外側殻は、該発泡材の細孔が該生体適合性充填材で満たされることを実質的に防止し、該発泡材内層は、該生体適合性充填材層に収容されている、発泡材内層;ならびに
(iv)所望により1回以上繰り返される層(ii)および(iii)
を備える、移植可能なプロテーゼ用の殻。
【0009】
(項目3)
(i)内側表面および外側表面を有する外殻であって、該外側表面は、身体内の組織に接触するように適合されている、外殻;ならびに
(ii)内側殻および外側殻を有する発泡材内層であって、該内側殻および該外側殻は、該発泡材の細孔が生体適合性充填材で満たされることを実質的に防止し、該発泡材内層は、該外殻に収容されている、発泡材内層
を備える、移植可能なプロテーゼ用の殻。
【0010】
(項目4)
上記項目に記載の移植可能なプロテーゼを作製する方法であって、
(i)内側殻を形成する工程;
(ii)生体適合性充填材を該内側殻に注入する工程;
(iii)該内側殻を発泡材内層で覆う工程;
(iv)該発泡材内層を外側殻で覆う工程;
(v)所望により工程(i)〜(iv)を1回以上繰り返す工程;
(vi)該発泡材内層の該外側殻を外殻で覆う工程;および
(vii)生体適合性充填材を該発泡材内層の該外側殻と該外殻との間に注入する工程
を包含する、方法。
【0011】
(摘要)
本発明は、移植可能なプロテーゼおよび移植可能なプロテーゼ用の殻、ならびにこれらを作製する方法に関し、特に、乳房移植物として使用するために適切な、生体適合性充填材を含む軽量の移植可能なプロテーゼに関する。
【0012】
(要旨)
殻の外側よりむしろ内側に多孔性を使用し、そして多孔性構造の厚い層を使用することによって、移植物の効果的な重量減少をもたらし得ることが見出された。次いで、この「発泡」殻は、通常通り、生体適合性充填材で満たされ得る。
【0013】
1つの局面において、移植可能なプロテーゼが提供され、この移植可能なプロテーゼは:
(i)内側表面および外側表面を有する外殻であって、この外側表面は、身体内の組織に接触するように適合されている、外殻;
(ii)この外殻に収容された生体適合性充填材層;
(iii)内側殻および外側殻を有する発泡材内層であって、この内側殻およびこの外側殻は、この発泡材の細孔がこの生体適合性充填材で満たされることを実質的に防止し、この発泡材内層は、この生体適合性充填材層に収容されている、発泡材内層;ならびに
(iv)所望により1回以上繰り返される層(ii)および(iii);ならびに
(v)この発泡材内層の内側殻に収容された生体適合性充填材
を備える。
【0014】
別の局面において、移植可能なプロテーゼ用の殻が提供され、この移植可能なプロテーゼ用の殻は:
(i)内側表面および外側表面を有する外殻であって、この外側表面は、身体内の組織に接触するように適合されている、外殻;
(ii)この外殻に収容された生体適合性充填材層;ならびに
(iii)内側殻および外側殻を有する発泡材内層であって、この内側殻およびこの外側殻は、この発泡材の細孔がこの生体適合性充填材で満たされることを実質的に防止し、この発泡材内層は、この生体適合性充填材層に収容されている、発泡材内層;ならびに
(iv)所望により1回以上繰り返される層(ii)および(iii)
を備える。
【0015】
さらなる局面において、移植可能なプロテーゼ用の殻が提供され、この移植可能なプロテーゼ用の殻は:
(i)内側表面および外側表面を有する外殻であって、この外側表面は、身体内の組織に接触するように適合されている、外殻;ならびに
(ii)内側殻および外側殻を有する発泡材内層であって、この内側殻およびこの外側殻は、この発泡材の細孔が生体適合性充填材で満たされることを実質的に防止し、この発泡材内層は、この外殻に収容されている、発泡材内層
を備える。
【0016】
好ましくは、この移植可能なプロテーゼは、軽量である。用語「軽量」は、本発明の文脈において、20%〜50%まで、またはさらなる重量減少を達成するプロテーゼをいうために使用される。
【0017】
なおさらなる局面において、上で規定された移植可能なプロテーゼを作製する方法が提供され、この方法は、
(i)内側殻を形成する工程;
(ii)生体適合性充填材をこの内側殻に注入する工程;
(iii)この内側殻を発泡材内層で覆う工程;
(iv)この発泡材内層を外側殻で覆う工程;
(v)所望であれば、工程(i)〜(iv)を1回以上繰り返す工程;
(vi)この発泡材内層の外側殻を外殻で覆う工程;および
(vii)生体適合性充填材を、この発泡材内層の外側殻とこの外殻との間に注入する工程
を包含する。
【0018】
これらの層の各々は、好ましくは、別の層で覆われる前に硬化させられる。挿入は、好ましくは、注入による。
【0019】
この生体適合性充填材は、好ましくは、ゲルまたは流体であり、そしてそれ自体が多孔性であり得る。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、本発明の例示的な実施形態による移植可能なプロテーゼの断面の図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(詳細な説明)
本発明は、(i)外殻、(ii)この外殻に収容された生体適合性充填材、(iii)内側殻および外側殻を有する発泡材内層であって、この内側殻およびこの外側殻は、この発泡材の細孔がこの生体適合性充填材で満たされることを実質的に防止する、発泡材内層、(iv)所望であれば1回以上繰り返される層(i)〜(iii)、ならびに(v)この発泡材内層に収容された生体適合性充填材を備える、移植可能なプロテーゼに関する。
【0022】
本発明はまた、(i)外殻、(ii)この外殻に収容された生体適合性充填材、(iii)内側殻および外側殻を有する発泡材内層であって、この内側殻およびこの外側殻は、この発泡材の細孔がこの生体適合性充填材で満たされることを実質的に防止し、そして生体適合性充填材を収容し得る、発泡材内層、ならびに(iv)所望であれば1回以上繰り返される層(i)および(iii)を備える、移植可能なプロテーゼ用の殻に関する。
【0023】
これらの発泡材内層の結果として、このプロテーゼおよびこの殻が軽量になる。この充填材もまた多孔性であり得、これもまた、このプロテーゼの重量を減少させる。
【0024】
このプロテーゼの体積およびこの充填材により占められる空間は、このプロテーゼが半球状であると仮定して、計算され得る。この充填材により占められる体積は、以下のとおりである:
【0025】
【数1】

【0026】
ここでRは、このプロテーゼの内側の半径である。導入される多孔性および発泡に起因して、この内側の半径が減少する場合、その内側の半径をrとすると、充填材により占められる体積の比fは、以下のとおりである:
【0027】
【数2】

【0028】
9cmのプロテーゼについて、このプロテーゼ上の1cmの多孔性構造は、充填材が占める体積の25%より大きい損失をもたらし得る。「発泡」殻はこのプロテーゼに有意な重量を追加しないので、発泡材の層は、このプロテーゼの全体の重量の有意な減少をもたらし得る。
【0029】
(移植可能なプロテーゼ)
移植可能なプロテーゼは、身体内の多数の位置で使用され得る。最も一般的な用途は、通常の身体輪郭の回復もしくは改善、または女性の乳房の増大および再建であるが、このプロテーゼは、天然組織と類似の触覚特性を示しながら、例えば、精巣、胸筋、顎、頬、ふくらはぎ、臀部、または人体もしくは動物の身体の他の部分を交換または増大するために、身体の他の領域に移植され得ることが理解される。
【0030】
(外殻、内側殻および外側殻)
外殻、内側殻および外側殻は、同じ材料から構成されても異なる材料から構成されてもよい(例えば、生体適合性ケイ素含有材料(例えば、シリコーンまたはケイ素含有ポリウレタン))。
【0031】
用語「シリコーン」とは、本明細書中で使用される場合、様々な硬度(エラストマー、ゴムおよび樹脂が挙げられる)の、シリコーンまたはシリコーンベースの固体をいう。この硬度は、10ショアーA〜90ショアーAの範囲であり得る。これらのポリマーは、ケイ素を、炭素、水素および酸素と一緒に含む。シリコーンはまた、式(R)SiOを有する単位からなる重合したシロキサン、すなわちポリシロキサンとしてもまた公知であり、この式において、Rは、水素ではない有機側鎖である。代表的な例は、[SiO(CH(ポリジメチルシロキサン)および[SiO(C(ポリジフェニルシロキサン)であり、ここでnは、1以上の整数である。これらの化合物は、有機化合物と無機化合物との両方のハイブリッドとして見られ得る。有機側鎖が疎水性特性を与え、一方で−Si−O−Si−O−骨格は、純粋に無機物である。シリコーンまたはシリコーンベースの材料の例としては、シリコーンゴム、コーティング、カプセル剤または封止剤が挙げられる。
【0032】
ポリウレタンは、好ましくは、医療デバイス、物品または移植物において生体材料として使用するために、生体安定性である。適切な生体安定性ポリウレタンとしては、ポリウレタン、ポリウレタン尿素が挙げられ、特に、ケイ素を含むポリウレタン、ポリウレタン尿素またはポリカーボネートが挙げられる。ケイ素含有ポリウレタン、ポリウレタン尿素またはポリカーボネートの例としては、WO92/00338、WO98/13405、WO98/54242、WO99/03863、WO99/50327、WO00/64971およびWO2007/112485に開示されるものが挙げられ、これらの全内容は、本明細書中に参考として援用される。これらのポリウレタン、ポリウレタン尿素またはポリカーボネートは、一般に、ソフトセグメントおよびハードセグメントを含む。これらのセグメントは、コポリマーとして、またはブレンドとして、合わせられ得る。例えば、PTMO、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリカーボネート、ポリオレフィン、ポリシロキサン(例えば、ポリジメチルシロキサン)などのソフトセグメント、およびジオールのより高次の同族のシリーズから作製される他のポリエーテルソフトセグメントを有するポリウレタンが、使用され得る。これらのソフトセグメントの任意のものの混合物もまた、使用され得る。これらのソフトセグメントはまた、アルコール末端基またはアミン末端基のいずれかを有し得る。これらのソフトセグメントの分子量は、約500から約6000で変わり得る。本明細書中に記載される分子量の値は、「数平均分子量」であることが理解される。
【0033】
適切なポリエーテルジオールソフトセグメントおよびジアミンソフトセグメントとしては、式(I)
A−[(CH−O]−A’
(I)
により表わされるソフトセグメントが挙げられ、式(I)において、
AおよびA’は、OHまたはNHRであり、ここでRは、Hまたは必要に応じて置換されたC1〜6アルキルであり、より好ましくは、必要に応じて置換されたC1〜4アルキルであり;
mは、4以上の整数であり、好ましくは、4〜18の整数であり;そして
nは、2〜50の整数である。
【0034】
mが4〜10である式(I)のポリエーテルジオール(例えば、ポリテトラメチレンオキシド(PTMO)、ポリヘキサメチレンオキシド(PHMO)、ポリヘプタメチレンオキシド、ポリオクタメチレンオキシド(POMO)およびポリデカメチレンオキシド(PDMO))が好ましい。PHMOが特に好ましい。
【0035】
このポリエーテルの好ましい分子量範囲は、200〜5000であり、より好ましくは、200〜2000である。
【0036】
適切なポリカーボネートジオールとしては、ポリ(アルキレンカーボネート)(例えば、ポリ(ヘキサメチレンカーボネート)およびポリ(デカメチレンカーボネート));アルキレンカーボネートをアルカンジオール(例えば、1,4−ブタンジオール、1,10−デカンジオール(DD)、1,6−ヘキサンジオール(HD)および/または2,2−ジエチル1,3−プロパンジオール(DEPD))と反応させることにより調製されるポリカーボネート;ならびにアルキレンカーボネートを1,3−ビス(4−ヒドロキシブチル)−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン(BHTD)および/またはアルカンジオールと反応させることにより調製されるケイ素ベースのポリカーボネートが挙げられる。
【0037】
ポリエーテルマクロジオールとポリカーボネートマクロジオールとの両方が存在する場合、これらは混合物の形態で存在してもコポリマーの形態で存在してもよいことが理解される。適切なコポリマーの一例は、式(II)
【0038】
【化1】

により表わされるコポリ(エーテルカーボネート)マクロジオールであり、式(II)において、
およびRは、同じであっても異なっていてもよく、そして必要に応じて置換されたC1〜6アルキレン、C2〜6アルケニレン、C2〜6アルキニレン、アリーレンまたは複素環式二価基から選択され;そして
pおよびqは、1〜20の整数である。
【0039】
上記式(II)の化合物は、カーボネート基とエーテル基とのブロックを示すが、これらはまた、主構造においてランダムに分布していてもよいことが理解される。
【0040】
適切なポリシロキサンジオールまたはポリシロキサンジアミンは、式(III):
【0041】
【化2】

により表わされ、式(III)において、
AおよびA’は、OHまたはNHRであり、ここでRは、Hまたは必要に応じて置換されたC1〜6アルキルであり、より好ましくは、必要に応じて置換されたC1〜4アルキルであり;
11、R12、R13およびR14は独立して、水素または必要に応じて置換されたC1〜6アルキルから選択され;
15およびR16は、同じであっても異なっていてもよく、そして必要に応じて置換されたC1〜6アルキレン、C2〜6アルケニレン、C2〜6アルキニレン、アリーレンまたは複素環式二価基から選択され;そして
pは、1以上の整数である。
【0042】
好ましいポリシロキサンは、ヒドロキシル末端を有するPDMSであり、これは、AおよびA’がヒドロキシルであり、R11〜R14がメチルであり、そしてR15およびR16が上で定義されたとおりである、式(III)の化合物である。好ましくは、R15およびR16は、同じであっても異なっていてもよく、そしてプロピレン、ブチレン、ペンチレン、ヘキシレン、エトキシプロピル(−CHCHOCHCHCH−)、プロポキシプロピルおよびブトキシプロピルから選択され、より好ましくはエトキシプロピルである。特に好ましいポリシロキサンは、947.12の分子量を有する、Shin Etsuの製品X−22−160ASであり、これは、α−ω−ビス(ヒドロキシエトキシプロピル)ポリジメチルシロキサンである。
【0043】
他の式(III)のケイ素含有ジオールは、1,3−ビス(4−ヒドロキシブチル)テトラメチルジシロキサン(BHTD)(AおよびA’がOHであり、R11、R12、R13およびR14がメチルであり、R15およびR16がブチルであり、そしてR17がOである、式(III)の化合物)、1,4−ビス(3−ヒドロキシプロピル)テトラメチルジシリルエチレン(AおよびA’がOHであり、R11、R12、R13およびR14がメチルであり、R15およびR16がプロピルであり、そしてR17がエチレンである、式(III)の化合物)および1−4−ビス(3−ヒドロキシプロピル)テトラメチルジシロキサンであり、より好ましくは、BHTDである。
【0044】
これらのポリシロキサンは、日本のShin Etsu製のX−22−160ASなどの市販の製品として得られ得るか、または公知の手順に従って調製され得る。ポリシロキサンマクロジオールの好ましい分子量範囲は、200〜6000であり、より好ましくは、200〜5000である。
【0045】
他の好ましいポリシロキサンは、AがNHである式(III)のポリマーであるポリシロキサンマクロジアミンであり、例えば、アミノ末端を有するPDMSである。
【0046】
適切なケイ素含有ポリカーボネートは、式(IV):
【0047】
【化3】

を有し、式(IV)において、
11、R12、R13、R14およびR15は、上記式(III)において定義されたとおりであり;
16は、必要に応じて置換されたC1〜6アルキレン、C2〜6アルケニレン、C2〜6アルキニレン、アリーレンまたは複素環式二価基であり;
17は、二価の連結基であり、好ましくは、O、SまたはNR18であり;
18およびR19は、同じであるかまたは異なり、そして水素または必要に応じて置換されたC1〜6アルキルから選択され;
AおよびA’は、上記式(III)において定義されたとおりであり;
m、yおよびzは、0以上の整数であり;そして
xは、0以上の整数である。
【0048】
好ましくは、zは、0〜50の整数であり、そしてxは、1〜50の整数である。mについての適切な値としては、0〜20が挙げられ、より好ましくは、0〜10が挙げられる。yについての好ましい値は、0〜10であり、より好ましくは、0〜2である。
【0049】
好ましいケイ素含有ポリカーボネートは、AおよびA’がヒドロキシルである、式(IV)の化合物である。
【0050】
特に好ましいケイ素含有ポリカーボネートジオールは、AおよびA’がヒドロキシルであり、R11、R12、R13およびR14がメチルであり、R18がエチルであり、R19がヘキシルであり、R15およびR16がプロピルであるか、またはR14がブチルでありかつR17がOもしくは−CH−CH−である、式(IV)の化合物であり、より好ましくは、R17がOである場合にR15およびR16がプロピルであり、そしてR17が−CH−CH−である場合にR15およびR16がブチルである、式(IV)の化合物である。ケイ素ベースのポリカーボネートマクロジオールの好ましい分子量範囲は、400〜5000であり、より好ましくは、400〜2000である。
【0051】
好ましくは、ハードセグメントは、ジイソシアネートおよび鎖長延長剤から形成される。
【0052】
ジイソシアネートは、式OCN−R−NCOにより表わされ得、ここで−R−は、脂肪族、芳香族、脂環式、または脂肪族部分と芳香族部分との混合物であり得る。ジイソシアネートの例としては、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、メチレンビスシクロヘキシルジイソシアネート(H12 MDI)、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(例えば、p−テトラメチルキシレンジイソシアネート(p−TMXDI)またはm−テトラメチルキシレン−ジイソシアネート(m−TMXDI))、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、二量体酸ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、メタキシレンジイソシアネート、ジエチルベンゼンジイソシアネート、デカメチレン1,10ジイソシアネート、シクロヘキシレン1,2−ジイソシアネート、トランス−シクロヘキシレン−1,4−ジイソシアネート(CHDI)、2,4−トルエンジイソシアネート(2,4−TDI)、2,6−トルエンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート(p−PDI)、m−フェニレンジイソシアネート(m−PDI)、ヘキサヒドロトリレンジイソシアネート(および異性体)、ナフチレン−1,5−ジイソシアネート(NDI)、1−メトキシフェニル2,4−ジイソシアネート、4,4’−ビフェニレンジイソシアネート、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ビフェニルジイソシアネートまたは1,6−ジイソシアネートヘキサン(DICH)、これらの異性体あるいは混合物が挙げられる。好ましくは、ジイソシアネートはMDIである。
【0053】
用語「鎖長延長剤」とは、本発明の文脈において、ジイソシアネート基と反応し得る任意の鎖長延長剤を意味する。鎖長延長剤は一般に、500以下、好ましくは15〜500の範囲、より好ましくは60〜450の範囲の分子量を有し、そしてジオール鎖長延長剤またはジアミン鎖長延長剤から選択され得る。
【0054】
ジオール鎖長延長剤の例としては、C1〜12アルカンジオール(例えば、1,4−ブタンジオール(BDO)、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオールおよび1,12−ドデカンジオール);環状ジオール(例えば、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,4−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼンおよびp−キシレングリコール);ならびにケイ素含有ジオール(例えば、1,3−ビス(4−ヒドロキシブチル)テトラメチルジシロキサンおよび1,3−ビス(6−ヒドロキシエトキシプロピル)テトラメチルジシロキサン)が挙げられる。
【0055】
好ましくは、ジオール鎖長延長剤はBDOである。
【0056】
ジオール鎖長延長剤はまた、ケイ素を含み得る。適切なケイ素含有ジオール鎖長延長剤としては、式(V)
【0057】
【化4】

のものが挙げられ、式(V)において、
、R、RおよびRは、同じであっても異なっていてもよく、そしてHおよび必要に応じて置換されたC1〜6アルキルから選択され;
およびRは、同じであるかまたは異なり、そして必要に応じて置換されたC1〜6アルキレン、C2〜6アルケニレン、C2〜6アルキニレン、アリーレンおよび複素環式二価基から選択され;
は、二価の連結基であり、好ましくはOであり;そして
nは0以上であり、好ましくは2以下である。
【0058】
適切なジアミン鎖長延長剤としては、C1〜12アルカンジアミン(例えば、1,2−エチレンジアミン、1,3−プロパンジアミン、1,4−ブタンジアミンおよび1,6−ヘキサンジアミン);ならびにケイ素含有ジアミン(例えば、1,3−ビス(3−アミノプロピル)テトラメチルジシロキサンおよび1,3−ビス(4−アミノブチル)テトラメチルジシロキサン)が挙げられる。
【0059】
ジアミン鎖長延長剤はまた、ケイ素を含み得る。適切なケイ素含有ジアミン鎖長延長剤としては、式(VI)
【0060】
【化5】

のものが挙げられ、式(VI)において、
Rは、水素または必要に応じて置換されたC1〜6アルキルであり;
、R、RおよびRは、同じであっても異なっていてもよく、そして水素および必要に応じて置換されたC1〜6アルキルから選択され;
およびRは、同じであっても異なっていてもよく、そして必要に応じて置換されたC1〜6アルキレン、C2〜6アルケニレン、C2〜6アルキニレン、アリーレンおよび複素環式二価基から選択され;
は、二価の連結基であり、好ましくはOであり;そして
nは0以上であり、好ましくは2以下である。
【0061】
外殻は、プロテーゼの内容物が漏出することを防止するための囲いとして働く。必要に応じて、このプロテーゼは、種々の形状(例えば、円形、楕円形、解剖学的形状、注文による形状またはその他の形状)で提供され得、そしてその外殻は、滑らかにされ得るか、または種々のパターンの手触りにされ得る。
【0062】
内側殻および外側殻は、発泡材内層を収容し、そしてこの発泡材の細孔が生体適合性充填材で満たされることを実質的に防止する。
【0063】
(発泡材内層)
発泡材内層は、好ましくは、連続気泡の低密度発泡材であり、そして外殻、内側殻および外側殻について上に記載された材料と同じ材料から構成され得る。これらの材料は、任意の適切な公知の技術(例えば、発泡剤(例えば、水素を発生させる水またはアルコール)の使用であり、この水素が、生体適合性ケイ素含有材料の架橋により捕捉される)を使用して、多孔性にされ得る。適切な低密度シリコーン発泡材の例は、米国特許第4,767,794号に開示されており、その全内容は、本明細書中に参考として援用される。
【0064】
有利には、1つより多くの発泡材内層が存在して、プロテーゼの全体の重量の有意な減少をもたらす。この発泡材内層は、内側殻と外側殻との間に位置する。
【0065】
(生体適合性充填材)
生体適合性充填材は、ゲルまたは生理食塩水、あるいはこれらの2つの組み合わせであり得る。この充填材がゲルである場合、このゲルは代表的に、WO2006/034547またはWO2007/121513に記載されるケイ素含有生体安定性ゲルが挙げられる、シリコーンゲルである。
【0066】
この充填材は、発泡材内層の内側殻に収容される。この内側殻は、発泡材内層(単数または複数)内への充填材の移動が実質的にないことを確実にし、そして外殻もまた、身体内への充填材の移動が実質的にないことを確実にする。身体内への充填材の移動は、このようなプロテーゼの使用における1つの懸念事項である。
【0067】
この充填材は、上で発泡材内層に関して記載された方法と類似の方法を使用して、多孔性構造を呈し得る。これは、このプロテーゼの重量のさらなる減少をもたらし得る。
【0068】
(方法)
本発明の移植可能なプロテーゼは、例えば、マンドレルなどの型を使用して、内側殻を形成することにより作製され得る。次いで、生体適合性充填材がこの内側殻に注入される。次いで、この内側殻が発泡材内層で覆われ、次いでこの発泡材内層が、外側殻で覆われる。これらの工程は、所望であれば、1回以上繰り返され得る。次いで、この発泡材内層の外側殻が外殻で覆われ、続いて生体適合性充填材が、この発泡材内層の外側殻とこの外殻との間に注入される。個々の層は、引き続く層のコーティング前に硬化させられることを確実にすることが重要である。この硬化は、各層を室温または高温(例えば、160℃までの温度)で乾燥させることによって、達成され得る。発泡材内層がコーティングされる場合、多孔性が上記のような発泡剤の使用により達成され、次いでこの層が硬化させられる。
【0069】
本発明の例示的な実施形態が、ここで以下の非限定的な図面および/または実施例を参照しながら記載される。
【0070】
図1に示されるような本発明の例示的な実施形態において、移植可能なプロテーゼ2は、外殻4を備え、この外殻4は、ケイ素含有材料(例えば、シリコーンまたはケイ素含有ポリウレタン)から構成され得る。1つ以上の生体適合性充填材層6が存在し、この生体適合性充填材層6は代表的に、ゲルまたは生理食塩水溶液であり、外殻4に収容される。この生体適合性充填材層(単数または複数)に収容された1つ以上の発泡材内層8が存在する。発泡材内層(単数または複数)8は、内側殻10および外側殻12を有し、この内側殻10およびこの外側殻12は、外殻4と同じ材料から構成され得、これによって、この発泡材の細孔がこの生体適合性充填材で満たされることを実質的に防止する。発泡材内層(単数または複数)8は、水またはアルコールなどの発泡剤の使用により予め多孔性にされた、外殻と同じ材料から構成され得る。
【0071】
この移植可能なプロテーゼは、生体適合性充填材14(これは代表的に、ゲルまたは生理食塩水溶液である)で満たされる。
【実施例】
【0072】
本発明の実施形態が、ここで以下の非限定的な実施例を参照しながら記載される。
【0073】
層状の乳房移植物が作製され得るような様式で、様々な半径を有する様々なマンドレルを製造した。4つの異なる殻を製造し、最初の2つの殻の間には、約0.5cmの隙間が存在した。シリコーンゲルを注入し、引き続いてこのシリコーンゲルを硬化させた。第二の殻と第三の殻との間には、約1cmのより大きい隙間が存在した。シリコーン発泡材(米国特許第4,767,794号に開示されるような)を注入し、これを0.1g/cc未満の密度まで発泡させた。第三の殻と第二の殻との間の隙間に、同じシリコーンゲルを注入し、そして硬化させた。層状の乳房移植物は、均一なゲル充填材を有する類似のサイズの乳房移植物に対して、50%未満への重量減少を有した。
【0074】
添付の特許請求の範囲および上記発明の説明において、明示的な文言または必要な示唆に起因してその文脈が他のことを要求する場合を除き、用語「含む」、「備える」、「包含する」、およびその活用形は、包括的な意味で、すなわち、言及される特徴の存在を特定するが、本発明の種々の実施形態におけるさらなる特徴の存在または追加を妨げないように、使用される。
【0075】
本明細書中に引用される全ての特許、特許文献および刊行物の全開示は、個々に援用されるかのように、本明細書中に参考として援用される。上記詳細な説明および実施例は、理解を明りょうにする目的のみで与えられた。これらの詳細な説明および実施例から、不必要な限定は補って解釈されるべきではない。本発明は、図示および記載される正確な細部に限定されない。なぜなら、当業者に明らかであるバリエーションが、特許請求の範囲により規定される本発明に含まれるからである。
【符号の説明】
【0076】
2 移植可能なプロテーゼ
4 外殻
6 生体適合性充填材層
8 発泡材内層
10 内側殻
12 外側殻
14 生体適合性充填材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)内側表面および外側表面を有する外殻であって、該外側表面は、身体内の組織に接触するように適合されている、外殻;
(ii)該外殻に収容された生体適合性充填材層;
(iii)内側殻および外側殻を有する発泡材内層であって、該内側殻および該外側殻は、該発泡材の細孔が該生体適合性充填材で満たされることを実質的に防止し、該発泡材内層は、該生体適合性充填材層に収容されている、発泡材内層;ならびに
(iv)所望により1回以上繰り返される層(ii)および(iii);ならびに
(v)該発泡材内層の該内側殻に収容された生体適合性充填材
を備える、移植可能なプロテーゼ。
【請求項2】
(i)内側表面および外側表面を有する外殻であって、該外側表面は、身体内の組織に接触するように適合されている、外殻;
(ii)該外殻に収容されている生体適合性充填材層;ならびに
(iii)内側殻および外側殻を有する発泡材内層であって、該内側殻および該外側殻は、該発泡材の細孔が該生体適合性充填材で満たされることを実質的に防止し、該発泡材内層は、該生体適合性充填材層に収容されている、発泡材内層;ならびに
(iv)所望により1回以上繰り返される層(ii)および(iii)
を備える、移植可能なプロテーゼ用の殻。
【請求項3】
(i)内側表面および外側表面を有する外殻であって、該外側表面は、身体内の組織に接触するように適合されている、外殻;ならびに
(ii)内側殻および外側殻を有する発泡材内層であって、該内側殻および該外側殻は、該発泡材の細孔が生体適合性充填材で満たされることを実質的に防止し、該発泡材内層は、該外殻に収容されている、発泡材内層
を備える、移植可能なプロテーゼ用の殻。
【請求項4】
請求項1に記載の移植可能なプロテーゼを作製する方法であって、
(i)内側殻を形成する工程;
(ii)生体適合性充填材を該内側殻に注入する工程;
(iii)該内側殻を発泡材内層で覆う工程;
(iv)該発泡材内層を外側殻で覆う工程;
(v)所望により工程(i)〜(iv)を1回以上繰り返す工程;
(vi)該発泡材内層の該外側殻を外殻で覆う工程;および
(vii)生体適合性充填材を該発泡材内層の該外側殻と該外殻との間に注入する工程
を包含する、方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−31661(P2013−31661A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−168269(P2012−168269)
【出願日】平成24年7月30日(2012.7.30)
【出願人】(512199025)エーオールテック インターナショナル ピーエルシー (1)
【Fターム(参考)】