説明

移植機

【課題】植付部下方の支点軸を介して整地フロートを上下揺動可能に支持すると共に、その支点軸に捩りスプリングを介装してなる移植機において、植付深さ調節に伴って捩りスプリングの付勢力が変化し、また整地フロートの接地姿勢が変動して整地不良が発生することを防止する。
【解決手段】植付部22に揺動自在に支持した支持アーム35の先端に整地フロート26を上下揺動可能に支持し、支持アーム35の揺動により植付部22と整地フロート26との相対的な高さを変更して植付深さ調節を可能にすると共に、整地フロート26の前部を持ち上げる付勢部材として捩りスプリング42を採用し、且つ植付深さ調節による植付部22と整地フロート26との相対的な高さ変更に伴って、前記捩りスプリング42の付勢力が変化せず、整地フロート26の姿勢も変化しないように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗用型田植機等の移植機において、植付部の下方に設けるサイドフロートの支持構造の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、乗用型田植機等の移植機においては、植付部下方の支点軸を介してサイドフロートを上下揺動可能に支持すべく、プランタケースの前側下部に横設されている植付深さ調節支点軸に基端部を固設した調節リンクの先端部に、サイドフロートの後側上面に固設したブラケットを介してサイドフロートを上下揺動且つ上下動可能に支持すると共に、その揺動支点軸に捩りスプリングを介装し、該捩りスプリングの一端を調節リンクに係止すると共に他端をブラケットに係止して、当該サイドフロートの基本姿勢を維持するように構成したものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2003−153619号公報(第7頁、図30、図33)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上述した特許文献1に提案されているものでは、植付深さ調節支点軸に基端部を固設した植付深さ調節レバーを回動操作することによって、植付深さの調節、即ちサイドフロートの接地高さの調節を行うことができるが、この際、植付深さ調節レバーの回動操作に連係して調節リンクの側面視における傾斜角が変化し、それに追従して、揺動支点軸に介装されている捩りスプリングのサイドフロートの接地状態における上げ荷重が植付深さ調節の前後において変動し、サイドフロートの接地姿勢に変化が生じて整地不良を起こす場合があった。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、上記課題を解決することを目的としたものであって、植付部に基部を揺動自在に支持した支持アームの先端に整地フロートを上下揺動可能に支持し、前記支持アームの揺動により植付部と整地フロートとの相対的な高さを変更して植付深さ調節を可能にすると共に、整地フロートの前部を持ち上げる付勢部材を備えた移植機において、前記付勢部材は、植付深さ調節の前後においてその付勢力が変化せず、整地フロートの姿勢が変化しないように構成したことを第1の特徴としている。
【0005】
そして、前記植付深さ調節による植付部と整地フロートとの相対的な高さの変更に伴って、支持アームに対する整地フロートの揺動支点軸との相対位置を変化させずに上下する係止部材を設け、前記付勢部材の一端側を整地フロート側に係止する一方、他端側を係止部材に係止することを第2の特徴としている。
【0006】
そして、前記付勢部材を捩りスプリングとし、該捩りスプリングのコイル部を整地フロートの揺動支点軸に環装したことを第3の特徴としている。
【0007】
また、前記植付部に基部を揺動自在に支持した揺動アームに係止部材を設け、整地フロートの揺動支点軸を軸支するブラケットを整地フロートの上面に立設する共に、当該ブラケットと支持アーム、及び揺動アームによって平行リンクを構成したことを第4の特徴としている。
【0008】
更に、前記係止部材対し、整地フロートの揺動支点軸を中心とするブラケットの所定範囲の揺動を許容する許容部を設けたことを第5の特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
請求項1の発明によれば、植付部に基部を揺動自在に支持した支持アームの先端に整地フロートを上下揺動可能に支持し、前記支持アームの揺動により植付部と整地フロートとの相対的な高さを変更して植付深さ調節を可能にすると共に、整地フロートの前部を持ち上げる付勢部材を備えた移植機において、前記付勢部材は、植付深さ調節の前後においてその付勢力が変化せず、整地フロートの姿勢が変化しないように構成したので、植付部と整地フロートとの相対的な高さを変更して植付深さを調節する前後において、接地状態における整地フロート前部の上げ荷重が変動せず、また整地フロートの接地姿勢が植付深さ調節によって変化することもない。したがって、当該整地フロートの先端部の圃場面への突っ込みによる泥押しや、先端部の浮き上がりによる後端部の跡付け等の整地不良の発生を防止することができる。
【0010】
そして、請求項2の発明によれば、従来の付勢部材をそのまま用いて植付部と整地フロートとの間の空間を利用しながら、植付深さを調節する前後において、整地フロートの接地状態における上げ荷重が変化しないように構成することができる。
【0011】
そして、請求項3の発明によれば、付勢部材である捩りスプリングを整地フロートの揺動支点軸にコンパクトに配置できて、当該整地フロートの前部上面への泥溜まりの発生を回避することができる。
【0012】
また、請求項4の発明によれば、植付部に基部を揺動自在に支持した揺動アームに係止部材を設け、整地フロートの揺動支点軸を軸支するブラケットを整地フロートの上面に立設する共に、当該ブラケットと支持アーム、及び揺動アームによって平行リンクを低コストで簡単に構成することができ、この平行リンクを介して当該整地フロートの接地高さの調節、即ち植付深さの調節がスムーズに行えるようになる。
【0013】
更に、請求項5の発明によれば、前記係止部材に対し、整地フロートの揺動支点軸を中心とするブラケットの所定範囲の揺動を許容する許容部を設けたことによって、植付深さ調節に伴う当該整地フロートの上下揺動範囲を常に一定に保つことができるので整地精度の安定化が図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
次に、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は移植機の一例である乗用型田植機10の側面図であって、該乗用型田植機10は、走行機体11を左右の前輪12と後輪13によって支持すると共に、走行機体11の後方上部に運転席14を載置し、その前方には操作パネル15を装備し、該操作パネル15の上部には運転ハンドル16、その下方には操作部床面を形成するステップ17を設けている。
【0015】
そして、走行機体11の前側には、図示しないエンジン等を被包するボンネット18を設けている。また、走行機体11の後部には、リンク機構21を介して植付部22を昇降自在に装着している。この植付部22は、前高後低状の傾斜姿勢の苗載台23と、該苗載台23に保持されている苗を植え付ける複数のプランタ24等を有しており、更に植付部22の下方には、該植付部22を所望の高さに制御するための油圧感知フロートとして作用すると共に、圃場面を整地する整地フロートを兼ねたセンターフロート25と、左右の前輪12と後輪13の車輪跡を消して圃場面を整地する整地フロートであるサイドフロート26を設けている。
【0016】
更に詳しく説明すると、リンク機構21の後端に昇降ホルダ27を取付けると共に、該昇降ホルダ27の下部には、走行機体11の幅方向に向けて角パイプ状の植付フレーム28を延設している。そして、植付フレーム28の後側下部には、図2に示すようにブラケット29を介して、植付爪24a,24aを備えたプランタ24を作動させるチェン伝動機構を内装したプランタケース31を、走行機体11の幅方向に所定間隔で取付けている。
【0017】
また、植付フレーム28の上方には、左右往復動する苗載台23を前高後低状の傾斜姿勢で配設してあり、この苗載台23に載置されているマット苗をエプロン32の苗受け部で受け止め、当該苗載台23の横移動に連係して植付爪24a,24aを作動させることによって、エプロン32の苗受け部で受け止めたマット苗から一株分の苗を掻取って、この掻取った苗を連続的に圃場に植付けることができるようになっているが、これらの基本的な構成は何れも従来通りであり詳細な説明を省略する。
【0018】
次に、前記プランタケース31の下方に設けられる整地フロートとしてのサイドフロート26(センターフロート25)の接地高さ、即ち植付深さ調節機構について説明する。サイドフロート26は、プランタケース31の下方で圃場面を滑走しながら整地するフロートであって、当該サイドフロート26は、その接地高さを調節する操作レバーである植付深さ調節レバー33を段階的に回動操作することにより、植付爪24a,24aによる植え付け深さを調節することができるようになっている。
【0019】
そして、植付深さ調節レバー33の基端部は、プランタケース31の前側下部に回転可能に横設したパイプ状の支点軸34に固設されており、この支点軸34が回動支点となるように該支点軸34に基部を固設して後下方に延出させた支持アーム35と、プランタケース31から後下方に延出させた揺動アーム36を介してサイドフロート26を上下揺動可能に支持している。
【0020】
更に詳しくは、図2〜図5に示すように、整地フロートとしてのサイドフロート26の後側上面には、後面視でコの字状に折り曲げると共に左右の曲げ片37a,37bの高さが異なるブラケット37を立設してあり、この左右の曲げ片37a,37bの間に支持アーム35の終端部を嵌装した状態で、サイドフロート26の揺動支点軸となるピン41を介挿して、支持アーム35にブラケット37(サイドフロート26)を上下揺動可能に支持する一方、プランタケース31から後下方に延出させた揺動アーム36の終端部に固設したピン36aを、ブラケット37の左側の曲げ片、即ち曲げ高さの高い左側の曲げ片37aの上部に連結することによって、ブラケット37と支持アーム35、及び揺動アーム36からなる平行リンクを、植付部22とサイドフロート26との間の空間を利用しながら、低コストで簡単に構成することができると共に、この平行リンクを介して当該サイドフロート26の上下移動(接地高さの調節)をスムーズに行うことができるようになっている。
【0021】
つまり、サイドフロート26の揺動支点軸であるピン41に、従来と同様な捩りスプリング42のコイル部42aを環装すると共に、この捩りスプリング42の一端側42bをサイドフロート26側のブラケット37の係止部37cに係止する一方、サイドフロート26の揺動支点軸であるピン41との相対位置を変化させずに昇降案内する揺動アーム36の終端部には、前記捩りスプリング42の他端側42cを係止するための係止部材であるピン36aを固設してあって、このピン36aに捩りスプリング42の他端42cを係止することによって、当該サイドフロート26の基本姿勢を維持することができるようになっている。
【0022】
上述した構成によれば、サイドフロート26の接地高さを調節する操作レバーである植付深さ調節レバー33を回動操作することによって、図2に実線で示すようなサイドフロート26の最下限位置から、二点鎖線で示す最上限位置までレバーガイドGに沿って段階的に昇降調節することが可能であり、植付部22とサイドフロート26との相対的な高さを変更して植付深さを調節する際、前記支持アーム35の側面視における傾斜角が植付深さ調節に伴って変化しても、捩じりスプリング42の姿勢は変化することなく上下し、またサイドフロート26の姿勢も植付深さ調節の前後で変化しないため、接地状態におけるサイドフロート26前部の上げ荷重が変動せず、サイドフロート26の接地姿勢が植付深さ調節によって変化することがない。
【0023】
したがって、サイドフロート26の先端部の圃場面への突っ込みによる泥押しや、先端部の浮き上がりによる後端部の跡付け等の整地不良が起こらないようになる。尚、レバーガイドGには、植付深さ調節レバー33に備える係止部材33aを所望の位置に係止させる図示しない複数の切欠き溝を設けている。
【0024】
また、図4に示すように、揺動アーム36の終端部に固設したピン36aに対し、サイドフロート26の揺動支点軸であるピン41を中心とするブラケット37の所定範囲の揺動を許容する許容部として、前記ピン36aに連結されるブラケット37の左側の曲げ片、即ち曲げ高さの高い左側の曲げ片37aの上部に、ピン41を中心とする半径Rの円弧の周方向に長孔Hを設けている。
【0025】
そして、図5は、植付深さ調節レバー33をレバーガイドGに沿って最も上向きに回動操作してサイドフロート26を最下限位置、即ち最浅植え位置に調節した状態を示すものであって、上述の如く揺動アーム36の終端部に固設したピン36aに連結される長孔Hによって、当該サイドフロート26は、揺動支点軸であるピン41を中心する長孔Hとピン36aとの接当範囲内の二点鎖線で図示する上下揺動が可能になり、しかも前記長孔Hは、サイドフロート26の揺動ストッパーも兼ねており、それによって植付深さ調節に伴うサイドフロート26の上下揺動範囲を常に一定に保つことができるので整地精度の安定化が図れる。
【0026】
尚、本実施形態では、付勢部材42として捩りスプリングを採用しているが、係止部材36aとサイドフロート26の間に引張スプリングを張設してもよく、この場合も植付深さ調節の前後でスプリング長が変化することなく、またサイドフロート26の姿勢が変化しないように構成すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】乗用型田植機の側面図。
【図2】植付深さ調節機構を示す側面図。
【図3】図2におけるA矢視図。
【図4】サイドフロートの揺動支点の周辺構成を示す詳細側面図。
【図5】サイドフロートの上下揺動範囲を示す側面図。
【符号の説明】
【0028】
22 植付部
26 整地フロート(サイドフロート)
34 回動支点
35 支持アーム
36 揺動アーム
36a 係止部材(ピン)
37 ブラケット
41 揺動支点軸(ピン)
42 付勢部材(捩りスプリング)
42a コイル部
H 許容部(長孔)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植付部(22)に基部を揺動自在に支持した支持アーム(35)の先端に整地フロート(26)を上下揺動可能に支持し、前記支持アーム(35)の揺動により植付部(22)と整地フロート(26)との相対的な高さを変更して植付深さ調節を可能にすると共に、
整地フロート(26)の前部を持ち上げる付勢部材(42)を備えた移植機において、前記付勢部材(42)は、植付深さ調節の前後においてその付勢力が変化せず、整地フロート(26)の姿勢が変化しないように構成したことを特徴とする移植機。
【請求項2】
前記植付深さ調節による植付部(22)と整地フロート(26)との相対的な高さの変更に伴って、支持アーム(35)に対する整地フロート(26)の揺動支点軸(41)との相対位置を変化させずに上下する係止部材(36a)を設け、前記付勢部材(42)の一端側を整地フロート(26)側に係止する一方、他端側を係止部材(36a)に係止することを特徴とする請求項1に記載の移植機。
【請求項3】
前記付勢部材(42)を捩りスプリングとし、該捩りスプリングのコイル部(42a)を整地フロート(26)の揺動支点軸(41)に環装したことを特徴とする請求項2に記載の移植機。
【請求項4】
前記植付部(22)に基部を揺動自在に支持した揺動アーム(36)に係止部材(36a)を設け、整地フロート(26)の揺動支点軸(41)を軸支するブラケット(37)を整地フロート(26)の上面に立設する共に、当該ブラケット(37)と支持アーム(35)、及び揺動アーム(36)によって平行リンクを構成したことを特徴とする請求項2、または請求項3に記載の移植機。
【請求項5】
前記係止部材(36a)対し、整地フロート(26)の揺動支点軸(41)を中心とするブラケット(37)の所定範囲の揺動を許容する許容部(H)を設けたことを特徴とする請求項2、請求項3、または請求項4に記載の移植機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−75081(P2006−75081A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−262817(P2004−262817)
【出願日】平成16年9月9日(2004.9.9)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】