説明

移植片−対−宿主疾患を抑制するサイトカイン、細胞およびマイトジェンの使用

【課題】
本発明は、同種異型の骨髄移植を受けた患者における移植片−対−宿主疾患を軽減するための方法およびキットを提供することである。
【解決手段】
本発明は、
レシピエント患者の移植片−対−宿主疾患を軽減するために、ドナー細胞を処置する方法であって、
a)ドナーから末梢血単球細胞(PBMC)を取り出し、
b)該細胞を阻害誘発組成物で、サプレッサーT細胞を生成せしめるのに十分な時間処置し、
c)該細胞をレシピエント患者に導入する、
ことを含む方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(背景技術)
臓器移植はいまヒトの生活の質を高めるため大成功裏に利用されている。実質的な進歩は非近縁個体からの腎臓、心臓および肝臓を用いてなされてきた。しかし、非近縁(あるいは同種異型)のドナーから造血幹細胞の移植はより複雑な努力が必要である。あらゆる造血要素と免疫系を再生する能力をもつ多能性幹細胞が、ひとつの個体由来の骨髄や末梢血液から採取され、別の個体に移植される。しかし、ドナーとレシピエント間の組織適合性の相違が高頻度で移植関連の合併症を来たし、さらに臓器移植法の利用を制限してきた(Forman et al., Blackwell Scientific Publications 1994)。
【0002】
移植法によって治療が可能な疾病の範囲は着実に広がっているのに、不幸なことに、同種異型造血幹細胞移植の志願者は現在わずかしか居ない。こういった疾病には、急性または慢性の白血病のような血液性悪性腫瘍、多発性骨髄腫、骨髄形成異常症候群、リンパ腫、さらに再生不良性貧血またはサラセミアのような重篤な貧血が挙げられる。
【0003】
同種異型幹細胞移植は高度に免疫抑制的な調整療法でレシピエントへの処置が始まる。このことは、骨髄の血液構成要素をすべて効果的に破壊する高用量の化学療法剤および放射線照射によって最も一般的に達せられる。ドナー幹細胞移植のためにレシピエントの骨髄を準備することのほかに、調整療法は体内に残る多くの悪性腫瘍を殺すのに役立つ。調整療法の完了とドナー幹細胞の植え付けの期間はレシピエントにとって最も危険である。この期間中レシピエントは完全に免疫不全状態にあり、生命を脅かす感染症に罹りやすくなっている。この弱みは、移植されたドナー幹細胞が増殖し必要な白血球細胞および感染と戦うのに要する免疫細胞に分化するまで持続する。
【0004】
さらにドナー幹細胞の調製物は、Tリンパ球と呼ばれる免疫細胞を一般に含んでいる。ドナー幹細胞が全く同じ双胎に由来するのでない限り、移植されたT細胞はレシピエントの組織に敵対し、移植片−対−宿主疾患(GVHD)という致命的な疾患を誘発する。これはドナーのTリンパ球がレシピエントの組織適合性抗原を外来のものと認識し、これに対応して多臓器機能障害と破壊を引き起こすからである。
【0005】
現行の免疫抑制の技術によって、近縁の組織適合性(HLA適合)ドナーから同種異型の幹細胞の移植は、従来に比して非常に安全になっている。近縁でないHLA適合ドナーから同種異型幹細胞の移植は、一般的に重篤でしばしば致命的なGVHDによって悪化する。GVHDの脅威はドナー幹細胞がHLA不適合の場合なお一層高い。
【0006】
同種異型幹細胞を必要とする患者のわずか30%が同一の組織適合性抗原の血縁者を持っているので(Dupont, B., Immunol. Reviews 157:12, 1997)、HLA適合で非近縁の移植術およびHLA不適合の移植術をより安全な方法とする必要性は大きい。この問題を解決する原理的なアプローチはふたつある。一つは移植片からTリンパ球の汚染を無くすこと、もう一つはT細胞がレシピエントを攻撃できないようにT細胞を不活化することである。
【0007】
1970年代に、骨髄移植片を植えた動物で、移植に先立ち骨髄の移植片から成熟Tリンパ球を生体外で除去すると、主要組織適合性障害を克服してGVHDを劇的に減少または防止することが明らかになった(Rodt, H., J. Immunol. 4:25-29, 1974; Vallera et al., Transplantation 31:218-222, 1981)。しかし、T細胞の減少によって移植の失敗、移植の拒絶、白血病の再発、およびウイルス誘発性のリンパ球増殖性疾患の頻度が著しく増加した(Martin et al., Blood 66:664-672, 1985; Patterson et al., Br. J. Hematol. 63:221-230, 1986; Goldman et al., Ann. Intern. Med. 108:806-814, 1988; Lucas et al., Blood 87:2594-2603, 1966)。このようにドナーT細胞の幹細胞への移植は有害と有益な作用をもっている。幹細胞移植に対するT細胞の促進作用、および移植片−対−宿主疾患(GVHD)ではなく、移植片−対−腫瘍をよく認識する作用を必要としている。
【0008】
T細胞の活性化を弱めるためには幾つかのアプローチがある。それらを以下に挙げると:(1)FK506およびラパマイシンのような薬剤の生体内免疫抑制効果(Blazar et al., J. Immunol. 153:1836-1846, 1994; Dupont et al., J. Immunol. 144:251-258, 1990; Morris, Ann. NY Acad. Sci. 685:68-72, 1993; Blazar et al., J. Immunol. 151:5726-5741, 1993)、(2)T細胞決定因子に対して活性なモノクロナール抗体(mAb)または毒素に結合したmABの、無傷およびF(ab')2フラグメントを用いたGVHD活性T細胞の生体内標識化(Gratama et al., Am. J. Kidney Dis. 11:149-152, 1984; Hiruma et al., Blood 79:3050-3058, 1992; Anasetti et al., Transplantation 54:844-851, 1992; Martin et al., Bone Marrow Transplant 3:437-444, 1989) 、(3)IL−2/サイトカイン受容体相互作用(Herve et al., Blood 76:2639-2640, 1990) 経由、または共刺激性または接着原性シグナルのブロックによるT細胞活性化阻害を経由したT細胞のシグナル伝達阻害(Boussiotis et al., J. Exp. Med. 178:1753-1763, 1993; Gribben et al., Blood 97:4887-4893, 1996; Blazar et al., Immunol. Rev. 157:79-90, 1997)、(4) 急性GVHD誘導Tヘルパー1型T細胞間のバランスが、それらの細胞が作られるサイトカイン環境を経由して、抗炎症性Tヘルパー2型T細胞に移ること(Krenger et al., Transplantation 58:1251-1257,1994; Blazar et al., Blood 84:247, 1996, abstract; Kregner et al., J. Immunol. 153:585-593, 1995; Fowler et al., Blood 84:3540-3549, 1994)、(5)T細胞受容体/主要組織適合性遺伝子複合体(MHC)相互作用、クラスIIMHC/CD4相互作用、またはクラスIMHC/CD8相互作用に影響を与えるペプチド誘導体で処置することによる同種異型反応性T細胞の活性化の調整(Townsend、Korngold(未発表データ))、および(6)供与された細胞のレシピエント組織に対する攻撃を停止させる遺伝子治療の利用(Bonini et al., Science 276:1719-24, 1997)である。
【0009】
同一ではないドナー由来のTリンパ球がレシピエントの組織に寛容となり得ることを示唆する証拠がある。慢性拒絶反応を管理するために、生涯にわたる免疫抑制治療を必要とするような固形の臓器同種移植を受けた患者とは異なり、幹細胞の同種移植には免疫寛容を示す証拠がある。このような大多数の患者はGVHDに罹った証拠なく免疫抑制を免れることができる(Storb et al., Blood 80:560-561, 1992; Sullivan et al., Semin. Hematol. 28:250-259, 1992)。
【0010】
免疫寛容は抗体に対する非応答の特異な状態をいう。免疫寛容は免疫応答の欠如以上のことを一般に含んでいる。この状態は免疫系の適応応答であり、免疫応答の特質である抗原特異性と記憶に適っている。寛容は成熟動物よりも胎児または新生動物においてより容易に生起し、このことは幼若T細胞およびB細胞は寛容誘導に対する感受性がより高いことを示唆している。さらに、T細胞とB細胞はその寛容誘導において異なっていることが研究で示された。寛容誘導は一般にクロナール欠如またはクロナール・アネルギーによってなされる。クロナール欠如では幼若リンパ球が成熟中に除去される。クロナール・アネルギーでは、末梢リンパ様器官に存在する成熟リンパ球が機能的に不活性となる。
【0011】
抗原のチャレンジ刺激に続いて、一般にT細胞が刺激されて抗体生成あるいは細胞性免疫を促進する。しかし、T細胞は刺激を受けてその免疫応答も阻害する。この下方調節の性質をもつT細胞は「サプレッサー細胞」と呼ばれる。
【0012】
サプレッサーT細胞は、免疫抑制効果を有する形質転換成長因子ベータ(TGF−β)、インターロイキン4(IL−4)あるいはインターロイキン10(IL−10)のようなサイトカインを生産することが知られているが、最近までこれら調節性細胞の生成に関わるメカニズムはあまり知られていなかった。一般に考えられていたことは、CD4+T細胞がCD8−T細胞を生成して下方調節活性を生起すること、およびCD4+細胞によって作られたインターロイキン2(IL−2)がその作用を仲介することであった。IL−2がサプレッサーT細胞の生起に重要な役割を持っていることに、たいていの免疫学者は同意するが、このサイトカインが直接に働くのかあるいは間接的に働くのかについては異論がある(Via et al., International Immunol. 5:565-572, 1993; Fast, J. Immunol. 149:1510-1515, 1992; Hirohata et al., J. Immunol. 142:3104-3112, 1989; Taylor, Advances Exp. Med. Biol. 319:125-135, 1992; Kinter et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92:10985-10989, 1995)。最近IL−2がCD8+細胞を生成して、非分解メカニズムによりCD4−T細胞でのHIVの複製を抑制することが示された。この作用はサイトカイン仲介であるが、この作用を持つ特異なサイトカインはまだ同定されていない(Baker et al., J. Immunol. 156:4476-83, 1996; Kinter et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 99:10985-9, 1995)。
【0013】
他の副細胞のない状態でT細胞/B細胞の相互作用を研究するため、ヒトの末梢血リンパ球を使ったモデルが開発された(Hirokawa et al., J. Immunol. 149:1859-1866, 1992)。このモデルを用いてCD4+T細胞は、強力なサプレッサー細胞となるCD8+T細胞を作る能力を欠いていることが分った。しかし、CD8+T細胞とNK細胞の組み合わせは、強い抑制性活性を誘導する(Gray et al., J. Exp. Med. 180: 1937-1942, 1994)。ついでNK細胞は活性型TGF−βの生成に寄与することが示された。このサイトカインの非免疫抑制の低濃度(10−100pg/ml)は、IgGおよびIgM生成に対する強い抑制効果を生み出す補因子として役立つことが報告された(Gray et al., J. Exp. Med. 180:1937-1942, 1994)。さらに、NK細胞はTGF−βの主たるリンパ球源であることが示された(Gray et al., J. Immunol. 160:2248-2254, 1998)。
【0014】
TGF−βは組織修復、炎症および免疫制御に重要な多機能性サイトカインの一族である(Border et al., J. Clin. Invest. 90:1-7, 1992; Sporn et al., J. Cell Biol. 105:1039-1045, 1987)。TGF−βは、放出されたタンパク質が生理学的に不活性であり特異な受容体に結合できない点で、他の大部分のサイトカインとは異なる(Massague, Cell 69:1067-1070, 1992)。潜伏性から活性のTGF−βへの転換はこのサイトカインの生理学的作用を決定する重要な段階である。
【0015】
NK細胞誘導のTGF−βはGVHDの予防に対して役割を持つという幾つかの証拠がある。マウス株由来の幹細胞を他の組織不適合な株に移転すると、すべてのレシピエントがGVHDによって19日以内に死に至るが、ドナー動物からNK細胞への同時的移転はこの結末を完全に防止した。すべてのレシピエントマウスは、期間は不定であるが生存した。しかし、この治療効果は中和抗体の投与によってTGF−βの効果に拮抗させると完全に阻止された(Murphy et al., Immunol. Rev. 157:167-176, 1997)。
【0016】
したがって、NK細胞誘導TGF−βがGVHDを予防するメカニズムは、抗体生成の下方調節についての報告(Horwitz et al., Arthritis Rheum. 41:838-844, 1998)と確かに類似しているようである。各々の場合、NK細胞誘導のTGF−βによって、それぞれの免疫応答を阻止する抑制性リンパ球の生成が起きる。遺伝的に異種同型交配マウス間での組織適合性の相違は、非近縁のヒト・ドナーのそれを反映するであろうから、マウスでの研究は特に興味がある。したがって、戦略の修正は組織不適合のヒトのGVHDを克服するに違いない。
【0017】
GVHDを予防する一つの戦略はNK細胞を単離して幹細胞と共に移転させることであろう。もう一つは、同種異型幹細胞を受けた免疫不全状態のレシピエントをTGF−β、抗CD2モノクロナール抗体、IL−2、あるいはこれらサイトカインの組み合わせで処置することであろう。初めの戦略は難しい。というのは、NK細胞は全リンパ球のわずか10ないし20%より成っているので、移転に十分な細胞数を採取することが困難である。二番目の戦略は、モノクロナール抗体およびサイトカインの全身的毒性副作用により制約を受ける。IL−2およびTGF−βは異なる体組織に対し様々な作用を有しており、患者に全身的に投与するのは安全ではない。したがって必要なことは、生体外でGVHDの生起を抑制する哺乳動物細胞を誘発する方法である。
【0018】
生体外でサプレッサーT細胞を生成させるアプローチはGVHDの生起を抑制する効果的な方法を提供するのであろう。生体外でサプレッサーT細胞を生成させるという目標に向けての第一段階は、強力な抑制効果を持つT細胞を同定することである。CD8+細胞に加えてCD4+細胞が強力な抑制効果を持っているとの注目に値する証拠がある。この証拠は以下の知見に依る。先ずCD45RBhiCD4+CD25+T細胞を除去した正常マウス由来の末梢T細胞を無胸腺マウスに注射すると、器官特異的自己免疫疾患が高率で発症する(Powrie F. et al., J. Exp. Med. 183:2669-74, 1996)。第二は、新生児期に胸腺を摘出したマウスのある株が多臓器特異性的自己免疫を生起させることである(Powrie F. et al., J. Exp. Med. 183: 2669-74, 1996; Skaguchi S. et al., J. Exp. Med. 161(1):72-87, 1985)。これらの知見を合わせて考えると、正常な免疫系は自己反応性T細胞を含んでいることを示すが、この結果は調節性T細胞により防ぎ得ることを示唆している。この示唆は、上記の自己免疫症候群がCD4+CD25+T細胞の転換によって防げるとの知見でもって確認されている(Asano, M., et al., J. Exp. Med. 184:387-396, 1996; Sakaguchi, S., et al., J. Immunol. 155:1151-1164, 1995; Papiernik, M., et al., J. Immunol. 158:4642-4653, 1997; Suri-Payer, E., et al., J. Immunol. 160:1212-1218, 1998; Jackson, A. L., et al., Clin. Immunol. Immunopthol. 54(1):126-133, 1990; Kanegane, H., et al., Int. Immunol. 3(12):1349-1356, 1991)。新生マウスは、出生後一週間まではCD4+CD25+細胞を生成しないので、それを持っていない(Asano, M., et al., J. Exp. Med. 184:387-396, 1996; Suri-Payer, E., et al., Eur. J. Immunol. 29:669-677, 1999)。
【0019】
このようにCD4+CD25+T細胞はポリクロナールT細胞の活性化の強力な抑制因子である(Thornton, A.M., Shevach, E.M., J. Exp. Med. 188:287-296, 1998)。T細胞受容体(TCR)を経て活性化後、該T細胞は応答T細胞によりIL−2の生産を阻害する(Takahashi, T., et al., Int. Immunol. 10:1969-80, 1998; Thornton, A.M., Shevach, E.M., J. Immunol. 164(1):183-190, 1999)。阻害性サイトカインを生成する他の調節性T細胞とは異なり(Powrie, F., et al., J. Exp. Med. 183:2669-74, 1996; Weiner, H.L., et al., Annu. Rev. Immunol. 12:809-837, 1994)、該細胞は、少なくとも試験管内で、接触依存性メカニズムによって免疫応答を抑制する(Thornton, A.M., Shevach, E.M., J. Immunol. 164(1):183-190, 1999)。他には、新生児様に寛容なマウスでアネルギーを調節するCD4+CD25+細胞についての報告がある(Gao, Q., et al., Transplantation 68:1891-1897, 1999)。
【0020】
調節性CD4+CD25+T細胞は胸腺のみならず末梢にて生産され得ること、またTGF−βはナイーブCD4+細胞を方向づけその性質を生起することを我々は見出した。したがって、よく知られた免疫抑制効果に加え、TGF−βはT細胞の成長と生起に肯定的な作用を持っている。TGF−βはCD8+T細胞とCD4+T細胞の両方を区別するのに重要な役割を果たしサプレッサー細胞となる。
【0021】
したがって、レシピエントへの導入時にかろうじて増殖できるサプレッサーT細胞を生体外で生成させる戦略が望まれる。このような戦略は、非近縁個体の白血球細胞に対しCD4+細胞を免疫することを含むであろう。この方法で免疫されたCD4+細胞は活性化されてCD25+となり、自然発生の胸腺誘導CD4+CD25+細胞と同一でないにしろ、それに類似の抑制性質を生起する。幹細胞の移植に続いて、CD4+CD25+サプレッサー細胞は、ドナーの造血細胞により繰り返し再刺激を受けるであろうし、こうして長期にわたる阻害作用を発揮する。
【0022】
(本発明の要旨)
ここに概略する目的のように、本発明は、生体外の末梢血単核細胞 (PBMC)サンプル中のT細胞寛容を誘発する方法であって、細胞に阻害誘発組成物を添加することを含む方法を提供する。阻害誘発組成物は、IL−2、IL−10、TGF−βまたはそれらの混合物であり得る。
【0023】
更なる態様で、本発明は、レシピエント患者の移植片−対−宿主疾患を軽減する方法を提供する。この方法は、ドナーから末梢血単核細胞(PBMC)を取り出すこと、およびこの細胞を阻害誘発組成物で、T細胞寛容を誘発するのに十分な時間、処理することを含む。次いで、細胞をレシピエント患者に導入する。所望により、PBMCにCD8+細胞またはCD4+細胞を富み得る。この方法は、患者への導入前に、処置細胞をドナー幹細胞に加えることをさらに含み得る。
【0024】
更なる態様で、本発明は、T細胞を活性化してサプレッサー細胞とする方法を提供する。この方法は、T細胞をTGF−βで処置することを含む。この方法は、T細胞をTGF−βで、活性化剤と併用して処置することをさらに含み得る。
【0025】
更なる態様で、本発明は、ドナー細胞を処置するためのキットを提供する。このキットは、ドナーから細胞を受容するのに適した細胞処置容器、および少なくとも1用量の阻害誘発組成物を含む。このキットは、説明書および試薬をさらに含み得る。細胞処置容器は、分析のために細胞の分画を取り出し得るサンプリング口、および細胞の少なくとも部分をレシピエント患者に移転し得るのに適した出口を含み得る。
【0026】
(図面の説明)
図1Aおよび1Bは、TGF−βがT細胞上でCD40リガンド(CD40L)の発現を上方調節し得ることを示す。精製T細胞をPMA(20ng/ml)およびイオノマイシン(5μM)でTGF−βの存在または不存在下に刺激した。6時間後に細胞を抗CD40L抗体で染色した。TGF−βの不存在で30%の陽性細胞があった(実線、パネルA)。100pg/mlのTGF−βでもって、66%の細胞が陽性であった(実線、パネルB)。両パネルの破線は対照抗体の活性を示す。
【0027】
図2A、2B、2C、2Dは、TGF−βがCD8+細胞によるTGF−α発現を増加せしめることを示す。精製CD8+細胞を24時間ConA(5μg/ml)±TGF−β(10pg/ml)±IL−2(10U)で刺激した。最後の6時間ではモネンシン(2μM)も存在してサイトカイン放出を防いだ。細胞を最初に抗CD69で染色し、活性化細胞を識別した。ついで細胞を固定し(4%パラホルムアルデヒド)、浸透化し(0.1%サポニン)、TGF−α抗体で染色した。
【0028】
図3Aおよび3Bは、TGF−βがT細胞によるIL−2発現を増加せしめることを示す。精製T細胞をTGF−β(1ng/ml)の存在または不存在下に刺激した。TGF−βの不存在で30%の陽性細胞があった(実線、パネルA)。TGF−βの存在で53%が陽性であった(実線、パネルB)。
【0029】
図4A、4B、4Cは、TGF−βが細胞毒性活性を増加または阻害し得ることを示す。パネルAは、ドナーT細胞がレシピエント血液細胞を認識し殺す能力を示す。パネルBでは、精製T細胞を、刺激した同種異型スティムレーター細胞とともに、表示したサイトカインの存在または不存在下で培養した。48時間後に細胞を洗い、さらなる3日後に31Cr標識スティムレーターConA芽細胞に対する細胞毒性活性を調べた。パネルCでは、精製CD8+細胞を表示量のTGF−βで処理した。48時間後に細胞を洗った。培養5日後に細胞毒性活性を測定した。
【0030】
図5は、TGF−βで処理されたCD8+T細胞による不適合ヒト細胞に対する細胞毒性T細胞活性の抑制を示す。ドナーAからの精製CD8+細胞を、非近縁のドナーBからの刺激したT細胞除去単核細胞とともに48時間、10pg/mlのT細胞の存在または不存在で培養した。ついで細胞を洗い、ドナーAからのT細胞およびドナーBからの刺激した非T細胞に加え、さらに5日間培養した。ドナーBのクロム標識ConA芽細胞に対するドナーAのT細胞による細胞毒性を、通常の4時間クロム放出アッセイで測定した。エフェクターと標的との種々の割合を示す。白丸:ドナーAからのT細胞およびドナーBからの非T細胞、添加のCD8+なし。黒四角:対照CD8+T細胞を添加。黒丸:TGF−β処理CD8+を添加。
【0031】
図6は、ナイーブCD8+T細胞が、TGF−βの存在で活性化されると、強力な抑制活性を起こすことを示す。2段階共培養法において、ドナーAからの精製T細胞サブセットを5日間、ドナーBからの刺激された(3000cGy)同種異型スティムレーター細胞±TGF−β(1ng/ml)で刺激した。第2培養においては、免疫起動T細胞サブセットと新鮮な同系のT細胞とを1:4の比率で混合し、これらの細胞をドナーBからの刺激されたスティムレーター細胞とともに5日間培養した。ドナーBからのConA芽細胞に対するCTL活性を、標準的な4日間クロム放出アッセイにより、表示のようなエフェクターと標的細胞との割合で測定した。図6Aは、TGF−βで免疫起動された同種異型活性化CD4+CD45RA+細胞が対照のCD4+細胞に比して顕著にCTL活性の生成を抑制することを示す。示していない追加の対照は、TGF−βと5日間培養したが、同種異型のMHC刺激のないCD4+細胞である。この細胞は抑制作用を有しなかった。図6Bでは、試験プロトコールはCD4+CD45RA+をCD8+CD45RA+に置き換えた以外同じである。これらの条件で、同種異型抗原での免疫起動CD8+CD45RA+細胞はTGF−βの存在で抑制活性の生成を高めない。
【0032】
図7は、TGF−βで免疫起動されたCD4+細胞の同種異型細胞毒性リンパ球(CTL)活性に対する作用を示す。スティムレーターなしで5日間培養されたCD4+CD45RAの添加は、CTL活性に対する作用を有しなかった(結果は示さない)。スティムレーターとともにこのT細胞を培養すると、低度から中程度の阻害活性をもたらした。すべての試験において、このT細胞のTGF−βの1ng/mlとの培養は同種異型CTL活性を抑制または消失せしめた。
【0033】
図8は、調節性T細胞が細胞接触でCTL活性を阻害することを示す。CD4 reg および対照CD4+細胞の生成は、上記のようにナイーブCD4+細胞を同種異型スティムレーター細胞±TGF−βで活性化して行った。第2培養において、CD4 reg または対照CD4+細胞を応答細胞と直接混合するか、または Transwell(商標)チェンバーを用いる半浸透性膜により単離した。Transwell はCD4+細胞およびスティムレーター細胞を含有している。示した結果は3つの独立した実験のひとつである。
【0034】
図9は、ナイーブCD4+T細胞のTGF−β存在下での活性化によって、この細胞が同種異型抗原に対して強く応答し得るようになり、その活性化表現型への転換が促進され、活力が増加することを示す。精製ナイーブCD4+T細胞の5日間培養を、スティムレーター細胞なし(灰色部分)、刺激された同種異型スティムレーター細胞とともに(薄い破線)、スティムレーター細胞およびTGF−β(1ng/ml)とともに(濃い線)で行った。細胞表面および細胞内抗原の発現をフローサイトメトリーにより測定した。細胞(10)を、FITCコンジュゲート(抗CD4、抗CD25)、フィコエリトリン−コンジュゲート(抗CD45RA、抗CTLA−4)またはチクローム−コンジュゲート(抗CD4)mAbで標識した。CTLA−4発現を細胞内染色により分析した。アポトーシス細胞を検出するために、アネキシン−V染色を製造者の説明どおり行った。この実験は各マーカーでの少なくとも5試験についての代表例である。
【0035】
図10は、CD4 reg がCD25を表現し、強力な抑制活性にかなり少数を要することを示す。刺激された同種異型スティムレーター細胞±TGF−β(1ng/ml)およびCD4 reg で免疫起動されたナイーブCD4+T細胞を細胞選別によりCD25+とCD25−分画に分けた。図10Aは、免疫起動CD4+細胞および新鮮T細胞の1:4割合の混合での効果を示す。図10Bは、新鮮な応答細胞に加えられた免疫起動CD4+T細胞について種々の稀釈でのCTL活性の生成に対する作用を示す。示した結果はエフェクターと標的細胞の割合100:1についてである。この結果は3つの同じ実験の代表例である。
【0036】
図11は、CD4+CD25+T細胞を増量し、その強力な阻害作用を保持せしめ得ることを示す。TGF−βの存在で免疫起動したナイーブCD4+細胞のCD4+CD25+分画を細胞選別により得て、IL−2(10U/ml)の存在下で5日間培養した。表示の%で新鮮なT細胞に加え、CTL活性の生成に対する阻害を調べた。刺激したCD4+CD25+細胞を対照とした。
【0037】
図12は、TGF−βで誘発された調節性CD4+T細胞によるリンパ球増殖の抑制を示す。ドナーAからのナイーブCD4+T細胞を上記のようにスティムレーター細胞と混合し、表示の割合で新鮮な応答細胞およびスティムレーター細胞に加えた。バーは、培養7日後のトリチウム・チミジンの取り込み±SEMを示す。白いバーは、CD4+細胞添加なしの応答細胞の増殖性応答を示す。斜線のバーは、TGF−βなしでスティムレーター細胞と混合されたCD4+細胞の作用を示す。黒いバーは、TGF−βの存在(1ng/ml)でスティムレーター細胞と混合されたCD4+細胞の作用を示す。刺激されたスティムレーター細胞に加えられた新鮮な応答細胞の増殖性応答に対するCD4+細胞の作用を示す。バは、トリチウム・チミジンの取り込みの平均値である。
【0038】
図13は、CD25+CD4T細胞の調節性活性を示す。CD4+細胞を、刺激した同種異型非T細胞±TGF−β(1ng/ml)で5日間刺激した。洗った後、CD4+細胞をDIIで染色し、新鮮な応答T細胞をカルボキシフルオレセイン(CFSE)で染色した。対照またはTGF−β免疫起動のCD4+細胞を、応答T細胞および同種異型スティムレーター細胞に1:4の割合で加えた。5日後に細胞を採取し、フローサイトメトリーで分析した。CD8+細胞におけるCFSE強度の測定をDII陰性細胞に対するゲーティングで行った。TGF−β免疫起動CD4+細胞を応答細胞に加えると、CD8+細胞による細胞分割が顕著に低下した。
【0039】
図14は、細胞毒性T細胞活性について、CD4 reg が応答T細胞の同種異型抗原に対する増殖性応答をブロックし、CD8+T細胞がその主要な標的であることを示す。図14Aでは、CD4 reg または免疫起動された対照CD4+細胞を新鮮なT細胞と1:4の割合で混合し(10/ウエル)、刺激されたスティムレーター細胞(10/ウエル)とともに5日間3組培養した。この培養基を[H]TdRで最後の18時間処理した。図14Bでは、培養CD8+細胞の表現型を、CD8+細胞をゲーティングするフローサイトメトリーで測定した。灰色部分は、スティムレーター細胞なしで5日間培養された細胞を示す。濃い線は、スティムレーター細胞およびCD4 reg とともに培養されたCD8細胞を示す。薄い破線は、対照CD4細胞とともに培養されたCD8細胞を示す。リンパ球を、FITCコンジュゲート(抗CD69)、フィコエリトリン−コンジュゲート(抗CD25、抗CD95)またはチクローム−コンジュゲート(抗CD8)mAbで標識した。アネキシン−V染色、CFSEレベル、ヨウ化プロピジウム染色によるDNA含量も示す。
【0040】
図15は、低量のブドウ球菌性エンテロトキシンB(SEB)によるT細胞の反復刺激がT細胞を誘発してTGF−βの免疫抑制レベルをつくることを示す。CD4+T細胞を、SEB(0.01ng/ml)およびスーパー抗原表示細胞としての刺激B細胞で、TGF−βの有無で、矢印で表示の時点で刺激した。活性TGF−βを2日または5日後に測定した。
【0041】
図16は、低量のSEBによるCD4+T細胞の反復刺激がT細胞を誘発してTGF−βの免疫抑制レベルをつくることを示す。CD4+T細胞を、SEB(0.01ng/ml)およびスーパー抗原表示細胞としての刺激B細胞で、TGF−βの有無で、矢印で表示の時点で刺激した。活性TGF−βを2日または5日後に測定した。
【0042】
図17は、SEBのナイーブ(CD45RA+CD45RO−)CD4+およびCD8+T細胞に対する作用を示す。細胞をSEBで5日毎に計3回刺激した。各T細胞サブセットおよびCD25IL−2受容体活性化マーカーを発現する細胞を、各刺激後に測定した。パネルAおよびCは、TGF−βの1ng/mlが最初の刺激時に含まれていると、CD4+T細胞が反復刺激後に培養基中で優勢なサブセットになることを示す。パネルBおよびDは、SEB刺激細胞によるCD25発現が対照培養基で第3回刺激により低下することを示す。しかし、T細胞がTGF−βで免疫起動されていると、CD25発現は高いままである。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0043】
(発明の詳細な説明)
本発明は、生命に危険性のある移植片−対−宿主疾患を防ぐ方法を用いて、種々の悪性または遺伝性疾患のヒトに、組織不適合性幹細胞を移転することを可能にする。これは、ドナー細胞を同種異型抗原および/またはサイトカインの併用で生体外で処置することを伴う。この方法の特に優れた点は、幹細胞移植を容易にし、かついかなる残存の悪性細胞を攻撃する力を有するドナーT細胞を除去しないでよいことである。ドナーと宿主間の寛容状態が達成されると、非処置ドナーT細胞を移転して、好ましい移植片−対−腫瘍の免疫応答を最大にできる。
【0044】
この戦略は、現在行われているすべての他の処置方法と異なる。記載のようなサイトカインおよびマイトジェンは、インビボ投与されると、重い毒性副作用を有する。記載の生体外プロトコールはこのような副作用を回避できる。生命を脅かす疾患の処置に組織不適合性幹細胞を移植し得ることは、医学におけるひとつの大きい進歩となろう。
【0045】
さらに、本発明の別の利点は、GVHDを防ぐためにレシピエントに与えねばならない非常に毒性の免疫抑制薬物の使用をなくするか少なくし得ることである。この薬物は、レシピエントの免疫系を再び増やすドナー誘導リンパ球がその新しい宿主を「教育する」ようになる能力もブロックする。本発明のような他の処置を用いない限り、免疫抑制薬物を中止することは難しい。
【発明の効果】
【0046】
本発明の戦略は、ドナーT細胞のレシピエント移植抗原に対するT細胞応答を阻害し、ドナー細胞における寛容状態を誘発することによるGVHDの抑制である。この結果、ドナー細胞がレシピエント細胞を攻撃するのを防止する。驚くべきことに、この方法は、処置した細胞の抑制をもたらすだけでなく、ある種のCD8+およびCD4+T細胞を誘発して、他のドナーT細胞がレシピエント細胞を殺すのを防ぐ。すなわち、これらの細胞が寛容となる。このことは、本発明方法によって、ドナー細胞のレシピエント細胞攻撃能力を低下せしめるが、いくつかのドナー細胞を誘発して監視的役割を喚起し、他のドナー細胞がレシピエント宿主に対する免疫攻撃を起こすのを防止することを意味する。直接的な結果は、ドナーリンパ球がレシピエントの組織適合抗原に対して寛容となるが、新しいリンパ球が腫瘍細胞を攻撃する能力を損なわないことである。
【0047】
この戦略の他の顕著な大きい利点は、重い有害副作用の蓋然性が低いことである。極少量の阻害誘発組成物、例えばサイトカインを患者に戻すだけであるので、最小の毒性しかないはずである。
【0048】
したがって、本発明は、レシピエントへの移植のためのドナー細胞を処置する方法に関する。この方法は、末梢血単核細胞(PBMC)をドナーから取り出し、その細胞を、一方で抑制性であるが他方で免疫攻撃を防止する監視細胞をつくる組成物で処置することを含む。
【0049】
本発明は、ドナー細胞の阻害誘発組成物での処置がレシピエント細胞に対する免疫攻撃をブロックすることを示す。理論に縛られる意図でないが、本発明方法が働くのにいくつかの道があるようである。まず最初に、ドナー細胞が活性化されてレシピエント細胞に対して寛容となる。第2に、ドナー細胞が活性化されて調節性細胞となる。すなわち、この調節性細胞は、他のドナー細胞がレシピエント細胞に応答して増殖しそれらの細胞を殺すのを防ぐように働く。これらの結果はGVHD応答の軽減をもたらす。理論に縛られる意図でないが、細胞毒性活性の阻害は、図に示すように、TGF−βなどの調節性T細胞により細胞上でつくられた阻害性サイトカインの結果として、または接触依存性メカニズムにより起きるようである。
【0050】
このように、好ましい実施態様において、本発明は、阻害誘発組成物でのドナー細胞の生体外処置により、ドナー細胞にレシピエント組織に対する寛容を誘発し、もってGVHDをなくする。
【0051】
したがって、本発明は、ドナー細胞を処置してレシピエント患者への移植前にレシピエント細胞に対する寛容を誘発または確立して、移植片−対−宿主応答を低下または消失せしめる方法を提供する。本明細書で「T細胞寛容」とは、T細胞が他の細胞に対する有害な免疫応答を起こさないことを意味する。これは、T細胞が抗原に応答して増殖しないこと、または細胞毒性T細胞とならないことにより得る。理論に縛られる意図でないが、これはT細胞のアネルギーまたは死によるのであろう。好ましくは、T細胞は、異物としての他の抗原を認識し腫瘍の殺傷を容易にする能力、および異物抗原に対する一般的な免疫原性応答を保持している。
【0052】
本発明方法を用いて、阻害誘発組成物でT細胞集団を生体外で処置し寛容を作る。活性化剤および阻害誘発組成物でT細胞集団を生体外で処置して、調節性細胞を作る。本発明方法を用いて、GVHD応答を抑制または処置する。GVHDの「処置」とは、GVHDの少なくとも1つの症状が、本明細書に記載の方法で改善されることである。その評価は、種々の方法で行うことができ、当分野で知られているように、患者側の主観的または客観的な因子を含む。例えば、GVHDは、発疹、肝機能検査値の異常、発熱、疲労や貧血を含む一般的症状を呈する。
【0053】
本明細書で「患者」とは、処置の対象となる哺乳動物を意味するが、ヒトが好ましい。ある場合において、本発明方法は、実験動物、獣性学分野、疾患モデル動物にも使用できる。これらの動物には、限定ではないが、マウス、ラット、ハムスターなどのゲッシ類および霊長類がある。
【0054】
本発明では、患者から血液細胞を取り出す。一般に、標準的な方法で患者から末梢血単核細胞(PBMC)を取り出す。本明細書で「末梢血単核細胞」すなわち「PBMC」とは、リンパ球(T細胞、B細胞、NK細胞などを含む)および単球を意味する。詳しく下記するように、阻害誘発組成物の主要な作用は、CD8+T細胞またはCD4+T細胞が寛容となり、他のT細胞に寛容を与える能力をつくるのを可能にすることのようである。したがって、PBMC集団は少なくともCD8+またはCD4+T細胞を含むはずである。
【0055】
好ましくは、PBMCのみを採取する。赤血球または多形核白血球を患者に残すようにするか、これらを患者にもどす。これは既知の方法、例えば、白血球分析法(leukophoresis)で行う。一般に5から7リットルの白血球分析法の工程を行う。患者からPBMCを主に取り出し、他の血液成分を戻す。細胞サンプルの採取は、ヘパリンなど抗凝固剤の存在下で、既知方法により行う。
【0056】
ある実施態様においては、実施例7に述べるように、白血球分析法を必要としない。例えば、ナイーブCD4+T細胞の集団は、図11に示すようにTGF−βの存在で刺激して増量できる。
【0057】
一般に、PBMC含有のサンプルは、種々の方法であらかじめ処理し得る。まず細胞を採取し、次いで採取に際して自動的に濃縮されていなければ、濃縮し、さらに精製および/または濃縮する。細胞を水洗し、計数し、緩衝液に再懸濁し、さらなる精製および活性化のために無菌の閉鎖系に移す。
【0058】
PBMCは、標準的方法で処置のためには通常濃縮する。好ましい実施態様において、白血球分析法の採取工程によってPBMCの濃縮サンプルを無菌の血球パックに得る。このパックは、試薬や用量の阻害誘発組成物を含有し得る。詳しくは下記する。一般に、追加の濃縮/精製工程を行なう。既知のFicoll−Hypaque密度勾配遠心法などである。分離法または濃縮法には、限定でないが、抗原被覆磁気ビードを用いる磁気分離法、アフィニティー・クロマトグラフィー、モノクローナル抗体と結合するか補体を用いる細胞毒性物質、固体マトリックスに接着したモノクローナル抗体を用いる「ふるいわけ」を使用することがある。磁気ビード、アガロースビード、ポリスチレンビードなどの固体マトリックスに接着した抗体を線維膜およびプラスチック面に移し、直接の分離を可能とする。抗体が結合した細胞の取り出しまたは濃縮は、細胞懸濁液から固体支持体の物理的分離で行い得る。厳密な条件および手法は用いる系についての具体的な因子により変る。適当な条件の選択は当分野で既知である。
【0059】
抗体をビオチン(後に支持体に結合したアビジンまたはストレプタビジンで除去できる)または蛍光色素(蛍光活性化細胞選別(FACS)で使用できる)にコンジュゲートして、細胞分離をなし得る。いかなる技法も、所望の細胞の活力に影響を与えない限り使用できる。
【0060】
好ましい実施態様において、PBMCの分離を自動化閉鎖システム、例えば、Nexell Isolex 300i 磁気細胞選別システムで行う。一般的に、無菌状態を保持し、細胞分離、活性化、サプレッサー細胞機能の生起に使用する方法の標準性を確保して行う。
【0061】
一旦精製または濃縮して、細胞のアリコートをとり、好ましくは液体窒素中で凍結するか、下記のようにすぐに使用する。凍結細胞は必要に応じて解凍し使用できる。
【0062】
寒冷保護剤を使用でき、これには、限定でないが、ジメチルスルホキシド(DMSO)(Lovolock, J. E. and Bishop, M. W. H., 1959, Nature 183: 1394-1395; Ashwood-Smith, M. J., 1961, Nature 190: 1204-1205)、ヘタデンプン,グリセロ−ル,ポリビニルピロリドン(Rinfret, A. P., 1960, Ann. N.Y. Acad. Sci. 85: 576)、ポリエチレングリコール(Sloviter, H.A. and Ravdin, R.G., 1962, Nature 196: 548)、アルブミン、デキストラン、スクロース、エチレングリコール、i−エリトリトール、D−リビトール、D−マニトール(Rowe, A.W., et al., 1962, Fed. Proc. 21: 157)、D−ソルビトール、i−イノシトール、D−ラクトース、塩化コリン(Bender, M.A., et al., 1960, J. Appl. Physiol. 15: 520)、アミノ酸(Phan The Tran and Bender, M.A., 1960, Exp. Cell Res. 20: 651)、メタノール、アセタミド、グリセロールモノアセテート(Lovelock, J.E., 1954. Biochem, J. 56: 256)、無機塩(Phan The Tran and Bender, M.A.,1960, Proc. Soc. Exp. Biol. Med. 104: 388; Phan The Tran and Bender, M.A., 1961, in Radiobiology Proceedings of the Third Australian Cnoference on Radiobiology, Ilbery, P.L.T., ed., Butterworth, London, p.59)がある。典型的には、細胞を10%DMSO、50%血清、40%RPMI1660培地に保存する。細胞の分離および精製の方法は米国特許5,888,499(出典明示により本明細書の一部とする)に記載されている。
【0063】
好ましい実施態様において、PBMCを洗い、血清タンパク質および溶性血液成分、例えば自己抗体、阻害剤などを既知方法で取り出す。一般に、生理媒質または緩衝液を加え、遠心法を行なう。必要に応じて繰り返す。PBMCを生理培養液、好ましくはAIM−V血清なしの培地(Technologie)に再懸濁するが(血清がかなりの量のTGF−βの阻害剤を含有するので)、ハンクス緩衝塩類溶液(HBBS)や生理塩緩衝液(PBS)も使用できる。
【0064】
一般に、次いで細胞数を数える。通常1×109から2×109の白血球を5−7リットル白血球分析法の工程から採取する。これらの細胞を大略200mlの緩衝液または培地に移す。
【0065】
好ましい実施態様において、PBMCは1以上の細胞型を富ます。例えば、PBMSはCD8+T細胞またはCD4+T細胞を富ます。幹細胞以外の細胞を富ますには、市販の免疫吸収カラムを用いるか、研究的方法で行う(PBMCをナイロンウールカラムに加え、溶出の非接着細胞をCD4、CD16、CD11b、CD74に対する抗体で処理し、免疫磁気ビードで処理して、CD8+T細胞に富んだ集団を取る)。さらに詳しく下記するように、幹細胞、例えばCD34+幹細胞の分離は、Nexell セパレーターを使用する閉鎖系で既知である。
【0066】
好ましい実施態様において、細胞集団はCD8+またはCD4+のいずれかに富んでいる。他の実施態様において、他の細胞型はCD3+CD4−CD8−またはNK細胞に富んでいることがある。
【0067】
PBMCを使用する利点は、PBMC集団中の他の細胞型がTGF−βをつくることであり、TGF−βを含む阻害誘発組成物の必要性を減じるか無くすることである。このように、ある実施態様では富化工程を使用しない。
【0068】
好ましい実施態様において、CD4+細胞をさらに精製して、非分化ナイーブ細胞のみを含むようにし得る。これはモノクローナル抗体を使用してCD45RO+細胞からCD4+細胞を無くする。この方法は、サプレッサーT細胞の生成または活性を妨害するかもしれない機能を獲得しているであろうCD4+細胞の集団を消失せしめる。
【0069】
細胞に必要な前処理を一旦ほどこしてから、細胞を阻害誘発組成物で処置する。本明細書で「処置」とは、細胞を阻害誘発組成物と共に十分な時間でインキュベートし、特に患者に移植したときに、T細胞寛容を得るようにすることである。インキュベーションは一般に生理的温度で行う。
【0070】
阻害誘発組成物は、レシピエント細胞にT細胞が寛容になるように誘発する少なくとも1つの化合物を含む。本明細書で「阻害誘発組成物」とは、T細胞寛容を誘発し得る組成物を意味する。一般に、この組成物はサイトカインである。適切な阻害誘発組成物は、限定でないが、IL−10、IL−2、IL−4、IL−15、TGF−βを含む。
【0071】
T細胞寛容を誘発するのに使用する化合物は、限定でないが、プロスタグランジン、酸化窒素、ケモカイン、サイトカイン、T細胞アクチベーターを含む。好ましい実施態様において、T細胞寛容を誘発するのに使用する化合物はサイトカインである。
【0072】
1以上の化合物を含有する阻害誘発組成物を使用して、T細胞に寛容を与え得る。阻害誘発組成物は、2以上の同じ類の化合物を含有し得る。すなわち2以上のサイトカイン、ケモカイン、プロスタグランジンなどを一緒に混合し得る。阻害誘発組成物はまた、他の類の化合物、例えば、サイトカインとケモカイン、またはサイトカインとプロスタグランジンを含有し得る。
好ましい実施態様において、阻害誘発組成物はTGF−βを含むサイトカインの混合物を含有する。
【0073】
阻害誘発組成物の濃度は、組成物の性質によって非常に変ってくる。しかし、一般的に、生理的濃度、すなわち、所望の作用、調節性細胞の特異的な型を高める作用が得られる濃度である。好ましい実施態様おいて、TFG−βを阻害誘発組成物に用いる。本明細書で「形質転換成長因子−β」すなわち「TGF−β」は、TGF−βファミリーのいずれか1つを意味する。3種のイソ型、TGF−β1、TGF−β2、TGF−β3がある。参照、Massague,J.(1980),J.Ann.Rev.Cell Biol 6:597。リンパ球および単球は、このサイトカインのβ1のイソ型である(Kehrl,J.H.et al.(1991),lnt J Cell Cloning 9:438-450)。TGF−βは、処置される哺乳動物に対して活性であるTFG−βのすべての型であり得る。
【0074】
ヒトでは、組換えTFG−βが現在のところ好ましい。好ましいヒトTGF−β2は、Genzyme Pharmaceuticals,Farmington,MA.から購入できる。一般に、TGF−βの濃度は、細胞懸濁液の約2picogram/mlから約2nanogramであって、約10pgから約500pgが好ましく、約50pgから約150pgが特に好ましく、100pgが理想的である。一般的に、免疫抑制作用について約1ng/mlが最適のようである。サプレッサー細胞の生成には、低濃度(例えば、約0.1ng/ml)が最適である。
【0075】
ある実施態様態様において、IL−2を阻害誘発組成物として使用する。IL−2は、処置される哺乳動物に対して活性であるIL−2のすべての型であり得る。ヒトでは組換えIL−2が現在のところ好ましい。組換えIL−2はCetus,Emerville、CA.から購入できる。一般に、使用されるヒトIL−2の濃度は、細胞懸濁液の約1Unit/mlから約100U/mlであり、約5U/mlから約25U/mlが好ましく、10U/mlが特に好ましい。好ましい実施態様ではIL−2を単独で用いない。
【0076】
好ましい実施態様において、本発明は、調節性T細胞をつくるために、阻害誘発組成物およびT細胞アクチベーターでT細胞を処置する方法を提供する。他のT細胞がレシピエント細胞を増殖し殺すのを防止する能力を生起するT細胞集団を、ここでは「調節性細胞」または「サプレッサー細胞」とよぶ。
【0077】
本明細書で「T細胞アクチベーター」は、サイトカイン受容体の発現を刺激する化合物を意味する。適当なT細胞アクチベーターは、抗CD3および抗CD28抗体、モノクローナル抗体の抗CD2抗体組合せ、知られておれば特異的自己抗原、移植レシピエントからの細胞(例えば、同種異型抗原)、IL−2、IL−4、IL−15およびマイトジェン、例えば、コンカナバリンAやブドウ球菌性エンテロトキシンB(SEB)を含む。
【0078】
好ましい実施態様において、細胞を、サイトカイン含有の阻害誘発組成物およびT細胞アクチベーターで処置する。例えば、移植レシピエントからの細胞をT細胞アクチベーターとして、TGF−βを含む阻害誘発組成物と併用できる。同様に、抗CD3および抗CD28抗体、抗CD2抗体、コンカナバリンA(ConA)、ブドウ球菌性エンテロトキシンB(SEB)などのT細胞アクチベーターをTGF−βとともに使用できる。阻害誘発組成物とT細胞アクチベーターの他の組合せも可能であり、CD2リガンド、LFA−3、LI−2やIL−4、TGF−αなどのサイトカインを使用する。
【0079】
コンカナバリンA(ConA)、ブドウ球菌性エンテロトキシンB(SEB)
などのマイトジェンをサイトカイン受容体発現の促進に用いるとき、既知方法で知られているように、その濃度範囲は1μg/mlから約10μg/mlである。さらに、既知方法のように、マイトジェンを離す成分、例えばα−メチルマンノシッドと共に細胞を洗うのが望ましい。
【0080】
好ましい実施態様において、CD2リガンドLFA−3を含み得る抗CD2抗体などのCDアクチベーターを活性化剤として用い得る。CD2はTリンパ球により発現される細胞表面糖タンパク質である。本明細書で「CD2アクチベーター」とは、CD2情報伝達経路を開始する化合物を意味する。好ましいCD2アクチベーターは、抗CD2抗体(OKT11,American Type Culture Collection,Rockville MD and GT2, Huets, et al., (1986) J. Immunol. 137: 1420)を含み得る。一般に、CD2アクチベーターの濃度は、TGF−βの生成を誘導するのに十分なものである。抗CD2抗体の濃度は、約1ng/mlから約10μg/mlの範囲にあり、約10ng/mlから約100ng/mlが特に好ましい。
【0081】
好ましい実施態様において、移植レシピエントからの細胞を用いて、ドナーCD4+またはCD8+T細胞を活性化する。他のサイトカイン、例えば、IL−2、IL−4、IL−15をも含む阻害誘発組成物中にTGF−βを使用して、TGF−βの作用発揮を容易にする。
【0082】
阻害誘発組成物をドナー細胞および刺激したPMBCレシピエント細胞(上記のように採取)とともにインキュベートする。レシピエント細胞の刺激は、レシピエント細胞がドナー細胞を攻撃できないが、ドナー細胞がレシピエント細胞に対して寛容となるように行う。インキュベーションは作用が生じるのに十分な時間行う。一般に4時間から5日であるが、より短いまたは長い時間も可能である。
【0083】
このように、レシピエント細胞は抗原特異的T細胞アクチベーターとして機能する。この活性化は調節性細胞の生成に必要である。理論に縛られる意図でないが、レシピエント細胞はドナー細胞上のサイトカイン受容体を上方調節し、もってドナー細胞がTGF−β応答性となり、調節性細胞となるのを可能にするようである。
【0084】
好ましい実施態様において、CD4+T細胞を、TGF−βを含む阻害誘発組成物およびT細胞アクチベーターで処置して、接触依存性抑制を生起せしめる。この調節性T細胞は非常に強力であり、1%以下にすぎない全T細胞を含むときでも抑制作用を発揮する。
【0085】
好ましい実施態様において、調節性CD4+T細胞を、その抑制特性に影響を与えないで、増量できる。好ましくは、CD4+T細胞を少なくとも1回増量する。さらに好ましくは、CD4+T細胞を14回まで増量する。さらに好ましくは、CD4+T細胞をさらに増量する。
【0086】
好ましい実施態様において、CD4+T細胞をTGF−βの存在下で活性化し、刺激を繰り返して、活性TGF−βの免疫抑制レベルをつくる。本明細書で「活性TGF−βの免疫抑制レベル」とは、細胞機能に対する直接的免疫抑制作用を有するTGF−βの濃度、すなわち、ドナー細胞をレシピエント組織適合性抗原に対して非応答性とするTGF−βの濃度を意味する。一般的に、TGF−βの500pg/mlを越える濃度が細胞機能に対する免疫抑制作用を有する。
【0087】
ひとつの実施態様において、ドナー細胞を阻害誘発組成物で処置し、ついでレシピエント患者にすぐに移植する。一般的に、細胞を洗い阻害誘発組成物を除去した後に行う。この実施態様では、ドナー細胞を阻害誘発組成物で処理または処置した後、凍結などして保存し得る。
【0088】
好ましい実施態様において、第2工程として、骨髄またはPBMCから吸引でドナー造血性幹細胞の集団を得ることを含む。幹細胞は血中に非常に小さい%の白血球を含む。幹細胞を、米国特許5,635,387および4,865,204(両者を出典明示により本明細書の一部とする)に記載された既知の方法で分離するか、Nexell 市販のシステムを用いて採取する。上記したように、CD34+幹細胞はアフィニティーカラムで濃縮できる。溶出細胞はCD34+幹細胞とリンパ球の混合物である。汚染物であるリンパ球の除去には、一般的に、既知のモノクローナル抗体での染色などの技法や通常の陰性選択法を用いる。
【0089】
CD34+幹細胞を単離すると、阻害誘発組成物で予め処置したドナー細胞と混合し、すぐにレシピエント患者に導入できる。
【0090】
ある実施態様において、細胞を一定の時間インキュベートし、水洗して阻害誘発組成物を除去し、再びインキュベートする。患者に導入する前に、ここに概記したように細胞を好ましくは水洗し、阻害誘発組成物を除去する。試験すなわち検査のために、さらなるインキュベーションも行うことができ、数時間から数日間である。患者への導入前に細胞特性の検査をしょうとするときは、細胞を数日間から数週間インキュベートすると、サプレッサー細胞を増量し得る。
【0091】
細胞を一旦処置して、患者に移植する前に細胞を検査することができる。例えば、細胞を採取して行う。無菌検査、グラム染色、微生物学的検査、LAL試験、マイコフラズマ検査、細胞型同定のためのフローサイトメトリー、機能検査などである。同様に、これらの検査などの試験を処置の前や後に行うことができる。好ましい分析は標識レシピエント細胞を用いる試験である。処置された寛容ドナー細胞をレシピエント細胞の標識集団とともにインキュベートすると、ドナー細胞が寛容でレシピエント細胞を殺さないことを確認できる。
【0092】
好ましい実施態様において、処置によってT細胞がレシピエントの組織適合抗原に対して非応答性となり、GVHDが防がれる。
好ましい実施態様において、移植の前に全または活性TGF−βの量を検査する。本明細書で述べるように、TGF−βは、翻訳後に活性化される潜在性前駆体としてつくられている。
【0093】
細胞処置後、ドナー細胞をレシピエント患者に移植する。ドナーとレシピエントの両方のMHCクラスIおよびクラスIIの状態を調べる。好ましくは、非近縁ドナーがレシピエントHLA抗原に適合し、適合ドナーを同定できなければ1以上の座 locus で不適合である。レシピエント患者は骨髄隔離を通常受けており、高量の化学療法を受けており、全身の放射線照射を受けていることもある。
【0094】
ドナー細胞をレシピエント患者に移植する。一般的に既知のように行う。通常は、処置細胞を患者に注射すなわち導入する。静脈内投与により行い得るが、静脈内、動脈内、腹腔内の投与もある。例えば、無菌シリンジなどの移転手段を用いて注射により Fenwall注入バッグに細胞を入れる。次いで細胞をすぐに静脈投与によって一定の時間、例えば、15分間で患者の自由に流れている静脈に注入する。ある実施態様では、緩衝剤や塩などの追加の試薬も加え得る。
【0095】
細胞を患者に再導入後に、処置の効果を所望に応じて、上記または既知方法で検査できる。
処置は必要に応じて繰り返し得る。ある期間後に、白血病性細胞が再び現れることがある。ドナー白血球がすでにレシピエント細胞に寛容であるので、白血病性細胞を異物として認識して殺す非処理ドナーリンパ球の注入を、患者は受けることになる。
【0096】
好ましい実施態様において、本発明は、本発明方法を実施するためのキット、すなわち細胞を阻害誘発組成物と共にインキュベートするためのキットを提供する。キットはいくつかの成分を含有し得る。キットは、ドナーからの細胞を受容するのに用いられる細胞処置容器を含む。この容器は無菌である。ある実施態様において細胞処置容器は、細胞の採取に用いる。例えば、入口を介して白血球分析法と共に用い得る。他の実施態様では、離した細胞採取容器を用い得る。
【0097】
細胞処置容器の形および材質は様々であり、当業者によく知られている。一般に、容器はいくつかの異なる形態を取る。例えば、IVバッグのような柔かいバッグであり、または細胞培養器のような硬い容器である。攪拌できるようになっている。一般に、容器の材質は何でもよいが、生物学的に非活性の物質であり、例えばガラス、ポリプロピレンやポリエチレンなどを含むプラスチックである。細胞処置容器は1以上の入口または出口を有し得る。細胞、試薬、阻害組成物などの導入または除去のためのものである。例えば、容器は、患者に再導入する前の分析のために細胞の分画を採取するサンプル採取口を有する。同様に、容器は、レシピエント患者に細胞を導入するための出口を有する。例えば、容器はIV装置につけるためのアダプターを含み得る。
【0098】
キットは阻害誘発組成物の少なくとも1つの用量を含む。本明細書での「用量」とは、サイトカインなどの阻害誘発組成物の1つの量で、作用を発揮するのに十分な量を意味する。ある場合には、複数用量を含み得る。ある実施態様において、用量の細胞処置容器への添加は入口を介して行なう。あるいは好ましい実施態様において、用量は細胞処置容器にすでに存在している。好ましい実施態様において、用量は安定性のために乳濁形態にあり、細胞培養液や他の試薬を用いて再構築できる。
【0099】
ある実施態様において、キットは少なくとも1種の試薬を追加的に含む。それには緩衝液、塩、培養液、タンパク質、薬剤などがある。例えば、マイトジエンを含み得る。
ある実施態様において、キットはその使用に際しての説明書を追加的に含む。
【0100】
下記の実施例は、上記の本発明をより完全に記述したものであり、また、本発明の種々の態様を実施するために考えられる最上の方法を記述した。これらの実施例は、本発明の範囲を限定するものでなく、説明の目的のために提示する。出典明示されたすべての引用文献は全体を本明細書の一部とする。
【実施例1】
【0101】
実施例1
個体の血液細胞に対する免疫攻撃についてのドナーCD8+細胞の処置
ドナーから血液サンプルを得て、密度勾配遠心法によりリンパ球を得た。T細胞は通常の陰性選別法を用いて調整した。該T細胞はレシピエント細胞を攻撃しないよう調整した。この調整のため、レシピエント由来の照射スティムレーター細胞にCD8+T細胞を混合した。該スティムレーター細胞はレシピエント由来のT細胞依存性血液細胞から誘導した。ドナーT細胞とレシピエントのスティムレーター細胞との混合物を異なる濃度で一種以上のサイトカインと48時間培養した。実施例で用いたサイトカインはTGF−βおよびIL−10であった。この方法は、レシピエント細胞を殺すドナーT細胞の能力を無くした(図4B)。
【0102】
ドナーT細胞がレシピエントの血液細胞を認識して殺す能力を試験するため、ドナーT細胞を照射スティムレーター細胞と5日間培養した。ついでドナー細胞は、レシピエントの放射標識血液細胞のサンプルと4時間培養した。レシピエント細胞が殺されると、培養培地に放射性同位元素が放出される。放出された放射性同位元素の量を測定することにより、死滅した細胞の割合を算出することができる。図4Aに示す標準の細胞毒性の試験で、ドナー細胞は標識したレシピエント細胞と30対1、15対1、および7.5対1の比率で培養した。ドナーとレシピエント細胞のこれらの組み合わせは、エフェクターと標的との割合と名づける。死滅を記号で示す。予期されるとおり、最も高いエフェクターと標的との割合で死滅の極大を認めた。図4Aにおいて白丸の記号は、ドナー細胞30に対しレシピエント細胞1を混合すれば該レシピエント細胞の40%が死滅することを示す。ドナーT細胞が極めて低濃度のTGF−β(0.01または0.1ng/ml)で処置した場合に、死滅に全く影響しなかった(図4D)。しかしT細胞を1ng/mlのTGF−βで処置するとレシピエント細胞の死滅は50%減少した。図4Bは、T細胞をIL−10で処置すると、死滅が50%減少したことを示す。T細胞をIL−10とTGF−βの各1ng/mlで処置すると、でき上がった細胞はレシピエント細胞の死滅を阻止した。つまり死をほとんど検出しなかった。マイトジェン、サイトカイン、モノクロナール抗体の種々の組み合わせは、T細胞を不応答にするために使うことができる。
【実施例2】
【0103】
実施例2
他のドナーT細胞が非近縁個体由来の血液細胞に対して免疫攻撃するのを防ぐための、生体外ドナーCD8+T細胞の処置(すなわちGVHDの阻止)
CD8+細胞は、非近縁のドナー細胞に対する個体の細胞毒性免疫応答を抑制するためTGF−βによって調整できる。この方法でドナーBの組織適合性不適合の血液単核細胞に対するドナーAの細胞毒性活性を評価できる。抑制細胞を生起させるため、ドナーA由来の精製CD8+細胞は、加えたTGF−βとドナー細胞由来の照射T細胞除去の単核細胞と培養した。別にドナーB細胞に対するドナーAのT細胞の細胞毒性活性を文献的に立証した。図5は、ドナーA由来のTGF−βで調整したCD8+T細胞の添加が細胞毒性活性を減弱させたことを示す。対照のCD8+細胞の添加では最少の作用であった。これらの実験で、ドナーA由来のCD8+T細胞は、ドナーBによって表示される外来抗原により活性化した。追加のIL−2の必要は無かった。これらの実験で明らかになったことは、TGF−βはCD8+T細胞を誘発して抗体の生産を抑制するのみならず、CD8+細胞も誘発して細胞仲介の免疫応答を抑制することである。
【実施例3】
【0104】
実施例3
慢性骨髄性白血病患者の組織不適合性ドナー由来幹細胞による処置:マイトジェンによる寛容化
実施例1と同様に、採取したドナーの末梢血単核細胞(PBMC)を滅菌容器中のハンクス緩衝塩類溶液(HBBS)に入れる。ついで該細胞をマイトジェンとインキュベートしてレシピエントの組織適合性抗原に不応答となるようリンパ球を誘発させる。この場合、細胞は標準のインキュベーション技術を用いて4ないし72時間、生理的濃度のコンカナバリンA(ConA)と培養する。用いるConAの濃度は、好ましくは1μg/mlであるが、約0.01から約10μg/mlの範囲で変え得る。また別に、0.001から100ng/mlの濃度でブドウ球菌性エンテロトキシンB(SEB)をマイトジェンとして用いてもよい。
【0105】
マイトジェン溶液中の単核細胞のインキュベーションはサプレッサーT細胞を増加させる。これらの細胞は、レシピエントに移転すると、GVHDを誘発することなく幹細胞の移植を可能にする。どのようにマイトジェンが働くかは不明であるが、調整中に単核細胞がTGF−βの生産を誘発すると考えられ、またTGF−βはT細胞に作用してサプレッサー細胞になるか、または他のT細胞を不応答にさせる。
【0106】
該細胞をマイトジェンとインキュベートした後、細胞をHBBSで洗浄して溶液中に残るマイトジェンを除去する。細胞を200−500mlのHBBSに懸濁し、幹細胞と混合し、移植の幹細胞を調製するため、骨髄剥離剤で処置した慢性骨髄性白血病(CML)患者に投与する。
【0107】
ひとたびドナーの造血細胞リンパ球をレシピエントに移植すると、患者は再び健康を取り戻し白血病細胞がなくなる。もし白血病細胞が再発生すれば、患者はドナーのリンパ球の輸液を受け、白血病細胞は再び消失する。
【実施例4】
【0108】
実施例4
慢性骨髄性白血病患者の組織不適合性ドナー由来幹細胞による処置:TGF−βの生産を誘発するための抗CD2モノクロナール抗体の使用
ドナー由来の、採取した幹細胞の豊富な調製物を実施例1と同様に滅菌容器中のHBBSに入れる。ついで該細胞を抗CD2モノクローナル抗体とインキュベートしてレシピエントの組織適合性抗原に不応答となるようリンパ球を誘発させる。この場合、細胞は標準の培養技術を用いて4ないし72時間、抗CD2モノクロナール抗体とインキュベートする。抗CD2モノクロナール抗体の濃度は10ng/mlないし10μg/mlである。IL−2の1−1000単位を随意に加えることができる。
【0109】
抗CD2溶液中の単核細胞をインキュベートすると、サプレッサーT細胞の数が増加する。これらの細胞は、レシピエントに移転するとGVHDを誘発することなく幹細胞の移植を可能にする。調整中に単核細胞がTGF−βの生産を誘発すると考えられ、またTGF−βはT細胞に作用してサプレッサー細胞となる。
【0110】
該細胞を抗CD2モノクロナール抗体とインキュベートした後、細胞をHBBSで洗浄して溶液中に残る抗体を除去する。細胞を、予め採取した幹細胞と混合したHBBSの200−500mlに懸濁し、移植の幹細胞を調製するため、骨髄剥離剤で処置した慢性骨髄性白血病(CML)の患者に投与する。
【0111】
ひとたびドナーの造血細胞リンパ球をレシピエントに移植すると、患者は再び健康を取り戻し白血病細胞がなくなる。もし白血病細胞が再発生すれば、患者はドナーのリンパ球の輸液を受け、白血病細胞は再び消失する。
【実施例5】
【0112】
実施例5
慢性骨髄性白血病患者の組織不適合性ドナー由来幹細胞による処置:マイトジェンおよびサイトカインによる寛容化
採取したドナーのPBMCを、実施例1と同様に滅菌容器中のHBBSに入れる。ついで該細胞をサイトカインおよびマイトジェンとインキュベートしてレシピエントの組織適合性抗原に不応答となるようリンパ球を誘発する。この場合、細胞は標準のインキュベーション技術を用いて、生理的濃度のConAまたはSEB、TGE−β、および/またはIL−2、IL−4またはIL−15と4時間ないし72時間インキュベートする。
【0113】
該細胞をサイトカインおよびマイトジェンとインキュベートした後、細胞をHBBSで洗浄して溶液中に残るサイトカインおよびマイトジェンを除去する。細胞を幹細胞と混合したHBBSの200−500mlに懸濁し、移植の幹細胞を調製するため、骨髄剥離剤で処置した慢性骨髄性白血病(CML)患者に投与する。
【0114】
ひとたびドナーの造血細胞リンパ球がレシピエントに移植すると、患者は再び健康を取り戻し白血病細胞がなくなる。もし白血病細胞が再発生すれば、患者はドナーのリンパ球の輸液を受け、白血病細胞は再び消失する。
【実施例6】
【0115】
実施例6
慢性骨髄性白血病患者の組織不適合性ドナー由来幹細胞による処置:マイトジェンおよびサイトカインによる寛容化
【0116】
採取したドナーのPBMCを、実施例1と同様に滅菌容器中のHBBSに入れる。ついで該細胞をサイトカインおよびマイトジェンとインキュベートしてレシピエントの組織適合性抗原に不応答となるようリンパ球を誘発する。この場合、細胞は標準のインキュベーション技術を用いて、生理的濃度のConAおよびIL−2と4時間ないし72時間インキュベートする。別の場合にはSEBを用い得る。
【0117】
該細胞をサイトカインおよびマイトジェンと培養した後、細胞をHBBSで洗浄して溶液中に残るサイトカインおよびマイトジェンを除去する。細胞を幹細胞と混合したHBBSの200−500mlに懸濁し、移植の幹細胞を調製するため、骨髄剥離剤で処置した慢性骨髄性白血病(CML)患者に投与する。
【実施例7】
【0118】
実施例7
精製CD8+細胞に対するTGF−βの作用
CD8+のTGF−βよる処置は、少なくとも三様にCD8+細胞に作用する。まず、TGF−βの存在下、T細胞のPMA(20ng/ml)およびイオノマイシン(5μM)による処置は、CD40リガンドの発現を上方調節する(図1)。第2に、IL−2発現はTGF−βの存在下にConAで刺激されたT細胞で高い(図3)。第3に、精製CD8+細胞をConA(5μg/ml)±TGF−β(10pg/ml)±IL−2(10U)で24時間刺激すると、TGF−βはCD8+細胞によるTNF−α発現を増加する(図2)。
【実施例8】
【0119】
実施例8
免疫攻撃を阻止するための生体外CD4+細胞の処置
調節性T細胞を誘発するマイトジェンの代わりに、同種異型の混合リンパ球反応を当目的に用いる。該反応において、ドナーA由来のT細胞は、ドナーB由来のPBMCにより表示された外来の組織適合性抗原を確認し、それに応答する。この応答T細胞は、ドナーB細胞を殺す能力を増殖し発展さす。
【0120】
サプレッサーT細胞を生起させるため、ドナーA由来の種々のCD4+細胞サブセットをドナーB由来の照射T細胞除去単核細胞と培養した。該細胞は懸濁下にTGF−β(1ng/ml)の存在または不存在で5日間培養した。その後、TGF−βを除去し、該細胞をドナーA由来の新鮮なT細胞およびドナーB由来の非T細胞に加えた。
【0121】
ナイーブCD4+細胞はTGF−βの存在下に活性化すると強力な抑制活性を生起した。該CD4+T細胞は、同種異型の標的細胞に対するCTL活性が現れるのを阻止する能力を有する。2段階共培養実験にて、初めにCD4+CD45RA+RO−T細胞を、照射した同種異型スティムレーター細胞±TGF−β1と5日間インキュベートした。ついで該細胞の種々の量を新鮮なT細胞およびスティムレーター細胞に加え、CTL活性の生成に対する該細胞の作用を評価した。対照のCD4+細胞は低度ないし中程度の抑制活性をもっていたのに反し、TGF−βの存在下に処置した該細胞は、標準の4時間クロム放出試験で、応答T細胞が同種異型の標的細胞を殺すのをほとんど完全にブロックした(図6A)。CD4+細胞の活性化は阻害活性の生起に必要であった。刺激なしでTGF−βと培養したT細胞は該抑制作用(20)を生起しない。TGF−βの存在下に同種異型抗原で免疫起動したCD4+サプレッサー細胞をここでは「CD4reg」と呼ぶ。スティムレーター細胞で処置したナイーブCD8+T細胞もまた中程度の抑制活性を生起するが、CD4+細胞と違って、TGF−βの存在は該活性を高めなかった(図6B)。
【0122】
図7は、TGF−βにより誘発されたCD4+抑制T細胞を用いた二つの追加的実験を示す。さらなる実験により、この方法で生成した抑制性CD4+T細胞は特異な作用様式をもっていることが明らかとなった。阻害性サイトカインを分泌して抑制する、先に生成したCD8+およびCD4+細胞とは異なり、この同種異型の特異的調節性CD4+T細胞は接触依存性作用メカニズムをもっている(図8)。
【0123】
TGF−βの存在下、ナイーブCD4+T細胞の活性化は、それらを同種異型抗原にかなり激しく応答し、活性化発現型への転換を促進し、活力を高めた。図9は、培養5日後の対照およびTGF−β調整CD4+細胞の性質を示す。同種異型刺激CD4+細胞は典型的な特徴を示し、アネキシンV染色により示されたように、あるものはすでに進行している活性化誘発の細胞死であった。重要なことは、TGF−βの存在下に同種異型活性化したものは随分多く、分画はCD4を強く染色し、CD25の発現が顕著に増加した。13回の実験によるCD25発現の平均値は、ナイーブ細胞で検出できないレベルから、TGF−βの存在下に同種異型活性化CD4+細胞の42.3±3.6%に増加した。対照の同種異型活性化CD4+細胞の平均値は、34.5±3.8%であった(p<0.01%、ペアーt検定)。細胞内および細胞表面でのCTLA−4の発現は、対照のCD4+細胞と比較してCD4regで増加した(細胞内:31.5±4.1%対23.2±4.5%、p<0.01;表面:10.8±0.9%対5.2±0.4%、p<0.01)。CD4regの大きな比率は、CD45RAの表面発現を下方調節した。有意に、アネキシンV染色は顕著に減少し、回収されたCDregの総数は対照のCD4+細胞を56%上回った。このようにCD4regは対照のCD4細胞より強く活性化されたが、また活性化誘導のアポトーシスに対しより抵抗性であった。
【0124】
Shevachとその協同研究者によって記載されたムレインCD4+調節性T細胞(Suri-Paer, E., et al., J. Immunol. 160:1212-1218, 1998; Suri-Paer, E., et al., Eur. J. Immunol. 29:669-677, 1999; Thornton, A.M., Shevach, E.M., J. Exp. Med. 188:287-296, 1998)と同様に、細胞選別によりCD4regをC25+とCD25−との分画に分離すると、抑制活性の大部分はCD25+分画に含まれていることが明らかとなった(図10A)。CD4+CD25−分画は最少の抑制活性を示した。さらに、わずかな数のCTL活性の生成を著しく阻害する能力で分るように、CD4+CD25+分画は非常に強力であった。図10Bは、CD4+サプレッサー細胞の数が総T細胞の25%から3%に低下したとき、抑制活性はごくわずか減少したことを示す。わずかに添加したCD4+でもって、CD25−サブセットで仲介される最少の抑制活性は消失した。
【0125】
IL−10の増殖能力は低いが(Groux, H., et al., Nature 389:737-742. 24, 1997)、そのIL−10での反復刺激により生成したCD4+調節性T細胞とは異なって、TGF−βの存在下で誘導されたCD4regはIL−2に応答して増殖し、その抑制能力を保持した。CD4regのCD25+分画を細胞選別により分離し、IL−2と5日間培養した。該細胞はこの期間に7ないし14倍に増し、3つの別々の実験でその抑制能を維持した。図11は、CD4regが全T細胞のわずか5%を含むとき、CTL活性の生成を強く阻害することを示す。さらに、CD4+CD25細胞の数が全細胞のわずか0.2%に減少したとき、この抑制活性はそのまま残った。しかし、この抑制T細胞を照射すると抑制効果は消失した。
【0126】
該T細胞を応答T細胞および同種異型スティムレーター細胞に加えると増殖が抑制され(図12)、応答CD8+キラー前駆体細胞の能力が弱められて活性となる(図13)。
【0127】
CD4regは同種異型抗原に対する応答T細胞の増殖性応答をブロックし(図14B)、CD8+T細胞が主要な標的であった。5日間の培養後、フローサイトメトリーによってCD8+細胞にゲーティングすると、同種異型活性CD8+細胞はCD25の顕著な増加、CD69およびFasの発現の増加、ならびにCSFE標識およびヨウ化プロピジウム標識したエフェクターT細胞による細胞分割の証拠を示した。さらにあるCD8+細胞は、アネキシンV染色により示されたように、活性化誘導の細胞死を受けた。非常に対照的に、CD4regを含む培養液中、CD8+細胞によるCD25、CD69およびFasの上方調節は著しく阻害され、ほとんどどれもアポトーシスあるいは細胞分割を受けなかった。培養液中CD8+細胞の絶対数の検査から、全体の数からほんのわずかの変化であることが明らかとなった。このようにCD4regはCD8+細胞をアネルギーにさせた。
【実施例9】
【0128】
実施例9
CD4+T細胞を刺激して、TGF−βの免疫抑制レベルをつくり得る
TGF−βの免疫抑制レベルをつくるCD4+T細胞はTh3細胞と名づけられているが、その生起に関わるメカニズムはほとんど知られていない。我々は、スーパー抗原、ブドウ球菌性エンテロトキシンB(SEB)によるCD4+細胞の強い刺激、または低濃度のSEBによるCD4+細胞の反復刺激がこれらの細胞を誘発してTGF−βの免疫抑制レベルをつくるとの確証を得た。
【0129】
図15は、SEBの濃度を増加させながらCD4+T細胞を刺激し、これによる全活性TGF−βの生成量が増加していることを示す。図16は、低量のSEBによるCD4+T細胞の反復刺激の作用を示す。T細胞をSEBで刺激すると、刺激3回目までにかなりの量の活性型TGF−βが生成した。
【0130】
図17は、ナイーブ(CD45RA+CD45RO−)CD4+およびCD8+T細胞に対するSEBの作用を示す。細胞をSEBで5日毎に計3回刺激した。各T細胞サブセットおよびCD25IL−2受容体活性化マーカーを発現する細胞の割合を各刺激後に測定した。パネルAおよびCは、最初の刺激時にTGF−βの1ng/mlを含んでいることによって、CD4+T細胞が反復刺激後に培地中で優勢なサブセットになることを示す。パネルBおよびDは、SEB刺激を受けた細胞によるCD25発現が対照の培地中3回目の刺激により低下することを示す。しかし、T細胞をTGF−βで免疫起動するとCD25の発現は高いままである。このように、T細胞が反復して刺激を受け、20日間の培養後、この細胞のほとんどがCD25+であれば、TGF−βはCD4+細胞に対して優先的作用を持っているようである。
【0131】
要約すると、T細胞の刺激につづいて、TGF−βの初期抑制効果はCD8+細胞に向けられる。該サイトカインは、長いまたは反復した刺激によりCD4+細胞を生成して調節性細胞となり、そしてこの細胞の抑制活性はCD8+細胞のそれよりも強い。
【実施例10】
【0132】
実施例10
幹細胞の移植後にGVHDを引き起こした慢性骨髄性白血病患者の処置
幹細胞の移植に伴う初期または後期GVHDを予防する最初の方法が成功しなかった場合に、サプレッサー細胞になるよう調整したドナーT細胞を大量移転することにより、GVHDを処置できる。白血球除去法により得た約1×10のPBMCを、滅菌したロイコパック、すなわちハンクス緩衝塩類溶液(HBBS)中で濃縮する。PBMCは、適当なモノクロナール抗体で被膜した磁性ビーズによってCD4+とCD8+に分離する。細胞を望ましいT細胞アクチベーターおよび阻害誘発組成物と最適時間処置し、最大の調節性活性を発揮させる。該細胞を増量し、レシピエントに移転する。調整したこのT細胞はリンパ器官に移行しGVHDを抑制する。
【0133】
慢性骨髄性白血病以外に、急性および慢性白血病、リンパ腫のような他の血液系悪性腫瘍、乳癌または腎性細胞癌のような固形癌、および重篤な貧血(サラセミア、鎌状赤血球貧血)のような非悪性疾患などを、不適合の同種異型幹細胞で処置し得る。
【0134】
本発明の他の態様は、サイトカインと細胞インキュベーションを行なうためのキットである。該キットは容器内に予め入れた適当な濃度のサイトカインを含む滅菌培養容器を含む。キットの一つの実施態様で、サイトカインは容器中に凍結乾燥型で存在する。該容器は静脈注射用(IV)バッグのようなバッグが望ましい。凍結乾燥したサイトカインは、ハンクス緩衝塩類溶液(HBBS)によって再構成し、ついで細胞を該容器に注入して完全に混合しインキュベートする。更なる本発明の実施態様で、サイトカインは予め溶液状態で容器内にあって、ただなすべきことは洗浄した幹細胞調製物の注入およびインキュベーションである。
【図面の簡単な説明】
【0135】
【図1】図1Aおよび1Bは、TGF−βがT細胞上でCD40リガンド(CD40L)の発現を上方調節し得ることを示す。
【図2】図2A、2B、2C、2Dは、TGF−βがCD8+細胞によるTGF−α発現を増加せしめることを示す。
【図3】図3Aおよび3Bは、TGF−βがT細胞によるIL−2発現を増加せしめることを示す。
【図4A】図4Aは、TGF−βが細胞毒性活性を増加または阻害し得ることを示す。
【図4B】図4Bは、TGF−βが細胞毒性活性を増加または阻害し得ることを示す。
【図4C】図4A、4B、4Cは、TGF−βが細胞毒性活性を増加または阻害し得ることを示す。
【図5】図5は、TGF−βで処理されたCD8+T細胞による不適合ヒト細胞に対する細胞毒性T細胞活性の抑制を示す。
【図6】図6は、ナイーブCD8+T細胞が、TGF−βの存在で活性化されると、強力な抑制活性を起こすことを示す。
【図7】図7は、TGF−βで免疫起動されたCD4+細胞の同種異型細胞毒性リンパ球(CTL)活性に対する作用を示す。
【図8】図8は、調節性T細胞が細胞接触でCTL活性を阻害することを示す。
【図9】図9は、ナイーブCD4+T細胞のTGF−β存在下での活性化によって、この細胞が同種異型抗原に対して強く応答し得るようになり、その活性化表現型への転換が促進され、活力が増加することを示す。
【図10】図10は、CD4 reg がCD25を表現し、強力な抑制活性にかなり少数を要することを示す。
【図11】図11は、CD4+CD25+T細胞を増量し、その強力な阻害作用を保持せしめ得ることを示す。
【図12】図12は、TGF−βで誘発された調節性CD4+T細胞によるリンパ球増殖の抑制を示す。
【図13】図13は、CD25+CD4T細胞の調節性活性を示す。CD4+細胞を、刺激した同種異型非T細胞±TGF−β(1ng/ml)で5日間刺激した。
【図14A】図14は、細胞毒性T細胞活性について、CD4 reg が応答T細胞の同種異型抗原に対する増殖性応答をブロックし、CD8+T細胞がその主要な標的であることを示す。図14Aでは、CD4 reg または免疫起動された対照CD4+細胞を新鮮なT細胞と1:4の割合で混合し(10/ウエル)、刺激されたスティムレーター細胞(10/ウエル)とともに5日間3組培養した。この培養基を[H]TdRで最後の18時間処理した。
【図14B】図14は、細胞毒性T細胞活性について、CD4 reg が応答T細胞の同種異型抗原に対する増殖性応答をブロックし、CD8+T細胞がその主要な標的であることを示す。図14Bでは、培養CD8+細胞の表現型を、CD8+細胞をゲーティングするフローサイトメトリーで測定した。灰色部分は、スティムレーター細胞なしで5日間培養された細胞を示す。濃い線は、スティムレーター細胞およびCD4 reg とともに培養されたCD8細胞を示す。薄い破線は、対照CD4細胞とともに培養されたCD8細胞を示す。リンパ球を、FITCコンジュゲート(抗CD69)、フィコエリトリン−コンジュゲート(抗CD25、抗CD95)またはチクローム−コンジュゲート(抗CD8)mAbで標識した。アネキシン−V染色、CFSEレベル、ヨウ化プロピジウム染色によるDNA含量も示す。
【図15】図15は、低量のブドウ球菌性エンテロトキシンB(SEB)でのT細胞の反復刺激がT細胞を誘発してTGF−βの免疫抑制レベルをつくることを示す。
【図16】図16は、低量のSEBでのCD4+T細胞の反復刺激がT細胞を誘発してTGF−βの免疫抑制レベルをつくることを示す。
【図17】図17は、SEBのナイーブ(CD45RA+CD45RO−)CD4+およびCD8+T細胞に対する作用を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体外の末梢血単球細胞(PBMC)のサンプルにおいてサプレッサー細胞を生成せしめる方法であって、阻害誘発組成物を該細胞集団に加えることを含む方法。
【請求項2】
レシピエント患者の移植片−対−宿主疾患を軽減するためにドナー細胞を処置する方法であって、
a)ドナーから末梢血単球細胞(PBMC)を取り出し、
b)該細胞を阻害誘発組成物で、サプレッサー細胞を生成せしめるのに十分な時間処置し、
c)該細胞を該患者に導入する、
ことを含む方法。
【請求項3】
該阻害誘発組成物がTGF−βを含む、請求項1または2の方法。
【請求項4】
該阻害誘発組成物がIL−2とTGF−βの混合物を含む、請求項1または2の方法。
【請求項5】
該ドナー細胞をT細胞アクチベーターで処理することをさらに含む、請求項1または2の方法。
【請求項6】
該T細胞アクチベーターがレシピエント細胞である、請求項5の方法。
【請求項7】
該組成物方法が、該細胞をドナー幹細胞に、該患者への導入前に加えることをさらに含む、請求項2の方法。
【請求項8】
該PBMCがCD8+細胞に富む、請求項1または2の方法。
【請求項9】
該PBMCがCD4+細胞に富む、請求項1または2の方法。
【請求項10】
ドナー細胞を処置するためのキットであって、
a)ドナーから細胞を受容するのに適した細胞処置容器、
b)少なくとも1用量のT細胞アクチベーター、
を含むキット。
【請求項11】
該T細胞アクチベーターがブドウ球菌性エンテロトキシンBである、請求項10のキット。
【請求項12】
処置方法の説明書をさらに含む、請求項10のキット。
【請求項13】
該用量が該細胞処置容器中に含有されている、請求項10のキット。
【請求項14】
該用量が凍結乾燥形態にある、請求項10のキット。
【請求項15】
該細胞処置容器が少なくとも1つの試薬をさらに含有する、請求項10のキット。
【請求項16】
該細胞処置容器が、該細胞の分画を分析のために取り出し得るサンプル口をさらに含む、請求項10のキット。
【請求項17】
該細胞処置容器が、該細胞の少なくとも部分を該患者に移転し得るのに適した出口をさらに含む、請求項10のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14A】
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【図14B】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2007−175062(P2007−175062A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−66901(P2007−66901)
【出願日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【分割の表示】特願2001−520844(P2001−520844)の分割
【原出願日】平成12年9月1日(2000.9.1)
【出願人】(500185748)ユニバーシティ・オブ・サザン・カリフォルニア (3)
【Fターム(参考)】