説明

移植片を標的部位へ固定するためのデバイス

【課題】
ヒトを含む動物の傷病の治療に用いる移植片の標的部位への固定を含む移植作業を容易、迅速かつ確実に、行うことができる移植用器具を提供する。
【解決手段】
移植片を支持するための支持部および支持部を標的部位に機械的に固定し、移植片を把持するための、少なくとも1つの固定構造を含む、移植片を標的部位に固定するためのデバイスを利用することにより、移植片を容易、迅速かつ確実に標的部位へ固定できる

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移植片、特にヒトを含む動物の傷病の治療に用いる移植片の標的部位への固定を、簡便・確実に行うことができるデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の心臓病に対する治療の革新的進歩にかかわらず、重症心不全に対する治療体系は未だ確立されていない。心不全の治療法としては、βブロッカーやACE阻害剤による内科治療が行われるが、これらの治療が奏功しないほど重症化した心不全には、補助人工心臓や心臓移植などの置換型治療、つまり外科治療が行われる。
【0003】
このような外科治療の対象となる重症心不全には、進行した弁膜症や高度の心筋虚血に起因するもの、急性心筋梗塞やその合併症、急性心筋炎、虚血性心筋症(ICM)、拡張型心筋症(DCM)などによる慢性心不全やその急性憎悪など、多種多様の原因がある。
これらの原因と重症度に応じて弁形成術や置換術、冠動脈バイパス術、左室形成術、機械的補助循環などが適用される。
【0004】
この中で、ICMやDCMによる高度の左室機能低下から心不全を来たしたものについては、心臓移植や人工心臓による置換型治療のみが有効な治療法とされてきた。しかしながら、これら重症心不全患者に対する置換型治療は、慢性的なドナー不足、継続的な免疫抑制の必要性、合併症の発症など解決すべき問題が多く、すべての重症心不全に対する普遍的な治療法とは言い難い。
【0005】
その一方、最近、重症心不全治療の解決策として新しい再生医療の展開が不可欠と考えられている。
重症心筋梗塞等においては、心筋細胞が機能不全に陥り、さらに線維芽細胞の増殖、間質の線維化が進行し心不全を呈するようになる。心不全の進行に伴い、心筋細胞は傷害されてアポトーシスに陥るが、心筋細胞は殆ど細胞分裂をおこさないため、心筋細胞数は減少し心機能の低下もさらに進む。
このような重症心不全患者に対する心機能回復には細胞移植法が有用とされ、既に自己骨格筋芽細胞による臨床応用が開始されている。
【0006】
近年、これらの問題に対し、組織工学を応用した温度応答性培養皿を用いることによって、成体の心筋以外の部分に由来する細胞を含む心臓に適用可能な三次元に構成された細胞培養物と、その製造方法が提供された(特許文献1〜3)。
また、細胞培養物の強度を補うため、親水性PVDF膜、ニトロセルロース膜を用いた支持体やヒトフィブリノゲン等を足場とした支持体が知られ、さらに細胞培養物を対象とした移動治具や運搬投与器具が提供されており、前述の温度応答性培養皿に対応した細胞培養物のための支持体(Cell ShifterTM、セルシード製)が市販されている。
【0007】
一方、移植片を標的部位に固定する方法としては、縫合糸、ボルトおよびステープルによる固定が行われている。しかし、このような方法で移植片を固定するためには、移植片を予め標的部位に設置してから、縫合作業やステープラー操作などを行う必要があるため、移植作業に手間と時間を要する。したがって、かかる移植作業を心臓等の動きのある標的部位に対して行う場合、動きのある標的部位に移植片を適切に貼付し、標的部位と共に動く移植片を縫合や、ステープルにより固定していくのは熟練した術者でも困難な作業であり、移植片全体の固定が終了する前に、移植片が標的部位からズレたり、移植片が破損したりしてしまうおそれがある。また、移植片が細胞培養物である場合、良好な生着のためには、その形状を保った状態で移植部位に固定し続ける必要があるが、心臓等の動きのある部位に適用する場合、固定が不十分だと、細胞培養物が貼付された位置からズレたり、剥れたり、皺が生じたりするおそれがある。しかしながら、かかる問題点を解決する手段はこれまで存在しなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−528755号公報
【特許文献2】特開2010−81829号公報
【特許文献3】特開2010−226991号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、ヒトを含む動物の傷病の治療に用いる移植片の標的部位への固定を含む移植作業において、上記のような不利点を有しない、簡便な操作性を有する移植デバイスの提供を課題とし、簡易な構成で、容易、迅速かつ確実に、移植片を標的部位に固定することができる移植デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねる中で、移植片を支持するための支持部および支持部を標的部位に機械的に固定し、移植片を把持するための、少なくとも1つの固定構造を含む、移植片を標的部位に固定するためのデバイスを利用することにより、移植片を容易、迅速かつ確実に標的部位、特に、心臓などの動きのある標的部位に固定できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち本発明は、以下に関する。
(1)移植片を標的部位に固定するためのデバイスであって、
(i)移植片を支持するための支持部
(ii)支持部を標的部位に機械的に固定し、移植片を担持するための、少なくとも1つの固定構造
を含む、前記デバイス。
(2)移植片が、シート状細胞培養物である、上記(1)に記載のデバイス。
(3)支持部が、標的部位の動きに合わせて変形可能な平面を構成する、上記(1)または(2)に記載のデバイス。
(4)標的部位が、心臓である、上記(1)〜(3)のいずれかに記載のデバイス。
【0012】
(5)支持部が、ビーズの連結構造を有する、上記(1)〜(4)のいずれかに記載のデバイス。
(6)支持部が、メッシュ構造を有する、上記(1)〜(5)のいずれかに記載のデバイス。
(7)移植構造体であって、
(i)上記(1)〜(6)のいずれかに記載のデバイス、
(ii)前記デバイスに載置された移植片、
を含む、前記移植構造体。
(8)移植構造体の製造方法であって、
(i)上記(1)〜(6)のいずれかに記載のデバイスを培養容器内に設置する工程、
(ii)培養容器内に設置されたデバイス上に細胞を播種、培養し、移植片を形成する工程、
(iii)移植片をデバイスと共に培養容器から取り出す工程、を含む、前記製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明のデバイスは、移植片を支持するための支持部および支持部を標的部位に機械的に固定し、移植片を把持するための、少なくとも1つの固定構造を含むことにより、シート状細胞培養物などの移植片の移植作業を、心臓などの動きのある標的部位に対しても簡便・確実に行うことができる。特に、本発明のデバイスにより、標的部位の動きに追随した移植片の固定が可能となるため、移植作業後に移植片が移植位置からズレたり、剥れたり、変形することを防止でき、移植片の標的部位への良好な生着を促すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、本発明のデバイスの一態様を示した図である。
【図2】図2は、本発明のデバイスの使用方法を示した図である。
【図3】図3は、本発明のデバイスの別の態様を示した図である。
【図4】図4は、本発明のデバイスの別の態様を示した図である。
【図5】図5は、本発明のデバイスの別の態様を示した図である。
【図6】図6は、本発明のデバイスの別の態様を示した図である。
【図7】図7は、本発明のデバイスの別の態様を示した図である。
【図8】図8は、フレーム構造を有する支持部を含む、本発明のデバイスの一態様を示した図である。
【図9】図9は、本発明のデバイスの別の態様を示した図である。
【図10】図10は、本発明の固定構造の一態様を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、移植片を標的部位に固定するためのデバイスであって、
(i)移植片を支持するための支持部
(ii)支持部を標的部位に機械的に固定し、移植片を担持するための、少なくとも1つの固定構造
を含む、前記デバイスに関する。
【0016】
本発明の移植用デバイスは、支持部および固定構造を含み、支持部は移植片を支持するものであり、固定構造は支持部を標的部位に機械的に固定し、移植片を把持するためのものである。支持部は、シート状細胞培養物などの平面状の移植片を支持することができるように、好ましくは平面形状を有している。固定構造は、支持部を標的部位に機械的に固定することにより、支持部を介して平面状の移植片全体を標的部位に固定する。固定構造は標的部位において血管には刺入されない。すなわち、固定構造は標的部位において血管が存在しない部位に固定される。
【0017】
図1に示す態様において、本発明のデバイス1は、支持部2および支持部2に備えられた固定構造3によって構成され、支持部には移植片4が支持されている。支持部は、円形で平面状の移植片をその形状を保った状態で支持することができるように、円形の平面を有している。支持部の縁部には針状の固定構造が備えられており、図2に示されるように、支持部2を移植片4と共に心臓(標的部位)に貼付して、固定構造3により支持部2を標的部位に固定することにより、移植片4をその形状を保った状態で、標的部位に移送、貼付、固定することができる。ここで、固定構造3は、かえしのついた針状構造体であり、心臓に刺入しても出血を伴わないものである。また、かえしが付いているため、刺入は容易だが、一度刺入されると外れる可能性が低い。
【0018】
上記態様では、移植片を支持部に載置して、支持部を移植片と共に標的部位に貼付し、支持部を固定構造で標的部位に固定する態様を示したが、本発明のデバイスを、標的部位にすでに貼付されている移植片の上に適用して、これを固定してもよい。この場合は、移植片を支持部に載置して、支持部を移植片と共に標的部位に貼付する作業は必要ない。また、上記態様では、支持部の表面積が移植片の表面積より大きく、支持部は移植片全体を支持しているが、移植片の表面積より小さな表面積を有する支持部に固定構造を設置し、この支持部で移植片を部分的に固定してもよいし、または、複数の部分に分れた支持部を利用して移植片を複数箇所で固定することにより、移植片の全体を固定してもよい。そして、支持部および/または固定構造は、取り外されるか、または体内で分解されることが望ましいため、本発明の一態様において、支持部および/または固定構造は、ヒトを含む動物の体への影響が少ない生体適合性の素材、例えば、体内で分解される生分解性の素材で作られている。こうすることにより、移植片が標的部位に定着した後に、支持部および/または固定構造を標的部位から人為的に取外す必要がなく、レシピエントの負担を軽減することができる。
【0019】
本発明における移植片は、典型的には培養した細胞および/またはその産生物(例えば細胞培養物など)で構成されるが、生体の所定部(例えば標的部位等)を補填および/または支持するための各種の材料(補填材料や支持材料)なども含む。移植片は、典型的には移植操作が可能な動物、例えば、ヒトや家畜等の傷病の治療等に用いられるものであるが、これに限定されるものではない。移植片の形状は特に限定されず、支持部に装着可能な形状であればシート状、膜状、塊状、柱状等の種々の形状であってよいが、標的部位への固定のしやすさなどの観点からシート状であることが好ましい。したがって、本発明における好ましい移植片としては、限定されずに、シート状細胞培養物が挙げられる。
【0020】
本発明において、シート状の細胞培養物は、細胞が互いに連結してシート状(膜状)になったものをいい、典型的には1の細胞層からなるものであるが、2以上の細胞層から構成されるものも含む。細胞同士は、直接および/または介在物質を介して、互いに連結していてもよい。介在物質としては、細胞同士を少なくとも物理的(機械的)に連結し得る物質であれば特に限定されないが、例えば、細胞外マトリックスなどが挙げられる。介在物質は、好ましくは細胞由来のもの、特に、細胞培養物を構成する細胞に由来するものである。細胞は少なくとも物理的(機械的)に連結されるが、さらに機能的、例えば、化学的、電気的に連結されてもよい。
【0021】
シート状細胞培養物は、上記の構造を形成し得る任意の細胞から構成される。かかる細胞の例としては、限定されずに、筋芽細胞(例えば、骨格筋芽細胞)、心筋細胞、線維芽細胞、滑膜細胞、上皮細胞(例えば、角膜上皮細胞、口腔粘膜上皮細胞)、内皮細胞、肝細胞、膵細胞、歯根膜細胞などが挙げられる。これらのうち、本発明においては、単層の細胞培養物を形成するもの、例えば、筋芽細胞などが好ましい。細胞は、細胞培養物による治療が可能な任意の生物に由来し得る。かかる生物には、限定されずに、例えば、ヒト、非ヒト霊長類、イヌ、ネコ、ブタ、ウマ、ヤギ、ヒツジなどが含まれる。また、シート状細胞培養物の形成に用いる細胞は1種類のみであってもよいが、2種類以上の細胞を用いることもできる。本発明の好ましい態様において、細胞培養物を形成する細胞が2種類以上ある場合、最も多い細胞の比率(純度)は、細胞培養物製造終了時において、65%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上である。
【0022】
本発明において、「生体適合性」とは、バイオコンパチビリティを有する、すなわち生体組織や細胞に対して炎症反応、免疫反応、中毒反応などの望まない作用を起こさないか、少なくともかかる作用が小さいことを意味する。したがって、生体適合性の素材とは、限定されずに、例えば、生体不活性な素材や生体毒性を有しない素材を含む。生体適合性素材には、生分解性素材が含まれる。ここで、「生分解性」とは、生体の作用により分解され得る性質を意味する。生体の作用としては、限定されずに、例えば、生体内に存在する化学物質、例えば酵素などの作用や、pHや温度などの生体内環境による作用が挙げられる。生分解性素材としては、限定されずに、例えば、ポリグリコール酸、ポリジオキサノン、ポリ乳酸、ラクチド/カプロラクトン共重合体、グリコール酸/乳酸共重合体等の医療用生体材料が挙げられる。
本発明の支持部および/または固定構造に生分解性の素材を用いた場合は、移植作業の際に移植片を支持部から離脱させることなく、支持部と移植片を共に移植部位に貼付し、固定することが可能となるため、移植操作に必要な複数の工程や器具を用いることなく、簡便に移植片を移植することができる。そして、移植部位に固定された支持部および/または固定構造は、移植片が標的部位に定着するまで移植片を固定し続け、移植片が定着した後に体内で分解されるため、移植片が標的部位に定着した後に、支持部および/または固定構造を標的部位から人為的に取外す必要がなく、レシピエントの負担を軽減することができる。
【0023】
本発明において、支持部は、移植片を少なくとも支持、移送、貼付、固定できるだけの強度を有することが望ましい。また、支持部の構造は、支持部を心臓などの動きのある標的部位へ固定することができるように、標的部位の動きに合わせて変形可能な構造であることが望ましい。支持部の外形形状は上記機能を果すことができれば特に限定されず、例えば、円形、三角形、四角形、五角形等の多角形、楕円形等として作製されてもよい。支持部は、好ましくは平面を構成する。平面を構成することにより、平面状の移植片を載置しやすく、また移植片との接触面積も拡がるため、移植片をその形状を保ったまま、支持、移送、貼付、固定することが容易となる。さらにまた、複数の部分に分れた支持部を並べて、その上に移植片を載置しても、移植片の形状を保った状態で移植作業を行うことができるので、本発明における平面を構成する支持部には、上記支持部が複数の部分に分れ、平面的に並べられたものも含まれる(図6参照)。
【0024】
平面状の移植片を支持することが可能な、メッシュ構造を有する支持部(図3参照)や、移植片の少なくとも一部を支持することができる、フレーム構造を有する支持部(図8参照)も、本発明の支持部に含まれる。また、支持部が、動きのある心臓などの標的部位に合わせて変形可能な構造を有する場合も、本発明の支持部に含まれる。変形可能な構造としては、これに限定するものではないが、例えば、図3に示されるような、網目状のメッシュ構造や、図4に示されるような、生体適合性のポリマー等で作られたビーズに伸縮可能な生体適合性の糸を通して連結させた構造、伸縮可能な糸でビーズを連結し、ビーズ間距離が可変となる構造、またはこれらの組み合わせが挙げられる。図5は、上記メッシュ構造およびビーズの連結構造を組み合わせた構造を有する支持部を示し、ビーズの連結構造は、メッシュ構造を補強する補強部の役目を果たしている。
【0025】
支持部の表面の形状としては、これに限定するものではないが、略平面状、曲面状、凹凸面状などが含まれる。例えば、移植片が支持部に適切に把持されるように、凹凸、湾曲、溝、突起などの把持力増大構造を設けることもできる。また、移植片が均一に展開された状態で支持部に装着され、全体が支持部に支持された状態で標的部位に固定できるように、支持部の面積を移植片の表面積と同等か、それより広く、例えば、1.1倍以上、1.25倍以上、1.5倍以上、2倍以上などとなるように作製してもよい。
【0026】
固定構造は、支持部を標的部位に少なくとも固定できるだけの強度を有する。固定構造の形状としては、支持部を標的部位に機械的に固定できるものであれば、特に限定されないが、針、フック、ステープル、ネジ、ボルト、ロッド、ピン、吸盤またはこれらに類する形状からなる群から選択することができる。これらのうち、標的部位に対する悪影響が少ないもの、限定されずに、例えば、標的部位を傷害しにくいか、標的部位に与える傷害が軽度のもの(例えば、マイクロニードル、吸盤など)が好ましい。また、標的部位に設置後、そこから外れにくいもの(例えば、かえし構造を有するものなど)も好ましい。固定構造の寸法および形状の組合せは自由に選択可能であり、用途に合わせて寸法および形状を適宜選択して作製することで、その強度や、標的部位への固定力が異なる様々な種類の固定構造を作製することができる。固定構造は支持部と一体成形してもよいし、支持部と固定構造とを取り外し可能に構成することもできる。固定構造は、支持部のいずれの部分に設置してもよいが、支持部の移植片が載置されない部分に設置すると、移植片を傷つけることなく支持部に載置することができる。また、支持部を標的部位に強固に固定する場合や、面積の大きな支持部を標的部位に固定する場合は、固定構造を、移植片載置部分を含む支持部全体に設けることが好ましい。この場合は、移植片が、固定構造に貫通される形で支持部に載置されるが、移植片が細胞培養物の場合には、例えば後述のように細胞培養物を固定構造を含む支持部上で培養して形成することなどにより、移植片を損傷することなく、移植片を支持部に設置することができる。さらにまた、固定構造の支持部への設置は、標的部位の形状や大きさ、組織の種類、移植片の形状に合わせて選択されてもよい。例えば、支持部にピンなどの固定構造を刺入して設置する場合に、移植片の形や、標的部位の大きさに合わせて、ピンの設置位置を変えたり、また、支持部を心臓等の動きのある標的部位に固定する場合は、動きの大きな部分に固定される支持部の箇所には、強度および/または固定力の高い固定構造を設置し、動きの小さな部分には、標的部位の組織を損傷しにくい、小さな固定構造を設置したりしてもよい。
【0027】
また、図1の態様では、支持部の面積が移植片の面積とほぼ同等かそれより大きく、支持部は移植片全体を支持している態様が示されたが、これに限られず、移植片の面積より小さな面積を有する支持部に固定構造を設置し、この支持部を移植片の上から標的部位に固定することにより、移植片を部分的に支持してもよいし、前記支持部が複数の部分に分れたものを用意して、移植片の上からその複数箇所を固定することにより、移植片の凝集力を介して移植片の全体を支持してもよい。図6には、移植片を複数の部分に分れた支持部および固定構造で固定する、本発明の移植用デバイスの態様を示す。本態様では、固定構造が備えられた支持部の面積は移植片の面積より小さく、また支持部は複数の部分に分れている。そして、この複数の支持部の部分を移植片の異なる場所に別々に配置することにより、全体として平面状の支持部構造を実現する。これら複数の支持部の部分は、図6のように独立して存在しても、また、図7のように互いに連結されていてもよい。そして、この複数の支持部の部分を連結するものもまた、生体適合性のものが好ましく、その形状は糸状、帯状など、支持部を繋ぐことができれば、どのようなものでもよい。図8は、複数の支持部の部分が帯状の構造で互いに連結された、本発明のデバイスの一態様を示しているが、この場合は、複数の支持部の部分およびこれらを連結する帯状のものを合わせた全体が、支持部となる。
【0028】
本発明の別の側面は、本発明の移植用デバイスと、それに設置された移植片を含む移植構造体およびその製造方法に関する。
移植片の移植用デバイスへの設置は、細胞培養容器で培養された移植片を容器から取り出し、デバイスに設置してもよいし、移植片を移植用デバイス上で培養して、移植片が移植用デバイスに接着された移植構造体として製造してもよい。本発明の移植構造体は、支持部と固定構造を有するため、標的部位に容易に移送、貼付、固定することができ、動きのある臓器であっても良好に生着することができる。
【0029】
本発明の移植構造体の製造方法は、
(i)本発明のデバイスを培養容器内に設置する工程、
(ii)培養容器に設置されたデバイス上に細胞を播種、培養し、移植片を形成する工程、
(iii)移植片をデバイスと共に培養容器から取り出す工程、
を含んでもよい。
【0030】
本発明において、培養容器は、内部に本発明のデバイスを、その上に細胞が付着し、細胞培養物を形成できるように設置できるものであれば特に限定されず、市販の細胞培養容器を含む任意のものを用いることができる。培養の際には、一般に培養液などの液体を用いることから、液体を透過させない構造・材料が好ましい。かかる材料としては、限定することなく、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、テフロン(登録商標)、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、ナイロン6,6、ポリビニルアルコール、セルロース、シリコン、ポリスチレン、ガラス、ポリアクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミド、金属(例えば、鉄、ステンレス、アルミニウム、銅、真鍮)等が挙げられる。また、容器は、細胞がデバイス上に良好に定着するために、少なくとも1つの平坦な面を有することが好ましい。かかる容器の例としては、限定することなく、例えば、細胞培養皿、細胞培養ボトルなどが挙げられる。また、容器は、その内部に固形もしくは半固形の表面を有してもよい。固形の表面としては、上記のごとき種々の材料のプレートや容器などが、半固形の表面としては、ゲル、軟質のポリマーマトリクスなどが挙げられる。
【0031】
本発明の製造方法において、デバイスの支持部の培養可能面積は所望の移植片の底面積より大きくても、同一であっても、小さくてもよい。デバイスの支持部の培養可能面積が移植片の底面積より小さい場合、細胞培養物の培養容器からの遊離を容易にするために、培養容器の培養面の少なくともデバイスの培養面に被覆されない部分を、刺激応答性材料で作製または被覆してもよい。
【0032】
ここで、「刺激応答性材料」は、刺激、例えば、温度、光、pHなどに応答して物性が変化する材料を指す。かかる材料としては、限定されずに、例えば、(メタ)アクリルアミド化合物、N−アルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体(例えば、N−エチルアクリルアミド、N−n−プロピルアクリルアミド、N−n−プロピルメタクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−イソプロピルメタクリルアミド、N−シクロプロピルアクリルアミド、N−シクロプロピルメタクリルアミド、N−エトキシエチルアクリルアミド、N−エトキシエチルメタクリルアミド、N−テトラヒドロフルフリルアクリルアミド、N−テトラヒドロフルフリルメタクリルアミド等)、N,N−ジアルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体(例えば、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−エチルメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド等)、環状基を有する(メタ)アクリルアミド誘導体(例えば、1−(1−オキソ−2−プロペニル)−ピロリジン、1−(1−オキソ−2−プロペニル)−ピペリジン、4−(1−オキソ−2−プロペニル)−モルホリン、1−(1−オキソ−2−メチル−2−プロペニル)−ピロリジン、1−(1−オキソ−2−メチル−2−プロペニル)−ピペリジン、4−(1−オキソ−2−メチル−2−プロペニル)−モルホリン等)、またはビニルエーテル誘導体(例えば、メチルビニルエーテル)のホモポリマーまたはコポリマーからなる温度応答性材料、アゾベンゼン基を有する光吸収性高分子、トリフェニルメタンロイコハイドロオキシドのビニル誘導体とアクリルアミド系単量体との共重合体、および、スピロベンゾピランを含むN−イソプロピルアクリルアミドゲル等の光応答性材料などの公知のものを用いることができる(例えば、特開平2−211865、特開2003−33177参照)。これらの材料に所定の刺激を与えることによりその物性、例えば、親水性や疎水性を変化させ、同材料上に付着した細胞培養物の剥離を促進することができる。
【0033】
本発明において、移植片が細胞培養物である場合、細胞の播種および培養は、用いる細胞が細胞培養物を形成するのに適した任意の条件で行うことができ、かかる条件としては当該技術分野で周知のものや、これに適切な改変を加えたものを採用することができる。
本発明の好ましい態様において、細胞は、実質的に増殖することなくシート状細胞培養物を形成し得る密度で播種する。「実質的に増殖することなくシート状細胞培養物を形成し得る密度」とは、成長因子を含まない非増殖系の培養液で培養した場合に、シート状細胞培養物を形成することができる細胞密度を意味する。例えば、骨格筋芽細胞の場合、成長因子を含む培養液を用いる従来法では、シート状細胞培養物を形成するために、約6,500個/cmの密度の細胞をプレートに播種していたが(例えば、特許文献1参照)、かかる密度の細胞を、成長因子を含まない培養液で培養してもシート状の細胞培養物を形成することはできない。したがって、本態様における細胞密度は、成長因子を含む培養液を用いる従来法におけるものよりも高いものである。具体的には、例えば、骨格筋芽細胞については、かかる密度は典型的には300,000個/cm以上である。細胞密度の上限は、細胞培養物の形成が損なわれず、細胞が分化に移行しなければ特に制限されないが、骨格筋芽細胞については、例えば、1,000,000個/cmである。当業者であれば、本発明に適した細胞密度を、実験により適宜決定することができる。培養期間中、細胞は増殖してもしなくてもよいが、増殖するとしても、細胞の性状が変化する程には増殖しない。例えば、骨格筋芽細胞はコンフルエントになると分化を開始するが、本発明においては、骨格筋芽細胞は、細胞培養物は形成するが、分化に移行しない密度で播種される。本発明の好ましい態様において、細胞は計測誤差の範囲を超えて増殖しない。細胞が増殖したか否かは、例えば、播種時の細胞数と、細胞培養物形成後の細胞数とを比較することにより評価することができる。本態様において、細胞培養物形成後の細胞数は、典型的には播種時の細胞数の300%以下、好ましくは200%以下、より好ましくは150%以下、さらに好ましくは125%以下、特に好ましくは100%以下である。
【0034】
培養に用いる細胞培養液(単に「培養液」もしくは「培地」と呼ぶ場合もある)は、細胞の生存を維持できるものであれば特に限定されないが、典型的には、アミノ酸、ビタミン類、電解質を主成分としたものが利用できる。本発明の一態様において、培養液は、細胞培養用の基礎培地をベースにしたものである。かかる基礎培地には、限定されずに、例えば、DMEM、MEM、F12、DME、RPMI1640、MCDB(MCDB102、104、107、131、153、199など)、L15、SkBM、RITC80−7などが含まれる。これらの基礎培地の多くは市販されており、その組成も公知となっている。
基礎培地は、標準的な組成のまま(例えば、市販されたままの状態で)用いてもよいし、細胞種や細胞条件に応じてその組成を適宜変更してもよい。したがって、本発明に用いる基礎培地は、公知の組成のものに限定されず、1または2以上の成分が追加、除去、増量もしくは減量されたものを含む。
【0035】
基礎培地に含まれるアミノ酸としては、限定されずに、例えば、L−アルギニン、L−シスチン、L−グルタミン、グリシン、L−ヒスチジン、L−イソロイシン、L−ロイシン、L−リジン、L−メチオニン、L−フェニルアラニン、L−セリン、L−トレオニン、L−トリプトファン、L−チロシン、L−バリンなどが、ビタミン類としては、限定されずに、例えば、D−パントテン酸カルシウム、塩化コリン、葉酸、i−イノシトール、ナイアシンアミド、リボフラビン、チアミン、ピリドキシン、ビオチン、リポ酸、ビタミンB12、アデニン、チミジンなどが、そして、電解質としては、限定されずに、例えば、CaCl、KCl、MgSO、NaCl、NaHPO、NaHCO、Fe(NO、FeSO、CuSO、MnSO、NaSiO、(NH)6Mo24、NaVO、NiCl、ZnSOなどがそれぞれ含まれる。基礎培地には、これらの成分のほか、D−グルコースなどの糖類、ピルビン酸ナトリウム、フェノールレッドなどのpH指示薬、プトレシンなどを含んでもよい。
【0036】
本発明の一態様において、基礎培地に含まれるアミノ酸の濃度は、L−アルギニン:63.2〜84mg/L、L−シスチン:35〜63mg/L、L−グルタミン:4.4〜584mg/L、グリシン:2.3〜30mg/L、L−ヒスチジン:42mg/L、L−イソロイシン:66〜105mg/L、L−ロイシン:105〜131mg/L、L−リジン:146〜182mg/L、L−メチオニン:15〜30mg/L、L−フェニルアラニン:33〜66mg/L、L−セリン:32〜42mg/L、L−トレオニン:12〜95mg/L、L−トリプトファン:4.1〜16mg/L、L−チロシン:18.1〜104mg/L、L−バリン:94〜117mg/Lである。
また、本発明の一態様において、基礎培地に含まれるビタミン剤の濃度は、D−パントテン酸カルシウム:4〜12mg/L、塩化コリン:4〜14mg/L、葉酸:0.6〜4mg/L、i−イノシトール:7.2mg/L、ナイアシンアミド:4〜6.1mg/L、リボフラビン:0.0038〜0.4mg/L、チアミン:3.4〜4mg/L、ピリドキシン:2.1〜4mg/Lである。
【0037】
細胞培養液は、上記のほか、血清、成長因子、ステロイド剤成分、セレン成分などの1種または2種以上の添加物を含んでもよい。しかし、これらの成分は臨床においてはレシピエントに対するアナフィラキシーショック等の副作用要因となり得ることが否定できない製造工程由来不純物であり、臨床への適用にあたっては排除すべき成分である。したがって、本発明の好ましい態様において、細胞培養液は、これらの添加物の少なくとも1種の有効量を含まない。また、本発明のより好ましい態様において、細胞培養液は、これらの添加物の少なくとも1種を実質的に含まない。さらに、本発明の特に好ましい態様において、細胞培養液は、添加物を実質的に含まない。したがって、細胞培養液は、基礎培地のみを含んでもよい。
【0038】
本発明の好ましい一態様において、細胞培養液は血清成分を実質的に含まない。血清成分を実質的に含まない細胞培養液のことを、本明細書中で「無血清培地」と呼ぶこともある。血清成分としては、異種血清成分および同種血清成分が挙げられる、ここで「異種血清成分」は、細胞培養物を移植に用いる場合、そのレシピエントとは異なる種の生物に由来する血清成分を意味する。例えば、レシピエントがヒトである場合、ウシやウマに由来する血清、例えば、ウシ胎仔血清(FBS、FCS)、仔ウシ血清(CS)、ウマ血清(HS)などが異種血清成分に該当する。また、「同種血清成分」は、レシピエントと同一の種の生物に由来する血清成分を意味する。例えば、レシピエントがヒトである場合、ヒト血清が同種血清成分に該当する。同種血清成分は、自己血清成分、すなわち、レシピエントに由来する血清成分を含む。したがって、「血清成分を実質的に含まない」とは、培養液におけるこれらの血清の含量が、細胞培養物を生体に適用した場合に悪影響を及ぼさない程度(例えば、細胞培養物中の血清アルブミン含量が50ng未満となる量)であること、好ましくは、培養液にこれらの物質を積極的に添加しないことを意味する。なお、本明細書中で、自己血清以外の血清、すなわち、異種血清と同種他家血清を他家血清または非自己血清と総称することもある。
【0039】
本発明の一態様において、細胞培養液は有効量の成長因子を含まない。ここで、「成長因子」は、細胞の増殖を、それがない場合に比べて促進する任意の物質を意味し、例えば、上皮細胞成長因子(EGF)、血管内皮成長因子(VEGF)、線維芽細胞成長因子(FGF)などを含む。また、「有効量の成長因子」とは、細胞の増殖を、成長因子がない場合に比べて、有意に促進する成長因子の量、または、便宜的に、当該技術分野において細胞の増殖を目的として通常添加する量を意味する。細胞増殖促進の有意性は、例えば、当該技術分野で知られた任意の統計学的手法、例えば、t検定などにより適宜評価することができ、また、通常の添加量は当該技術分野の種々の公知文献から知ることができる。具体的には、骨格筋芽細胞の培養におけるEGFの有効量は、例えば0.005μg/mL以上である。
【0040】
したがって、「有効量の成長因子を含まない」とは、本発明における培養液における成長因子の濃度がかかる有効量未満であることを意味する。例えば、骨格筋芽細胞の培養におけるEGFの培養液中の濃度は、好ましくは0.005μg/mL未満、より好ましくは0.001μg/mL未満である。本発明の好ましい態様においては、培養液における成長因子の濃度は、生体における通常の濃度未満である。かかる態様においては、例えば、骨格筋芽細胞の培養におけるEGFの培養液中の濃度は、好ましくは5.5ng/mL未満、より好ましくは1.3ng/mL未満、さらに好ましくは、0.5ng/mL未満である。さらに好ましい態様において、本発明における培養液は、成長因子を実質的に含まない。ここで、実質的に含まないとは、培養液中の成長因子の含量が、細胞培養物を生体に適用した場合に悪影響を及ぼさない程度であること、好ましくは、培養液に成長因子を積極的に添加しないことを意味する。したがって、この態様においては、培養液は、その中の他の成分、例えば血清などに含まれる以上の濃度の成長因子を含まない。
【0041】
本発明の一態様において、細胞培養液は、ステロイド剤成分を実質的に含まない。ここで「ステロイド剤成分」は、ステロイド核を有する化合物のうち、生体に、副腎皮質機能不全、クッシング症候群などの悪影響を及ぼし得るものをいう。かかる化合物としては、限定されずに、例えば、コルチゾール、プレドニゾロン、トリアムシノロン、デキサメタゾン、ベタメタゾン等が含まれる。したがって、「ステロイド剤成分を実質的に含まない」とは、培養液におけるこれらの化合物の含量が、細胞培養物を生体に適用した場合に悪影響を及ぼさない程度であること、好ましくは、培養液にこれらの化合物を積極的に添加しないこと、すなわち、培養液が、その中の他の成分、例えば血清などに含まれる以上の濃度のステロイド剤成分を含まないことを意味する。
【0042】
本発明の一態様において、細胞培養液は、セレン成分を実質的に含まない。ここで「セレン成分」は、セレン分子、およびセレン含有化合物、特に、生体内でセレン分子を遊離し得るセレン含有化合物、例えば、亜セレン酸などを含む。したがって、「セレン成分を実質的に含まない」とは、培養液におけるこれらの物質の含量が、細胞培養物を生体に適用した場合に悪影響を及ぼさない程度であること、好ましくは、培養液にこれらの物質を積極的に添加しないこと、すなわち、培養液が、その中の他の成分、例えば血清などに含まれる以上の濃度のセレン成分を含まないことを意味する。具体的には、例えば、ヒトの場合、培養液中のセレン濃度は、ヒト血清中の正常値(例えば、10.6〜17.4μg/dL)に、培地中に含まれるヒト血清の割合を乗じた値よりも低い(すなわち、ヒト血清の含量が10%であれば、セレン濃度は、例えば、1.0〜1.7μg/dL未満である)。
【0043】
本発明の上記好ましい態様においては、生体に適用する細胞培養物を作製する場合に従来必要であった、成長因子、ステロイド剤成分、異種血清成分などの製造工程由来不純物を、洗浄などにより除去する工程が不要となる。したがって、本発明の方法の一態様は、この製造工程由来不純物を除去する工程を含まない。
ここで、「製造工程由来不純物」とは、典型的には、製造各工程に由来する以下に列挙するものが含まれる。すなわち、細胞基材に由来するもの(例えば、宿主細胞由来蛋白質、宿主細胞由来DNA)、細胞培養液に由来するもの(例えば、インデューサー、抗生物質、培地成分)、あるいは細胞培養以降の工程である目的物質の抽出、分離、加工、精製工程に由来するものなどである(例えば、医薬審発第571号参照)。
【0044】
細胞の培養は、当該技術分野で通常なされている条件で行うことができる。例えば、典型的な培養条件としては、37℃、5%COでの培養が挙げられる。本発明における所定の培養期間は、細胞培養物の十分な形成、および、細胞分化防止の観点から、好ましくは48時間以内、より好ましくは40時間以内、さらに好ましくは24時間以内である。
【0045】
本方法において、デバイスの支持部の面積が細胞培養物の底面積より小さく、培養容器の基材に刺激応答性材料を用いる場合には、所定の刺激を加えて細胞培養物を培養容器から遊離させる。ここで、所定の刺激とは、刺激応答性材料の物性、例えば、疎水性・親水性などを変化させることができる刺激を意味し、例えば、刺激応答性材料が温度応答性材料であれば、特定の温度変化であり、光応答性材料であれば、特定の波長もしくは強度の光であり、pH応答性材料であれば、特定のpHの変化である。刺激応答性材料の物性変化に必要な具体的な刺激の種類や強度は当業者に既知である。
【実施例】
【0046】
以下に、本発明のデバイスおよび移植構造体を図面を参照してより詳細に説明するが、これは本発明の特定の具体例を示すものであり、本発明はこれに限定されるものではない。
【0047】
実施例1 固定構造を有する補強部の作製
補強部を構成する部材としては、外径2mm、内径0.8mm、長さ4mmのポリ乳酸樹脂製ビーズ(円筒状)およびビーズ連結用の吸収性合成縫合糸(ポリグリコール酸製)を用意した。8個のビーズには、かえしを有する針状の固定構造(図10参照)を、ポリ乳酸を射出成形することにより作製した。固定構造を有するビーズが円周上に配置されるよう、縫合糸をビーズの中空部分に通してビーズを連結し、図9に示すように、円形の平面構造を有する、円周部分と直径(15mm)に沿って円周上の点を結ぶ直線部分とからなる構造物を作製した。針状固定構造は、挿通された糸を軸にビーズが回転しないように、ビーズの側面に糸の挿通方向に沿って2以上の孔を設け、これに糸を並縫い状に挿通させることにより、その先端の向きを一定にすることが可能である。
【0048】
実施例2 移植構造体の形成(1)
細胞培養皿(3.5cmディッシュ)に、実施例1で用いた縫合糸で作製したメッシュを敷き、DMEM/F12培地(Invitrogen製)にヒト血清を20%となるように加え、フィルターユニットにてろ過した培地を入れた。これに、ヒト骨格筋芽細胞(Lonza製)を9.3×106個播種し、37℃、5%COで12〜26時間培養してシート状細胞培養物を形成させた(直径15〜20mm程度、厚さ30〜60μm程度)。こうして得たシート状細胞培養物を、シート状細胞培養物が付着しているメッシュ(支持部)ごと培養容器から取り出し、支持部の細胞培養物が付着していない面と、実施例1で作製した補強部の固定構造が突出している面とを、固定構造が支持部の細胞培養物が付着していない部分を貫通するようにして合わせて固定し、本発明の移植構造体を形成した。
【0049】
実施例3 移植構造体の形成(2)
実施例1で作製した構造物(固定デバイス)の固定構造が突出している面に、実施例1で用いた縫合糸で作製したメッシュ(支持部)を、これに固定構造を貫通させて固定し、固定構造が露出したメッシュ面を上にして細胞培養皿(10cmディッシュ)に配置した。培養皿に実施例2で用いた培地を入れ、ヒト骨格筋芽細胞(Lonza製)を6×10個播種し、37℃、5%COで培養した。24時間後に培養皿から固定デバイスを取り出し、支持部上にシート状細胞培養物が付着した本発明の移植構造体を得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移植片を標的部位に固定するためのデバイスであって、
(i)移植片を支持するための支持部
(ii)支持部を標的部位に機械的に固定し、移植片を担持するための、少なくとも1つの固定構造
を含む、前記デバイス。
【請求項2】
移植片が、シート状細胞培養物である、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
支持部が、標的部位の動きに合わせて変形可能な平面を構成する、請求項1または2に記載のデバイス。
【請求項4】
標的部位が、心臓である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項5】
支持部が、ビーズの連結構造を有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項6】
支持部が、メッシュ構造を有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項7】
移植構造体であって、
(i)請求項1〜6のいずれか一項に記載のデバイス、
(ii)前記デバイスに載置された移植片、
を含む、前記移植構造体。
【請求項8】
移植構造体の製造方法であって、
(i)請求項1〜6のいずれか一項に記載のデバイスを培養容器内に設置する工程、
(ii)培養容器内に設置されたデバイス上に細胞を播種、培養し、移植片を形成する工程、
(iii)移植片をデバイスと共に培養容器から取り出す工程、
を含む、前記製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−147900(P2012−147900A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−8164(P2011−8164)
【出願日】平成23年1月18日(2011.1.18)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】