説明

移植片拒絶反応のバイオマーカー

移植対象において異なって発現される遺伝子に基づいた、移植対象における拒絶反応の診断、拒絶反応のリスクにある移植対象のそのモニタリング、移植対象における拒絶反応の予防、阻害、低下または処置、または拒絶反応の予防、阻害、減少または処置に有用な薬剤の同定のための方法が記載される。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、移植組織または臓器のレシピエントにおける状態をモニタリングする方法に関する。特に、本発明は、同種移植片拒絶反応、より特に急性同種移植片拒絶反応(AR)または慢性同種移植片拒絶反応(CR)を指示するための遺伝子発現分析の使用に関する。ある種の遺伝子の発現(RNAまたはタンパク質レベル)が移植片の拒絶反応の検出ならびに/または組織学的および/もしくは病理学的状態の描写の手段として使用し得る。
【0002】
慢性同種移植片拒絶反応は、長期移植片生存の失敗の主要な原因である。処置可能な急性拒絶反応事象とは対照的に、慢性拒絶反応は、組織学的に検出されたとき今日までいかなる処置によっても可逆的ではなく、いかなる免疫抑制性レジメンでも予防できると証明されておらず、そしてその病因は免疫学的ならびに非免疫学的要因を含む以外、完全に理は理解されていない。全ての固形臓器移植片における慢性拒絶反応で特徴的なことは、血管リモデリングによる同心性同心性動脈内膜肥厚である。慢性拒絶反応を有する腎臓同種移植片は、加えて著しい実質の線維症および糸球体硬化症を示す:臨床的に、慢性拒絶反応(CR)は、タンパク尿および高血圧を伴う腎臓機能の進行的低下により顕在化する。
【0003】
同種移植片拒絶反応、特にCRの同定、予後診断およびフォローアップのための、好ましくは何らかの明白な臨床的または組織学的顕在化の前、または移植片の機能損失前、例えば移植後一年以内の、CRの早期予後診断の信頼できるツールの必要性がある;このような助けは、例えば現在のレジメンの最適化および、新しいCR阻害剤でのものを含む臨床試験の設計に価値があろう。
【0004】
本発明は、同種移植片拒絶反応のバイオマーカー、例えば、移植対象、例えば、腎臓生検サンプルにおいて拒絶反応の発症の前後で、健常組織(拒絶反応が発症していない場所である)と比較して異なって発現される遺伝子の同定に関する。遺伝子の一部の得られる遺伝子発現パターンは、CRを経験している組織および急性拒絶反応(AR)を経験している組織および健常組織の統計学的に非常に有意な区別を可能にする。これらの遺伝子の完全配列は表1から3に示すGenBank受託番号またはRefSeq Identifierを使用して入手可能である。対応するGenBank受託番号またはRefSeq Identifierの下に示す配列は、引用により本明細書に包含する。
【0005】
本発明により同定された遺伝子は、移植対象における拒絶反応の同定および/または予後診断のための有用なバイオマーカーである。本発明は、移植片拒絶反応の指標である遺伝子群(ARまたはCRのいずれか、表1参照)、慢性拒絶反応の指標である遺伝子群(表2参照)および急性拒絶反応の指標である遺伝子(表3参照)を提供する。これらの遺伝子の、少なくとも一個の、任意の選択物が、拒絶反応、例えばCRの診断および/または予後診断のための代用バイオマーカーとして利用できる。特に有用な態様において、これらの遺伝子の複数を選択し、それらのmRNA発現を同時にモニターして、様々な局面において使用するための発現プロファイルを提供する。
【0006】
該バイオマーカー遺伝子は製造組織で低レベルで発現され、拒絶反応中発現される。CRをARと区別するために、好ましくは2個またはそれ以上の遺伝子を使用する。該バイオマーカーは移植片の状態の指標および病理学的変化の発症の指標である。それらは、臨床的検出の観点で血清クレアチニンおよびウレアの上昇(低下した糸球体濾過率)として解釈される機能の著しい損失に至る前に、より感受性の検出手段として使用できる。
【0007】
表1から3に同定した遺伝子は、それらが体液(例えば血清、血漿または尿)中で検出できる可能性があるための、バイオマーカーとして特に有用である。故に移植組織からの生検サンプルは必ずしも必要ではない。
【0008】
従って、本発明は、移植片拒絶反応のバイオマーカー、例えばCRのバイオマーカーとしての表1、2または3に列記の遺伝子の使用を提供する。好ましくは表2中の1個またはそれ以上の遺伝子を、CRのバイオマーカーとして使用し、またはインドルアミンデオキシゲナーゼがARのバイオマーカーとして有用である。
【0009】
さらなる態様において、遺伝子発現産物(タンパク質)のレベルを、血漿、血清、リンパ、尿、便および胆汁を含むが、これらに限定されない様々な体液において、または生検組織においてモニターできる。この発現産物レベルを拒絶反応の早期診断の代用マーカーとして使用でき、そして治療応答性の指標を提供できる。
【0010】
従って、本発明はまた表1、2または3に列記の遺伝子の発現産物(例えばそれによりコードされるタンパク質)の、(例えば慢性)移植片拒絶反応のバイオマーカーとしての使用を提供する。
【0011】
本発明の方法はインビトロで行うことができ、例えばバイオマーカーのレベルを、移植対象から抽出したまたは得た組織または液体において分析できる。
【0012】
mRNA発現レベルの検出法は当分野で既知であり、逆転写PCR、実時間定量的PCR、ノーザンブロッティングおよび他のハイブリダイゼーション法を含むが、これらに限定されない。
【0013】
複数の記載の遺伝子から得たmRNA転写物の検出に特に有用な方法は、標識mRNAのオリゴヌクレオチドの秩序配列へのハイブリダイゼーションまたはTaqMan低密度アレイによる全RNAの分析のいずれかを含む。このような方法は、これらの遺伝子の複数の転写レベルを、遺伝子発現プロファイルまたはパターンを産生するために同時に決定することを可能にする。拒絶反応、例えばCRまたはARを発症するリスクの移植対象から得た組織由来の遺伝子発現プロファイルを、正常臓器から得たサンプル由来の遺伝子発現プロファイルと比較できる。
【0014】
さらなる態様において、1個または複数のこれらの遺伝子またはコードするタンパク質の発現プロファイルの測定は、拒絶反応の阻止、例えば予防または処置に関する薬剤の効果の試験用の価値ある分子ツールを提供できる(例えば移植患者が治療を受けている間の発現プロファイルの基線プロファイルからの変化)。
【0015】
従って、本発明はまた、対象が抗拒絶反応治療に応答する可能性を決定するための移植対象のスクリーニング法、(例えばCRの徴候を示す)移植対象の処置に有用な薬剤の同定法および拒絶反応、例えばCRまたはARを処置するためのある種の薬剤の効果をモニタリングする方法を提供する。
【0016】
“異なって発現される”なる用語は、所定の同種移植片遺伝子発現レベルに関し、対応する基線発現レベルの量より著しく多いまたは少ない量として定義される。基線は、ここで、健常組織における発現レベルとして定義する。健常組織は、病理学的所見のない移植臓器を含む。
【0017】
他の局面において、本発明は、所定の組織サンプルにおける異なって発現される遺伝子の検出により、試験移植対象における移植片拒絶反応、例えばCRをモニタリングするための、(例えばインビトロ)法を提供する。例えば、該方法は:
a)基線値として、拒絶反応、例えばCRを発症しないことが既知の対照移植対象の特定の組織サンプルにおける、例えば表1、2または3に同定した通りの、少なくとも1個の遺伝子に対応するmRNA発現またはそれによりコードされるタンパク質のレベルを取り;
b)試験移植後患者から得たa)と同じ組織タイプの組織サンプルにおいて、a)で同定した少なくとも1個の遺伝子に対応するmRNA発現またはそれによりコードされるタンパク質のレベルを検出し;そして
c)第一値と第二値を比較する(ここで、第二値より低いまたは高い第一値が試験移植対象が拒絶反応、例えばCRを発症するリスクにあるとの予測である)
ことを含み得る。
【0018】
他の態様によって、該(例えばインビトロ)法は
a)例えば表1、2または3に同定した通りの、少なくとも1個の遺伝子に対応するmRNA発現またはそれによりコードされるタンパク質のレベルを、ドナー、好ましくは生存ドナーから得た組織サンプルにおいて移植の日に検出し、
b)移植後患者から得た組織サンプルにおいて、a)で同定した少なくとも1個の遺伝子に対応するmRNA発現またはそれによりコードされるタンパク質のレベルを検出し、
c)第一値と第二値を比較する(ここで、第二値より低いまたは高い第一値が移植対象が拒絶反応を発症するリスクにあるとの予測である)
ことを含み得る。
【0019】
上記工程b)において、mRNAまたはコードされるタンパク質のレベルは、好ましくは移植後4から7ヶ月以内、より好ましくは移植後6ヶ月前後に検出する。
【0020】
本発明による拒絶反応、例えばCRの診断法は、また維持患者、すなわち1年以上前に移植を受けた患者にも適用できる。従って、組織サンプルを取り、少なくとも1個の遺伝子に対応するmRNA発現のレベルを参照対照値のレベルと比較して、CRを発症する可能性がある患者を同定する。
【0021】
他の局面において、本発明は、拒絶反応を発症するリスクの移植対象において、阻害剤(例えば小分子、抗体もしくは他の治療剤または候補薬剤)で拒絶反応、例えばCRを、モニタリング、例えば、予防もしくは阻害または低下もしくは処置をする方法を提供する。薬剤(例えば薬剤化合物)の本発明のマーカーの発現レベルに対する影響のモニタリングは、基礎的薬剤スクリーニングだけでなく、臨床試験においても適用できる。例えば、マーカー発現に影響する薬剤の効果を、拒絶反応の阻害のための処置を受けている移植対象の臨床試験においてモニターできる。
【0022】
このような方法は:
a)移植対象から、該阻害剤の投与前に投与前サンプルを得て、
b)投与前サンプルにおける少なくとも1個の遺伝子に対応するmRNA発現またはそれによりコードされるタンパク質のレベルを検出し、
c)移植患者から1個またはそれ以上の投与後サンプルを得て、
d)投与後サンプル(複数もある)における少なくとも1個の遺伝子に対応するmRNA発現またはそれによりコードされるタンパク質のレベルを検出し、
e)投与前サンプルのmRNAの発現または少なくとも1個の遺伝子によりコードされるタンパク質のレベルと、投与後サンプル(複数もある)におけるmRNAの発現または少なくとも1個の遺伝子によりコードされるタンパク質のレベルを比較し、そして
f)薬剤をそれに準じて調整する
ことを含む。
【0023】
例えば、薬剤投与の増加または減少が、少なくとも1個の遺伝子の発現レベルを検出されたより高いまたは低いレベルに変えるために望ましいかもしれない。上記方法において、該薬剤をまた、単独でまたは組み合わせ治療で他の薬剤、好ましくは免疫抑制性剤および/または移植片拒絶反応、例えばARまたはCRに有効な薬剤と組み合わせて投与できる。工程f)は処置用量の変化、レジメンの変化、処置剤の変化、または既に使用している薬剤との組み合わせ治療で1個またはそれ以上のさらなる薬剤の(例えば連続的または同時的)追加を含む。
【0024】
従って、ヒト組織からの遺伝子発現プロファイリングデータの取り込みは、拒絶反応、例えばCRまたはARの進行の処置および予防の両方を目的とした臨床試験中の患者選択工程の改善を助けるであろう。
【0025】
さらに別の局面において、本発明は、上記通りの少なくとも1個の遺伝子のmRNA発現またはそれによりコードされるタンパク質のレベルのモニタリングを含む、移植片拒絶反応、例えばCRまたはARの予防、阻害、低下または処置に使用する薬剤の同定法を提供する。
【0026】
さらなる局面において、本発明は、処置を必要とする対象における移植片拒絶反応、例えばCRまたはARを予防、阻止、低下または処置する方法であって、拒絶反応の少なくとも1個の症状が改善するように、表1、2または3に同定した1個もしくはそれ以上の遺伝子または遺伝子産物の合成、発現または活性を調整する化合物を該対象に投与することを含む、方法を提供する。
【0027】
さらなる局面において、本発明は、例えば対象における移植片拒絶反応の予防または処置のために医薬として使用するための、上記で同定した1個またはそれ以上の遺伝子、またはその発現産物(例えば表1、2または3に同定する遺伝子)の合成、発現または活性を調整する化合物(例えば小分子、抗体または他の治療剤または候補薬剤)を提供する。
【0028】
さらなる局面において、本発明は、例えば対象における移植片拒絶反応、例えばCRの予防または処置のための、上記で同定した1個またはそれ以上の遺伝子、またはその発現産物(例えば表1、2または3に同定する遺伝子)の合成、発現または活性を調整する化合物(例えば小分子、抗体または他の治療剤または候補薬剤)の使用を提供する。
【0029】
さらなる局面において、本発明は、例えば移植対象におけるCRの予防または処置用医薬の製造のための、上記で同定した1個またはそれ以上の遺伝子、またはその発現産物(例えば表1、2または3に同定する遺伝子)の合成、発現または活性を調整する化合物(例えば小分子、抗体または他の治療剤または候補薬剤)の使用を提供する。
【0030】
このような化合物または薬剤の例は、例えば移植において使用されている通りの、例えば免疫抑制性特性を有する化合物または薬剤、例えばカルシニューリン阻害剤、例えばシクロスポリンAまたはFK506、mTOR阻害剤、例えばラパマイシンまたはその誘導体、例えば40位および/または16位および/または32位を置換されたラパマイシン、例えば32−デオキソラパマイシン、16−ペント−2−イニルオキシ−32−デオキソラパマイシン、16−ペント−2−イニルオキシ−32(SまたはR)−ジヒドロ−ラパマイシン、16−ペント−2−イニルオキシ−32(SまたはR)−ジヒドロ−40−O−(2−ヒドロキシエチル)−ラパマイシン、40−[3−ヒドロキシ−2−(ヒドロキシ−メチル)−2−メチルプロパノエート]−ラパマイシン(CCI779とも呼ばれる)、40−エピ−(テトラゾリル)−ラパマイシン(ABT578とも呼ばれる)、40−0−(2−ヒドロキシエチル)−ラパマイシン、または、例えばWO98/02441、WO01/14387およびWO03/64383に記載の通りのラパログ、例えばAP23573、AP23464、AP23675またはAP23841、またはCCR5アンタゴニスト、例えば(2,4−ジメチル−1−オキシ−ピリジン−3−イル)−[4'−メチル−4−(フェニル−ピリジン−3−イル−アミノ)−[1,4']ビピぺリジニル−1'−イル]−メタノンである。これらの化合物または薬剤を組み合わせて使用できる。
【0031】
移植対象は、好ましくは同じ種由来の、ドナーから細胞、組織または臓器、例えば腎臓、心臓、肺、複合心臓肺、肝臓、膵臓(例えば膵臓島細胞)、腸(例えば、結腸、小腸、十二指腸)、神経組織、肢を受けた対象を意味する。該対象は、好ましくはヒトである。あるいは、該方法を他の動物、例えばサルまたはラットのような哺乳動物で行い得る。本発明の移植片拒絶反応の処置に使用するための薬剤の同定法は、このような方法で同定した薬剤がヒトでも有効である高い確率のため、有利にはサルで行う。
【0032】
好ましくは1個以上の遺伝子、例えば一組の遺伝子を本発明の方法で使用する。本発明の方法は特に腎臓移植において好ましい。
【0033】
遺伝子発現プロファイルは、例えばAffymetrixマイクロアレイ技術を使用して産生できる。マイクロアレイは当分野で既知であり、遺伝子産物(例えばmRNA、ポリペプチド、それらのフラグメントなど)と順番に対応するプローブが、特異的にハイブリダイズできるか既知の位置に結合できる表面を含む。スキャナーにより検出したハイブリダイゼーション強度データを自動的に獲得し、GENECHIPソフトウエアまたはAffymetrixマイクロアレイ分析パッケージソフトウエアにより、処理する。生データを、200の標的強度を使用して、発現レベルに対して標準化する。
【0034】
細胞の転写状態は、当分野で既知の他の遺伝子発現技術により測定し得る。いくつかのこのような技術は、二重制限酵素消化と位相プライマー(例えばEP−A1−0534858)を組み合わせた方法、または定義されたmRNA末端に最も近い部位で制限フラグメントを選択する方法(例えばPrashar et al, Proc. Nat. Acad. Sci., 93, 659-663, 1996)のような、電気泳動的分析のための限られた複雑さの制限フラグメントのプールを産生する。他の方法は、cDNAプールを、各多数のcDNAにおいて、各cDNAを同定するために十分な塩基(例えば20−50塩基)を配列決定することにより、または定義されたmRNA末端に対して既知の位置で産生される短タグ(例えば9−10塩基)(例えばVelculescu, Science, 270, 484-487, 1995)経路パターンにより統計学的サンプルする。
【0035】
本発明の他の態様において、マーカーに対応するタンパク質を検出する。本発明のタンパク質の検出に好ましい薬剤は、例えばタンパク質と結合できる抗体、好ましくは検出可能な標識を有する抗体である。抗体はポリクローナル、または好ましくは、モノクローナルであり得る。完全な抗体またはそのフラグメント(例えばFabまたはF(ab'))を使用できる。“標識”なる用語は、抗体への検出可能な物質の結合による抗体の直接標識、ならびに直接標識されている他の試薬との反応性による抗体の間接的標識を含むことを意味する。サンプルが、所定の抗体と結合するタンパク質を含むか否かを決定するために様々な形態を用いることができる。このような形態の例は、例えば酵素免疫アッセイ、放射免疫アッセイ、ウェスタンブロット分析およびELISAを含む。
【0036】
好ましい態様において、生物学的システムのモデルの形成および試験のための去力で簡便な設備を提供するために、前記方法のコンピュータ工程が、コンピュータシステム上、または1台しくはそれ以上のネットワーク接続されたコンピュータシステム上で実行される。該コンピュータシステムは、内部コンポーネントを含み、かつ外部コンポーネントにリンクしている単一のハードウェアプラットフォームであり得る。このコンピュータシステムの内部コンポーネントは、主メモリと相互連絡している処理要素を含む。外部コンポーネントは大容量データ記憶装置を含む。この大容量データ記憶装置は1個またはそれ以上のハードディスクであり得る。他の外部コンポーネントは、ポインティング・デバイスまたは他の画像入力装置と共に、モニターおよびキーボードであり得るユーザー・インターフェースを含む。典型的に、該コンピュータシステムはまた他のローカルコンピュータシステム、リモートコンピュータシステムまたは広域ネットワーク、例えばインターネットにリンクする。このネットワークリンクは、コンピュータシステムが他のコンピュータシステムとデータおよびプロセッシングを共有することを可能にする。
【0037】
数個のソフトウエアコンポーネントが、このシステムの操作中メモリ内に位置する。これらのソフトウエアコンポーネントは、集合的にコンピュータシステムが本発明の方法にしたい機能させる。これらのソフトウエアコンポーネントは、典型的に大容量記憶装置または除去可能媒体、例えばフロッピーディスクまたはCD−ROMに貯蔵される。該ソフトウエアコンポーネントは、コンピュータシステムおよびそのネットワーク相互連結の管理を担うオペレーティングシステムを表す。好ましくは本発明の方法は、使用すべきアルゴリズムを含む数式およびプロセッシングの高レベルの仕様の記号的入力を可能にする数学ソフトウエアパッケージとしてプログラムされ、それにより、ユーザーが手続的に個々の方程式またはアルゴリズムをプログラムする必要を無くす。
【0038】
好ましい態様において、分析的ソフトウエアコンポーネントは、実際互いに相互作用する別々のソフトウエアコンポーネントを含む。分析的ソフトウエアは、該システムの操作に必要な全てのデータを含むデータベースを表す。このようなデータは、一般に、以前の実験の結果、ゲノムデータ、実験法および費用ならびに他の上方を含むがこれらに限定されず、当分野の当業者には明らかであろう。分析的ソフトウエアは、本発明の分析的方法を実行する1個またはそれ以上のプログラムを含む、データ整理および計算コンポーネントを含む。分析的ソフトウエアはまた、コンピュータシステムの使用者が試験ネットワークモデルおよび所望により実験データをコントロールおよび入力可能にする、ユーザー・インターフェースを含む。該ユーザー・インターフェースはシステムの仮説を明記するためのドラッグ・アンド・ドロップインターフェースを含み得る。該ユーザー・インターフェースはまた大容量記憶装置から、除去可能媒体から、または当該システムとネットワークを介して連絡する異なるコンピュータシステムから実験データを読むための手段を含み得る。
【0039】
本発明はまた、本明細書に明示のマーカーの少なくとも1個、例えばmRNAを含む、データベースの調製法も提供する。例えば、該ポリヌクレオチド配列を、データプロセッシングシステムが移植片拒絶反応を同定する遺伝子の標準化された表示をするようにデジタル記憶媒体に貯蔵する。該データプロセッシングシステムは、異なる時点で、例えば、移植日と移植後に採った2個の組織サンプル間の遺伝子発現を分析するのに有用である。単離されたポリヌクレオチドを配列決定する。サンプル由来の配列を、相同性探索技術を使用して、データベースに存在する配列(複数もある)と比較する。本発明の分析的方法を実行するための別のコンピュータシステムおよび方法が当分野の当業者には明らかであり、そして添付の特許請求の範囲の範囲内に包含されると意図する。
【0040】
拒絶反応の診断マーカーの同定
急性および慢性拒絶反応の腎臓移植非ヒト霊長類(カニクイザル)モデル由来の組織サンプルを得る。これらのモデルで誘発された病巣を試験し、ヒトにおいて観察される組織学的変化と非常に類似していることが判明した。
【0041】
急性拒絶反応を、カニクイザルにおいて、生命維持的腎臓同種移植片において試験する。移植は、移植片インプラント時の両側腎切除を伴う。動物を、最適用量より少ないシクロスポリンA(Neoral(登録商標))、20mg/kgまたは(2,4−ジメチル−1−オキシ−ピリジン−3−イル)−[4'−メチル−4−(フェニル−ピリジン−3−イル−アミノ)−[1,4']ビピぺリジニル−1'−イル]−メタノン単剤 20mg/kg 1日2回または両化合物の組み合わせで処置する。動物を移植後6日目から9日目の間に殺す。移植片の組織病理学的試験は、全例でARを明らかにする。
【0042】
慢性拒絶反応を、カニクイザルで非生命維持腎臓同種移植片において試験する。移植は、片側腎切除を伴い、故に自然の腎臓が左側の正位置に残る。動物を抗チモグロブリン/ステロイド/シクロスポリンA(20mg/kg i.v. 2日毎に5回/10mg/kg i.v. 2日毎に5回/150mg/kg/日 p.o.)を組み合わせた抗拒絶反応治療で処置し、移植後44日目から147日目の間に殺すか、またはシクロスポリンAを移植後149日に止め、動物を移植後231日目から331日の間に殺す。移植片の組織学的試験は、様々な程度のCRを明らかにする。
対照腎臓を移植日(片側または両側腎切除)に採取する。
【0043】
組織ホモジネーション
全て液体窒素で急速冷凍した腎臓皮質サンプルを、クライオチューブ(cryotube)中、−80℃で貯蔵する。700μlホモジネーション緩衝液(ABI融解緩衝液/PBS 1:1)添加直後、ホモジネーション工程を、Polytronローター/ステーター・ホモジナイザーPT 3100の棒を、組織含有混合液に浸し、ホモジナイザーを最高速度で30秒運転することにより行う。この後、残存組織片が見えるならば、この工程を、均質性が達成されるまで繰り返す。その後、該均質物をRNA抽出工程において使用するまで−80℃で貯蔵する。
【0044】
ホモジネート前濾過およびRNA抽出
ホモジネートの前濾過およびRNA抽出を、ABI 6700 Biorobotワークステーション(Applied Biosystems, USA)により行う。組織ホモジネートを、96深ウェルプレートのウェルに入れ、該6700ワークステーションの濾液位置に置く。組織前濾過トレイを精製キャリッジに入れ、その位置に固定する。その装置のドアを占め、そしてワークステーションソフトウエアを開始する。
【0045】
RNA抽出工程は、サンプル移送工程、濾過工程、洗浄工程、および溶出工程を含む。前濾過したホモジネートを96深ウェルプレートからRNA精製トレイに移すサンプル移送工程は、550μl溶液の最初の移送を含む。2回目の移送の前に、150μlホモジネーション緩衝液(Applied Biosystems融解緩衝液/PBS 1:1)を深ウェルプレートの各ウェルに添加し、3回混合し、次いで150μlをそこから精製トレイに移す。濾過工程は、80%の減圧の180秒の適用により行う。洗浄工程は下記の通り行う:
工程1:洗浄溶液1、400μl、減圧80%を180秒、2回;
工程2:洗浄溶液2、500μl、減圧80%を180秒、1回;
工程3:洗浄溶液2、300μl、減圧60%を120秒、2回。
【0046】
90%圧の溶出前減圧を300秒適用する。その後溶出工程を、120μl溶出溶液(Applied Biosystems)の添加および100%減圧の120秒の適用により行う。RNAサンプルを96ウェルプレート(Applied Biosystems)に回収する。溶出液を等量の2個のアリコートに分ける。一方のアリコートを−80℃で貯蔵し、他方のアリコートをRNA増幅およびGeneChip分析に使用する。
【0047】
RNAビオチニル化工程は、製造業者の指示に従ったHigh-Yield RNA Labelling Kit(Enzo Diagnostics, NY, USA;P/N 900182)の使用を含む。下記成分を最初の工程で混合する:
22μl aRNA
4μl 10X HY反応緩衝液、
4μl 10X ビオチン標識リボヌクレオチド、
4μl 10X DTT、
4μl RNase阻害剤混合物、
2μl 20X T7 RNAポリメラーゼ。
【0048】
該混合物を37℃で3−4時間インキュベートする。標識aRNAを、製造業者の指示に従ってRNeasy chemistry(Qiagen)を使用して精製する。溶出容量は60μlであり、2μlを使用してRNA濃度を260nmの吸光度で分光光度的に決定する。
【0049】
RNAフラグメント化
15μg標識aRNAを、20μl容量中、4μl 5X MES フラグメント化緩衝液およびRNaseを含まない水の添加によりフラグメント化する。該混合物を20分、94℃でインキュベートする。
【0050】
12X MESフラグメント化緩衝液(1000mlで):
【表1】

0.2μmフィルターを通して濾過し、pHは調節なしで6.5から6.7の間でなければならない。
【0051】
マイクロアレイハイブリダイゼーション混合物
ハイブリダイゼーションを、300μl容量で行う。フラグメント化したaRNAを150μl 2X MESハイブリダイゼーション緩衝液、3μlニシン精子DNA(10mg/ml)、3μl BSA(50mg/ml)、3μl 948b対照オリゴヌクレオチド(5nM)、および3μl 20X 真核生物ハイブリダイゼーション対照(Affymetrix)と混合する。DEPC水を最終容量300μlまで添加する。
【0052】
2X MESハイブリダイゼーション緩衝液(500mlで):
【表2】

0.2μmフィルターを通して濾過。
次いで:1.0ml 10%Triton X-100添加。室温で貯蔵。
【0053】
マイクロアレイ前処置
マイクロアレイを45℃で15分インキュベートする。該アレイチャンバーを、45℃に予め温めた新たに調製した前処置溶液で満たす。
【0054】
前処置溶液(300μl/マイクロアレイ)
【表3】

【0055】
マイクロアレイハイブリダイゼーション
RNAを、約12,000ヒト遺伝子のオリゴヌクレオチドプローブを含むAffymetrix HG U133Aチップにハイブリダイズさせ、分析する。
マイクロアレイは45℃で前処置されているが、該ハイブリダイゼーション混合物を99℃で5分インキュベートする。5分、14,000rpmで遠心分離後、上清を新しいエッペンドルフ試験管に移し、45℃で5分インキュベートする。前処置溶液をマイクロアレイチャンバーから除き、泡を避けながらハイブリダイゼーション混合物で置き換える。プラスチックカートリッジの隔壁をテープで覆い、カートリッジを45℃のオーブンに、ガラス前面を下に向けておく。ハイブリダイゼーションを16から18時間続ける。
【0056】
洗浄法
ハイブリダイゼーション混合物をプローブアレイから除き、マイクロ遠心管に取っておく。280μl 1X MESハイブリダイゼーション緩衝液をチャンバーに添加し、流体工学的洗浄をGeneChip Fluidics Station 400上で、6X SSPE−T緩衝液を使用して行う。
【0057】
6X SSPE−T洗浄緩衝液(1000ml)
300ml 20X SSPE(BioWhittaker, P/N 16-010Y)
699ml 水
0.2μmフィルターを通して濾過。1ml 10% Triton X-100添加。
流体工学的洗浄後、SSPE−T緩衝液をチャンバーから除き、泡を避けながらストリンジェント緩衝液に置き換える。
【0058】
ストリンジェント洗浄緩衝液(1000ml):
【表4】

0.2μmフィルターを通して濾過。1ml 10% Triton X-100添加。
マイクロアレイカートリッジを上に向けて45℃インキュベーションオーブン中に30分重ねる。ストリンジェント緩衝液を除去し、アレイを200μl 1X MESハイブリダイゼーション緩衝液で洗浄する。1X MESハイブリダイゼーション緩衝液を完全に除去し、アレイチャンバーをSAPE着色剤で満たし、37℃で15分インキュベートする。
【0059】
SAPE着色剤(600μl):
【表5】

15分後、SAPE着色剤溶液を除去し、チャンバーを200μl 1X MESハイブリダイゼーション緩衝液で満たし、流体学的洗浄を行う。SSPE−T溶液をマイクロアレイチャンバーから除き、300μl AB着色剤で満たす。
【0060】
AB着色剤(300μl):
【表6】

カートリッジを37℃で30分インキュベートし、AB着色剤を200μl 1X MESハイブリダイゼーション緩衝液で置き換え、流体学的洗浄を行う。洗浄工程後、SSPE−T溶液を除去し、チャンバーをSAPE着色剤で満たし、37℃で15分インキュベートする。SAPE着色剤を200μl 1X MESハイブリダイゼーション緩衝液で置き換え、流体学的洗浄を行う。中隔をテー部でカバーし、緩衝液滲出を防止する。
マイクロアレイをAffymetrix GeneArray(登録商標)スキャナーでスキャンする。生データセットを、生のデータセットは、200の目標強度に対して各チップの全プローブセットの75%分位に縮小するとにより標準化する。
【0061】
データ解析
統計学的解析をS-Plus(Insightful, Inc., USA)およびGeneSpring 5.0.3R(Silicon Genetics, USA)で行う。
一つの実験において、ARまたはCR群において2およびP値<0.001(パラメトリック検定、分散は等しくない)以上の平均発現変化を示す遺伝子を選択する。この最初のフィルターにより1434遺伝子のリストができる。このリストから、下記遺伝子を、対照、ARおよびCR群を区別する能力、急性または慢性拒絶反応の組織学的徴候との相関、および末梢体液での検出の能力を基に選択する。
【0062】
【表7】

【0063】
【表8】

【0064】
【表9】



【特許請求の範囲】
【請求項1】
移植片拒絶反応をモニタリングする方法であって、
a)基線値として、拒絶反応を発症しないことが既知の移植対象の特定の組織サンプルにおける、少なくとも1個の遺伝子に対応するmRNA発現またはそれによりコードされるタンパク質のレベルを取り;
b)移植後患者から得たa)と同じ組織タイプの組織サンプルにおいて、a)で同定した少なくとも1個の遺伝子に対応するmRNA発現またはそれによりコードされるタンパク質のレベルを検出し;そして
c)第一値と第二値を比較する(ここで、第二値より低いまたは高い第一値が移植対象が拒絶反応を発症するリスクにあるとの予測であり、該遺伝子は表1、2または3に定義の通りである)
ことを含む、方法。
【請求項2】
移植片拒絶反応をモニタリングする方法であって、
a)少なくとも1個の遺伝子に対応するmRNA発現またはそれによりコードされるタンパク質のレベルを、ドナーから得た組織サンプルにおいて移植の日に検出し;
b)移植後患者から得た組織サンプルにおいて、a)で同定した少なくとも1個の遺伝子に対応するmRNA発現またはそれによりコードされるタンパク質のレベルを検出し、
c)第一値と第二値を比較する(ここで、第二値より低いまたは高い第一値が移植対象が拒絶反応を発症するリスクにあるとの予測であり、該遺伝子は表1、2または3に定義の通りである)
ことを含む、方法。
【請求項3】
リスクにある対象における移植片拒絶反応をモニタリングする方法であって、
a)移植対象から、拒絶反応阻害剤の投与前に投与前サンプルを得て、
b)投与前サンプルにおける少なくとも1個の遺伝子に対応するmRNA発現またはそれによりコードされるタンパク質のレベルを検出し、
c)移植患者から1個またはそれ以上の投与後サンプルを得て、
d)投与後サンプル(複数もある)における少なくとも1個の遺伝子に対応するmRNA発現またはそれによりコードされるタンパク質のレベルを検出し、
e)投与前サンプルのmRNAの発現または少なくとも1個の遺伝子によりコードされるタンパク質のレベルと、投与後サンプル(複数もある)におけるmRNAの発現または少なくとも1個の遺伝子によりコードされるタンパク質のレベルを比較し、そして
f)薬剤をそれに準じて調整する
(ここで、該遺伝子は表1、2または3に定義の通りである)
ことを含む、方法。
【請求項4】
処置を必要とする対象における移植片拒絶反応を予防、阻止、低下または処置する方法であって、拒絶反応の少なくとも1個の症状が改善するように、表1、2または3に同定した1個もしくはそれ以上の遺伝子または遺伝子産物の合成、発現または活性を調整する化合物を該対象に投与することを含む、方法。
【請求項5】
移植片拒絶反応の予防、阻害、低下または処置に使用するための薬剤を同定する方法であって、表1、2または3に同定した1個もしくはそれ以上の遺伝子のmRNA発現または遺伝子産物のレベルをモニタリングすることを含む、方法。
【請求項6】
移植対象が腎臓移植対象である、請求項1から5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
遺伝子発現の発現レベルを、遺伝子発現産物に対応するタンパク質の存在の検出により評価する、請求項1から6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
タンパク質の存在を、該タンパク質に特異的に結合する試薬を使用して検出する、請求項7記載の方法。
【請求項9】
1個またはそれ以上の遺伝子のmRNA発現レベルを、ノーザンブロット分析、逆転写PCRおよび実時間定量的PCRから成る群から選択される技術により検出する、請求項1から6のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
一組の遺伝子のmRNA発現レベルを検出する、請求項1から6のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
移植片拒絶反応のバイオマーカーとしての、表1、2または3に列記の遺伝子または該遺伝子の発現産物の使用。
【請求項12】
対象における移植片拒絶反応の予防または処置用医薬の製造のための、表1、2または3に列記の1個またはそれ以上の遺伝子、またはその発現産物の合成、発現または活性を調整する化合物の使用。
【請求項13】
移植片拒絶反応が慢性移植片拒絶反応であり、かつ遺伝子が表2に定義の通りである、請求項1から12のいずれかに記載の方法または使用。
【請求項14】
移植片拒絶反応が急性移植片拒絶反応であり、かつ遺伝子がインドルアミンデオキシゲナーゼである、請求項1から13のいずれかに記載の方法または使用。
【請求項15】
組織サンプルが体液である、請求項1から3のいずれかに記載の方法。


【公表番号】特表2007−520209(P2007−520209A)
【公表日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−541900(P2006−541900)
【出願日】平成16年12月2日(2004.12.2)
【国際出願番号】PCT/EP2004/013727
【国際公開番号】WO2005/054503
【国際公開日】平成17年6月16日(2005.6.16)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.フロッピー
【出願人】(597011463)ノバルティス アクチエンゲゼルシャフト (942)
【Fターム(参考)】