説明

移植用器具

【課題】移植片を標的部位に移植する際に、移殖片を保持する保持部から確実に離脱させる。
【解決手段】(i)移植片を保持するための保持部(ii)保持部に設けられた少なくとも2つの開口部(iii)開口部に流体圧を供給する少なくとも1つの流体圧供給源(iv)開口部への流体圧を開口部および/または開口部群毎に調整する調整部を含む、移植片を標的部位に移植するための器具。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移植片、特にヒトおよび動物の疾病、傷病の治療に用いる移植片の移植操作を、簡便・確実に行うことができる器具、および、同器具を用いた移植片の移植方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の心臓病に対する治療の革新的進歩にかかわらず、重症心不全に対する治療体系は未だ確立されていない。心不全の治療法としては、βブロッカーやACE阻害剤による内科治療が行われるが、これらの治療が奏功しないほど重症化した心不全には、補助人工心臓や心臓移植などの置換型治療、つまり外科治療が行われる。
【0003】
このような外科治療の対象となる重症心不全には、進行した弁膜症や高度の心筋虚血に起因するもの、急性心筋梗塞やその合併症、急性心筋炎、虚血性心筋症(ICM)、拡張型心筋症(DCM)などによる慢性心不全やその急性憎悪など、多種多様の原因がある。
これらの原因と重症度に応じて弁形成術や置換術、冠動脈バイパス術、左室形成術、機械的補助循環などが適用される。
【0004】
この中で、ICMやDCMによる高度の左室機能低下から心不全を来たしたものについては、心臓移植や人工心臓による置換型治療のみが有効な治療法とされてきた。しかしながら、これら重症心不全患者に対する置換型治療は、慢性的なドナー不足、継続的な免疫抑制の必要性、合併症の発症など解決すべき問題が多く、すべての重症心不全に対する普遍的な治療法とは言い難い。
【0005】
その一方、最近、重症心不全治療の解決策として新しい再生医療の展開が不可欠と考えられている。
重症心筋梗塞等においては、心筋細胞が機能不全に陥り、さらに線維芽細胞の増殖、間質の線維化が進行し心不全を呈するようになる。心不全の進行に伴い、心筋細胞は傷害されてアポトーシスに陥るが、心筋細胞は殆ど細胞分裂をおこさないため、心筋細胞数は減少し心機能の低下もさらに進む。
このような重症心不全患者に対する心機能回復には細胞移植法が有用とされ、既に自己骨格筋芽細胞による臨床応用が開始されている。
【0006】
しかし、実際に細胞移植法により臨床的に心機能を十分に向上させるためには、直接心筋内注入による方法では移植細胞の70〜80%が失われその効果を十分に発揮できない点や、不整脈等の副作用の問題、大量且つ安全な細胞源の確保などの問題点の解決が不可欠であるうえ、細胞注入局所へ炎症を惹起するとともに局所的な細胞移植しか行えないため、例えば拡張型心筋症のように心臓全体の心機能が低下した場合に限界がある。
【0007】
近年、これらの問題に対し、組織工学を応用した温度応答性培養皿を用いることによって、成体の心筋以外の部分に由来する細胞を含む心臓に適用可能な三次元に構成された細胞培養物と、その製造方法が提供された(特許文献1)。
【0008】
このような細胞培養物を、目的とする患部(移植部位)に移植するには、例えば、細胞培養物の端部をピンセット等で摘んで、細胞培養物を包装容器から取り出し、患部まで移送し、その患部に移植(貼付)するといった一連の操作が必要となるが、細胞培養物は、絶対的な物理的強度が低く、皺、破れ、破損などが生じ易いことから、この一連の操作には高度な技術が要求され、かつ細心の注意を払う必要がある。
【0009】
細胞培養物の強度を補うため、親水性PVDF膜、ニトロセルロース膜を用いた支持体やヒトフィブリノゲン等を足場とした支持体が知られ、さらに細胞培養物を対象とした移動治具や運搬投与器具が提供されており、前述の温度応答性培養皿に対応した細胞培養物のための支持体(Cell ShifterTM、セルシード製)が市販されている。
【0010】
運搬投与器具としては、例えば、特許文献2に記載のものが挙げられる。この運搬投与器具は、内部に供給される流体圧の変化によって、平面状の展開形状と筒状の収納形状への変形動作と、基端部の曲げ動作とを行わせる治療用器具であり、細胞培養物を患部に移植する際に細胞培養物を保持し、患部まで移送し、その患部に貼り付ける。この運搬投与器具は、細胞シートをシート支持部から確実に離脱させるために、脱着操作用空圧供給源によって脱着用アクチュエータの開口部に送気を行っているが、脱着操作用空圧供給源からの送気が複数の開口部から同時に噴出するため、例えば、細胞シートの一部だけがシート支持部から剥離した場合は、その部分の開口部へ送気が集中し、他の開口部への送気が十分に行われないため、結果として細胞シートをシート支持部から確実に離脱することができないことが考えられる。また、このような手法で細胞シートを離脱させると、細胞シートを全体的に同時に離脱させることしかできず、平面的に剥離されたシート細胞が移植部位に付着した際に、シートと移植部位の間に気泡が混入したり、離脱・貼付する際に生じたシートの皺や重なりが、調整されることなくそのまま移植部位に定着するなどの問題が考えられる。
このように、これまでは、移植片を移植器具から適切かつ確実に離脱させ、患部に貼付できる移植用器具は存在しなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特表2007−528755号公報
【特許文献2】特開2008−173333号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、ヒトおよび動物の疾病、傷病の治療に用いる移植片の移植操作などにおいて、従来の支持体や運搬投与器具に代わる、簡便な操作性を有する移植器具の提供を課題とし、簡易な構成で、容易、迅速かつ確実に、移植片を移植(貼付)することができる移植器具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねる中で、移植片を保持する保持部に複数の開口部を設け、個々の開口部および/または開口部群にかかる流体圧を個別に調整することによって移植片を保持部から確実に離脱できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0014】
すなわち本発明は、以下に関する。
(1)移植片を標的部位に移植するための器具であって、(i)移植片を保持するための保持部、(ii)保持部に設けられた少なくとも2つの開口部、(iii)開口部に流体圧を供給する少なくとも1つの流体圧供給源、(iv)開口部への流体圧を開口部および/または開口部群毎に調整する調整部を含む、前記器具。
(2)移植片が、シート状である、上記(1)に記載の器具。
(3)保持部の先端部が交換可能である、上記(1)または(2)に記載の器具。
(4)移植片の保持部への装着状態および/または保持部からの離脱状態を検知するセンサー部をさらに含む、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の器具。
(5)調整が、流体圧供給のON、OFF、供給圧力の調整、および開口部に設けられた開閉手段の制御から選択される1または2以上により行われる、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の器具。
【0015】
(6)上記(1)〜(5)のいずれかに記載の器具の操作方法であって、(i)移植片を、少なくとも2つの開口部が設けられた保持部に装着するステップ、(ii)開口部への流体圧を開口部および/または開口部群毎に調整して、移植片を保持部から離脱させるステップを含む、前記方法。
(7)移植片の保持部への装着および/または保持部からの離脱をセンサーからの情報により判断するステップをさらに含み、(ii)における流体圧の調整が前記判断に基づいて行なわれる、上記(6)に記載の方法。
(8)移植片が、シート状である、上記(6)または(7)のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明の器具によれば、シート状細胞培養物などの移植片を標的部位へ移植するために、移植片を保持する保持部に設けた複数の開口部に流体圧を供給し、開口部への流体圧を開口部および/または開口部群毎に調整することにより、移植片の装着・移送・離脱・貼付を簡便・確実に行うことができ、開口部への流体圧の不均衡により生じていた、移植片の保持部からの不十分な離脱、皺や重なりなどの発生を最小限にできるだけでなく、流体圧の開口部毎への供給を経時的に調整することにより移植片の立体的な離脱を行い、シートの移植部位への貼付様式や移植部位の形状に合わせた最適な移植を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、本発明の器具の一態様の概念図である。
【図2】図2は、本発明の器具の一態様の概念図である。
【図3】図3は、本発明の器具の一態様の概念図である。
【図4】図4は、本発明の器具の一態様における移植処理フロー図である。
【図5】図5は、本発明の器具の一態様における移植処理フロー図である。
【図6】図6は、本発明の器具の一態様の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、移植片を標的部位に移植するための器具であって、
(i)移植片を保持するための保持部
(ii)保持部に設けられた少なくとも2つの開口部
(iii)開口部に流体圧を供給する少なくとも1つの流体圧供給源
(iv)開口部への流体圧を開口部および/または開口部群毎に調整する調整部
を含む、前記器具に関する。
【0019】
本発明における移植片は、典型的には培養した細胞および/またはその産生物(例えば細胞培養物など)で構成されるが、生体の所定部(例えば患部等)を補填および/または支持するための各種の材料(補填材料や支持材料)なども含む。移植片は、典型的には移植操作が可能な動物、例えば、ヒトや家畜等の疾病、傷病の治療等に用いられるものであるが、これに限定されるものではない。移植片の形状は特に限定されず、保持部に装着可能な形状であればシート状、膜状、塊状、柱状等の種々の形状であってよい。
【0020】
図1および2に示す本発明の移植器具の一態様は、保持部、流体圧供給源、調整部などによって構成されている。以下では、図中の左側を「左」、右側を「右」、上側を「基端」、下側を「先端」として説明を行う。
図1に示す態様において、保持部は、基端側と先端側との間に配置された側壁を有する中空の有底筒状の部材で構成され、その底面には開口部が複数設けられている。本発明において、開口部群とは、統一的に処理される2以上の開口部の集合を意味する。開口部群に含まれる開口部の個数や開口部同士の位置関係は特に限定されず、所望の処理に応じて適宜設定することができる。したがって、開口部群は、ある開口部を中心とした同心円に含まれる開口部を含んでもよいし、直線的に配列された開口部の列を含んでもよい。開口部群の設定は固定的なものであっても、処理により変更可能なものであってもよい。統一的に処理されるとは、例えば、開口部群に含まれる開口部を同時に開閉したり、これらの開口部に同一の流体圧を負荷したりすることなどを意味する。
【0021】
保持部の基端側には流体圧供給源が連結されており、これにより、流体圧供給源から供給される流体圧が複数の開口部に供給できるように構成され、開口部は流体が出入りする流体出入部として機能する。流体圧供給源は、機械駆動または手動の注射器、コンプレッサ、加圧ボンベ、電気駆動のインフレーションデバイスなどから構成される。流体としては、空気、酸素、二酸化炭素、窒素などの気体、水、生理食塩水、フィブリン液、リン酸緩衝液(PBS)、ハンクス平衡塩液、細胞培養用培地などの液体、またはこれらを組み合わせたものなどがあげられ、これらを陰圧または陽圧により供給する。
【0022】
保持部の底面の先端側は、移植片を保持する保持面(接触面)を構成しており、各開口部は、流体圧供給源から供給される陰圧を利用した移植片の保持面への装着(保持)と、流体圧供給源から供給される陽圧を利用した移植片の標的部位への移植(貼付)を行うことができる。各開口部には開閉手段が設けられており、流体圧供給源から各開口部への流体圧の供給を調整することができる。各開閉手段は調整部に接続しており、調整部から送られてくる信号に合わせて開閉するように構成されている。調整部は、各開閉手段を制御する制御部を少なくとも含むが、開閉のタイミングを開閉手段毎に調整するためのプロセッサ、記憶部、入力部および出力部などをさらに含んでもよい。
【0023】
保持部の構成材料としては、特に限定されないが、例えば、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ウレタン、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(ABS樹脂)、メチルメタクリレート・ブタジエン・スチレン(MBS樹脂)、ポリメチルメタクリレート(PMMA樹脂)等の高分子材料や、ステンレス鋼、アルミニウム、チタン等の金属材料等が挙げられる。保持部の外形形状、すなわち、保持部を構成する筒体の断面は、円形をなしているが、これに限らず、この他、例えば、三角形、四角形、五角形等の多角形、楕円形等として作製されてもよい。また、保持部の先端側の表面(保持面)の形状としては、1または2以上の面、辺および/または頂点を有する多角体、錐体、球体、半球体、またはこれらの組み合わせなどであってもよく、移植片が均一に展開された状態で保持面に装着できるように、少なくとも1の平坦な面を有してもよい。また、保持面の面積を移植片の表面積と同等か、それより広く、例えば、1.1倍以上、1.25倍以上、1.5倍以上、2倍以上などとなるように作製してもよい。また、保持部の基端側の形状は特に限定されず、保持部と保持部の基端側に連結される流体圧供給源との連結が可能になるように作製してもよい。
【0024】
基端側と先端側との間に配置された側壁に類する壁状構造は、保持部の側面だけでなく、内側に存在していてもよい。例えば、保持部の内部をハニカム構造体のような複数の壁と連通路の集合体構造にすることで、流体圧供給源と保持面の間の流体通路を複数路に区分してもよいし、複数の流体通路の先端側に開口部がそれぞれ配置されるように構成することにより、開口部毎に流体通路を設けてもよい。また、上記のハニカム構造体は、図3に示されるように、保持部の径より小さな径の筒体を複数個束ねることによって実現してもよい。これらハニカム構造体は、壁の厚さや、流体通路の径や形状を変更することにより、様々な形状に作製することができる。たとえば、複数の流体通路や壁の間に通路を作製し、開閉手段や後述するセンサー部の配線を通すこともできる。
【0025】
開口部に設けられる開閉手段は、開口部を覆うブレード(閉鎖部材)と該ブレードを移動させるブレード駆動部などを含むシャッター構造体として、または、開口部/流体路の開閉や流れの制御を行うバルブ構造体として構成してもよい。ブレードは、開口部を気密に塞ぐことができるものであれば特に限定されず、保持部の構成材料として列挙した任意の材料で作製してもよい。ブレード駆動部は、開口部を覆うブレードを移動させることにより、開口部の開閉または開閉の度合いをシャッターのように制御し、流体圧供給源から開口部への流体圧の供給を調整する。ブレードは開口部上をスライドさせてもよいし、一端を開口部の辺縁などに固定し、開き戸のように動かしてもよい。ブレード駆動部は、例えば、コイルへの通電制御等によりブレードを所定の角度範囲で電磁的に回動させてもよいし、流体圧式のアクチュエータを用いてブレードを進退移動させてもよい。ここで、シャッターは開口部毎に複数設けてもよいし、複数の開口部に対して1つのシャッターを設けてもよい。例えば、シャッターのブレードの大きさや形状を、1つのブレードで複数の開口部を覆うように設計し、複数の開口部の開閉を1つのシャッターで制御するようにしてもよい。バルブは、開口部/流体路を気密に塞ぐことができるものであれば特に限定されず、ゲートバルブ、グローブバルブ、ボールバルブ、ピストンバルブ、ロータリーバルブなどを含んでもよい。上記のような種々の開閉手段で開口部への流体圧を開口部毎に調整することにより、流体圧の不均衡により生じていた、移植片の保持面からの不十分な離脱の発生を最小限にできる。
【0026】
図1において、開閉手段は開口部を覆うように、保持部の先端側に設けられているが、他端側すなわち保持部の基端側または流体路中の任意の場所に設けてもよい。例えば、保持部の内側が上記のようなハニカム構造体である場合は、開口部毎に流体通路が存在するため、開口部と流体圧供給源を連通する流体通路の先端側、基端側または流体路中の任意の場所に開閉手段を設けることで、開口部への流体圧を開口部毎に調整することができる。図2に示されるように、基端側に開閉手段を設ける場合は、ハニカム構造体の壁の厚さや長さを調整したり、間隙を設けるなどして、開閉手段を設けるための十分なスペースを確保してもよい。かかる構造とすることで、保持部の基端側と先端側を、それぞれ基端部、先端部として別々に作製し、両者を連結して保持部を形成することができる。具体的には、基端部内に開閉手段と流体通路を設け、先端部内に基端部の流体通路と連結される流体通路、開口部、保持面を設けることができる。かかる態様において、先端部を基端部から取り外し可能としてもよく、また、ディスポーザブルなものとしてもよい。さらに、先端部の開口部の大きさや形状を開口部毎に変えて作製したり、先端部の保持面の形状を平面体、半球体、錐体または、多角体として作製しておき、施術時の標的部位の形状や術式などに合わせて、これらを交換できるようにしてもよい。
【0027】
また、本発明の一態様においては、図2に示すように、保持面にセンサー部を設けてもよい。センサー部は、移植片の保持面への装着および/または保持面からの離脱などを検知するものであり、移植片の標的部位への移植をさらに精密に行うために利用される。具体的には、移植片がすでに離脱した部分に位置する開口部には、それ以上流体圧を供給する必要がないため、離脱した部分をセンサー部により検知し、開口部の開閉を制御するために利用してもよい。センサー部は、知覚素子で検知した情報を電気信号等に変換して出力できるものであれば特に限定されず、移植片の存在を、熱電対、抵抗測温体、サーミスタなどを利用して温度で検知したり、光起電力効果、光導電効果、赤外線センサーなどを利用して光により検知したり、一般的なタッチパネルに利用される抵抗膜式センサーなどを利用して圧力により検知したり、マノメータやフローセンサーなどを利用して開口部に負荷される流体圧の変化により検知したりしてもよい。また、センサー部による検知は開口部毎に行っても、保持面全体で行ってもよい。具体的には、例えば、保持面全体を抵抗膜式センサーで覆い、開口部の数に応じたグリッドを設けることで検知したり、赤外線レーザーを保持面の基端側から当てて開口部を通過させ、その反射光により検知したりしてもよい。したがって、移植片の保持面への装着の検知は、移植片の保持面への完全な装着を検知しても、保持面への接近の度合いを検知してもよい。
【0028】
移植片の保持面への保持は任意の手法を用いて行なってもよく、例えば、限定されずに、毛細管現象を利用して、移植片を直接保持面に付着させてもよいし、移植片が付着した支持体(例えばメッシュなど)を保持面に装着することにより移植片を保持してもよい。また、移植片は、開口部を介した流体の陰圧を利用して保持してもよい。例えば、本発明の一態様において、図3に示すように、移植片を予めメッシュに付着させている場合は、メッシュが保持面に装着されていることが確認できれば、移植片の保持面への付着を直接確認しなくてもよい。すなわち、移植片が付着したメッシュを保持部に装着し、標的部位に移送してから、流体圧によりメッシュから移植片を離脱させて、標的部位に貼付してもよい。この場合は、移植片と保持面の直接的な接触が起こらないため、上述のような接近の度合いを検知することにより、移植片の保持面への接近、すなわち開口部への接近や、移植片のメッシュからの離脱を検知してもよい。また、メッシュを保持面上に確実に接近させるために、メッシュを保持部に装着保持させるためのアタッチメントを、メッシュ側、保持部側、またはその両方に設けてもよい。
【0029】
保持部は、保持面に保持された移植片の位置を標的部位に投影する位置決め機構を備えていてもよい。例えば、保持面の外縁や内側の所定の位置にレーザーなどの光源を設け、保持面の形状を標的部位に投影してもよいし、光源を開口部毎に設けて、センサー部からの情報と連動させて保持面上の移植片の位置および形状を標的部位に投影してもよい。後者の場合、移植片が保持面の中心からずれて保持されている場合に、保持面上の移植片の位置を、保持面を直接見ることなく把握することができ、標的部位への正確な貼付が容易となる。
保持部はまた、保持面と標的部位との間の距離を測定する距離測定機構を備えていてもよい。距離測定機構は、各開口部または開口部群と標的部位との間の距離を個別に測定できるように構成してもよい。かかる構成とすることにより、例えば、標的部位の最も隆起した部分から移植片の貼付を開始したい場合に、標的部位との間の距離が最も小さい開口部に自動的に最初に流体圧を適用することにより、離脱・貼付をより簡便かつ迅速に行なうことができる。
【0030】
調整部は、各開閉手段を制御する制御部を少なくとも含むが、開閉のタイミングを各開口部/開口部群毎に調整するためのプロセッサ、記憶部、入力部および出力部などをさらに含んでもよい。また、調整部は、流体圧供給源に接続していてもよく、供給のON、OFF、供給圧力の調整などを行ってもよい。さらにまた、調整部は、センサー部に接続していてもよく、センサー部から送られてくる検知信号に基づいて、移植片の装着および/または離脱の状態をプロセッサにより判断し、各開閉手段を制御するために利用してもよい。記憶部は、センサー部から受け取った情報および判断結果などを保存する部分であり、種々の電子記憶媒体、例えば、半導体メモリ、ハードディスクなどを含む。制御部は、入力部から入力された設定パラメータや、上記判断結果に基づき流体圧供給源、開閉手段、センサー部などに信号を送る部分であり、信号発生回路などを含む。
【0031】
入力部は、移植器具の利用者または移植器具に連結された他のシステムが必要に応じて設定パラメータなどの情報を入力する部分であり、種々の入力インターフェース、例えば、電気や光などの信号を他のシステムから受け取る手段(電線、光ファイバー、コネクタ、無線通信装置など)、ボタン、キーボード、タッチパネルなどを含む。出力部は、移植器具の作動状況、設定パラメータ、センサー部からの情報、上記判断結果などの情報を含んだ、所定の信号を発する部分であり、モニタ、プリンタ、表示灯、ブザー、音声合成装置、種々の出力インターフェース、例えば、電気や光などの信号を他のシステムなどに伝達する手段(電線、光ファイバー、コネクタ、無線通信装置など)、などを含む。入力部と出力部は、入力インターフェースと出力インターフェースとを含む、入出力インターフェースとして一体化してもよく、このために汎用コンピュータを利用してもよい。
【0032】
流体圧供給源は、機械駆動または手動の注射器、コンプレッサ、加圧ボンベ、電気駆動のインフレーションデバイスなどから構成され、流体には、空気、酸素、二酸化炭素、窒素などの気体、水、生理食塩水、フィブリン液、リン酸緩衝液(PBS)、ハンクス平衡塩液、細胞培養用培地などの液体、またはこれらを組み合わせたものなどを含んでもよく、これらを介して陰圧または陽圧を供給する。機械駆動の注射器は、中空の円筒形部材の内側にはまりこむ円筒形のピストンを軸方向にスライドさせることにより陰圧または陽圧を発生させるものであり、スライド駆動は機械によるものでも、手動操作によるものでもよい。流体圧供給源は、それ自体を利用者が作動させても、調整部内の制御部により制御させてもよい。たとえば、流体圧供給源を常に作動させた状態にしておき、開閉手段を調整することにより、保持面上の移植片にかかる流体の圧力を調整してもよい。また、流体圧供給源は、1つであっても、複数であってもよい。たとえば、保持部の内部構造に関して上述したように、開口部毎に流体路が設けられる場合は、それぞれの流体路の基端部に流体圧供給源を連結させることにより、開口部毎に流体圧供給源を設けることができる。この場合は、上述した開閉手段による流体圧の供給制御を省略してもよく、1つの開口部と1つの流体圧供給源を流体路により直接連通させて、流体圧供給源自体の作動状態により流体圧の供給制御を行ってもよい。この場合は、移植器具は、複数の流体圧供給源、調整部、開口部により構成されるため、調整部は、必要に応じて、流体圧供給源と一体化させて作製しても、保持部の上方、側方、下方および/または内側に設けても、一部が内側、一部が外側にあってもよい。さらにまたは、調整部自体を別体に設けて、保持部、開閉手段、流体圧供給源からなる器具に有線または無線でつなぎ、移植部位から離れた場所から遠隔操作で器具を制御してもよい。
【0033】
このように、本発明の器具を構成する保持部、調整部、流体圧供給源などの各要素は、所定の目的を達成することができる範囲で様々な様式で配置することができ、必要に応じて組み合わせたり、一体化することもできる。
【0034】
図1は、本発明の移植用器具の一態様の概念図である。本態様において、移植用器具は、先端側から順に、保持部、流体圧供給源、調整部により構成されている。保持部は有底筒状の部材で作製され、移植片が装着保持される底面の先端側を保持面とする。底面には開口部が複数設けられ、流体圧供給源からの流体圧が開口部を介して移植片に与えられる。底面の基端側には開口部の位置にあわせて開閉手段が設けられており、開閉または開閉の度合いを調整することにより、移植片に与えられる流体圧を調整する。保持部の基端側には流体圧供給源が連結されており、開閉手段をすべて閉じることにより、保持部自体が圧力チャンバーとして機能するように構成してもよい。調整部は、流体圧供給源および/または開閉手段に接続しており、流体圧供給のON、OFF、供給圧力の調整や、開閉または開閉の度合いを調整する。流体圧供給源および開閉手段の作動状況を示す信号は調整部にフィードバックされ、作動状況に合わせた調整が行われる。
【0035】
また、調整部はプロセッサ、制御部、入力部、出力部、記憶部を備え、入力部から入力された設定パラメータ、または記憶部にあらかじめ記憶された設定パラメータに基づいて、制御部から信号を送信し、流体圧や開閉の調整を行う。プロセッサは、これら一連の作動機構をモニタリングし、移植器具を構成する各要素の作動を調整するための計算処理をしたり、要素間の相互作用、例えば流体圧供給と開閉のタイミングを調整するための時間計算を行ったりすることにより、制御部から送信される信号が最適に行われるように調整することができる。各要素を相互に接続し、制御信号や作動状況のモニタリングのための信号の送受信を行うように構成することができる。いうまでもないが、同断面図は、本発明の移植器具の一態様を示すものにすぎず、同態様とは異なる可能な各部の配置や組み合わせが数多く存在することを理解すべきである。
【0036】
図2は、本発明の移植用器具の別の態様の縦断面図である。本態様において、移植器具は、調整部に接続されたセンサー部を備えており、保持部は複数の流体路を備えている。保持面は抵抗膜式センサーで覆われており、移植片はセンサーを介して保持面に装着保持されている。調整部は、移植片の保持面への装着をセンサー部により検知し、保持面のどの部分に移植片が装着されているかを判定する。センサー部は保持面を覆う抵抗膜式センサーの他に、保持面の外縁に、標的部位の方向に向けられた赤外線レーザーを設け、赤外線レーザーの反射光を測定することにより標的部位の位置、距離、および形状を判定するように構成してもよい。調整部は、上記移植片の装着位置および標的部位に関する情報から、保持面に存在する複数の開口部の開閉順序を決定する。開口部が開閉手段により開放されると、その位置に付着している移植片が保持部から離脱し、標的部位に貼付される。移植片の保持部からの離脱は、抵抗膜式センサーにより検知され、離脱が終わった開口部から無駄な流体が流出し続けないように、その部分を開閉手段により閉鎖する。そして、次に離脱させたい部分を開閉手段により開放して、離脱が終了すれば閉鎖するという処理を繰り返すことにより、移植片の確実な離脱および移植部位への貼付を行うことができる。上記開閉の要否や順序は、センサーと調整部内のプロセッサに判断させてもよいし、移植器具の利用者が判断してもよい。例えば、移植片の保持面への装着位置および標的部位の位置、距離、および形状を利用者が目視で確認して、適切な開閉順序を判断し、開閉させたい開口部の位置、順序、流体圧力を入力部から入力することにより、移植器具を制御してもよい。例えば、移植片を中心部から円周方向に離脱させたい場合は、図6Aに示されるような開閉順序を定めてもよいし、移植片をその一端から離脱させたい場合は、図6Bに示されるような開閉順序にしてもよい。また、開口部毎に流体路および流体圧供給源を設ける場合は、開閉手段を省略して流体圧供給源をON/OFFさせることによって開口部への流体圧の調整を行ってもよい。さらにまた、開口部毎に流体路、開閉手段および流体圧供給源を設け、流体圧供給源を常にONの状態にし、開口部を開閉手段により開閉させてもよい。この場合は、開口部への流体圧の不均衡な供給が起こらないため、上記の閉鎖するステップを省略してもよい。
【0037】
本発明はまた、移植片を標的部位に移植するための方法であって、
(i)移植片を、少なくとも2つの開口部が設けられた保持部に装着するステップ。
(ii)開口部への流体圧を開口部および/または開口部群毎に調整して、移植片を保持部から離脱させるステップ
を含む、前記方法に関する。
本方法は、移植片の保持部への装着および/または保持部からの離脱を判断し、その判断に基づき開口部および/または開口部群毎への流体圧を調整するステップをさらに含んでもよい。
本発明の上記方法は、本発明の移植器具を用いて行なってもよい。したがって、本発明は、本発明の移植器具の操作方法であって、(i)移植片を、少なくとも2つの開口部が設けられた保持部に装着するステップ、(ii)開口部への流体圧を開口部および/または開口部群毎に調整して、移植片を保持部から離脱させるステップを含む、前記方法にも関する。
上記方法は、移植片の保持部への装着および/または保持部からの離脱をセンサーからの情報により判断するステップをさらに含み、(ii)における流体圧の調整を前記判断に基づいて行なってもよい。
【0038】
図4は、本発明の器具の一態様における、移植片の移植処理フロー図を示す。本態様において、移植片は、図3に示されるように、メッシュに付着されており、メッシュは保持面上に装着保持されている。移植器具は図1に示される要素により構成されている。流体圧供給源は作動状態にあり、流体圧供給源からの流体圧力を保持部が圧力チャンバーとして安定的に維持している。移植器具が移植開始指示を受けると、設定パラメータを確認して、離脱させたい部分の移植片に位置する開口部および/または開口部群を開放する信号を、制御部を介して開閉手段へ送る。剥離が完了したら、開口部/開口部群を閉鎖する信号を送る。そして、次に離脱させたい移植片の部分に位置する開口部/開口部群を開放する信号を送り、離脱が完了したら、開口部/開口部群を閉鎖する信号を送る。移植器具はこの開閉手段の開放、閉鎖の処理を繰り返し、移植片が完全に離脱すると、移植処理を終了する。いうまでもないが、上記移植片の離脱は、開閉手段による閉鎖のステップを省略して、開放のステップのみを開口部/開口部群毎に経時的に適用することによって行ってもよいし、すべての開口部を同時に開放させることにより行ってもよい。同フロー図は本発明の移植器具の作動様式の一態様を示すものにすぎず、同フロー図とは異なる作動様式が数多く存在することを理解すべきである。
図5は、本発明の器具の一態様における、移植片の移植処理フロー図を示す。本態様において、移植片は、図3に示されるように、メッシュに付着されており、メッシュは保持面上に装着保持されている。移植器具は図2に示す要素により構成されている。
【0039】
移植器具が移植開始指示を受けると、器具は初期化処理(K000)として、各要素の正常な動作や、流体圧の確認を行う。器具は次に、記憶部に設定された設定パラメータを確認し(K001)、流体圧調整、センサー範囲調整などの各要素の調整を行う(K002)。器具はその後、メッシュ上の移植片の装着位置および標的部位の位置、距離、および形状をセンサー部により取得して(K003)、離脱させる必要のある移植片の部分に対応する開口部および/または開口部郡の位置を決定し(K004)、その開口部/開口部群を開閉手段により開放する(K005)。センサー部は、移植片の離脱を確認し(K006)、その部分の開口部/開口部群を開閉手段により閉鎖する(K007)。器具はその後、移植片の状態、標的部位への貼付状況、各要素の動作状況などを確認し(K008)、移植処理を継続するかどうかを判断する(K009)。継続が必要でないと判断すると、処理を終了する。処理の継続が必要であると判断すると、上記各状況から、各要素の調整の要否を判断し、最適な設定パラメータを算出して、設定パラメータを変更(K010)し、K001以降の手順を繰り返す。移植処理の継続判断には要素の一部が故障停止していたり、移植片が破れていたりして、処理が継続できない場合のエラー判断も含まれる。上記フローにおいて設定パラメータの変更(K010)や、開口部/開口部群の開放(K005)は、器具の利用者が入力部から操作することによって行ってもよい。たとえば、利用者が移植片の標的部位への貼付を目視で確認しながら、保持面から離脱させたい移植片の位置や、流体圧力の増減の必要性を判断し、判断に基づいた器具の操作を入力部から行ってもよい。
【0040】
以上、本発明の移植器具を説明したが、上記以外の様々な態様が可能である。したがって、上記態様を、本発明の思想を逸脱しない範囲で改変した種々の態様もまた本発明の範囲に包含され、かかる改変は当業者にとっては容易に理解可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移植片を標的部位に移植するための器具であって、
(i)移植片を保持するための保持部
(ii)保持部に設けられた少なくとも2つの開口部
(iii)開口部に流体圧を供給する少なくとも1つの流体圧供給源
(iv)開口部への流体圧を開口部および/または開口部群毎に調整する調整部
を含む、前記器具。
【請求項2】
移植片が、シート状である、請求項1に記載の器具。
【請求項3】
保持部の先端部が交換可能である、請求項1または2に記載の器具。
【請求項4】
移植片の保持部への装着状態および/または保持部からの離脱状態を検知するセンサー部をさらに含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の器具。
【請求項5】
調整が、流体圧供給のON、OFF、供給圧力の調整、および開口部に設けられた開閉手段の制御から選択される1または2以上により行われる、請求項1〜4のいずれか一項に記載の器具。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の器具の操作方法であって、
(i)移植片を、少なくとも2つの開口部が設けられた保持部に装着するステップ。
(ii)開口部への流体圧を開口部および/または開口部群毎に調整して、移植片を保持部から離脱させるステップ
を含む、前記方法。
【請求項7】
移植片の保持部への装着および/または保持部からの離脱をセンサーからの情報により判断し、開口部および/または開口部群毎への流体圧の調整を、前記判断に基づき行うステップをさらに含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
移植片が、シート状である、請求項6または7に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−29909(P2012−29909A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−172631(P2010−172631)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】