説明

移植用芝の敷設方法

【課題】 移植後における芝草の成長を促進し、均一かつ確実に育成できる方法を提供する。
【手段】 移植場所に芝を敷設する方法であって、芝を備えた植生土壌マットを地表に張るにあたり、セルロース系短繊維同士が三次元的に交絡してなる不織布を地表上に敷設した後、該不織布によって覆われた地表上に芝を備えた植生土壌マットを張ることを特徴とする移植用芝の敷設方法。
不織布を構成するセルロース系短繊維が、木綿繊維であることが好ましい。
不織布の目付が、20g/m〜40g/mであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芝を移植する際の敷設方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、公園などの緑地あるいは河川敷や法面などの芝面の造成や、ゴルフ場のグリーン等における芝生の育成は、芝生種子を手作業による直播や吹き付けを行い、芝を育成させていた。しかしこのような手作業での直播や吹き付け工法は、人手を要して手間がかかる。
【0003】
そこで、適度な厚みを有する不織布やシート等の基布や保形成を有する土壌マットに、芝の種子を蒔き、基布を植生土壌として芝を育成させ、育成した芝草付きの植生土壌マットを所定の場所に敷設する方法が能率がよいとして採用されている。例えば、特許文献1には、繊維を糸状に絡ませてシートマットとした多孔質構造体に土砂等の充填材を含有させた植栽基盤シートマットに芝等の植物を植生させて、この植物が植生してなる植栽基盤シートマットを施行場所に搬送して敷設する方法が記載されている。
【0004】
しかしながら、上記のようにマットに植生した芝を特定の敷設場所に敷設した後、敷設場所において、より早く良好に芝が育成することが望まれることがある。例えば、ゴルフ場では、ティグランド、フェアウェイおよびグリーンなどにおいて欠損した芝生の補修を行うため、ナセリと称される芝管理地を持ち、このナセリで栽培した芝生で前記欠損した芝生の補修を行っているが、補修箇所の芝の状態が他の箇所と異ならないように、補修箇所の芝草をより早く良好に育成させて、芝草の色や育成状態にムラがなく、全体に均一な状態にする必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−89038号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、移植後における芝草の成長を促進し、均一かつ確実に育成できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記課題を達成するために鋭意検討した結果、本発明に到達した。
【0008】
すなわち、本発明は、移植場所に芝を敷設する方法であって、芝を備えた植生土壌マットを地表に張るにあたり、セルロース系短繊維同士が三次元的に交絡してなる不織布を地表上に敷設した後、該不織布によって覆われた地表上に芝を備えた植生土壌マットを張ることを特徴とする移植用芝の敷設方法を要旨とするものである。
【0009】
本発明は、移植後における芝の成長を良好にするための敷設方法であり、移植に用いる芝の形態については特に限定されず、種子の状態からある程度芝草として成長した芝が、土壌マットに備わってなる植生土壌マットを用い、これを所定の移植場所に敷設する。植生土壌マットとしては、芝が植設された基盤となるものであれば、特に限定されず、いわゆる土砂や砂質土等の土壌のみからなるものであっても、不織布や繊維マットやシート等の繊維製等のマットからなるものであっても、繊維製等のマットと土壌とが混合してなるものであってもよい。
【0010】
本発明においては、芝を備えた植生土壌マットを移植場所となる地表に張るにあたり、まず、セルロース系短繊維同士が三次元的に交絡してなる不織布を地表上に敷設する。そして、前記不織布が敷設されてなり、不織布によって覆われた地表上に芝を備えた植生土壌マットを設置する。
【0011】
地表上に敷設する不織布は、セルロース系短繊維によって構成される。セルロース系短繊維としては、木綿繊維が好ましい。木綿繊維以外のセルロース系短繊維としては、例えばレーヨンやリヨセルが挙げられる。不織布は、これらセルロース系短繊維が1種のみから構成されるものであってもよいし、2種以上のセルロール系短繊維が混合されたものであってもよい。セルロース系短繊維の繊維長は、10〜100mm程度のものを用いる。セルロース系短繊維は、繊維自体に吸水性を有する。また、不織布は、繊維同士が三次元的に交絡してなるものであるため、繊維間の空隙が大きく、空隙内に水分を溜め込むことができる。したがって、セルロール系短繊維が三次元的に交絡してなる不織布は、保水性に非常に優れたものであり、この保水性に優れた不織布が地表を覆うため、地表が乾き難く、地盤が適度な水分を保った状態を保持することができ、芝の成長に寄与する。また、移植後に人手等による水遣りの頻度を少なくすることができ、省力化の点でも効果がある。
【0012】
不織布の目付は、20g/m〜40g/mが好ましい。20g/m未満であると、不織布を敷設する効果が発揮されにくく、40g/mを超えると、不織布の厚みが大きくなる傾向となり、移植後の芝から成長した根が、不織布下の地表に届きにくくなる。
【0013】
不織布は、表面が平滑なものが好ましく用いられる。これは、芝の根を豊富に成長促進させるためであり、すなわち、移植後の芝から根が成長する段階で、成長した根が一旦、不織布表面にて効果的に抵抗を受けさせることにより、根の成長を促進させることができるためである。不織布において表面から裏面にかけて容易に貫通する孔が多数存在していると、根は、不織布表面で不織布による抵抗を受けることなく、不織布が有する孔を一気に貫通して地表に到達することとなり、不織布を敷設する効果がなくなる。根が、垂直下に成長し、一旦、不織布表面に当たり抵抗を受けることにより、太い根を豊富に生じさせることができるのである。すなわち、移植直後の芝の根は、成長を始めると、芝の下に敷設した不織布に突きあたって抵抗を受ける。そして、抵抗を受けた根は、こぶ(カルス)をつくる。さらに、そのこぶ(カルス)から多数の細根が発生し、より栄養分を吸収できる状態となり、主根と多数の細根が成長し、より多い栄養分を吸収し、根の活着が促進し、また、芝の成長が促進することとなる。不織布として、表面が平滑なものを得るためには、後述する繊維同士を交絡させるための水流交絡処理を施す際に用いる支持体として、25〜100メッシュの織物を用いるとよい。より好ましくは、50〜100メッシュの織物である。
【0014】
本発明における不織布は、例えば、公知のカードウェッブを作成した後、水流交絡処理を施すことにより得られる。具体的には、セルロース系短繊維群をカード機にて開繊してカードウェッブとする。カード機とは短繊維群を針布で梳る機械である。カード機の入口に絡みあったセルロース系短繊維群を投入すると、これらの短繊維群が針布で梳られ、カード機の出口から開繊および集積された状態のシート状物が排出される。排出されたシート状物は、そのままの状態で搬送され、または二層以上に積層され、または適宜折り畳まれ(クロスレイド等)、セルロース短繊維ウエブが形成される。次いで、得られたセルロース系短繊維ウェッブに高圧水流を施す。高圧水流を施す際、メッシュ状支持体に担持し、高圧水流はメッシュ状支持体側の反対側から施す。高圧水流は、孔径0.05〜2.0mmの噴射孔が、噴射間隔0.05〜10mmで一列または複数列配列されている噴射装置を用い、たとえば、1.5〜20MPaの水を噴出させて得られるものである。高圧水流は、セルロース系短繊維ウェッブに1回または2回以上施す。この高圧水流は、メッシュ状支持体に担持されているセルロース系短繊維ウェッブに衝突すると、高圧水流のエネルギーがウエブの構成繊維(セルロース系短繊維)を運動させるエネルギーとなり、構成繊維相互間を交絡させるのである。すなわち、セルロース系短繊維同士を交絡させて一体化させる。そして、積層体に衝突した後には、メッシュ状支持体の孔から下方へ水が排出されるのである。メッシュ状支持体としては、任意のメッシュ形態のものを採用すればよいが、得られる不織布の表面は平滑であることが好ましいことから、25〜100メッシュの織物を用いることが好ましく、50〜100メッシュがさらに好ましい。なお、ここでいうメッシュとは、1インチ当たりの線の和を指し、例えば100メッシュの織物は、1インチあたり100本の線が存在することを指す。
【0015】
本発明における不織布には、芝の成長をより促進させるための肥料や成長促進剤が含まれていてもよい。肥料や成長促進剤としては、不織布に容易に付与できることから液体のものを好ましく用いられる。不織布に付与する有効成分としては、花こう閃緑岩系鉱物の微細粉末と植物性有機酸とを混合浸漬して得られる天然ミネラル群が好ましく、具体的には、特開2010-100790号公報に記載のミネラル群を使用するとよい。
【0016】
本発明における不織布に成長促進のための有効成分が含まれる液体を含ませる方法としては、上記した水流交絡処理を施した後、水流交絡による余剰水分を不織布から除去し、所定量の肥料、ミネラル群、アミノ酸等が含有された液体を、不織布に噴霧、含浸、キスコート等により付与させるとよい。液体を付与させた後は、乾燥処理を施して、所定量の有効成分(窒素、リン、カリウム、アミノ酸、ミネラル群、ビタミン、蛋白質等)を付着させることができる。
【0017】
本発明は、芝の移植場所となる地表に、上記した不織布を敷設し、その上に芝を備えた植生土壌マットを張る。移植された芝の根は、地表に活着しようとして成長を始め、地表上に敷設された不織布に到達する。不織布に到達した根は、不織布表面で抵抗を受け、カルスをつくり、カルスからは細根が発生する。これを繰り返しながら、主根は太くなり細根は量を増やしながら、それぞれ成長を続ける。一方、不織布は、セルロース系繊維によって構成されているため、地中における微生物により生分解が始まり、繊維が木綿繊維の場合は、2ヶ月程度でほぼ分解が完了する。繊維が生分解を始めると、不織布強度が低下し、また、不織布内の繊維間の間隙が大きくなり、成長を続けた主根と細根は、不織布内の大きくなって通りやすくなった繊維間隙内に入り込み、地表へ到達する。不織布に肥料が付与している場合は、不織布が生分解する過程で、肥料成分が徐々に土中へ移行し、芝の成長に寄与する。
【0018】
本発明の移植芝の敷設方法は、移植後の芝を良好に成長させることができるため、公園や様々な緑地、法面等への移植に有用である。特に、芝草の色や育成状態にムラがなく均一な状態にすることが要されるゴルフ場の補修用の移植として有用である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、移植後の芝を良好に成長させることができる。
【実施例】
【0020】
以下、本発明を実施例に基づき説明する。
【0021】
実施例1
セルロース系短繊維として、単糸繊度1.7デシテックス、平均繊維長25mmの木綿繊維を準備し、これをランダムカードにて開繊し、約30g/mの不織ウェッブを得た。得られた不織ウェッブを移動式100メッシュのプラスチック製織物からなるメッシュ状支持体上に載置し、ノズル孔径0.13mmの噴射孔が孔間隔0.6mmで横一列に配置された噴射装置を用い、噴射圧5.5MPaで3回処理し、次に反転させて反対面より噴射圧5.5MPaで3回処理し、三次元的に交絡してなる不織布を得た。
【0022】
次に、成長促進剤(植物酵素,フルボ酸,ミネラル群,各種アミノ酸(エビ頭部微粉末),蛋白質,多糖類,脂質,食物繊維,ビタミン類等を有効成分として含有、固形分約1質量%、エス・エヌ・イー総合研究所社製)を水で50倍に希釈したものを不織布に付与する剤として用意し、キスコーターを用いて、不織布に1cc/m付着させた。その後、乾燥温度120℃の乾燥機で乾燥した。これによって目付30g/mの不織布を得た。
【0023】
実施例2
実施例1において、成長促進剤を付与しなかったもの、すなわち、セルロール系短繊維が三次元的に交絡してなる不織布を実施例2の不織布とした。
【0024】
比較例1
市販のセルロール系長繊維からなる目付30g/m2の不織布であって、構成繊維同士が三次元的に交絡してなるものを比較例1の不織布(旭化成製 商品名「ベンネット」)とした。
【0025】
実施例1、2および比較例1の不織布を用い、平成22年10月1日から12月1日までの2ヶ月間、岡崎カントリー倶楽部のナセリ場にて高麗芝を使用して移植後の成長を確認する試験を行った。すなわち、10月1日に地表にそれぞれの不織布を敷設した後、土壌付きの高麗芝を移植した。2ヶ月後となる12月1日、移植土壌をめくって移植後の高麗芝の根の状態等を確認した。
【0026】
実施例1および実施例2の芝は、芝草は青々としたものであり、根は、全体的に太いものであり、太い根(主根)から多数の細根が発生していた。また、移植土壌をめくる際にかなり抵抗があり、根が地中に良好に活着しているものであった。
【0027】
一方、比較例1の根は、全体的に細いものであり、実施例に比べて根の量は半分以下の少ないものであった。主根には細根がほとんど観察できなかった。また、移植土壌をめくる際にも、ほぼ抵抗なくめくることができたので、根が十分に地表に活着していないものであった。
【0028】
なお、実施例1、2および比較例1ともに、2ヶ月後には、敷設した不織布は、生分解が促進したことによりほとんど形態が残存していなかった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
移植場所に芝を敷設する方法であって、芝を備えた植生土壌マットを地表に張るにあたり、セルロース系短繊維同士が三次元的に交絡してなる不織布を地表上に敷設した後、該不織布によって覆われた地表上に、芝を備えた植生土壌マットを張ることを特徴とする移植用芝の敷設方法。
【請求項2】
不織布を構成するセルロース系短繊維が、木綿繊維であることを特徴とする請求項1記載の移植用芝の敷設方法。
【請求項3】
不織布の目付が、20g/m〜40g/mであることを特徴とする請求項1および2に記載の移植用芝の敷設方法。
【請求項4】
芝の移植場所が、ゴルフ場の補修箇所であることを特徴とする請求項1記載の移植用芝の敷設方法。


【公開番号】特開2013−31387(P2013−31387A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−168348(P2011−168348)
【出願日】平成23年8月1日(2011.8.1)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】