説明

移植装置

【課題】分離後の紙筒苗を落下開始位置まで適切に移送できる移植装置を提供する。
【解決手段】移植装置の紙筒苗分離部は、紙筒整列苗の搬送方向前端の紙筒苗2の前面に当接する規制体31と、この規制体31とともに紙筒苗2を捕捉する針部33を有する針付可動体34とを備える。紙筒苗分離部による紙筒苗2の分離の際に、紙筒苗2を捕捉した規制体31および針部33が、その紙筒苗2の底部近傍を中心としてその紙筒苗2と一体となって前方に回動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の紙筒を分離可能に連結した育苗容器で育苗した紙筒整列苗から紙筒苗を分離して圃場に移植する移植装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えばビート耕作は安定した増収のため移植栽培されているが、その移植は、個々の紙筒を蜂の巣形状に整然と配列して分離可能に連結した育苗容器を用い、これに土詰めおよび播種して育苗した紙筒整列苗を個々の紙筒苗に分離し、移植装置で移植している。しかし、現在、その移植装置には、ビート耕作の発展に対応して、狭い畦幅で移植でき、任意の畦幅で多畦化でき、給苗を全自動化でき、簡単・コンパクトで、安価にすることが求められており、それらを総合的に解決するため、自然落下を活用したビート移植機の開発がなされ、完成度を高める改良が順次なされている。
【0003】
そして、従来から、例えば紙筒整列苗を搬送方向に搬送する紙筒整列苗搬送部と、紙筒整列苗の搬送方向前端の紙筒苗を分離しこの分離後の紙筒苗を落下開始位置まで移送して落下させる紙筒苗分離部と、この紙筒苗分離部から落下した紙筒苗を受け入れこの受け入れた紙筒苗を圃場の植付け溝まで案内する紙筒苗案内部とを具備し、紙筒苗分離部が、規制体支持体にて回動中心軸(ピン)を中心として回動可能に支持され紙筒整列苗の搬送方向前端の紙筒苗の前面に当接する規制体と、紙筒整列苗の搬送方向前端の紙筒苗に差し込まれて規制体とともにその紙筒苗を捕捉する針部を有する針付可動体とを備えた移植装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平3−187304号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の移植装置では、回動中心軸(ピン)が前進をはじめると、紙筒整列苗と分離する紙筒苗との隣接した粘着面は上方から下方へ次第に引き剥がされて行くが、このとき、分離中の紙筒苗は底部近傍を中心として前傾して行き、規制体は回動中心軸(ピン)を中心として前傾して行くが、回動中心軸(ピン)が描く軌跡の中心は紙筒苗の底部近傍からはずれており、このため、紙筒苗を捕捉した規制体および針部がその分離中の紙筒苗に対して上方にずれ動くこととなる。
【0005】
その結果、針部が紙筒苗の固まっている包土を掻き乱し、捕捉力が弱くなり、分離後の紙筒苗が落下開始位置まで移送される前に落下してしまうおそれがあり、また針部が紙筒苗を破損するおそれもある。
【0006】
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、分離後の紙筒苗を落下開始位置まで適切に移送できるとともに、針部で紙筒苗を破損する不具合を防止できる移植装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の移植装置は、複数の紙筒を分離可能に連結した育苗容器で育苗した紙筒整列苗から紙筒苗を分離して圃場に移植する移植装置であって、紙筒整列苗を搬送方向に搬送する紙筒整列苗搬送部と、紙筒整列苗の搬送方向前端の紙筒苗を分離し、この分離後の紙筒苗を落下開始位置まで移送して落下させる紙筒苗分離部と、この紙筒苗分離部から落下した紙筒苗を受け入れ、この受け入れた紙筒苗を圃場の植付け溝まで案内する紙筒苗案内部とを具備し、前記紙筒苗分離部は、紙筒整列苗の搬送方向前端の紙筒苗の前面に当接する規制体と、紙筒整列苗の搬送方向前端の紙筒苗に差し込まれて前記規制体とともにその紙筒苗を捕捉する針部を有する針付可動体とを備え、前記紙筒苗分離部による紙筒苗の分離の際に、紙筒苗を捕捉した前記規制体および前記針部が、その紙筒苗の底部近傍を中心としてその紙筒苗と一体となって前方に回動するものである。
【0008】
請求項2記載の移植装置は、請求項1記載の移植装置において、針付可動体の針部は、紙筒苗の底部近傍まで差し込むことが可能な円弧形状に形成され、前記針部は、紙筒苗の底部近傍まで差し込まれた状態で、この針部の下端部近傍を中心として前方に回動するものである。
【0009】
請求項3記載の移植装置は、請求項1または2記載の移植装置において、規制体は、規制体支持体にて回動中心軸を中心として回動可能に支持され、前記回動中心軸は、紙筒苗分離部による紙筒苗の分離の際に、その紙筒苗の底部近傍を中心とした円弧上を移動するものである。
【0010】
請求項4記載の移植装置は、請求項3記載の移植装置において、規制体支持体は、機枠に固着された挿通軸が摺動可能に挿通された長孔を有し、前記長孔は、円弧状部と直線状部とにて構成され、前記挿通軸が前記長孔の円弧状部を摺動するときに、回動中心軸が紙筒苗の底部近傍を中心とした円弧上を移動するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、紙筒苗分離部による紙筒苗の分離の際に、紙筒苗を捕捉した規制体および針部がその紙筒苗の底部近傍を中心としてその紙筒苗と一体となって前方に回動する構成であるから、針部が紙筒苗の包土を掻き乱すようなことがなく、所望の捕捉力を維持できるため、分離後の紙筒苗を落下開始位置まで適切に移送でき、しかも、紙筒苗の分離の際において針部で紙筒苗を破損する不具合を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の移植装置の一実施の形態を図面を参照して説明する。
【0013】
図1および図2において、1は紙筒整列苗で、この紙筒整列苗1は、複数の六角筒状の紙筒を左右方向および前後方向に整然とハニカム状(蜂の巣形状)に配列して水溶性糊等で分離可能に連結した育苗容器を用い、この育苗容器内に土詰めおよび播種して育苗したものである。
【0014】
そして、図3および図4に示す移植装置3によって、その紙筒整列苗1から個々の紙筒苗2が順次分離されて圃場Aに移植される。なお、紙筒整列苗1は、個々の紙筒苗2が蜂の巣形状に配列されていることから、左右に隣接する紙筒苗2が前後にずれて配列されている。
【0015】
移植装置3は、例えば図示しないトラクタの後部の3点リンク部(作業機昇降支持装置)に連結され、トラクタの走行により前方に移動しつつ紙筒整列苗1から紙筒苗2を分離して圃場Aの植付け溝A1に移植する装置である。
【0016】
移植装置3は、図3および図4に示すように、トラクタの後部の3点リンク部に連結される機枠5を備えている。機枠5の前側下部には圃場Aに植付け溝A1を形成する開溝器6が設けられ、機枠5の後側下部には鎮圧輪7が左右方向の軸8を中心として回転可能に設けられている。
【0017】
また、機枠5には、紙筒整列苗1をこの紙筒整列苗1の前後面のいずれかの面を前方に向けた状態で搬送方向に搬送する紙筒整列苗搬送部11と、この紙筒整列苗搬送部11にて搬送される紙筒整列苗1の搬送方向前端の紙筒苗2をこの紙筒苗2の左右両側で後方にずれて位置する両紙筒苗2の前面を押えながら分離しこの分離後の紙筒苗を落下開始位置まで移送して落下させる紙筒苗分離部12と、この紙筒苗分離部12から落下した紙筒苗2を受け入れこの受け入れた紙筒苗2を圃場Aの植付け溝A1まで案内する紙筒苗案内部13とが設けられている。
【0018】
紙筒整列苗搬送部11は、前方に向ってやや下り傾斜したコンベヤフレーム21を備え、このコンベヤフレーム21の前端部には駆動ローラ22が回転可能に設けられ、このコンベヤフレーム21の後端部には従動ローラ23が回転可能に設けられている。駆動ローラ22と従動ローラ23との間には、紙筒整列苗1を上面に載せて搬送方向に搬送する無端状の搬送ベルト24が回行可能に掛け渡されている。搬送ベルト24の搬送終端部には、紙筒整列苗1を案内する側面視略L字状の案内板25が連設されている。
【0019】
紙筒苗分離部12は、図6および図7等に示すように、紙筒整列苗1の搬送方向前端の紙筒苗2の前面に当接し紙筒整列苗1の搬送方向への移動を規制する規制体31と、この規制体31の案内部32にて案内されながら紙筒整列苗1の搬送方向前端の紙筒苗2に差し込まれて規制体31とともにその紙筒苗2を捕捉する針部33を有する針付可動体34とを備えている。
【0020】
規制体31は、細長板状の規制体本体部36を有し、この規制体本体部36の下端側が紙筒苗2の前面に面状に当接する当接部分37となっており、この当接部分37は紙筒苗2の前面のうち少なくとも下半部と当接する。規制体本体部36の上端側が機枠5に固着された左右方向の係合軸30と係合する係合受部分38となっている。規制体本体部36の上下方向略中央部には、針部33を摺動可能に保持してこの針部33の移動を案内する複数の案内部32が設けられている。
【0021】
そして、規制体31の上下方向略中央部が、前後方向に細長い板状の規制体支持体(往復動体)41の後端部の突出状の被取付部45に左右方向の回動中心軸である軸(ピン)42を介して回動可能に取り付けられている。すなわち、規制体31は、規制体支持体41にて軸42を中心として回動可能に支持されており、規制体31の一方向(図7中、時計回り)への回動は規制体支持体41の第1当接部43との当接により規制され、規制体31の他方向(図7中、反時計回り)への回動は規制体支持体41の第2当接部44との当接により規制される。
【0022】
規制体支持体41は、機枠5に固着された板状の前後一対の案内体46,47に複数形成された溝部48,49内に前後方向に摺動可能に嵌合支持されている。なお、案内体47の下端部には、針抜出時に落下開始位置で紙筒苗2の上面部と当接する水平状の苗受け部である苗受け板(当て板)40が一体的に設けられている。
【0023】
なお、紙筒整列苗1の搬送方向前端にジグザグ状に並んだ位置する各紙筒苗2に対応するように、案内体46,47の複数の溝部48,49の各々には規制体支持体41が摺動可能に嵌合支持され、この各規制体支持体41に規制体31、針付可動体34および後述の回動アーム体51がそれぞれ連結されている。そして、1つの規制体支持体41、この規制体支持体41に連結された1つの規制体31および1つの針付可動体34等にて単列苗分離手段50が構成され、各単列苗分離手段50は図2に示す一点鎖線上に位置するように並列配設されている。
【0024】
また、規制体支持体41には前後方向に長手状で所望形状をなす長孔(カム溝)53が形成され、この長孔53には機枠5に固着された左右方向の挿通軸54が摺動可能に挿通されている。規制体支持体41の前後方向略中央部には、側面視で略L字状をなす回動アーム体51の上端部が左右方向の軸(ピン)55を介して回動可能に取り付けられている。回動アーム体51は、機枠5に固着された左右方向のアーム用支軸56にて回動可能に支持され、この回動アーム体51は、第1カム受部61および第2カム受部62を下部に有している。
【0025】
規制体支持体41の前後方向略中央部には下方に向って突出する突出部分63が形成され、この突出部分63に針付可動体34が左右方向の回動中心軸である軸(ピン)64を中心として差込方向および抜出方向に回動可能に設けられている。つまり、針付可動体34が規制体支持体41に軸64を介して回動可能に取り付けられ、針付可動体34の軸64を中心とする差込方向への回動によって針部33が規制体31に対して下方に移動して紙筒苗2に差し込まれ、針付可動体34の軸64を中心とする抜出方向への回動によって針部33が規制体31に対して上方に移動して紙筒苗2から抜き出されるようになっている。
【0026】
針付可動体34は、細長板状の可動体本体部66を有し、この可動体本体部66の一端部である上端部には針部33の上端部が左右方向の軸(ピン)67を介して回動可能に取り付けられている。針部33は、規制体31の案内部32にて摺動可能に保持されており、この針部33は紙筒苗2の底部近傍まで差し込むことが可能な円弧形状に形成されている。可動体本体部66の他端部である下端部には、略三角形状をなす係合受部68が一体的に設けられている。
【0027】
また、紙筒苗分離部12は、図6および図7等に示すように、針付可動体34の針部33を紙筒苗2に差し込む針差込時に針付可動体34の係合受部68と係脱自在に係合してこの針付可動体34を動かす、例えば軸64を中心として差込方向に回動させることにより、紙筒整列苗1の搬送方向前端の紙筒苗2に針部33を差し込む針差込手段(差込用駆動手段)71と、針付可動体34の針部33を紙筒苗2から抜き出す針抜出時に針付可動体34の係合受部68と係脱自在に係合してこの針付可動体34を動かす、例えば軸64を中心として抜出方向に回動させることにより、落下開始位置に位置する分離後の紙筒苗2から針部33を抜き出す針抜出手段(抜出用駆動手段)72とを備えている。
【0028】
針差込手段71は、機枠5に回転可能に設けられた左右方向の第1駆動軸(カム軸)73を有し、この第1駆動軸73には回動アーム体51の第1カム受部61と接触する板状の第1カム74および回動アーム体51の第2カム受部62と接触する板状の第2カム75が固着されている。
【0029】
そして、第2カム75の一側面には、第1駆動軸73とともに回転しこの回転途中で針付可動体34の係合受部68の後面と係合して針付可動体34を軸64を中心として差込方向に回動させる略板状の針差込用係合体76が固着されている(図8参照)。
【0030】
なお、第1カム74と第2カム75とにて構成され回動アーム体51と常時接触しているカム部77は所望形状に形成されており、規制体31は、第1駆動軸73の回転に伴い、当初は紙筒整列苗搬送部11による紙筒整列苗1の搬送方向への移動を規制しながら前方に移動し、その後は規制体31の当接部分37と針付可動体34の針部33とで捕捉した紙筒苗2を残りの紙筒整列苗1から分離し落下させる所定の位置まで引き離すように前方に移動するようになっている。
【0031】
また、このカム部77は、図示しないが、180度の位相差を持って隣接するカム部77と一対をなし、この一対をなすカム部77,77が順次所定の位相差を持って第1駆動軸73上に並列配設されている。すなわち、第1駆動軸73上に二重螺旋状に配列され、それぞれの螺旋は第1駆動軸73が180度回転する間に1/2巻きするように配列されている。また、紙筒整列苗搬送部11と紙筒苗分離部12とは、第2に示されるように平面的に角度差をもたせて連設されている。
【0032】
一方、針抜出手段72は、機枠5に回転可能に設けられ第1駆動軸73と平行に位置する左右方向の第2駆動軸(羽根車軸)81を有し、この第2駆動軸81にはこの第2駆動軸81とともに回転しこの回転途中で針付可動体34の係合受部68の前面と係合して針付可動体34を軸64を中心として抜出方向に回動させる略板状の針抜出用係合体(羽根)82が固着されている(図12参照)。
【0033】
また一方、図3および図4に示されるように、鎮圧輪7の軸8に固着されたスプロケット84と第1駆動軸73に固着されたスプロケット85との間には、無端状のチェーン86が掛け渡されている。駆動ローラ22の軸部22aに固着されたプーリ87と第1駆動軸73に固着されたプーリ88との間には、無端状のベルト89が掛け渡されている。第1駆動軸73と第2駆動軸81との間には第1駆動軸73からの動力を第2駆動軸81に伝達する伝動手段90が設けられている。この伝動手段90は、例えば第2駆動軸81を第1駆動軸73の回転方向とは反対の方向で、かつ伝動比が紙筒整列苗1の前面に配列されている紙筒苗2の本数の1/2をさらに針抜出用係合体82の数で割った数になるように増速して回転させるものである。
【0034】
このように、移植装置3では駆動ローラ22の軸部22a、第1駆動軸73および第2駆動軸81が、鎮圧輪7側からの動力に基づいて所定方向へ所定の回転速度で回転するようになっている。
【0035】
紙筒苗案内部13は、図5等に示すように、機枠5に固着され上方の紙筒苗分離部12から落下した紙筒苗2を受け入れこの受け入れた紙筒苗2を滑落させ下端部の排出口部92から排出する漏斗状シュート91を備えている。
【0036】
漏斗状シュート91は、下部に頂点を有する略二等辺三角形状をなす傾斜案内板部93を有し、この傾斜案内板部93の左右両側縁部には、紙筒苗2の片方の側面と接触して紙筒苗2を排出口部92に向けて案内する側板部94が設けられている。
【0037】
また、漏斗状シュート91の下端部には、開溝器6の後方位置で漏斗状シュート91の下端部の排出口部92から排出される紙筒苗2を受け入れこの受け入れた紙筒苗2の左右両側面と接触して紙筒苗2を圃場Aの植付け溝A1内まで案内する左右一対の案内板95が連設されている。
【0038】
次に、上記移植装置3の動作等を説明する。
【0039】
トラクタの後部の3点リンク部に機枠5の前部を連結してトラクタの走行によって移植装置3を牽引すると、開溝器6にて圃場Aに植付け溝A1が形成される。
【0040】
また、鎮圧輪7が軸8を中心として回転しながら前進し、この鎮圧輪7の回転が紙筒苗分離部12の第1駆動軸(カム軸)73に伝達されて紙筒苗分離部12が作動するとともに、第1駆動軸73の回転が紙筒整列苗搬送部11の駆動ローラ22の軸部22aに伝達されて搬送ベルト24が回行し、この搬送ベルト24上に載置された紙筒整列苗1が一定速度で紙筒苗分離部12の後端部に送り込まれる。
【0041】
このとき、紙筒整列苗搬送部11が紙筒苗分離部12に対して所定角度をもって傾斜して連設されているとともに、この紙筒整列苗搬送部11の前端部に配設されている案内板25の前縁が紙筒苗分離部12に対して直角になっていることから、送り出される紙筒整列苗1の前面に配列されている紙筒苗2は、紙筒整列苗1の前面の一端から順次案内板25前縁の所定の分離位置に到達する。
【0042】
次いで、このようにして紙筒苗分離部12に搬送される紙筒整列苗1の前面から個々の紙筒苗2を分離する作動を説明するため、まず、単列苗分離手段50の作動について説明する。
【0043】
図7ないし図13に示すように、第1駆動軸73の回転に伴い、カム部77が回転し、このカム部77の回転により回動アーム体51がアーム用支軸56を中心として回動し、その結果、規制体支持体41が前後方向に略沿って往復動する。この規制体支持体41は、前方を軸55により規制され、後方を長孔53と挿通軸54との係合により規制されながら往復動する。
【0044】
規制体31は、軸42を介して規制体支持体41の後端部に回動可能に連結されているが、紙筒整列苗1の搬送方向前端の紙筒苗2の前面に当接しているときは、この紙筒苗2にて前方に押され、規制体支持体41の第2当接部44に当接して当接部分37が直立姿勢を保ち、その当接部分37は直立姿勢のままカム部77から伝達された作用により、紙筒苗2の搬送方向への移動を規制しながら前方に移動する。
【0045】
当初、針付可動体34の針部33は上方に持ち上げられているが、規制体31が紙筒苗2の搬送方向への移動を規制しながら前方に移動している間に、第1駆動軸73の回転に伴い、針差込手段71の針差込用係合体76が回転して針付可動体34の係合受部68と係合して針付可動体34を軸64を中心として差込方向に回動させ、この針付可動体34の差込方向への回動により針部33が下方へ移動して紙筒苗2に差し込まれる。このとき、円弧形状の針部33は、関連する機構の構成から、その針部33の円弧の延長線上に沿って移動して紙筒苗2にその底部近傍まで突き刺さり、規制体31とともにその紙筒苗2を捕捉する(図9参照)。
【0046】
その後、針付可動体34の係合受部68は、規制体支持体41とともに分離移送行程に入り、急速に前方に移動しはじめるので、針差込用係合体76との係合は解かれる。
【0047】
次いで、規制体31が紙筒苗2の搬送方向への移動を規制する工程を終わり、分離移送行程に入って急速に前方への移動をはじめ、この規制体31の当接部分37と針付可動体34の針部33とにて捕捉された紙筒苗2を隣接する紙筒苗2との間の粘着力に抗して引き剥がして分離する際には、引き剥がしの抵抗力が少なくなるように、自然に上方から引き剥がされるが、それにともなって、捕捉した紙筒苗2とともに、規制体31は前傾を続け、規制体31が規制体支持体41の第1当接部43に当接して前傾が止まる(図10参照)。
【0048】
このとき、図14に示すように、規制体31の回動支点である軸42の描く軌跡は、規制体支持体41の長孔53の形状と関連する構造から、分離する紙筒苗2の底部近傍を中心とする円弧Bを描く。つまり、規制体支持体41の後端部に位置する軸42は、紙筒苗分離部12による紙筒苗2の分離の際に、その紙筒苗2の底部近傍を中心とした円弧B上を移動する。
【0049】
その結果、紙筒苗2を捕捉した規制体31の当接部分37および針付可動体34の針部33は、その紙筒苗2の底部近傍(当接部分37の下端部近傍、針部33の下端部近傍)を中心として紙筒苗2を捕捉した状態のまま紙筒苗2と一体となって前方に回動、つまり前傾する。なお、規制体支持体41の長孔53は、前側の円弧状部53aと後側の直線状部53bとにて構成され、挿通軸54が円弧状部53aを摺動するときに、軸42が紙筒苗2の底部近傍を中心とした円弧B上を移動する。
【0050】
このため、分離中の紙筒苗2の下部が隣接する紙筒苗2と粘着している状態であっても、規制体31の当接部分37および針付可動体34の針部33が紙筒苗2に対してずれ動くことがなく、紙筒苗2の包土が掻き乱されるようなことはない。
【0051】
その後、規制体31は、分離移送行程の前方への移動を続けると、規制体31の係合受部分38が係合軸30と係合してその係合軸30上を摺動し、前傾姿勢から直立姿勢に修正される(図11および図12参照)。
【0052】
次いで、針抜出手段72の針抜出用係合体(羽根)82は常に第1駆動軸73よりも高速回転しているが、分離移送行程の終点近傍で、つまり分離後の紙筒苗2が落下開始位置まで移送されて落下開始位置に位置した状態で、針付可動体34の係合受部68と係合し、この係合受部68を急速に押し下げる。その結果、針付可動体34が軸64を中心として抜出方向に回動し、分離後の紙筒苗2から針部33が抜き出される(図13参照)。
【0053】
このとき、落下開始位置に位置した紙筒苗2の上面部は、その上に位置する苗受け板40に当接して上方への移動が規制されているので、紙筒苗2が針部33の上昇により引きずられて持ち上げられおそれはない。こうして、紙筒苗2は、規制体31と針付可動体34とによる捕捉が解かれて自然落下する。
【0054】
ここで、上記の単列苗分離手段50は、紙筒整列苗1の前面に配列された紙筒苗2のそれぞれに対向して並列配設されているが、この単列苗分離手段50を作動させるカム部77は、180度位相差を持つ隣接するカム部77と一対をなし、さらにこれらの一対をなすカム部77を第1駆動軸73上に第1駆動軸73の1回転で1巻きになる螺旋状に配列してあるため、すなわち、1つのカム部77が二重螺旋状に配列されているため、1つの単列苗分離手段50が分離移送行程に入るときには、隣接する単列苗分離手段50は、紙筒苗2の搬送方向への移動を規制する行程にあり、そのことにより、隣接する紙筒苗2の前面を押さえながら分離すべき紙筒苗2を分離する作用を果たす。そして、紙筒整列苗1の前面の一端から順次紙筒苗2を分離し、所定の落下位置から順次落下させることになる。
【0055】
規制体31と針付可動体34とによる捕捉が解かれて自然落下を開始した紙筒苗2は、図3に示すように、いずれも、漏斗状シュート91の傾斜案内板部93に当接して滑落し、次に図5に示すように側板部94に底面の1つの角が当接して、この側板部94の傾斜に沿って滑降し、漏斗状シュート91の中央側に集められる。
【0056】
漏斗状シュート91の下端部の排出口部92では、紙筒苗2は、図3に示すように、後傾を強める曲線で案内されるため、遠心力で底方向に押しつけられながら、直立するように姿勢を制御されてから、圃場Aの植付け溝A1に向けて排出される。この排出された紙筒苗2は、左右一対の案内板95にて正確に植付け溝A1に導かれて移植される。
【0057】
そして、上記移植装置3によれば、紙筒苗分離部12が、針差込時に針付可動体34と係合してこの針付可動体34を動かすことにより紙筒整列苗1の搬送方向前端の紙筒苗2に針部33を差し込む針差込手段71と、針抜出時に針付可動体34と係合してこの針付可動体34を動かすことにより分離後の紙筒苗2から針部33を抜き出す針抜出手段72とを備える構成であるから、針付可動体34を常に抜出方向に付勢するようなスプリングを用いることなく、それぞれ別個に設けられた針差込手段71および針抜出手段72を用いることによって、紙筒苗2に対する針部33の差込および抜出を適切に行うことができる。
【0058】
すなわち例えば、常時針付可動体34を抜出方向に付勢するスプリングは取り除かれ、紙筒苗2に針部33を差し込む際には、紙筒苗2に差し込むのに必要な力のみを加えればよく、差し込んだ状態で分離する間は何ら力を加える必要が無く、また針部33を抜き出す際には、紙筒苗2から針部33を抜き出すのに必要な力のみを加えればよいので、針差込用係合体(カム)76に加えられる負担は大幅に軽減する。また、そのため、針部33を紙筒苗2の底部近傍まで差し込んでも、針差込用係合体(カム)76の負担の増大も軽微ですむ。
【0059】
また、紙筒苗2に針部33を差し込む際には、その針部33は円弧形状で、その円弧に沿って移動して紙筒苗2に差し込まれるので、差し込むの抵抗力が少なくなる。
【0060】
さらに、針差込用係合体(カム)76は、主として円周方向の変位により針付可動体34の係合受部68を押し上げるので、作動距離が大きくなり、針部33を紙筒苗2の底部近傍まで容易に差し込むことができる。
【0061】
また、紙筒苗2から針部33を抜き出す際には、分離後の紙筒苗2が落下開始位置に位置した状態で、針付可動体34の係合受部68と常時第1駆動軸73より高速回転している第2駆動軸81に設けられた針抜出用係合体(羽根)82とが係合して、その針抜出用係合体(羽根)82が針付可動体34の係合受部68を押し下げるので、針部33を紙筒苗2から急速・確実に抜き出すことができる。
【0062】
また一方、紙筒苗分離部12による紙筒苗2の分離の際に、紙筒苗2を捕捉した規制体31の当接部分37および針部33がその紙筒苗2の底部近傍を中心としてその紙筒苗2と一体となって前方に回動する構成であるから、針部33が紙筒苗2の包土を掻き乱すようなことがなく、当接部分37および針部33による所望の捕捉力を維持できるため、分離後の紙筒苗2を落下開始位置まで適切に移送でき、しかも、紙筒苗2の分離の際において針部33で紙筒苗2を破損する不具合を防止でき、さらに、分離後の紙筒苗2を紙筒整列苗1から十分な距離引き離すことができるため、分離後の紙筒苗2の茎葉と紙筒整列苗1で隣接する紙筒苗2の茎葉とが絡んでしまう不具合も防止できる。
【0063】
また、規制体支持体41の後端部に位置する軸42の軌跡が、当初紙筒整列苗1の搬送を規制し、紙筒整列苗1から分離する紙筒苗2を引き剥がすため紙筒苗2の底部近傍を中心とする円弧Bを描き、所定の落下開始位置まで前進させる3つの作用を、規制体支持体41の長孔(カム溝)53と全部の単列苗分離手段50に対して共通する1本の挿通軸54とにより行うことができ、単純な構造で所望の効果を得ることができる。
【0064】
なお、規制体支持体41の長孔53およびこの長孔53と係合する挿通軸54は、それぞれ2つ組み合わせてもよい
また、規制体支持体41の長孔53はその上縁または下縁のみ使用するカム体とし、軸に押し付けながら前進させる構成でもよい。このとき、軸の代わりに機枠5に横架固定し同一横断面を持つカム体と規制体支持体41に設けたカム体との組み合わせでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の一実施の形態に係る移植装置にて移植される紙筒整列苗を示す斜視図である。
【図2】同上紙筒整列苗の平面図である。
【図3】同上移植装置の側面図である。
【図4】同上移植装置の平面図である。
【図5】同上移植装置の紙筒苗案内部の正面図である。
【図6】同上移植装置の紙筒苗分離部の斜視図である。
【図7】同上紙筒苗分離部の側面図である。
【図8】同上紙筒苗分離部の動作説明図である。
【図9】図8に続く動作説明図である。
【図10】図9に続く動作説明図である。
【図11】図10に続く動作説明図である。
【図12】図11に続く動作説明図である。
【図13】図12に続く動作説明図である。
【図14】同上紙筒苗分離部による苗分離の際における規制体および針付可動体を示す動作説明図である。
【符号の説明】
【0066】
1 紙筒整列苗
2 紙筒苗
3 移植装置
11 紙筒整列苗搬送部
12 紙筒苗分離部
13 紙筒苗案内部
31 規制体
33 針部
34 針付可動体
41 規制体支持体
42 回動中心軸である軸
53 長孔
53a 円弧状部
53b 直線状部
54 挿通軸
A 圃場
A1 植付け溝
B 円弧

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の紙筒を分離可能に連結した育苗容器で育苗した紙筒整列苗から紙筒苗を分離して圃場に移植する移植装置であって、
紙筒整列苗を搬送方向に搬送する紙筒整列苗搬送部と、
紙筒整列苗の搬送方向前端の紙筒苗を分離し、この分離後の紙筒苗を落下開始位置まで移送して落下させる紙筒苗分離部と、
この紙筒苗分離部から落下した紙筒苗を受け入れ、この受け入れた紙筒苗を圃場の植付け溝まで案内する紙筒苗案内部とを具備し、
前記紙筒苗分離部は、
紙筒整列苗の搬送方向前端の紙筒苗の前面に当接する規制体と、
紙筒整列苗の搬送方向前端の紙筒苗に差し込まれて前記規制体とともにその紙筒苗を捕捉する針部を有する針付可動体とを備え、
前記紙筒苗分離部による紙筒苗の分離の際に、紙筒苗を捕捉した前記規制体および前記針部が、その紙筒苗の底部近傍を中心としてその紙筒苗と一体となって前方に回動する
ことを特徴とする移植装置。
【請求項2】
針付可動体の針部は、紙筒苗の底部近傍まで差し込むことが可能な円弧形状に形成され、
前記針部は、紙筒苗の底部近傍まで差し込まれた状態で、この針部の下端部近傍を中心として前方に回動する
ことを特徴とする請求項1記載の移植装置。
【請求項3】
規制体は、規制体支持体にて回動中心軸を中心として回動可能に支持され、
前記回動中心軸は、紙筒苗分離部による紙筒苗の分離の際に、その紙筒苗の底部近傍を中心とした円弧上を移動する
ことを特徴とする請求項1または2記載の移植装置。
【請求項4】
規制体支持体は、機枠に固着された挿通軸が摺動可能に挿通された長孔を有し、
前記長孔は、円弧状部と直線状部とにて構成され、
前記挿通軸が前記長孔の円弧状部を摺動するときに、回動中心軸が紙筒苗の底部近傍を中心とした円弧上を移動する
ことを特徴とする請求項3記載の移植装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate


【公開番号】特開2007−202466(P2007−202466A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−25065(P2006−25065)
【出願日】平成18年2月1日(2006.2.1)
【出願人】(300066900)有限会社札幌プランター技研 (4)
【出願人】(000222978)東洋農機株式会社 (27)
【Fターム(参考)】