説明

稚魚保護育成礁

【課題】 キジハタ等の定着性稚魚を、大型魚からの食害を受けない時期まで保護、育成でき、コンパクトで、設置作業性に優れるとともに、稚魚に安全な餌場を提供し、稚魚の成長を促すことで、放流稚魚の生残り率の向上、漁獲の増大を図り、間伐材を用いることで、山林の維持管理や復興の一助ともなる稚魚保護育成礁を提供することを目的とする。
【解決手段】 鋼材等の構造材で六面体状に枠組みされた外部躯体と、外部躯体の内側(中央部)に構造材で方形状に形成され横架材で外部躯体と連結した内部躯体と、内部躯体の内側に配設された魚巣部及び/又は餌料増殖部とを有する育成区画と、外部躯体の内側と内部躯体の間の保護区画に配設された餌料培養材と、外部躯体及び/又は前記内部躯体の各六面に張設又は固定された大型捕食魚が通過できない目開きの網体や格子体からなる保護体とを備える構成を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工増殖した定着性魚種であるキジハタ、オコゼ、カサゴ等の放流稚魚を大型魚等からの食害を受けない時期まで保護・育成し、放流稚魚の生残り率を大幅に増加させる稚魚保護育成礁に関する。
【背景技術】
【0002】
沿岸海域におけるキジハタ等の定着性稚魚の放流事業は従来から行われており、通常、放流海域は同種の成魚が既に棲息し、漁獲されている海域が適海域として選ばれることが多い。しかし、人工増殖されたこれらの種の稚魚を棲息に適する海域に放流しても、自然環境に未馴致であるとともに、放流直後に該海域に先住するキジハタ、カサゴ等の成魚による食害を受ける可能性が大きく生残り率が低く、漁獲の増大には繋がっていないと考えられている。加えて、放流稚魚が2〜3年後に成長して漁獲される場合も放流海域から大きく移動していないとの調査結果から、放流後の稚魚の移動が少ないと推測され、育成に適した海域に稚魚を放流した場合でも大型魚(捕食魚)からの食害を防止し、ある程度成長するまでの間、保護・育成できる条件を確保できなければ放流の効果を得られないと考えられる。
この問題を解決するために、稚魚の育成を目的とした魚礁として、(特許文献1)には、「位置固定を図る載置ベース2と、この載置ベース2に取り付けて魚礁作用を発揮する魚巣ベース3と、稚魚、稚貝又は水生生物の出入りが可能で前記魚巣ベース3に嵌合する放流ベース1とからなる幼稚仔放流礁で、載置ベース2は構造フレーム10内に比重の大きな岩塊11を乱雑に充填したり、又は構造フレーム内に比重の大きなコンクリートブロックを積層して構成する人工的に孵化又は育成した稚魚又は稚貝を放流するための人工魚礁。」が開示されている。
また、(特許文献2)には、「上面を大型魚が通過できない網体を備えた開閉式とし、側面は台形状、下部を開放した筒体として、上部を開放して稚魚を放流し、筒体内部の空間に保護し、徐々に放流稚魚を分散させる人工魚礁」が開示されている。
一方、山林整備の副産物である間伐材の魚礁への利用は、山林復活、災害防止に役立つ他、魚礁へ取り付けた間伐材が腐朽し魚類の餌へ転換される過程は完全な自然循環を形成しCO2対策の有効手段とされているが、効果発揮期間が比較的短いこと、浮力を有し取付が煩雑であること等のため魚礁への利用は進んでいない現状である。
水産庁が平成18年3月に示した「魚礁への間伐材利用の手引」において、間伐材活用魚礁は、(1)コンクリートや鋼製の魚礁に比べ餌生物が多い。(2)沈設後の短期間でヨコエビ等の餌料が大量に発生する。(3)フナクイムシ等の穿孔性の生物が魚類餌料となる事を上げた他、間伐材の選定方法、耐久性、浮力対応、取付け方法を示し、間伐材は魚礁の機能部材として積極的に利用されるべきとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−233265号公報
【特許文献2】特開平07−184509号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】魚礁への間伐材利用の手引き(平成18年3月:水産庁漁港漁場整備部)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら上記従来の技術においては、以下のような課題を有していた。
(1)(特許文献1)に開示の技術においては、放流時の離散対策作用をもたらす放流用具及び放流施設を開発したものであり、放流時には稚魚の入り込んだ放流ベースを放流海域に運び、事前に設置してある魚礁の嵌合部に嵌め込むという大掛かりな作業が必要な上に、貝殻等を充填した通水性ネットからなる狭い籠体の内部には大型捕食魚は侵入できないが、放流ベースを含む魚巣ベースの間隙、岩塊を充填した載置ベース内の空所、脚を設けた場合の魚礁下部等には大型捕食魚が侵入、棲息し、放流した稚魚が捕食される危険性があるという課題を有していた。
(2)(特許文献2)に開示の技術においては、放流後に稚魚が急激に分散することをコントロールするものであり、魚礁頂部を開放して稚魚を内部に放流する作業を要し、魚礁内部が一個の大きな空間であって餌料増殖機能も備えていないことから放流稚魚の魚礁内部への滞留は少なく、長期間の保護育成が難しいという課題を有していた。
(3)(非特許文献1)に記載の技術においては、間伐材が徐々に衰耗し餌料増殖効果等が3〜5年で消失すること、付着した海藻等海中生物が衰耗と共に剥落すること等の課題を有し、長期間の保護育成効果を継続出来ないという課題を有していた。
【0006】
本発明は上記従来の課題を解決するもので、人工増殖されたキジハタ等の定着性稚魚の海域放流において、大型魚からの食害を受けない時期まで保護、育成することができるコンパクトで、設置作業性に優れると共に、稚魚の安全な餌場を提供して、稚魚の成長を促し、放流稚魚の生残り率の向上、漁獲の増大、しいては沿岸漁業の振興を図り、間伐材の魚礁への活用を新たな手法を用いることで増大させ、山林の維持管理や復興の一助ともなる稚魚保護育成礁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記従来の課題を解決するために、本発明の稚魚保護育成礁は、以下の構成を有している。
本発明の請求項1に記載の稚魚保護育成礁は、鋼材等の構造材で六面体状に枠組みされた外部躯体と、前記外部躯体の内側(中央部)に前記構造材で方形の筒状に形成され横架材で前記外部躯体と連結された内部躯体と、前記内部躯体の内側に配設された魚巣部及び/又は餌料増殖部とを有する育成区画と、前記外部躯体の内側と前記内部躯体の間の保護区画に配設された餌料培養材と、前記外部躯体及び/又は前記内部躯体の各六面に張設又は固定された大型捕食魚が通過できない目開きの保護体と、を備える構成を有している。
この構成により、以下のような作用が得られる。
(1)外部躯体又は内部躯体が捕食魚の通過できない目開きの金網等の保護体で囲われているため、稚魚保護育成礁内の放流稚魚が大型の捕食魚による食害にあう危険性を減少出来る。
(2)育成区画内に餌料増殖部を備え、保護区画内に餌料培養材を備えるので、稚魚が該育成礁の外部に出て餌をとる必要がなく、稚魚の早期離礁を防ぎ、またその分捕食される危険性を減らすことができ、稚魚の定着性や生残り率を増加させることができる。
(3)育成区画内に稚魚が外敵から身を隠すことのできる魚巣部を備えることで、棲息場所を形成すると共に荒天時の海水流動による稚魚の流出を防止できる。また、活動が低下し殆ど動かなくなる冬期間に於いても稚魚の食害被害を大きく低減でき、定着率を高めることができる。
(4)稚魚保護育成礁が潮流を阻害しない目開きの大きな保護体で形成されているので、新鮮な通水を確保でき良好な棲息環境を確保できる。
(5)キジハタ等の定着性稚魚は自然海域においては、自身の体長に応じた海底の岩場の穴や岩陰等暗い狭所に潜り込む習性を持つ。魚巣部は、自然海域の穴陰と同様の効果を果たす事になり、稚魚保護育成礁に多数の魚巣部を備えることは放流後のキジハタ稚魚等の早期の拡散・散逸を防止し、先住魚の食害を受けることなく、稚魚の多くを定着させることができる。
(6)キジハタ等の定着性稚魚は多数が飼育される養殖池等の閉鎖空間では群れているが、本来集団で行動する習性ではないため放流後の開放空間では生息場所から他魚を排除しようとする縄張り行動をとり、複数尾が共在することは少ない。定着性魚種の習性に合致した機能を備える魚巣部によって稚魚の定着を促し保護育成が可能となる。
(7)沿岸部の定着性稚魚の生息する浅い水深海域は、潮汐等による海水の流動が大きい。稚魚保護育成礁による海水擾乱を抑える効果に加え、魚巣部により静穏空間を作り出すことで稚魚の滞留率の向上を図ることができる。
(8)育成区画に魚巣部と餌料増殖部の両方が存在することで、この区画が餌場と隠れ家の役割を持つことになり、放流稚魚の早期の散逸を防ぎ、定着率の向上を図ることができる。
(9)稚魚保護育成礁が直方体等の六面体構造であることから、水深、海潮流の有無、砂、泥、礫等の海底状況等に応じて自由に稚魚保護育成礁の組み合わせ結合を採用することができる。
(10)海中に設置された間伐材は、ヨコエビ等端脚類を大量に発生させる他、間伐材内部に食い込み食害するフナクイムシ、キクイムシ等も魚類の餌料となるため餌料増殖効果が高い。
(11)山林整備の副産物である間伐材を有効活用することは山林の維持管理や復興に役立ち、CO2を排出することが無く間伐材の処理することができる。
【0008】
ここで、外部躯体や内部躯体の形状としては、立方体、直方体等が用いられる。また、構造材としては鉄鋼製やコンクリート製のL形やコ形、平板、棒材、管材等が用いられる。
内部躯体は、外部躯体のフレームに少なくとも2本以上設けられる横架材に連結される。内部躯体内部や外部躯体の上部には、餌料増殖材として重量の大きな自然石を配設する場合もあり、外部躯体に備える横架材は重量を考慮した強度とすることが望ましい。
内部躯体の上面には天板、内部には1以上の棚板を配設しても良い。いずれもパンチングメタルやエキスパンドメタル、金網等の稚魚が通過可能で、且つ餌料増殖材等の重量を支え得る強度を持つものが好適に用いられる。自然石等の重量の大きな餌料増殖材を使用する場合は、天板や棚板の下部に補強材を設置することが望ましい。1以上の棚板を配設することで、魚巣部や餌料増殖部を増やすことができ、稚魚の定着率を増すことができる。
内部躯体下面には、鋼板等の下部底板を配設しても良い。補強を要する場合は天板、棚板と同様である。下部底板を設けることで、海底を覆囲し礁自体の沈下を防止できる。
天板に、餌料増殖材となる自然石、コンクリート塊、貝殻等を載置する場合、天板を枠材で囲んだり、蛇籠を使用したりする等の脱落、移動防止措置をすることが望ましい。餌料増殖材を載置すると、水面に近く海洋生物が付着成長し、海藻類も繁茂するので、礁内を遮光し稚魚の棲息し易い環境を形成することができる。
育成区画の餌料増殖材に重量の大きな自然石等を使用した場合は稚魚保護育成礁の重量が大きくなり、礁の移動転倒を防げるが、その他の餌料培養材の比重が小さく、餌料培養材として間伐材を多く使用した場合等、浮力と自重のバランスが取れない時には、底部の構造材下部に、コンクリート基盤や固設されたコンクリート塊を備えても良い。
【0009】
外部躯体や内部躯体に張設される保護体としては、特に限定しないが、鋼製金網、樹脂製枠体、鋼製や合成樹脂性等の格子、パンチングメタル、エキスパンドメタル等を使用することができ、中でもパンチングメタル、エキスパンドメタル、鋼製金網は、耐久性、強度、重量からも好適に使用することができる。
また、保護体の目開きは、稚魚を捕食する捕食魚の種類に応じて、捕食魚が通過できない大きさであれば良く、特に限定はしない。
保護体は、外部躯体及び内部躯体の両方に装設する場合や、外部躯体のみ装設する場合、内部躯体のみ装設する場合がある。
外部躯体及び内部躯体の両方に装設する場合、外部躯体外周の保護体の目開きは大型捕食魚の通過できない大きさとし、内部躯体外周の保護体の目開きは、経年使用による前年以前の既放流魚からの食害から保護するため、放流した稚魚の通過が出来る程度に狭めることが望ましい。
外部躯体のみに装設する場合は、保護体の目開きは、外部躯体と内部躯体の両方に装設する場合よりもやや小さくすることが望ましい。これは、前年以前の既放流稚魚からの食害から保護するためである。この場合、保護区画と育成区画は、2つが一体となった保護育成区画となる。
内部躯体のみに装設する場合は、外部躯体及び内部躯体の両方に装設する場合と同様の理由で、保護体の目開きは放流した稚魚の通過が出来る程度に狭めることが望ましい。
尚、稚魚保護育成礁は比較的浅い海域に設置されるので、上部、中部部分の保護体の網目は海藻等海中生物が覆われることになり、稚魚の滞留に好適な暗部形成に役立つ。下部は海水によって砂が流動する所謂漂砂現象によって生物付着が少なく放流稚魚の出入りは十分確保できる。放流時に閉塞が著しい場合はダイバーによる一部除去が必要になる場合もあり得るが浅海域であって除去作業が容易であり、維持管理の作業性に優れる。
【0010】
外部躯体の外周部の下部側及び底部に稚魚の通過できない目開きの網体等で形成された散逸防止体を備えた場合、その構成により、以下の作用が得られる。
(1)散逸防止体を備えることで、放流後に礁内へ潜入した稚魚が早期に礁外へ拡散・散逸することを抑えることができ、稚魚の定着率の向上を図ることができる。
【0011】
散逸防止体は、保護体と同様の材質のものが好適に用いられ、外部躯体の外周の下部側及び底部に張設又は固定される。放流直後に礁内に潜入した稚魚の一部は、最下部から礁外へ拡散する傾向にあるので、散逸防止体により礁内に潜入した放流直後の稚魚が礁外へ早期拡散することを防止することができる。
【0012】
育成区画の餌料増殖部は、内部躯体の側面保護体と棚材によって餌料増殖材を保持して形成しても良いが、鋼製や合成樹脂製の籠体、網体、箱状の格子体等の通水ケースで形設することが望ましい。これは、餌料増殖材として重量が大きい自然石を用いる場合には、側面保護体の変形破損を防ぐ等のためであり、重量の小さな餌料増殖材を用いる場合には、餌料増殖材の振動、移動、破損等を防ぐためである。
また、餌料増殖部に配置・収容される餌料増殖材として、長径10〜15cmの自然石やコンクリート片、石片、レンガ片等の餌料増殖材を置いても良い。これにより、餌料増殖材が重石になるとともに稚魚が稚魚保護育成礁の上で放流された場合に、自然石等の隙間を通って礁内に収容されやすい。また、餌料増殖材としては、この他にガラス発泡材、貝殻片、鉄鋼スラグなどを用いることができる。餌料増殖材の中でも自然石は、稚魚保護育成礁の自重を増すことができ、将来老朽崩壊という場合になっても周辺海域に散乱しても周辺環境を汚染することもなく、好適に用いることができる。
【0013】
魚巣部は、陶磁器製やセメント製等の管体や植木鉢などの容体、土管、合成樹脂製や鋼製のものを成形したものが用いられる。これは、海中で長期間機能を保ち得る耐久性を維持しなければならないためである。
また、大きさについては、放流される生後数カ月目の定着性稚魚が体長概ね数cm、キジハタであれば6〜8cm、体高2cm前後、であることからこの大きさの稚魚が入り込め、冬期の活動低下、成長停滞期の間も滞留できるものであれば良く、形状についても上記の他、遊泳及び移動の空間確保も考慮し、管体や長方体、角錐台形、円錐台形等の形状が望ましい。
魚巣部は、育成区画内において、内部躯体の棚板や下部底板に、餌料増殖材の移動脱落防止の措置を講じたうえ1乃至複数個配置され配設することが望ましい。
魚巣部と餌料増殖部は、1以上の棚材上に設置されるので稚魚が棚間の内部での上下の移動が可能な径の空隙を餌料増殖材の通水ケースの間に、或いは中空管材を縦置きする等で設けることが望ましい。
魚巣部は、海水流動で移動しない重量、形状であれば餌料増殖部上にランダムに配列できるが、海水流動で移動し得る重量、形状の場合は網目状又は格子状のケースで覆うことが望ましく、その網目も稚魚の通過可能な目開きが必要である。
魚巣部と餌料増殖部はいずれが上でも支障はないが、重量の大きな自然石を使用する場合などは魚巣部が下では強度的に破損の恐れがある。そのため、魚巣部を下にする場合は、比重の小さな餌料増殖材を使用することが望ましい。
【0014】
餌料培養材としては、間伐材、金属製やコンクリート製の管材、金属製やコンクリート製のL形やコ形,平板、角材、レンガ、素焼片等が用いられる。
間伐材は、製材に不向きな木口の大きさが3〜15cm、長さが50〜195cmのものが好適に用いられるが、径が小さく製材に不向きな数cmから十数cmのものも使用できる。長さは保護区画の幅に揃える必要があるが、管材等と抱き合わせて配設する場合は、管材に沿わせるので木口の径、長さをそろえなくても良い。間伐材の種類としてはスギ、ヒノキ等が一般的であるが、種類を問わない。
間伐材は、海中に浸潤後は徐々に腐食崩壊する。この過程で甲殻類等に好適な餌となって増殖を促し、又間伐材内部に穿孔食害するフナクイムシ、キクイムシ等も含めこれらは魚類の好適な餌となる。保護区画に配設した間伐材はこれら海中生物に利用しつくされるまで3~5年間餌生物を生産することとなる。
また、間伐材は、長さ方向に金属製や合成樹脂製の網体等からなる網目状保持体で覆設されるのが望ましい。これは、間伐材が消失した後も網目状保持材が付着生物と共にその形状を維持することができ、餌料生物の増殖効果や稚魚の定棲空間を残すことができるからである。
管材は、径は15cm前後で、材質は特に限定はしないが鋼管材、ポリ塩化ビニル管等の合成樹脂管、土管等が使用できる。強度、耐久性、加工性、環境負荷の点で、好ましくは鋼管材が使用される。鋼管材は比重が大きく、礁の安定性を高め、間伐材と抱き合わせる場合もその浮力を減殺でき、また、付着生物の付着性、発錆面剥落、表面更新等による大きな餌料生物増殖効果が期待できる。また、管材の長さは、保護区画の幅に合わせことが望ましい。
コンクリート材は、管材と同様の形状のものが使用される。これは、コンクリート材は、比重が大きいので、鋼管材と同様の作用・効果が期待できるためである。
間伐材や管材は、外部躯体の上面に配設しても良い。間伐材等の浮力の大きいものを配置する場合は、離脱をせぬよう外部躯体等に強く固定することが望ましい。但し、間伐材等を外部固定する場合は間伐材の木口、管材の両端開口部を大型捕食魚が通過できない目開きの網体等で覆囲し大型捕食魚が棲みつく事を防止することが望ましい。
【0015】
保護区画に、間伐材、管材等の餌料培養材を配設する場合、間伐材、管材等は空隙を多く形成する井桁状等多段多列に組み合わせることが望ましい。これにより、稚魚の遊泳空間を確保できるとともに、新鮮な海水の通水を確保でき、荒天時等の激しい海水流動を軽減すること等ができる。また、海域に設置後、3〜5年間は間伐材、鋼管でなる餌料増殖材が餌生物を供給し、間伐材が消滅後も網目状保持材や管材により供給が持続でき、更に内部の間伐材消失後の網目状保持材は内部が好適な魚巣空間ともなり得る。
【0016】
稚魚保護育成礁が設置される海域は、稚魚放流が行われる同種魚種が既に棲息している海域となり波静かな内海や湾内が好適に選ばれ、海底が礁の安定性、埋没のおそれがないグリ石等小石が多く地盤の安定した海域が望ましい。しかし、そのような海域でない場合は、内部躯体に下部底板を備えたり、外部躯体の足部にコンクリート基盤等を固定したりすることで、稚魚保護礁の移動、埋没等を防止し、十分に機能を発揮することができる。
【0017】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の稚魚保護育成礁であって、前記内部躯体内の前記育成区画に、稚魚等が出入り自在の大きさに形成された1以上の開孔部を備えた管体や長方体、角錐台形、円錐台形等に形成された魚巣部と、前記魚巣部の上側若しくは下側に配設され自然石や貝殻片、コンクリート片、鉄鋼スラグ片、ガラス発泡材等の餌料増殖部と、を備える構成を有している。
この構成により、請求項1で得られる作用に加え以下の作用が得られる。
(1)魚巣部の上部又は下部に餌料増殖材を備える餌料増殖部が配設されるので、稚魚の必要とする餌生物を供給でき、稚魚を内部躯体内に定着させることができる。
(2)餌料増殖材として、可能な限り環境負荷が少なく自然界に存在するものを重積して使用することで、使用材の表面・間隙に海藻、ホヤ等の海中生物の付着、増殖を促し、次いでこれら海洋生物の繁茂に連れゴカイ等の多毛類、エビ、カニ等の甲殻類、ヨコエビ等の端脚類その他種々多様な海中生物が棲みつき増殖することとなり、餌料培養機能が高い。また、比重が大きな自然石等を使用することで、稚魚保護育成礁の安定化を図ることができる。
(3)魚巣部に開孔部があることで、稚魚が魚巣部を自由に出入りすることができる。
(4)魚巣部には1以上の開孔部を形成し稚魚の出入と海水の循環を確保するが、荒天時に海水流動が激しくとも遮蔽度が高いので稚魚を流出させないシェルター機能を果たす事ができる。
【0018】
魚巣部に形成される開孔部は、略円形、多角形等どのような形状でも良く、スリットを形成しても良い。但し、開孔部や孔部の孔径、スリットの幅等は、特に限定はしないが稚魚の体長から30〜50mm程度の大きさが好適に選ばれる。これは、稚魚が出入りできるとともに、大型捕食魚が万一稚魚保護育成礁内部に侵入した場合にも、魚巣部内には侵入ができないようにするためである。
また、開孔部や孔部、スリットの数は、特に限定はしないが、稚魚保護育成礁の設置海域の潮流によっても魚巣部内の遮蔽度が保ち得るものであることが必要である。
魚巣部の内部は少なくとも1尾が棲息できる大きさであればよい。
【0019】
魚巣部と餌料増殖部は組み合わせて一体化した育成ケースとしても良い。この場合、内部躯体の棚板上に一体化した育成ケースをランダムに配置しても良いし、複数の育成ケースを連結させて配列しても良い。育成ケースの内部は餌料増殖材の移動を抑えるため複数以上に開孔部を備えた仕切り等で区分けすることが望ましい。また、餌料増殖部と魚巣部を組み合わせた育成ケースは、餌料増殖材の性状、重量等に応じ餌料生物増殖部が上方でも、下方でも差支えない。育成ケースとしては、1つの魚巣部に1つの餌料増殖部を組み合わせて一体にしたものや多数の魚巣部を1つの餌料増殖部を組み合わせたものでもよい。
育成区画内に育成ケースを配置する場合、その構成により、以下の作用が得られる。
(1)育成区画内に餌料増殖部と魚巣部からなる育成ケースを数層に間隔をおいて収容固定することで稚魚保護育成礁内部を暗く保ち稚魚を滞留し易くできる。
(2)複数層設置する際に、上下に稚魚が回遊できる間隔を有することで、流水性が良く、新鮮な流水を確保でき良好な育成環境を確保できる。
【0020】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の稚魚保護育成礁であって、前記保護区画に配設される前記餌料培養材が、網目状保持材で覆囲した間伐材及び/又は管材であって、前記保護区画に前記餌料培養材が多段多列に配設固定される構成を有している。
この構成により、請求項1又は2で得られる作用に加え以下の作用が得られる。
(1)間伐材は、海中に設置した段階では浮力を持つが、徐々に海水を吸い込み約1年間程度で浮力を失い、更に、海中生物に食害され徐々に衰耗、消滅する。加えて、間伐材及びこれを覆う網目状保持材には海中生物が付着し、経過年数と共に付着量が増加する。即ち、設置後2,3年の間、稚魚保護育成礁の浮力、重量バランスの変化はかなり大きい。そこで、管材と間伐材を併設固定し、多段又は多列に配設(井桁状に組み込む等)し、比重が大きく構造強固な管材を支え材とすることで、これら浮力、重量バランスの変化に対処し形状を維持できる。
(2)間伐材が3〜5年で衰耗した後も、間伐材は管材と併設固定されており、間伐材を覆った網目状保持材が付着生物と共にその形状を維持するので、間伐材と管材で形成する空間が餌料生物増殖効果を持続することができる。また、網目状保持材は間伐材消滅後に、放流稚魚の定棲空間を創出することができる。
(3)間伐材の崩壊の過程での餌生物増殖効果と共に間伐材を覆った網目状保持材にもフジツボや海藻等多様な海中生物は付着し餌料生物増殖効果をもたらす。間伐材のみであれば崩壊の過程で取り付け部から脱落し下方に散乱することになるが、網目状保持材で囲うことで消尽しつくされるまで効果を持続できる。
(4)管材は、間伐材の支え材として機能する他、その内部及び外部は、海中生物が付着するので、餌料生物を増殖させることができる。また、内部躯体のみに保護体を帳設した場合及び礁上面等の外部に管材を設置した場合は、管材の両端部を閉鎖することで、管材の内部を放流稚魚の退避、隠匿スペースにできる。
【0021】
間伐材を覆囲する網目状保持材としては、金属製や合成樹脂製、合成樹脂と金属,合成繊維との複合材料で編んだり押出成形で作成されたものが用いられる。目開きは木質消失後保持材が海洋生物に覆われ塞がることを勘案すると20〜60mmが好ましい。20mmより小さくなるにつれ、間伐材が消失した後に保持材に付着した海中生物等で網目が塞がり、稚魚等が出入りし難く、通水性が悪くなる傾向があるため好ましくない。60mmより大きくなるにつれ、大型捕食魚が出入りし易くなるので、間伐材が消失した後に、稚魚が食害に合う危険性が上がるため好ましくない。海水沈設直後の間伐材は比重0.6前後であり浮力を持つが、次第に吸水して浮力を失い1〜2年後には海水の比重に近づく。そのため、網目状保持材は管材と抱き合わせる場合も含め浮力にも耐え得る強度を有することが望ましい。
【発明の効果】
【0022】
以上のように、本発明の稚魚保護育成礁によれば、以下のような有利な効果が得られる。
請求項1によれば、
(1)定着性稚魚の放流において、放流後の稚魚が直ちに潜入し易く、又早期の拡散散逸を防止でき、更に大型捕食魚が内部に侵入できず大型捕食魚から捕食、食害される危険性を減じて、放流稚魚の定着性や生残り率を増加させることができる稚魚保護育成礁を提供することができる。
(2)直方体等の六面体構造であるので、水深の浅深、海潮流の影響、砂、泥、礫等の海底状況等に応じた組み合わせ結合を採用することができる稚魚保護育成礁を提供することができる。
【0023】
請求項2に記載の発明によれば、請求項1の効果に加え、
(1)内部に定着性魚種に適した狭暗所となる魚巣機能を多く配し、又餌料増殖機能が高いことで、定着性稚魚の習性に合致した滞留効果の高い稚魚保護育成礁を提供することができる。
【0024】
請求項3に記載の発明によれば、請求項1又は2の効果に加え、
(1)間伐材の魚礁利用は、餌料増殖効果が高いが効果持続に難点があったが、管材及び間伐材の網目状保持材により初期の餌料増殖効果を有し、間伐材消失後も増殖効果の持続性が確保され、長期間連続的に放流が可能な稚魚保護育成礁を提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】実施の形態1の稚魚保護育成礁の斜視構造図
【図2】実施の形態1の稚魚保護育成礁の全体斜視図
【図3】実施の形態1の稚魚保護育成礁の上面図
【図4】実施の形態1の稚魚保護育成礁の底面図
【図5】図3のA−A線矢視断面図
【図6】(a)図3のB−B線断面図(b)実施の形態1の稚魚保護育成礁の魚巣部の一例を示す斜視図
【図7】図6(a)のC−C線矢視図断面図
【図8】(a)実施の形態2の稚魚保護育成礁の全体斜視図(b)実施の形態2の稚魚保護育成礁の要部断面図
【図9】実施の形態2の稚魚保護育成礁の魚巣部の一部破断斜視図
【図10】実施例2の稚魚保護育成礁の海底配置図
【図11】キジハタ稚魚の滞留率の推移図
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、図面を参照しながら説明する。
なお、本発明はこの実施の形態に限定されるものではない。
(実施の形態1)
図1は実施の形態1の稚魚保護育成礁の枠組みを示す斜視図であり、図2は実施の形態1の稚魚保護育成礁の全体斜視図であり、図3はその平面図であり、図4はその底面図である。
1は実施の形態1の稚魚保護育成礁、2はアングル鋼等の鋼材で高さ70〜300cm、横100〜500cm、幅100〜500cmの六面体に形成された稚魚保護育成礁1の外部躯体、2aは外部躯体2の四隅に形設された外部縦支柱である。外部躯体2には、四角の外部縦支柱2aの他に、縦横の方向は問わず補強や固定等のために、アングル鋼等の鋼材からなる梁を設けても良い。3は外部躯体2の中央に配設固定された方形筒状の内部躯体、3aは内部躯体3の上部枠材、3b内部躯体3の下部枠材、3cは内部躯体3を外部躯体2に連結すると共に上部枠材3aや下部枠材3bの一部をなす横架材、3dは上下端が横架材3cに連設された内部躯体3の内部縦支柱、3eは内部躯体3の上面に配設固定された鉄板やパンチングメタル、エキスパンドメタル、金網等からなる上部天板、3gは上部枠材3aに固定され上部天板3eを囲繞する枠材、3hは上部枠材3aと下部枠材3bの間に内部縦支柱3dに水平になるように形設され固定された中間部枠材3kに固定されたパンチングメタル、エキスパンドメタル、網体や格子体等で構成された1以上の中間部棚板、3iは下部枠材3bの下面に固定された鉄板やパンチメタル、エキスパンドメタル、金網や格子体等の保護体からなる下部底板、3jは上部天板3eと枠材3gで形成された遮光部、5は外部躯体2と内部躯体3の間に形成される保護区画である。
【0027】
図2乃至図4において、6は遮光部3jに載置された自然石、7は外部躯体2もしくは保護区画5の上面に配設固定された保護体からなる上部保護体、8は外部躯体2の側面上部に固定した保護体からなる側部保護体、9は側部保護体8よりも目開きが小さい保護体からなり側部保護体8の下部に配設される側部散逸防止体、10(図4参照)は側部散逸防止体9と目開きが同じ保護体からなり外部躯体2の内側下面に配設される下部散逸防止体である。
外部躯体2の外周には、大型捕食魚が内部に侵入できないように、目開き25乃至50mm前後の保護体で形成された上部保護体7及び側部保護体8や、稚魚の拡散を防止するために、目開き10〜30mm前後の保護体で形成された側部散逸防止体9及び下部散逸防止体10が帳設固定されている。内部躯体3の上部の遮光部3jには、長径が10〜15cm程の自然石6が多数山積みされる。遮光部3jには、自然石6が山積みにされているが、自然石6の他にコンクリート片、石片等の自重のあるものを載せることができる。これにより、遮光部3jの下側が遮光されるので、定着性の稚魚にとって住みやすい環境となる。また、潮流の速い場所等では、自然石6が潮流により流されたりしないように、金網等で覆い、遮光部3jに固定しても良い。
【0028】
図5は図3のA−A線矢視断面図であり、図6(a)は図3のB−B線断面図であり、図6(b)は実施の形態1の稚魚保護育成礁の魚巣部の一例を示す斜視図であり、図7は図6(a)のC−C線矢視断面図である。
図5において、11は側部保護体8の網目よりも小さな網目の金網等で形成され内部躯体3に帳設固定される内部側面保護体、12は内部側面保護体11と上部天板3eと下部底板3iで囲まれた育成区画、13は保護区画5内に井桁上に組まれた鋼管材、14は鋼管材13の側面に形成された開孔、15は鋼管材13の端部の両端開口部である。
図6において、16は育成区画12の各棚3iに自然石やガラス発泡材や貝殻等の餌料増殖材を容積の1/4〜2/3程度充填して形成された海草やエビ等の餌料生物を定着繁殖させるための餌料増殖部、17及び17aは餌料増殖部16の上部に多数配置された土管等からなる稚魚の棲息スペースとなる魚巣部、18は魚巣部17及び17aに形成された稚魚が通れる大きさの開孔部、19は魚巣部17の両端側に形成された孔部である。
保護区画5には、開孔14が形成され両端開口部15を有する鋼管材13が複数列段積みされ井桁上に複数段組まれている。内部躯体3は、目開き30mm前後の金網からなる内部側面保護体11で覆われている。内部躯体3内は、中間部枠材3kに固定された中間部棚板3hで上下2段に分けられ、各段が自然石6等の餌料増殖材16’を重層した餌料増殖部16と、その上面に多数配置された魚巣部17及び17aを備えている。魚巣部17,17aと上部天板3e、中間部棚板3hとの間は、稚魚が遊泳できる空間が形成されている。
【0029】
魚巣部17及び17aは、陶器製やセメント製等の植木鉢、土管、合成樹脂製や鋼材製のものを成形したものが用いられる。魚巣部17及び17aの形状としては直管状、T字管状、長方体、角錐台形、円錐台形等、種々の形状が選択される。また、魚巣部17及び17aには、径30〜50mm程度の開孔部18や孔部19が形成される。開孔部18の数は通水性を考慮して適宜増減させても良い。
内部躯体3は中間部棚板3hが1以上設けられる。中間部棚板3hにより育成区画12が数室に分けられるので、内部躯体3内を占める餌料増殖部16及び魚巣部17の割合を増やすことができ、餌料生物の増殖率を増やせると共に、稚魚の収容尾数を増やすことができる。
内部躯体3に内部側面保護体11を設けない場合、餌料増殖部16に充填された餌料増殖材16’の落下を防止するために、中間部棚板3hに上部天板3eと同様に枠材3gを設けることが望ましい。また、中間部棚板3hをエキスパンドメタルで作成する時は籠状にし、底部に補強材を配設するか、餌料増殖材16’を通水性のあるケースに入れ、ケースを内部縦支柱3dに固定しても良い。
【0030】
保護区画5に鋼管材13の他、塩化ビニル等の合成樹脂製の管材や間伐材等も用いることもできる。尚、合成樹脂製の管材や間伐材を用いる際には、その浮力を考慮して、間伐材を鋼管材13と並列させ、鋼管材13に固定して用いるのが好ましい。更に、間伐材には、形状保持性を有する金属製や合成樹脂製の剛性のある網体を巻き回して用いられる。これにより、間伐材が腐食した際に、網体が付着生物と共にその形状を維持するので、間伐材と管材で形成する空間が餌料生物増殖効果を持続することができるとともに、放流稚魚の定棲空間を創出することができる。
両端開口部15は、捕食魚が侵入できない目開きの大きさの網体等で覆うことが望ましい。また、開孔14においては、孔径を捕食魚が侵入できない孔径に形成される。これにより、稚魚保護育成礁1内に捕食魚が侵入した場合でも、鋼管材13を退避スペースとして用いることができ、食害の危険性を低下させることができる。
上部保護体7及び側部保護体8を設けず、保護区画5を開放的空間としても良い。保護区画5を開放的空間とする場合でも、外部躯体の側面下部と底部に側部散逸防止体9や底部散逸防止体10を備えることが好ましい。この場合、内部側面保護体11の下部に、側部散逸防止体を備えても良い。また、大型捕食魚が鋼管材13の内部に棲みつかないよう、両端開口部15は捕食魚が侵入できない目開きの大きさの網体等で覆うことが望ましい。加えて、外部縦支柱2aや内部縦支柱3d等に固定することで鋼管材13が移動せず、安定性を増すことができる。
【0031】
稚魚保護育成礁1は、設置後時間が経つにつれ外部躯体2や上部保護体7や側部保護体8、側部散逸防止体9、内部側面保護体11に、フジツボ、海草、その他の海中生物が付着し、生長した海中生物等により各保護体(7,8,9,11)の網目が塞がることが懸念されるが、一般的に、漂砂現象が起こる海域では、海底から数十cmの高さまでは、漂砂が海中生物の付着を阻害するため、閉塞は生じ難く、稚魚が通過できずストレス等を与えることはない。
【0032】
以上のように構成された本実施の形態1の稚魚保護育成礁1を用いた稚魚育成方法を説明する。
まず、稚魚放流の数ヶ月前に、稚魚保護育成礁1を放流区域に設置する。これにより、稚魚保護育成礁1の外部躯体2、内部躯体3、自然石6、上部保護体7、側部保護体8、側部散逸防止体9、内部側面保護体11、鋼管材13、餌料増殖部16等に餌料生物が付着・棲息するので、放流時には、餌料生物が十分に増殖している。
次いで、この状態で定着性の稚魚を放流すると、稚魚は手頃な隠れ家となる稚魚保護育成礁1内に潜り込む。
このとき、稚魚の一部は、稚魚保護育成礁1の底部に集まり徐々に拡散してくが、稚魚が通過できない目開きの側部散逸防止体9や底部散逸防止体10を備えているので、初期段階の稚魚の散逸を防止することができる。
【0033】
次に、稚魚は、予め増殖させておいた餌料生物を餌としながら、育成区画12内の各魚巣部17を住処とする。餌料生物は稚魚保護育成礁1内に十分に棲息しているので、稚魚は稚魚保護育成礁1から外に出る必要が無く、また、上部保護体7、側部保護体8、側部散逸防止体9、底部散逸防止体10等を備えるので、大型捕食魚は稚魚保護育成礁1内に侵入することができない。これにより、食害の危険性にさらされることなく、稚魚を保護しながら安全に育成することができる。
【0034】
次いで、稚魚が成長してくると、徐々に各保護体を通過し難くなる。そのため、大型捕食魚が捕食しない大きさまで成長する頃には、稚魚保護育成礁1には住み難くなっており、稚魚自ら外部へ拡散する。これにより、次回の稚魚の放流時には、稚魚保護育成礁1内に成長した稚魚が残っておらず、そのまま使用することができる。
【0035】
以上のように、本実施の形態1における稚魚保護育成礁は構成されているので、以下のような作用が得られる。
(1)稚魚保護育成礁の上面及び育成区画に自然石を多数重積するので、放流直後の稚魚が自然石の隙間に隠れ易く、また、稚魚保護育成礁の重量も重くなるので、潮流により移動や転倒等せずに安定する。また、日光を遮蔽することができるので、狭暗所を好む定着性稚魚が安心して長く滞留し易い。
(2)稚魚保護育成礁が、鋼材で形成されているので、年月経過により生物付着部は発錆により剥落、更新するので、新たな餌料生物を付着させることができる。
(3)保護区画又は内部躯体が、大型捕食魚の通過できない目開きの保護体で囲われているため、放流稚魚が大型捕食魚の食害にあうことなく定着できる。
(4)稚魚保護育成礁の下部は、稚魚の通過できない目開きの散逸防止体や鋼板で囲われているので、初期の稚魚の離礁を防ぎ、定着率の向上を図ることができる。
(5)餌料生物が培養できるため、餌場として作用し稚魚が拡散することを防ぐことができる。
(6)育成区画が、多段式に魚巣部や餌料増殖部が設置されるので、餌料生物の増殖率が増し、稚魚の隠匿スペースを増やすことができるとともに、魚巣部の稚魚の収容尾数を多くすることができる。
(7)魚巣部を備えているため、縄張り意識の強いキジハタ等の定着性稚魚が其々に魚巣部で定住・隠匿スペースを持つことができ、お互いに争うことなく保護育成できる。
(8)魚巣部に複数の開孔部や孔部があるため、稚魚は自由に出入りすることができるので、放流稚魚がストレスを感じ難く、海水も循環するので、酸素やプランクトン等を十分に供給することができる。
(9)鋼管材や鋳鉄管等を用いるので、稚魚保護育成礁の重さが増し、安定性に優れるとともに、開孔や両端開口部を大型捕食魚が侵入できないように網体で覆うことで、鋼管材を稚魚の住居・隠匿スペースとして使用することができる。
(10)鋼管材が井桁上に組まれているので、遊泳空間を確保することができ、稚魚がストレスを感じ難い。
(11)稚魚保護育成礁の底部中央等に鋼板があるので、海底の砂地の場合は沈下を防ぐことができるとともに、底部散逸防止体と相俟って底部の下から捕食魚の侵入を防止できる。
【0036】
(実施の形態2)
実施の形態2の稚魚保護育成礁について、以下、図面を用いて説明する。
尚、実施の形態1と同様のものには同一の符号を付して説明を省略する。
図8(a)は実施の形態2の稚魚保護育成礁の全体斜視図であり、(b)はその要部断面図であり、図9は実施の形態2の稚魚保護育成礁の魚巣部の一部破断斜視図である。
図8において、3jは遮光部、6は遮光部3jに置かれた自然石、9は側部散逸防止体、20は実施の形態2の稚魚保護育成礁、21は稚魚保護育成礁20の下部に固定されたコンクリート基盤、23は稚魚保護育成礁20の上部や餌料生物養殖区画5に配設された間伐材、24は間伐材23に巻着され側面を覆う金網等の保護体からなる網目状保持材、25は複数の間伐材23を束ねる結束体、26は外部躯体2の側面上部に固定した網体や格子体からなる側面保護体、27は餌料増殖部16aと魚巣部17bとを組み合わせた育成ケースである。
その他、図示していない部分は実施の形態1と同様なので同じ符号を付し説明は省略する。
【0037】
図9において、育成ケース27の餌料増殖部16aは、魚巣部17bの開口面と同一大きさの開口16a−1を有し、魚巣部17bの開口面と当接固定されている。その周壁及び底部は、餌料生物が生棲し増殖しやすいように、網体や格子体に形成されている。その内部には、自然石6、ガラス発泡材28、貝殻片29等が収容される。魚巣部17bは、前述したように、合成樹脂製や陶器製、セメント製のポット状に形成され、底部や壁面には開孔部18が形成されている。30は餌料増殖部16aと魚巣部17bを組み合わせるための固定具である。
尚、魚巣部17bは、各々の上面開孔部をセルとして、多数連設してセルボックスとして形成しても良い。また、餌料増殖部16aは、前述のセルボックスの開口面と当接開口面を備えた、周壁や底壁が網体や格子体で形成された通水ケースに形成しても良い。餌料育成ケース16aに自然石等を上面まで詰め、セルボックスを開口面に覆設し、番線等の固定手段で固定するだけでセル分の育成ケースを作成でき、作業性に優れる。
【0038】
稚魚保護育成礁20の上部には、間伐材23を結束体25で鋼管材13と交互に並列固定したものが配置されている。保護区画5には、間伐材23を2本と鋼管材13を1本の計3本を結束体25で並列固定したものが、井桁状に積み上げられ横架材に固定されている。間伐材23は全て、ポリエチレン、ポリプロピレン、酢酸ビニル、ナイロン、鋼製等の網目状保持材24で長手方向に巻着されている。外部躯体2の側面に固定される側面保護体26は、実施の形態1の側部保護体8と同様のものが使用される。
内部躯体3は、多段に分かれており、魚巣部17bと餌料増殖材が通水性ケース等で覆われた餌料増殖部16aを組み合わせた育成ケース27が、中間部棚板3hで3段に分けられた内部躯体11内の各段に配置されている。魚巣部17bは、外周部に定着性稚魚が出入りできる大きさの開孔部18を有する。間伐材23は水分を吸収するまでは浮力が大きいので、稚魚保護育成礁20の下部に固定したコンクリート基盤21で自重を増し、安定性を持たせている。
尚、遮光部3jには、実施の形態1と同様に、自然石の他、ガラス発泡材、貝殻等を載置してもよい。
【0039】
以上のように、本実施の形態2における稚魚保護育成礁は構成されているので、以下のような作用が得られる。
(1)コンクリート基板を備えているので、浮力の大きいものを内部に備えていても、潮流により移動や転倒等せずに安定する。
(2)間伐材と鋼管材の両方を井桁状に組み合わせるため、間伐材が腐食して消失した後も鋼管材が井桁の形状を保つことができる。
(3)間伐材を用いるため、山林の維持管理や復興の手助けになる他、間伐材自体が餌生物の高い増殖効果を持つため、餌料培養機能が高い。
(4)自然石、ガラス発泡材、貝殻等の餌料増殖材は、海中設置後短期間でその表面や間隙部に海藻や海洋生物が繁殖し、甲殻類等の餌料生物を増殖することができる。
(5)間伐材が消失した後も外周を覆った剛性の高い網目状保持材が形状を保持し表面等に餌料となる海草やフジツボを保持しているので、餌料増殖効果を継続すると共に形状を保つことで、水生生物の定棲空間を創出することができる。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
アングル鋼を用いた横1m、奥行き1m、高さ1mの方形の躯体を準備した。躯体の上部や各側部の保護体(7,8)は目開き50mm程度の金網を用いて形成した。中間部棚板3hは、5段とし、前記エキスパンドメタル(XG21)を配設固定した。内部躯体3の上部天板3eの上面周囲に高さ100mmの枠材3gを固定し、金網で覆った自然石6を重積した遮光部3jを形成した。下部底板3iは鉄板で形成した。底部散逸防止体10は、前述のエキスパンドメタルで形成した。躯体内の育成区画には、各段に塩化ビニル製でスリットを有した円錐台形の6×13cm程度の魚巣部と、餌料増殖部はポリ塩化ビニル製で、上面開口で底面と周壁が格子状に形成された通水ケースを用い、その中にガラス発泡材やカキ殻、貝殻片を充填し金網で覆って作製し、これを組み合わせた育成ケースを各段に60個ずつ、計300個設置し、稚魚保護育成礁とした。この稚魚保護育成礁を沿岸海域の海底に設置した。
【0041】
9ヶ月後の礁内の状況と海洋生物の発生状況について観測した結果、餌料増殖材や鋼材には、ホヤ、サンゴ藻、イソギンチャク、アオサ、ミル等、海草や海中生物が多数付着し、育成状態も良好であった。
また、魚巣部内には、体長5cm程度のアイナメ、クジメ、ギンポ等の稚魚が住み着き、餌料増殖部内部には、蟹、藻エビ等の甲殻類やゴカイ等が多数確認された。このことから、稚魚保護育成礁は藻場としての効果を有することが確認できた。
【0042】
(実施例2)
図10は効果確認のための稚魚保護育成礁の海底配置図である。
実施例1の稚魚保護育成礁4基を図10に示すように水深約5mの山口県水産研究センターの試験海域に設置した。設置後12ヶ月後に、稚魚保護育成礁の上方の水面からキジハタの稚魚836尾(体長約6.5cm)を放流し、その滞留率と内部の状況を観測した。
【0043】
(滞留率)
放流直後から、約1ヶ月後までの稚魚の滞留率を図11に示す。
放流直後は稚魚保護育成礁に100%潜入することが、水中ビデオカメラで確認された。その3時間後にキジハタ稚魚の約68%が留まっており、6日後には約25%が滞留しているのが確認された。その後、23日後まで、平均して25%程度の滞留率を維持した。一般的な魚礁における稚魚の滞留率が10%弱であることから、本実施例の稚魚保護育成礁は、稚魚の定着性に優れることが確認された。また、散逸防止体により、早期の散逸を防止し定着性を高めることが確認された。
【0044】
(内部状況の観測)
放流直後のキジハタ稚魚は、直ぐに隠れ家を探す性質があり、稚魚保護育成礁の設置海域上部から放流するだけで稚魚保護育成礁内部に全て潜り込んでいくことが確認された。
また、付近海域には体長20cmを越えるカサゴ、キジハタ、クエなどが棲息しているが、稚魚保護育成礁内部への侵入は確認されず、保護体による食害の防止は有効であった。
育成ケースにおいては、魚巣部に同一の稚魚が長く滞留することが確認され、縄張り行動を取る定着性稚魚の拡散防止に有効であることが確認された。また、餌料増殖部では貝類、甲殻類、多毛虫類、等脚類等、多数の海洋生物が確認され、餌場としての作用を有すると考えられ、稚魚が付着した海草等をつつく摂餌行動も多く確認されたことから、餌不足による稚魚の早期散逸を防止することができることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、人工増殖され自然環境未馴致であるキジハタ等の定着性稚魚を、自然環境に馴致させつつ保護し、放流海域に生息する大型捕食魚の食害にあわない程度の成長段階まで育成することにより、放流稚魚の生残り率を上げて増殖を図り沿岸漁業を振興させることが可能な稚魚保護育成礁を提供することができる。
【符号の説明】
【0046】
1 実施の形態1の稚魚保護育成礁
2 外部躯体
2a 外部縦支柱
3 内部躯体
3a 上部枠材
3b 下部枠材
3c 横架材
3d 内部縦支柱
3e 上部天板
3g 枠材
3h 中間部棚板
3i 下部底板
3j 遮光部
3k 中間部枠材
5 保護区画
6 自然石
7 上部保護体
8 側部保護体
9 側部散逸防止体
10 底部散逸防止体
11 内部側面保護体
12 育成区画
13 鋼管材
14 開孔
15 両端開口部
16,16a 餌料増殖部
16’ 餌料増殖材
16a−1 開口
17,17a,17b 魚巣部
18 開孔部
19 孔部
20 実施の形態2の稚魚保護育成礁
21 コンクリート基盤
23 間伐材
24 網目状保持材
25 結束体
26 側面保護体
27 育成ケース
28 ガラス発泡材
29 貝殻片
30 固定具
40 実施例1の稚魚保護育成礁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼材等の構造材で六面体状に枠組みされた外部躯体と、前記外部躯体の内側(中央部)に前記構造材で方形の筒状に形成され横架材で前記外部躯体と連結された内部躯体と、前記内部躯体の内側に配設された魚巣部及び/又は餌料増殖部とを有する育成区画と、前記外部躯体の内側と前記内部躯体の間の保護区画に配設された餌料培養材と、前記外部躯体及び/又は前記内部躯体の各六面に張設又は固定された大型捕食魚が通過できない目開きの保護体と、を備えることを特徴とする稚魚保護育成礁。
【請求項2】
前記内部躯体内の前記育成区画に、稚魚が出入り自在の大きさに形成された1以上の開孔部を備えた管体や長方体、角錐台形、円錐台形等に形成された魚巣部と、前記魚巣部の上側若しくは下側に配設され自然石や貝殻片、コンクリート片、鉄鋼スラグ片、ガラス発泡材等の餌料増殖部と、を備えることを特徴とする請求項1に記載の稚魚保護育成礁。
【請求項3】
前記保護区画に配設される前記餌料培養材が、網目状保護材で覆囲した間伐材及び/又は管材であって、前記保護区画に前記餌料培養材が多段多列に配設固定されることを特徴とする請求項1又は2に記載の稚魚保護育成礁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−217390(P2012−217390A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−86733(P2011−86733)
【出願日】平成23年4月8日(2011.4.8)
【出願人】(503227313)協同組合マリンテクノ山口 (1)
【Fターム(参考)】