説明

穀物胚芽又は穀物胚芽を含む穀粉の機能性成分の増加方法

【課題】原料である穀物胚芽又は穀物胚芽を含む穀粉が含有するギャバの量を増加させるために、前記原料に加える水の量を極力削減させ、かつ、加水中に原料を撹拌する必要もない加水手段による、機能性成分の含有量を増加させた穀物胚芽又は穀物胚芽を含む穀粉の製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】原料が穀物の胚芽を含み、前記原料を加湿する加湿工程と、加湿工程後に前記原料を乾燥する乾燥工程又は放熱させる放熱工程とから構成され、前記加湿工程において、温度が60℃〜70℃で、湿度が90%以上の湿り空気に原料を接触させることにより該原料を加湿することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、穀物胚芽又は穀物胚芽を含む穀粉が含有する機能性成分の含有量を増加させる方法及びその方法により製造される穀物胚芽又は穀物胚芽を含む穀粉に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、γ−アミノ酪酸(以下、「ギャバ」という)は、人体の血圧上昇を抑制するなどの健康維持又は疾病予防に有効な物質として注目されている。このギャバは、日常で食される穀物にも含まれているので、ギャバを効率良く摂取することを目的として、穀物に含まれているギャバの含有量を増加させることが行われている。その際に、穀物の胚芽において特にギャバの含有量が増加することが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、小麦胚芽を浸漬や噴霧により加水し、かつ、50℃〜60℃以下の温度環境条件に保持させることで、前記小麦胚芽が含有するギャバの量を増加させる方法について記載されている。
【0004】
しかし、特許文献1の製造方法では、小麦胚芽を加水する際に、加える水の量が該小麦胚芽の15質量%以下ではギャバの含有量を十分に増加させることができないとされている。
【0005】
ところで、機能性成分の含有量を増加させた穀物又は穀物胚芽を製造方法する場合、使用する水の量を削減することで、製造コストを下げることができる。これは、使用する水の料金だけでなく、穀物又は穀物胚芽に加える水の量が少なければ、加水に必要なコストを削減でき、その上、加水後の乾燥に要するコストも削減可能となるからである。
【0006】
このため、機能性成分の含有量を増加させた穀物胚芽又は穀物胚芽を含む穀粉の製造方法において、原料となる穀物胚芽に加える水の量を極力削減することが望まれている。
【0007】
【特許文献1】特開平2006−14732号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記問題にかんがみて、原料である穀物胚芽又は穀物胚芽を含む穀粉が含有するギャバの量を増加させるために、前記穀物胚芽に加える水の量を極力削減させる加水手段による、機能性成分の含有量を増加させた穀物胚芽又は穀物胚芽を含む穀粉の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため本発明は、原料が穀物胚芽又は穀物胚芽を含む穀粉であって、前記原料を加湿する加湿工程と、加湿工程後に前記原料を乾燥する乾燥工程とを含み、前記加湿工程において、高湿度の空気に原料を接触させることにより、該原料を加湿する、という技術的手段を講じた。
【0010】
また、原料が穀物胚芽又は穀物胚芽を含む穀粉であって、前記原料を加湿する加湿工程と、加湿工程後に前記原料を冷ます放熱工程とを含み、前記加湿工程において、高湿度の空気に原料を接触させることにより、該原料を加湿する、という技術的手段を講じた。
【0011】
さらに、前記加湿工程において、前記空気の温度が60℃〜70℃で、湿度が90%以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の、機能性成分の含有量を増加させた穀物胚芽又は穀物胚芽を含む穀粉の製造方法によれば、原料が含む胚芽を、高湿度の湿り空気に接触させることにより加湿する。この方法によれば、液体状の水を直接加水(添加)する場合と異なり、加水時に排水が生じない。
【0013】
また、前記原料の水分を加湿前に比べて数パーセント上昇させるだけでよいので、原料に加える水の量を削減できる。このため、加湿後に乾燥するコストを抑えることが可能となり、また、乾燥を行わずに、単に放熱させるようにするだけでもよい。
【0014】
さらに、原料を静置した状態で加湿する場合は、加湿中に該原料を撹拌しなくてもよく、装置の構造をシンプルにすることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明を実施するための最良の形態を、図1及び図2を参照しながら説明する。図1は、本発明の製造方法において乾燥工程を設けた製造工程を示したフローチャート1であり、図2は、本発明の製造方法において放熱工程を設けた製造工程を示したフローチャート2である。本発明の機能性成分が富化された穀物胚芽又は穀物胚芽を含む穀粉の製造方法は、加湿工程(ステップS1)と、乾燥工程(ステップS2)又は放熱工程(ステップS3)から構成される。
【0016】
まず、加湿工程(ステップS1)について説明する。加湿工程では、原料を高温の湿り空気に接触させる(又は曝す)必要がある。そのために、恒温恒湿槽のように内部の温度及び湿度を制御できる装置内に原料を搬入する。本実施例では、恒温恒湿槽を使用した場合について説明する。なお、前記恒温恒湿槽には一般的に使用されているものを用いればよい。また、雰囲気温度及び湿度を制御できる環境条件下で、ベルトコンベア等(多段式を含む)により原料を搬送させながら前記加湿工程及び乾燥工程を行うことも可能である。
【0017】
原料を加湿するにあたり、恒温恒湿槽内の温度は60℃〜70℃、望ましくは61℃〜70℃、より望ましくは65℃〜70℃の範囲に調節する。前記温度は60℃未満であってもよいが、原料が含有するギャバを増加させる量が低下するおそれがある。また、湿度は90%以上、望ましくは95%以上を維持するように調節する。この条件に設定されている恒温恒湿槽に原料を搬入し、30分〜8時間、望ましくは1時間〜5時間、恒温恒湿槽内に静置する。この際、恒温恒湿槽内で原料を撹拌する必要はない。
【0018】
ただし、連続的に製品を製造する場合には、横送りスクリュ−等の搬送装置で、原料を搬送しながら撹拌及び加湿を同時に行うようにすればよい。また、大量に製品を製造する場合には、原料が加湿中に固まるのを防止するために撹拌することも考えられる。
【0019】
原料を恒温恒湿槽に静置する際、ムラなく均一に加湿するために、原料を通気性のある容器に入れた状態で静置することが望ましい。また、原料は前記容器の底面に一様な積層厚になるように広げて入れることが望ましく、前記積層厚は薄い方が効率良く原料の加湿が可能である。
【0020】
なお、本発明者らは、湿り空気によって穀物胚芽を含む原料を加湿して該原料が含有するギャバの量を増加させるためには、60℃よりも高温の湿り空気を用いることが適切であること見いだした。
【0021】
また、恒温恒湿槽内に原料を静置する時間は、富化させるギャバの量により適宜変更すればよい。当然、前記時間が長いほどギャバの量を増加させることができる。なお、原料の種類や原料に混合された穀物胚芽の量により前記時間を試験によって求めることが望ましく、穀物胚芽が原料の大部分を占める場合には短い時間で含有するギャバの量を十分に増加させることができる。
【0022】
ところで、本発明で使用する原料は、湿り空気による加湿が行いやすいように、粉末状のものが望ましい。原料に混合する穀物胚芽は、小麦、米又はコーン等の穀物のものであればよく、穀物胚芽のみを原料としてもよい。また、穀物胚芽を混合する穀粉は、小麦粉、小麦麸、米粉、米糠粉、コーンフラワー、蕎麦粉、ライ麦粉等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を適宜選択して用いることができる。なお、本発明でいう穀粉には、粗粒状態のものも含まれる。また、製粉時に生じる麸と胚芽との混合物を本発明の穀物胚芽を含む穀粉として使用することができる。
【0023】
加湿工程(ステップS1)で加湿された原料は、次工程で乾燥又は放熱させる。まず、原料の乾燥を行う場合の乾燥工程(ステップS2)について説明する。
【0024】
乾燥工程(ステップS2)では、製造する製品の条件に合う水分値まで乾燥を行えばよいが、加湿工程にて加湿される前の水分に戻るまで乾燥するようにしてもよい。また、前記乾燥は、原料を恒温恒湿槽内から取り出すなどの工程を設けることなく、加湿工程から連続して恒温恒湿槽内で行うことができる。
【0025】
乾燥工程(ステップS2)は、恒温恒湿槽内を所定の温度及び湿度まで下げて、原料の乾燥を行う。前記温度は30℃〜40℃、前記湿度は70%以下に設定すればよいが、これら温度及び湿度は、原料の種類により適宜変更すればよい。なお、本発明の原料には粉末状(粗粒状を含む)のものを使用するため、過乾燥による胴割れ等が発生するおそれはない。
【0026】
なお、乾燥工程(ステップS2)は、乾燥の影響による原料の劣化を防止するために、比較的温度の高い1次乾燥と温度の低い2次乾燥との2段階に分けて行ってもよく、また、3段階以上に分けてもよい。さらに、連続的に徐々に恒温恒湿槽内の温度を下げていくように該温度を制御してもよい。
【0027】
乾燥工程(ステップS2)が終了した原料は恒温恒湿槽から搬出される。該原料の状態は、前記原料の水分を前記加湿工程を行う前の元の状態に戻している場合には、含有するギャバの量が増加した以外は、加湿前の状態と同様である。よって、乾燥工程が完了した原料は、加湿前の原料と同様に扱うことができる。
【0028】
次に、放熱工程(ステップS3)について説明する。本発明の、機能性成分の含有量を増加させた穀物胚芽又は穀物胚芽を含む穀粉の製造方法では、原料の水分上昇が数パーセントであることを特徴とする。このため、乾燥工程を設けなくても、乾燥した雰囲気中では、単に自然冷却等により原料を放熱(又は冷却)させるだけでも、自然に調湿されて加湿前の水分まで乾燥される。
【0029】
したがって、冬期など空気が乾燥している環境下では、恒温恒湿槽内で静置する又は恒温恒湿槽から搬出して静置するだけでもよく、本発明ではこの状態を放熱工程(ステップS3)としている。このため、放熱工程(ステップS3)では原料を静置している環境温度まで放熱(又は冷却)される。ただし、製品の水分管理等を行う必要がある場合には、乾燥工程(ステップS2)を行うことが望ましい。
【0030】
乾燥工程(ステップS2)又は放熱工程(ステップS3)が完了した原料は、含有するギャバの量が加湿前に比べ増加している以外は、加湿前と同様の品質である。よって、本発明の製造方法で製造した穀物胚芽又は穀物胚芽を含む穀粉は、例えば、食品の原料として周知の小麦胚芽と同様に、食品の原料として使用することができる。
【実施例1】
【0031】
本発明の実施例の一つとして、原料に、製粉時に発生する麸と小麦胚芽との混合物を使用した場合の製造方法について実施例1により説明する。なお、前記混合物は、麸と小麦胚芽とがそれぞれ50%程度の割合で混合されているものを使用した。また、前記混合物の加湿前の水分は12.54%であった。
【0032】
まず、内部の温度が70℃、相対湿度が90%以上となるように制御された恒温恒湿槽(型式:FX234P、楠本化成株式会社)に、通気性のある容器に収容した状態の前記混合物(200g)を該容器ごと搬入し、前記混合物を1時間加湿した。なお、加湿時に恒温恒湿槽内を70℃の高温状態にするので、菌類の繁殖を防ぐことができ衛生的である。
【0033】
そして、加湿後、恒温恒湿槽内の温度を30℃、湿度を70%まで下げて、乾燥を1時間行った。
【0034】
このようにして加工した前記混合物が含有するギャバの量を表1に示す。なお、ギャバの測定は高速液体クロマトグラフ(株式会社島津製作所、LC−VP)で行った。
【0035】
【表1】

【0036】
表1に示されているように、本発明の製造方法で穀物胚芽を含む原料を加工することにより、該原料が含有するギャバの量は、加工前に比べて4.6倍以上に増加していることが確認できた。
【0037】
また、加湿直後(乾燥開始前)の原料の水分は15.1%であったので、原料の水分上昇は、2.57%であった。よって、本発明の製造方法によれば、原料の水分を数%上昇させるだけで、該原料のギャバを富化させることが可能である。したがって、原料の水分を、5%以下、望ましくは3%以下の水分上昇で原料の含有するギャバの量を増加させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の製造方法において乾燥工程を設けた製造工程を示したフローチャート1である。
【図2】本発明の製造方法において放熱工程を設けた製造工程を示したフローチャート2である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
穀物胚芽又は穀物胚芽を含む穀粉が原料であって、
前記原料を加湿する加湿工程と、
加湿工程後の原料を、乾燥する乾燥工程とを含み、
前記加湿工程において、高湿度の空気に原料を接触させることにより該原料を加湿することを特徴とする前記原料の機能性成分の含有量の増加方法。
【請求項2】
穀物胚芽又は穀物胚芽を含む穀粉が原料であって、
前記原料を加湿する加湿工程と、
加湿工程後の原料を冷ます放熱工程とを含み、
前記加湿工程において、高湿度の空気に原料を接触させることにより該原料を加湿することを特徴とする前記原料の機能性成分の含有量の増加方法。
【請求項3】
前記加湿工程において、前記空気の温度が60℃〜70℃で、湿度が90%以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の機能性成分の含有量の増加方法。
【請求項4】
請求項1、2又は3に記載の製造方法によって製造された機能性成分の含有量を増加させた穀物胚芽又は穀物胚芽を含む穀粉。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−201396(P2009−201396A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−45930(P2008−45930)
【出願日】平成20年2月27日(2008.2.27)
【出願人】(000001812)株式会社サタケ (223)
【Fターム(参考)】