説明

穀類の殺虫・殺卵装置

【課題】穀類にマイクロ波を照射して均一加熱しながら、乾燥させることなく連続処理できる殺虫・殺卵装置1を提供する。
【解決手段】殺虫・殺卵装置1は、上端から導入された穀類が内部を降下するように立てられ、マイクロ波を透過させるパイプ4と、パイプ4の下端に配置され穀類の降下速度を調整する速度調整機構8と、マイクロ波発生装置5で発生したマイクロ波を伝送するマイクロ波伝送回路6と、マイクロ波伝送回路6から伝送されたマイクロ波をパイプ4の側面に向けて照射するアプリケータ3とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精白米等の穀類に混在している害虫を駆除する穀類の殺虫・殺卵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
貯蔵穀類中の害虫防除として採用されてきた臭化メチル(CHBr)は、高い殺虫効果が得られるものの、オゾン層破壊物質に指定されており、現在は使用が禁止されている。このため、臭化メチルに代わる害虫防除として、貯蔵穀類を真空容器内に投入し、真空状態にさせたあと炭酸ガスを高圧に導入し、穀類中に混在している害虫に炭酸ガスを吸収させ、害虫の不活性化、若しくは死滅させる方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、臭化メチルに代わる害虫防除として、マイクロ波を使った害虫駆除が提案されている。例えば、乾燥野菜類における殺虫・殺卵処理法として、ベルトコンベア上でマイクロ波加熱処理と熱風加熱処理を行い害虫の殺虫・殺卵を行う装置が提案されている(特許文献2参照)。
【0004】
また、マイクロ波を使った貯蔵穀類中の害虫駆除として、穀類の組織を損なわない程度に、害虫の混在する穀物にマイクロ波を照射し乾燥させることを特徴とする害虫の防除方法が提案されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−242830号公報
【特許文献2】特開昭56−29942号公報
【特許文献3】特開昭51−85978号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記した炭酸ガスを高圧になるまで導入するいわゆる高圧炭酸ガス法では、その高圧が30気圧(3MPa)以上に達することから、堅牢な耐圧容器を要し装置が大掛かりなものになり、バッチ処理のため処理能力を容易に向上させることが困難であった。さらに、精白米内部に産み付けられた害虫の卵を駆除できない場合があった。
【0007】
一方、マイクロ波を使った害虫駆除では、穀類の内部が加熱されるため、精白米内部に産み付けられた害虫の卵を駆除可能と考えられる。ただ、特許文献2の乾燥野菜類の殺虫・殺卵処理法では、ベルトコンベアを採用した連続処理方式で厚みがばらつき易く、また、片面側からのマイクロ波照射で偏って加熱され易く、被処理物の均一加熱に難があるので、熱風乾燥工程が取り入れられている。つまり、最初に熱風乾燥を行い、被処理物表面にいる害虫を温度の低い深部側に移動させ、深部に移動した害虫をマイクロ波による内部加熱で駆除する。ただ、熱風乾燥工程は、マイクロ波照射工程に比べ、被処理物の加熱に時間を要し、処理能力を向上させ難かった。
【0008】
また、特許文献3の穀類の害虫の防除方法では、マイクロ波照射後に乾燥させることで殺虫・殺卵効果を得ている。精白米の場合、貯蔵する前、特に、直前に、殺虫・殺卵処理することが要求されるが、処理される精白米(精米)は既に水分調整されたものであり、マイクロ波処理による乾燥の進行は胴割れの原因になるので抑制しなければならない。
前記より、害虫の卵を駆除するにはマイクロ波の照射が有効であるが、被処理物(穀類)を連続処理しながら、均一加熱することができず、処理能力を向上させることができなかった。また、加熱に伴う乾燥を抑制しなければならなかった。
【0009】
そこで、本発明の目的は、穀類にマイクロ波を照射して均一加熱しながら、乾燥させることなく連続処理できる殺虫・殺卵装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上端から導入された穀類が内部を降下するように立てられ、マイクロ波を透過させるパイプと、
前記パイプの下端に配置され、前記穀類の降下速度を調整する速度調整機構と、
マグネトロンで発生した前記マイクロ波を伝送する導波管と、
前記導波管から伝送された前記マイクロ波を前記パイプの側面に向けて照射するアプリケータとを有する穀類の殺虫・殺卵装置であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、穀類にマイクロ波を照射して均一加熱しながら、乾燥させることなく連続処理できる殺虫・殺卵装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態に係る穀類の殺虫・殺卵装置の構成図である。
【図2A】マイクロ波発生装置(マグネトロン)とマイクロ波伝送回路(導波管)が接続されているマイクロ波照射室の斜視図である。
【図2B】図2AのA−A方向の矢視断面図である。
【図3】精白米がパイプに投入された状態のマイクロ波照射室周辺の様子を上方から下方に向かって透視した透視図である。
【図4】(a)はマイクロ波伝送回路(導波管)6aと6cの中心軸を含む平面上の電界分布図であり、(b)はマイクロ波照射室(アプリケータ)とパイプの共通の中心軸を含み、マイクロ波伝送回路の中心軸と平行である平面上の電界分布図であり、(c)はマイクロ波伝送回路6bと6dの中心軸を含む平面上の電界分布図であり、(d)はマイクロ波照射室とパイプの共通の中心軸を含み、マイクロ波伝送回路の中心軸と自身の法線が平行になる平面上の電界分布図である。
【図5】精白米の殺虫・殺卵の、精白米の温度とその温度の保持時間の関係を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
【0014】
図1に、本発明の実施形態に係る穀類の殺虫・殺卵装置1の構成図を示す。殺虫・殺卵装置1は、穀類全般、例えば、米、大豆、小豆、コーン、麦等に適用することができるが、実施形態では、お米の特に精白米を例に説明する。
【0015】
殺虫・殺卵装置1は、ユニット部2を有している。ユニット部2を複数個、並列に配置する(Nユニット化する)ことで、処理能力を容易にN倍化することができる。
【0016】
ユニット部2それぞれには、精白米が連続的に通過するパイプ4と、パイプ4を覆うマイクロ波照射室(アプリケータ)3と、マイクロ波を発生させる複数のマイクロ波発生装置(マグネトロン)5(5a、5b)と、発生したマイクロ波をアプリケータ3へ伝送する複数のマイクロ波伝送回路(導波管)6(6a、6b)と、マイクロ波によって加熱されパイプ4から出てきた精白米の温度を検出する米温度検出装置7と、精白米をパイプ4から連続的に排出する排出機構8が設けられている。マイクロ波の周波数としては、2.45GHzを用いることができる。
【0017】
パイプ4は、上端から導入された精白米が内部を降下するように上下方向に立てられている。パイプ4は、マイクロ波を透過させる材料、例えば、テフロン(登録商標)や石英等で作製されている。
【0018】
米温度検出装置7としては、米の表面温度と内部温度とは略等しくなることから、米の表面温度を検出する赤外線温度計を用いることができる。また、アプリケータ3の外側であれば、熱電対等を用いることもできる。
【0019】
排出機構8は、パイプ4の下端側に配置され、パイプ4を降下してくる精白米の降下速度(排出速度)を調整する速度調整機構として機能する。この降下速度は、精白米の自由落下速度よりも小さく設定され、処理中には、精白米は、降下速度で降下しながらも上からの供給分によってパイプ4のマイクロ波が照射される高さ以上にまで充填された状態を保っている。なお、排出機構8(速度調整機構)としては、ロータリバルブ等を用いることができる。
【0020】
アプリケータ3には、複数のマイクロ波伝送回路(導波管)6(6a、6b)が接続され、マイクロ波伝送回路(導波管)6(6a、6b)から伝送されたマイクロ波をパイプ4の側面に向けて照射する。パイプ4に向けて照射されたマイクロ波は、パイプ4を透過し、パイプ4内に充填された精白米に吸収され、精白米が加熱・昇温される。精白米はパイプ4の内側の形状に沿って充填されるので、常時、等量の精白米が加熱され、降下方向に対して均一に加熱することができる。また、複数のマイクロ波伝送回路(導波管)6(6a、6b)のアプリケータ3に接続されている方向が互いに異なっているので、パイプ4に対して、複数の方向からマイクロ波を照射でき、これによっても精白米を降下方向の垂直方向に対して均一に加熱することができる。一方、パイプ4は、マイクロ波は透過しても、水蒸気は透過しないので、加熱された精白米から水蒸気が出ても、水蒸気は精白米周辺の雰囲気に留まるので、乾燥が促進されることはなく、再び精白米に吸収され、精白米内部の水分は保たれる。
【0021】
そして、降下速度を遅くすると、精白米へのマイクロ波の照射時間を実質的に長くでき、加熱時間を長くできるので、精白米の温度を高くすることができる。逆に、降下速度を速くすると、精白米へのマイクロ波の照射時間を短くでき、加熱時間を短くできるので、降下速度が遅い場合よりも、精白米の温度を低くすることができる。精白米を含め穀類全般の害虫を殺虫・殺卵可能な穀類の温度は、後記で詳述するが60〜80℃の温度範囲内であるので、この温度範囲になるように、降下速度を排出機構8によって調整することになる。なお、この調整を、中央制御装置9によるフィードバック制御で行ってもよい。まず、中央制御装置9は、予め60〜80℃の温度範囲内で目標温度を記憶しておく。中央制御装置9は、米温度検出装置7が検出した精白米の温度を取得する。中央制御装置9は、PID制御等を行い、検出された精白米の温度が目標温度に一致するように、排出機構8の降下速度(ロータリバルブであれば回転速度)を決定し、決定した降下速度になるように排出機構8を制御する。なお、精白米の温度調整をするためには、排出機構8の降下速度を調節するだけでなく、マイクロ波発生装置(マグネトロン)5(5a、5b)のマイクロ波の出力を調整してもよく、これらを合わせて調整してもよい。ちなみに、排出機構8の排出速度の変化に応じて、米投入機構11も投入速度を能動的又は受動的に調整できるようにするのが好ましい。米投入機構11としては、定量供給ホッパなどを用いることができる。
【0022】
ユニット部2の前段には、精白米を予備加熱装置12さらにユニット部2へ投入するための米投入機構11と、予備加熱装置12とが設けられている。予備加熱装置12は、ユニット部2、特にパイプ4へ投入される精白米の温度を、常時一定にするために用いられ、精白米がパイプ4に導入される前に、精白米の温度を60〜80℃の温度範囲より低い50℃以下の範囲内で昇温させる。具体的には、日間の温度差や、年間の温度差が大きい場合に用いられる。例えば、年間の温度差が大きく、夏場は、マイクロ波の照射によって60〜80℃の温度範囲に精白米の温度が上昇しても、冬場は、夏場と同様のマイクロ波の照射ではその温度範囲まで温度が上昇し難く、マイクロ波発生装置(マグネトロン)5のマイクロ波の出力を大きくしたり、排出機構8の降下速度を低下させたりしなければならない。予備加熱装置12によれば、パイプ4へ投入される精白米の温度の変動幅を小さくできる。
【0023】
ユニット部2の後段には、表面改質装置13と、貯蔵温度調整機構(密閉容器)14と、計量器15と、精白米を貯蔵庫へ排出する排出機構16を有している。
【0024】
表面改質装置13は、精白米がパイプ4から排出機構8を通過後に、米温度検出装置7で検出された精白米の表面温度以上の温度の水蒸気を精白米に吹き付ける高温蒸気噴付装置を有している。排出機構8から表面改質装置13へは、マイクロ波加熱された精白米が送られてくるが、この加熱されて高温状態の精白米に、高温蒸気を吹き付けることにより、精白米をひび割れ・胴割れさせることなく、精白米表面のみを糊状化しつやを出す表面改質をすることができる。なお、表面改質装置13は、殺虫・殺卵装置1にとって必需の装置ではなく、精白米が高温になっていることを利用して容易に表面改質ができるという付加価値的機能を提案したものである。したがって、表面改質が不要であれば、表面改質装置13は当然省くことができる。
【0025】
貯蔵温度調整機構(密閉容器)14は、精白米がパイプ4から排出機構8、表面改質装置13を通過後に、精白米の温度が所定の温度40℃以下に低下するまで、精白米を密閉する。排出機構8や表面改質装置13から送られてきた精白米は、60℃以上に加熱されている。この状態で、大気中に放置すると精白米の乾燥が促進し、ひび割れ、胴割れが発生する。これを防止するために、精白米からの水分が大気中に逃げないように、精白米を貯蔵温度調整機構(密閉容器)14内で密閉したまま、貯蔵可能な温度である40℃以下に自然冷却する。この冷却により精白米から蒸発した水分は、再び、精白米に戻ってゆき、精白米からの蒸発自体も抑制することができる。なお、表面が濡れたままだと、カビの原因となるので、余分な水分が生じたままにしないで水分管理を行う。
【0026】
計量器15は、40℃以下に自然冷却された精白米を計量する。これにより、排出機構16を通り貯蔵庫(図示省略)へ運ばれる精白米を正確に計量することができる。
【0027】
図2Aに、マイクロ波照射室(アプリケータ)3の斜視図を示す。アプリケータ3には、複数(図2Aでは4個)のマイクロ波発生装置(マグネトロン)5(5a〜5d)それぞれに複数(図2Aでは4本)のマイクロ波伝送回路(導波管)6(6a〜6d)が接続されている。
【0028】
アプリケータ3は、金属製で、外形が直方体になっている。サイズとしては、例えば、299mm×214mm×1000mmhとすることができる。また、アプリケータ3の基本構造は箱型であり、アプリケータ3は、上蓋3aと、筒3bと、底蓋3cとを有している。上蓋3aの中央には、精白米が投入される投入口17が設けられている。上蓋3aの外形と投入口17の形状は長方形(矩形)になっている。投入口17には、この部分からマイクロ波が漏洩しないように金属メッシュが設けられている。金属メッシュの目の大きさは米粒が楽々に通過できる5mm□程度にすることができる。
【0029】
なお、構造の理解を容易にするために、座標を設定している。座標原点は上蓋3aの中央に設定されている。上蓋3aの長方形の長辺の方向と平行にX軸を設定している。上蓋3aの長方形の短辺の方向と平行にZ軸を設定している。上蓋3aの法線の方向と平行にY軸を設定している。なお、上蓋3aの外形と投入口17の形状は矩形でよく長方形に限らず正方形でもよい。また、底蓋3cの外形は、上蓋3aの外形と略合同になっている。
【0030】
アプリケータ3の筒3bの軸方向に垂直な断面の外周形状及び内周形状はともに長方形(矩形)になっている。この長方形(矩形)の対向する2辺(長辺に対応)を構成する側面(X−Y面)それぞれに、複数の導波管6(6a〜6d)が配置されている。アプリケータ3の上方から下方への方向に見た場合、導波管6aと6cがアプリケータ3に接続されている方向が、導波管6bと6dがアプリケータ3に接続されている方向と異なっている。このことにより、精白米の均一加熱を可能にしている。
【0031】
また、アプリケータ3に接続されている導波管6(6a〜6d)の高さ(高さ位置)は、互いに異なっている。具体的に、導波管6aが一番高く、次に導波管6bが高く、3番目に導波管6cが高く、導波管6dが一番低くなっている。高さを変えることで、導波管6(6a〜6d)に接続されたマグネトロン5(5a〜5d)が互いに干渉するのを防止している。
【0032】
複数の導波管6(6a〜6d)はそれぞれ、継ぎ手板18を介してアプリケータ3の筒3bに接続されている。継ぎ手板18については後記するが、導波管6(6a〜6d)の高さを変えずに、X軸方向に接続位置を変更させるために用いている。具体的に、導波管6(6a〜6d)は、X−Y面に向かってX−Y面の左側よりに配置されている。すなわち、導波管6(6a、6c)の中心軸は、X−Y面のY軸方向の中心線からX軸の負方向に例えば52mm離れており、導波管6(6b、6d)の中心軸は、X−Y面のY軸方向の中心線からX軸の正方向に例えば52mm離れている。この離す距離52mmを調整することにより精白米をより均一に加熱することができる。
【0033】
図2Bに、図2AのA−A方向の矢視断面図を示す。アプリケータ3には、パイプ4が収納されている。パイプ4は切断面に対して略対称になっており、パイプ4のサイズとしては、例えば、内寸155mm×70mm×1000mmhとすることができる。そして、精白米の降下速度を1000mm/分とすると、処理能力は1つのユニット部2当り約556kg/hrとなる。パイプ4の軸方向(上下方向)に垂直な断面の内周形状と外周形状はともに長方形(矩形)になっている。この長方形(矩形)の対向する2辺を構成する1側面に向けて、導波管6(6a、6c)の開口端6Aが配置されている。図示は省略したが、導波管6(6b、6d)の開口端6Aは、対向する2辺を構成する他の1側面に向けて対置されている。開口端6Aの高さ(高さ位置)は、導波管6a、6c毎に異なっている。なお、パイプ4の側面とアプリケータ3とで囲まれた空間と、導波管6内の空間とは、閉空間になっており、外部からゴミ等が入り込むことはない。よって、マイクロ波発生装置5もゴミ等にさらされることはない。このため、クリーニングについても、精白米の接するパイプ4の内側をクリーニングすることで、この殺虫・殺卵装置1を衛生的に保つことができる。そして、このパイプ4の内壁のクリーニングは、その構造が単純であるため容易である。
【0034】
パイプ4は上端と下端とが開口しており。パイプ4の上端の開口には、投入口17が設けられ、パイプ4の下端の開口には、排出口19が設けられている。排出口19には、投入口17と同様の金属メッシュが設けられている。精白米は、投入口17から投入され、パイプ4を上端から下端へ降下し、排出口19から排出される。精白米は、パイプ4を降下しながら、導波管6(6a、6c)の開口端6Aから放射され、パイプ4を透過してきたマイクロ波を吸収し、加熱・昇温する。
【0035】
パイプ4は、上方から透視してアプリケータ3の中央に配置されている。パイプ4は、その上端と下端を、アプリケータ3の上蓋3aと底蓋3cにそれぞれ固定された支持部21によって支持されている。また、パイプ4の側面は、スペーサ22を介してアプリケータ3の筒3bから支持されている。スペーサ22によって、アプリケータ3に接続されている導波管6(6a、6c)の開口端6Aは、対向するパイプ4の側面から離れて配置される。このように離れることで、導波管6(6a、6c)の開口端6Aから広がりながら放射されたマイクロ波をパイプ4に照射することができるので、パイプ4におけるマイクロ波の強度が均一化され、精白米を均一に加熱することができる。
【0036】
図3に、精白米23がパイプ4に投入された状態のアプリケータ3周辺を上方から透視した様子を示す。精白米23は、パイプ4を降下しながらも、パイプ4の内壁に沿った形状に充填されている。このため、Z軸方向の精白米の厚さは、パイプ4の内側形状の長方形の短辺の長さ(対向する長辺間の距離)に等しく、常に一定になっている。また、X軸方向の精白米の幅は、パイプ4の内側形状の長方形の長辺の長さに等しく、常に一定になっている。パイプ4内の精白米の密度も、高さに応じて、常時一定になっている。ここに、一定のマイクロ波を照射すれば、精白米が、降下して、時々刻々精白米が入れ替わっても、常時、均一に加熱を行うことができる。また、加熱された精白米は、パイプ4内の隅々まで満たし、かつ、四方をパイプ4で囲まれているので、余分な空間がなく、精白米から発生した蒸気が四散し、乾燥することがない。蒸気は上方に上っても、パイプ4内、上方の加熱されていない精白米に結露・吸着し、水分が外界に逃げることはない。蒸気がこもることで、蒸気の熱によって効率よく加熱が促進されることにもなる。
【0037】
また、Z軸方向の精白米の厚さは、バルクとしての精白米のマイクロ波の電力半減深さの略2倍に設定している。Z軸方向の精白米の厚さは、パイプ4の内側形状の長方形の短辺の長さ(対向する長辺間の距離)に等しく、例えば、70mmに設定している。これは、精白米のマイクロ波電力の半減深さが、2.45GHzで実験した結果から、35mm程度であったことに基づいている。すなわち、精白米のマイクロ波電力の半減深さ(35mm)の2倍の70mm(35mm×2=70mm)を、Z軸方向の精白米の厚さに設定している。これによれば、Z軸方向の両側から同じ強度でマイクロ波を照射した場合、精白米の分布している範囲におけるZ方向(精白米の厚さ方向)のマイクロ波の電界分布を略均一にすることができる。そして、精白米を、厚さ方向においても均一に加熱・昇温させることができる。
【0038】
また、上方から透視すると、Z軸(パイプ4の内側形状の長方形の対向する2辺(長辺)それぞれの中心を通る共通の法線)から、アプリケータ3に接続されている導波管6(6a、6b)の開口端6Aの上下方向の中心線が、間隔Da、Db離れている。もし、間隔Da、Dbがゼロであったとすると、X座標でゼロの中央部の加熱温度が高くなる。そこで、均一に加熱、つまり均一照射するために、間隔DaをX軸の負の方向に設け、間隔DbをX軸の正の方向に設け、中心から±方向に外している。間隔Da、Dbとしては、例えば、52mmに設定することができる。なお、最適な間隔Da、Dbは、アプリケータ3や、パイプ4や、導波管6の形状や、穀類の種類によって変動すると考えられる。そこで、簡便に間隔Da、Dbを調整するために継ぎ手板18を設けている。すなわち、導波管6(6a、6b)は継ぎ手板18の開口に合わせて接続されるところ、その開口位置の異なる継ぎ手板18に取り替えることで、簡便に間隔Da、Dbを調整することができる。そして、アプリケータ3の筒3bには、継ぎ手板18の開口の位置が変わっても、開口端6Aが確保されるように大きな開口を設けておく。
【0039】
図4に、アプリケータ3及びパイプ4のマイクロ波の電界分布のシミュレーション結果を示す。パイプ4内には精白米23が充填されているとしている。また、バルクとしての精白米の比誘電率:rを60とし(r=60)、誘電正接tanδを0.1としている(tanδ=0.1)。図4(a)は、導波管6aと6cの中心軸を含む平面上の電界分布図である。斜線部は、強電界領域24を示している。これより、強電界領域24が、パイプ4の上端から下端まで略均一に分布していることがわかる。精白米がパイプ4の上端から下端まで降下すると、スムーズに昇温できる。図4(b)は、Y軸(パイプ4の中心軸)とZ軸を含む平面上の電界分布図である。ここでも、強電界領域24が、パイプ4の上端から下端まで略均一に分布し、精白米がパイプ4の上端から下端まで降下すると、スムーズに昇温できる。図4(c)は、導波管6bと6dの中心軸を含む平面上の電界分布図である。ここでも、強電界領域24が、パイプ4の上端から下端まで略均一に分布し、精白米がパイプ4の上端から下端まで降下すると、スムーズに昇温できる。図4(d)は、Y軸(パイプ4の中心軸)とX軸を含む平面上の電界分布図である。ここでも、強電界領域24が、パイプ4の上端から下端まで略均一に分布し、精白米がパイプ4の上端から下端まで降下すると、スムーズに昇温できる。そして、精白米は、パイプ4のどこを降下しても、同程度に強電界領域24を通過するので、パイプ4の下端では、均一な温度に加熱された精白米を排出することができる。そして、害虫を漏れなく殺虫・殺卵することができる。
【0040】
図5に、精白米の殺虫・殺卵の、精白米の温度とその温度の保持時間の関係を示す。この関係は、実施形態の殺虫・殺卵装置1(図1参照)より小規模の装置(バッチ式)で求めている。精白米の温度は45℃から5℃おきに75℃まで試験した。精白米の温度が80℃以上になると、精白米にひび割れが発生し食味を損なうことから、80℃以上では試験しなかった。到達時間は、それぞれの精白米の温度に到達するまでの時間を示している。マイクロ波の電力を一定としているので、精白米の温度が高くなる程到達時間も長くなっている。保持時間は、それぞれの精白米の温度に到達した後、その精白米の温度に保持した時間である。害虫にはコクゾウ虫を用い、殺虫の効果の有無の判定は、精白米の加熱後に精白米に混ぜたコクゾウ虫の成虫が死滅したか否かを目視にて判定することにより行った。殺卵の効果の有無の判定は、コクゾウ虫の卵が産み付けられた精白米を用い、精白米の加熱後にその精白米に対して培養試験を行い、コクゾウ虫の成虫が生まれてくるか否かを判定することにより行った。
【0041】
これより、図5に示すように、精白米の温度が55℃以下では、保持時間が6秒以下では、殺虫・殺卵の効果が得られなかった(×)。精白米の温度が60℃以上では、保持時間が1秒以上で、殺虫・殺卵の効果が得られた(○)。
【0042】
例えば、精白米の温度が60℃で保持時間が1秒の状況を実施形態の殺虫・殺卵装置1(図1参照)に当てはめると、パイプ4の下端付近で、精白米の温度が最高温度の60℃になり、殺虫・殺卵が行われ、直後(1秒後)にパイプ4から排出され冷却された状況となる。
【0043】
また、精白米の温度が75℃で保持時間が1秒の状況を実施形態の殺虫・殺卵装置1(図1参照)に当てはめると、パイプ4の中間付近で、精白米の温度が60℃になり、殺虫・殺卵が行われはじめ、略7.2秒後(7.2=17.9(75℃の到達時間)−10.7(60℃の到達時間))パイプ4の下端付近で、精白米の温度が最高温度の75℃になり、直後(1秒後)にパイプ4から排出され冷却された状況となる。
【0044】
なお、精白米の温度50℃と55℃の試験結果から、同じ保持時間でも、殺卵の効果はあっても(○)、殺虫の効果は得られない(×)場合が見られ、その逆は見られなかった。これより、マイクロ波加熱の場合、精白米内部からの発熱があるため、精白米に混在している害虫よりも、米粒内部に産み付けられている害虫卵の方が駆除しやすいことがわかる。
【0045】
本実施形態では、パイプ4は角型を例示したがその他の断面形状、例えば円形でもかまわない。殺虫・殺卵装置1が適用される場所に特に制限はないが、例えば、精米施設において、殺虫・殺卵装置1が併設され、精米機で精米された精白米が、連続して殺虫・殺卵装置1にかけられて殺虫・殺卵される。この殺虫・殺卵され精白米が、市場に流通することになる。
【符号の説明】
【0046】
1 殺虫・殺卵装置
2 ユニット部
3 マイクロ波照射室
3a 上蓋
3b 筒
3c 底蓋
4 パイプ
5、5a〜5d マイクロ波発生装置(マグネトロン)
6、6a〜6d マイクロ波伝送回路(導波管)
6A 導波管の開口端
7 米温度検出装置
8 排出機構(速度調整機構、ロータリバルブ)
9 中央制御装置
11 米投入機構
12 予備加熱装置
13 表面改質装置
14 貯蔵温度調整機構(密閉容器)
15 計量器
16 排出機構(貯蔵庫へ)
17 投入口
18 継ぎ手板
19 排出口
21 支持部
22 スペーサ
23 精白米(穀類)
24 強電界領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上端から導入された穀類が内部を降下するように立てられ、マイクロ波を透過させるパイプと、
前記パイプの下端に配置され、前記穀類の降下速度を調整する速度調整機構と、
マグネトロンで発生した前記マイクロ波を伝送する導波管と、
前記導波管から伝送された前記マイクロ波を前記パイプの側面に向けて照射するアプリケータとを有することを特徴とする穀類の殺虫・殺卵装置。
【請求項2】
前記導波管は、複数本設けられ、
前記パイプの上端から下端への方向に見た場合、複数の前記導波管が前記アプリケータに接続されている方向が互いに異なっていることを特徴とする請求項1に記載の穀類の殺虫・殺卵装置。
【請求項3】
前記パイプの軸方向に垂直な断面の内周形状は略矩形であり、
前記矩形の対向する2辺を構成する前記側面それぞれに向けて、複数の前記導波管が配置されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の穀類の殺虫・殺卵装置。
【請求項4】
前記矩形の対向する前記2辺間の距離は、前記穀類の前記マイクロ波の電力半減深さの略2倍になっていることを特徴とする請求項3に記載の穀類の殺虫・殺卵装置。
【請求項5】
前記アプリケータに接続されている前記導波管の開口端は、対向する前記パイプの前記側面から離れていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の穀類の殺虫・殺卵装置。
【請求項6】
前記パイプの上端から下端への方向に見た場合、前記矩形の対向する前記2辺それぞれの中心を通る共通の法線から、前記アプリケータに接続されている前記導波管の開口端の上下方向の中心線が離れていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の穀類の殺虫・殺卵装置。
【請求項7】
前記アプリケータに接続されている前記導波管の開口端の高さが、複数の前記導波管毎に異なっていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の穀類の殺虫・殺卵装置。
【請求項8】
前記穀類は精白米であり、
前記精白米を前記パイプの内部を降下させながら前記精白米に前記マイクロ波を照射して昇温し、前記精白米の表面温度を60〜80℃の範囲内で所定秒間以上保持することを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の穀類の殺虫・殺卵装置。
【請求項9】
前記穀類が前記パイプに導入される前に、前記精白米の表面温度を50℃以下の範囲内で昇温させる予備加熱装置を有することを特徴とする請求項8に記載の穀類の殺虫・殺卵装置。
【請求項10】
前記穀類は精白米であり、
前記精白米が前記パイプを通過後に、前記精白米の表面温度以上の温度の蒸気を前記精白米に吹き付ける高温蒸気噴付装置を有することを特徴とする請求項1乃至請求項9のいずれか1項に記載の穀類の殺虫・殺卵装置。
【請求項11】
前記穀類は精白米であり、
前記精白米が前記パイプを通過後に、前記精白米の表面温度が所定の温度以下に低下するまで、前記精白米を密閉する密閉容器を有することを特徴とする請求項1乃至請求項10のいずれか1項に記載の穀類の殺虫・殺卵装置。


【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−45303(P2011−45303A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−197176(P2009−197176)
【出願日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【出願人】(000233228)日立協和エンジニアリング株式会社 (35)
【出願人】(000001812)株式会社サタケ (223)
【Fターム(参考)】