説明

積み重ね可能なプラスチック容器

【課題】中央寄りに口部が設けられ、容器同士の積み重ねが可能で、十分な積み重ね強度を有し、さらに容器内の薬液を使用した後の残余薬液を完全に排出できるうえ、排出後に煩雑な後処理をしなくて済むプラスチック容器を提供する。
【解決手段】プラスチック容器1は、容器1の天面の中央を走る溝12の底面14に、上向きの口部11が開けられ、該溝12の両脇で該天面のふちに沿って、別な容器を積み重ねる平坦な肩部13が設けられ、該溝12に沿う該底面14のへりの少なくとも一方に、該底面14よりも容器1内空側へ凹んでいる堰15が設けられ、該堰15の少なくとも一端が該肩部13の端にまで至っている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、集積回路や半導体や液晶を製造するための高純度の薬品や溶剤等の薬液を充填し貯蔵したり輸送したり、排出したりするに用いられるプラスチック容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子デバイスの急速な進歩に伴い、集積回路のような中間製品は、設計基準であるデザインルールに従い、微細化・精密化が進んでいる。そのため集積回路の製造に使用されるフォトレジストのような薬液は、高純度化、高性能化、多種類化し、高価格である。また、集積回路のみならず、半導体や液晶のような中間製品についても同様である。消費者は、それらを組み込んだ最終製品が高性能でかつ安価でなければ購入しない。そのためこれら中間製品の製造過程において、この高価格の薬液を無駄なく使用して、最終製品の価格を抑えなければならない。
【0003】
このような薬液は、製造装置へ薬液を供給する装置に組み込まれる容器から供給される。容器に充填された薬液は、その容器の底まで挿入したディップチューブを介し、ポンプで汲み上げられたり、容器を密閉し清浄なガスを吹き込んで加圧して押し出されたりしている。このとき容器の隅々までディップチューブ先端が届かないので、薬液が残留してしまう。この残留薬液を無駄にしたり回収して面倒な廃棄処分をしたりすると、最終製品の価格上昇をもたらす。
【0004】
そこで、容器の口部を下向きにして傾けながら、残留薬液を次の製造バッチで使用する薬液充填容器に継ぎ足している。その際に、できる限り残留薬液を移し替えることが必要である。
【0005】
特許文献1には、口部を、天面の一方の端部に配し、突出上端を積み重ね時の受け部とする上方への突出部を、天面の所要位置に配し、突出部の口部側の側壁を、この側壁の上部が天面における口部側とは反対の端部側に位置するように高さ方向に対し大きい角度で傾斜させた携行缶が、開示されている。しかし、薬液供給装置への配置の都合上、または容器を重ねる際の強度強化の都合上、容器の中央寄りに口部を設けた容器が望まれている。
【0006】
一方、図4に記載のように、口部を容器の天面の中央を走る溝の中程に設けた場合、口部を下向きにしながら傾けたとき、溝の両脇の肩部に残留薬液が溜まってしまう。この容器を何度も傾け直しても、揺すっても、残余薬液が他方の肩部に移動するだけで、移し替えられないまま残ってしまったり、勢い余って口部から洩れて飛び散り周囲を汚してしまったりする。
【0007】
容器胴体から口部にかけて先細りで肩部を有しない容器は、残留薬液をスムーズに排出できるが、積み重ねができず、保管や輸送のスペースをとってしまう上、輸送の際の耐衝撃強度が弱くなってしまう。
【0008】
【特許文献1】特開2001−130525公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、上向きに口部が設けられ、肩部によって容器同士の積み重ねが可能で十分な積み重ね強度を有し、さらに容器内の薬液を使用した後の残余薬液を完全に排出できるうえ、排出後に煩雑な後処理をしなくて済むプラスチック容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の目的を達成するためになされた特許請求の範囲の請求項1に記載のプラスチック容器は、容器の天面の中央を走る溝の底面に、上向きの口部が開けられ、該溝の両脇で該天面のふちに沿って、別な容器を積み重ねる平坦な肩部が設けられ、該溝に沿う該底面のへりの少なくとも一方に、該底面よりも容器内空側へ凹んでいる堰が設けられ、該堰の少なくとも一端が該肩部の端にまで至っていることを特徴とする。
【0011】
請求項2に記載のプラスチック容器は、請求項1に記載されているもので、前記堰が、該底面よりも4〜40mm凹んでいることを特徴とする。
【0012】
請求項3に記載のプラスチック容器は、請求項1に記載されているもので、前記容器が、ポリオレフィン樹脂製であることを特徴とする。
【0013】
請求項4に記載のプラスチック容器は、請求項3に記載されているもので、前記ポリオレフィン樹脂が、酸化防止剤無添加のポリエチレンであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明のプラスチック容器は、口部と肩部とを略同じ高さにすることができ、また天面の中央よりに口部を設けてもよいので、製造装置への薬液供給装置の容器として、汎用できる。しかも、十分な積み重ね強度を有し、多数の容器の積み重ねが可能であるので、危険物薬品の運送に関する国際連合勧告のUN試験に適合する。この容器によれば、薬液供給後の残余薬液を、完全に容器から排出して効率よく再使用できる。この容器は、排出後の煩雑な後処理を必要としない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。本発明のプラスチック容器について、その実施の一態様を示す図1を参照して、詳細に説明する。
【0016】
このプラスチック容器1は、略円筒形で熱可塑性樹脂製である。その容器1の天面の中央を跨いで走る溝12が設けられている。溝の底部14の中程にキャップが螺合する螺旋溝を有する口部11が開いている。溝12の両脇で天面のふちに沿って、別な容器の積み重ねを可能にする平坦な肩部13が設けられている。溝12の底部14へ、溝12に沿って形成されている底面のへりを成す両辺の脇に、底面14よりも容器1の内空側へ凹んでいる堰15が設けられている。この堰15の両端が、夫々肩部13の端にまで至っている。
【0017】
なお、プラスチック容器1に用いられる熱可塑性樹脂は、溶融押出し成形が可能なものであれば特に限定されない。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、エチレン−ポリビニルアルコール共重合樹脂が挙げられる。プラスチック容器1は、これらのうちの何れかの樹脂の単層からなっていてもよく、またはこれらのうちの異なる樹脂を用いた多層からなっていてもよい。プラスチック容器1は、例えばこれらの熱可塑性樹脂からなるパリソンを、ブロー成形方法して得られる。
【0018】
熱可塑性樹脂は、ポリエチレンであることが好ましい。ポリエチレンの好ましい特性は、その密度が0.940g/cm〜0.970g/cm、メルトフローレートが0.01g/10分〜10g/10分である。密度が0.940cm未満であると、プラスチック容器1の剛性が不足し、外圧によりこの容器1が座屈してしまう。一方、0.970cmよりも大きいと、耐ストレスクラッキング性が極端に低下するため、薬液の種類によっては容器が破壊されやすくなる。メルトフローレートが0.01g/10分未満のポリエチレンは非常に硬く、溶融成形には不適である。一方、10g/10分よりも大きなポリエチレンは軟らかく、溶融成形の場合にはドローダウンが激しく、成形が非常に困難であり、さらに耐ストレスクラッキング性が大幅に低下してしまう。薬液が容器からの異物や不純物の混入を嫌うような場合は、熱可塑性樹脂として酸化防止剤無添加のポリエチレンを使わなければならない。
【0019】
プラスチック容器1を成型するのに使用されるブロー成型機は、例えば一般に市販されているものであればその型式に制限されない。この容器1を適当な形状とするための成形条件として既知の方法を用いてもよいが、特に限定されるものではない。
【0020】
溝12の底面14と、堰15とは、互いに水平であってもよく、傾斜を有したりテーパー状であったりしてもよい。堰15は底面12の一辺にのみ設けられていてもよく、堰15の一端のみが肩部13の端に至っていてもよい。堰15は、直線状であってもよく湾曲していてもよい。肩部13は円弧状であり溝12は略擂鉢状でその底面を略短冊状とするものであってもよい。肩部13は略半月状であり溝12は平坦な傾斜を有しその底面を略短冊状とするものであってもよい。溝12の両端は、容器1の外周と同様に湾曲していてもよい。容器1は、その側面に手を掛ける窪み16を有していてもよく、その天面に取手17を有していてもよい。容器1は円柱状、樽状、角柱状の何れであってもよいが、面取りされた円柱、直方体であることが好ましい。別な容器1を積み重ね易くずれ難くするため、肩部13に積み重ねられる容器の底部と係合する爪を有していてもよい。
【実施例】
【0021】
本発明を適用するプラスチック容器を試作した例を実施例1〜3に示し、本発明を適用外のプラスチック容器を試作した例を比較例に示す。
【0022】
(実施例1)
単層からなるプラスチック容器の原料として、JIS K6760に従って測定した密度およびメルトフローレートHLMFRがそれぞれ0.956g/cmと8.0g/10分の物性を持つポリエチレンを使用した。これのパリソンを形成した後、ブロー成形して、図1とその平面図および部分断面図である図2とに示された形状で容量20Lのプラスチック容器を作製した。
【0023】
この容器の形状は、直径300mm、全高376mmの円筒形である。その容器の最も高い部分を形成する肩部の頂上から40mm下部に形成された口部土台となる溝の底面の中程に口内径Φ48mmの口部を有している。口部の両脇には溝の底面の底辺に沿ってその底面からさらに24mmの深さだけ容器内空側へ凹んだ堰を有している。堰の両端は肩部端面まで伸びている。
【0024】
この容器に薬液として純水を充填した。容器に挿入したディップチューブを介しポンプで吸引しながら薬液を凡そ排出した。その際に排出されずに肩部に残った薬液を完全に排出するために、口部を下向きにしながら、容器内空側へ凹んだ堰に沿った方向に容器を傾けた後に、この堰と垂直な方向へ容器を傾けた。すると、肩部に残っていた薬液は全て堰を越え、口部から排出された。このとき、堰を再び越えて肩部に戻る薬液は全く無かった。その結果、容器に残る薬液は0mLであった。しかも薬液は全く容器周辺に飛び散らなかった。
【0025】
(実施例2)
単層からなるプラスチック容器の原料として、JIS K6760に従って測定した密度およびメルトフローレートMFRがそれぞれ0.951g/cmと0.20g/10分の物性を持つポリエチレンを使用した。これのパリソンを形成した後、フロー成形して、図3に示された形状で容量20Lのプラスチック容器を作製した。
【0026】
この容器の形状は、直径300mm、全高376mmの円筒形である。その容器の最も高い部分を形成する肩部の頂上から40mm下部に形成された口部土台となる溝の底面の中央から100mm程、容器の外周のふち側へずれた位置に、口内径Φ48mmの口部を有している。口部の片脇には溝の底面の底辺に沿って堰を有している。堰の一端は、溝の底面から30mmの深さだけ容器内空側へ凹み肩部の端に至っている。この一端から溝の底面と同じ深さにまで傾斜して形成された堰の他端は、肩部の他端に至ったところで凹みがなくなっている。
【0027】
この容器に薬液として純水を充填した。容器に挿入したディップチューブを介しポンプで吸引しながら薬液を凡そ排出した。その際に排出されずに肩部に残った薬液を完全に排出するために、口部を下向きにしながら、容器内空側へ凹んだ堰に沿い堰が肩部の端に至って窪んでいる堰の一端への方向へ容器を傾けた後に、この堰と垂直な方向へ容器を傾けた。さらに、これと逆の方向へ容器を傾けた。すると、肩部に残っていた薬液は全て堰を越え、口部から排出された。このとき、堰を再び越えて肩部に戻る薬液は全く無かった。その結果、容器に残る薬液は0mLであった。しかも薬液は全く容器周辺に飛び散らなかった。
【0028】
(実施例3)
3層からなるプラスチック容器の原料として、JIS K6760に従って測定した密度およびメルトフローレートMFRがそれぞれ0.951g/cmと0.20g/10分の物性を持つポリエチレンを最内層原料とし、同じく密度およびMFRがそれぞれ1.19g/cmと1.3g/10分の物性を持つポリ(エチレン−コ−ビニルアルコール)を中間層のバリア剤原料とし、同じく密度およびHLMFRがそれぞれ0.956g/cmと8.0g/10分の物性を持つポリエチレンを最外層原料とし、さらにバリア剤の中間層と、最内層および最外層の各ポリエチレン層とを接着する樹脂として同じく密度およびMFRがそれぞれ0.914g/cmと1.4g/10分の物性を持つポリエチレンに無水マレイン酸がグラフト重合されたポリマーを接着剤原料とした。これのパリソンを形成した後、ブロー成形して、単層にかえて多層としたこと以外は、実施例1と同様なプラスチック容器を作製した。
【0029】
この容器に薬液として純水を充填し、実施例1と同様に排出させたところ、容器に残る薬液は0mLであり、薬液は全く容器周辺に飛び散らなかった。
【0030】
(比較例)
単層からなるプラスチック容器の原料として、JIS K6760に従って測定した密度およびメルトフローレートHLMFRがそれぞれ0.956g/cmと8.0g/10分の物性を持つポリエチレンを使用した。これのパリソンを形成した後、ブロー成形して、堰を設けなかったこと以外は、実施例1と同様なプラスチック容器を作製した。
【0031】
この容器に薬液として純水を充填した。容器に挿入したディップチューブを介しポンプで吸引しながら薬液を凡そ排出した。その際に排出されずに肩部に残った薬液を完全に排出しようとして、口部を下向きにしながら、口部よりも、溝の片脇の肩部が上方となるように容器を傾けた。すると、肩部に残っていた薬液は僅かに口部から排出されたが大半は反対側の肩部に流れ込んでしまった。そこで逆に容器を傾け、これを相互に5回繰り返した。しかし、肩部に残っていた薬液は僅かに口部から排出されだけで、大半は容器内に残ったままであった。しかも、折角、僅かに排出された液の一部が、口部から容器周辺に飛び散ってしまった。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明のプラスチック容器は、集積回路、半導体、液晶等を製造するための薬品や溶剤のような高純度薬液を充填したり収納したりでき、それらの製造に際してこの薬液を使用した後、容器内に残る薬液を効率よく綺麗に取り出すのに使用できる。取り出した残余薬液は、それらの別なロットの製造の際に、使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明を適用する積み重ね可能なプラスチック容器で二つの堰を有するものの斜視図である。
【0034】
【図2】本発明を適用するそのプラスチック容器の平面図および部分断面図である。
【0035】
【図3】本発明を適用する別なプラスチック容器で一つの堰を有するものの平面図および部分断面図である。
【0036】
【図4】本発明を適用外のプラスチック容器で一つの堰を有するものの平面図および部分断面図である。
【符号の説明】
【0037】
1はプラスチック容器、11は口部、12は溝、13は肩部、14は底面、15は堰、16は窪み、17は取手である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器の天面の中央を走る溝の底面に、上向きの口部が開けられ、該溝の両脇で該天面のふちに沿って、別な容器を積み重ねる平坦な肩部が設けられ、該溝に沿う該底面のへりの少なくとも一方に、該底面よりも容器内空側へ凹んでいる堰が設けられ、該堰の少なくとも一端が該肩部の端にまで至っていることを特徴とするプラスチック容器。
【請求項2】
前記堰が、該底面よりも4〜40mm凹んでいることを特徴とする請求項1に記載のプラスチック容器。
【請求項3】
前記容器が、ポリオレフィン樹脂製であることを特徴とする請求項1に記載のプラスチック容器。
【請求項4】
前記ポリオレフィン樹脂が、酸化防止剤無添加のポリエチレンであることを特徴とする請求項3に記載のプラスチック容器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2007−197040(P2007−197040A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−16698(P2006−16698)
【出願日】平成18年1月25日(2006.1.25)
【出願人】(000100849)アイセロ化学株式会社 (20)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】