説明

積分型データ演算法におけるチェック機能を備えたデータ処理方法

【課題】
免疫学的反応等に用いられる化学発光などの高感度分析では、一般的に一定の信号観測時間における信号の積分値を算出する方法を用いて定量している。本発明では、この観測信号の時間的変化に着目し、積分値に加え、ピーク時刻等の特徴量を検出することにより、信頼性の高い測定を実現する。
【解決手段】
系外からトリガーを与える手段と、該トリガーに基づき、系内から発生する光信号を検出する検出手段と、該系内から発生した光信号の強度を経時的に記録する記録手段と、を備え、更に前記光信号のピークの時間的な位置を、予め設定した時間的位置と比較する比較手段と、該比較手段での比較結果に基づき、測定された光信号の情報に該評価結果を関連づけて記憶する記憶手段と、を備えた自動分析装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液,尿等の生体サンプルの定性・定量分析を行う自動分析装置に係り、特に定性・定量分析を分析対象成分(analyte) と特異的に結合する標識試薬の検出に基づいて行う自動分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
血液,尿などの体液に含まれる測定対象成分の1測定方法として、対象とする分析対象化学成分に特異的に反応する標識試薬(標識としては放射性物質,化学反応によって発光する物質,励起光の照射によって蛍光,燐光を発する物質等)を利用して顕在化させる方法が知られている。この反応で得られた化学的特性、すなわち吸光もしくは発光といった現象を、光電効果を利用した受光素子(光電子増倍管,CCD等の固体撮像素子等)を用いて電気信号に変換し、電気的に増幅する。今日ではこのような情報をコンピュータによる処理が可能なようにアナログ/デジタル変換により数値化し、数値処理することが一般的である。このような数値処理では、コンピュータ上で光学的な強度値を時間積分する方法が一般的である。一般的には積分値をその後のデータ処理し、積分に用いられたデータについては、これは、センサ自体の測定レンジの限界を、空間的,時間的な方法により積分することで、分解能を改善できる。
【0003】
しかし、特に光電子増倍管を用いて僅かな発光量を測定する場合、外来ノイズ等により測定値に誤差が生じる懸念があった。このような懸念に対応するため、特許文献1に記載された方法が提案されている。
【0004】
【特許文献1】特開2001−91466号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された方法は、発光強度測定値の分布は基本的に正規分布を取るとの前提に基づき、正規分布に乗らない測定値はノイズが重畳していると判断して、測定データを補正するものである。しかし、実際の測定値は発光強度が時間的に変化しているものである。本発明者らは、例えば、試薬が容器内壁に付着し、その付着した試薬が測定中に反応液に滴下したような場合は、測定値そのものは正規分布にのっとっていても、誤差を含むデータとなることを見出した。
【0006】
本発明の目的は、上記のような測定の誤差要因が発生した場合、それを検知することにより、より信頼性の高い測定データを得ることのできる自動分析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明の構成は以下の通りである。
【0008】
系外からトリガーを与える手段と、該トリガーに基づき、系内から発生する光信号を検出する検出手段と、該系内から発生した光信号の強度を経時的に記録する記録手段と、を備え、更に前記光信号のピークの時間的な位置を、予め設定した時間的位置と比較する比較手段と、該比較手段での比較結果に基づき、測定された光信号の情報に該評価結果を関連づけて記憶する記憶手段と、を備えた自動分析装置。
【0009】
系外から与えるトリガーとは、具体的には特定反応(発光反応を含む)を開始させる試薬や、電場,磁場、またはそれらの組み合わせ等である。そのようなトリガーによって、系内(反応容器,フローセル等)で発光反応が起こる。そのような発光反応を光電子増倍管,CCD,MOSセンサ等の光信号を電気信号に変換する検出手段により検出する。そのような発光反応は、msecオーダで継続するのが一般的であり、そのような反応の経時変化を記憶手段に記憶する。記憶手段は半導体メモリ、ハードディスク等の一般的な記憶手段を用いることができる。トリガーを与えた後、発光信号がピークとなる位置を予め定めたピーク位置の情報と比較し、反応が正常に進行したか、何らかの原因で反応が異常となったかを判定することができる。ピーク位置の特定にあたっては、既知のデータ処理手段を用いることができる。
【0010】
この場合、光信号の積分値を用いて、ピーク位置判定を行うかどうかを判断しても良い。すなわち、積分値が小さい場合は、ピーク位置の特定が難しい、あるいはピーク位置の誤差が大きくなり、ピーク位置判定を行うメリットが小さくなる場合がある。このような場合は、無理にピーク位置判定を行うと、間違った判断がなされる可能性があるため、例えば、再度同じ試験を行うように示唆を与えるなどして、その分析結果に基づいた判断は危険であることを明示するようにしても良い。
【0011】
また、前記評価結果を関連づけて記憶する記憶手段に記憶された情報に基づき、測定データにアラームを付加して表示する機能を備えても良い。具体的には、測定結果を一覧表示する場合に、1つの列を設けてアラームの有無を表示しても良いし、表示色を変えてオペレータに注意を促すようにしても良い。
【0012】
また、測定結果は、記録手段に記録された光信号の強度の経時的変化をグラフ等により表示する表示手段を備えても良い。
【発明の効果】
【0013】
自動分析装置において、信頼性の高い結果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
化学反応は、その形態として、拡散および分子同士の反応確率に依存して生じる。化学分析に用いられる測定形においては、攪拌を十分に行い、均一な測定系で測定することが原則である。この場合においては、所定の濃度があればその頻度は正規分布に従う場合が多い。しかし、臨床検査に用いられる自動分析システムにおいては、時間的な制約や、構造的な制約があるため、実用的に均一と見なせる範囲に設計するのが一般的である。このような、装置化された反応系においては個々の反応系における特有な条件を考慮しても、反応が期待される条件で行われている限りにおいては、その反応は、一定の範囲で生じることが期待される。
【0015】
しかしながら、この一定の範囲を逸脱するような、予想を超える状況、すなわち、反応液のpHが著しく変化した場合であるとか、反応を均一にするための攪拌のプロセスが十分に行われなかった場合など、異常な反応が生じる場合がある。これらは、機構の位置調整,流路の汚損といったハードウェァの問題点,試薬の劣化,試薬の取扱いによる不具合および偶発的な工程の異常などが考えられる。これらの異常が発生した場合は、速やかに報告され是正措置がとられなければならない。
【0016】
さらに、臨床検査においては、反応に供せられる検体は、当該検体の由来する患者に処方もしくは患者が接種した多種多様な化合物を含む場合や、疾病により著しく検体内の特定成分の濃度が異なっている場合があり、反応系が当初準備された許容範囲を逸脱する場合が懸念される。しかしながら、システムおよび反応系を構成する試薬を開発するにあたり、全ての可能性を網羅することは現実的には不可能に近い。生化学項目では顕著な影響を与える評価項目として、溶血,ビリルビンおよび乳びが確立されている。しかし、免疫項目に至っては、干渉物質は確立されていない。
【0017】
このような状況において、微量分析における反応を検討した場合、Bound/Free による分離を含む測定系においては、最終反応は単一かつ高感度な反応を採用しているため、想定される正常な反応についてはあらかじめ規定することが可能である。従って、最終的に出力される積分値から、逆に期待される反応を求めることは可能であると考えられる。逆にいえば、積分値による同一の出力値を得たとしても、その内容には著しい差がある場合を含んでおり、これらは積極的に除外することにより、得られるデータにおける品質を保証することが可能であると考えられる。
【0018】
以下、本発明の実施例を図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0019】
時間に対する発光量の変化を計測する方法における実施例を示す。ここで説明する化学発光反応系は一般的に化学発光法と呼ばれる方法である。例えばルミノールと過酸化水素の混合による化学発行反応などが挙げられる。実際の臨床検査に用いられる反応系については、例えば特開2003−50204号公報(親水性修飾剤を有するアクリジニウムエステル標識)に記載があり、そのメカニズムについては、例えば 「光化学の世界 日本化学会 編/徳丸 克己 著 ISBN 4−477−00357−9 大日本図書」に記されている。
【0020】
これらの化学発光反応では、発光基質が、至適pHの溶液中で、過酸化水素などの酸化剤によって酸化される過程において発光するとされている。
【0021】
装置の構成例を図2に示す。反応容器101には、それ以前の工程でB/F分離された磁性粒子102であって、ここには吸着された発光物質を含む。ここで、第一の工程としてノズル103より、pH調整液タンク105に収められたpH調整液をポンプ104により吐出する。この工程により、前記磁性粒子102は溶液中に均等に分散する。十分に分散されるに必要な時間の後、さらに、ノズル106により、発光開始剤タンク108から、発光開始剤をポンプ107により吐出する。ポンプ104,ポンプ107は制御装置109により、タイミングを制御する。発光開始剤の混合により、シャッタ110が同期して開放し、光電子増倍管111は、発光により光電流を増幅し、LOGアンプ112を介して光電流を電気的に増幅し、アナログデジタル変換器(ADC)113により、デジタル変換され、データ処理ユニット114により、デジタル値として保存される。ここで、光電子増倍管111およびログアンプは受動的に動作し、シャッタ110およびアナログデジタル変換器(ADC)113は、制御装置により、同期的に制御されるものとする。アナログデジタル変換器(ADC)113において発光信号は、例えば10msec毎に平均値を算出し、その値をデータ処理ユニット114に格納する。すなわち、2秒間の測定であれば200点のデータが得られる。
【0022】
得られるデータの例を図2に示す。横軸を時刻とし、時刻0を発光開始剤を注入するタイミングとする。この時、まず発光開始剤注入の前、例えば−80msecの時点で、シャッタ110を開放し、反応前のバックグラウンドを得る状態とする。発光開始前50msecの時点から、データを取得し、バックグラウンドレベル202を得る。バックグラウンドレベルは、−50msecから0msecの区間の平均値を求める方法による。次いで、発光開始材を注入することにより、発光が急激に発生し、信号211が発生する。ピーク212に到達したのち、発光は徐々に小さくなり、2000msecの時点まで、データを取得する。
10msec単位でデータを取得した場合、2000点のデータが取得できる。各点から前記バックグラウンドレベル202を除き、合計した値を縦線で示された積分値213とする。次に、異なった挙動を示す反応の例を示す。反応221は、反応開始後ピーク222に到達するまでに500msecを要した例である。この場合、積分値は、反応221と比較して同等の積分値となり、積分値以降のデータは、同等に扱われる。しかしながら、この反応においては、いくつかの要因により、反応が遅延したことが考えられ、データとして同等の信頼性を示すには、別途評価が必要となる。
【0023】
本実施例においては、ピークを検出する論理を備え、さらに予め、ピークの遅延許容範囲を定めておき、この範囲を越えた場合、出力データにアラーム情報を添付する。基本的なフローを図3に示す。信号データ310を入力し、まず、積分値320を算出する。さらに信号データから平行して、特徴値抽出330を行う。特徴値を入力として、予め用意された判定テーブルから、コメントを読み出し、これを出力データに添付する。この例では、遅延を特徴とし、例えば50msecから100msecの遅延があった場合は、注意、100
msecから200msecの遅延があった場合は要注意、200msec以上の遅延があった場合は、測定不良としてコメントする。測定不良の場合は、出力データ自体をエラーとしても良い。
【0024】
また、複数の特徴量、例えば積分値と、ピークポジションを組み合わせて判定しても良い。基本的フローを図4に示す。信号データ取得410に続き、まず積分値算出420を行う。ここで積分値を判定し、例えば、積分値の範囲を0から10^7であった場合、0−1000の範囲においては、ピークのポジションについてチェックせず、演算値(積分値)出力する440。一方、積分値が1000より大きい場合においては、ピーク位置算出430を行い、さらにこのピーク位置をキーとして、ピーク位置判定取得440をピーク位置判定テーブル490にアクセスすることで行う。これは、低濃度領域の測定では、対象とする反応以外にも、極めて微弱な発光が生じる場合があり、ピークが明瞭に現れない等の現象があるためである。
【0025】
このような方法により、同一の積分値を得た場合においても、当該システムが期待する反応であるのか、予想外の反応が成されているか判定し、より信頼性の高いデータを出力することが可能となる。
【実施例2】
【0026】
反応を少なくとも二つの主要な構成に分離してデータ処理する方法について示す。図5は期待される主要な二つの反応を示す。横軸は時間軸であり、縦軸は、ピークによって規格化された相対信号量とする。バックグラウンドの取扱いについては、個々の測定系において調整する必要がある。
【0027】
基準となる反応は、それぞれの特徴を示す条件によって、あらかじめ取得する。例えば、純度の高い試料により、理想的な条件で取得されればよい。反応曲線511は急峻なピーク512をもつ短時間で終了する反応であり、ピーク512に対する、観測終了時点での信号値513は比較的小さい。この反応は、強度な増幅を行うために特別に選択された化合物による反応である場合が多い。なぜならば、免疫分析においては、単位分子あたりの発光強度が大きく、バックグラウンドに対して著しく異なる特性として、寿命がある程度短いことが求められるためである。これに対して、反応曲線521は、本来意図されない発光であって、反応系に結果的に含まれてしまう物質、例えば抗体等に強く結合した発光物質や、基質自体の発光等が考えられる。これらの発光では、反応までの時間が比較的緩やかなため、ピーク522が観測されるタイミングが遅く、発光が停止するまでの時間が長いがゆえに、観測終了時点において、ピーク522に対して、比較的大きい523発光がある。
【0028】
実際に得られた発光の曲線から、予め得られた反応曲線511および521を線形結合によってその比率を求める。単純には、線形一次結合として、急峻なピーク512における時刻と、終了時点での発光量を、2元一次方程式で演算することにより、推定することができる。
【0029】
少なくとも二つの反応に分離する観点としては、上記のほかに、物質AからB、さらにBからCといった三段階における反応において、AからBの反応とBからCの反応の反応速度の違いに着目し、それぞれが顕在化する条件で反応による時間経過を求めておき、これらを組み合わせにより算出する方法も考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】実施例1におけるシステム構成の概略を説明した図。
【図2】実施例1における時間に対する発光の例について説明した図。
【図3】実施例1における判定プロセスを示すフロー図。
【図4】実施例1における積分値をキーとして判定プロセスを分岐するフロー図。
【図5】実施例2における時間に対する発光の例について説明した図。
【符号の説明】
【0031】
101…反応容器、102…B/F分離された磁性粒子、103…pH調整液ノズル、104…pH調整液ポンプ、105…pH調整液タンク、106…発光開始剤ノズル、
107…発光開始剤ポンプ、108…発光開始剤タンク、109…制御装置、110…シャッタ、111…光電子増倍管、112…LOGアンプ、113…アナログデジタル変換器(ADC)、114…データ処理ユニット、202…バックグラウンドレベル、211…信号、212…ピーク、213…積分値、221…異なった挙動を示す反応、222…反応開始後ピーク、511…理想的な条件で取得された反応曲線、512…理想的な条件で取得された反応曲線のピーク、513…理想的な条件で取得された反応曲線の観測終了時点での信号値、521…本来意図されない発光の反応曲線、522…本来意図されない発光の反応ピーク、523…本来意図されない発光の観測終了時点においての信号。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
系外からトリガーを与える手段と、
該トリガーに基づき、系内から発生する光信号を検出する検出手段と、
該系内から発生した光信号の強度を経時的に記録する記録手段と、
を備え、
更に前記光信号のピークの時間的な位置を、予め設定した時間的位置と比較する比較手段と、
該比較手段での比較結果に基づき、測定された光信号の情報に該評価結果を関連づけて記憶する記憶手段と、
を備えたことを特徴とする自動分析装置。
【請求項2】
請求項1記載の自動分析装置において、
前記光信号の強度の経時的変化の積分値を算出する積分値算出手段を備え、
該積分値算出手段で算出された積分値に基づき、前記比較手段でのピーク位置比較を実行するか否かを判断する機能を備えたことを特徴とする自動分析装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の自動分析装置において、
前記評価結果を関連づけて記憶する記憶手段に記憶された情報に基づき、測定データにアラームを付加して表示する機能を備えたことを特徴とする自動分析装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の自動分析装置において、
前記記録手段に記録された光信号の強度の経時的変化を表示する表示手段を備えたことを特徴とする自動分析装置。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の自動分析装置において、
前記比較手段での比較結果が連続的、あるいは断続的に悪いと評価された回数が、予め定めた回数を超えた場合は、アラームを報知するアラーム報知手段を備えたことを特徴とする自動分析装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2007−85804(P2007−85804A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−273048(P2005−273048)
【出願日】平成17年9月21日(2005.9.21)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】