説明

積層ゴム支承の防錆処理方法

【課題】容易に実施することができ、かつ従来よりも高い防錆力を長期間維持することができる積層ゴム支承の防錆処理方法を提供する。
【解決手段】少なくとも上部プレート5及び下部プレート6の露出部を、ブチルゴムを含有するホットメルトで被覆する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層ゴム支承の防錆処理方法に関し、更に詳しくは、容易に実施することができ、かつ従来よりも高い防錆力を長期間維持することができる積層ゴム支承の防錆処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
橋梁の支持などに用いられる支承には、複数のゴム板と金属板とを積層した積層体の上下端に、それぞれ金属製の上部プレート及び下部プレートを取り付けた積層ゴム支承が一般に用いられている。この積層ゴム支承は、下部プレートの底面に固定されたベースプレートをアンカーボルトを介して橋脚に固定され、上部プレートの上面に固定されたソールプレートを介して橋桁を支持するように設置される。
【0003】
このように設置後の積層ゴム支承は、外気に長期間さらされるので、事前に金属部分には防錆処理が施されている。特に、例えば特許文献1に記載されているような、いわゆるフランジ型と呼ばれる上部プレート及び下部プレートが水平方向に張り出した形状の積層ゴム支承では、金属部分の露出面積が大きくなるため、十分な防錆処理が必要となる。
【0004】
積層ゴム支承の防錆処理には、ゴムによる被覆、メッキ処理や塗装などの方法が従来より用いられてきた。しかし、ゴムによる被覆は、大きさや形状の異なる積層ゴム支承ごとに加硫金型を用意する必要があるため、コストや工期が過大に増加してしまうという問題があった。メッキ処理は、上部プレート及び下部プレートと積層体との境界部を処理することが非常に困難であった。また、塗装については、長期に渡る使用期間中に剥離して、防錆力が低下してしまうおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−007262号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、容易に実施することができ、かつ従来よりも高い防錆力を長期間維持することができる積層ゴム支承の防錆処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成する本発明の積層ゴム支承の防錆処理方法は、ゴム板と鋼板とを上下方向に複数積層して加硫接着してなる積層体の上端及び下端に、それぞれ金属製の上部プレート及び下部プレートを取り付けてなる積層ゴム支承の防錆処理方法であって、少なくとも前記上部プレート及び下部プレートの露出部を、ブチルゴムを含有するホットメルトを融解させた状態で被覆することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の積層ゴム支承の防錆処理方法によれば、少なくとも上部プレート及び下部プレートの露出部を、ブチルゴムを含有するホットメルトを融解させた状態で被覆するようにしたので、ブチルゴムにより透湿性が低下し、かつ耐候性が向上したホットメルトが露出部に強固に密着するため、従来よりも高い防錆力を長期に渡り維持することができる。また、ホットメルトは加熱することで流動化し、冷えることで硬化するため、容易に防錆処理を実施することができる。
【0009】
上記の融解したブチルゴムを含有するホットメルトを、圧力を加えて露出部に吹き付けるか、又は露出部の形状に沿って設置された型枠との隙間に注入することで被覆することが望ましい。
【0010】
ホットメルトの被覆を剥離しにくくするために、アモルファスポリ−α−オレフィン重合体を含有することが望ましい。
【0011】
また、アモルファスポリ−α−オレフィン重合体をシリル化することで、ホットメルトが架橋硬化して被膜の強度が向上するとともに、高外気温により被膜の表面がフローして被膜厚さが薄くなることを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態からなる防錆処理方法を適用する積層ゴム支承の例を示す半断面図である。
【図2】本発明の実施形態からなる防錆処理方法を示す半断面図である。
【図3】本発明の別の実施形態からなる防錆処理方法を示す半断面図である。
【図4】本発明の実施形態からなる防錆処理方法を適用する積層ゴム支承の別の例を示す半断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0014】
図1は、本発明の実施形態からなる積層ゴム支承の防錆処理方法の対象となる積層ゴム支承の例を示す。
【0015】
この積層ゴム支承1は、ゴム板2と鋼板3とを上下方向に交互に複数積層し、加硫接着して一体化した積層体4の上端及び下端に、それぞれ上部プレート5及び下部プレート6を取り付けた構造を有している。積層体4の側面は、耐候性に優れたゴム部材、例えばエチレンプロピレンゴム(EPM、EPDM)により覆われている。上部プレート5及び下部プレート6は、積層体4の鋼板3よりも厚手の鋼板から形成され、積層体4から水平方向に張り出した形状となっている。積層ゴム支承1は、下部プレート6の底面に固定されるベースプレート7を介して橋脚に固定され、上部プレート5の上面に固定されるソールプレート8を介して橋桁を支持するように設置される。
【0016】
本発明は、このような積層ゴム支承1に対して、上部プレート5及び下部プレート6において設置後に外部に露出する部分を、ブチルゴムを含有するホットメルト9を融解させた状態にして被覆することで防錆処理を行うものである。上部プレート5及び下部プレート6の露出部としては、具体的には上部プレート5の側面5a及び下面5b、並びに下部プレート6の側面6a及び上面6bが該当する。
【0017】
ブチルゴムとしては、通常のブチルゴム(IIR)の他に、塩素化ブチルゴム(CIIR)や臭素化ブチルゴム(BIIR)などのハロゲン化ブチルゴムを用いることもできる。
【0018】
このような防錆処理方法を積層ゴム支承1に施すことにより、ブチルゴムにより透湿性が低下し、かつ耐候性が向上したホットメルト9が露出部に強固に密着するため、従来よりも高い防錆力を長期に渡り維持することができる。また、ホットメルト9は加熱することで流動化し、被覆後に冷却又は放置することで硬化するため、露出部はもちろんのこと、上部プレート5及び下部プレート6と積層体4との境界部も容易に被覆することができる。
【0019】
なお、あらかじめ露出部に対して、付着した油などを除去する表面処理や、表面粗さを大きくするブラスト処理などを行うことにより、ホットメルト9の密着性を高めて、防錆力を向上させることが可能である。
【0020】
上記の防錆処理は、積層ゴム支承1の設置の前後にかかわらず行うことができる。設置前に防錆処理する場合には、設置後に非露出部となる上部プレート5とソールプレート8との接触面5cや、下部プレート6とベースプレート7との接触面6cも被覆するようにしてもよい。
【0021】
露出部を被覆する方法としては、図2に示すように、アプリケーター10で加熱したホットメルト9を、圧力を加えて射出ガン11で吹き付ける方法や、図3に示すように、積層ゴム支承1の形状に沿って設けた型枠12との隙間に、融解させたホットメルト9を注入する方法などが例示される。
【0022】
前者の射出ガン11による被覆方法は、積層ゴム支承1の設置後に実施することができるため、ホットメルト9の被覆の一部が剥離したときの補修作業にも適している。なお、露出部に均一に被覆することが困難であるため、吹き付け後に必要に応じて加熱ゴテなどで再融解させてならすようにするのがよい。
【0023】
後者の型枠12による被覆方法は、積層ゴム支承1の設置前に実施するのが適当であり、均一な厚さの被覆を容易に形成することができる。
【0024】
なお、ホットメルト9をトルエンなどの溶剤で希釈して露出部に塗布することも可能であり、その場合には複雑な形状を有する部分にもホットメルト9の被覆を容易に形成することができる。
【0025】
ホットメルトを被覆する厚さは、硬化後に0.1〜10mmの範囲となるようにすることが、防錆力の担保及び作業の効率化の点から好ましい。特に、硬化後の被覆の厚さを3mm以上とした場合には、異物との接触から露出部を保護する緩衝効果が期待できる。そのため、当て傷により生じる錆を防止するのに有効である。
【0026】
ブチルゴムを含有するホットメルト9は、アモルファスポリ−α−オレフィン重合体を含有することが望ましい。アモルファスポリ−α−オレフィン重合体としては、エチレン・プロピレン・ブテン共重合体が好ましく例示される。
【0027】
このように、アモルファスポリ−α−オレフィン重合体を含有することで、ホットメルト9の剪断強度が向上するため、ホットメルト9の被覆を剥離しにくくすることができる。
【0028】
また、上記のアモルファスポリ−α−オレフィン重合体は、シリル化されていることが望ましい。シリル化する方法としては、特に限定するものではないが、例えば特開2005−68423号公報に記載された遊離基開始剤によるものが例示される。
【0029】
このようにシリル化することで、大気中の湿気やホットメルト9中の水分によりホットメルト9が架橋硬化して被膜の強度が向上するとともに、高外気温により被膜の表面がフローして被膜厚さが薄くなることを防止することができる。また、ブチルゴムは、湿気や空気などが透過しにくいことに加え、ホットメルト9の被覆内に侵入した水分をアルコキシシリル基の加水分解反応で消費するため、透湿性を更に低下させることができる。
【0030】
なお、ブチルゴムとシリル化したアモルファスポリ−α−オレフィン重合体とを含有するホットメルトとしては、特開2010−166032号公報に記載された反応型ホットメルトシーリング剤組成物が例示される。
【0031】
シリル化したアモルファスポリ−α−オレフィン重合体は、ブチルゴム100重量部に対して20〜350重量部とすることが好ましい。20重量部未満になると剪断強度が低下し、350重量部超になると透湿性低下の効果が不十分になる。
【0032】
ブチルゴムを含有するホットメルト9には、上述したアモルファスポリ−α−オレフィン重合体以外にも、積層ゴム支承1の性能や設置場所の環境条件などに応じて、各種の添加剤を加えることができる。そのような添加剤としては、硬化触媒、可塑剤、充填剤、接着付与剤、顔料、老化防止剤、酸化防止剤、難燃剤や安定剤などが例示される。
【0033】
本発明は、図4に示すような、上部プレート5及び下部プレート6をそれぞれソールプレート8及びベースプレート7に接続する接続ボルト13や、橋軸と直交する方向に立設されるサイドブロック14及びその固定ボルト15などの、積層ゴム支承1に付属する金属製部材の露出部分の防錆処理にも適用できる。
【符号の説明】
【0034】
1 積層ゴム支承
2 ゴム板
3 鋼板
4 積層体
5 上部プレート
6 下部プレート
7 ベースプレート
8 ソールプレート
9 ホットメルト
10 アプリケーター
11 射出ガン
13 接続ボルト
14 サイドブロック
15 固定ボルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム板と鋼板とを上下方向に複数積層して加硫接着してなる積層体の上端及び下端に、それぞれ金属製の上部プレート及び下部プレートを取り付けてなる積層ゴム支承の防錆処理方法であって、
少なくとも前記上部プレート及び下部プレートの露出部を、ブチルゴムを含有するホットメルトを融解させた状態で被覆することを特徴とする積層ゴム支承の防錆処理方法。
【請求項2】
前記融解したブチルゴムを含有するホットメルトを、圧力を加えて前記露出部に吹き付ける請求項1に記載の積層ゴム支承の防錆処理方法。
【請求項3】
前記融解したブチルゴムを含有するホットメルトを、前記露出部の形状に沿って設置された型枠との隙間に注入する請求項1に記載の積層ゴム支承の防錆処理方法。
【請求項4】
前記ホットメルトが、アモルファスポリ−α−オレフィン重合体を含有する請求項1〜3のいずれかに記載の積層ゴム支承の防錆処理方法。
【請求項5】
前記アモルファスポリ−α−オレフィン重合体がシリル化されている請求項4に記載の積層ゴム支承の防錆処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−225392(P2012−225392A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−92236(P2011−92236)
【出願日】平成23年4月18日(2011.4.18)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】