説明

積層シートおよびその製造方法

【課題】 高い吸水性を有し、かつ濡れた対象物を拭いたときの液残りが少ない積層シートを提供する。
【解決手段】 親水性繊維を20mass%以上含み、ポイントボンド領域または繊維交絡領域を含む親水性不織布または親水性長繊維同士が少なくとも部分的に自己接着している親水性長繊維層の両面に分割型複合繊維を50mass%以上含む繊維ウェブを積層して積層体を作製し、積層体を水流交絡処理に付して、分割型複合繊維を割繊して繊度0.9dtex以下の極細繊維を得るとともに親水性不織布と極細繊維層とを一体化させることにより、親水性繊維層とその両面に配置された極細繊維層とから成り、極細繊維層が繊度0.9dtex以下の極細繊維を含み、親水性繊維層において親水性繊維同士が少なくとも部分的に接着している積層シートを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた吸水性を有する積層シートであって、特に、汚れの拭き取り性が高く、拭き取った後の対象物への液残りが少ないワイパーを構成するのに適した積層シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、拭き取り性が高いワイパーとして分割型複合繊維を用いた不織布が用いられている。例えば、特開平10−280262号公報(特許文献1)には、融点の異なる二成分系分割型複合短繊維(30〜70重量%)と、吸水性短繊維(70〜30重量%)とを混綿した不織ウェブに高圧液体流処理を施して、低融点重合体と高融点重合体からなる極細割繊短繊維を発現させるとともに三次元的交絡させ、次いで、低融点重合体が溶融軟化する温度で熱処理して、構成繊維同士を熱接着させたワイパー等に使用することができる不織布が提案されている。特開平11−217757号公報(特許文献2)には、エステル系重合体、アミド系重合体、エチレン系重合体のいずれかの異なる二成分系分割型複合短繊維(30〜70重量%)と、吸水性短繊維(70〜30重量%)を混綿した不織ウェブに高圧液体流処理を施して、割繊率85%以上で分割させて割繊短繊維を発現させるとともに三次元的交絡させたワイパー等に使用することができる不織布が提案されている。さらに、特開平11−247059号公報(特許文献3)には、二成分系分割型複合短繊維(90〜60重量%)と、熱接着性短繊維(10〜40重量%)を混綿した不織ウェブに高圧液体流処理を施して、低融点重合体と高融点重合体からなる極細割繊短繊維を発現させるとともに三次元的交絡させ、次いで、熱接着性短繊維が溶融軟化する温度で処理して、構成繊維同士を熱接着させたワイパー等に使用することができる不織布が提案されている。さらまた、特開2001−190469号公報(特許文献4)には、平均繊維長が20mm未満の親水性繊維を50重量%以上含有する親水性繊維層の少なくとも一方の面に、分割型複合繊維を50重量%以上含有し、構成繊維の平均繊維長が30〜100mmである極細繊維層を配し、三次元的絡合により一体化されてなる複合不織布を清拭用不織布として使用することが提案されている。
【0003】
清拭用不織布ではないが、特許文献4に記載の清拭用不織布に類似する構成の不織布が特開昭54−82481号公報(特許文献5)において提案されている。同文献は、ドレープ性に優れ、かつ物性も良い不織布として、ステープル状短繊維から構成され、その繊維間が部分的な熱圧着によって結合され、未結合の自由末端が多数存在するような非開口性の不織布を基材(A)とし、それに短繊維ウエブ(B)を重ね合わせ、そのウエブに水流を噴射することにより短繊維ウエブ(B)と基材(A)とを一体化させた不織布を提案しており、基材(A)として再生セルロース繊維のみからなる不織布を用いることをさらに提案している。
【0004】
【特許文献1】特開平10−280262号公報
【特許文献2】特開平11−217757号公報
【特許文献3】特開平11−247059号公報
【特許文献4】特開2001−190469号公報
【特許文献5】特開昭54−82481号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記不織布には、以下のような問題があった。例えば、特許文献1記載の不織布は、吸水性短繊維を70〜30重量%含有しており、水分等の吸収性には優れる。しかし、拭き取った後の液残りが多く、対象面が乾燥した時に液垢となって残存するだけでなく、拭き取り性も不十分なため汚れが液垢として残存するものしか得られなかった。特許文献2記載の不織布は、二成分系分割型複合短繊維の割繊率を85%以上とすることにより、ワイパー性能を向上させようと試みている。しかし、特許文献1と同様に液残りを解消することができなかった。特許文献3記載の不織布は、分割型二成分系複合短繊維を構成する重合体の融点より30℃以上低い融点を有する熱接着性短繊維を10〜40重量%含有させて極細割繊短繊維を溶融させることなく熱接着性短繊維を熱接着することにより、不織布の形態安定性および耐摩耗性に優れた不織布を得ようと試みている。しかし、吸水性が不足して液残りが多いだけでなく、熱接着性短繊維の繊度が大きく、拭き取り性にも劣るものであった。
【0006】
特許文献4記載の不織布は、積層構造を採用して、極細繊維層表面の親水性繊維の露出を軽減し、それにより液残りをある程度少なくすることを可能にしている。しかしながら、特許文献4に記載の不織布は、例えば、ディスプレイおよびガラス面等、液残りを特に少なくすることが望まれる対象物のワイパーとして使用する場合には、液残りの点でなお改善の余地を有する。また、特許文献4は、油脂汚れ等の拭き取り性を高くするのに適した不織布構成には言及していない。さらに、特許文献4に記載の不織布は、親水性繊維の平均繊維長が小さいために使用中に繊維の脱落が生じやすく、クリーンルーム等の発塵が望まれない環境下で使用するのに必ずしも適したものではなかった。特許文献5記載の不織布はワイパーとして使用されることを想定しておらず、同文献はワイパー用途に適した不織布の構成を教示していない。
【0007】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、汚れの拭き取り性が高く、液体等の拭き取った後、あるいは湿潤剤を含ませて拭き取った後の対象物への液残りが少ないワイパーを構成するのに適した積層シートを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、拭き取り後の液残りについて検討した結果、特許文献4に記載のような親水性繊維層と極細繊維層とから成る積層構造の積層シートにおいて、親水性繊維が極細繊維層に含まれる量をさらに少なくして極細繊維層の表面に露出する量を少なくすることにより、液残りをより少なくし得ると考えた。しかし、親水性繊維層を繊維ウェブで構成する場合には、極細繊維層と水流交絡処理により一体化するときに、親水性繊維が極細繊維中に移動するために、親水性繊維が極細繊維層に含まれる量を小さくすることは困難である。そこで、親水性繊維層の構成についてさらに検討した結果、親水性繊維層を親水性繊維同士がポイントボンドされた及び/または交絡している不織布で構成し、極細繊維層と一体化した後も、なお親水性繊維層において極細繊維層と一体化する前のポイントボンド領域または繊維交絡領域が維持されるように積層シートを構成すると、親水性繊維が極細繊維層に混在する量が小さくなって、上記課題を解決できることを見出し、本発明に至った。
【0009】
即ち、本発明は、上記課題を解決するために、親水性繊維を含む親水性繊維層の両面に極細繊維を含む極細繊維層が積層されてなる積層シートであって、
親水性繊維層が、親水性繊維同士が接着しているポイントボンド領域を含み、
極細繊維層が複数の樹脂成分から成る分割型複合繊維の割繊により得られる繊度0.9dtex以下の極細繊維を含み、
親水性繊維層および極細繊維層が水流交絡により一体化されている、積層シートを提供する。この積層シートは、極細繊維層と水流交絡により一体化されている親水性繊維層において親水性繊維同士が接着しているポイントボンド領域を有することを特徴とする。極細繊維層と親水性繊維層とが一体化された後において、かかる特徴を有するように積層シートを構成することによって、極細繊維層の表面に露出する親水性繊維の量を少なくすることを確保できる。したがって、この積層シートをワイパーとして使用する場合には、親水性繊維層によって吸水性が確保され、極細繊維によって優れた拭き取り性が確保されるとともに、液残りが少なくなるから、対象物の汚れを良好に拭き取ることが可能となる。
【0010】
ここで、ポイントボンド領域は、例えば、エンボスロール等を使用して熱圧着等により形成される領域であり、その領域では、他の領域と比較して、より強固に繊維が互いに接着して、例えばフィルム状となっている。親水性繊維層において、親水性繊維同士はポイントボンド領域以外の領域でも接着していてもよい。
【0011】
また、本発明は、上記課題を解決するために、親水性繊維を含む親水性繊維層の両面に極細繊維を含む極細繊維層が積層されてなる積層シートであって、
親水性繊維層が、極細繊維層と一体化する前に、親水性繊維同士が交絡している繊維交絡領域を含む層であり、
極細繊維層が複数の樹脂成分から成る分割型複合繊維の割繊により得られる繊度0.9dtex以下の極細繊維を含み、
親水性繊維層および極細繊維層が水流交絡により一体化されている、積層シートを提供する。極細繊維層と一体化する前の親水性繊維層が、親水性繊維同士が交絡している繊維交絡領域を有することにより、後で極細繊維層と水流交絡により一体化させるときに、繊維の極細繊維層への移動を少なくすることができる。その結果、極細繊維層の表面に露出する親水性繊維の量が少ない積層シートを得ることが可能となる。ここで、親水性繊維層を極細繊維層と一体化する前の形態で特定しているのは、積層シートにおいて、極細繊維層との一体化の前後の繊維交絡領域を区別することが難しいことによる。このように特定される積層シートも、極細繊維層との一体化の後、親水性繊維同士が親水性繊維層内で比較的互いに固定されているという点では、上記親水性繊維層がポイントボンド領域を有する積層シートと共通しており、同一の技術思想に基づくものである。
【0012】
繊維交絡領域は、例えば、水流交絡処理により形成される領域であり、その領域では、他の領域と比較して、より強固に繊維同士が絡み合って、例えば、より繊維密度の高い領域を形成している。親水性繊維層において、繊維同士は繊維交絡領域以外の領域でも絡み合っていてよい。また、親水性繊維層において、繊維交絡領域以外の領域は、極細繊維層と一体化する前において、例えば、開口部となっていてよい。
【0013】
また、本発明は、上記課題を解決するために、親水性長繊維を含む親水性繊維層の両面に極細繊維を含む極細繊維層が積層されてなる積層シートであって、
極細繊維層が複数の樹脂成分から成る分割型複合繊維の割繊により得られる繊度0.9dtex以下の極細繊維を含み、
親水性繊維層および極細繊維層が水流交絡により一体化されている、積層シートを提供する。この積層シートは、親水性繊維層が長繊維を含み、親水性繊維層における親水性長繊維の繊維端の数が比較的少ないことを特徴とする。かかる特徴によって、極細繊維層の表面に露出する親水性長繊維の量を少なくすることが確保される。
【0014】
親水性繊維層に含まれる親水性長繊維は、少なくとも部分的に自己接着していることが好ましい。それにより、極細繊維層の表面に露出する親水性長繊維の量をより少なくすることができる。
【0015】
本発明の積層シートは、親水性繊維層と極細繊維層とが水流交絡処理により一体化されているものであるから、各層の界面は繊維同士が交絡して一般には不明瞭である。しかしながら、そのような場合でも、例えば、親水性繊維のみを染色する染料を用いて染色試験を実施し、積層シートの断面を観察すると、濃く染色された層が中央部付近に存在することが確認される。そのように確認しうる積層シートは本発明の積層シートに含まれることに留意されたい。
【0016】
本発明の積層シートにおいて、親水性繊維層は再生セルロース繊維を含み、再生セルロース繊維同士が自己接着してポイントボイド領域を形成している、および/または極細繊維層と一体化する前に再生セルロース繊維同士が交絡して繊維交絡領域を形成していることが好ましい。より好ましくは、親水性繊維層は、再生セルロース繊維のみから成る。そのような親水性繊維層は、不織布に良好な吸水性を与える。また、再生セルロース繊維同士の自己接着によるポイントボンド領域または再生セルロース繊維同士の交絡による繊維交絡領域を含む親水性繊維層は、接着剤を使用せずに形成できるので、接着剤の使用による汚染等(例えば溶出)の問題を生じにくい。したがって、そのような親水性繊維層を含む積層シートは、例えばクリーンルーム等においてワイパーとして使用するのに適している。さらに、そのような親水性繊維層は、水流交絡処理に付しても、繊維の飛散が生じにくい点で好都合である。
【0017】
あるいは、親水性繊維層は、再生セルロース長繊維を含み、再生セルロース長繊維同士が(ポイントボインド領域を形成せずに)部分的に接着している形態のものであることが好ましい。そのような親水性繊維層を使用することによっても、上記ポイントボンド領域または繊維交絡領域を有する再生セルロース繊維含有親水性繊維層と同様の効果がもたらされる。
【0018】
本発明の積層シートにおいて、極細繊維層は、変性ビニルアルコール樹脂を含有する成分と、少なくとも1つの他の樹脂成分から成る分割型複合繊維の割繊により得られる繊度0.9dtex以下の変性ビニルアルコール樹脂を含有する極細繊維を含むことが好ましい。変性ビニルアルコール樹脂を含有する極細繊維は、油脂汚れ等を良好に拭き取ることを可能にする。
【0019】
本発明はまた、前記積層シートの製造方法として、
親水性繊維を20mass%以上含み、親水性繊維同士が接着しているポイントボンド領域および/または親水性繊維同士が交絡している繊維交絡領域を含む親水性不織布の両面に分割型複合繊維を50mass%以上含む繊維ウェブを積層して積層体を得ること、および
積層体を水流交絡処理に付して、分割型複合繊維を割繊して繊度0.9dtex以下の極細繊維を得るとともに親水性不織布と繊維ウェブとを一体化させること
を含む方法を提供する。この方法は、ポイントボンド領域および/または繊維交絡領域を有する親水性不織布を使用し、これを分割型複合繊維を含む繊維ウェブと水流交絡処理により一体化することを特徴とする。この特徴により、親水性繊維層と極細繊維層とが一体化され、かつ極細繊維層の表面に露出する親水性繊維の割合が少ない、本発明の積層シートを得ることが可能となる。
【0020】
本発明の製造方法において、親水性不織布は、再生セルロース繊維を含み、再生セルロース繊維同士が自己接着して前記ポイントボンド領域を形成しているものであることが好ましく、再生セルロース繊維のみから成るものであることがより好ましい。そのような親水性不織布を使用することにより、水流交絡処理による繊維ウェブと親水性不織布との一体化が容易となり、また、水流交絡処理中に極細繊維層中に移動する親水性繊維の量を小さくすることが可能となる。
【0021】
本発明はさらに、前記積層シートの別の製造方法として、
親水性長繊維を20mass%以上含む長繊維不織布であって、親水性長繊維同士が少なくとも部分的に自己接着している親水性長繊維不織布の両面に分割型複合繊維を50mass%以上含む繊維ウェブを積層して積層体を得ること、および
積層体を水流交絡処理に付して、分割型複合繊維を割繊して繊度0.9dtex以下の極細繊維を得るとともに親水性長繊維不織布と繊維ウェブとを一体化させること
を含む方法を提供する。この方法は、長繊維同士が部分的に自己接着している親水性長繊維不織布を使用し、これを分割型複合繊維を含む繊維ウェブと水流交絡処理により一体化することを特徴とする。この特徴により、親水性繊維層と極細繊維層とが一体化され、かつ極細繊維層の表面に露出する親水性繊維の割合が少ない、本発明の積層シートを得ることが可能となる。
【0022】
本発明はまた、本発明の積層シートを含むワイパーを提供する。本発明のワイパーは、濡れた対象面を拭く、あるいは液体を含浸させたウェットシートにして対称面を拭くのに特に適し、拭き取り後の対象面における液残りが無い又は僅かとなるように拭き取り作業を実施することを可能にする。
【発明の効果】
【0023】
本発明の積層シートは、親水性繊維層と親水性繊維層の両面に配置された極細繊維層とを有し、親水性繊維層において親水性繊維同士がある程度相互に固定されている構成を有する。かかる構成を有することにより、この積層シートを対象面から液体を拭き取る用途(特にワイパー)に使用する場合には、液体を良好に吸収でき、且つ液体を拭き取った後に対象面に残る液体の量を少なくすることができる。あるいは、この積層シートに液体(例えば洗浄剤)を含浸させて汚れを拭き取る用途に使用する場合には、親水性繊維層において良好に液体を保持するとともに、緻密な極細繊維層が露出表面となっているために液体が過度に浸出されにくく、また浸み出した液体は直ちに拭き取られるので、拭き取り後の液残りを少なくすることができる。さらに、本発明の積層シートは、極細繊維層が露出表面となるために、これを対象面から汚れ又は付着物を拭き取る用途(特にワイパー)として使用する場合には、極細繊維により汚れ等が良好に拭い取られて、清浄な対象面を与えることができる。
【0024】
本発明の積層シートにおいて、極細繊維層を変性ビニルアルコール樹脂を含有する極細繊維を含む層とする場合には、変性ビニルアルコール樹脂を含有する極細繊維は特に油脂を良好に吸着するために、これを対象面から油脂を拭き取る用途(特にワイパー)として使用する場合には、油脂を良好に拭い取ることができる。
【0025】
本発明の積層シートを含むワイパーは、上記特徴を備えたものであり、対象面から液体を拭い取るときの液残りが少なく、また、極細繊維層が変性ビニルアルコール樹脂を含有する極細繊維を含む場合には、油脂汚れを良好に拭き取ることができる。したがって、本発明のワイパーは、ディスプレイなどのOA機器類、眼鏡、自動車、機械、複写機のガラス面等の油脂汚れが付着した対象面を拭き取るワイパー、または洗浄液を使用して清掃した後の乾拭き用ワイパーとして良好に機能する。また、本発明の積層シートを含むワイパーは汚染の原因となることがある接着剤を用いずに構成し得るので、クリーンルームで使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明の積層シートは、1)親水性繊維同士が接着しているポイントボンド領域を含む親水性繊維層、2)極細繊維層と一体化する前に、親水性繊維同士が交絡している繊維交絡領域を含む親水性繊維層、または3)親水性長繊維を含み、好ましくは親水性長繊維同士が部分的に自己接着している親水性長繊維層と、複数の樹脂成分から成る分割型複合繊維の割繊により得られる繊度0.9dtex以下の極細繊維を含む極細繊維層とから成り、極細繊維層が親水性繊維層の両方の表面に配置されて、親水性繊維層と一体化しているシートである。ここで「表面」という用語は、シートまたは層の主表面(厚さと平行な表面)を指す。
【0027】
親水性繊維層は、積層シートにおいて、親水性繊維同士が接着しているポイントボンド領域を含む層、および/または極細繊維層と一体化する前に親水性繊維同士が交絡している繊維交絡領域を含んでいた層、あるいは親水性長繊維を有する親水性長繊維層である。これらの親水性繊維層は、極細繊維層と水流交絡により一体化する前に、ポイントボンド領域および/または繊維交絡領域を有する、あるいは親水性長繊維を含み、好ましくは親水性長繊維同士が少なくとも部分的に接着されて、独立したシートとして取り扱うことのできる不織布であることを一般には要する。以下、積層シートを構成する前の親水性繊維層、即ち、親水性不織布について説明する。
【0028】
親水性不織布は、再生セルロース繊維を含み、再生セルロース繊維同士が自己接着しているものであることが好ましい。ここで、「再生セルロース繊維」とは、ビスコースレーヨン、銅アンモニアレーヨン(キュプラ)、および溶剤紡糸セルロース繊維等を指す。また、「再生セルロース繊維同士が自己接着する」とは、接着剤を用いずに、再生セルロース繊維の一部分が溶融または軟化して互いに接合することをいう。そのような接合は、再生セルロース繊維の一部を変性させることにより、または再生セルロース繊維の紡糸直後の粘性を利用することにより達成される。
【0029】
具体的には、親水性不織布として、セルロースザンテートのメチロール化誘導体から成る部分を有するレーヨン短繊維を含む繊維ウェブを作製し、エンボスロール等を使用して熱圧着処理を施してセルロースザンテートのメチロール誘導体を溶融することにより、繊維同士が接着されているポイントボンド領域を形成した不織布が挙げられる。この不織布は、好ましくはそのようなレーヨン短繊維のみから成る。ポイントボンド領域を形成した不織布をさらに例えば水流交絡処理に付すことにより、繊維交絡領域が形成されることとなる。ポイントボンド領域を有するレーヨン短繊維から成る不織布、ならびにポイントボンド領域と繊維交絡領域とを有するレーヨン短繊維から成る不織布は、例えばフタムラ化学株式会社から「太閤TCF」の名称で販売されている。「太閤TCF」については、「不織布情報」(平成16年3月10日、(株)不織布情報発行)に記載されている。
【0030】
ポイントボンド領域を有する親水性不織布において、ポイントボンド領域は、10〜60個/cmの割合で形成され、不織布表面の5%〜60%を占めることが好ましい。ポイントボンド領域の数および割合が少ないと、極細繊維層により多くの親水性繊維が含まれる傾向にあり、本発明の効果を得られず、ポイントボンド領域の数および割合が多いと、親水性不織布と極細繊維層との間の結合力が小さくなる傾向にある。
【0031】
あるいは、親水性不織布は、再生セルロース繊維を紡糸するとともに、紡糸した繊維が粘性を有する間に繊維同士を部分的に接着させた長繊維不織布であることが好ましい。この長繊維不織布もまた、好ましくは再生セルロース繊維のみから成る。この長繊維不織布をさらに水流交絡処理すると、繊維交絡領域を有する不織布となる。再生セルロース繊維のみから成る長繊維不織布は、例えば、旭化成せんい株式会社から「ベンリーゼ」の名称で、小津産業株式会社から「ベンコット」の名称で販売されている。「ベンリーゼ」および「ベンコット」はキュプラのみから成る不織布である。これらの名称で販売される不織布には種々の形態のものが含まれ、水流交絡処理が施されて繊維交絡領域を有する形態のものも含まれている。
【0032】
あるいは、長繊維不織布は、長繊維同士が接着しておらず、水流交絡処理等によって、繊維同士が交絡されてシート形態を成しているものであってよい。そのような長繊維不織布は、本発明において繊維交絡領域を有する親水性繊維層を構成し得る。
【0033】
親水性繊維層を親水性長繊維を含む層とする場合、極細繊維層と一体化する前の親水性繊維層は、長繊維同士が接着も交絡もしていない形態、即ち、長繊維ウェブであってよい。そのような長繊維ウェブは、独立したシートとして取り扱いにくいものであるため、積層シートは、例えば長繊維ウェブの形成後、直ちに極細繊維層と一体化する方法で、製造される。
【0034】
親水性不織布は、必ずしも再生セルロース繊維同士が自己接着しているものでなくてもよく、接着剤により、親水性繊維同士が接着されたシートであってもよい。親水性繊維としては、上記再生セルロース繊維に加えて、コットン、パルプ、シルクおよびウール等の天然繊維、ならびに合成繊維に親水化処理を施したものから選択される1または複数の繊維を使用できる。接着剤としては、不織布製造において一般的に使用されている接着剤および熱接着性繊維を使用できる。
【0035】
具体的には、親水性不織布は、上記繊維を含む湿式抄紙ウェブおよびカードウェブ等の繊維ウェブに接着剤を付与して、エンボスロール等を用いてポイントボンドした不織布であってよく、あるいは親水性繊維と熱接着性繊維とを含む繊維ウェブを作製し、必要に応じてニードルパンチ処理または水流交絡処理を施した後、熱処理して熱接着性繊維により繊維同士を接着してポイントボンド領域を形成した不織布であってよい。熱接着性繊維としては、例えば、低融点樹脂成分と高融点樹脂成分の組合せから成り、低融点樹脂成分が繊維表面の少なくとも一部に露出している複合繊維を使用できる。具体的には、低融点樹脂成分/高融点樹脂成分が、ポリエチレン/ポリプロピレン、ポリエチレン/ポリエチレンテレフタレート、エチレン−プロピレン共重合体/ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体/ポリエチレンテレフタレート等であって、繊維断面において、低融点樹脂成分/高融点樹脂成分が鞘/芯構造を有するもの、または並列型構造を有するものが使用される。
【0036】
親水性不織布は、いずれの形態をとる場合も、親水性繊維を少なくとも20mass%以上含むことが好ましい。親水性不織布において親水性繊維の割合が20mass%未満であると、得られる積層シートにおいて良好な吸水性を得ることができない。親水性不織布は、好ましくは親水性繊維のみから成る。親水性繊維のみから成るシートは上述したように再生セルロース繊維の一部が自己接着した構成のシートとして好ましく実現される。
【0037】
親水性不織布は、その目付が10g/m以上180g/m以下の範囲内にあることが好ましく、15g/m以上60g/m以下の範囲内にあることがより好ましい。親水性不織布の目付が10g/m未満であると、積層シートに良好な吸水性を付与できず、また積層シートの地合が悪くなる。親水性不織布の目付が180g/mを越えると、これで親水性繊維層を形成した積層シートの吸水性は向上するが、親水性繊維層が大量の液体を保持したときに押圧によって液体が積層シート外に流出することがあるため、積層シートをワイパーとして使用するときに、親水性繊維層から流出される水が液残りの原因となることがある。ここでは、親水性不織布の好ましい目付を説明しているが、親水性不織布の目付は水流交絡処理の際に親水性繊維が極細繊維層に移動することにより若干減少するとしても、最終的に得られる積層シートにおける親水性繊維層の目付とほぼ同じであるとみなすことができる。したがって、親水性不織布の好ましい目付の範囲は、積層シートにおける親水性繊維層の好ましい目付の範囲であることに留意されたい。
【0038】
次に、極細繊維層について説明する。本発明の積層シートにおいて、極細繊維層は、分割型複合繊維の割繊により得られる繊度0.9dtex以下の極細繊維を含む。分割型複合繊維は、複数の樹脂成分から成り、繊維断面において構成成分のうち少なくとも1成分が2個以上に区分されてなり、構成成分の少なくとも一部が繊維表面に露出し、その露出部分が繊維の長さ方向に連続的に形成されている繊維断面構造を有する。2つの樹脂成分から成る分割型複合繊維の繊維断面構造の例を図1(a)〜(c)に示す。図1においては2つの成分から成る分割型複合繊維のみが例示されているが、分割型複合繊維は3以上の成分から構成されてよい。あるいは、分割型複合繊維は、中空を有するものであってよい。その場合、中空が繊維断面に占める割合(即ち、中空率)は、1〜50%程度であることが好ましい。
【0039】
分割型複合繊維の割繊により形成される極細繊維は、0.9dtex以下の繊度を有する。極細繊維の繊度の下限は、好ましくは0.05dtexであり、その上限は、好ましくは0.6dtexである。極細繊維の繊度が0.9dtexを超えると、対象物への液残りが多くなる可能性がある。
【0040】
本発明において、分割型複合繊維は、変性ビニルアルコール樹脂を含有する成分と、少なくとも1つの他の樹脂成分から成る分割型複合繊維であることが好ましい(この分割型複合繊維を、「分割型複合繊維(A)」とも呼ぶ。分割型複合繊維(A)は割繊により、変性ビニルアルコール樹脂を含有する極細繊維を形成する。変性ビニルアルコール樹脂を含有する極細繊維は、水などの液体により比較的湿潤されやすいため、不織布の表面で交絡された変性ビニルアルコール含有極細繊維の毛細管現象を利用して、液体を積層シート内部の親水性繊維層に良好に吸収することができる。また、変性ビニルアルコール含有極細繊維は、油脂成分に対する吸着性に優れているため、これがシート表面および極細繊維層内部に存在する本発明の積層シートは、油脂汚れの拭き取り性に優れ、かつ油脂成分を有効に保持することができる。
【0041】
変性ビニルアルコール樹脂は、ビニルアルコールと他の単量体との共重合樹脂である。変性ビニルアルコール樹脂におけるビニルアルコール含有量は、50モル%以上70モル%以下の範囲であることが好ましい。より好ましいビニルアルコール含有量は、55モル%以上である。より好ましいビニルアルコール含有量は、65モル%以下である。ビニルアルコール含有量が50モル%未満であると、湿潤性が低くなり、対象面への液残り性及び液濡れ性が低下する場合がある。ビニルアルコール含有量が70モル%を超えると、湿潤性が高くなる傾向にあり、液残りが多くなる場合がある。他の単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソプレン、1−ヘキセン等のα−オレフィンなどが挙げられる。変性ビニルアルコール樹脂は、特に、エチレン含有量が30モル%以上50モル%以下の範囲内にあるエチレン−ビニルアルコール共重合体(以下、EVOHという)であることが好ましい。上記EVOHによれば、水などの液体に対して必要以上に濡れず、適度な湿潤性を示すので、不織布にしたときの吸液性に優れる。また、上記EVOHによれば、油脂成分の吸着性に優れ、油脂汚れの保持性に優れる。より好ましいエチレン含有量は、35モル%以上である。より好ましいエチレン含有量は、45モル%以下である。
【0042】
変性ビニルアルコール樹脂はそれ単独で又は他の樹脂との混合物の形態で分割型複合繊維(A)の一成分を形成する。変性ビニルアルコール樹脂と他の樹脂との混合物を使用する場合には、変性ビニルアルコール樹脂の割合は50mass%以上であることが好ましい。変性ビニルアルコール樹脂の割合が50mass%未満であると、得られる極細繊維の油脂成分吸着性が不十分となることがある。変性ビニルアルコール樹脂と混合する他の樹脂としては、例えば、ポリエチレン、エチレン−アクリル酸コポリマー、エチレン−アクリル酸メチル、ポリビニルアルコール、およびアイオノマーが挙げられる。変性ビニルアルコール樹脂は、好ましくはそれのみで(即ち、他の樹脂と混合することなく)、他の樹脂成分と分割型複合繊維を構成する。
【0043】
変性ビニルアルコール樹脂を含有する樹脂成分とともに分割型複合繊維(A)を構成する他の樹脂成分の少なくとも1つは、例えば、ポリエチレンテレフタレートおよびポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂、ナイロン6およびナイロン66などのポリアミド樹脂、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂から選択される1または複数の樹脂を含有することが好ましく、ポリオレフィン樹脂を含有することがより好ましい。したがって、分割型複合繊維(A)が図1に示すように第1成分と第2成分とから成る場合には、第1成分が変性ビニルアルコール樹脂を含有し、第2成分がポリオレフィン樹脂を含有することが好ましい。変性ビニルアルコール樹脂を含有する樹脂成分とポリオレフィン樹脂を含有する樹脂成分との組合せは、水流交絡処理により割繊しやすく、容易に変性ビニルアルコール樹脂を含有する極細繊維を得ることができる。また、変性ビニルアルコール樹脂を含有する樹脂成分とポリオレフィン樹脂を含有する樹脂成分とから成る分割型複合繊維は、適度な液濡れ性を示す変性ビニルアルコール含有極細繊維と疎水性を示すポリオレフィン含有極細繊維とを与えるので、両者の割合を変更することにより、極細繊維層表面の液体(例えば水)に対する湿潤性、あるいは拭き取り対象面での滑り性を調整することができる。上記ポリオレフィン樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン−1、ポリメチルペンテン等の樹脂、またはその共重合樹脂(例えば、エチレン−プロピレン)が挙げられ、これらの樹脂は単独で又は混合して使用してよい。これらのうち、ポリプロピレン樹脂は取り扱い性に優れることから、特に好ましく使用される。
【0044】
ポリオレフィン樹脂はそれ単独で又は他の樹脂との混合物の形態で分割型複合繊維(A)の一成分を形成する。ポリオレフィン樹脂と他の樹脂との混合物を使用する場合には、ポリオレフィン樹脂の割合は50mass%以上であることが好ましい。ポリオレフィン樹脂の割合が50mass%未満であると、分割型複合繊維(A)の割繊性が低下することがあり、また、ポリオレフィン含有極細繊維の疎水性が不十分となることがある。ポリオレフィン樹脂と混合する他の樹脂としては、例えば、アイオノマーが挙げられる。ポリオレフィン樹脂は、好ましくはそれのみで(即ち、他の樹脂と混合することなく)、変性ビニルアルコール樹脂を含有する樹脂成分と分割型複合繊維を構成する。
【0045】
分割型複合繊維(A)における変性ビニルアルコール樹脂を含有する成分と他の樹脂成分との容積比(変性ビニルアルコール含有樹脂/他の樹脂)は、9/1〜1/9の範囲内にあることが好ましい。より好ましい容積比は、6/4〜4/6である。分割型複合繊維(A)における変性ビニルアルコール樹脂を含有する樹脂成分と他の樹脂成分との容積比が1/9未満であると、極細繊維層において変性ビニルアルコール含有極細繊維の占める割合が少なくなり、対象物への液残りが多くなる傾向にある。容積比が9/1を超えると、極細繊維層において変性ビニルアルコール含有極細繊維の占める割合が多くなり、繊維の生産性が低下することがある。
【0046】
極細繊維層は、分割型複合繊維(A)に代えて又はこれとともに他の分割型複合繊維の割繊により得られる極細繊維を含んでよい。例えば、極細繊維層は、熱接着性樹脂を含む成分と、少なくとも1つの他の樹脂成分とからなる分割型複合繊維(この分割型複合繊維を「分割型複合繊維(B)」という)の割繊により得られる、熱接着性極細繊維を含んでよい。熱接着性極細繊維は、繊度が小さいので、他の繊維との交点が多く、微細な空隙を維持しながら、繊維同士を接着することができる。したがって、熱接着性極細繊維を含む積層シートは、拭き取りが軽く、拭き取り時における繊維の脱落および液残りが少ないワイパーを与える。また、熱接着性極細繊維のみで極細繊維層内の繊維同士を接着する場合には(例えば、太繊度の熱接着性繊維を極細繊維層に混合しない場合には)、対象面を傷つけることなく、繊維の脱落防止、拭き取り性の向上、および液残りの減少の効果を最大限に発揮することができ、好ましい。
【0047】
熱接着性樹脂は、合成繊維の製造において常套的に用いられている樹脂、例えば、低密度および高密度ポリエチレン、エチレン−プロピレン共重合体ならびに低融点ポリエステルから選択される1または複数の樹脂であることが好ましい。これらの熱接着性樹脂は必要に応じて他の高融点樹脂と混合して、分割型複合繊維の一成分としてよい。その場合、極細繊維層全体に占める熱接着性樹脂の割合は5mass%以上であることが好ましく、10mass%以上であることがより好ましい。極細繊維層において熱接着性樹脂の割合が5mass%未満であると、熱接着性極細繊維により繊維同士を十分に接着することができないことがある。好ましくは熱接着性樹脂は他の高融点樹脂と混合することなく使用される。熱接着性樹脂を含有する樹脂とともに分割型複合繊維を構成する他の樹脂成分は、熱接着性樹脂の融点よりも高い融点、好ましくは20℃以上高い融点を有する、1または複数の樹脂であり、例えば、ポリエチレンテレフタレートおよびポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ナイロン6およびナイロン66等のポリアミド樹脂、ポリプロピレン、ポリブテン−1、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン樹脂等から選択される。分割型複合繊維(B)が、図1に示すように第1成分と第2成分とから成る場合には、第1成分が熱接着性樹脂を含有し、第2成分が1または複数の高融点樹脂から成る。
【0048】
分割型複合繊維(B)における熱接着性樹脂を含有する樹脂と他の樹脂との容積比(熱接着性樹脂含有樹脂/他の樹脂)は、9/1〜1/9の範囲内にあることが好ましい。より好ましい容積比は、6/4〜4/6である。分割型複合繊維(B)において熱接着性樹脂を含有する樹脂と他の樹脂との容積比が1/9未満であると、極細繊維層において熱接着性極細繊維の占める割合が少なくなり、繊維同士を良好に接着できないことがある。容積比が9/1を超えると、極細繊維層において、熱接着性極細繊維の占める割合が多くなって、極細繊維層が硬くなり、また、極細繊維層における毛細管構造が潰れて積層シートの吸水性が低下することがある。
【0049】
分割型複合繊維(B)は分割型複合繊維(A)とともに好ましく用いられる。極細繊維層が、分割型複合繊維(A)および(B)の割繊により得られる極細繊維層を含み、かつ熱接着性極細繊維により繊維同士が接着されることにより、油脂の吸着性に優れ、かつ形態安定性に優れた積層シートを得ることができる。その場合、分割型複合繊維(A)を40mass%以上90mass%以下の割合で含み、前記分割型複合繊維(B)を10mass%以上60mass%以下の割合で含む繊維ウェブを作製し、これを水流交絡処理および熱接着処理に付すことにより、極細繊維層を得ることが好ましい。
【0050】
極細繊維層は、上記分割型複合繊維(A)および(B)とともに、またはそれらに代えて他の分割型複合繊維の割繊により得られる極細繊維を含んでよい。他の分割型複合繊維は、樹脂成分の組合せが、例えば、ポリエチレンテレフタレート/ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート/ナイロン66、ポリエチレンテレフタレート/ナイロン6、またはポリメチルペンテン/ポリプロピレン等であるものである。
【0051】
上記分割型複合繊維(A)および(B)ならびに他の分割型複合繊維を構成する樹脂成分は、必要に応じて親水化剤を含有してよい。分割型複合繊維の樹脂成分が親水化剤を含有する場合には、得られる極細繊維が親水性を有するものとなり、積層シートの親水性が向上する。親水化剤は、水酸基、カルボニル基、カルボキシル基、スルホン基などの親水基を有する化合物であればいずれであってもよい。親水化剤として、例えば、脂肪酸グリセライド(モノグリセリン脂肪酸エステル)、アルコキシ化アルキルフェノール、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル、および脂肪酸ジエタノールアミド等が挙げられる。親水化剤は、親水性能をより長い期間持続する(即ち、親水持続性を有する)、あるいは繊維表面へのブリード速度が遅い(親水遅効性を有する)ものであることが好ましく、これらの両方の性質を有する親水化剤として、具体的には、重合度(n)2〜10のポリグリセリンと炭素数8〜22の飽和もしくは不飽和脂肪酸とのエステル化合物(以下、単に「ポリグリセリン脂肪酸エステル」ともいう)が挙げられる。ポリグリセリン脂肪酸エステルは、分割型複合繊維に親水性を付与するだけでなく、その分割性をも向上させることから、特に好ましく用いられる。他の使用可能な市販の親水化剤として、例えば、IRGASURF(登録商標;チバ・スペシャルティ・ケミカルズより入手可能)が挙げられる。
【0052】
親水化剤は、分割型複合繊維を構成する任意の一成分または複数の成分にのみ含有させてよく、あるいは全ての成分に含有させてよい。親水化剤を1成分に含有させる場合、当該成分に親水化剤を0.1〜5mass%含有させることが好ましく、0.3〜3mass%含有させることがより好ましく、0.8〜2.5mass%含有させることが最も好ましい。親水化剤の含有量が0.1mass%未満であると、親水化剤を含有させることによる効果(親水性および/または分割性の向上)が得られず、含有量が5mass%を超えると、紡糸時の糸切れが増加して品質低下と工程性の低下を引き起こすので好ましくない。分割型複合繊維の複数の成分に親水化剤を含有させる場合には、各成分に含まれる親水化剤の含有量をそれぞれ上記範囲内とすることが好ましい。
【0053】
親水化剤を所定の成分に含有させる方法としては、溶融紡糸時に当該成分となる樹脂ペレットとともに押出機に所定の割合で親水化剤を供給する方法、あるいは親水化剤を含むマスターバッチを作製し、マスターバッチを当該成分となる樹脂ペレットに混合する方法等が挙げられる。マスターバッチを用いる方法によれば、親水化剤が成分中により均一に分散するので、当該方法は好ましく用いられる。
【0054】
極細繊維層において、分割型複合繊維は各構成成分に完全に分割している必要はなく、例えば、構成成分の一部のみが分割していてよく、あるいは、極細繊維が完全に独立した繊維とならず、一本の分割型複合繊維から一本または複数本の極細繊維が枝分かれしていてもよい。このように分割型複合繊維において極細繊維の分割が途中で止まっている場合等には、分割率は60%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましい。極細繊維層における分割率は次のようにして決定される。まず、積層シートの機械方向(タテ方向)が断面となるように束ねて空間が生じないようにし、電子顕微鏡にて300倍に拡大して任意に3箇所撮影する。次に、撮影した写真において、親水性繊維等の分割型複合繊維でない繊維が占める面積を全体の面積から引いて求めた面積を、分割率を求めるための母面積とする。分割型複合繊維でない繊維は、300倍程度で拡大することにより容易に判別される。それから、各構成成分に完全に分割している単繊維が占める面積を求め、この面積を母面積で除して100を乗じた値を分割率とする。
【0055】
極細繊維層は、上記分割型複合繊維を50mass%以上含む繊維ウェブを作製し、これを交絡処理に付すことにより、形成されたものであることが好ましい。ここで、水流交絡前の分割型複合繊維の割合でもって極細繊維層を規定しているのは、分割型複合繊維が前述のように完全に各構成成分に分割しない場合には、極細繊維の割合を決定することが困難な場合があることによる。分割型複合繊維は、繊維ウェブ中に60mass%以上含まれることがより好ましく、70mass%以上含まれることがさらにより好ましい。分割型複合繊維の割合が水流交絡前の繊維ウェブにおいて50mass%未満であると、極細繊維の割合が少なくなり、良好な拭き取り効果を得ることができないことがある。好ましくは、極細繊維層は、分割型複合繊維のみから成る繊維ウェブを水流交絡処理に付すことにより形成される。
【0056】
分割型複合繊維以外の繊維としては、コットン、パルプおよび麻等の天然繊維、ビスコースレーヨン、溶剤紡糸レーヨンおよび銅アンモニアレーヨン等の再生繊維、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンサクシネートおよびポリ乳酸等のポリエステル繊維、ナイロン6およびナイロン66などのポリアミド繊維、ポリエチレンおよびポリプロピレン等のポリオレフィン繊維、ならびにアクリル繊維等から選択される1または複数の繊維を使用してよい。ただし、これらの分割型複合繊維以外の繊維の繊度があまり大きくなると、対象面への液残りが多く、拭き取り性が低下する可能性があるため、繊度を2.5dtex以下とすることが好ましい。
【0057】
極細繊維層の目付は、5g/m以上100g/m以下であることが好ましく、5g/m以上40g/m以下であることがより好ましい。極細繊維層の目付が5g/m未満であると、積層シートの地合いが悪くなり、また、汚れの拭き取り性能が低下することがある。極細繊維層の目付が100g/mを越えると、積層シートのJIS−1096 6.26.1 Aによる滴下法により測定される吸水性が低下することがある。ここでいう極細繊維層の目付は、水流交絡処理の際に親水性繊維が極細繊維層に多少移動し、又は繊維が多少脱落するとしても、分割型複合繊維を含む水流交絡処理前の繊維ウェブの目付とほぼ同じであるとみなすことができる。したがって、積層シートの極細繊維層の目付は、水流交絡処理前の分割型複合繊維を含む繊維ウェブの目付により表してよいことに留意されたい。
【0058】
極細繊維層は、分割型複合繊維を含む繊維ウェブを、親水性不織布の両面に積層し、水流交絡処理に付して分割型複合繊維を割繊することにより形成される。以下に、極細繊維層の形成方法を、本発明の積層シートを製造する方法とともに説明する。
【0059】
本発明の積層シートは、上記親水性不織布の両面に分割型複合繊維を50mass%以上含む繊維ウェブを積層して積層体を作製し、この積層体を水流交絡処理に付して、分割型複合繊維を割繊して繊度0.9dtex以下の極細繊維を得るとともに親水性不織布と極細繊維層とを一体化させることにより製造される。
【0060】
親水性不織布の構成は先に説明したとおりである。親水性不織布は、繊維ウェブを積層する前に、水流交絡処理に付して、繊維同士を交絡させてよい。
【0061】
分割型複合繊維を含む繊維ウェブは、分割型複合繊維のみ又はこれと他の繊維とを混合して成る、カードウェブ、エアレイウェブ、湿式抄紙ウェブ、スパンボンドウェブ、またはメルトブローンウェブである。繊維ウェブの好ましい目付および分割型複合繊維の好ましい混合割合は先に説明したとおりである。
【0062】
繊維ウェブを親水性不織布に積層して成る積層体は、好ましくは、20g/m以上380g/m以下の範囲内にある目付を有し、より好ましくは、30g/m以上120g/m以下の範囲内にある目付を有し、さらにより好ましくは、30g/m以上95g/m以下の範囲内にある目付を有する。積層体の目付が20g/m未満であると、最終的に得られる積層シートの地合いが劣る傾向にある。目付が380g/mを超えると、積層シートをワイパーとして使用したときに取り扱い性が低下する可能性があり、またコスト高となる。
【0063】
次いで、積層体を搬送支持体の上に載置し、積層体の片面または両面に水流を噴射して水流交絡処理を施す。このとき、分割型複合繊維が割繊して極細繊維層が形成されるとともに、繊維同士の交絡により極細繊維層と親水性不織布(親水性繊維層)とが一体化されて積層シートが得られる。水流交絡処理条件は、積層体の目付および分割型複合繊維の所望の割繊度合等に応じて適宜設定することができる。例えば、孔径0.05mm以上0.5mm以下のオリフィスが0.5mm以上1.5mm以下の間隔で設けられたノズルから、水圧2.5MPa以上10MPa以下の水流を、積層体の表裏面側からそれぞれ1〜4回ずつ噴射するとよい。
【0064】
水流交絡された積層体を乾燥処理に付すことにより、本発明の積層シートが得られる。乾燥処理は、極細繊維層が熱接着性極細繊維を含む場合には、熱接着処理として実施してよい。乾燥処理(または熱接着処理)は、熱風吹き付け加工機、熱ロール加工機、または熱エンボス加工機等を用いて実施される。熱接着性極細繊維を熱接着するときの熱処理の温度は、熱接着成分の融点または軟化点以上、(積層シートを構成する他の繊維の中で最も融点が低い繊維の融点−10℃)以下であることが好ましく、(積層シートを構成する他の繊維の中で最も融点が低い繊維の融点−15℃)以下であることがより好ましい。熱処理温度をかかる温度範囲に調整することにより、全体として柔軟であって、対象面を擦ったときに対象面を傷つけず、かつ本発明の所期の効果(吸水性および拭き取り性の向上、液残り減少)を最大限に発揮する積層シートを得ることができる。
【0065】
このようにして得られた本発明の積層シートは、極細繊維層が親水性繊維層の両面に位置する三層構成を有し、JIS−1096 6.26.1 Aによる滴下法により測定される吸水性に優れ、また、JIS−1096 6.26.1 Bによるバイレック法により測定される吸水速度が機械方向(MD方向)において65mm/10分以上、好ましくは100mm/10分以上であるような高いものとなる。滴下法による吸水性に優れているのは、水滴の一部が極細繊維層の繊維間空隙に位置して親水性繊維層と直接的に接することにより又は極細繊維の毛細管現象によって、直ちに水滴が親水性繊維層に引き込まれることによると考えられる。バイレック法による吸水速度が高いのは、極細繊維層において水が毛細管現象により速やかに引き込まれ、引き込まれた水が極細繊維層から親水性繊維層に速やかに移行することによると考えられる。このように、本発明の積層シートは、極細繊維層と親水性繊維層との相乗的な作用によって、高い吸水性を示す。
【0066】
本発明の積層シートは、ワイパーとして好ましく使用される。ワイパーとして使用する場合には、必要に応じて流動パラフィンなどを付着させて乾式の清拭不織布として用いることができる。
【0067】
また、本発明の積層シートは、必要に応じて水、アルコール、界面活性剤、または化粧料などの湿潤剤を含浸、噴霧、コーティング等の方法により付着させて湿潤性のワイパーとして用いることができる。湿潤性のワイパーとして用いる場合、前記積層シート100質量部に、湿潤剤を50質量部以上300質量部以下の範囲内で含有させることが好ましい。
【0068】
あるいは、本発明の積層シートの用途は、必ずしも対象面の汚れを拭い取る用途に限定されず、例えば、対象面に滴下した液状の油性材料(例えば、艶出し剤)を均一に塗り広げるための塗布シートとして使用してもよい。その場合、本発明の積層シートは、余分な油性材料を取りながら、油性材料を薄く均一に塗り広げると同時に、必要な場合には対象面に付着している汚れ又は水を拭い取る作用をするから、油性材料の薄膜が対象面に良好に形成されることを可能にする。
【実施例】
【0069】
本発明の積層シートを、実施例により詳細に説明する。不織布の厚み、極細繊維層における分割率、液残り性、拭き取り性、単繊維の脱落性、吸水速度、吸水性及び保液性は、下記のようにして測定した。
【0070】
[厚み]
厚み測定機(商品名:THICKNESS GAUGE モデルCR−60A (株)大栄科学精器製作所製)を用い、試料1cmあたり2.94cNの荷重を加えた状態で測定した。
【0071】
[分割率]
積層シートの機械方向が断面となるように束ねて空間が生じないようにし、電子顕微鏡にて300倍に拡大して任意に3箇所撮影した。撮影した写真において、親水性繊維等の分割型複合繊維でない繊維が占める面積を全体の面積から引いて求めた面積を、分割率を求めるための母面積とした。次に、各構成成分に完全に分割している単繊維が占める面積を求め、この面積を母面積で除して100を乗じた値を分割率とした。
【0072】
[液残り性]
積層シートを、機械方向×幅方向が20cm×15cmの寸法となるように裁断して試料を作製し、この試料100質量部に対して200質量部の水を含浸させて湿潤ワイパーを作製した。この湿潤ワイパーを四つ折りにして、汚れていないガラス板(30cm×50cm)上で3往復させた後、ガラス面に付着した水滴を目視で観察し、下記の5段階で評価した。
○:液残りがなく、乾燥しても水垢が存在しない。
○〜△:液残りは少しあるが、水滴が小さく、乾燥しても水垢が目立たない。
△:液残りが所々にあり、液残りは少ないが、乾燥すると、多少水垢が確認できる。
△〜×:液残りがあり、水滴が大きく、乾燥すると水垢が確認できる。
×:液残りが多く、水滴がかなり大きく、乾燥すると水垢が目立つ。
【0073】
[拭き取り性]
積層シートを、機械方向×幅方向が20cm×15cmの寸法となるように裁断して試料を作製した。この試料は乾燥状態(DRY)または試料100質量部に対して200質量部の水を含浸させて湿潤状態(WET)で使用した。
次に、ガラス板(30cm×50cm)の中央部に10cm×10cmの大きさで油性インキで四角形の枠を描き、その枠内の中央部に、1)水系ダストについての拭き取り性を評価する場合には、墨汁5gを滴下し、2)油系ダストについての拭き取り性を評価する場合には、ダフニーメカニックオイル46とJIS ダスト12種を質量比で95:5で混合した疑似ダストを滴下し、いずれの場合も、幅45mmのハケで、枠内に均一にダストを塗布した。
このダストを、DRYまたはWETの試料を四つ折りにして、10cm×7.5cmの四角形状とし、10cmの辺をマジックで描いた枠に合わせるように置き、ダスト上を3往復させて、汚れの残り具合を目視で観察し、拭き取り性を評価した。水系ダストおよび油系ダストのいずれについても、拭き取り性は下記の5段階で評価した。
○:ガラス面に汚れの残りがない。
○〜△:ガラス面に微量の汚れが残る。
△:ガラス面に少量の汚れが残る。
△〜×:ガラス面に多量に汚れが残る。
×:ガラス面の汚れが落ちない。
【0074】
[単繊維の脱落性]
前記積層シートを機械方向×幅方向が30cm×20cmの寸法となるように裁断して試料を作製し、これを四つ折り(機械方向約15cm、幅方向約10cm)にして、30cm×50cmの大きさのガラス面上の短辺10cm×長辺30cmの面積を、ガラス面の短辺から対向する短辺に向かって不織布の幅方向と平行な方向が進行方向となるようにして5分間連続して往復させた後のガラス面に残った脱落単繊維の状態を目視で観察し、下記の4段階で評価した。
◎:脱落単繊維が全くまたはほとんど存在していなかった。
○:ガラス面の短辺付近に脱落単繊維が少し残存していた。
△:ガラス面の短辺付近に脱落単繊維がかなり残存していた。
×:ガラス面の短辺及び長辺付近に脱落単繊維がかなり残存していた。
【0075】
[吸水速度、吸水性]
吸水速度はJIS−1096 6.26.1 Bによるバイレック法に従って評価し、吸水性はJIS−1096 6.26.1 Aによる滴下法に従って評価した。
【0076】
[試料1]
変性ビニルアルコール樹脂を含む分割型複合繊維(A)として、第1成分(変性ビニルアルコール樹脂成分)をエチレン−ビニルアルコール共重合体(エチレン含有量38モル%、ビニルアルコール含有量62モル%)とし、第2成分をポリプロピレン樹脂とした、繊度が3.3dtex、繊維長が38mmの図1(b)の繊維断面を有する16分割型複合繊維を準備した。一方、熱接着成分を含む分割型複合繊維(B)として、第1成分を高密度ポリエチレン樹脂とし、第2成分をポリエチレンテレフタレート樹脂とした、繊度2.2dtex、繊維長51mmの図1(a)の繊維断面を有する8分割型複合繊維(B1)を準備した。次いで、分割型複合繊維(A)と分割型複合繊維(B1)とを6:4(質量比)の割合で混合し、パラレルカード機を用いて、目付が約10g/mであるカードウェブを作製した。
【0077】
親水性不織布として、ビスコース法により得られたレーヨン短繊維から成り、ポイントボンド領域を有する、目付20g/mの熱圧着不織布(商品名:太閤TCF、フタムラ化学株式会社製)を用意した。ポイントボンド領域は、繊維同士がセルロースザンテートのメチロール化誘導体の溶融により接着されることにより形成され、使用した不織布において、ポイントボンド領域は約20個/cmの割合で設けられ、不織布表面の約25%を占めていた。この親水性繊維不織布の両面に分割型複合繊維ウェブを積層して、目付が約40g/mである積層体を得た。この積層体を、経糸の線径が0.2mm、緯糸の線径が0.2mmであり80メッシュの平織の搬送用支持体上に載置し、積層体上に孔径が0.12mmのオリフィスが1mm間隔で積層体の幅方向に一直線に配列されたノズルから水圧2.5MPaの水流を1回噴射し、積層体を裏返して同じノズルから水圧4MPaの水流を2回噴射して、水流交絡処理を施した。
【0078】
次いで、前記水流交絡処理した積層体を、温度140℃に設定された熱風加工機を用いて乾燥と同時に熱処理に付して、分割型複合繊維(B1)が割繊して形成された熱接着性極細繊維及び/または分割型複合繊維(B1)を構成する熱接着成分により、極細繊維層に含まれる繊維同士を接着して、本発明の積層シートを得た。
【0079】
[試料2]
分割型複合繊維を含む繊維ウェブの目付を約12.5g/mとし、積層体の目付を約45g/mとしたこと以外は、試料1の作製手順と同様の手順に従って、積層シートを作製した。
【0080】
[試料3]
分割型複合繊維を含む繊維ウェブの目付を約15g/mとし、積層体の目付を約50g/mとしたこと以外は、試料1の作製手順と同様の手順に従って、積層シートを作製した。
【0081】
[試料4]
分割型複合繊維を含む繊維ウェブの目付を約17.5g/mとし、積層体の目付を約55g/mとしたこと以外は、試料1の作製手順と同様の手順に従って、積層シートを作製した。
【0082】
[試料5]
分割型複合繊維を含む繊維ウェブの目付を約7.5g/mとし、親水性不織布として試料1で使用した不織布と同じ構成のものであって、目付が40g/mであるものを使用し、積層体の目付を約55g/mとしたこと以外は、試料1の作製手順と同様の手順に従って、積層シートを作製した。
【0083】
[試料6]
親水性不織布として、キュプラから成る長繊維不織布であって、繊維同士が部分的に接着され、かつ繊維交絡領域を含む、目付約25.5g/mの長繊維不織布(商品名ベンコットSF253:小津産業株式会社製)を使用したこと以外は、試料1の作製手順と同様の手順に従って、積層シートを作製した。
【0084】
[試料7]
試料1を作製するのに使用した分割型複合繊維(A)および(B1)を6:4(質量比)の割合で混合し、パラレルカード機を用いて、目付が約40g/mであるカードウェブを作製した。このカードウェブを、試料1の作製で採用した条件と同じ条件で水流交絡処および熱処理に付して水流交絡不織布を得た。
【0085】
[試料8]
試料1を作製するのに使用した親水性不織布のみを評価試験に付した。
【0086】
[試料9]
親水性不織布に代えて、繊度1.7dtex、繊維長44mmのビスコースレーヨンから成る、目付が約20g/mであるパラレルカードウェブを使用したこと以外は試料1の作製手順と同様の手順に従って、積層シートを作製した。
【0087】
[試料10]
熱接着成分を含む分割型複合繊維(B)として、第1成分を親水化剤を添加した高密度ポリエチレン樹脂とし、第2成分をポリプロピレン樹脂とした、繊度2.2dtex、繊維長51mmの図1(b)の繊維断面を有する16分割型複合繊維(B2)を準備した。親水化剤は、重合度4のポリグリセリンとオレイン酸(炭素数17の不飽和脂肪酸)とのエステル化合物であるポリグリセリン脂肪酸エステルであり、これを練り込んだマスターバッチ(理研ビタミン株式会社製、製品名リケマスターEAR−2)を用いて、ポリエチレン樹脂中2.4mass%含まれるように添加した。次いで、分割型複合繊維(A)と分割型複合繊維(B2)とを6:4(質量比)の割合で混合し、パラレルカード機を用いて、目付が約15g/mであるカードウェブを作製した。親水性不織布として試料6で使用した不織布と同じものを使用し、積層体の目付を約55g/mとしたこと以外は、試料1の作製手順と同様の手順に従って、積層シートを作製した。
【0088】
[試料11]
分割型複合繊維(A)および(B)でもない別の分割型複合繊維(C)として、第1成分をナイロン6樹脂とし、第2成分をポリエチレンテレフタレート樹脂とした中空率20%、繊度3.3dtex、繊維長51mmの16分割型複合繊維を準備した。また、熱接着成分を含む分割型複合繊維(B)として、試料1を作製するのに使用した分割型複合繊維(B1)を準備した。次いで、分割型複合繊維(C)と分割型複合繊維(B)とを6:4(質量比)の割合で混合し、パラレルカード機を用いて、目付が約12g/mであるカードウェブを作製した。親水性不織布として試料1を作製するのに使用した不織布を用い、積層体の目付を約44g/mとしたこと以外は、試料1の作製手順と同様の手順に従って、積層シートを作製した。
【0089】
[試料12]
試料10を作製するのに使用した2種類の分割型複合繊維を用い、目付を18g/mとしたことを除いては試料10の作製手順と同様の手順に従って分割型複合繊維から成るカードウェブを作製した。また、親水性不織布として、レーヨン繊維から成る水流交絡不織布を準備した。親水性不織布は、繊度1.7dtex、繊維長44mmのレーヨン繊維(ダイワボウレーヨン(株)製)を用いて、パラレルカード機で目付15g/mのカードウェブを作製し、これを、経糸の線径が0.2mm、緯糸の線径が0.2mmである80メッシュの平織の搬送用支持体上に載置し、孔径が0.12mmのオリフィスが1mm間隔でウェブの幅方向に一直線に配列されたノズルから水圧1.5MPaの水流を1回噴射し、ウェブを裏返して同じノズルから水圧1.5MPaの水流を1回噴射することにより製造した。積層シートは、親水性不織布の両面に分割型複合繊維から成るカードウェブを積層し、積層体の目付を約51g/mとしたこと以外は、試料1の作製手順と同様の手順に従って、積層シートを作製した。
【0090】
[試料13]
熱接着成分を含む分割型複合繊維(B)として、第1成分を高密度ポリエチレン樹脂とし、第2成分をポリプロピレン樹脂とした、繊度2.2dtex、繊維長51mmの図1(b)の繊維断面を有する16分割型複合繊維(B3)を準備した。試料1を作製するのに使用した分割型複合繊維(A)と分割型複合繊維(B3)とを、6:4(質量比)の割合で混合し、パラレルカード機を用いて、目付が約18g/mであるカードウェブを作製した。親水性不織布として試料12の作製に使用した不織布と同じものを準備し、積層体の目付を約51g/mとしたこと以外は、試料1の作製手順と同様の手順に従って、積層シートを作製した。
【0091】
[試料14]
分割型複合繊維から成るカードウェブの目付を約12g/mとし、親水性不織布の目付を約25g/mとしたこと以外は、試料12の作製手順と同様の手順に従って、積層シートを作製した。
【0092】
上記試料1〜14の評価結果を表1に示す。
【表1】

【0093】
試料1〜6は、いずれも、液残り、拭き取り性、および吸水性に優れ、また、脱落繊維も少ないものであった。これに対し、親水性不織布それ自体(試料8)は、拭き取り性に劣り、脱落繊維が多いものであった。さらに、試料1〜6は、いずれも試料8よりも大きい吸水速度を有し、また、分割型複合繊維のみを用いて作製した試料7の吸水速度が0であることから、極細繊維層と親水性不織布とを併用することにより、吸水速度を飛躍的に高くすることが可能になったといえる。親水性不織布に代えて繊維同士が実質的に接着または交絡していない繊維ウェブを使用した試料9は液残りが多く、また試料1〜6と比較して拭き取り性の点でも劣っていた。このことは、ある程度繊維同士が固定された不織布を使用することが、親水性繊維の露出の抑制に寄与し、それにより、液残りが少なく、良好な拭き取り性を有するシートが得られることを示している。
【0094】
試料1〜3の評価結果より、親水性繊維層を同じ不織布で構成し、極細繊維層の目付を変化させたときの性能を比較できる。極細繊維層の目付が大きいほど、滴下法により評価される吸水性が低くなるものの、シート表面付近に多くの極細繊維が存在するため、液残りが少なく、また、熱接着性極細繊維の絶対量も増えるため、脱落する繊維が少なくなる。試料5は、親水性繊維層の目付を大きくしたことによって、高い吸水速度を示しているものの、極細繊維の絶対量が少ないために、試料1と比較して拭き取り性がやや低かった。試料6は長繊維不織布を親水性繊維層として使用したものであり、吸水速度が高く、吸水性にも優れ、また、拭き取り性も良好で、単繊維の脱落も少ないものであった。
【0095】
試料10、12〜14は、熱接着性極細繊維を形成する分割型複合繊維として、ポリプロピレン/ポリエチレンの組み合わせから成る繊維を使用して作製したシートである。ポリエチレンに親水化剤を含有させた試料10、12、14は、分割率も高く、繊維それ自体の親水性も高くなったために、高い吸水速度を示した。試料14は、試料12とほぼ同じ目付を有しているが、親水性不織布の目付がより大きく、その分極細繊維層の目付が小さいために、高い吸水速度を示す一方で、熱接着性極細繊維の絶対量が少ないことに起因して脱落繊維がやや多かった。試料10は、親水性繊維層が長繊維不織布であるために、脱落繊維も少なかった。試料13は、ポリエチレンが親水化剤を含有していないために、略同じ構成の試料12と比較して、吸水速度がやや低かった。試料11は、分割型複合繊維(A)に代えて、ナイロン6/ポリエチレンテレフタレートの組み合わせから成る分割型複合繊維を使用したために、試料11の液残り、拭き取り性および吸水性は試料1のそれらと比較してやや劣るものの、実用上問題のないレベルであった。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明の積層シートは、高い吸水性を有し、かつ濡れた対象物を拭いたとき、又はシートを濡らした状態で対象物を拭いたときの液残りが少ないという特徴を有するので、ディスプレイなどのOA機器類、眼鏡、自動車、キッチンおよび靴などの物、ならびに人に付着した、汚れおよび油脂汚れを対象面から拭き取る対物および対人ワイパーに好適に用いることができ、また、拭き取り作業中の発塵量が少ないので、クリーンルームで使用するワイパーに好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】本発明の分割型複合繊維における繊維断面の一例を示す。
【符号の説明】
【0098】
1 第1成分
2 第2成分


【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性繊維を含む親水性繊維層の両面に極細繊維を含む極細繊維層が積層されてなる積層シートであって、
親水性繊維層が、親水性繊維同士が接着しているポイントボンド領域を含み、
極細繊維層が複数の樹脂成分から成る分割型複合繊維の割繊により得られる繊度0.9dtex以下の極細繊維を含み、
親水性繊維層および極細繊維層が水流交絡により一体化されている、積層シート。
【請求項2】
前記親水性繊維層が再生セルロース繊維を含み、再生セルロース繊維同士が自己接着して前記ポイントボンド領域を形成している、請求項1に記載の積層シート。
【請求項3】
親水性繊維を含む親水性繊維層の両面に極細繊維を含む極細繊維層が積層されてなる積層シートであって、
親水性繊維層が、極細繊維層と一体化する前に、親水性繊維同士が交絡している繊維交絡領域を含む層であり、
極細繊維層が複数の樹脂成分から成る分割型複合繊維の割繊により得られる繊度0.9dtex以下の極細繊維を含み、
親水性繊維層および極細繊維層が水流交絡により一体化されている、積層シート。
【請求項4】
前記親水性繊維層が再生セルロース長繊維を含み、極細繊維層と一体化する前に、セルロース長繊維同士が交絡して前記繊維交絡領域を形成している、請求項3に記載の積層シート。
【請求項5】
親水性長繊維を含む親水性長繊維層の両面に極細繊維を含む極細繊維層が積層されてなる積層シートであって、
極細繊維層が複数の樹脂成分から成る分割型複合繊維の割繊により得られる繊度0.9dtex以下の極細繊維を含み、
親水性長繊維層および極細繊維層が水流交絡により一体化されている、積層シート。
【請求項6】
親水性長繊維層において、親水性長繊維同士が少なくとも部分的に自己接着している、請求項5に記載の積層シート。
【請求項7】
前記極細繊維層が、前記分割型複合繊維を50mass%以上含む繊維ウェブを水流交絡処理に付すことにより得られたものである、請求項1〜6のいずれか1項に記載の積層シート。
【請求項8】
前記極細繊維層が、変性ビニルアルコール樹脂を含有する成分と、少なくとも1つの他の樹脂成分から成る分割型複合繊維(A)の割繊により得られる繊度0.9dtex以下の変性ビニルアルコール樹脂を含有する極細繊維を含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載の積層シート。
【請求項9】
前記極細繊維層が、熱接着性樹脂を含有する成分と、少なくとも1つの他の樹脂成分から成る分割型複合繊維(B)の割繊により得られる繊度0.9dtex以下の熱接着性極細繊維を含み、熱接着性極細繊維によって繊維同士が熱接着されている、請求項1〜8のいずれか1項に記載の積層シート。
【請求項10】
前記極細繊維層が、変性ビニルアルコール樹脂を含有する成分と、少なくとも1つの他の樹脂成分から成る分割型複合繊維(A)を40mass%以上90mass%以下の割合で含み、熱接着性樹脂を含む成分と、少なくとも1つの他の樹脂成分から成る分割型複合繊維(B)を10mass%以上60mass%以下の割合で含む繊維ウェブを水流交絡処理および熱接着処理に付すことにより得られたものである、請求項1〜9のいずれか1項に記載の積層シート。
【請求項11】
前記変性ビニルアルコール樹脂が、ビニルアルコール含有量を50モル%以上70モル%以下の範囲とする樹脂である、請求項8または10に記載の積層シート。
【請求項12】
前記分割型複合繊維(A)において、変性ビニルアルコール樹脂を含有する成分がエチレン−ビニルアルコール共重合樹脂を含有する成分であり、他の樹脂成分の少なくとも1つが、ポリオレフィン樹脂を含有する成分である、請求項8または10に記載の積層シート。
【請求項13】
前記極細繊維層の目付がそれぞれ5g/m以上40g/m以下の範囲内にある、請求項1〜12のいずれか1項に記載の積層シート。
【請求項14】
前記親水性繊維層の目付が10g/m以上180g/m以下の範囲内にある、請求項1〜13のいずれか1項に記載の積層シート。
【請求項15】
JIS−1096 6.26.1 Bによるバイレック法によって測定される吸水速度が65mm/10分以上である、請求項1〜14のいずれか1項に記載の積層シート。
【請求項16】
親水性繊維を20mass%以上含み、親水性繊維同士が接着しているポイントボンド領域および/または親水性繊維同士が交絡している繊維交絡領域を含む親水性不織布の両面に分割型複合繊維を50mass%以上含む繊維ウェブを積層して積層体を得ること、および
積層体を水流交絡処理に付して、分割型複合繊維を割繊して繊度0.9dtex以下の極細繊維を得るとともに親水性不織布と繊維ウェブとを一体化させること
を含む、積層シートの製造方法。
【請求項17】
前記親水性不織布が再生セルロース繊維を含み、再生セルロース繊維同士が自己接着して前記ポイントボンド領域を形成している不織布である、請求項16に記載の製造方法。
【請求項18】
前記親水性不織布が、再生セルロース繊維を含み、再生セルロース繊維同士が自己接着して前記ポイントボンド領域を形成している不織布を、水流交絡処理に付して得た不織布である、請求項16に記載の製造方法。
【請求項19】
親水性長繊維を20mass%以上含む長繊維不織布であって、親水性長繊維同士が少なくとも部分的に自己接着している親水性長繊維不織布の両面に分割型複合繊維を50mass%以上含む繊維ウェブを積層して積層体を得ること、および
積層体を水流交絡処理に付して、分割型複合繊維を割繊して繊度0.9dtex以下の極細繊維を得るとともに親水性長繊維不織布と繊維ウェブとを一体化させること
を含む、積層シートの製造方法。
【請求項20】
前記分割型複合繊維が、変性ビニルアルコール樹脂を含有する成分を少なくとも1成分とする分割型複合繊維である、請求項16〜19のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項21】
請求項1〜15のいずれか1項に記載の積層シートを含んで成る、ワイパー。


【図1】
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【公開番号】特開2006−193881(P2006−193881A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−331474(P2005−331474)
【出願日】平成17年11月16日(2005.11.16)
【出願人】(000002923)大和紡績株式会社 (173)
【出願人】(300049578)ダイワボウポリテック株式会社 (120)
【Fターム(参考)】