説明

積層シート及びその用途

【課題】グラファイト層と水蒸気バリア性に優れる液晶ポリエステル層とを有する積層シートを提供する。
【解決手段】グラファイト層のの少なくとも一方の面上に液晶ポリエステル層を配置する。液晶ポリエステル層は、下記式(1)で表される繰返し単位と、下記式(2)で表される繰返し単位と、下記式(3)で表される繰返し単位とを有し、2,6−ナフチレン基を含む繰返し単位の含有量が、全繰返し単位の合計量に対して、40モル%以上である液晶ポリエステルから構成する。
−O−Ar1−CO− (1)
−CO−Ar2−CO− (2)
−O−Ar3−O− (3)
(Ar1は、2,6−ナフチレン基、1,4−フェニレン基又は4,4’−ビフェニリレン基を表す。Ar2及びAr3は、それぞれ独立に、2,6−ナフチレン基、1,4−フェニレン基、1,3−フェニレン基又は4,4’−ビフェニリレン基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラファイト層と液晶ポリエステル層とを有する積層シートに関する。
【背景技術】
【0002】
グラファイト(黒鉛)は、適度な抵抗を有する導電体であることから、面状発熱体の材料として用いられている。また、グラファイトは、熱伝導性に優れることから、放熱シートの材料として用いられている。グラファイトを面状発熱体や放熱シートの材料として用いる場合、空気中の酸素や水蒸気により、グラファイトが劣化したり、グラファイトの抵抗や熱伝導率が変化することを防止すべく、グラファイト層と保護用の樹脂層とを有する積層シートの形態で用いられることが多く、この樹脂層の材料として、低吸水性ないしガスバリア性に優れることから、液晶ポリエステルが検討されている。例えば、特許文献1には、前記樹脂層の材料に用いられる液晶ポリエステルとして、所定の商品(Xydar、Vectra)が開示されている。また、特許文献2には、面状発熱体の材料としてグラファイトを用いることは記載されていないが、面状発熱体の樹脂層の材料として、液晶ポリエステルを連続相とし、液晶ポリエステルと反応する官能基を有する共重合体を分散相とする液晶ポリエステル組成物が開示されており、前記液晶ポリエステルとして、p−ヒドロキシ安息香酸に由来する繰返し単位を60モル%、テレフタル酸に由来する構造単位を15モル%、イソフタル酸に由来する構造単位を5モル%、及び4,4−ジヒドロキシビフェニルに由来する構造単位を20モル%有するものが、具体的に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−90445号公報
【特許文献2】特開2002−63984号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記従来のグラフィト層と液晶ポリエステル層とを有する積層体や液晶ポリエステル層を有する面状発熱体は、液晶ポリエステル層の水蒸気バリア性が必ずしも十分でない。そこで、本発明の目的は、グラファイト層と液晶ポリエステル層とを有し、液晶ポリエステル層の水蒸気バリア性に優れ、面状発熱体や放熱シートとして好適に用いられる積層シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するため、本発明は、グラファイト層と、その少なくとも一方の面上に配置された液晶ポリエステル層とを有し、前記液晶ポリエステル層が、下記式(1)で表される繰返し単位と、下記式(2)で表される繰返し単位と、下記式(3)で表される繰返し単位とを有し、2,6−ナフチレン基を含む繰返し単位の含有量が、全繰返し単位の合計量に対して、40モル%以上である液晶ポリエステルから構成される層である積層シートを提供する。
【0006】
−O−Ar1−CO− (1)
−CO−Ar2−CO− (2)
−O−Ar3−O− (3)
【0007】
(Ar1は、2,6−ナフチレン基、1,4−フェニレン基又は4,4’−ビフェニリレン基を表す。Ar2及びAr3は、それぞれ独立に、2,6−ナフチレン基、1,4−フェニレン基、1,3−フェニレン基又は4,4’−ビフェニリレン基を表す。Ar1、Ar2又はAr3で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
【0008】
また、本発明は、グラファイト層と、その少なくとも一方の面上に配置された液晶ポリエステル層とを有し、前記液晶ポリエステル層の温度40℃及び相対湿度90%にて測定される水蒸気透過度が0.005g/m2・24h以下である積層シートを提供する。
【0009】
さらに、本発明は、グラファイト層と、その少なくとも一方の面上に配置された液晶ポリエステル層とを有し、前記液晶ポリエステル層が、厚さ50μmのフィルムにしたときの温度40℃及び相対湿度90%にて測定される水蒸気透過度が0.005g/m2・24h以下である液晶ポリエステルから構成される層である積層シートを提供する。
【0010】
加えて、本発明は、前記いずれかの積層シートを用いてなる面状発熱体及び放熱シートを提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の積層体は、液晶ポリエステル層の水蒸気バリア性に優れており、これを用いることにより、性能の持続性に優れる面状発熱体や放熱シートを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の積層体はグラファイト層と液晶ポリエステル層とを有するものである。そして、この液晶ポリエステル層を構成する液晶ポリエステルは、溶融時に光学異方性を示すポリエステルであり、下記式(1)で表される繰返し単位(以下、繰返し単位(1)ということがある)と、下記式(2)で表される繰返し単位(以下、繰返し単位(2)ということがある)と、下記式(3)で表される繰返し単位(以下、繰返し単位(3)ということがある)とを有するものである。
【0013】
−O−Ar1−CO− (1)
−CO−Ar2−CO− (2)
−O−Ar3−O− (3)
【0014】
(Ar1は、2,6−ナフチレン基、1,4−フェニレン基又は4,4’−ビフェニリレン基を表す。Ar2及びAr3は、それぞれ独立に、2,6−ナフチレン基、1,4−フェニレン基、1,3−フェニレン基又は4,4’−ビフェニリレン基を表す。Ar1、Ar2又はAr3で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数6〜20のアリール基で置換されていてもよい。)
【0015】
前記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。前記アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、n−オクチル基及びn−デシル基が挙げられ、その炭素数は、通常1〜10である。前記アリール基の例としては、フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、1−ナフチル基及び2−ナフチル基が挙げられ、その炭素数は、通常6〜20である。前記水素原子がこれらの基で置換されている場合、その数は、Ar1、Ar2又はAr3で表される前記基毎に、それぞれ独立に、通常2個以下であり、好ましくは1個以下である。
【0016】
繰返し単位(1)は、所定の芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する繰返し単位である。繰返し単位(1)としては、Ar1が2,6−ナフチレン基であるもの、すなわち6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸に由来する繰返し単位が好ましい。
【0017】
繰返し単位(2)は、所定の芳香族ジカルボン酸に由来する繰返し単位である。繰返し単位(2)としては、Ar2が2,6−ナフチレン基であるもの、すなわち2,6−ナフタレンジカルボン酸に由来する繰返し単位、及びAr2が1,4−フェニレン基であるもの、すなわちテレフタル酸に由来する繰返し単位が好ましい。
【0018】
繰返し単位(3)は、所定の芳香族ジオールに由来する繰返し単位である。繰返し単位(3)としては、Ar3が1,4−フェニレン基であるもの、すなわちヒドロキノンに由来する繰返し単位、及びAr3が4,4’−ビフェニリレン基であるもの、すなわち4,4’−ジヒドロキシビフェニルに由来する繰返し単位が好ましい。
【0019】
液晶ポリエステル中、2,6−ナフチレン基を含む繰返し単位の含有量、すなわち、Ar1が2,6−ナフチレン基である繰返し単位(1)、Ar2が2,6−ナフチレン基である繰返し単位(2)、及びAr3が2,6−ナフチレン基である繰返し単位(3)の合計含有量は、全繰返し単位の合計量(液晶ポリエステルを構成する各繰返し単位の質量を各繰返し単位の式量で割ることにより、各繰返し単位の物質量相当量(モル)を求め、それらを合計した値)に対して、40モル%以上である。これにより、液晶ポリエステル層の水蒸気バリア性を高めることができる。この2,6−ナフチレン基の含有量は、好ましくは50モル%以上、より好ましくは60モル%以上、さらに好ましくは70モル%以上である。
【0020】
また、液晶ポリエステル中、繰返し単位(1)の含有量は、全繰返し単位の合計量に対して、好ましくは30〜80モル%、より好ましくは40〜70モル%、さらに好ましくは45〜65モル%であり、繰返し単位(2)の含有量は、全繰返し単位の合計量に対して、好ましくは10〜35モル%、より好ましくは15〜30モル%、さらに好ましくは17.5〜27.5モル%であり、繰返し単位(3)の含有量は、全繰返し単位の合計量に対して、好ましくは10〜35モル%、より好ましくは15〜30モル%、さらに好ましくは17.5〜27.5モル%である。このような所定の繰返し単位組成を有する液晶ポリエステルは、耐熱性と成形性とのバランスに優れている。なお、繰返し単位(2)の含有量と繰返し単位(3)の含有量とは、実質的に等しいことが好ましい。また、液晶ポリエステルは、必要に応じて繰返し単位(1)〜(3)以外の繰返し単位を有していてもよいが、その含有量は、全繰返し単位の合計量に対して、通常10モル%以下、好ましくは5モル%以下である。
【0021】
耐熱性や溶融張力が高い液晶ポリエステルの典型的な例は、全繰返し単位の合計量に対して、Ar1が2,6−ナフチレン基である繰返し単位(1)、すなわち6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸に由来する繰返し単位を、好ましくは40〜74.8モル%、より好ましくは40〜64.5モル%、さらに好ましくは50〜58モル%有し、Ar2が2,6−ナフチレン基である繰返し単位(2)、すなわち2,6−ナフタレンジカルボン酸に由来する繰返し単位を、好ましくは12.5〜30モル%、より好ましくは17.5〜30モル%、さらに好ましくは20〜25モル%有し、Ar2が1,4−フェニレン基である繰返し単位(2)、すなわちテレフタル酸に由来する繰返し単位を、好ましくは0.2〜15モル%、より好ましくは0.5〜12モル%、さらに好ましくは2〜10モル%有し、Ar3が1,4−フェニレン基である繰返し単位(3)、すなわちヒドロキノンに由来する繰返し単位を、好ましくは12.5〜30モル%、より好ましくは17.5〜30モル%、さらに好ましくは20〜25モル%有し、かつ、Ar2が2,6−ナフチレン基である繰返し単位(2)の含有量が、Ar2が2,6−ナフチレン基である繰返し単位(2)及びAr2が1,4−フェニレン基である繰返し単位(2)の合計含有量に対して、好ましくは0.5モル倍以上、より好ましくは0.6モル倍以上のものである。
【0022】
液晶ポリエステルは、繰返し単位(1)を与えるモノマー、すなわち所定の芳香族ヒドロキシカルボン酸と、繰返し単位(2)を与えるモノマー、すなわち所定の芳香族ジカルボン酸と、繰返し単位(3)を与えるモノマー、すなわち所定の芳香族ジオールとを、2,6−ナフチレン基を有するモノマーの合計量、すなわち6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸及び2,6−ナフタレンジオールの合計量が、全モノマーの合計量に対して、40モル%以上になるようにして、重合(重縮合)させることにより、製造することができる。その際、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸及び芳香族ジオールは、それぞれ独立に、その一部又は全部に代えて、その重合可能な誘導体が用いられてもよい。芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸のようなカルボキシル基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、カルボキシル基をアルコキシカルボニル基又はアリールオキシカルボニル基に変換してなるもの、カルボキシル基をハロホルミル基に変換してなるもの、カルボキシル基をアシルオキシカルボニル基に変換してなるものが挙げられる。芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジオールのようなヒドロキシル基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、ヒドロキシル基をアシル化してアシルオキシル基に変換してなるものが挙げられる。
【0023】
また、液晶ポリエステルは、モノマーを溶融重合させ、得られた重合物(プレポリマー)を固相重合させることにより、製造することが好ましい。これにより、耐熱性や溶融張力が高い液晶ポリエステルを操作性良く製造することができる。溶融重合は、触媒の存在下に行ってもよく、この触媒の例としては、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、三酸化アンチモン等の金属化合物や、N,N−ジメチルアミノピリジン、N−メチルイミダゾール等の含窒素複素環式化合物が挙げられ、含窒素複素環式化合物が好ましく用いられる。
【0024】
液晶ポリエステルは、その流動開始温度が、好ましくは280℃以上、より好ましくは290℃以上、さらに好ましくは295℃以上であり、また、通常380℃以下、好ましくは350℃以下である。流動開始温度が高いほど、耐熱性や溶融張力が向上し易いが、あまり高いと、溶融させるために高温を要し、成形時に熱劣化し易くなる。
【0025】
なお、流動開始温度は、フロー温度又は流動温度とも呼ばれ、内径1mm、長さ10mmのノズルを持つ毛細管レオメータを用い、9.8MPa(100kg/cm2)の荷重下において、4℃/分の昇温速度で液晶ポリエステルの加熱溶融体をノズルから押し出すときに、溶融粘度が4800Pa・s(48,000ポイズ)を示す温度であり、液晶ポリエステルの分子量の目安となるものである(小出直之編、「液晶ポリマー−合成・成形・応用−」、株式会社シーエムシー、1987年6月5日、p.95参照)。
【0026】
こうして得られる前記所定の繰り返し単位組成を有する液晶ポリエステルは、水蒸気バリア性に優れており、厚さ50μmのフィルムにしたときの温度40℃及び相対湿度90%にて測定される水蒸気透過度が、好ましくは0.05g/m2・24h以下、より好ましくは0.01g/m2・24h以下、さらに好ましくは0.005g/m2・24h以下となる。
【0027】
液晶ポリエステルには、必要に応じて他の成分を配合して、組成物としてもよい。他の成分の例としては、充填材、液晶ポリエステル以外の熱可塑性樹脂及び添加剤が挙げられる。組成物全体に占める液晶ポリエステルの割合は、好ましくは80質量%以上であり、より好ましくは90質量%以上である。
【0028】
充填材の例としては、ミルドガラスファイバー、チョップドガラスファイバー等のガラス繊維、チタン酸カリウムウイスカー、アルミナウイスカ、ホウ酸アルミニウムウイスカ、炭化けい素ウイスカ、窒化けい素ウイスカ等の金属又は非金属系ウイスカ類、ガラスビーズ、中空ガラス球、ガラス粉末、マイカ、タルク、クレー、シリカ、アルミナ、チタン酸カリウム、ウォラスナイト、炭酸カルシウム(重質、軽質、膠質等)、炭酸マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、硫酸ソーダ、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、亜硫酸カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、けい酸カルシウム、けい砂、けい石、石英、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄グラファイト、モリブデン、アスベスト、シリカアルミナ繊維、アルミナ繊維、石膏繊維、炭素繊維、カーボンブラック、ホワイトカーボン、けいそう土、ベントナイト、セリサイト、シラス及び黒鉛が挙げられ、必要に応じてそれらの2種以上を用いることもできる。中でも、ガラス繊維、マイカ、タルク及び炭素繊維が好ましく用いられる。
【0029】
充填材は、必要に応じて、表面処理されたものであってもよく、この表面処理剤の例としては、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、ボラン系カップリング剤等の反応性カップリング剤、及び高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸金属塩、フルオロカーボン系界面活性剤等の潤滑剤が挙げられる。
【0030】
液晶ポリエステル以外の熱可塑性樹脂の例としては、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリサルフォン、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルケトン及びポリエーテルイミド樹脂が挙げられる。
【0031】
添加剤の例としては、フッ素樹脂、金属石鹸類等の離型改良剤、核剤、酸化防止剤、安定剤、可塑剤、滑剤、着色防止剤、着色剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、潤滑剤及び難燃剤が挙げられる。
【0032】
こうして得られる液晶ポリエステル又はその組成物をフィルム化することにより、本発明の積層シートの液晶ポリエステル層となる液晶ポリエステルフィルムを得ることができる。フィルム化の方法としては、例えば、押出成形法、プレス成形法、溶液流延法及び射出成形法が挙げられ、押出成形法が好ましい。押出成形法としては、例えば、Tダイ法やインフレーション法が挙げられ、Tダイ法において、一軸延伸してもよいし、二軸延伸してもよい。
【0033】
一軸延伸フィルムの延伸倍率(ドラフト比)は、通常1.1〜40、好ましくは10〜40、より好ましくは15〜35である。二軸フィルムのMD方向(押出方向)の延伸倍率は、通常1.2〜40倍であり、二軸フィルムのTD方向(押出方向に垂直な方向)の延伸倍率は、通常1.2〜20倍である。インフレーションフィルムのMD方向の延伸倍率(ドローダウン比=バブル引取速度/樹脂吐出速度)は、通常1.5〜50、好ましくは5〜30であり、インフレーションフィルムのTDの延伸倍率(ブロー比=バブル径/環状スリット径)は、通常1.5〜10、好ましくは2〜5である。
【0034】
液晶ポリエステルフィルムの厚さは、好ましくは5〜100μmであり、より好ましくは10〜75μmであり、さらに好ましくは15〜75μmである。あまり薄いと、強度が不十分になり、あまり厚いと、フレキシブル性が不十分になる。
【0035】
こうして得られる液晶ポリエステルフィルムは、前記所定の繰り返し単位組成を有する液晶ポリエステルから構成されることにより、水蒸気バリア性に優れており、好ましくは0.05g/m2・24h以下、より好ましくは0.01g/m2・24h以下、さらに好ましくは0.005g/m2・24h以下となる。
【0036】
なお、液晶ポリエステルフィルムには、さらに水蒸気バリア性を高めるべく、水蒸気バリア層を設けたり、他の機能層を設けたりして、積層フィルムとしてもよい。また、液晶ポリエステルフィルムを複数枚積層したり、他の樹脂フィルムと積層したりして、積層フィルムとして用いてもよい。
【0037】
こうして得られる液晶ポリエステルフィルムを、グラファイトシートと接合することにより、グラファイト層と液晶ポリエステル層とを有する本発明の積層シートを得ることができる。液晶ポリエステルフィルムは、グラファイトシートの一方の面のみに接合してもよいし、グラフファイトシートの両面に接合してもよい。液晶ポリエステルフィルムをグラファイトシートの一方の面のみに接合する場合、その接合面を、空気と接触し易い表側に向けて用いることが好ましい。また、非接合面には他の樹脂フィルムその他の部材を接合することが好ましい。接合は、接着剤により行ってもよいし、液晶ポリエステルフィルムの融着により行ってもよい。
【0038】
グラファイトシートは、積層シートの用途に応じて、打抜き等により所定の形状にパターン化されて用いられる。積層シートを面状発熱体や放熱シートに用いる場合は、なるべく前面に電気や熱が行き渡るように、グラファイトシートがパターン化されていることが好ましい。積層シートを面状発熱体に用いる場合は、通電のための端子が設けられ、積層シートを放熱シートに用いる場合は、通常、静電気除去のための端子が設けられる。
【0039】
本発明の積層シートを用いてなる面状発熱体は、例えば、プリンターやコピー機のトナー定着用の発熱体や、計測器やモーターの保温用の発熱体として用いられる。また、本発明の積層シートを用いてなる放熱シートは、例えば、プリント配線板用の放熱シートとして用いられる。
【実施例】
【0040】
〔流動開始温度の測定〕
フローテスター((株)島津製作所の「CFT−500型」)を用いて、試料約2gを、内径1mm、長さ10mmのダイスを取り付けた毛細管型レオメーターに充填し、9.8MPa(100kgf/cm2)の荷重下において、昇温速度4℃/分で試料を溶融させながら押し出し、溶融粘度が4800Pa・s(48000ポイズ)を示す温度を測定した。
【0041】
〔水蒸気バリア性の評価〕
JIS K7129 C法に準拠して、ガス透過率・透湿度測定装置(GTRテック(株)の「GTR−30X」)により、温度40℃、相対湿度90%の条件で、水蒸気透過度を測定した。
【0042】
製造例1
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸1034.99g(5.5モル)、2,6−ナフタレンジカルボン酸378.33g(1.75モル)、テレフタル酸83.07g(0.5モル)、ヒドロキノン272.52g(2.475モル:2,6−ナフタレンジカルボン酸及びテレフタル酸の合計量に対して0.225モル過剰)、無水酢酸1226.87g(12モル)、及び触媒として1−メチルイミダゾール0.17gを入れ、反応器内のガスを窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下、攪拌しながら、室温から145℃まで15分かけて昇温し、145℃で1時間還流させた。次いで、副生酢酸及び未反応の無水酢酸を留去しながら、145℃から310℃まで3時間30分かけて昇温し、310℃で3時間保持した後、内容物を取り出し、室温まで冷却した。得られた固形物を、粉砕機で粒径約0.1〜1mmに粉砕後、窒素雰囲気下、室温から250℃まで1時間かけて昇温し、250℃から310℃まで10時間かけて昇温し、310℃で5時間保持することにより、固相重合を行った。固相重合後、冷却して、粉末状の液晶ポリエステルを得た。この液晶ポリエステルは、全繰り返し単位の合計量に対して、Ar1が2,6−ナフチレン基である繰返し単位(1)を55モル%、Ar2が2,6−ナフチレン基である繰返し単位(2)を17.5モル%、Ar2が1,4−フェニレン基である繰返し単位(2)を5モル%、及びAr3が1,4−フェニレン基である繰返し単位(3)を22.5%有し、その流動開始温度は333℃であった。
【0043】
製造例2
製造例1と同様の反応器に、p−ヒドロキシ安息香酸911g(6.6モル)、テレフタル酸274g(1.65モル)、イソフタル酸91g(0.55モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル409g(2.2モル)、無水酢酸1235g(12.1モル)、及び触媒として1−メチルイミダゾール0.17gを入れ、反応器内のガスを窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下、攪拌しながら、室温から150℃まで15分かけて昇温し、150℃で1時間還流させた。次いで、1−メチルイミダゾール1.7gを添加した後、副生酢酸及び未反応の無水酢酸を留去しながら、150℃から320℃まで2時間50分かけて昇温し、トルクの上昇が認められた時点で、内容物を取り出し、室温まで冷却した。得られた固形物を、粉砕機で粒径約0.1〜1mmに粉砕後、窒素雰囲気下、室温から250℃まで1時間かけて昇温し、250℃から285℃まで5時間かけて昇温し、285℃で3時間保持することにより、固相重合を行った。固相重合後、冷却して、粉末状の液晶ポリエステルを得た。この液晶ポリエステルは、Ar1が1,4−フェニレン基である繰返し単位(1)を60モル%、Ar2が1,4−フェニレン基である繰返し単位(2)を15モル%、Ar2が1,3−フェニレン基である繰返し単位(2)を5モル%、及びAr3が4,4’−ビフェニリレン基である繰返し単位(3)を20%有し、その流動開始温度は327℃であった。
【0044】
実施例1
製造例1で得られた液晶ポリエステルを、二軸押出機((株)池貝の「PCM−30」)で造粒し、ペレット状にした後、一軸押出機(スクリュー径50mm)に供給して溶融させ、Tダイ(リップ長さ300mm、リップクリアランス1mm、ダイ温度350℃)からフィルム状に押し出して冷却し、厚さ25μmの液晶ポリエステルフィルムを得た。この液晶ポリエステルフィルムの水蒸気透過度は、0.011g/m2・24hであり、この液晶ポリエステルフィルムをグラファイトシートと接合することにより得られるグラファイト層と液晶ポリエステル層とを有する積層体は、液晶ポリエステル層の水蒸気バリア性に優れている。
【0045】
実施例2
製造例1で得られた液晶ポリエステルを、二軸押出機((株)池貝の「PCM−30」)で造粒し、ペレット状にした後、一軸押出機(スクリュー径50mm)に供給して溶融させ、Tダイ(リップ長さ300mm、リップクリアランス1mm、ダイ温度350℃)からフィルム状に押し出して冷却し、厚さ50μmの液晶ポリエステルフィルムを得た。この液晶ポリエステルフィルムの水蒸気透過度は、0.003g/m2・24hであり、この液晶ポリエステルフィルムをグラファイトシートと接合することにより得られるグラファイト層と液晶ポリエステル層とを有する積層体は、液晶ポリエステル層の水蒸気バリア性に優れている。
【0046】
比較例1
製造例2で得られた液晶ポリエステルを、二軸押出機((株)池貝の「PCM−30」)で造粒し、ペレット状にした後、一軸押出機(スクリュー径50mm)に供給して溶融させ、Tダイ(リップ長さ300mm、リップクリアランス1mm、ダイ温度350℃)からフィルム状に押し出して冷却し、厚さ25μmの液晶ポリエステルフィルムを得た。この液晶ポリエステルフィルムの水蒸気透過度は、0.343g/m2・24hであり、この液晶ポリエステルフィルムをグラファイトシートと接合することにより得られるグラファイト層と液晶ポリエステル層とを有する積層体は、液晶ポリエステル層の水蒸気バリア性が不十分である。
【0047】
比較例2
製造例2で得られた液晶ポリエステルを、二軸押出機((株)池貝の「PCM−30」)で造粒し、ペレット状にした後、一軸押出機(スクリュー径50mm)に供給して溶融させ、Tダイ(リップ長さ300mm、リップクリアランス1mm、ダイ温度350℃)からフィルム状に押し出して冷却し、厚さ50μmの液晶ポリエステルフィルムを得た。この液晶ポリエステルフィルムの水蒸気透過度は、0.080g/m2・24hであり、この液晶ポリエステルフィルムをグラファイトシートと接合することにより得られるグラファイト層と液晶ポリエステル層とを有する積層体は、液晶ポリエステル層の水蒸気バリア性が不十分である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラファイト層と、その少なくとも一方の面上に配置された液晶ポリエステル層とを有し、前記液晶ポリエステル層が、下記式(1)で表される繰返し単位と、下記式(2)で表される繰返し単位と、下記式(3)で表される繰返し単位とを有し、2,6−ナフチレン基を含む繰返し単位の含有量が、全繰返し単位の合計量に対して、40モル%以上である液晶ポリエステルから構成される層である積層シート。
−O−Ar1−CO− (1)
−CO−Ar2−CO− (2)
−O−Ar3−O− (3)
(Ar1は、2,6−ナフチレン基、1,4−フェニレン基又は4,4’−ビフェニリレン基を表す。Ar2及びAr3は、それぞれ独立に、2,6−ナフチレン基、1,4−フェニレン基、1,3−フェニレン基又は4,4’−ビフェニリレン基を表す。Ar1、Ar2又はAr3で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
【請求項2】
前記液晶ポリエステル層の温度40℃及び相対湿度90%にて測定される水蒸気透過度が0.05g/m2・24h以下である請求項1に記載の積層シート。
【請求項3】
グラファイト層と、その少なくとも一方の面上に配置された液晶ポリエステル層とを有し、前記液晶ポリエステル層の温度40℃及び相対湿度90%にて測定される水蒸気透過度が0.005g/m2・24h以下である積層シート。
【請求項4】
グラファイト層と、その少なくとも一方の面上に配置された液晶ポリエステル層とを有し、前記液晶ポリエステル層が、厚さ50μmのフィルムにしたときの温度40℃及び相対湿度90%にて測定される水蒸気透過度が0.005g/m2・24h以下である液晶ポリエステルから構成される層である積層シート。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の積層シートを用いてなる面状発熱体。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の積層シートを用いてなる放熱シート。

【公開番号】特開2012−158009(P2012−158009A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−17653(P2011−17653)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】