説明

積層シート及び発泡積層シートの製造方法

【課題】繊維質シートの上に少なくとも発泡剤含有樹脂層が積層された積層シートの製造方法であって、意匠性の低下の原因となる冷却用の製膜ロールを使用しない新たな製造方法を提供する。
【解決手段】繊維質シートの上に少なくとも発泡剤含有樹脂層が積層されている積層シートの製造方法であって、
円筒型ダイを用いて発泡剤含有樹脂組成物を円筒状に押出した後、空冷することにより円筒状の発泡剤含有樹脂層を得る工程を含むことを特徴とする積層シートの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層シート及び発泡積層シートの製造方法に関する。
【0002】
本発明における積層シートは繊維質シートの上に少なくとも発泡剤含有樹脂層が積層されたいわゆる原反であり、当該原反に必要に応じて装飾を加えた後、発泡剤含有樹脂層を発泡させて発泡樹脂層としたものが発泡積層シートである。発泡積層シートは、発泡壁紙、各種装飾材等として有用である。
【背景技術】
【0003】
繊維質シートの上に少なくとも発泡剤含有樹脂層が積層された積層シートは、いわゆる発泡積層シート用原反、発泡壁紙用原反などとして知られている。この原反に任意に装飾を加えた後、発泡剤含有樹脂層を発泡させて発泡樹脂層とすることにより発泡積層シート(例えば発泡壁紙)を製造することができる。
【0004】
上記原反の一例として、特許文献1には、「紙質基材上に少なくとも未発泡樹脂層(発泡剤含有樹脂層)を形成してなる発泡壁紙用原反であって、該層を構成する樹脂が電子線架橋型樹脂であり、該樹脂は架橋されていることを特徴とする発泡壁紙用原反。」が記載されている。そして、当該発泡剤含有樹脂層の製膜方法としては、Tダイ押出し機による押出し製膜が一般に採用されており、特許文献1の請求項5においても、Tダイ押出し機により押出し製膜することが記載されている。
【0005】
Tダイ押出し機による押出し製膜では、ダイスから吐出した発泡剤含有樹脂組成物(シート状樹脂とも言う)を2つの製膜ロールで挟み込んで冷却する。ここで、一般的には、シート状樹脂が薄膜でも膜厚が均一となるように、一般に金属ロール(原反のおもて側)及びゴムロール(原反の基材側、成型ロールとも言う)の2つの製膜ロールが用いられるが、樹脂とロールとの密着性や熱伝導性の違いからシート状樹脂が成型ロール側に取られた場合には、シート状樹脂と金属ロールとの接触面積にバラツキが生じ、シート状樹脂の表面外観(艶など)が変わり意匠性を損なうという問題がある。そして、この問題は、Tダイ押出し機により多層押出しした場合、つまり発泡剤含有樹脂組成物を挟んでその両面に軟化点の異なる非発泡樹脂組成物を多層押出しした場合に顕著である。例えば、発泡剤含有樹脂組成物を挟んで片面にエチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、他面にエチレン−メタクリル酸共重合体(EMAA)を多層押出しした場合には、原反のおもて側であるEMAAは金属ロールとなじみ(密着性)が良く、シート状樹脂は他方のロール(成型ロール)に取られ難いが、EMAAをポリエチレン(PE)等の非極性ポリオレフィンに変更すると、PEと金属ロールのなじみが弱くなり、シート状樹脂が成型ロールに取られ易くなり、その結果、表面の非極性ポリオレフィン層に艶ムラが生じ易くなる。なお、参考のために3種3層Tダイスを用いた多層押出しの模式図を図1に示す。
【0006】
よって、シート状樹脂を構成する樹脂の種類に拘わらず、意匠性を低下させることなく積層シートを製造できるように、冷却用の製膜ロールを使用せずに積層シートを製造する新たな製造方法の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006-97184号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、繊維質シートの上に少なくとも発泡剤含有樹脂層が積層された積層シートの製造方法であって、意匠性の低下の原因となる冷却用の製膜ロールを使用しない新たな製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、Tダイに替えて円筒型ダイを用いた特定の押出し製膜を採用する場合には、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、下記の積層シート及び発泡積層シートの製造方法に関する。
1. 繊維質シートの上に少なくとも発泡剤含有樹脂層が積層されている積層シートの製造方法であって、
円筒型ダイを用いて発泡剤含有樹脂組成物を円筒状に押出した後、空冷することにより円筒状の発泡剤含有樹脂層を得る工程を含むことを特徴とする積層シートの製造方法。
2. (1)円筒型ダイを用いて発泡剤含有樹脂組成物を円筒状に押出した後、空冷することにより円筒状の発泡剤含有樹脂層を得る工程1、
(2)前記円筒状の発泡剤含有樹脂層に押出し方向と並行する切れ込みを入れて開膜し、平膜状の発泡剤含有樹脂層を得る工程2、及び
(3)前記平膜状の発泡剤含有樹脂層を繊維質シートの上に積層する工程3、
を順に有することを特徴とする、上記項1に記載の積層シートの製造方法。
3. 前記工程1において、片面又は両面に非発泡樹脂層が積層された前記円筒状の発泡剤含有樹脂層を得る、上記項2に記載の積層シートの製造方法。
4. 前記工程3において、前記平膜状の発泡剤含有樹脂層はその巾が前記繊維質シートの巾よりも狭い、上記項2又は3に記載の積層シートの製造方法。
5. 前記工程3において、加熱した繊維質シートの上に前記平膜状の発泡剤含有樹脂層を積層する、上記項2〜4のいずれかに記載の積層シートの製造方法。
6. 前記発泡剤含有樹脂層に電子線を照射する工程を有する、上記項1〜5のいずれかに記載の積層シートの製造方法。
7. 上記項1〜6のいずれかに記載の製造方法により得られた積層シートの前記発泡剤含有樹脂層を発泡させることを特徴とする、発泡積層シートの製造方法。
【0011】
以下、本発明の積層シート及び発泡積層シートの製造方法について詳細に説明する。
【0012】
積層シートの製造方法
本発明の積層シートの製造方法は、繊維質シートの上に少なくとも発泡剤含有樹脂層が積層されている積層シートの製造方法であって、円筒型ダイを用いて発泡剤含有樹脂組成物を円筒状に押出した後、空冷することにより円筒状の発泡剤含有樹脂層を得る工程を含むことを特徴とする。
【0013】
上記特徴を有する本発明の積層シートの製造方法は、従来のTダイによる押出し製膜に替えて、円筒型ダイを用いて発泡剤含有樹脂組成物を円筒状に押出した後、空冷することにより、製膜ロールによる冷却を回避することができるため、艶ムラなどの意匠性低下を生じさせることなく発泡剤含有樹脂層を得ることができる。また、円筒状に押出しすることにより空冷により冷却することができる点で、弛みや皺を押さえて製膜できる点で有利である。また、従来のTダイによる押出し製膜の場合には、押出した発泡剤含有樹脂層の両端部が中心部と比べて厚くなる(いわゆるネックイン)が生じるため、繊維質シートに積層する前に発泡剤含有樹脂層の端部をスリットする必要があるが、本発明の製造方法であればこのようなスリットの必要がなく、経済的である。
【0014】
本発明の積層シートの製造方法としては、具体的には、
(1)円筒型ダイを用いて発泡剤含有樹脂組成物を円筒状に押出した後、空冷することにより円筒状の発泡剤含有樹脂層を得る工程1、
(2)前記円筒状の発泡剤含有樹脂層に押出し方向と並行する切れ込みを入れて開膜し、平膜状の発泡剤含有樹脂層を得る工程2、及び
(3)前記平膜状の発泡剤含有樹脂層を繊維質シートの上に積層する工程3、
を順に有する製造方法が好適な実施態様(実施態様1)として挙げられる。
【0015】
以下、実施態様1の製造方法の各工程について説明する。
≪第1工程≫
第1工程は、円筒型ダイを用いて発泡剤含有樹脂組成物を円筒状に押出した後、空冷することにより円筒状の発泡剤含有樹脂層を得る。
【0016】
本発明では、発泡剤含有樹脂組成物は、樹脂成分として1)ポリエチレン及び2)エチレンとエチレン以外の成分とをモノマーとするエチレン共重合体(以下、「エチレン共重合体」と略記する)の少なくとも1種を含有することが好ましい。
【0017】
ポリエチレンは、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)等が広く使用できるが、この中でも低密度ポリエチレンが好ましい。
【0018】
エチレン共重合体は融点及びMFRの観点で押出し製膜に適している。エチレン共重合体としては、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−メチルメタクリレート共重合体(EMMA)、エチレン−エチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレン−メチルアクリレート共重合体(EMA)、エチレン−メタクリル酸共重合体(EMAA)、エチレン−αオレフィン共重合体等が挙げられる。これらのエチレン共重合体は単独又は2種以上を混合して使用できる。これらのエチレン共重合体の中でも特にエチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−メチルメタクリレート共重合体及びエチレン−メタクリル酸共重合体の少なくとも1種が好ましく、これらと他の樹脂とを併用する場合には、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−メチルメタクリレート共重合体及びエチレン−メタクリル酸共重合体の少なくとも1種の含有量は、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましい。
【0019】
エチレン共重合体は、エチレン以外のモノマーの含有量としては、5〜25質量%が好ましく、9〜20質量%がより好ましい。このような共重合比率を採用することにより、押出し製膜性がより高まる。具体例としては、エチレン−酢酸ビニル共重合体は、酢酸ビニルの共重合比率(VA量)としては9〜25質量%が好ましく、9〜20質量%がより好ましい。エチレン−メチルメタクリレート共重合体は、メチルメタクリレートの共重合比率(MMA量)としては5〜25質量%が好ましく、5〜15質量%がより好ましい。また、エチレン−メタクリル酸共重合体は、アクリル酸の共重合比率(MAA量)としては2〜15質量%が好ましく、5〜11質量%がより好ましい。
【0020】
本発明では、発泡剤含有樹脂層に含まれる樹脂成分は、JIS K 6922に記載の190℃、荷重21.18Nの条件で測定したMFR(メルトフローレート)が10〜100g/10分であることが好ましい。MFRが上記範囲内の場合には、発泡剤含有樹脂層を押出し製膜により形成する際の温度上昇が少なく、非発泡状態で製膜できるため、後に絵柄模様層を形成する場合には、平滑な面に印刷処理をすることができて柄抜け等が少ない。MFRが大きすぎる場合は、樹脂が軟らかすぎることにより、形成される発泡樹脂層の耐傷性が不十分となるおそれがある。
【0021】
発泡剤含有樹脂組成物としては、例えば、上記樹脂成分、無機充填剤、顔料、熱分解型発泡剤、発泡助剤、架橋助剤等を含む樹脂組成物を好適に使用できる。その他にも、安定剤、滑剤等を添加剤として使用できる。
【0022】
熱分解型発泡剤としては、例えば、アゾジカルボンアミド(ADCA)、アゾビスホルムアミド等のアゾ系;オキシベンゼンスルホニルヒドラジド(OBSH)、パラトルエンスルホニルヒドラジド等のヒドラジド系などが挙げられる。熱分解型発泡剤の含有量は、発泡剤の種類、発泡倍率等に応じて適宜設定できる。発泡倍率の観点からは、7倍以上、好ましくは7〜10倍程度であり、熱分解型発泡剤は、樹脂成分100質量部に対して、1〜20質量部程度とすることが好ましい。
【0023】
発泡助剤は、金属酸化物及び/又は脂肪酸金属塩が好ましく、例えば、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、オクチル酸亜鉛、オクチル酸カルシウム、オクチル酸マグネシウム、ラウリン酸亜鉛、ラウリン酸カルシウム、ラウリン酸マグネシウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム等を使用することができる。これらの発泡助剤の含有量は、樹脂成分100質量部に対して、0.3〜10質量部程度が好ましく、1〜5質量部程度がより好ましい。
【0024】
なお、これらの発泡助剤とEMAAとADCA発泡剤とを組み合わせて用いる場合には、発泡工程において、EMAAのアクリル酸部分と発泡助剤が反応することにより本来の発泡助剤の効果が損なわれるという問題がある。そのため、EMAAとADCA発泡剤とを組み合わせて用いる場合には、特開2009-197219号公報に説明されている通り、発泡助剤としてカルボン酸ヒドラジド化合物を用いることが好ましい。このとき、カルボン酸ヒドラジド化合物はADCA発泡剤1質量部に対して0.2〜1質量部程度用いることが好ましい。
【0025】
無機充填剤としては、例えば、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、三酸化アンチモン、ホウ酸亜鉛、モリブデン化合物等が挙げられる。無機充填剤を含むことにより、目透き抑制効果、表面特性向上効果等が得られる。無機充填剤の含有量は、樹脂成分100質量部に対して0〜100質量部程度が好ましく、20〜70質量部程度がより好ましい。
【0026】
顔料については、無機顔料として、例えば、酸化チタン、亜鉛華、カーボンブラック、黒色酸化鉄、黄色酸化鉄、黄鉛、モリブデートオレンジ、カドミウムイエロー、ニッケルチタンイエロー、クロムチタンイエロー、酸化鉄(弁柄)、カドミウムレッド、群青、紺青、コバルトブルー、酸化クロム、コバルトグリーン、アルミニウム粉、ブロンズ粉、雲母チタン、硫化亜鉛等が挙げられる。また、有機顔料として、例えば、アニリンブラック、ペリレンブラック、アゾ系(アゾレーキ、不溶性アゾ、縮合アゾ)、多環式(イソインドリノン、イソインドリン、キノフタロン、ペリノン、フラバントロン、アントラピリミジン、アントラキノン、キナクリドン、ペリレン、ジケトピロロピロール、ジブロムアンザントロン、ジオキサジン、チオインジゴ、フタロシアニン、インダントロン、ハロゲン化フタロシアニン)等が挙げられる。顔料の含有量は、樹脂成分100質量部に対して10〜50質量部程度が好ましく、15〜30質量部程度がより好ましい。
【0027】
本発明では、発泡剤含有樹脂組成物は円筒型ダイを用いて円筒状に押出しする。そして、押出し後は空冷することにより円筒状の発泡剤含有樹脂層とする。発泡剤含有樹脂層の厚さは40〜100μm程度が好ましく、発泡後の発泡樹脂層の厚さは300〜700μm程度となることが好ましい。
【0028】
なお、発泡剤含有樹脂層はその片面又は両面に非発泡樹脂層が積層された状態で同時製膜されても良い。例えば、発泡剤含有樹脂層の裏面(繊維質シートが積層される面)には、接着力を向上させる目的で非発泡樹脂層B(接着樹脂層)を有してもよい。
【0029】
接着樹脂層の樹脂成分としては、特に限定はないが、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)が好ましい。EVAは公知又は市販のものを使用することができる。特に、酢酸ビニル成分(VA成分)が10〜46質量%であるものが好ましく、15〜41質量%であるものがより好ましい。
【0030】
接着樹脂層の厚さは限定的ではないが、3〜50μm程度が好ましい。
【0031】
発泡剤含有樹脂層の上面には、絵柄模様層を形成する際の絵柄模様を鮮明にしたり発泡剤含有樹脂層の耐傷性を向上させたりする目的で非発泡樹脂層Aを有してもよい。
【0032】
非発泡樹脂層Aの樹脂成分としては、ポリオレフィン系樹脂、メタクリル系樹脂、熱可塑性ポリエステル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、フッ素系樹脂等が挙げられ、その中でもポリオレフィン系樹脂が好ましい。
【0033】
ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリブタジエン、ポリイソプレン等の樹脂単体;炭素数が4以上のαオレフィンの共重合体(線状低密度ポリエチレン);エチレン−アクリル酸メチル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体等のエチレン(メタ)アクリル酸エステル系共重合体;エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体(EMAA)等のエチレン(メタ)アクリル酸系共重合体;エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA);エチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物;アイオノマー等の少なくとも1種が挙げられる。
【0034】
非発泡樹脂層Aの厚さは限定的ではないが、3〜50μm程度が好ましい。
【0035】
なお、発泡剤含有樹脂組成物に無機充填剤が含まれる場合には、円筒型ダイの押出し口(円筒型ダイス)に無機充填剤の残渣(いわゆる目やに)が発生し易く、これが発泡剤含有樹脂層表面の異物となり易い。そのため、発泡剤含有樹脂組成物に無機充填剤が含まれる場合には、3種3層円筒型ダイにより同時押出し製膜することが好ましい。即ち、発泡剤含有樹脂層を非発泡樹脂層によって挟み込んだ態様で同時押出し製膜することにより、前記目やにの発生を抑制することができる。
【0036】
円筒状に押出した後の空冷条件は限定的ではなく、円筒状の押出樹脂層の内側と外側に空気を流通させることにより所望の温度にまで冷却できればよい。空冷温度(流通させる空気の温度)は10〜40℃が好ましく、15〜30℃がより好ましい。また、空冷時間は5〜30秒が好ましく、5〜10秒がより好ましい。
≪第2工程≫
第2工程は、円筒状の発泡剤含有樹脂層に押出し方向(押出し流れ方向)と並行する切れ込みを入れて開膜し、平膜状の発泡剤含有樹脂層を得る。なお、発泡剤含有樹脂層の片面又は両面に非発泡樹脂層が積層されている場合には、当該樹脂積層体に切れ込みを入れて開膜する。
【0037】
切れ込みを入れる方法は限定されず、公知のカッターなどが広く使用できる。切れ込みを入れる数は限定されず、例えば、図3の左図に示されるように1箇所に切れ込みを入れて開膜することにより得られる平膜状の発泡剤含有樹脂層が後記する繊維質シートの巾と同等又は狭い場合には1箇所でよい。他方、1箇所に切れ込みを入れて開膜することにより得られる平膜状の発泡剤含有樹脂層の巾が繊維質シートの巾の2倍程度又は2倍弱の場合には2箇所に切れ込みを入れて開膜することが好ましい。なお、平膜状の発泡剤含有樹脂層はその巾が繊維質シートの巾よりも狭いことが好ましく、詳細には、後記の発泡時に発泡剤含有樹脂層が巾方向に若干膨張し、発泡樹脂層となった際に繊維質シートの巾と同程度となることが好ましい。
≪第3工程≫
第3工程は、平膜状の発泡剤含有樹脂層を繊維質シートの上に積層する。
【0038】
繊維質シート(いわゆる裏打紙)としては、壁紙用一般紙(パルプ主体のシートを既知のサイズ剤でサイズ処理したもの);難燃紙(パルプ主体のシートをスルファミン酸グアニジン、リン酸グアジニン等の難燃剤で処理したもの);水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の無機添加剤を含む無機質紙;上質紙;薄用紙;繊維混抄紙(パルプと合成繊維とを混合して抄紙したもの)などが挙げられる。
【0039】
基材の坪量は限定的ではないが、50〜300g/m2程度が好ましく、50〜120 g/m2程度がより好ましい。
【0040】
本発明では、平膜状の発泡剤含有樹脂層を繊維質シートの上に積層する際は、繊維質シートを加熱しておき熱ラミネートすることが好ましい。加熱条件は限定的ではないが、110〜160℃が好ましく、120〜150℃がより好ましい。
【0041】
なお、本発明では工程2において平膜状の発泡剤含有樹脂層を得た後に工程3において繊維質シートの上に積層するが、他の実施態様(実施態様2)として、図4に示すように円筒状の発泡剤含有樹脂層又は発泡剤含有樹脂層と非発泡樹脂層との積層体(押出樹脂層)に切れ込みを入れずに2枚の繊維質シートでプレスして挟み込んだ後に押出樹脂層の端部(折り目)に切れ込みを入れて切り離す態様を採用することもできる。
【0042】
本発明では、実施態様1の工程1〜3の少なくとも一工程、又は実施態様2において、発泡剤含有樹脂層又は発泡剤含有樹脂層と非発泡樹脂層との積層体に対して電子線を照射してもよい。その際、円筒状の発泡剤含有樹脂層又は積層体に対して電子線を照射する場合には、円筒状物を折り曲げてシート状とした後、片面又は両面から電子線照射することが好ましい。電子線を照射することにより、発泡剤含有樹脂層の溶融張力を調整でき、発泡樹脂層を形成する際の発泡倍率及び発泡セルの均一性を確保することができる。
【0043】
電子線の照射条件については、例えば、エネルギーは100〜250kV程度が好ましく、150〜200kV程度がより好ましい。照射量は25〜70kGy程度が好ましく、30〜60kGy程度がより好ましい。
【0044】
発泡積層シートの製造方法
実施態様1の工程1〜3又は実施態様2の製造方法を経て得られた積層シートの発泡剤含有樹脂層を発泡させることにより本発明の発泡積層シートは得られる。発泡時の加熱条件は、熱分解型発泡剤の分解により発泡樹脂層が形成される条件ならば限定されない。加熱温度は210〜240℃程度が好ましく、加熱時間は20〜80秒程度が好ましい。
【0045】
本発明では、発泡剤含有樹脂層の発泡に先立って、必要に応じて、発泡剤含有樹脂層の上に下記の絵柄模様層や表面保護層を積層してもよい。これらの層は、印刷、塗布などのコーティング、押出し製膜等を組み合わせることで積層することができる。印刷、コーティング等は常法に従って行うことができる。
【0046】
発泡剤含有樹脂層上(又は非発泡樹脂層A上)には、必要に応じて絵柄模様層を形成してもよい。即ち、本発明の製造方法は、絵柄模様層を形成する工程を有してもよい。
【0047】
絵柄模様層は、発泡積層シートに意匠性を付与する。絵柄模様としては、例えば木目模様、石目模様、砂目模様、タイル貼模様、煉瓦積模様、布目模様、皮絞模様、幾何学図形、文字、記号、抽象模様等が挙げられる。絵柄模様は、目的に応じて選択できる。
【0048】
絵柄模様層は、例えば、絵柄模様を印刷することで形成できる。印刷手法としては、グラビア印刷、フレキソ印刷、シルクスクリーン印刷、オフセット印刷等が挙げられる。印刷インキとしては、着色剤、結着材樹脂、溶剤を含む印刷インキが使用できる。これらのインキは公知又は市販のものを使用してもよい。
【0049】
着色剤としては、例えば、前記の発泡剤含有樹脂層で使用されるような顔料を適宜使用することができる。
【0050】
結着材樹脂は、絵柄模様層を形成する下層の樹脂の種類に応じて設定できる。例えば、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、塩素化ポリオレフィン系樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体系樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、アルキド系樹脂、石油系樹脂、ケトン樹脂、エポキシ系樹脂、メラミン系樹脂、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、繊維素誘導体、ゴム系樹脂等が挙げられる。
【0051】
溶剤(又は分散媒)としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の石油系有機溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸−2−メトキシエチル、酢酸−2−エトキシエチル等のエステル系有機溶剤;メチルアルコール、エチルアルコール、ノルマルプロピルアルコール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルコール系有機溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系有機溶剤;ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル系有機溶剤、;ジクロロメタン、四塩化炭素、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン等の塩素系有機溶剤;水などが挙げられる。これらの溶剤(又は分散媒)は、単独又は混合物の状態で使用できる。
【0052】
絵柄模様層の厚みは、絵柄模様の種類より異なるが、一般には0.1〜10μm程度とすることが好ましい。
【0053】
本発明では、発泡剤含有樹脂層又は絵柄模様層の表面に艶調整及び/又は絵柄模様層の保護を意図して表面保護層を有してもよい。
【0054】
表面保護層の種類は限定的ではない。艶調整を目的とする表面保護層であれば、例えば、シリカなどの既知フィラーを含む表面保護層がある。表面保護層の形成方法としては、グラビア印刷などの公知の方法が採用できる。なお、絵柄模様層と表面保護層との密着性が十分に得られない場合には、絵柄模様層の表面を易接着処理(プライマー処理)した後に表面保護層を設けることもできる。
【0055】
発泡積層シートの表面強度(耐スクラッチ性など)、耐汚染性、絵柄模様層の保護等を目的として表面保護層を形成する場合には、電離放射線硬化型樹脂を樹脂成分として含有するものが好適である。電離放射線硬化型樹脂としては、電子線照射によってラジカル重合(硬化)するものが好ましい。
【0056】
表面保護層の厚みは限定的ではないが、0.1〜15μm程度が好ましい。
【0057】
また、発泡剤含有樹脂層の発泡後は、最表層からエンボス凹凸模様を賦型してもよい。
【0058】
エンボス凹凸模様は、エンボス加工(エンボス版を用いた凹凸賦型)により賦型する。エンボス模様としては、例えば、木目板導管溝、石板表面凹凸、布表面テクスチャア、梨地、砂目、ヘアライン、万線条溝等がある。
【発明の効果】
【0059】
本発明の積層シートの製造方法は、従来のTダイによる押出し製膜に替えて、円筒型ダイを用いて発泡剤含有樹脂組成物を円筒状に押出した後、空冷することにより、製膜ロールによる冷却を回避することができるため、艶ムラなどの意匠性低下を生じさせることなく発泡剤含有樹脂層を得ることができる。特に円筒状に押出しすることにより空冷により冷却することができる点で、弛みや皺を抑えて製膜できる点で有利である。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】3種3層Tダイスを用いた比較例1の多層押出しの模式図である。
【図2】3種3層円筒型ダイスを用いた実施例1及び2の多層押出しの模式図である。
【図3】実施態様1の製造方法における、工程2及び工程3の模式図である。
【図4】実施態様2の製造方法の工程の一部を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0061】
以下に実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明する。但し、本発明は実施例に限定されない。
【0062】
実施例1
3種3層円筒型ダイスを用いて、非発泡樹脂層A/発泡剤含有樹脂層/非発泡樹脂層Bの順に厚み10μm/100μm/10μmになるように円筒状樹脂シートを押出し製膜した。ここで、円筒状樹脂シートの円周が960mmとなるように設定した。次に、円筒状樹脂シートを空冷(温度:25℃、時間10秒)した後、一箇所で押出し流れ方向と並行に切り、円筒を切り開いて平膜状樹脂シートとした。
【0063】
押出し条件は、非発泡樹脂層Aを形成するための樹脂を収容したシリンダー温度は130℃とし、発泡剤含有樹脂層を形成するための樹脂組成物を収容したシリンダー温度は120℃とし、非発泡樹脂層Bを形成するための樹脂を収容したシリンダー温度は120℃とした。また、ダイス温度はいずれも120℃とした。
【0064】
次に、巾970mmの紙パルプからなる繊維質シート:壁紙用紙「WK-665、興人製」を120℃になるように加熱し、上記平膜状樹脂シートの非発泡樹脂層B側を積層した。積層はラミネートロールを用いて熱圧着させた。このとき、平膜状樹脂シートは繊維質シートの中央にくるように積層し、両端部から繊維質シートが5mmずつはみ出すようにした。これにより積層シートを得た。
【0065】
各層は、それぞれ以下の成分を用いて形成した。
【0066】
【表1】

【0067】
次に、積層シートの非発泡樹脂層A側から電子線照射(195kV、30kGy)を行った。
【0068】
次に非発泡樹脂層Aをコロナ放電処理した後、グラビア印刷機により絵柄印刷として水性インキ(「ハイドリック」、大日精化工業製)を用いて織物絵柄を印刷し、更に同印刷機により水性インキ(「ALTOP」、大日精化工業製)をコートして表面保護層を形成した。
【0069】
次に220℃で35秒加熱して発泡剤含有樹脂層を発泡樹脂層とした後、布目調の凹凸パターンを有する金属ロール(エンボス版)を押し当ててエンボス凹凸模様を賦型した。これにより発泡積層シートを得た。
【0070】
実施例2
円筒円周が1920mmとなるように設定し、均等に2箇所で押出し流れ方向と並行に切り、円筒を切り開いて2枚の平膜状樹脂シートとした以外は、実施例1と同様にして発泡積層シートを作製した。
【0071】
比較例1
3種3層Tダイスを用いて1060mm巾となるように押出し、ダイ直下の成型ロール間(金属製水冷ロールとシリコーンゴムロール)に挟み込んで成型し、更にこの積層体を金属製水冷ロールを用いて冷却した後、樹脂層厚みが均一な部分が960mmになるように樹脂シート両端部を50mmずつ削除してシート状とした以外は、実施例1と同様に発泡積層シートを作製した。
【0072】
試験例1
実施例及び比較例の発泡積層シートの製造において、樹脂シートの製膜性評価を行った。製膜性が良好であり艶ムラが認められないものを○と評価し、製膜性が不十分であり艶ムラが認められたものを×と評価した。
【0073】
各試験の評価結果を下記表1に示す。
【0074】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維質シートの上に少なくとも発泡剤含有樹脂層が積層されている積層シートの製造方法であって、
円筒型ダイを用いて発泡剤含有樹脂組成物を円筒状に押出した後、空冷することにより円筒状の発泡剤含有樹脂層を得る工程を含むことを特徴とする積層シートの製造方法。
【請求項2】
(1)円筒型ダイを用いて発泡剤含有樹脂組成物を円筒状に押出した後、空冷することにより円筒状の発泡剤含有樹脂層を得る工程1、
(2)前記円筒状の発泡剤含有樹脂層に押出し方向と並行する切れ込みを入れて開膜し、平膜状の発泡剤含有樹脂層を得る工程2、及び
(3)前記平膜状の発泡剤含有樹脂層を繊維質シートの上に積層する工程3、
を順に有することを特徴とする、請求項1に記載の積層シートの製造方法。
【請求項3】
前記工程1において、片面又は両面に非発泡樹脂層が積層された前記円筒状の発泡剤含有樹脂層を得る、請求項2に記載の積層シートの製造方法。
【請求項4】
前記工程3において、前記平膜状の発泡剤含有樹脂層はその巾が前記繊維質シートの巾よりも狭い、請求項2又は3に記載の積層シートの製造方法。
【請求項5】
前記工程3において、加熱した繊維質シートの上に前記平膜状の発泡剤含有樹脂層を積層する、請求項2〜4のいずれかに記載の積層シートの製造方法。
【請求項6】
前記発泡剤含有樹脂層に電子線を照射する工程を有する、請求項1〜5のいずれかに記載の積層シートの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法により得られた積層シートの前記発泡剤含有樹脂層を発泡させることを特徴とする、発泡積層シートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−71351(P2013−71351A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−212804(P2011−212804)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】